両側に蝋燭が光る大扉を潜った薄緑の靴は、白いローブを翻し、

それは不気味に光る青い池のそばを疾走していた。

その一面の床を斜めに切って半分を浅くうがった場所にある水も揺らし、

南西へ走る少年。

だが素早く床を蹴るその音はいかにもまだか弱い子供のもので、

調子も強さも滅茶苦茶にどこかおぼつかず、

振り返った大きく美しい瞳は無機的ではあっても

不安気に両灯火の間にある闇を見つめ、

そこからいつ恐怖が現れるかばかりに注意を払い、すぐまた顔を正面に戻す少年。

だが小枝を踏むような小さく鋭い音にははっとしてもう一度振り向き…

鉄の盾を持ち上げた。

それはややすすの付いた外側と内側で茶色と灰色の、

いかにも屈強な戦士が持っていそうな盾だが、今はそれでも心許ない。

そうこれは六日目のクリスタルの単なる逃亡ではあったが、

彼にはそうせざるを得ない事情があったのだ。

それはつい数分前に起こった仲間二人の消滅。

彼はまだ五星と頭成が眠っている間に四人組の冒険者に誘われ、

たまたま僧侶が居なかったパーティーでは大いに活躍。

だが2階の北東を目指していたところで

見た事もない程巨大な魔物に遭遇していたのだ。

あいつらのスペスや装備はどうする、でも取りに戻ったら全滅でしょ、

口走る前の二人から聞えた声に足を速めるクリスタル。

右の男は、余った部分を上側に折ってそこを大きく縫ったこげ茶色の布を被り、

それで目元までを隠し、そこから見える薄紫の髪は後ろだけが大きくはね、

同じ色の革で肩から胸と腰部分を包み小手とブーツを付け、

それ以外の二の腕や腿には鎖帷子という軽装で、いかにもな忍者風。

彼は名を雪草影(せそえ)といい、

左の女は、白っぽい金髪のポニーテールを、

黒地に白で密度の高い大小の四角模様が入った布で纏め、

同じ色のぴたりとしたローブで細身の体を包み、その腰を赤い紐で締め、

裾から白い幅広のズボンを見せるという一見お洒落な魔術士風の姿で、

名を静流時(せるじ)といい、

当然その二人の姿や活動的な雰囲気はクリスタルの好みではなかったが、

これにもまた大きな事情があり、

彼は彼ら二人と行動を共にする事でその大半から解放され、

今の今迄は楽しく過ごせていたという訳だ。

そのちょっと気になるクリスタルがどう過ごしていたかは後で説明するが、

五星達はもう知っているだろうか…と

常に慎重で悪く言えば臆病な彼さえこんな時にも考えずにはいられない事情。

そう何とそれはこのたった三日で起こった、九支配者による建国だったのだ。

一体どうしたらそうなるのでしょう。

一人グリンの家で起きたクリスタルはまず情報収集の為北へ。

一角で酒場を探し、その前で世故に会うとアンの建国を聞いてまずそう質問したが、

その答えは実に簡単だった。そうそれはつまり、

魔物に襲われ多数の死傷者を出してしまったアンは

その非難に対して慈愛を以って報いるのではなく、権威を以って報いたというのだ。

聞いた時には、すぐそばにあった酒場の壁に片手をつき行使窓を見上げ、

つぶやくように言ったクリスタル。

「…ま、まあアン様らしいですねぇーー。」

「…静かにっ。二人が居ないのに、君が言ってどうする!」

生得を国とする事に関してだけ言えばあのセイントも反対できず、

もしかすればこれを機にアンは心を入れ替えてくれる等と

甘い想像をしたのかも知れないが、

それに対して各町はアン軍にとって意外にも、敏感に反応。

まずその日の内にブリガンテがトレランスを国と、屋敷を城と呼ばせ、

そしてやはりAZAKIも南偶振刃を建国すると、近々城まで築くと宣言。

するとその彼らの屋敷へ向いそこで一戦交えるかと思われた衆牙でさえ、

実は一応の断りを入れに来ただけで、北偶振刃を建国する事を明言。

次の日には、彼らから身を守る為有力者の一人であるKAENの勧めに従い、

サウスティーカップも建国。決定的だったのは、

その各国のどこであろうが正義を行う為鮮やか岬も建国した事で、

当然そうなると、

周囲の国々から領地の一部とみなされる事を恐れたアハインとシピッドも、

生得へ許可を求める早馬を走らせ、それが下りる前に建国。

何とその流れが始まって三日目には、ラフターまで生得へ来てこう言ったのだった。

「他が国ですのに、貴方の同盟者が町の長では、格好がつきますまい。」

そうクリスタル達にとってまだ影のような存在の支配者が決めたのは、

属町から属国へという一面からは妥当で、また一面からは奇妙な一歩。

だがそれを聞いたアンには、それもそうだな…としか言えなかったというのだ。

「一体何をやってるんだぁーー!!」

グォーーー!!

確かに大きな目で見れば別にどうでも良い事なのだが、

それでも不安で仕方が無い民の気持ちも分かるクリスタル。

前の二人はそんな彼に振り向くと、

このままでは追いつかれると思ったのか注意し、同時に相談も始めた。

「き、君こそ何やってるのっ?!もっと急いでっ!!」

「止まるなっ!死なれたら、お前の友達にも申し訳ないだろっ?!」

「あっ…いいえっ、お二人に言ったのではなく、

そうだ!やり過ごして戻り、あの扉から一旦西へ出ましょう!」

「いいやダメだっ!

そっちは先の扉に鍵がかかっていて、オレでも開けられなかった!!」

「~でも、もう一回試してみるっ?!

いいや待って、そんな時間無いよ!どうするのっ?!」

今三人の前にある面は、北から入ると西と南が壁で、東側へのみ抜けられ、

そこからもまた折り返すと、西側へのみ通じた通路。

そこで速度が落ちるだろうと考えた雪草影は、まずこの直線で敵を足止めし、

余裕を持って逃げた方が良いと判断。すぐクリスタルに頼む。

「あれやってくれっ!!」

「そうね、お願いっ!!」

「良いでしょう!!」

叫び返し、垂れを靡かせて振り向くクリスタル。

すると暗闇から姿を現した、黒く平べったい大頭にV字の角を持つ手の無い竜は

すぐそこまで来て鋭く細かい歯が並ぶ大口を開け、

だが恐竜のように太い右足を滑らせて池へ落とし、床の一部を破壊。

それは当然絶好の機会ではあったが、

改めてその形相を見た彼は逃げ出したい気持ちで震えながら左手を青く輝かせると、

そこから放たれた小さな光は、敵の足へ!

その呪文に凍りついていく足下に顔を振り、また雄たけびを上げる魔物。

グオオーーー!!

「ち、ちょっと待てー!まだこれからだぁーー!!」

また叫びながら赤く小さな小瓶を取り出し、

その破片を光と共に消し、気力を回復する彼。

だが当然魔物の方は待てる訳も無く、

凍ったままの重い足を上げ床で踏み砕き、彼へ突進!

よって、ほとんど泣き出してしまいそうな顔のクリスタルが

槍の穂先のように鋭い三つの氷を回転させそれを放ったのは、

太い魔物の首に青筋が立ち、

一斉に襲いかかる小刀のような歯が眼前に迫ったその瞬間だったのだ。

グォーー!!

今度は左右の足が凍りつき、それ以上一ミリも進めない魔物…。

「…み…見たかぁっ!!

今度会った時はお前の詳細を頂く!覚悟しておけぇーー!!」

「おお、良いぞっ!!」

「でも逃げようっ!!」

また盾を出して走るクリスタルと、その肩を叩く雪草影。

静流時は微笑しながらも魔物が氷を砕くのを教え、

そのまま三人は全力で迷宮を駆け抜けていた。

迎えた白煙を照らす陽に、慌てて迷宮の影から脱し、

賑やかな町を見上げると同時に振り向き、階段へ座り込んでしまう三人。

するとまず息を切らしながらも口を開いたのは、クリスタルだった。

「…ここから魔物が出て来た例は、無いんですよね?」

「…ええっ?ああ、無い無いっ!それは聞いた事無いなっ。」

そう首を振る雪草影に、続ける静流時。

「訊くと思うから教えておくけど、あれは鬼顔蛇(きがんじゃ)!

普通は6階辺りにいる魔物で…、

仲間が八人いた時でも全員必死になってやっと一匹倒した程強い奴で、

でも実はその時も一人やられていたから、すぐ逃げろって叫んだのにっ!」

「そ、そうなんですか?

ではコモンド隊長は、何故逃げなかったのでしょう?」

「さあなっ。きっと今回は倒せると思ったんじゃないか?」

「あのスリーアイスとかっていう呪文、見せるべきじゃなかったね。

きっと彼、それで倒せると思ったんだよ。」

「はぁーー。」

一応納得しながらも、

勿論良かれと思ってではあるが発言を後悔するクリスタル。

あのスリーアイスという水系呪文は、

実は若い頃の黄園が使っていたのをこの約三日間の特訓によって習得したものだが、

勝てば賞賛を受け死ねばけなされるのなら、その隊長も憐れと言うしかない。

そう丁度今頃の彼はアケハナトビラから出て

どうやってここまで来ようかと悩んでいるはずだが、

そんな生まれ変わった人を心配するクリスタルの前に差し出されたのは、

マラカスなど体鳴楽器(たいめいがっき)のような音を出す、一つの皮袋だった。

「こ、これはっ…!」

目を丸くし、両手を添える彼。

「何だ、報酬だよ報酬っ。」

「受け取ってよっ。そういう約束だったし、さっきもありがとうね!」

「ですが、隊長にはこの鉄の盾で十分と言いましたし…。」

「だからなんだ?結局受け取るんだから、さっさとしろっ。」

「~えっ?」

「そういう言い方は無いでしょうー。」

「本当に遠慮深い奴だなー。たった500スペスだって!

隊長にはオレ達から言っておくからさっ。命の恩人なんだぞお前はっ。」

目を細め、だが雪草影の言う通りしっかりと受け取るクリスタル。

ただ遠慮した彼にも一応考えがあっての事だったようだ。

「ですが、これから大変な時期なのでは?

そうなるとスペスは必要だと思いますし、

500となると、今稼いだスペスと戦利品を売った額を足しても、

全然たりませんよっ?!」

「ああ、そんな事かっ。良いって!

だってオレ達二人は強くなって、経験値も、それに装備や道具も手に入れたしなっ。」

「五星とかいう人と喧嘩したら、私達のパーティーに入ればっ。」

「ではお二人は、もう家を建てたんですか?

もしも戦乱となれば、大陸でも身を守らなければなりませんよっ。」

「家に~戦乱だってっ?」

「心配しなくても、私達は明空に住んでるって言ったでしょ?

ラフター様は戦争なんかしないってー。」

すると意外にも空を睨むクリスタル。

「どうですかねーー。どんな理由にしてもアン様が戦うとなれば、

彼も避けられないと思うのですがー。」

それには、頭を覆った布影から片目だけを見せ、薄っすらと笑う雪草影。

「じゃあ、やってやるよ!どこよそれ?」

「またそういう顔してっ!」

「アハハッ、こ、怖いなーもぉーー。ですがっ!

例えば生得解放戦線がサウスティーカップを脅し、かの国を味方につけ、

二国で海峡を渡り攻めて来たら、どうします?

当然そうなれば、アン軍は援軍として参加し、四ヶ国の戦となり、

もう後戻りはできませんよっ?

それにーたぶんこれはありませんが、援軍が間に合わないかも知れず、

その解放戦線とサウスティーカップの主力が明空にある時

アン軍が偶振刃を攻めるとしても、あそこの半分は衆牙の国ですし、

外交で口説くにせよ、制圧するにせよ、一筋縄ではいきません!

これは失礼ですし大げさかも知れませんが、その時お二人は

ここへ住まなければならないかも知れないんですよっ。」

ならば我らも戦うのみ!

そう言うと雪草影は大きく胸を張り、同時にすっくと立ち上がると、

ラフターは自分から戦を仕掛けるような愚かな真似はしないとも断り、

だが最後には微笑し、静流時は仕方無いという顔つきでもう一度礼を言い、

階段を上って行った。

その二人を肩越しに見送り静かに微笑するクリスタル…と、

それを上から見て笑う住民。

赤面した彼が顔を上げると他は笑いをこらえ行ってしまったが、

青っぽい緑の毛糸で編まれたドレスを着た小さな黒猫だけは残り、

話しかけてきた。

「サウスティーカップが偶振刃と同盟するって、それ本当…?!」

「えっ?!~ああ、例えばの話ですよ!ハハハッ!」

「なんだぁー、どこかの軍師さんかと思ったぁーー。

じゃあ代わりに、今度友達と退治しに行くから、

鬼顔蛇の詳細だけでも見せてくれない?」

「うーーん、そうして上げられたら良いのですが、

僕は倒していませんからねぇー。」

その言葉に腕組みをして顎に手をやり、そして首を傾げる黒猫。

彼女が言うにはそれでも詳細は入手できるはずだというが、

驚いたクリスタルが本を開いても、やはりそれはどこにも無い。

「やっぱりありませんよっ?!」

「おかしいなぁーー。自分で戦闘に参加しなくても、

壁に遮られていない真四角の九面内に居れば、

そこで倒された魔物の詳細は手に入るはずだよ。」

「ああっなるほど!

実は僕だけではなく、あの魔物は誰も倒せなかったんです。」

「あっ…なるほど!」

そう同時に納得して笑う二人。

勿論まだここに雪草影達がいれば見せてあげられた訳だが、

不思議な縁を感じたクリスタルは話を変え、自分の関心にも応えてもらう。

「では今度は僕からですが、貴方も猫チョコを食べた方ですよね。

では何故普通の猫のような体なんです?僕の友人は…三頭身の兎でしたよ。」

「…うん?ああ~~、うんうん!確かにそうだよねっ。

でも大きさや何頭身にするかは、自由に選べるんだよっ。

誰でも、自分が良いと思う形ってあるでしょ。それにも配慮してあるんだねっ。」

「へぇ~!」

二人はそうして情報交換を済ませたが、彼女も彼の足元へ飛び下りると、

面白い話が聞けたとお礼を言って3枚のスペスをくれ、階段を駆け上って行った。

「…別に、これの為に話した訳ではないのですが…。」

彼女にとっては面白い話だったのだろうか。

それはともかくそろそろ二人が起きるはずなので彼も階段を上がり、

素早さと器用さを上げようと召喚士にしていた職業を、僧侶に戻し、

今はほとんど元通りとなった露店街を西へ。

するとその目には、薄っすら涙さえ浮かんだ。

「ああー、本当に良かったですねぇーー。」

あの時の肉屋は…逆立てた黒髪を後ろへやり腕まくりをして焼けた肌を見せ、

売れ残った肉を食べながら接客。続く十数軒の露店さえ、

冗談交じりに言い合いながら何組かの客を取り合い、

そしてあの時の口ひげに赤い丸帽子の青年も、

彼を見つけ鳥の羽が前立てになった金の兜を指差し、

それが売れないと分かるとやや残念そうに手を振ったが、

クリスタルが話だけでもしようと近づくと、それには快く応じてくれた。

そう彼が訊きたいのは自分を鍛えるという目標の為すっかり忘れていた、

…生得の領地についてだが…。

確かに町同士ではあっても明確に定められていても良かったはずの境界線は、

何故かつい最近までは存在せず、だがクリスタルの考えでは

国同士という今となっては、各支配者の意識も変わっているはずなのだ。

「~えっ、生得の国境?

ああっそれなら、噂だけではっきりとは分からないけど、

北は頂寿山(ちょうじゅさん)から、その南の幼命の森(ようめいのもり)、

西と南は大戦草原(たいせんそうげん)の全てと、

その更に南へ広がる、嘉吉原(かきつばら)の北側までらしいよっ。」

「…んんー、なるほどーー!」

一瞬アン様は欲張り過ぎだと感じながらも、

唸るとややうつむき加減にお礼を言い、また歩き出すクリスタル。

彼は五星達と同様に実はまったくその地名を知らなかったのだが、

それはこの場で記憶してしまい…弓なりになった西通りをゆっくりと南へ。

そうして歩きながらではあるが今得た情報についても考えてみた。

まず…何故明空は、嘉吉原の南側だけで満足したのか?

そう彼にはそれが不思議で仕方無いようで、

ラフターはまだアンの信頼を得たいのか、

またそれは単に治世による自信の表れなのか、

実は大戦草原はすぐ南で終わり、先の嘉吉原は思いのほか広く、

南側だけでも十分なのか、

またもっと南に別な土地があるのかとひとり一生懸命首を傾げ、

また通りすがりの、

長い黒髪に金のローブを着ておしろいを塗った女性に訊ねてみると、

どうやらその草原のはじまりは、あの真功郎が住んでいた洞窟辺りからだと判明。

それが周知の事実である事には感心し、

反面それすら知らなかった自分の無知を恥じ入る思いだったが、

訊ねれば直ぐにでも動かせる思考を止めておくのも、

やはり勿体無い気がしたようだ。

「でも、その洞窟がどこにあるのかも、分からないんですよねぇー。」

「フフッ、南門からだったら、四百キロ程先だよっ。

生得からトレランスまでは約五千キロで、

地図で見ると、一センチが大体二百キロでしょう?

という事は、生得を出発点と考えれば、

その西と南に広がる大戦草原を南下して行くと、

意外とすぐ嘉吉原になるって事だね。」

「なるほどっ、ありがとうございます!それで、それより南は何と言うんです?」

「…え、嘉吉原で終わりだから、そこはもう明空の町じゃない?」

「ああ、それはそうですよねっ。

世間知らずなもので申し訳無い。でも、案内状にありましたか?」

「無いよっ。」

「えっ?」

「だって幻想世界の地名は、全部住民が決めたものだから、

長く続いた大きな町や、生まれたてにも必要な名前だけだったでしょう。」

聞いてその広さと世界観にも強く頷き、また歩き出すクリスタル。

勿論この幻想世界においても、

走らなければ体力が減る事も無くどこまでも歩いて行けるので、

どこへ向おうとそう遠くは感じないのだろうが、

それも考えれば、現時点でのラフターがその国境に納得したとしても、

果たしてこれからはどうだろう。

つまり生得と他国との話し合いはこれからではないかと想像でき、

クリスタルにとってはそこにこそ焦げ臭さを感じる思いだったのだが、

幸運にもその目に飛び込んできたのは

そういったどんな困難も切り抜けて行けるだろう、頼もしい仲間達。

起きた五星は、談笑しながら通りを歩くローブ姿のエルフ達や、

その二人とすれ違うこげ茶色の武者鎧を着たドワーフを見て、

この町に平和が戻った事を強く実感。

小さく頷くとクリスタルに微笑し、

彼はやはり心細かったのだろうか、二人を順番に抱きしめていたのだ。

「い、五星っー!頭成ぃーー!!」

「こ、これこれクリスタル殿、お戯れが過ぎますぞっ!!

離れろっ!!」

「もう、大げさだなぁーー。」

五星に対するそれを止め、

かといって自分の方へばかり来られるのも嫌なので、その首を押さえる頭成。

すると彼の方は、自分達が来れずにいた間に

クリスタルが強くなったかどうかばかりを訊いたが、

早速五星はこの生得の雰囲気に何かを感じ取ったようだ。

「でもこれは…何かあったねっ?!正直に言いなさい!」

「あるなら話せっ。まさか、虐められたのかっ?!」

「別に隠すつもりはありませんよー。

ただ二つに分かれた偶振刃も含め、九ヶ国が誕生しただけですっ。」

「…えっ、嘘でしょ?」

「何ぃーーーーーーーーーーー?!」

そう大声を上げても、その後のよーーしっを堪える、大人な頭成。

だが無理もないが五星の方はまだ信じられない様子だ。

「それは、一体どうしてそうなったの?!アン様の命令?!

~いいやっだったら、生得だけが建国したはずだよねっ。」

「……そうか、じゃあまずは、解放戦線が生得を攻め、

そうなると衆牙は南を攻める準備をし、

いいやそうだ!それならそれはー既に険連が進言していて、

衆牙やブリガンテとは不戦条約を結んでいるはずだから…、

少しでも東へ砦を築き生得でも内応者を探し、

合図と共に門を開けてもらう約束でぇ~~。」

「ま、まあまあ、落ち着いて下さい将軍っ。」

「この人は良いから、まず私に説明して!」

すると主に世故から訊いた事ではあるが簡単に説明するクリスタルと、

聞いた五星もそれ以上は疑わず、現状に則した行動を促す。

そうそれは、やや気が早いかも知れないが本拠を定めようという事だが…、

その発言に嬉々(きき)として生得城を見上げ、

だが直ぐに五星へと向き直り人目が無い事を確認し、献策する頭成。

「…ではまずー精強なアン軍の為に働き、

ですがその統治は当然長くは続きませんので、頃合いを見て独立。

天下にその非を鳴らし、同時に彼女へ従わざるを得なかった我が軍の窮状を訴え、

鮮やか岬やアハインと同盟。そしてしばらくは、

防戦に努めるのがよろしいでしょうなぁー…。」

確かに悪くは無いが、そのまるで勝てれば良いという戦略には、

クリスタルと話す事にした五星。

「ですが、この辺りはいけませんよっ。

恐ろしい事にアン軍だけは町でのきまりをそのまま所領に定め、

無許可の家や町を許さないと聞きましたし…。」

つまりそれは、許可無く生得内に住んではならないというあの一条が

国の全土に及んでいるという事だろうが、それでは一部にせよ、

世界の自由や自然までも独占している事になりはしないだろうか。

だが既にアンの横暴さを目の当たりにしている五星には、

今更驚いた様子も無い。

「だろうねっ。じゃあ明空の北、シピッドの東辺りが良いかな。」

「では…寂しがりの森ですか?」

「いいや、そのやや東南。この中部にある大きな湖の、東が良いっ。

今からだと登用できる人材も限られてくるけど、

家を建てるのにどれ程のスペスが必要かにもよるし、とりあえずはねっ。」

そう実は頭成も思っている事だが、

五星の考えでもアン軍は必ず近い内にどこかと戦(いくさ)し、

その上この彼女らにとってもまた生得の住民や隣国にとっても、

その…まともな話が通じない…という性質は、大きな脅威でしかないのだ。

それならまだトレランスの支配者であるブリガンテの方がましな気もするが、

今それらを加味した五星が提案したのは、

生得と二つの暗黒街からは離れ、

鮮やか岬とまだ常識があるように思われる明空には少しでも近く、

しかも領地を切り取れるだろうその辺りの地を選ぶべきというもの。

またそれを聞いたクリスタルも、先を想像しながら話す。

「なるほど。

どこかに従属し、近隣を根城にする盗賊など義に反する勢力を叩き、

徐々に自分の物にしてしまう訳ですね。」

「うーん、もしも功績があればそれを無視する事もできないはずだから、

治安の為にも砦を築いて、少しずつねっ。

勿論平和が一番だから誰が盟主になっても良いんだけど、

本当に優れた考えをこの世に根づかせる為には、

愚か者小人に耳を貸さず、真の邪悪を討ち、

またそんな者達に力を与え怯えて従っただけの人達にも、

その罪の大きさに応じて何らかの責任はとってもらわないとね。

それでこそ不満を持っていた人々を安んじ、国は治まるというもの!

それ以外では必ずその怨みが世を乱すのっ。

後は偏った考えに騙されず、罪の無い全ての行いを許す事で、やっと平和になる…。

皆分かってるの!

でもよく考えてみると国単位で評価した場合…どの国も明らかに不完全だね。

そうやっぱり誰も彼もが…平和を望む心だけで、

統治者達でさえ、立派な人物なら自分以外が支配しても良い、

自分は死んでも良いという潔さからして無く…、

その場しのぎの都合の良い事ばかり。

でもだからこそ私は、この世界で素晴らしい国を作りたいの!」

「それはさすがです。

ですが…二兎を追うものは一兎をも得ず…というのに、

様々な条件を考えるのは良いとしても、欲張り過ぎではないでしょうか?」

「大丈夫っ。敵の謀略が無い限り、

いいやあったとしても常にこの心から素直に接していれば

住民は信じてくれるから、ここで十分戦えるよ!」

「おお、それは心強いっ。

ではもう少し北の、寂しがりの森と生得の間や、

中部の鮮やか岬とさっきのこれとは別のこの湖を越えて、

その南西のアハイン辺りはどうです?」

「うん、だけどその寂しがりの森と生得の間は、

アン軍と戦う全ての勢力が拠点を築きたい場所だよ。

だからいざ戦いとなれば、それこそ矢のように命令が来て、

厳しい立場に追いやられるのは明らか。

彼女に働きを見せる為には良いかも知れないけど、

あの横暴なアン軍に忠誠を誓う必要も無いし、

それに鮮やか岬とアハインに挟まれたこの海岸辺りだと、

領地を広げる為には南の召人原か、

もしくは、寂しがりの森を切り取るしかないでしょう?

そうだ、これって誰の領地?」

「はっ!…噂を情報としてお伝えするのはどうかと思いますが、

召人原の北はアハインが所領だと主張、

また寂しがりの森はアン軍との合意もあって、鮮やか岬のものになったとか…。」

「おーい、オレが可哀相じゃないかー?似たような事言っただろー。」

「じゃあ君は、どこが良いの?」

するとその地図を表示した本を傾け、彼にも見せる五星。

やはり彼女とクリスタルはもう意見を決めてしまったようだが、

頭成は意外と現実的だ。

「どうせ三人しか居ないんだから、どこでも良いだろ?

そうだ!それは良いからさ、スペスを稼げる場所にしようよっ!」

まずは力を蓄えなければならないので、一理あると微笑する五星。

だが彼女が言うには、

次々と人材を登用して周囲に家を建ててもらうのなら、

やはりある程度は考えておいた方が良く、

その時の財に余裕さえあれば後で一緒に移り住んでもらう事もできるが、

土地に愛着がわき離れたくないという者が出てきた場合には、

それを説得する必要も出てくるというのだ。

そう去るものは追わず…は良いが、それでは残った者達にも、

何だやはり三人にとっての自分達とはその程度のものか、とも思われかねない。

「…おおそうかっ!

じゃあオレはー、鮮やか岬から東、生得との中間地点にある、

この海岸をすすめるな!」

だがそれには眉をひそめるクリスタル。

「ではやはり一時的にせよ、生得に属すわけですか?

…当然ここだけの話ですが、四日経ったアン軍の評判も変わりませんよ…?」

それも考えてみる五星。その考えでは他人の争いに首を突っ込むのも、

また反対にこの機を迎え、ただ乱世に背を向けて生きるのも嫌らしい。

「うんじゃあさ、…このままだと灯さんと野花うさぎさんが憐れだから、

彼女らを赦す事を条件にアン軍に協力を申し出て、

それが断られた場合にも、敵では無いという事を示す為に一働きはして、

家や町をつくる為に必要な資金だけでも、もらおうよっ!」

「おお良いねっ、まずはそれだろー!力が無ければ誰も救えないからなっ。」

「ではえーとぉ、土地に関して言えば、

僕は結局どこが自分達に合うかにもよると思うので、

シピッドの支配者の意向や、それにこの湖の美しさを確かめた上でですが…、

今は五星の決定に従いますっ!」

幸運にも二人が納得してくれたようなので、拳をつくる五星。

彼女はその話が終わるとクリスタルに鉄の盾を見せられ、

その丸く銅を施した全体の真ん中にこぶし大の円があり、

そこから上下左右に薄っすら線が入るという渋さに…感激。

触発されたのか、自分と頭成にも新しい装備を買いに行くと言い出し、

勿論初めから嬉しい事続きとなった頭成は飛び跳ねて喜んだが、

それは煙たがられてしまい、そこで胸から皮袋を取り出すクリスタル。

何と訊けばそれには621スペスも入っているという事で、

お邪魔半水の魂は勝手に売ってしまったらしいが、

前の1800も合わせると全部で2421スペスとなり、

その大金を奪い合って歩く三人の足は、自然と商店街へ向いていたのだ。



あの独特な広場に背を向けた二つの中央通りの西側、

その中でも三人は、城に近い場所にある一軒を見上げていたのだ。

沢山のスペスがあり、それはよく考えれば

使わない装備や道具を売り更に増えるはずだが、

何故すぐにでも店に入らないのだろう。

その理由とは建物の外観。

一見淡い黄色のコップを逆さにしたような外壁には、

ぐるりと一周するように幾つかの大きな半円型の硝子戸がはめ込まれ、

入口からは明るく照らされた商品も見えていたが、

上には壁に沿って薄っすらと赤くラッキーバックという文字が並び、

その更に上にあるのは丸く大きな金時計。

つまりそれらがあまりに可愛らしく見詰めてしまっていた訳だが、

実のところ三人にはもう一つ気になる事があった。それを口にしたのは頭成。

「ラッキー・バック?…という事は、服屋か?」

「いいや、たぶん福袋の事だよねっ?」

「…ああっなるほど!

ですがもしもそうなら、そんなギャンブルのような事はせず、

鳥の羽が付いた立派な兜もありましたし、赤い丸帽子のお兄さんの店で買いましょう!」

「良いよここでー。」

言いながら中を覗き込む頭成。

五星達にも見えているはずだが、中には剣や盾から、

見た事も無い器や木彫りの置物などの品々が並べられ、

丁度その真ん中にある通路から三人を見た店主らしき男は、覗き込む彼に手招き。

ますます興味を持った頭成は二人の意志も確認せず、そこへ入ってしまった。

「ちょ…もう、やっぱりな!

でもまあ良いやっ。ここを選んだの私だしっ。」

「どこに居ても一緒ですねーこの人はっ。」

音も無く両側に消える扉と、その奥から陽気な声をかけてきたのは、

金縁に赤の色眼鏡をかけ、淡い黄色で垂れの付いた丸帽子をかぶり、

同じ色で袖の無いシャツの下には緑のズボンと深緑のブーツを履いた、

四角い顔にあご髭を生やした男。

彼は三人が店内に入るのを確認すると、早速レモンタルトと名乗った。

そして一応だがはっきり本人から聞かなければ気がすまないのは、やはり頭成。

「ここ服屋ですか?」

「いいえ、まあ言うなれば…福屋ですねっ。」

「アハハッ、面白ぉーいっ!」

「とにかく、明るい店だという事は分かりましたねっ。」

それにしても服屋や武器防具屋というよりどこか骨董屋のような店内。

白い壁で囲まれ床にずらりと並ぶのは、上が半円柱の青い布がかかった台。

それが両側共奥へ三列も続き、

その上に並ぶのは右から、柄と鍔に蛇が絡まった金のサーベルや、

楕円形で女神の顔を浮き彫りにした銀の盾、

黄色地に青の丸模様が並ぶ口の広い桶(おけ)型の下に足の付いた大杯、

そして、鮮やかな赤紫地に細かな黒で剣の柄を逆さにした模様がならぶ

一見チェック柄のようなマントと、灰色に艶めく両刃の大きな匕首(ひしゅ)。

それに燃え盛る青い炎の剣などだったが、

自分ではもう必要基本筋力限界まで装備しているので、道具のみを見るクリスタル。

他二人はマントと匕首の前から動かなくなり…、

後ろ手に組んだクリスタルとレモンタルトが近づいて行くと、

やはり五星は恥ずかしそうに笑い、頭成はスペスを要求。

にこやかな二人に見守られる中五星はそれを早速装備し、

奥にある鏡の前で試着を始め、頭成は持って回転させるなどして重さまで確かめ、

そうして着たり触ったりしている内に、更に気に入ってしまったようだ。

「これ凄いなっ…!

投擲武器(とうてきぶき)なのに、たぶんどんな奴も一撃だぞっ!」

「可愛くて、煌びやかだ!ハハッ、それにこの模様も気に入ったー!」

「その二品だと合わせてーー、まあ本当のところ少々値は張りますが、

おまけして1200スペスにしましょうっ。」

「~おお、じゃあ買えるなっ!!」

「これにするっ!!」

「ありがとうございます。」

するとまるで保護者のように頷くクリスタル。

「良かったねぇ~~。」

この二品は、常勝のマントと先重の大匕首(さきおものおおひしゅ)。

クリスタルはからかい半分に二人の顔を覗き込み、

だがそうされた五星達はまた鏡の方へ。

そこでマントの裾を持って後ろ姿を見たり、匕首を腰に隠してみたりしている。

「…夢中ですねぇー。

確かに初めは守りを優先すべきなので、マントは分かりますが、

匕首の方は、たった一回きりですよね?」

「いいえっ。

あの方がご購入された品は弓矢のような扱いで、全部で三十本。

その上分けて両手でも使えますし、

もっと増やしたいなら鍛冶屋へ行くと良いですよっ。

勿論全部無くしてしまったら迷宮で入手するか、

また最初から似たような物を作るしか…ありませんがね。」

「凄いっ!では、強力な武器ですね!

一つ装備しているだけでも、筋力が上がるんですから。」

「売っておいてなんですが、

その分一つ装備しているだけでも基本筋力が3必要ですし、

重さや形状などから、投げるのも難しいですけどね。」

いいえ大丈夫ですと首を振り、だがあえて友達自慢はしないクリスタル。

すると思い出した彼はいらない持ち物、

つまり今はクリスタルが得た物も加えた薬草と帰省の札、

それに義賊の鍵以外の物全てを売り、全部で400スペスにしてから

もう一つの疑問についても訊いてみる事にした。

「そういえば、何でラッキーバックなんです?

商品にくじでも付いてるんですか?」

「おおっ、よくぞ訊いてくれました!いやぁーテンション上がるなぁーー!」

そう突然大きな声を出すレモンタルトに驚き、一歩さがるクリスタル。

まだ五星と頭成は、これは壊れやすさが0だとか、

ちょっと重いけどその分投げがいもあるぞ等と騒いでいるが、

それはもう十分に堪能したのかクリスタルのもとへ戻り、

その時を見計らい、蛇の剣が載った展示棚を蹴る店主。

ドカッ!

するとその青い布は彼の手に、剣は彼の道具欄へと消え、

何とそこに残ったのは一つの宝箱だった。

だが大声を出したのは、話を訊いたクリスタルではなく頭成。

「おおーこれですか!なるほどぉ~~!」

「これをどうするんですっ?!」

「もうーはしゃぎ過ぎですよっ。

今からレモンタルトさんが説明しますから~。」

「ハハハッ!

蹴ったのもビックリしたでしょ?でもよく考えて下さい。

この世界ではこれもすぐには壊れませんし、直すのも簡単ですからっ。

まあ言ってみればこれこそ、うちの名物ですねっ!」

そう前置きし、宝箱へ手を乗せるレモンタルト。

その説明を聞くとやはりこれは、福袋ならぬ、福箱らしいが…。

「はいはい!じゃあオレがやりますっ!」

「また勝手にー。でも幾らです?」

「500スペスです。

そうだ説明し忘れましたが2000スペスお買い上げの場合には

一回無料ですよ。もう少し買いますっ?

ただ、皆様はまだ生まれたてのようなので、余りお勧めはしませんが…。」

その言葉に対し冷静に返したのはクリスタル。

五星も頭成と同様に良い物を安く手に入れた直後なので、興奮状態にあるらしい。

「では、こういう訊き方は大変失礼ですが、

あまり良い物は入っていない、という事ですか?」

その問いにやや仰け反るレモンタルト。

「いいえ。」

「怪しいなーー。けど、オレはやります!」

「フフッ、別に良いよ。楽しめば?」

「では良いのを選んで下さいねっ。」

その二人の許可に拳をつくると突如福箱と化した沢山の商品棚へ次々指差し、

どれにしようかと迷う頭成。

だがその度に視線も一々レモンタルトへ向けられる。

「ずるいなーそれはぁーー。」

「これも作戦です!

それより五星のマントは、独自に作られた物なんですか?

何か、模様が独特ですけどっ。」

「ああっ、こちらですか?

実はそうですっ。元々前衛のマントという名称だった装備に

ちょっと工夫を加えて、耐久力を上げ…。」

ササッ!

とそこで頭成が指さした宝箱に、表情を消すレモンタルト。

「~あ、じゃあこれで!これでお願いします!!」

「アハハッ…!一回1000スペスにすれば良かったなぁー。」

その二人のかけ引きに吹き出し、顔を見合わせる五星とクリスタル。

対してまるで迷宮で全滅した後のような顔の店主が、

これはもう少し客寄せに使えたのにと愚痴りながらも取り出した物は、

何と純白の玉だったが、それには三人とも見覚えがあった。

「これは、…消玉だっ…!」

「あっ、高価な道具ですねっ!やった!」

「それじゃあ、中に入っているのは何の呪文ですっ?!」

「ずっと当たらなかった物ですが、覚えていますともっ。

これは店にたった一つしかないセヨの消玉で、

しかも神消玉(しんしょうぎょく)!…つまり神の消玉ですねっ。

だからこれはただの消玉とも違い、

あの方はいつも傍にいて温かく見守って下さるからか、

どれだけ離れ、またどれだけ時が経とうと無くならない物で、

その分使うのが勿体無い品とも言えるでしょうねぇー。」

つまりこれは四つ羽が作った物…。

よってそこだけを聞いて喜ぶ三人だが、当然そのセヨという呪文を知らず、

それは五星が訊いた。

「神が造った物とは素晴らしいっ。でもそれは、どういう呪文なんです?」

目を大きくし、すぐ苦笑するレモンタルト。

「アハハッ、空を飛ぶ呪文ですよ。」

「よーーしっ!!」

「で、でも一回きりですから、大事にして下さいねっ。」

通りを行く者が覗き込むほどの声を上げた頭成に、

その昂りを案じるレモンタルト。

勿論その二人の喜びには更に嬉しさが込み上げてきた五星だったが、

彼女にはまだ訊きたい事があるようだ。

「でもこの呪文で飛べるのは、気力が無くなるまで、ですよね?」

「ええ、それはそうですが、

降りてから十五分以内であれば、また飛べますよっ。」

「ああそうなんですかっ。それは助かりますね。

でも実はもう一つ問題があって、私達まだ気力自体が低いんですけど…。」

「ああ、なるほどっ。

でもコンセンのようにある特定の場所に移動するのとは違って、

高く、もっと自由に飛べる訳ですから、緊急の場合にも使えますし、

気力が高い仲間に渡しても、高値で売っても良いですね。

本当に良い物を当てましたよー。」

聞いて満面の笑みで頷くと500スペスを支払い、その店を出る三人。

クリスタルはレモンタルトが少し可哀相になったのか、

彼に何事かをささやいてから店を出たが、

次に五星達の行くべき場所は既に北門と決まっている。

そう彼女は、

夜陽との約束の場所で何か不測の事態が起きていないかを確かめる為にも

まずコンセン屋を雇うつもりなのだが、たとえそうだとしても、

クリスタルの動向は把握しておかなければならない。

「それで、何て言ってきたの?」

「自分だけ何か買ってないよな?」

「違いますよーー。僕達が町をつくりますから、

良ければそこに住んで下さいと、言ってきたんですっ。」

「ああ、それは良いねぇ!

じゃあ灯さんだけじゃなく、友美さん達も呼ぼう!

もう商店街をつくる人材を得たかー。」

「おっ…それにもしもそうなったら五星が支配者だろ。

だったら何でも安くして貰えるなっ!」

「えっ?!それは横暴なっ…!冗談でも言わないで下さいよ。」

そんな話をしながらまた北へ歩く三人。さて世故がいれば話は早いが、

元々彼らが集まる場所だと聞いた訳でもないそこには、

一体何人のコンセン屋がいるだろう。

するとそこには世故の代わりに数人の男が立ち話をし、

気になった五星はすぐにそこへ走ろうとしたが、

振り向いた肉屋とたまたま目が合ったクリスタルは会釈をし、

相手も話しかけてくれたようだ。

「おおっ僕、よく会うなぁ。その二人は仲間かいっ?」

「え、ええっ。起きたばかりなのですが、二人共気が早いもので、

今はコンセン屋を雇って寂しがりの森まで行くところです。」

「余計な事は言わないのっ。」

「お前がゆっくりし過ぎなんだよー。」

「そうか、じゃあこれは初回サービスなっ。

生まれたてなら、食べてすぐ能力が上がるし、体力の回復にも使えるぞっ。」

言うと小さな達磨(だるま)のような肉を差し出し、

だがクリスタルの手の平を見て、それは五星に渡す店主。

「おおーー!…でも普通こういうのは、頭成にじゃない?」

「じゃあ半分くれっ。」

「今迄は大体君が食べてきたでしょう。」

「ああ、別に皆で食べても構わんがー、

能力値は最初に食べた者しか、上がらないぞっ。」

聞くとすぐにかぶりつく五星。

「~だあっ!!」

「まあまあ、主君ですからっ。」

「おおっ、美味しいっ!」

「そうだろっ?!

それはクレイジーアウルという梟のような鳥の肉で、

初めから塩味が付いてるし、余り脂は乗ってないが細い骨もバリバリかめて、

身がしまって美味いんだっ!」

クリスタルに何口だったかと訊かれてもそれは数えなかったらしいが、

それ程あっという間に食べてしまった五星。

また彼女が本を開いて見ると、そこには明らかな違いもあった。

「あっ、素早さが3も上がってる!」

「…良かったな…。」

「ハハハッ、じゃあ君も買えば良いじゃないですかー。」

頷く五星。

だが訊けばそれは1000スペスもするという事で、

お礼だけは言ってあっさり諦めた彼女とクリスタルにも引きずられ、

肉屋に手を振る頭成。

実はこの『肉』というものは、獣なら主に筋力と耐久力が、

鳥なら素早さが、魚なら体力が上がりやすいと決められているのだが、

頭成ならその効果が無くても食べたかったのではないだろうか。

それはともかく、また今度は気になる会話を耳にした五星。

その声の主達は先程立ち話をしていた三人組。

左の一人は、赤いとんがり帽子とローブを身にまとい、

あの赤茶色の本を右手にした小さな老人、

真ん中の一人は、

赤い鶏冠(けいかん)付きの金の兜に鎧を着た大柄な男で、

また右の一人は、水色のターバンにマント、それに革鎧の上だけを着た若い細身の男。

彼らは五星が近づいても真剣に話し合い、

だがその話がまとまらない中でも特に騒いでいるのは、本を振った老人だったのだ。

「うんうんっ!やはりこういう場合は、アン様へご報告せねばなっ!!」

「しかし、それは確かなのか?いくら九ヶ国が誕生したとはいえ…、

もしも間違いだったらそれを疑われ、ひどい目に遭うかも知れないんだぞ?」

「じゃあまず確かめてみよう!行くかっ?!」

その青年の問いに頷く老人。

だが事情を訊きたい五星達が青年を止めると、

老人は代わりに大男を誘い二人で飛び立ってしまった。

その方角は…西。

「一体何があったんですっ?!」

不躾ながらも訊く五星。当然彼女にとっても、

その何かが起こったであろう場所が寂しがりの森であれば、

礼節など二の次にして訊いておかなければならない。

「ああっ、怖がらせてしまったな。

だがあのご老人が言うには、大観図は使えないようだが、

寂しがりの森の広場に異常な人数が集まり、

しかもそれがたまにぶつかっては消えを繰り返して、

消えない者もダメージを受け、どうやら戦が始まったというんだ…!」

「~えっ?!」

その話にはただただ驚く三人。

五星とクリスタルは考えをめぐらせ表情を消し、

頭成は早速本を出しまた別な特技を覚えようとしたが、

それは止められてしまったようだ。

「私達は…戦わない!」

「ああ、それは分かるが、何かの役には立てるかと思ってなっ。」

「訳も無く参戦するんですかっ?」

「もうー戦わないってー。心配性だなぁ。」

そうして念を押す五星とそれでも不安なクリスタル。

だがやはり頭成は冷静だ。

「それよりお兄さん、戦っているのは…、

勿論不確かな情報でも構いませんので、どの国ですっ?!」

一瞬顔を曇らせ、顎に手を当てた青年いわく、それは明空と鮮やか岬。

当然それはあの老人の言葉をそのまま信じた場合はだが、

口にした彼やまた三人の考えでもどうしても不可解な事だ。

それにそれはそれとして、

事実ならパズラーが気付いて城も大騒ぎしていそうなものだが、

またこれも青年いわく、彼は留守かも知れない。

「だったら私達もそこへ!

いいえ、無理は言いませんから、森の中へ連れて行って下さい!」

「た、確かに私もコンセン屋だが~、分かった!

では隠れて見るだけで良いんだなっ?!」

頷き振り向くと、二人の意志も確認する五星。

彼女はその青年の光で一気に上昇すると、武器を出す頭成を制し、

まっすぐ先を見て飛んだ。

あるのはただ真っ青な美しくも冷厳な空。

どこまでもつかみどころの無いそれは彼女にとってまるで

嘲笑ってさえくれない神のようであったが、そうやはりよく言われるように、

だからこそその心を推し量る事もできないのだろうか。

だから夜陽達は救われないのか。だがそれでは結局彼女達にとって

何故自分達がこんな想いをしなければならないのか、

まったく分からないのと同じだ。

当然そんな人が望まない形のものを神とは呼べないが、

この世界にいるのは、

そんな感情に流されるただ力を持った人同然の情け無い存在ではなく、

純粋で、寛大な神であるはず…。

ええ、そう信じます。他人は笑うでしょうがそう信じます。

私一人が恥をかくだけですむなら、そう信じます。

ですからどうかもしも私にさせたい事があるならそれは、

素晴らしいものでありますように…。

そう願って目を閉じた五星は、

先の森で戦などという事になれば夜陽は来ないかも知れず、

その一抹の不安とついに始まった戦いに、失望と高揚を感じていたのだ。



前方から凄まじい速さで飛んで来る三人。

だがそれらが実は所々に矢が立った兵の背中だと分かると、

五星は眼前まで迫るその黒鎧を避けようとしたが、全く体が動かなかった。

ドガッ…!!

その衝撃と一瞬浮力を失った状況に落下さえ覚悟する彼女。

だが次の瞬間、その目に映ったのは戦。

それを知った時にはさすがの五星も、

もう何かに気をとられるような事は無かったのだ。

その眼下の草原を走り東へ行くのは、

赤と金の模様で派手な印象もある刺々しい鎧を着た茶色い髪を逆立てた男と、

額にある丸枠から出た白い一本角にうなじ当てが広がった黒い兜と、

同じ色で簡単な作りだが厚く頑丈そうな鎧を着た小柄な女。

その背には、金地に黒で『国』と書かれた旗を指し、

これはおそらく明空兵の鎧であり、

前後の首元から広がった十本の濃い紫の線が、

中央に分け目の無い胸当ての下まで落ち、

二の腕と腿を保護する部分が無いのが特徴の一式だが、

先が三角形の四つに分かれたタセットの下にも黒く幅の広いズボンを履き、

一見して頼もしい戦士という姿。

だがその走って来た二人が陸と空とで五星とすれ違うと、

その背を追った細長い電撃に女は動かなくなり…、

助けようと足を止めた男もまたその攻撃に倒れ、

また森の左では、相手と木を押し倒した金色の小手に白い制服の男が、

その腹に斧を落とし、

右でも宙を舞ったピンクのローブに銀のサークレットを付けた女が、

木々もろとも叫ぶ明空兵を燃やし、

もっと奥では大勢の兵達が槍を振り回し、剣を振って敵を追い、

あるいは蹴飛ばしたそこへ仲間と共に突撃!

またあるいは斬撃を飛び跳ねて避けた者は両手から巨大な岩を出し、

敵の首に腕を巻いて振り回す者は同時にもう一方の武器で別な者も攻撃したりと、

激戦が繰り広げられているようだ。

「そんな事知るかっ!お前こそ死ねぇっ!!」

「力を貸すわっ!」

「この矢はどこから飛んで来たっ?!」

「誰が来ても同じだ馬鹿めぇ!!」

「ほーら、命乞いしてみなさいよー!!」

「おお、今殺してやるから、それまで吠えていろ暴兵めっ!」

「隙ありっ!」

「世の善が為っ、成敗!!」

あの白い制服に金の小手は確か鮮やか岬だ!

驚くと同時に色めき立ってそう叫ぶ頭成と、

クリスタルも強張った口調ながら、鋭く五星へ忠告。

「絶対死なないで下さいねっ!!」

分かっている。

分かってはいるが、今からあそこへ降りなければならないのだ。

そうその通り数秒後には南側の茂みへと飛び下り、広場を覗く五星。

またそこへも矢が飛んで来てすぐ右手の木に刺さり、

視界の左手では、

敵の装備を奪って雄たけびを上げる明空兵のゴブリンが、

後ろから飛びかかった盗賊風を振り向いて斬りつけ、

また奥では、

仰向けになった体勢で敵に頭を向けていた鮮やか岬の男が、

顔に来た槍を避け、逆に足払いをかけてその衝撃で敵を倒すと、

両膝を突いて起き上がり、片腕をつかんでその顔を殴打。

そのすぐそばでも、

鍔迫り合いに怯んだ敵の背中を切りつけ、

盾を投げつけ呪文が止まったところへ

武器をハンマーに変えそれで叩き飛ばすなど皆一心不乱に戦い、

どこもかしこも一瞬の油断もならない状況である。

「どけぇ、お前じゃない!さっきのでかい奴はどこだっ!!」

「隙間をつくるな!」

「おお~死にたいのかぁ、では私が相手になろう!!」

「また呪文が来るぞっ!もっと退けぇっ!!」

すると五星達の視線は右手の奥へ。

その広場から東南の森へ逃げたのは細身の明空兵だったが、

彼はもう怖くてたまらなかったのか、悲痛な声で叫ぶ。

「モリヤス様ーー!!」

だがその兵の行く手にある茂みから飛び出し、

長柄の武器で滅茶苦茶に斬りつけすれ違うように倒してしまったのは、

振り向いてその相手の背中を見詰める鮮やか岬の女。

その中心から分けられた白髪は全体にしとやかにうなじへと沿い、

それは先で緩やかに波がかって腰までも伸び、

白く小さな顔にある、やや離れた両目はまた小さく美しく、

細顎とあいまって若々しくまた凛々しくもあり、

だがその手にあったのは、身の丈より頭一つ程も高い、

金の三尖両刃刀(さんせんりょうばとう)という、

先が三つに分かれた穂先のそれぞれを長く工夫した、やや攻撃的な武器。

そしてその得物を倒れた敵へ向け、大喝する女。

「本当に貴様らがあの名将モリヤスの兵ならばー何故奴が来ず、

副将を寄越したかっ?!来ればその身を捧げれば済んだものをっ!!」

言うとさっぱりしたのか次にその女は、

背中へ飛んできた一直線に並んだ針のような氷も、飛び跳ねてかわし、

宙で反転して薙ぎ払うとその先で迫る二人を斬りつけ、

突いて突いて、相手より速く斬り、受けてはまた突き、

その後ろにいた魔術士は奇襲させた仲間が絶命すると、逃走を開始。

だが女はその者さえ逃がす気は無いようだ。

「逃げるか卑怯者ぉーー!!」

「うおっ、わぁーー!」

「…やっぱり鮮やか岬には、凄い奴がいるな。」

その声に五星が振り向くと、そこにはただ静かに頷く頭成がしゃがみ、

そう彼の目にも、義勇兵が多い為に黒い鎧兜を付けない明空兵の死体が多く、

白い制服を着た者の死体は少なく、

その倒れた者達を合わせても全体で二十人にも満たないが、

どうやら少数の鮮やか岬騎兵隊が優勢らしい…。

また彼らにも、偶然森で居合わせた義勇兵は味方しているようだが、

対してそんな彼彼女らを城や町から連れて来た明空軍の兵力は、

さぞ強大だったに違いない。

二人の肩に触れ広場中央を見るクリスタル。

三人が見た通り他はもうほとんど乱戦となっているが、

何とそこではまだ配下に囲まれた二人の将軍が馬上で采配しているではないか。

東には押し合い圧し合い前衛を励ます明空軍。

その奥で灰色の馬に乗りマントを翻(ひるがえ)しているのは、

兵と同じ黒い鎧兜を身につけてはいるがその角は縦に二本並び、

鎧には金色の線が入り、

そしてこの部分は特殊な金属加工だろうが、

兜の中に被る頭全体を覆う黒がかった金色の仮面に開けられた目の部分が、

大きく半透明であり、他とは一線を画した将軍。

また金色の線は、胴の腹部分にある中心に三本、

背中に幅を持たせた二本、

四肢には表とその真裏に二本ずつとこれは将軍の地位を表すもので、

前に六人後ろにも約三十人を従えたその姿も堂々と、

おそらく彼が大将だろう。

だが何と対するのは僅か八人の鮮やか岬騎兵隊。

その後ろで栗毛の鎧馬にまたがり、

前衛を飛び越え、あるいはすり抜けて来た敵を

ことごとく突き殺している大男こそ彼らの大将だろうが、

その体は制服の上からでも見るからに引き締まり、

顔はといえば、角ばった面長の太い眉の下に、大きく強い眼差しをおき、

鼻筋太く口も大きく、褐色の肌もあいまっていかにも大丈夫といった風貌。

そして次の瞬間、敵将に鋭くパビアと呼ばれた彼は目を見開き、

ただ盾で防ぎ牽制を繰り返すばかりだった兵へ、突撃を命令!

訊いた兵達は、まるでその声がたまたま同時だったように素早く反応。

踏み込んで斬りつけ、蹴飛ばし、あるいは斧を赤く光らせ強襲を放ち、

今まではじりじりと一方的に押されていたものを、

一気に敵の最前列を崩す事に成功。

また討たれそうな配下へはパビア隊長自らがエナセイを放ち、

だがそれを見て笑う掠れ声はやはり、明空の将だった。

「ハハハハハッ、意地の反撃、見事見事っ!

だがこれならどうだ…?」

するとその大きな両手には、少しずつ黒い砂が積もり、

それは頭上で怒りを露に唸り、吠え、あるいはにたりと笑う六頭の黒猿を現出!

その猿達は、鮮やか岬の兵へ次々飛びかかりまとわりつくと

噛みつくわ引っかくわで、まるで血でも飲むような毒々しい音を立て、

その体力を奪っているようだ…。

「こぉ、このままでは死んでしまう!」

「いいや恐れるなっ!!」

「それでも押し返せー!!」

後ろのパビアは左で聖水を投げ、

もう片方ではエナセイを唱えと、忙しく彼らを回復。

だが彼は頃合を見計らうと開翼(かいよく)…と叫び、

その合図に左右へ走る鮮やか岬の兵。

当然それは戦いながらではあるが

一人だけどちらへ行けば良いか迷った兵がおり、

パビアの馬は彼をすれすれでかわすと、

眼前の黒い塊とも言うべき明空兵達を撃破!

これは鉄壊(てっかい)という騎乗した場合の騎士の特技で、

前方百二十度に居る敵を吹き飛ばし、

その乗り物の筋力に応じたダメージまで与えるものだが、

それは鈍い金属音と共に数人の敵を吹き飛ばすと、

彼は奥へも槍を走らせ、反対へは激しく恫喝!

その死にたいかという叫びを受けた兵は…大将を見る。

「…私に殺されるよりは、ましだろう。戦え…。」

「ぐぅっ…!」

「今だサハピッ!」

その声に森の北東から現れ斜めに十騎の隊を突撃させたのは、

今も白い鎧馬に乗ったサハピ。敵将はそれも読んでいたようだが、

前の半数へはパビアを討ち取るよう命じ、

自身では振り向くと同時に長斧を出し、

切り込んで来たサハピの剣に対し先を左に受け止め、

更にもう片方から斜めに繰り出された槍も石突きという元部分で押さえ、

「おおっ!!」

とその腕を振ると、彼を吹き飛ばしていたのだ。

腰を突きだが瞳だけを動かし、命じるサハピ。

「構うな斬れぇっ!!」

すると…その彼の白馬を打ち払い、斧を落とす明空の将。

目を見開いたままのサハピは胸に強い衝撃を受け、同時に視界は赤くなり、

だが覚悟した瞬間そこに現れたのは、三尖両刃刀の光輝…。

宙を舞うあの白髪の女と、

対する明空の将は長斧を左手に与え、その空手で突き飛ばす…。

当然驚いたのは彼女だけではないが、

その吹き飛ばされた体にも素早く馬を向ける敵将。

不覚にもサハピ達騎馬隊は敵を侮って突破を阻まれ、

騎乗にもかかわらず陣中央にある事で、やはり数倍の兵を防ぐのに必死。

当然助けられる訳も無く、彼女は敵の長斧で十字に切り裂かれると、

そのまま地へ放り出されてしまった。

「ソルバラッー!」

その背中から放たれた声にはますます怒るサハピ。

「…き、貴様らぁ!生きて森を出れると思うなーー!!」

「ハハハハハハッ!強がりを言うな、雑兵めっ!!」

大声で威圧する明空の将。

彼はサハピの声を耳に趣味悪くますます力を増したようであったが、

その直後、配下に言われ振り向いて見たものは、何と赤い光線。

…四つ羽?

というどこからとも無く聞えた声に、少しずつ東へ退く明空軍。

五星達も含め、森にいた全ての者はしばらく無言でそれを見ていたが、

視線を下ろした場所に居たのは、腕を上げるパビアである。

その間にパビアのそばまで駆けるサハピ隊と、互いの顔を凝視、沈黙する両将。

だが自軍に微かな怯えを感じた明空の将は、その正体を教えた。

「…臆するなっ。あれはワルド。

奴は四つ羽を彷彿させる為あえて赤を使ったが、合図に使う呪文だ…。」

「おおっあれが…。ですがそれではっ、

この対峙はその援軍の襲来を助ける為ですか?!」

「…うむっ。」

確かにこの場の鮮やか岬には住民の応援である義勇兵も少なく、

彼らの君主であるはずの三聖(さんせい)も居ない。

ではやはり援軍が来るのか。

そう察した明空軍の動きを、そしてちらりとだが北側の森も見るパビア。

すると明空の将はゆらりと馬を揺らすと、退却を命令。

その吸い込まれるように草木をかき分け消え行く軍に、

鮮やか岬は彼方此方で勝ち鬨を上げ、

五星にも安心するのはやや早いように感じられたが、

考えてみればその歓喜は戦った者達のものであり、

やはり興醒めるような事を言うべきではない。

「おおーー良しっ!オレは勝利を信じてたぞっ!」

「~私達の勝利です!」

「宴会、宴会っ!誰か肉と飲み物買って来いよーー。」

「それで、誰がスペスくれるのー?!」

「いいや、鮮やか岬は出さないだろうなぁー。」

「いいや鮮やか岬は、敵には槍をっ。

そして我らには、十分な勝利を馳走して下さったではないか。」

「ハハハッ!これで不平を言うのは、贅沢というものかなっ。」

だがその声が止まぬ内に追撃を願い出るサハピ。

周りには抱き合う鮮やか岬や、記念に武器を交換する義勇兵までおり、

当然そうして沸き立つ中ではパビアもそれを許可すると思われたが、

その反応は冷淡なものだった。

「なっ、何故ですっ?

何もすぐにではなく、援軍が来てからの事ですよ!」

「だが、まだ奴らが本当に明空兵だったかも…分からん。」

「…いいえっ!

あの『国』一文字は、明らかに明空の物!どうかご決断を!」

するとちらりとその目を見て、視線を東へ戻すパビア。

「ああ…だが実は、援軍などは無く、あれはただの光線だったのだ。」

「えっ…?!それではーいいやっ、さすがは隊長だっ!!」

「だがこれ程の事は何でも無い。

おそらく三聖は、お前達の奮戦振りをこそお喜びになるだろう。」

続けて一緒に戦ってくれた義勇兵達へも感謝の言葉を口にするパビア。

勿論その拍手は鮮やか岬騎兵隊の全員へ送られたが、

その称賛する人々の中には

青い一本角のカチューシャに毛皮を着たフライシュも、

またその隣には、頭に淡い紺色の大きな花柄がある象牙色の布を巻き、

小手やブーツまで骨で造られたボーンメイルで揃えた

二十人程の一団もあったが、

パビアだけはそちらを見ないようにしている。

当然その人相の悪さや態度などからくる盗賊然とした姿には、

正義の町の住民達から白い視線も集まっていたが、

一番前で腕組みをする女は、

薄紫の口紅にソバージュそれにアイシャドウも同じ色に合わせ、

への字の細い眉の下にはひし形の爛々とした二重があり、

細顎にある口の両端の上からは小さな牙まで見せた、

全体に鼻の突き出たどことなく狼のような顔立ちの…グッサロという者。

そしてまたその着ている物といえば、

右の首元から左胸の上部分にかけ黒く先の鋭い三本の大骨がかかる、

全体に銀がかった紫の服で、細身に合わせた小さな丸い肩当てには、

それぞれ外側へ向って吠える黒い狼の模様まであり、

腰にも長布を巻き、下は団員と同じタセットとブーツという骨装備だったが、

それも黒い色違いという姿。

それは彼女にとってのお洒落なのだろうが住民には極めて奇抜で、

また鮮やか岬騎兵隊としても到底看過できるものではなく、

戦さえ無ければパビアの方から声をかけている事だろう。

だが今声をかけたのは、グッサロの方。

その声は高く軽い調子で、彼らをからかうようだ。

「何だ冷たいねぇー隊長ーー!」

「お前のような大悪党に、隊長と呼ばれる筋合いは無い。

…いいや、本当に無関係だ。

奴が元鮮やか岬騎兵隊などという、不名誉は無い。」

「そ、そうですか…。」

「これから交戦状態が続くんだろ?

じゃあ雇ってよ~~。みんな殺しちゃうからさ~~!」

「ああっ…そういえばだがー、お前はどちらと戦ったっ?!

…サハピは見てないか?」

「いいえっ森からは、隊長の合図ばかりを注視していたもので…。」

「どっちでも良いでしょう~~!!」

「良い訳ないだろっ。

もしも我らの兵と戦っていたら…その時は容赦せんぞ!

獲物と見れば加減を知らない、盗賊がっ!」

「…では、捕まえますか…?」

小さく首を振り、彼に見回りを頼むパビア。

聞くとサハピは黙って東へ。一隊を率いて行ったが、

対するグッサロ達は今の彼らが盗賊退治どころではないと知り、薄ら笑いを続け、

だが何故かその顔は次の瞬間…凍りついていたのだ…。

そのゆっくりとこちらへ移りつつある視線に、ぎょっとする五星。

「うっ…!」

その肩を素早く叩き西を指したのは頭成で、

そこから歩いて来たのは片手を上げる赤いエルフ。

今日も彼女は束ねた赤い長髪を揺らし、

その細身の体には厚銅の胸当てと薄い銀のタセットにグリーブ、

それにこげ茶色のブーツを履いていたが、

あの日と違うところがあるとすればそれは

額にある銀のサークレットと小手だろう。

その六角形の下が微かに眉間へと下りた金属板の中心には、

人が両腕を広げ天へ昇るような形の赤い模様があり、

細く薄手の小手にもまた赤で外側に二本の線が引かれ、

それは先で更に濃い赤に変わり炎が描かれるという、

勇ましくも美しい印象のもの。当然三人の目は一瞬その装備にもいったが、

レーザーを見つけた五星は一人目を大きくすると、

何やら奇声めいたものを発しながらも一応二人には支払いを頼み、

飛び出していたのだ。

「こ、こんにちはっー!!あの時は本当にありがとうございました!

それにしても良いサークレットと小手ですねっ!」

「いいえー、君こそ良いマントしてるじゃないっ。

それより、戦いに巻き込まれなかった?」

「はいっ!寧ろこれを、見に来たぐらいでっ…!」

「えぇー、あぶなーーいっ!だから私もこれ装備してきたのにぃーー!」

「じゃあやっぱりレーザーさんも、この戦いを見に来たんですかっ?!」

「うんっ!それもそうなんだけど、飛んでた時も危なかったね?」

会えたのは嬉しいがその言葉には首を傾げる五星。

するとそれには走って来た頭成達が答えた。

「ハハッ、また会いましたねっ!」

「お久しぶりですっ!」

「こんにちはっ。」

「そうだ五星、あれだよあれっ!」

「ええそうですよっ。

あの移動呪文で飛んで来た時、あれは危なかったんですからっ!」

何と驚くべき事に五星以外は知っていたようだが、

よく彼らの話を聞けば、

ああしてコンセン中に何かにぶつかった時には、落ちる場合さえあるという。

「ええっ?!じゃあ…。」

「うん、それを遠くから見てねっ。

私もはっきりとは分からないんだけど、誰かの攻撃を受けたり、

何かにぶつかったりしてその衝撃が余りに強いと、そうなる事もあるらしいよっ。」

そう言って腰に手を当てるレーザー。

その姿を見た五星はまた講義を受けている気分となりやや嬉しくもあったが、

あのように対象者の一人として飛ばされている場合のコンセンは、

体の位置を動かす事もできず、

使用者の判断でしか下りられないという事も教えられ、それには強く頷く。

だが実はその微笑ましい四人を苦々しく見ていた者達。

それはグッサロと、生まれ変わっただろう

あの時の無精ひげに美しい顔の男だったが、

三人は仲間の手前露骨に怯える訳にもいかず、

だが当然頭領の言葉を無視する事はできない。

「…こっち見てるかっ?」

やはり知り合いなのだろうか。

レーザーを見てそう訊いたのはグッサロで、答えたのは無精ひげの方。

「…ええっ、あのエルフそんなに強いんですか?!じゃあ移動しましょう…!」

「…おいおいっ!

何もお頭だって、あいつが強いなんて言ってないぞ…?」

「お、お前らこそ、何か必死だな!ハハハッ、どうしたぁ?」

本当は五星達を恐れてだが、意識してレーザーを見る二人。

「い、いいえっ別に……。やっぱりレーザーは、強そうだなーと思って…。」

「そ、そうだ!向こうに外階段のある、筒みたいな家あったでしょ?

気晴らしにそこをぶっ潰して、ひと仕事しましょう!」

「…それは私の家だ…。」

言うと腕組みをしたまま睨むフライシュと、

同じように腕組みをしてその顔を見るグッサロ…。

「ああ、じゃあ…他の家にするか?」

「配下に訊くな。迷わずそうしろっ!喧嘩売ってんのかお前は~?!」

「まあまあっ君、こっちは二十人もいるんだからっ。」

その美しい顔の盗賊がフライシュを抑える姿を見て、吹き出すレーザー。

「…プフフッ!あれ、フライシュの家だったんだねっ!」

「そうみたいですねっ。

それよりあれが噂の、グッサロ盗賊団ですか?」

「うんっ!私にはそう怖い相手でもないし、

大分前に二度も倒してるけど君らは気をつけてねっ。

頭領のグッサロはあれでレベルだと七十以上で十分に強いし、

奪える相手からは何でも持って行く、大悪党だからっ。」

「…ええっ?!~はいっ、ご忠告に感謝します。」

「そんなに強かったのか、あの盗賊団!」

「だから小声でお願いしますっ!

相手は配下とはいえ、森で襲われたのに全然怖がってませんねぇーー。

僕達なんて、簡単にやられちゃうじゃないですかっ。」

そのクリスタルにまた強く頷くレーザー。

また思い出した五星が灯達について説明すると、

彼女は驚くと同時に感心もしたようだ。

「へぇっ、あれから野花うさぎちゃんにも会ったんだ。

凄い偶然!…でも灯の店は残念だったねぇ。

これだって、誰もアンを止められなかったからだ。」

「ええ、こう勇敢に戦える鮮やか岬騎兵隊なら、

彼女達を救う事もできたかも知れないというのに…。」

「…我が町の騎兵隊が、申し訳ない。」

「えっ…!というと、まさかレーザーさんは…。」

改めて訊くと彼女は鮮やか岬の住民らしく、

今は戦いへ加わる為だけに来た訳ではないらしいが、

その事を裏付けるかのように近づいて来たのは、何とパビアだった。

「何だ、遅いぞっ。」

「えっ?~だって私、騎兵隊の人間でも無いしっ。」

「そうは言っても、皆頼りにしている。今からでも入らないか?」

「ハハハッ!でも私面倒臭がりでーー。今だってほら、遅いしっ…。」

その苦笑いのレーザーを横目で見るパビア。

彼の方も世間話をしに来た訳ではないようだが、

そんな彼にレーザーが伝えたのは五星にとっても意外な情報だった。

それは、デュプルアイがサウスティーカップを攻め、敗北したという事実。

「え…まさかっ!それは本当ですかっ?!」

「…うん!」

身を乗り出す五星に、動きを止める頭成とクリスタル。

それはたった今侵略を受けたパビアにとっても

一瞬冗談かと疑うほどの事だったが、

どうやら事実らしく、ほぼ全軍である五十人を従えた黄園は

まず迎撃に出てきたサウスティーカップの正規兵を、草原で二十人撃破。

続けて実力者である釣狐と彼が繰り出した三十体の人形兵にも、

初めは劣勢だったが、やはりそれは数を優先させるだけ

人形一体一体の基本能力が落ちてしまう摂理でもあるのか、

最後にはことごとく打ち破り、

だがその後一歩で町壁というところで出て来たのが、

もう一人の実力者・KAENの右腕でもある、ひゅんしゅんという名の猛将。

つまりその彼の得物である槍は縦横無尽に女盗賊達を翻弄。

氷が纏わりついたままで別な敵の体を打ち、

あるいは飛び上がった宙では矢を弾き、そこへ追って来た者も突き落とし、

その騎馬隊一人一人の強さもまた凄まじいものだったというのだ…。

そのレーザーの話に一々頷くクリスタルと、興奮する頭成。

「はぁーなるほどっ。ついにデュプルアイも真の姿を見せた訳ですねっ。」

「ああっ!…でも、誘われなくて良かったな…?」

まさか彼女達のような強い勢力に誘われる事は無い。

そうは思ったが強く頷く五星。

彼女の考えでもこの世界においての戦い

それに主義や価値観は自由であるべきだが、

まさかいつか盟主になろうという者が道義に反した行いはできない。

だが何か知ってるのと訊くレーザーには、

ちょっとその中に知り合いがいまして…とだけ答える五星。

とにかくこれが事実なら既に四勢力が争った事になるが、

もう十分驚いたパビアは、やはり自分達の心配もしなければならない。

「…では、それも三聖へお知らせするとして、

それよりさっきの明空の将、あれに心当たりはあるか?

今訊いて回ったところによれば、

皆モリヤスの副将だと言われただけらしいんだが…。」

すると静かに頷き、五星を見下ろして言うレーザー。

「うん…あれは、灰馬(かいば)のショダール。

この中部では奴と争う事を恐れて、

見た目から覚えやすく灰馬の黒面(かいばのくろめん)と呼ぶ者さえいる男で、

確か私も、明空に仕官したと聞いたけど……。」

「あ…あれがそうかっ!」

やや体を引き、聞いた事があるらしいパビア。

その話の腰を折るようではあったが、

まず彼に名乗った五星も気になっていた事を訊ねる。

それは当然、女盗賊団が他国を攻めた事についてではなく、

平和を愛するはずの明空と正義の町鮮やか岬についてだが…。

「うむっ、何故だろうなぁ?

君が言うように私達は、明空に何もしていないはずだが……。」

「そうですよねぇ…。つまり、突然攻撃を受けたんですか?」

「ああ、しかも赦せない事に、やられたのは住民。

それに調べた亡骸の詳細から、鮮やか岬にさえ無関係な住民もいたらしい。」

「…まさかラフター様が?

噂ではそんな事をする人では無いと聞きましたが…。」

すると二人が話しているので、

その事についての自分の見解をまず頭成とクリスタルに話し、驚かれるレーザー。

クリスタルは聞いてすぐ青ざめ、頭成はマスクの中でにやりと笑い、

それを見て面白くないのは当然パビアだった。

「おいおい、まずこっちに教えてくれっ!」

「ああっ、ごめんごめんっ。」

「どういう事です?」

五星も不思議そうに訊けば、レーザーいわく、

実はショダールの明空への仕官は偽りで、

今起きたこれは両国を争わせんが為の戦いではないか。

「そうだ、それに違いない!」

そうは言ったものの、聞いたパビアはこれにもまた愕然とし、

目の前の何かを捻りつぶしてしまいそうな構えとなり、

また五星達も小さく驚いたが、彼の手前大きな声も出せずにいる。

話を続けるレーザー。

「確か奴の仕官は、二ヶ月ほど前だったよね?」

「ああ、他の住民に訊いても大体そうだと言う。」

「じゃあ、やっぱりそうだ!それより前は…、

いいや今も自宅の一つはシピッドにあるはずだからっ。」

素早くうなずくパビア。

しかも彼は、今話した事も含めた必要な情報を三聖にも知らせたいので、

それをレーザーに頼めないかと言う。

「良いよっ。でもどっちにしても、まず明空へ使者を送らないとねっ。」

「ああ…だがそれはまず三聖がお考えになる事だっ。

お前はこれをなるべく早く伝えてくれっ!」

「うんっ!」

「じゃあ気をつけて下さいねっ!」

その五星の言葉に頷くとパビアの馬を借り、北へ走るレーザー。

パビアも五星達に手を上げると配下を引き連れ東の森へと消え、

残されたのは五星達と僅かな住民。

それに装備を剝がされあるいは確保してもらった白装束の体だけだが、

何故かそこへ歩いて来たのは、あのグッサロ盗賊団。

これは三人にとって非常に不味い事になったものだが、

それを見逃さない人物もいた。

「あっ…でもフライシュさんも来るっ!」

「おおー、頼もしい援軍よっ!」

「何言ってるんです二人共っ!~とにかく逃げましょう!!」

だがその怯える彼の前に立ち塞がったのは、

あの無精ひげと意外と美しい顔の盗賊。

クリスタルが凝視すると二人は、無精ひげはやや灰色がかった短髪で、

そのふてくされたような目をぎらつかせ、

また美しい顔の方はよく見ても端整ではあるが、

長いまつげの奥にある目が卑しく、冷たい印象。

そしてそのクリスタルの前へ出て睨み返す五星と頭成。

すると盗賊達の方は文句を言うのはこらえ、グッサロの後ろへと回った。

確かに大勢の仲間といる彼らだが、

あの時ですら勝てなかったものを、今は生まれたてでもあるのだ。

だが特に好戦的なのはやはり、無精ひげの方。

「…やりましょう…。」

「…いいや、待ってくれお頭!レーザーに言いつけたらどうします?

さっきの義勇兵の中には余韻に浸っている豪傑もいますし、

パビアっていう奴とも、仲良さそうだったじゃないですか…!」

狩るか?

…だが確かに今もレーザーは面倒だし、

鮮やか岬達に目の敵にされるのも馬鹿馬鹿しい。

そう賢くは働いてもそれに従うはずの体の抵抗を感じるグッサロ。

彼女は目を細めると五星にゆっくりと顔を近づけ、しばらくは凝視。

だがそのすぐ隣で見下ろしていたのは、頭成の目だった。

「おお、さすがだねぇ!うんうん、良い配下を従えているっ!」

「…気を許すなよっ…?」

「…睨んでるって…!」

頭成に言い返しても顔を背けず、強い眼差しの五星。

そしてグッサロはというと、彼女もまた三人をただ者ではないと感じたのか、

あのパビアと話していた時の雰囲気をあえて変える気もないようだ。

何です、五星のにおいでも嗅いでるんですか?!貴方は獣ですかってー!

クリスタルさえ胸中ではグッサロの値踏みに、強く抗議。

その状況は、横目で見る他の住民や

フライシュから見ても一触即発ではあったが、

当然それはグッサロの態度にも原因があり、五星はそれを優しく指摘。

すると悪女という者は皆そうなのか、彼女も態度を変えて言った。

「ほうっ!

私の目が悪いって言いたいの君ぃ~?!」

「そうですっ。」

「何ぃっ?!」

「でもそれは、見た目の話ではありませんっ!

いくら顔が獣みたいでも、そのぐらい分かりますよねっ。」

「おお~~!」

と今度は…全員で唸る盗賊達。

だがそれは当然、ただただ感心した訳ではなく…、

これから起こる事への期待を表しただけであり、

見ていたフライシュは仕方無いという顔ではあるが、五星の隣へ。

そして静かに訊いた。

「君は何がしたいの?」

「そ、それは、相手が何をしたいのかによりますっ。」

それに声を上げる無精ひげ達。

「いやー可愛いなぁーー!」

「つまり、ごちそうですよねぇーー!」

「黙れっコオドシ、ドクアト!びびってるのが見え見えなんだよっ!!」

「ふーーん、そういう名前なんだぁーー。覚えちゃった!」

「やっぱり強そうな名前ですねぇー。」

「…ですよねー。

本当に嫌味ではなく、強そうなー。だって男らしいですよー。」

そうしてクリスタルだけは相変わらず素直に怯えているが、

何故かグッサロはその彼にウインク。

だが特別彼を気に入ったという訳ではないようで、

それなら一体何が目的なのだろう。

「まあ良いや、それよりーもしかすればだが、

デュプルアイさんが気に入った生まれたてって、お前らの事かっ?」

その言葉に彼女がその予備軍だと思い出し、若干態度を変える五星。

「…え、ええまあ…。多分そうですが、私達悪人にはなりませんよっ。

衆牙と解放戦線にも誘われましたが、絶対にねっ。」

「お前なぁーー。」

言いながらまた前へ出たドクアトには、

その顔を鷲づかみにし、後ろへとやるグッサロ。

「そうかそうかっ。だが私が欲しいのはお前らじゃなく情報で、

そうだなまずは…デュプルアイさんが負けたっていうのは、本当かっ?

私には、単なる流説(りゅうせつ)にしか思えないのだがっ。」

形は変わっていないが、その目に微かな悲しみを見る五星。

こうなると相手が盗賊とはいえ、

何も黒後ろ髑髏のような外道畜生とは限らないので、彼女も丁寧に答える。

「ええっ、お気の毒ですが…、

レーザーさんの情報なので、それは間違いないと思いますよ。」

「嘘だろ…?!」

「いいえっ、私も残念ですが…。」

ざわつく盗賊達に割って入る頭成。

「まあまあ、グッサロさん達、

何もデュプルアイさんが死んだ訳じゃないんだからっ。」

「だがっ!~あの姉さんが負けるなんてっ!」

すると詳しく説明するクリスタルに小さく頷くグッサロ。

その話が信憑性のあるものだと分かるとため息までつき、配下を遠くへやった。

「そうか分かった…。ありがとう。

嘘だと決めつけて軽々しく確かめに行くより、

真摯な態度で行った方が、絶対印象も良いからなっ。」

「盗賊も大変ですねっ。」

「嫌味かそれはっ。だが、お前はその戦いをどう思う?

デュプルアイさんは、何もわざわざサウスティーカップを攻める必要も、

なかったと思うのだが…。」

「おそらくですが、盗賊団としての意義でしょうね。」

「ほう…。」

「元々この世界は、現実に不満のある人々が住む地で、

ただ見た目の可愛らしい住民が多いというだけで、

サウスティーカップの中身までは分かりませんし…、

他がとらないなら何も遠慮する必要は無いという、

あの人なりの示し方ではないでしょうかっ。

例えばトレランスのソーンジや北偶振刃の衆牙も、

あの国にKAENや釣狐ありと考え、

その武力を理由に行動を起こさなかっただけでしょうし、

黄園さんはその辺りが分かり易く、また仕えやすいとも言えますねっ。」

ガバッ!

すると突然五星に抱きつくグッサロに、目を点にする一同。

それはその行動理由は何となく分かるが、

フライシュとしては止めない訳にもいかない。

「はい止めぇーー!」

「やっぱり誘おうっ!うちに来いっ!!」

「お、お断りしましたけどっ?!」

驚きと恥ずかしさで硬くなる五星。

彼女の発言をもう少し噛み砕いて言うと、

やはり黄園もこの世界に自由と夢を求めた一人であり、

元々こういう場所は、現実に不満のある人々が謳歌し、

帰ってからは誠実であるが為にも、

ある程度倫理観や人生の厳しさからは遠ざかっていなければならないはずだが、

今はそれも切り刻まれ…無駄な規則が乱立。

それが赦せなかったのではないかというのだ。

そう例えば、盗賊プレーをしたい者が、それをするだけ。

現実には今一つ善を行えない者が、それを実現するだけ。

つまり彼女が言いたいのはそれの何がいけないのだという事で、

要するに悪いのは、分別がつかず現世でも馬鹿な真似をする住民と、

また同じように分別のつかない…

特に幻想世界を好きでもないくせにうるさい事は言う、完全な部外者達なのだ。

更に分かり易く例を挙げれば、実は偶振刃にもある拳闘。

だがこの素晴らしい競技にその殴りあう姿が乱暴で痛々しいからと、

好きでやっている選手達の意志を無視して全て寸止めにし、

憎しみが生まれないようにと一休みするごとに笑顔で握手し、

更に互いを褒め合うとし、楽しく可愛らしい雰囲気にする為にと、

選手に兎耳を付けるとしたら…どうだろう。

当然もうそんなものを見るのは本当にそれを芸術として愛する者ではなく、

自己満足の権化…のみなのだ。

それはそうとまだ離れないグッサロを止めるフライシュと、それに加勢する頭成。

「良し良しっ…!うちに来るんだなっ。そうかそうかっ。」

「言ってません。これ何とかなりませんか?」

「ああ、このつかみ攻撃は、戦士の特技で力自慢といい、

相手の筋力より自分の方が上回っている時、

その差に比例して一定時間振り回せたり、投げたりできるもので、

おまけに集中力まで上回っていると、

相手に振りほどく機会さえ与えないからな…。

~て、おいっ!もう攻撃するぞっ?!」

「はいはい、教えてくれたのはありがたいけど、離れて下さいねぇーー!」

「まあ、僕のスリーアイスを教えてくれたのも、黄園さんですから、

その彼女を理解する五星と仲良くしたいのは、よく分かりますが…。」

すると何だか変な風に和んではいたものの、

そのそれぞれの動きを止め、彼に振り向く五星達…。

また詳しくその話を訊いたところ、彼は密かに黄園と約束。

彼女が使わなくなった水系呪文スリーアイスの特訓をしてもらい、

それをぎりぎり一度だけ使うのに必要な気力を鍛える為にも

偶振刃の西に位置する神の演壇(かみのえんだん)という巨岩へ行き、

その麓にある気力や集中力などを上げる修行場で細かい指導を受けたというのだ。

その彼へ何故かゆっくりと近づいたのは、頭成とグッサロ。

「な、何ですっ?!僕だって役に立ちたかったんですよっ!!」

「ん~、よくやったぁー!それでこそ忠臣!!」

「羨ましい奴だなぁ~~!」

その特訓や修行の旅を羨ましがったのはやはり五星も同じだが、

彼は早速その呪文を使って見せると木に突き刺して幹を凍てつかせ、

仲間である二人の期待は大いに高まり、

ではそろそろと言った頭成は、今度は走ってフライシュに耳打ち。

彼女に森から木の枝を取って来てもらうと、何故か地面に世界地図を描き始めた。

当然その行動の意味も気にはなるが、まずはフライシュに訊く五星。

「枝って、取れたんですか?」

「うんっ?~ああそうだっ。

だがぶつかったりした場合、その辺に散らばるとうざいだろ?

だから強く蹴ったり、または取る…という作業は必要になるが、

焚き火をする時には必要だから覚えておくと良いっ。

当然炎系の呪文でも肉は焼けるが、じっくりと焚き火で焼いた方が簡単で、

好みの焼き加減になるからなっ。」

「へぇーー。」

そうそれには納得した彼女だが、

今も一生懸命くちを曲げた頭成が描く地図には、

一体どういう意味があるのだろう。

意外にもそれを訊いたのは、首を傾げるクリスタルではなくグッサロ。

「まさか、私に世界地図を見せようっていうのっ?今更だなぁーー!」

「いいえ~これはクリスタルにですっ。」

「えっ?」

勿論訝しげにその顔を覗くクリスタル。

すると頭成としては、今からその地図で国々の位置関係を考え

これからの事を相談しておきたいらしいが、

それには五星も不思議そうに訊く。

「今迄だって、地図を見てきたでしょう。

だから私達にとっても、今更じゃない?」

「ハハハッ、それは違います五星様っ!

今迄は今迄…。よって乱世となったこれからは、諸国の動静を明らかにし、

常に貴方様が天下へ乗り出すその機を、探らねばなりません!」

「また家老に変身しましたねぇー。ですが僕としては、

まだまだ捉え切れない、大きな世界であって欲しいのですがー。」

「あっ、私もその気持ち分かるっ!」

「なりませんっ!」

するとその冒険心と野心とでは、フライシュとグッサロも対立。

「どっちにしても、これだけ広いと全てを把握するのは大変だがー、

もしも何もかも分かってしまうと、それはそれで面白くないぞっ?」

「いいやっ!

私はお前らと天下を争うその時を、楽しみにしているぞっ!」

そのグッサロには、ぴたりと手を止め、肩越しに見る頭成。

「………。」

「…フフフッ…!」

「何なんだお前らっ。国も無い浪人がっ!」

「もう良いから、だったら速く描いてよっ。」

「知りたくないのにぃーー。」

まだその突然の軍議には不満そうなクリスタル。

だが頭成は、H字の中心を折り、右を北へずらしたような大陸を描き、

その中心から遥か東北東に生得、その南南西に明空、

更に中部の北側にあるのは鮮やか岬とアハインだが、

前者は北東にあり、後者はその南西、そこから南にシピッド、

更にその南に位置する偶振刃をはじめとする西部には、

またそこから南西にあたる世界最南端にサウスティーカップ、

そこから遠く偶振刃も越え西北にあたる西海岸側にトレランス

という地図を一々指し、自己の見解を披露。

もう面白くて仕方無いという風に地図へ両手を突き、

更に考えを巡らせているようだ。

「どうしようかなぁー?!

だってオレの考えでは、明空が鮮やか岬を攻め、

デュプルアイがサウスティーカップを攻めという意外な戦が起きた…とはいえ、

それはアンの生得やAZAKIの南偶振刃には関係無く、

突然どちらかが動き出すとも、

また元々温厚な人の多いサウスティーカップが反撃するとも、

考え難いしさぁーー。」

「どうするかなって、まだどうこうできる身分じゃないでしょう。」

「いいや、オレもう将軍だよっ。」

「でもこのままだと、私が彼に引きずられるよね?」

「…まあ、少々なら付き合いますがっ。」

すると小枝を取り生得を示すグッサロ。

「だが…私がアンならだが、まず明空を落とすな。

だってさ、何の罪も無い鮮やか岬へ侵攻しただろ?これはとても良い機会だっ。

元々自分達の慎重さでアン軍に従属したに過ぎない

豊かな明空を取っておけば、後々有利。

そうすれば今なら誰の非難も受けず東部を掌握できるし、

出兵してしまってからあれは誤解だと聞いても、もう遅いと言って攻め、

その後はまあ今迄の明空の態度を考えればだが、

その場合もほぼ全ての人材と、財や武器に果物や肉等の兵糧、

これは単に食い物と言っても良いが、全領地を得る結果にもなるだろうしなー。

そうラフターさえ降してしまえばだが、

城に籠もって抵抗する将軍なんて居ないんじゃないのか。」

勿論ラフター軍に居る将軍達の事は分からないが、頷く頭成。

彼も言うには、その後のアン軍は鮮やか岬と同盟。アハインを落とし、

次のシピッドを睨んで英気を養いと大陸のほぼ半分を収め、

大敵トレランスと南北の偶振刃という三国連合には、

サウスティーカップに所領安堵を約束して背後を突かせ、

そうしてゆっくりと天下を狙えるという事だが、

また五星とクリスタルの考えではそれはあり得ないらしく、

その理由を問うフライシュには、五星が説明する。

「…何故だ?それも、十分にあり得ると思うが…。」

「だろっ?!」

「ええですが、その理由はアン様のご性格にあり、

今迄噂を聞いてまたその行いも見たところ、

彼女はどんなに相手が正しくても、反発する者は遠ざけますし、

またこれは良い部分でもありますが、味方する者は重用していますので、

今回の戦でもやはり明空には手を出さず…、

寧ろ従属しているという理由でかばい、

その国を攻め疲れた侵攻国側を取る方があり得ますねっ。」

「~おっという事は…、アン様が鮮やか岬を攻めて下さるっ?!」

「そうです。

グッサロさんは悪なので…まず明空を取ると言いましたが、

アンは評判も気にしませんし、

悪で無いからこそ明空へつけこむような真似はせず、

その上自信もあって、強引に鮮やか岬に非ありとする事も…いといません。

よってその彼女の思考では、明空をこれまで通り従属させ、

鮮やか岬を取ってからその力をもって一国ずつ切り取っていく方が、

近道に思えるのです。」

そう五星は鮮やか岬のサハピが言った、

たとえばアン軍であっても処罰の対象にするという

あの発言も考えているのだが、

それに重きをおいた場合アンは邪魔な方を滅ぼすというのだ。

「ふーーんっ…。」

「ああ、そうかもなっ。」

一応納得のグッサロと頭成に補足するクリスタル。

「何故かアン様は、今一つラフターを恐れていませんからねぇ。

僕には彼の慎重さが、逆に野心的に思えるのですが……。」

「…同じ脳でも、普段動かさない部分を使うのは、難しいなっ。」

そうつぶやくフライシュ。

だがそれからクリスタルが説明した事はまた分かりやすい内容だった。

「要するに、名君という評判は、自分の勢力が力をつけた後の事を、

また更に後の天下を取ったその日の事を、考えているという事です!

そして実はこれも基本なのですが、この世界においても大体の事は深読みせず、

自然な流れに従って考えるのが、正しいでしょうねぇー。」

すると一応だが褒めておく頭成。

「よーし忠臣!!」

「これは忠義に無関係だと思いますが。」

「いいや、良い働きだぞっ。」

仲が良いのは結構だがまた真面目な話に戻す五星。

「海を渡った場合も東西は近いだろうけど、

大陸の反対側を行けばどうなんだろう。

いずれにしてもドン・ブリガンテが生得を攻めるっていうのも、

アン軍がどこかを攻め、隙が生まれた時だろうけどね。」

だがその考えにはグッサロが応じた。

「でもソーンジなら、ありえるなっ。だって通行料とかで揉めたんだろ?」

頷くクリスタルに、疑問を口にするフライシュ。

「だろうが、わざわざ飛び地を取るか?

それでなくても海は陸の十一倍。陸から攻めた方が早いぞっ。

それにもしもそう攻めるならだが海賊と組むか、海軍が必要になるなっ。」

その海の広さを耳にして今更ながらに驚き、

そっと地図を見直す五星とクリスタル。

倍率を聞いても一見してはそう広くも感じないのだろうが、

フライシュの意見を聞いた頭成はセヨで飛べば良いとも言う。

だが五星いわく、それには高い気力が必要。

途中からコンセンを使ったとしても落とされ

運が悪ければ味方が混乱するか逃亡して一方的に攻撃を受ける事となり、

勿論道具を使ってセヨで飛び続ける事もできるが

それでは他に回復する道具などを持てず、

つまりそれが尽きて落ちてから海戦となった場合には、

また別な問題も発生するのではないかというのだ。

「たぶんねっ。

でも…もしも本当に、奇襲をかける為に海から生得を攻めるとしたら、

そういう場合どうするの?」

訊かれたのはクリスタル。

「~えっ?ああ、おそらくですが、ソーンジには潤沢な資金がありますので、

当然既に何隻かはあると思うのですが、まず船を増産。

ブリガンテやデュプルアイと不戦条約を結んで守りを固め、

隙を見て一気に攻めるでしょうねぇ。彼らとの共闘もありえます。

ただその場合も、彼ならただは攻めないでしょうが…。」

つまりは策を用いるというのだろうが、

実は五星が聞きたいのはそういう事ではない。

「せっかく話してもらって悪いけど…そうじゃなくてさ、

例えば、生得の北にあった森で頭成がしたみたいに、

八つの道具欄に入らない物は、手に持てば良いんじゃない?」

「ああ、そちらの事ですかっ。」

「そうそうっ!」

オレでもないのに随分力任せな事を言う。思った頭成だが、

それを否定したのはやはり熟練のグッサロにフライシュ。

「ダーメダメェー。空中にいる場合は、その八つの道具欄にあるものか、

装備しか出せないんだからっ。」

「ああ、何故それをグッサロが知っているかは謎だが…。」

「こらこらっ。」

「彼女の言う通りで…それができてしまうと、

背中の大きな者に沢山の道具を乗せた状態で飛ばすなど、

物量に偏った、変な戦いになるからだと言われる。」

「うんうんっ。」

更に二人が言うには、

何と商人達の為にも馬には二十四品もの道具を積めるという事だが、

空や海にいる生物には浮力が必要になる為

それはやはり八つまでしか持たせられず、

またそれらに騎乗した状態でコンセンを使用するには

最上級まで鍛える必要があるらしく、

そこでも物量作戦に偏らないようにしてあるのだ。

だがそれに深く頷く五星を見て感心する頭成とグッサロ。

そうそれはもしかすればあの台詞は、

この情報を自然に引き出す為ではないかという事だが、

そんな二人の思いを知らない五星はただ微笑をたたえ、

今は枝を飛び跳ねて歩く、黄色い鳩などを見ている。

「…さすがは五星様!案内状を読まず、二人に説明させた訳ですな…。」

「…可愛いふりして、ただでこの情報を持っていったか…。」

とは言ってもそれは真面目に案内状を読めば良く全く二人の勘繰りだった訳だが…、

実のところ彼女は、そうして森の緑に目を細めながらも、

アハインとシピッドの不気味さには気付いていたのだ。

やはりおかしい。

これだけ各支配者が、富や名声、また武力や覇権を求め、

隙あらば版図を広げようと虎視眈々とし、

あるいは戦々恐々としているというのに、この二国だけは静かだ。

そうだアハインは小さな咎で部抜に攻められ、

その原因となったであろう無双の将軍ジェンダもいるというのに、

これこそ大人し過ぎるではないか。

するとその背にかかった外套の影に、素早く振り向く五星…。

振り仰ぐとそれは眩しい光を和らげる雲だったが、

彼女にはそれすら不気味なものに思えていたのだ。



灯もつけないやや薄暗い室内には光沢のある薄緑の長い卓が置かれ、

その艶のある椅子には黒鎧を身に付けた五人が座っていた。

淡い白壁に舞うのは金の木の葉。

そして大窓に差し込む光で影となって上座にあるのはこの場の議長だろうが、

その前に向かい合って座る四人の鎧の肩当てやタセットにはそれぞれに金縁が入り、

兜には緩やかな曲線を描いた白角が脇に二本、正面にも一本とあり、

その顔もまた厳然たるもの。

左奥に座るのは、色白の細面ではあるが引き締まった頬と鋭い目をもつ男で、

名を真太兵(またべえ)。

その向かいにある者は浅黒く四角い面長に丸い二重の、

だがまたそれは老獪ささえうかがわせる鋭い目の男で

名を勇震(ゆうしん)といい、

またその隣にある者は白いうりざね顔に

やや丸みを帯びた鼻と一文字に結ばれた口の

大きな目が輝く若武者で名をシジョウタ。

またその向かいにある者こそが実は仁将とまで言われるモリヤスであり、

その白く角ばった顔の額は広くだが鼻筋は通り、離れた小さな目も甘く、

まるで紅を引いたように赤い唇は薄く一見して美しい将軍。

そしてまずその顔が向けられたのは当然この場の議長で、

兜のうなじ当てから長い白髪を垂らし、

端正な面長には立派な髭をたくわえた美しい目の老人、

何故か自分だけは銀縁の鎧を着た明空の君主ラフターだったのだ。

「…この度は、大変ご迷惑をおかけしました!

当然ですがあのショダールは必ずこの手で…!」

ドンッ!!

彼が言うやいなや鳴り響いた卓をたたく音に…上座を見る一同。

だがそこにあったのは、ラフターの笑顔だったのだ。

「ハッハッハッ!何を言うモリヤス、気にするなっ。

あれは中々の表裏者(ひょうりもの)!誰でも騙されてしまう。

全盲のわしでも見抜けなかった程じゃわ。」

すると小さなため息をつき、それに答えたのは真太兵。

「この世界では問題無く見えるはずですが、それは要するに、

見かけに騙されない貴方でも見抜けなかった、という事ですね。」

「…うむっ!」

そうここで行われているのは、

正義の国鮮やか岬への侵攻という馬鹿げた大事件と、

それを引き起こしてしまったショダールについての会議だが、

何もラフターの右手に座る二人が偉く、

そのせいで左手にいる二人が話せない訳ではなく、

その証拠に今度は若武者風のシジョウタが言った。

「ですが私の観測者が見たところ、またその先でも姿を消したようですが…、

あれは鮮やか岬の追っ手を巻き、アハインへ逃亡。

という事は、それ程大した男でもないのでは?

つまり今回はたまたまモリヤス殿が油断されただけの事で、

それがしに手勢三十をお預け下されば、ジェンダを討ち、

キャラメグラも生け捕ってご覧にいれましょう。」

だがそれを制したのは老将勇震。

「おいおいっ、ならば私が行く!

大体お主ではー、それは武に自信はあるのだろうが、ジェンダは討てまい。」

「むっ!~では貴殿なら討てると申されるか?」

「まさかっ!だが私なら、まず百は連れて行く!お主のそこが心配なのだっ。」

その二人にはやはり大きく咳払いをするラフター。

だが代わりに言ったのは真太兵だった。

「…お二人共、厳密に言えば、

まだショダールが本当に裏切ったかどうかさえ分からず、

それに一体誰がアハインを攻めると言いましたっ。

もしもそのような事になればその間にも鮮やか岬の者が押し寄せ、

この明空は大損害を受けますぞ!

…それは生得からの援軍もあるでしょうが、

今使者を寄越しているあの国はまず正義が第一で、

それを義無くして止めるには皆殺しにせねばならず、

よってその後の非難は言うまでもないのです!」

「ふむっ。だがショダールが裏切ったのは、

ラフター様の命と偽り兵を動かした事から見ても、間違い無いぞっ。」

言い返して真太兵の人の好さには口元を緩めながらも、

後に続いたもっともな部分には、シジョウタと顔を見合わせる勇震。

だが勇震も、決して鮮やか岬からの詰問の使者を知らなかった訳でも、

またそれを追い返そうという訳でもなく、今は最悪の事態を想定しただけなのだ。

その苦い顔の四人に応えるモリヤス。

「ではやはり…私が使者に会い、事情を説明してきます。」

だが立とうとする彼を席に戻す真太兵。

その上勇敢なシジョウタにあってはやはりまずショダールを討つのが良いと、

どうしてもそこだけは譲りたくないようだ。

「まあまあモリヤス殿、しばらくっ、もうしばらく待たれよ!

まずは使者を適当にもてなして、一旦は返し、

ショダールを首にして改めてこちらから使者をやり、

そこでもう一度交渉するのが良いっ。もうそれしかない!」

「何ぃっ?シジョウタよ、~それは無理というものっ。

こちらは一体何人討ち取ってしまったかさえ、分からんのだぞっ?」

「確かに。ですがそれはこちらも同じで、寧ろ討たれた者は多く、

そして当然こちらには大きな責任もありますが、

それを全面的に認めてしまった場合、

この先どういう要求をされるか分かりませんぞ!

そうここはー何も鮮やか岬を侮る訳ではなく、

まずはショダールを討ち、我らの正直さを明らかにした後の方が、

交渉を有利に進められるというもの。」

「うーむっ…。

だが、サウスティーカップを攻める輩さえ現れたというのに…、

うかうかもしてられんわいっ。

だがそれなら~鮮やか岬からの使者はどうする。…帰すか?」

すると今度はラフターの代わりに、咳払いからする真太兵。

「おお~ほんっ!…使者は帰りません!

もしもそのすすめに従ったとしても、激怒して帰るでしょう!

当然まずこちらとしては…油断があった訳ですから、素直に謝罪し、

和睦を成立させ、その両軍の共闘を以ってショダールを討ち取るというのが、

賢明でしょうなぁ。」

だが仲が良いからこそなのか勇震も遠慮する気はなく、

その昂る気持ちを抑えるのも難しいようだ。

「その通りだ!うん、まあ確かに、真太兵の言う通りではあるが…だ、

実際ショダールが煙の如く消えてしまったからには、

鮮やか岬の怒りは収まらないのではないか?

結局、何を言っても戦になるなら、これを機にーー。」

「いいえっ!それを収めるのが…我らの務めでしょう…。」

その二人の会話には、

今回の事は自分の失策なので大人しくしていたモリヤスだが、

勇震の戦好きにはあきれ、だが半分は共感も示し、静かに訊く。

「では、もしも鮮やか岬をとったとして、

あのような離れた地をいかに守るおつもりですか?」

「おお、よくぞ訊いてくれたっ。

それはこの明空を、そうだなー、お主かシジョウタに譲り、

ラフター様とわしが前線に出る事で、持ち堪えられるはずだっ!

そうだっ!その前線に物資を送るのに砦が必要になるであろうし、

その建設の許可も生得に頂けば良い。

ダメならこの国はアン様にくれてやっても良いわいっ。」

「な、なるほど…。ですがその場合、

ただでさえ寂しがりの森へ侵攻したと思われているものを、

今度はアン様にも疑われませんか?」

「…うっ、それはー。」

「勇震殿は、海戦が苦手ですからなぁー。

できれば海峡を挟んで南偶振刃などと戦うより、

中部で思い切り馬を駆り、敵を蹴散らしたいでしょう。」

「~何っ?!~誰がそのような事をっ。まったく!」

「いやいやこれは失礼。

その代わり陸戦は鬼のように強いというのを、忘れ申した…。」

「そういう意味では無いわっ。」

言いつつも目を伏せる勇震に、冷眼を向ける真太兵。

だがそこでラフターは一応誰にも理解を示した上で、話をまとめる事にした。

「良し分かった!では使者には、やはり私が会うとして…。」

「ですが、それでは…!」

「いいや、これは明空の為にその方が有利だという判断だが、

当然そこでは和睦を求め、様子を見てから真太兵とシジョウタには

五十騎を与えてショダールを追わせ、勇震とモリヤスには残ってもらおう。

鮮やか岬には、幾ら多数の死傷者を出したとはいえ何もしないよりましなので

心から詫び、何度かに分けて100万スペスを運ばせる事と、

私自らが訪問する事を約束。また彼らがいかに正義の国で、

そのお陰でいかに幻想世界の民が安心して生きてこられたかを強調し、

私が同行して使者に街を見物してもらう時には…、民の声も耳に入り、

この惨たる事件から受けた驚きと衝撃、それに悲しみも伝わるであろうし、

そこでは、ショダールの行動や趣向また小さな噂まで、

何でも今ある奴の情報は全て与えてしまえば、

たとえ向こうにどれだけ狡猾な輩がいようと、しばらくは攻められまいよっ。」

頷く四将とまた屈託の無い笑いを浮かべるラフター。

また更に彼は一住民ではあるがラブフリーまで呼び、

その彼女と友人達には明空は無実だという土産話を持たせ、

各国への旅をしてもらうつもりでいるらしいが、

例えばアンに仲裁を頼んでしまうのもますます彼女を驕らせるだけであり、

名君の悩みは尽きないといえよう。

そして一体この戦が世界へどういう影響を及ぼすのか。

それはここに集まった将軍達でさえまったく予想できない事だったのだ。



芝の所々にこぼれ日を落とす愛の木は相変わらずハート型の黄緑の葉を茂らせ、

その風にそよぐ森の彼方此方には、何と黄色い紫陽花もあり、

またそこを出て西のレンガ造りの家は、

平屋と塔を組み合わせた長方形と円錐の赤い屋根の建物で、

塔がある左側に入口、平屋の正面となる庭には畑まであり、

その白い柵で囲まれた場所には大きな薬草も育てられていた。

頭を巡らせて南と東にあるのは、果てしない草原。

だがそんな美しい場所で三人は森を背にした三つの岩へ、

左からクリスタル、五星、頭成と腰掛け、

遠く南の彼方へ消え行く一頭の竜鳥を見ていたのだ。

その森を背に座る五星達を見て右に立つのは苦笑いのフライシュ。

実はあの後三人は、更にグッサロに気に入られてしまい、

それから逃げる口実もあってフライシュが竜鳥を捕獲するのについて来たのだが、

走っても飛びついても、足をつかんでも結局は逃げられ、

頭を優しく撫でれば良かったらしいが、

それを続けるのは最長記録のクリスタルでも三分の一までしか届かず、

今はこうして休んでいたという訳だ。

するとしばらくして後ろの黄紫陽花(きあじさい)へと走った、五星とクリスタル。

二人はその実のところレモンのように酸っぱい花を取って来ると、

早速座り直して食べ、すぐに顔をしかめ、

勿論それは頭成にもやろうとしたが、断られてしまったようだ。

「酸っぱいのは要らないよー!」

「酸っぱくないってぇーー!」

「いいえ酸っぱいですが、疲れた時には良いですよっ!」

「じゃあ私にも頂戴っ。…うぅーーー!!」

味を思い出したくなったフライシュだったが、食べるとやはり素早くのけ反り、

体を捻ったその視線の先に何かを発見。その顔に三人も森へ振り向くと、

何とそこには、一つしかない大きな耳を背中へなびかせた小象が、

二頭、四頭と群を成して現れ、合計八頭にもなり、

それは器用な鼻先で黄紫陽花を次々葉のみに変え、

今度は畑へ行くと、その柵の前で鳴き出したではないか。

ンモォーーー ンモォーーー。

「あれも食べたいみたいだねっ。」

「早速触ってきます!」

「ま、待て、また弾き飛ばされるかも知れないぞっ!」

その頭成に教えるフライシュ。

「ハハッ、あれは大丈夫だっ。よく知ってる大人しい動物だからな。」

つまり頭成まで竜鳥に弾き飛ばされたらしいが、

その群に気付き奥で顔を上げたのは、

赤毛に白い布を巻き、青い服を着た細身の農民。

「あっ、また来たのかーー!困ったなぁー。」

言うと彼は足元にある薬草を抜き、それを五星達の前へ投げ、

それを見た群は何頭かずつ向きを変えるとゆっくりと歩き、

だが何気なくその目標を拾った頭成は、そのまま森へ入ってしまう。

「どこに行くのっ?」

「またそういう悪戯をしてーー!」

「あっ、分かった!連れて行くんだなっ。」

そのフライシュの言葉を聞き礼を言う農民。

「おおっ、良いぞ君!ありがとうっ!」

「まあ任せて下さい!」

すると森へ消えてしばらくして帰って来た頭成。

その間フライシュは口笛を吹き、

元々彼女は狩人なので実はさっき自分だけ捕まえていた竜鳥を呼んだが、

それは頭成の脇にある茂みから大きな音と共に出現…!

驚く彼にも構わずフライシュへ走り、その腕の中で目を細めた。

「やっぱ良いよなぁーー。でも、自分の力で捕まえなきゃ!」

「でも良い事したねっ。」

「見る目が変わりましたよ!」

「そうか……。」

だが、またその後ろから出て来たのは、さっきの小象達。

ンモーーー。

「んーーもしかしてっ、薬草持って来ちゃった?」

「また見る目が変わりました。」

「しまった。これは生まれたての、薬草依存だな。」

よく見るとその小象達の上には、

飛び跳ねて背中を移動する黄色い鳩もいたが、それは捕まえられず…、

仕方無くその下の一頭に触れるクリスタル。

すると本には以下のように記されてあり、皆集まってそれを見る。

大一耳(オオイチミ)

大きな耳が一枚だけの警戒心の乏しい小さな象。

おっとりした目で、体長は大人でも大体一メートル前後。

背中は硬く、そこに座ると彼らも落ち着くのか居眠りを始めたりする。

鳴き真似をすると寄って来て、

その時果物をあげた場合も寝てしまうので捕まえ易いが、

身は脂の乗らない豚肉のようであまり食用ともされず、

だが実は何もあげないと十分はついて回るという食欲旺盛で人懐っこい生物。

黄紫陽花(きあじさい)

食べると酸っぱいレモンのような味の花が咲く紫陽花。

主に寂しがりの森の南側に多く自生する植物で、

花は好物とする大一耳等多くの草食獣の食料にもなり、

また食べると眠気覚ましの効果もある為、低価格で取引される。

だがその分入手も簡単な為重宝される一品。

「へぇー、やっぱりなぁ。

酸っぱいなら食べ難いはずなのに、全部食べられたぞっ!五星みたいな象だなー。」

「あの肉の恨みか…。」

「では次に仲間にするのは、狩人にしましょうっ。」

「ただ酸っぱいだけだと思っていたが、

私も眠気覚ましの効果は知らなかったなぁ。」

言うとそろそろ帰ろうかというフライシュ。

だが念押しでもう一度だけ訊いておきたい事があるようだ。

「じゃあ、本当に良いのかなっ?

どうせ私はすぐに捕まえられるから、スペスもいらないんだぞっ?」

「いいえ。もう一度挑戦だ!なっ?!」

その頭成に頷き、フライシュにもお礼を言う五星。

だがクリスタルだけは役目だと思っているのか現実的な事も言う。

「…色々役に立ちますし、頂いておいた方が良いと思うのですがぁ…。」

「うん。でもだったら、

もっと慣れてからお金を貯めて買っても良いんじゃない?

それに乗っていると、不便な事もあるよ。」

「おおっ、なるほど。…確かに急ぐ時には、

常に最上級のコンセン屋を探さなければなりませんし、

まだ体力や耐久力も低いのに、身を隠しにくくなりますねぇ。」

「おおそうかっ。

じゃあ可哀相だけど、まだ弱い今は、足と思わなきゃなっ。」

「そうでしょう?

だから私は、もしも捕まえられてたら、寂しがりの森にある広場まで遠駆けして、

そこで誰かに売るつもりだったの。」

「…子供達の心を何だと思っているのでしょう…。」

「鬼だなっ。」

その会話を聞き終えると笑顔で森に消えるフライシュ。

その背中を揺らす姿はいかにも野性味に溢れていたが、

また数秒後、彼女と入れ代わるように東の先へ現れたのは、

何と白い鎧馬に乗ったソルバラ。

するとその突然の出来事にも即断する五星。

それは当然あの奮戦を思い出してだが、

これは良い人を見つけたとばかりに足を向け、

だが消滅したばかりの相手の顔は少しも彼女へは向かず、

ただ切なげに草原を見詰め、

隆々とした体をもつ馬もまたうつむき加減に、

素直に自軍の勝利を喜べないようだ…。

そうそのまるで生き生きとした緑に救いを求めるかのような二つの命に、

時が悪いか…と逡巡する彼女。

だが今話せないなら、所詮小さな事にこだわって大局を見ない内気さか、

調子の良い時にだけ声をかける凡人の優しさであり、

それを思った五星は思い切って声をかける。

「…やあっ!」

その風景を変えた彼女の名乗りと強い眼差しに、

右にあった武器を反対側へやるソルバラ。

その純白の身を輝かせていた金の小手や長靴は、

筋力が足りず装備できなかったようで革装備となっていたが、

彼女はまるでその失望を隠すよう、力強く明るい声を発した。

「…おおっ、あの時の!

しかしこれは、恥ずかしいところを見られてしまいました。」

「一体何が恥ずかしいのです?」

その問いにずっと後ろにいる頭成とクリスタルにも、口元だけで笑うソルバラ。

だが彼女の話によると、常日頃から待ち望んでいたはずの今回の戦いは、

得物である不撓不屈(ふとうふくつ)という物の名に反して

感情任せになってしまい、

結局味方を危険にさらし消滅した自分は、装備や馬までも確保してもらい、

醜態を晒してしまったというのだ。

だがその台詞を聞き終える前に微笑し、ゆっくりと首を振る五星。

「いいえ。

鮮やか岬騎兵隊がどれほど優れているかは分かりませんが、

貴方は十分な働きをしました!

そう私から見れば、貴方は侵略した敵を次々と討ち、

サハピさんを助け、身や財産を犠牲にしてまで隊に貢献したのです。

その何が恥ずかしいのです。」

馬の前足を迷わすソルバラ。

「ですが私は、正義の軍に身を置きながら…戦いを望みっ、

その上敵を前に勇躍するあまり決意した守る為の戦いまで捨て、

葉武者(はむしゃ)の如く散ったのです!この何が誇れましょう…。

これでは生まれ変わったとはいえ、身の置きどころもありません。」

「ハハハッ!そんなっ…。

確かに、善でありながら戦いを望むのは愚ですが、

それは…私のような者の心構えであって、

常日頃から自分を鍛える将軍のものではないのです!

そう当然、思う存分敵を倒すのが面白いというのは人の醜悪な面ではありますが、

だからといってそれを隠し、隠さない者を嘲笑うようではいかにも卑しく、

それならいっそそれらと上手く付き合う事こそが、

理知というものではないでしょうか。」

「………。」

無言ではあるが、その一理ある考えには頷くソルバラ。

続けて五星が、誰もが幸せに暮せる国をつくるという自分の夢を語り、

またそれが、

いかに素晴らしい倫理のもと思い描かれたものであるかを説明すると、

しばらくは黙って聞いていたソルバラだったがやがて馬を降り、

前置き無しに言った。

「では、私が欲しいでしょう。」

「~ええっ!願わくば後ろの二人同様、生涯の友として…。」

「取捨選択も無く、鮮やか岬の兵舎にいた為に自宅さえ無い、

ただの生まれたてですよっ。」

「それが何ですっ!

ただ一つの特技や呪文が無くても役に立てる世界だというのに…。

それより鮮やか岬騎兵隊を脱退して、貴方の評判に傷はつきませんか?

私はそれが心配です。」

「お気遣いありがとうございます。ですが、問題ありません。

それより私は、果たしてこのような粗忽者が貴方にとって必要なのかと、

…それが気になります。」

その言葉に驚き、だがまた微笑する五星。

「何を言うのですっ!そう君達は、何を得るにも必要な、

また何を失っても私と共にあるべき、大切な仲間だっ!」

その言葉に走って来る二人。

「ハハハー!~いいやっよく分かった!よろしくっ!!

でも今度は男にしようなっ。」

「これで四人ですねっ!私はクリスタル。

回復と、あと水系の攻撃呪文も使えますから、必要な時には言って下さい。」

「頭成殿にクリスタル殿…憶えました!

ちなみにこれは私の得物で、不撓不屈!

これでお二人と共に必ず五星様を守ってみせます!!

では早速迷宮へ行きましょう!」

そう言ったかと思えば走り出すソルバラに、

皆の中で腕を組んでいた五星は慌ててその背中を追い、

頭成とクリスタルも森へと続いた。

また広場に着き新たなコンセン屋を見つけ、

そこで五星はソルバラに馬を譲ろうかとも言われたが、それは丁寧に断る。

だがその後ろに飛び乗ると、大きく腕を振り上げた彼女。

私達ね、黒後ろ髑髏を倒すんだよ。

その言葉に振り向き強く頷くソルバラ。

そうもしもそんなものが存在するなら、

この世界の素晴らしさで一挙に踏み潰してくれよう。

漲る力を感じた四人は、いつしか魔の居城を見下ろしていたのだ。



露店の一つに馬を預け、早速1階の廊下を一周した四人。

するとその頭成とソルバラを先頭に、五星が続き、

クリスタルが一番後ろを行く陣形も、

生まれたてのソルバラに止めを刺させる方法も間違いではなかったようで、

その経験値は既に100を超え、今も前衛の二人は使い道を相談しながら進む。

「じゃあ五星が覚えた、大跳躍ってのはどうだ?」

「ええ、それも良いですが、まず戦いに集中しましょう。」

「ならーー開錠は?正直さ、オレもう別な特技にしたいんだよねぇ。」

「それよりっ、あれは魔物ではないでしょうか?」

「でもやっぱり義賊系戦士ってのも、捨て難いしなぁーー。」

「はあ…。」

「こらーー!」

「ソルバラが集中しようと言ってますよー。」

「はいはいっ。

だってソルバラは最強の不撓不屈を持ってるし、

体力も高めに生まれ変わって、回復できるクリスタルも居るだろっ。

それにここは1階だし、全く緊張感無いんだよなーー。」

「…ふーーん…。」

そう言うと何故か突然走り出す五星。

すると頭成も同じように走り、それについて行かざるを得ないソルバラ。

当然クリスタルもその後を追ったが、

しばらくして先の下り階段がある大部屋に人影を見つけた四人は、

前から順に立ち止まってしまった…。

こうして何かに使われているのは二度目だが、

やはり浅い階の大部屋は冒険者達に利用される事が多いのだろうか。

しゃがんで合図する頭成と、その横で頭を低くするソルバラ。

クリスタルが指差すのに五星も見ると、

右手に並んだ彼らは銀鎧にこげ茶色のズボンをはき、

その真ん中に立つのは、灰色の長髪を波うつ金のサークレットでまとめ、

白いマントと黒いズボンのトメント。

そして何とその前に居たのは、あの竜の手を逆さにしたような大肩当てに、

太い三本線が特徴の黒く重厚な鎧を纏い、

両目の下から額にかけ紫の線が交わったタトゥーを入れた、部抜だったのだ。

すると五星らを一瞥。そこから近づかないようにと手の平を見せた彼は、

何故かその手を握り締め、

六人の顔を見て横移動する動作に戻ると、こう切り出していた。

「…兵士に必要なものとは、何だっ…?」

そのどことなく重々しい雰囲気の中で答えたのは、二人の兵士。

だが肝心のトメントはまだ考えているようだ。

「はいっ部抜様!~それは強さです!」

「いいえっ、私は…忠誠だと思います!」

「…うむっ。」

そう横顔で頷くと、最初に答えた兵士の前に居て、

軽く首を鳴らしたかと思えば、思い切り殴る部抜。

「ふんっ!!」

ゴスッ!!

「ぐほぉーー!!」

「………!!」

その一撃に冷や汗をかくトメント達と、驚く五星達。

殴られた兵はさすが訓練されているだけあってすぐに戻ろうと立ち上がったが、

部抜に睨まれると、また倒れなおし、そこから動かなくなってしまった…。

そしてまた横移動する部抜。

「~うんその通り。一番必要なのは忠誠だ。」

「あ…、ありがとうございますっ!」

「だがお前にも、ふーんっ!!」

「~ぐほぉーー!!」

「そう、一番必要なものは確かに忠誠だが、

強さなくして、一体なんの兵かっ?!どちらか一つでは不足!!

それはお前もよく分かっているはずだなぁ、トメント?!」

「はい!!」

そうどうやらこれはソーンジと小競り合いを起こし、

その上何の情報も得られなかったトメント達に対する…お説教らしいが、

しばらく人差し指を振りながら横移動を繰り返した部抜は、

最後にトメントの前で止まると、彼をこの場の責任者に任じ、

1階を歩き回ってキツネモモンガを二十体倒すまでは帰るな…という、

世にも厳しい命を与え、だが自分は忙しいのかもう帰ってしまうようだ。

すると一旦五星達の前で止まり、つぶやくように言う部抜。

「邪魔したな…。」

「いいえっ。」

五星は短く返したが、

実は興味をもってしまった彼女らは噂せずにはいられなくなり、

そうなるとまず口を開いたのはやはり、頭成だった。

「~厳しいなぁー。でも殴ったのは、手加減したんだよなっ?」

「当然そうでしょうが、

何故これだけ人払いをして、私達だけが残れたのでしょう。」

「うん、それが分からないって事は君が真面目過ぎるね。

多分だけど、丁度大事な話をする時だったからだよ。

他にもたくさん来たんだろうけど、あんな時にかまっていられないでしょう。」

それに頷きながら言うソルバラ。

「なるほどっ。

…ソーンジごとき悪党に追い返された事、断じて赦し難しっ!!

といったところでしょうねぇー。それにしても噂以上の軍規ですっ…。」

するとしばらくして仲間を助け起こしたトメント達も、

四人の脇をすり抜けて行った。

「痛っ……なーんて、もちろん全然痛くは無いけどー、

オレなら、良いぞお前らっ、二人合わせて大正解だ!で済ますけどなぁーー。」

「おいおいっ、ここだけの話にしてくれよ。」

その二人に振り向くトメント。やはりその顔は悲しみに暮れていたが、

手にあったのはあの棒のような剣だった。

「貴様らぁ~~!」

「す、すみませんっ!今の発言は~甘かったです!!」

呆れるもう一人の配下。

「分かっているなら何故言った。」

「歯を食いしばれぇー!」

「そ、それ剣ですってー!」

「生まれたてだけど、ある意味この人の方が怖いぞ。」

当然彼らはキツネモモンガを退治しに行くだろうが、

1階を回った四人は合計70スペス、

それに冒険者のズボンと信心の帽子、革の脛当てなどの

売ってしまえる品も手に入れ階段を下り、

その時丁度良いと思った五星は頭成と二人、

鮮やか岬の生得に対する印象も訊いておく事にした。

「じゃあ、ソルバラ個人の印象も、あんな感じだった?」

「~思ったよりは普通だよなっ。」

「ええ、そうですねぇ…。

ただ想像していたより随分と人間的で、

あの規則が乱暴過ぎて一度戦うよう進言した事もありますが、

今考えれば冷静になって良かったですっ。

その事はパビア様さえ、三聖に従うしかないと言っていましたし、

噂ではそのお三方もアン様はただ規則を守らせているだけだからと、

どんな有力者や富豪の意見も聞かなかったらしいですからねぇ。」

その事実に眉をひそめ、背中越しに訊いたのはクリスタル。

「では一体生得がどうなったら、アン様達を処罰するつもりだったんです?

確かに彼女を罰するとなれば…戦しかありませんが、

民が可哀相ではありませんか。」

「ええ、同感です。元々鮮やか岬という国は、

シピッドで増えた盗賊を嫌った住民があの地へ移り、

そこで各地から善意の戦士達を集めたドナグル様、アゲンム様、

ムタムソ様のお三方が、騎兵隊を結成。

そして迷宮が発見された幻想世界暦三年頃までは、

皆で何が正義かを考え行動してきたはずですが…、

どうも近頃では、四つ羽様のお告げを聞くその三聖のお気持ちだけが

指針になっているような気がします。」

その生まれたての彼女らにとっては貴重な情報を耳に、小さく頷く五星。

という事はやはり今の鮮やか岬は正義のものではなく、三聖のもの…。

そう思った方が良いのか。

自問自答し、同じ卑しいものとして黒後ろ髑髏を思い出した彼女だが、

来る日も来る日もあの惨い大馬鹿悪魔の話ばかりしていたのでは

仲間も嫌になるだろうと思い、話題を彼女の事に変えた。

「そういえばソルバラは、何階まで行ったの?」

「4階までです。

更に下へ行こうと思っていたところを隊の活動に誘われまして、

それからはずっと悪人退治でしたねっ。」

まだ自分達が生まれたてでもあり、その懸命さに感心する五星。

だが何かを漁るような怪しい音を聞くと、返事は頭成に任せてしまった。

「じゃあオレ達にも、迷宮の地図を見せてくれよっ。」

「ええ、勿論良いですよっ。」

「ダ、ダメですよソルバラッ。頭成にだけはっ!」

「…仲間だろ…?」

「え、ええっ、何でダメなんです?」

「一人でどんどん先へ行くからですよ。

確かに今日までは無事でしたが、ソルバラも目を離さないで下さいねっ。」

「分かりました!では、地図も見せない事にします。」

「いいや、クリスタルはああ言ったが、

オレに良い考えがあるんだ。見せてくれ。」

「ダメですって!」

言って本を持ったソルバラの手を左右から引っ張る二人。

しばらくすると彼女はその両者の手を順番に叩いたが、

いつもはその役目を買って出るはずの五星は、

大部屋の中央で彼方此方を見回し、首を傾げている。

その彼女に声をかけるソルバラ。

「どうかしましたか?

もしも気になるようでしたら、まず私が見てきますがっ。」

「~いいやっ、二人もそうだけど、

まだ生まれたての君を一人では行かせない。

多分この怪しい音は西からだから、みんなでゆっくり進もう!」

勿論心配になるクリスタルと、耳を澄ます頭成。

「どんな音なんです?」

「あ、オレにも聞えたっ!何か…ごそごそと、物を漁るような音だなっ。」

「~えっ?!」

そう一度は驚いたソルバラだが、

さすがは4階まで行っただけありどうやら心当たりがあるようで、

それはまず五星に教える。

「これは…、当然はっきりとは言えませんが、

魔物が冒険者の装備をはぐ音ですねっ。」

「おお、なるほどっ。…確かにそんな感じだねっ…!」

「…良し、じゃあ早速行って見るかっ…。」

「…では僕がはいと言ったら、左右へ分かれて下さいねっ…。」

なるほどスリーアイスの為か。

そのクリスタルの呪文も恃みに五星は、

特に生まれたてである左のソルバラを若干後ろへとやり、西の扉へ。

だが奇襲のつもりで素早く扉を開けた彼女達は、その瞬間後悔する事になった…。

そう何とその蠢く黒い床から飛び出してきたのは、

小悪魔十八体!

その小さな全身を鱗で覆った一本づの達は赤い目をむき、

それはクリスタルが悲鳴を上げるより速く前衛目がけ襲いかかって来たのだ。

バリンッ…!

だがまずその接近した四体を止めたのは、クリスタルのスリーアイス。

扉を潜ろうとした時を狙われたそれらは

ほんの数秒で自由になれるはずだったが、もがく暇さえなく、

不覚にもつま先を氷で固められた小悪魔は頭成の匕首を受け、

のけ反ったところへ一撃を喰らい、

また別な一体は五星の頭上からの突きに激しく点滅。

もう二体がソルバラの十字斬りを受けた時には、氷は融けていたが、

それらも飛ばされた床から動かなくなり、

その低い体勢のまま進む五星。

「良し、このまま押し切るよっ!!」

「さすが元鮮やか岬っ!」

「い、いいえっ!私など魔物は久しぶりでっ…。

これは不撓不屈とクリスタル殿のお陰です!」

「お礼は後で聞きますっ!」

するとその彼の注意も当然、

一気に押したつもりの五星は眼前に残り十数体を迎え、

また頭成の匕首に討たれソルバラの三尖刀に斬られた敵は別に、

盾で一体を弾き、また右の一体は蹴飛ばし、

真ん中の一体にだけは左足を引きながら鋭い袈裟切りを見舞うと、

残りの爪をかわすため…大跳躍。

だがそれを追って宙へ舞い、飛び上がって牙をむく小悪魔達と、

回転して薙ぎ払う五星!

「やぁーー!!」

そして着地してからも止めを刺し、

それを邪魔しようと来た小悪魔の牙には盾をかませ、押して腹を裂き、

彼女が素早く振り返ったその場では、

頭成が鉄刀と匕首で敵を牽制しながら後退。

瞬間彼は、素早く踏み込んでその敵をすれ違い様に斬り、

振り向いても斬りつけ、

ソルバラはクリスタルの回復を受けながらも、右に左に三尖刀を振り回し、

飛びかかって来た者の爪は頭を下げてかわしながら、

それを縦に回転させて斬りと、もうほとんど勝敗は決したかに見えたが…。

「…うん!」

短く頷いた五星は、その背中に迫る二体へは素早く振り向き、

数瞬違いで速い左手の敵を柄で一撃!

更にそれを盾で弾き追加ダメージを与えながら…剣の先ではもう一方も刺し、

最後の一体には頭成に教えられたクリスタルがスリーアイスを放ち、

目まぐるしく続いた戦闘もどうやらここまでのようだ。

「よーしっ、これは楽勝だったなーー!!

五星の人を見る目と、元鮮やか岬ソルバラ、

それにクリスタルの努力にも乾杯っ!!」

「何ですその言い方はー?僕に才能が無いみたいですねー。」

「あ、ありがとうございますっ!

私つい…生まれたてなのを忘れてっ!!」

「いいやっ、ソルバラはよくやったよ。

私と頭成は油断し過ぎたけど、君はやっぱり凄いねっ!」

そうしておぞましい群に快勝の四人。

五星が積極的に敵へ当たったのは彼らへの信頼からでもあったが、

それはクリスタルが注意し、だが意外にも彼女は素直に謝罪。

その純粋さに胸を突かれた思いの彼は、

一瞬自分が臆病だという事も忘れてしまいそうだったが、

五星はすぐ三人に合図。

死に装束の男女を尻目に皆で小悪魔達の体を漁り、

だがその時気力の回復具合を確かめていたクリスタルの目には、

臣愛の腕輪を見つけた六の三辺り、

つまり現在地点から南へ四十メートル程先の右手から扉へ消える、

小鬼の姿が映ってしまったのだ。

「~あっ!!じゃない、あれはきっと、キツネモモンガですねぇー…。

2階でも出ますからー。」

そのとっさの頭成対策も無意味に…すっと顔を上げる彼。

「…どこへ行くんです?」

「じゃあソルバラ、これ頼むなっ。」

そう何気なく言う頭成。

彼は残りの戦利品確認をソルバラに頼み、あえて五星には何も言わず、

だがそれを止めたのはやはりクリスタルだった。

「…どこへ、行くんですっ?」

「ちょっとな。」

「そ、そうだ頭成君!何故か僕も今の戦闘で、

40以上の経験値をもらった事になっているのですが、

これは二体ほど倒した…という事でしょうか?」

「そうなんじゃないか。…知るか…。」

「良いから聞くんです!あれは見間違いですってーー。」

「…あれって何?」

振り返って訊く頭成に、箱持ち鬼を見た気がしたので…と答える彼。

だがそれを聞いた頭成はやはりなと強く頷き、

次の瞬間には全速力で走ろう…とし、たがその襟首は五星につかまれてしまった。

「待て待てぇー!」

「い、行かせて下さい、五星様!!

この頭成、命に代えてもお宝を頂いてまいります!」

「お宝とは代えるなっ!危険だから何階の物でも注意が必要なのに、

入手できても2階の物だよっ?!ここは無視しようねっ。」

「そ、それは私からもお願いします。

まだ生まれ変わったばかりですから、ついて行けませんっ。」

「ええ、ソルバラの事も考えれば、もっとゆっくり行きましょう!」

するとその駄々をこねる頭成には効果的だと考え、

今手に入れた宝箱を出す五星。

「ほらっ、もう宝箱はあるから…。」

「おおっ、全然見えなかった!!」

「この開錠も含め、もっと注意深くお願いね。

中身はまず君が選んで良いからっ。」

「おお、開錠ですか。実は初めて見ます!」

「えっ…ソルバラは、4階まで行ったのでは?」

頭成は早速開錠にとりかかったが、そのクリスタルにソルバラが言うには、

鮮やか岬騎兵隊が迷宮へ入る目的とは主に自己を鍛える事と、

また盗賊等の被害にあった人々へ金品を分け与える事であり、

その為の資金を得るのに戦う事はあっても、宝箱の中身に興味は無く、

よって仲間に開錠の特技を持った者も少なかったらしい。

「り、立派ではありますが、中にはスペスも入っていますし、

出てきた品々を売ればもっと楽に資金集めができますよっ?

そうすれば効率的に財を成し、こまめに迷宮へ入る必要も無いでしょうに。」

「ええっ…。」

「どうかしたの?」

何か思い当たる事があるらしいソルバラに、続けて訊く五星。

「実は……あまりお世話になった方々の事を悪く言うのは嫌なのですが、

その資金集めにも黒い噂がありまして、

三聖は有力者や富豪にスペスをもらっている為、

わざわざ迷宮探索へ来た隊に資金集めまでさせる必要は無く、

寧ろそれが潤沢になってしまうと、何故アン軍を処罰しないのか?

またトレランスを何とかしろ等とも、

声高に言う方もいらっしゃるという事で、それを怖れていると…。」

「へぇ……。」

「そ、それは酷い!

もしも事実なら、正義でも何でも無いじゃないですかっ。」

「ええ。ですが、ただ財に興味が無いだけだからこそ、

開錠の習得をすすめないという話もあり、何とも言えませんが…。」

「だから言ったろ。みんなそんなもんだって。」

言いながら胸にある小石を払い、回復を頼む頭成。

「…まあ、誰にでも失敗はあるよねっ。…それ石つぶて…?」

「まあそうだなっ、面目無い。」

苦笑するクリスタルとソルバラ。

だがこの鮮やか岬の噂が事実だとすれば、やはり面目無いのは彼らの方だろう。

するとこれも気になるのは当然だが、

だとすればサハピやパビア達はどうなのだろう。

これはさすがに五星にとっても意外だったが、ソルバラはそれにも答えた。

「パビア様は元々真面目な方で…今も三聖には逆らわず、

サハピさんには同期のチャンドガンさんとシトクリアさんという、

心強いご友人もいらっしゃるのですが、彼らさえ疑問を持ちつつも

騎兵隊が善を成しているのは事実なので、何も言えないらしいですねぇ。」

という事はやはり、真の悪と戦う時には鮮やか岬でさえあてにならないのかと、

瞳を横へ動かし、顎を上げて頷く五星と、

まだその不可解さに腕を組むクリスタル。

だがそこに聞えたのはカチッという小気味良い音で、三人は一斉にそこを見る。

「おっ、待ってたよ!良いの入ってた?!」

すると両手一杯のスペスと、その上にある首飾りを見せる頭成。

「ほぉーーー!」

その彼の嬉しい悲鳴には、黙ってそれを見つめるクリスタルとソルバラ。

それは黒く艶めいた円形で宝石を小さく薄く直径五センチ程にし、

それに鮮やかな緑の線で二重丸を描き黒い紐を通した物だったが、

美しいとは認めながらも頭成が要らないと言うので、

早速五星はそれを、一番耐久力が低いだろうソルバラへ。

「いいえ、結構です。それでなくても私には、

まだ道具欄に鮮やか岬の小手と長靴がありますし、

まずそれを装備した方がお役にも立てますので。」

「こんなに綺麗なのに、偉いねっ。」

「いいえ、本当ですよっ。」

「ああ、僕も要りませんよっ。何かもっと相応しい物を見つけた時の為に、

必要基本筋力値は残しておきたいので。」

では私が…とかけてみる五星。

するとその姿は、少しずつ気品高く君主らしくなってきたように見え、

それはまずクリスタルが褒める。

「おおっ…!まだ革鎧にですが、

美しい盾やマントもありますし、中々格好良くなってますよ!」

「そうっ?!」

「ええ、よくお似合いです。」

「じゃあオレのはどうだっ?」

言うと腕を見せる頭成。

その小手は白く艶めく銀。

外側にも縦に直径八ミリ程の銀の半球が三つも並んだ重厚な物で、

それを自慢気に見せる彼には、五星も微笑して応じる。

「うんっ!この丁度外側に並んでるのが、格好良いねっ。」

「頭成らしいですねぇーー。」

「ああ、ボールガントレットですか。

でもそれは、必要基本筋力値も3で、壊れやすさも高く、

分解すると純銀が取れるのと、後は売ると高価なだけですよ。」

「いいやっ!オレはこれが気に入った!!」

「ソルバラって、記憶力も良いね。」

「僕にも色々教えて下さいっ。」

「そ、そんなっ。これはたまたまで、たった4階までの経験ですから。」

だが何故かその新しい装備でクリスタルに戦いを挑む頭成。

「ドガーーンッ!~たあたあっ!

かぁーー!!どちらか一つでは不足、ふんっふんっ!」

「や、やめて下さい。」

本人が気に入るのが一番だが、またソルバラに訊けば五星のは、

薄璧の首飾り(はくへきのくびかざり)という物らしく、

耐久力は1しか上がらないが精神力は3も上がるもので、それを装備して南へ。

そして西への扉も開ける四人。

また更に西へ歩けばそこは初めてトラノムレと出会った四面の部屋だったが、

丁度あの時彼らがくぐって行った西側の扉から、

今は何か大きな影が接近しており、

声をひそめた彼女達は素早く…南へ…。

そこは迷宮の地図を見たとして、先が左へ折れたハンマーのような形の場所で、

五星達はその丁度金具部分に柄を差し込む辺りに立っていたのだが、

またやや南へ進んで、

その五の二にある壁角から左を、そっと覗き込んでみた…。

するとその先の闇から来たのは何と、

ゴッ…ゴッ…とゆっくりとしたテンポで床を飛び跳ねる、

上まで四角い石を積み上げて造ったような、大きな一本足の巨人!

肩も大きく腕も太いが、その足が余りに太い為に倒れそうにも見えず、

一番上の石には、まるで釣り上がった目のように斜めに削った跡があり、

周りにはその歩調に合わせまたゆっくりと来る、スティンギングスネーク八体!

そのいかにも手強い相手を見た五星は、素早く三人に言う。

「…良し、じゃあ退却!

後ろからも怪しい相手が来てるし、またさっきくぐった扉を開けたら、

八の二面にある南への扉を通って石の巨人達の後ろへ出て、

初めに小悪魔を倒した、東南の角から帰るよっ…!」

「…ええっ?!さっきの圧勝を思い出せよっ!倒せるって…!」

「…いいや見てっ。あの大きいのだけでも怖いのに、

スティンギングスネーク達まで大勢いる。

これは、もしもあの石の巨人に私と君でかかりきりになったら、

ソルバラもクリスタルを守れないっ。そうでしょうっ…?」

「…まあそうかも知れないが、

いざとなったらオレが消滅してでも五星を守るし、

そうやってみんな強くなってるんじゃないのかっ…?」

「…良いから、五星の指示に従うんです!

おそらくですが、とても危険な相手ですよ…!」

それに黙って頷いたソルバラだが、振り向いた彼女の前にも二つの影があり、

よく見るとそれは大人ほどの大きさはある、二足歩行する恐竜。

角や翼はないが、硬そうな皮膚は腹部のみが白く他は茶色く、

淡い金色の目にある瞳は猫のように縦長で、不気味に瞬く。

そしてその未知なる敵の実体にソルバラの視線より先に気付いた三人は

また顔を見合わせ、まず口を開いたのはクリスタルだった。

「…ど、どうしますっ?!挟まれちゃいましたよっ!」

「…まず落ち着け!オレは倒す自信がある!」

「…ダメだよ!石の巨人達にも見つかってしまうだろうけど…、

それはこのままここに居ても同じだし、元来た道から帰るの!

だからあの扉に走って…!」

「…あ、でも見て下さい…!」

その五星の慎重な判断に何事かを知らせるソルバラ。

すると聞いた彼女は次の瞬間、

遠くの扉へ向けていた人差し指を引っ込めてしまった…。

ガンッ!

そうその扉から出て来たのは、さっきそこをくぐったはずの箱持ち鬼で、

奴は四人を見て逆に指を差して笑い、

それを見た五星は、相手がそこを出て一周、

つまりたった今石の巨人達が歩いている道から

東側をぐるりと回ってきた事を知ると、誰より速く駆け出していたのだ。

「ついて来て!」

その眼前に迫った鋭い目の五星に、踵を返す箱持ち鬼!

彼女は追いつくと同時にそれを一気に切り下げ、

当然宝箱にさえ目もくれず、三人が扉をくぐったのを確認!

そこを素早く閉め、

だがまた先からも別な敵を感じたのにはさすがに焦り、

頭成とソルバラを扉の前へ。

自分でもクリスタルを背中にしてと、もう覚悟を決めてしまったようだ。

「~もうこうなったらー、退却の命を下すまで、戦うよっ!!

クリスタルは攻撃の準備ねっ!!」

「まっ…前も髑髏兵の群に遭ったのは、ここですよねっ?!

それに東側から来るのは何でしょう?でも、指示は分かりましたぁー!」

「たぁー良いぞぉーー!!たたき切ってやる!!」

「…来ます…。」

当然その扉から追って来たのは石の巨人に、

飛び跳ね、あるいはうねりと生きの良さを見せる蛇と、あの恐竜達。

それらは目当ての人類を見ると一斉に襲いかかって来たのだ。

するとまず、その蛇の群を抜け石の巨人にある一本足を固定したのは、

クリスタルのスリーアイス!

だがそれをものともしないスティンギングスネーク達は、

一匹飛び針を向け、また一匹飛び針を向けと、次々五星へ!

「ふーん時間差ねっ!」

だがそれを察した彼女もその敵を次々足元へ落とし、

一匹を盾で床に押し付けている間に、一匹を突き、

抑えておいた方を斬りながら、

また飛びかかって来た別な一匹も伏せてかわす…。

「~おおっ危ない!」

言って素早く振り向きそれも斬ってしまう五星。

クリスタルの方には敵が居ない事を確認すると、ソルバラへも眼を向け、

すると彼女は、実は鉄球をつけていた恐竜の尾を、左の一つはいなし、

右の一つは武器で受け、同時にその二体を薙ぎ、

それでも敵が倒れないと分かると素早くクリスタルへ頼み、一体を凍てつかせ、

だがその間にまたもう一体の鉄球をかわし踏み込もうとしたところには、

両爪の攻撃がきて、左、右と、それを縦にした武器で器用に受ける!

ガッ ガッ!

ぐぁーー!!

「落ち着きの無い奴め。」

ピキ……!

ともう一方の氷が融けるのと同時、目前の敵にはつの字にその体を割き、

その足に突き立てた得物を軸に逆さになって宙へ舞い、

後ろに下りてすぐ八つ裂きにするソルバラ…。

続けて振り向いたもう一体の恐竜を突くと、

そのままの体勢から顔に来た爪も小手に来た爪さえも持つ場所を変えてよけ、

抜いて穂先を上げ下げして二度切りつけ、

更に距離をとって持っている手を石突へと滑らせ、

攻撃範囲を広げ頭上で片手回しさせたかとおもえばそれで思い切り、

斬りつけていたのだ。

ズドッ!!

当然それを受けた恐竜は首を曲げ、絶叫!

それがもう動かないと知った彼女はまた、

五星へ向うスティンギングスネークも斬る。

「ありがとう!」

「いいえっ!」

まだ五星にとっても、冷静な方が良いのかもっと必死になった方が良いのか、

よく分からない戦闘の束の間。

だが助けられた彼女の方も今度は、石の巨人の背中を斬りつける頭成に叫ぶ!

「~危ない!!後ろへさがって!!」

「いいえっ、さがらないで下さい!!」

その鋭いソルバラの声に、呪文攻撃をキャンセルするクリスタル…。

見れば頭成に斬りつけられていた石の巨人は、

少しずつ前へ体を傾けると、その反動を利用…。

まるで逆上がりでもするように宙返りし、

鈍い音と共に頭成の後ろへ着地!だが彼は五星達に言われるまでもなく、

その石の巨人が繰り出す両拳の圧殺から逃れ…その上へ。

振り向きざま腰から匕首を飛ばしたかと思えば次の瞬間、

その鉄刀は赤く輝いていたのだ。

ドガッ!!

当然その四角い顔を抜けたのは特技強襲の一撃!

すると頑丈な石の巨人もついに動かなくなり、

どうやら際どい戦いもここまでのようだ。

ドシーーーン!

「…ふんっ、たわいもない…!」

「ほ、本当ですかー?!結構、ぎりぎりの戦いに見えましたがぁーー。」

「改めて君の強さを実感した。

でもね、そろそろ反撃されそうだなって思ったら欲張らず、一旦離れてよっ。」

「正直、頭成殿の強さには驚きましたっ。」

「すっげーー!何あの人ぉっ!」

「みんな忍者みたーいっ!!」

「…おい、関わるなっ!殺されるかも知れないぞっ…!」

その後ろから聞えた声に東を見る五星。

そこに居たのは、全員ぞろっと長い青のローブを着て

とんがり帽子を後ろへやった魔術士風の一団だったが、

彼らはやや照れながらではあるが五星が元気に挨拶をすると、

驚いたまま軽く会釈をし、南の扉から出て行ってしまった。

「そうか、あの時の気配はあの人達だったんだ…。観測者が居ればなー。」

「まさか、そのせいで戦う羽目になったのか?

……嫌だなぁ、ちゃんとしてくれよ主君ーー!」

「本当に嫌がってます?今回も大活躍だったじゃないですかっ。」

「では、もう一つだけ活躍してもらいましょう。」

そう言って振り返る五星に素早くソルバラが拾って来た物は、

あの箱持ち鬼が持っていた宝箱で、

そのご褒美に目尻を下げただらしない顔まで作った頭成は開錠を、

そしてそれ以外の三人は魔物を漁る作業へと移った。

しばらくして並べられた戦利品を見れば全部で157スペスと、

スティンギングスネークの魂、細い銅の剣、それにクリームカップという

直径三センチほどの平べったいカップ型の白い果物で、

四人は改めて顔を見合わせると満面の笑みでその感動を迎えた。

やはりまず叫んだのは頭成。

「おおっ…また初の果物かぁーー!」

「おほほ~!素晴らしい戦果だねっ!」

「中々良い調子!ですがこういう時こそ、油断は禁物ですっ!」

「この細剣(さいけん)は、もらってもよろしいのでしょうか?」

そう訊くソルバラへ、勿論と笑う五星にクリスタル。

だが二人はその余りの勝利に、

一番目を離してはいけない人物を忘れていたようだ。

パクッ。

「だはぁ~~!!」

「…嘘ですよね…。毎回これですよぉー!」

「ハハハッ!まあ、また見つければ良いだけですし、

今回の戦功第一はやはり頭成殿なので、当然でしょう。」

「らろっ?でもこれ美味いなぁー!!

中が生クリームみたいで…外は餅だぞこれ!」

「あっそ。」

「で、どういう効果があったんです?」

「…美味いなー。」

という事はまったく詳細を見ずに食べてしまったらしいが、

彼が本を出すまでもなくソルバラが説明したところによると、

あれこそ森潤茸の詳細にもあった

食べた者の状態異常を全て治す果物だったらしく、

勿論それに頷き、彼の戦功を取り消す五星。

「えっこれだけで?!それはないだろーー!」

「食べてみたかった訳じゃないよっ。

でも状態異常になったら、絶対役に立ったのにっ。」

「自業自得です。それよりソルバラはその剣を、どう使うつもりなんです?」

「ああ、これはこの不撓不屈を受けられた時などに、

左手に出して、そこで突く為ですっ!」

「うん、偉いねソルバラはっ。」

「ああ…、まずは欲張りな主君に献上すべきだったものを、

これではむしろわしの方が…欲張りな印象ではないか…!」

「まだ言ってるんですか?

五星なら君にあげたはずですから、訊けば良かったんですよっ。」

細かい話あの肉の時はスペスが足りなかっただけだが、

それは今度の事でお互い様とした五星。

だがそうなると戦功の分は残っているので、万が一の場合は除き

これからどう進むかは彼に決めてもらう事にしたようだ。

「ありがたき幸せっ!ではもっと奥へ。北へ行きましょう!

あの四面の部屋を抜ければそこに、

とても素晴らしい物があるやも知れませぬぞっ。」

「さようかっ。」

「万が一でしょうが…それでも五星の判断は高確率であり得ますよね?」

「クリスタル殿は心配性ですねぇ。これは私が急ぎ過ぎたせいですが、

皆さんの調子が良いので、依頼を受けて来れば良かったです。」

「あ、そうだ!勿体無い事したなぁーー。」

「本当だっ…。」

その自信満々の三人に首を振るクリスタル。

彼は五星達が、またゆっくりと西の扉から出るのに続きながらも、

さっきの魔物達の詳細を見た。

遅石人(おそいしびと)

主に1階・2階へ出現。顔も胴も手も、たった一本の足さえも、

四角い岩を組み合わせたような外見で、当然体力と耐久力は高いが、

両手を振ってその反動を利用し飛ぶという移動方法から素早さは低く、

生まれたてでも逃げられる相手。

ただ筋力も低くは無いので、初めはさけるが吉。

チャレンジャー

主に3階より下、静けさが保たれた場所に出現する二足歩行の魔物。

一見恐竜から鳥に進化する前のような風貌で、尾や手はあっても角や羽は無く、

やや前傾姿勢で、白い腹部以外は茶色く、全体に社会性があるのが特徴。

生まれたてには手強くとも、攻撃手段は声で仲間を呼ぶ以外、

爪や牙、鉄球付きの尾での力押しと変わった事もできない生物で、

非常に希ではあるが中には人に友好的なものもいる。

ではやはり可哀相な事をしたか。とも思うクリスタルだが、

やはり襲いかかって来たのだから友好的な魔物でもなく、

そんな事を言おうものならまた二人には責められ

ソルバラには呆れられてしまうので、今も黙って歩く事に…。

だがしばらくしてその視線の先に触れた通路は、

あの恐怖を呼び覚ましてしまったのだ。

「どわぁ~!

い、一旦戻りましょう!訳はすぐに説明しますからっ!」

「~どうしたの?」

当然驚く五星。だが三人は疑問に思いながらもクリスタルと共に戻り、

初めは黙って聞いていた彼女達だったがその内容が明らかになるにつれ、

頭成は笑い、ソルバラは寧ろクリスタルを勇気づけ、

それを見た五星も、大分前の話だからとそれ程心配する必要は無いと判断。

ジグザグの通路を抜け、

あの一面を斜めに切って半分を池にした場所へ出て、更に北東へ。

「知りませんからね。」

「大丈夫だってー。お前は心配し過ぎなんだよー。」

斜め先の一面にあるもう一つの池も見える辺りまで来ると、

飛び込む為なのか、そこへ向って小さな上り坂のような台もあり、

だがそれに目を細めた先頭の頭成は、急に小声になってしまった。

「…あれ坂じゃないな。何かが寝てるぞっ。

手伸ばし蝙蝠の時は起きてしまったがー、どうする…?」

「…え、んっ?うわっ…!」

「…だから言ったでしょうっ…!」

「…な、なるほど、確かにあれは強面ですね…。」

そうソルバラも納得。

その池から床へ下りた黒く平べったい顔にあるV字の角にも、

手の無い恐竜のような体にも憶えは無いが、

基本出現した魔物は誰かに倒されるか、

また別な階へ移動するまでは消えないという事を、今思い出したようだ。

そしてかがんでクリスタルにも小さく頷き、先へ進む頭成。

「…ちょっと君ぃ!別な道を行くよっ。

クリスタルの仲間が倒されたの、聞いたでしょう…?!」

「…やや遅いですが、ご賢明ですっ…!」

「…ではっ…!」

そう短く言い、続けて進言するソルバラ。

彼女はまず三の四地点まで行くようすすめ、そうして戻る途中、

そこから北への別な道を案内すると言ってくれた。

という事でまず四面の部屋へ戻り、三の五から左へ曲がる事もできたが、

まっすぐ北へ歩いた三の六からは、西へ進み二の六まで。

そこから北へ行き二の八まで歩くと、道はまた左右に分かれていたが、

ソルバラの案内通り更に東へ。

そうして慎重に進んだ五星達は三の八まで歩き、

その東南の壁角には梁もあったが魔物はおらず、

代わりにその一つ北の一面に、五人の男女が立ち話をしているのを見つけた。

その彼らは、

胸当てと肩当ての間に外側へ向けた三本の牙がある真緑の革鎧で揃え、

二の腕と腿に小豆色の鎖帷子というやや威圧的な姿。

だがそれを見つけたクリスタルはあの恐怖を拭い去るよう、

いつに無く自分から声をかけていたのだ。

「こんにちはっ!ああー良かったー!

実は僕達、鬼顔蛇に遭ってしまって、

心細いと思っていたところなんですよー。」

「ああー言っちゃったか…。」

言うと諦めたように立ち上がる頭成。

「確かに怪しい雰囲気だねっ…。」

「ご安心下さい。いつでも行けます…!」

「あの…、こんにちはー。」

「うるせえガキだな…!何の用だっ?」

「…えっ…?」

そう小さな声しか出せず頭を抱えるクリスタルを見て、その前へ出る五星…。

するとその更に前には頭成とソルバラが出た。

「何だ…とは、どういう意味です?私達は先へ行きたいだけですけど。」

それに答えたのは、短めのぼさぼさ頭に下から覗き込んだ嫌な目つきの男…。

また大きな鷲鼻とこけた頬が特徴の男で、

彼は一旦仲間へ振り向くとぶっきらぼうに言った。

「~どういう意味って?ハハハッ、ここは通行止めって意味だろ。

つまり帰れって事だな。アハハハッ!」

「それともさー、その鬼顔蛇をぶっ倒して進む?

フフッ、できないんでしょ?じゃあ諦めればっ。」

「とにかく消えろ。オレ達は伝士環(でんしわ)だぞっ。」

伝士環…。誰にもそんな組織の名は聞かなかったが、

それを連呼して笑い続けるまともさを期待できない奴の仲間にも、

きっぱりと言う五星達。

「いいえ、帰れませんね。」

「はあっ?!」

「面倒臭い奴だなぁー。オレの仲間が帰れないと言ってるんだ。

聞えない振りをするなよー。みんなの迷宮だろ!」

「貴方達が伝士環だと言うなら…私だって、元鮮やか岬騎兵隊ですよ。

しかも、ほんの数時間前までねっ。」

その言葉には顎を脇に落とし、何かを計算する風の鷲鼻の男。

すると後ろの仲間達も態度を改めたようだ。

「…何、鮮やか岬っ?!ていう事は、戦に勝った側かっ?」

「でも私達には関係無いでしょう。どうせこの子らだって、生まれたてだよっ。」

「じゃ、じゃあお前らも青目の予言を聞いて、宝を探しに来たっていうのか?」

「…えっ、宝…?」

当然聞き返す五星に、

同時にそれを耳にした鷲鼻の男は、かっと目を剥き、素早くその男を斬る。

「~ひ、やめっ!」

ザシュ ドッ ドッ!

「ば、馬鹿がぁー!!

お前みたいな奴は、生まれ変わっても入れねーからなぁ?!」

「普通言うか?」

「斬られて当然よねっ…。」

「でも生まれ変わったら、分かんないっすねー。」

「とにかく装備はいじまえっ!本当に使えねー奴だなーー!!」

笑いを堪え横のソルバラに頷く頭成。

どんな事でも脳が下した通りに動く五星としては

もう十分話したつもりだったが、頭成もその袖を引くクリスタルも、

おそらく悪人である彼らが素直に通してくれるとまでは、思っていない。

「…道を変えましょう将軍。いいえ、変えて下さい。お願いします…。」

「…軍師殿はお静かに…!」

「…変えて下さい!友達でしょう…!」

「…ん、その言いようは、一体どちら様でしたかな?

私が知っている軍師殿はー、そうっ…もっと勇敢なお方であったはず…!」

「一度もそう言われた事はありませんが…?」

「まあ…それは良いや。でもなーお前ら、通した方が良いと思うぞー!」

「ほうっ?」

仲間と話していたものを、そう言って肩越しに睨む鷲鼻の男。

男は自分達を改めて伝士環と名乗ると、それが偶振刃の新興勢力で、

衆牙も生得解放戦線も無関係に集められた志を持つ者の集合体であり、

まだ生まれたてがほとんどだが、その兵力は今や百七十にも達すると豪語。

続くその自慢話によれば、どうやら彼らは覇道をゆく勢力らしいが、

何とその頭領である男は地上の魔王と自称までしているらしい。

だがそれを聞いても一度だけ天井を見上げ、すぐに視線を戻す頭成とソルバラ。

「~だからどうした?もうどけっ。」

「そうだ悪党め!」

「~お、やるのか?このたった三日で百七十だぞこらぁ!

…だが、やるならやってやる!まさかてめぇら、

自分だけは消滅しねーとか思ってんじゃねーだろうなっ?!」

「ちょ、ちょっと、マンヒノさんっ!」

そう呼んだ男と小声で話すどうやらマンヒノという名の鷲鼻の男。

当然彼らは五星の考えでも烏合の衆だが、

彼女はこの一事によってまだまだ悪の世も定まっていないものだと、

強く実感したようだ。

なるほど今奴が斬ったのは元々戦力にならない者で、

おそらく残った者達も装備や態度それに口ぶりから考えても、

鮮やか岬の情報が怪しい時点でよくこの世界を知らず、ほとんどが生まれたて…。

ではどうせ死んでも惜しむ事は無いからと楽しんでいるのか。

いいや当然それもあるが、もしも本当に強い者を集め今ここにも居るなら、

とっくに見るからに強力な武器をちらつかせ、脅迫を続けているはずで、

つまりこれは、青目様の予言を聞いた末端が軍資金集めに来る仲間の為、

宝を独占しようとしているという事だろう。

だがやはり五星達にとっての彼らは、

それは最初に言い出した者には志もあったのだろうが、

これではまったくただの悪の集団で、

残念ながらその深い事情などを知る由も無い。

「…活動にお金がかかるのは分かりますが、

私達の自由も尊重してもらいますっ!」

「…くそっ…!」

「…悔しいですが、こいつらは強そうですし、仲間が来るのを待ちましょう…!」

その会話にやはり数だけだと思った頭成だったが、

五星も含めクリスタルへの侮辱を思い出し、

皆で彼らを睨みながら堂々とその脇を通る。そして東への扉を開け、

四の八から六の十まで北東へ広がる、八面の大部屋に出る四人。

そうなると通常は九面のところを何故ここは八面かというと…、

真ん中の一面が部屋となっていたからだが、

その南側の扉も見えている小部屋の裏からは、何やら聞き覚えのある音がする。

ぐぅーー ぐぅーー…。

その音に振り向く五星。

「~あれっ?ま…まさか、またあの寝息じゃない?!

結構人の耳なんていい加減なものだから、南から聞えてるのかな?

でももしもあの部屋の裏からなら、

敵わないと思った誰かが、眠らせて進んだ可能性もあるねっ…。」

それに答えたのは頭成。

「…そのようでございますなぁ…。

かくなる上は、不意を突いて西へ押し出し、盗賊を斬り、

その余勢を駆ってあの鬼ガエルも…。」

「ああそう。もういいやっ。それでクリスタルとソルバラは、どう思うっ?」

「…あの時は分かりませんでしたが、二匹いたようですねぇ。

ではさっそく帰省の札を使い、爽やかな陽を浴びるとしましょう。

そうこういう時は、深く進みたいという欲望を捨て、

生き残る道を選ぶのが最も良いと、貴方には分かるはずですので…!」

「な、なるほど。」

「…フフッ、ですがこういう事もあるから、面白いのでは?

伝士環には油断できませんが、

あの魔物なら近づかなければ大丈夫でしょう…。」

「うん、クリスタルの意見にも一理あるけど、それが良いねっ。」

そうしてソルバラの意見を採った五星に頷いた頭成は、そっと小部屋の扉へ。

五星達も続いてそこからまたゆっくりと壁伝いに歩き、

部屋の東側にある壁角から覗くと、

やはりそこにはまたあの巨体が横たわっていたのだ。

そのごろごろと音を立てる大顎には、改めて威力を考える五星。

「…あれは…やっぱり一撃でやられちゃうね。じゃあ戻っても良いかな…?」

「…ええ、そうしましょう。もう迷わないで下さいよっ…!」

「…それも良いですが、本当に貴重な帰省の札を使ってしまうんですか?

もしも使わないなら、西は伝士環、南はもう一匹に塞がれていますし、

頃合を見計らった時でなければ…。」

「…おい見ろ!」

そこで三人を呼ぶ頭成。

彼が言うには扉には鍵がかかり、

その円の開錠点、つまり抵抗のある部分を間違えた事で、

更に開けるのが難しくなってしまったらしいが…。

「うーん、でもたぶん宝があるっていうなら、この先だなっ。」

「うん、そうだよねっ。まだ階の北東の角にも行ってないけど、

鍵がかかっている事から考えれば、ここも怪しい。」

「間違えた事をあっさりとーー。」

「まあまあ、何事も無理せず、じっくりと行きましょう。」

そのソルバラには頷き同時に一つ思い出した五星。

「でも、義賊の鍵があったね。」

「…おっ、そうだっ!」

すると頭成は早速それで開錠作業を開始。

まさかたかが2階の扉が開かないとは思ってもみなかったが、

クリスタルが言うには迷宮内にも自宅設定はできるようで、

この部屋自体が誰かの家や扉であった場合、

開錠難易度によっては開かない事もありえるらしい。

勿論その場合、鍵は使用した事にはならず、

自宅設定でも魔物が造った部屋や扉を作り替える事はできないが、

それもまた面白いではないか。

「そういう難しい話は止めてくれ。

~あ、そういえばさ、

さっきクリスタルが言った、帰省の札っていうのもあったろ。

あれがある限り、何にでもどんどん挑戦して良いんじゃないか?」

「…うんっ。それも勿体無いけど命には代えられないから、

使う準備をしないとねっ。」

「ええ、確かにその通りですが、

彼の場合は挑戦という言葉を無茶しても良いという可笑しな意味で

…使っています。」

「疑問ではなく、断定ですか?」

「酷いよなー。」

そして小気味良い金属音とともに開く扉と、

五星に頼まれたソルバラは素早くそこを閉め、四人は部屋の中へ。

すると中は十メートルほど先から、

三つの細長い葉をもつ太い茎の草に、細かい複葉でふさふさとした草や、

何度も曲がりくねった枝をもつ木などそこだけが黒い森で満たされ、

それを目の当たりにした四人は一瞬魔物の群かとも思い身構えてしまったが、

すぐに別な意味での驚きの声を上げる。

「へぇー、2階にもこういう場所あるんだぁー。

…こういうのは、もっと奥に行ってからだと思ったけど…。」

「ああー、もうあるっ!絶対ここにあるぞー!」

「…ですが、気をつけて下さいねっ。

今はたまたまここに森があるだけで、これから先一切無い可能性もありますし、

そうなるとこの部屋には、何か重要な意味があるんですからっ…。」

それに黙って聞き耳を立てるソルバラと、その後ろから進む五星。

彼女はクリスタルにも植物の事を調べてもらおうと思ったが、

ほどなくして四人は、その森の奥で宝箱を発見。

頭成がさっそく開錠してみると、

何とそこからは溢れんばかりのスペスが出てきたではないか。

「~おっ…おお、やったぁ…!」

「…うん、よく大声を出さなかったねっ…!」

「そ、それにしても、凄い額ですねぇ。」

すると何故かその三人に落ち着くよう言うソルバラ。

なるほど見れば宝箱から出てきたそれは全部で2000スペスはあり、

まったくの生まれたてである三人にとっては大金に違いないが、

まだここは危険地帯でもあるのだ。

「うんっ、大陸ですら油断できないのに、こんな所で浮かれてたらダメだ!」

「そうですっ。

それに今は盗賊も居て、ただ大金が手に入るのも怪しく、

魔物もどこから現れるか分かりませんので。」

「さらば貧乏生活!」

「と言う程ではありませんがー、

これを貯めるには、1階の魔物をどれだけ倒せば良いかっ。

これは青目様に感謝しなければ…。」

「……誰だっ?!」

だがそこで何故か突然叫ぶソルバラ。

彼女が振り向き見上げるとそこに居たのは、

大きな両角にも見える白黒のピエロ帽子を金髪に乗せた男で、

同じ色のローブを身にまとい、だが彼の方も相手が五星達だと確認すると、

素早く応じて見せた。

「フフフッ…ご苦労な事だ。探す手間が省けたぜっ!」

「な…何だぁっ、イリトクさんかっ!」

言うと素早く走り出す五星と、そのすぐ後ろからついて行ったのは頭成。

それを見たイリトクはいかにも機嫌良く笑う。

「アハハッ!

そこで伝士環の奴らに500も払ったのに、宝箱には2000か…。

それにもがっかりだけど…でも変だなーー。」

「もうー、匕首を投げるところでしたよーー。」

「おおっ、ご存じの方でしたかっ。」

その会話にはクリスタルも安心したようだが、

驚かせたイリトクはとりあえず杖で腰叩きの刑に。

その最中話を聞けば、彼も迷宮に宝現るという青目の予言を聞いたらしく、

ヒントが簡単だった為それが2階にあるのは分かっていたが、

もしもその情報が正しければ、宝自体もスペスではないはずだというのだ。

「えっ、じゃあこれは何です?」

「うーーんたぶん、他の冒険者が隠したか、魔物が置いたものだね。

しかしもしも他人のものだとしても、

鍵がかかっている部屋とはいえこうして置いていたんだから、

もらっても大丈夫だよっ。でも良かったじゃないか。

一気に2000スペスなんてっ。」

「じゃあ…勿論幻想世界ではですが、これも良いという事ですねっ。」

その五星に答えたのはクリスタル。

「それはそうですよ。魔物のものだ…という可能性さえあるものを、

置いていく事はありません。ただの損です。」

その彼の意見には頭成やソルバラさえ頷き、一応は警戒もして外へ出る五人。

「それより、お一人ですか?」

「ああ、1階2階で見つけた物を分けていたら、私のもうけが無くなるだろ?」

「うーん、欲張りですねぇ。」

「君達生まれたてとは違うからねぇ。

色々な楽しみの為に、スペスを貯めなければならないんだ。」

「ああ、それもそうですね。長くいる分だけ、必要なスペスも違ってきますか。」

「そういう事ですっ。」

それはともかく、十分過ぎる成果に帰るのが良いかと思った彼女だったが、

イリトクはそこから更に東にある、たった一つの扉を凝視。

それはやはり頭成も真似、

その二人には五星達も付き合わざるを得なくなってしまった。

鬼顔蛇に気付くイリトクと背中に立つ頭成。

「…うおっ!な、何だあれはっ!」

「…お静かに!もしもあれを起こしたらーー、

どうです…イリトクさんなら、倒せますか?」

「…なるほど鬼顔蛇かっ。どうだろうなー。一応攻撃呪文は使えるんだが…。」

その反応にうすら笑う頭成の肩をつかんだのはクリスタル。

「…倒さなくて良いですって…!」

「イリトクさんから見ても、この先が怪しいんですか?」

イリトクはその五星の質問に真剣な顔で頷き、

だが次に彼は皆が止めるのも聞かず、ひとり中へ。

その確かに自由ではあるが一面では大人気ない行動には、

さすがに驚いて顔を見合わせた四人だったが、

むしろ鬼顔蛇のせいでそこから注意したり呼び戻す事こそ危険だったので、

説得もその部屋の中でする事にした。

するとその扉の中はあまりにも深い森…。

八十平方メートルもの正方形の床からは、

その南西の角である一面だけが取り除かれ、

その一つ北の面となる、今五星達が西から入って来た北側には壁。

その余りにも広い大部屋には、さっきの細長い葉の草や曲がりくねった木など、

それ以外にも所々に大きさのばらばらな木々が密生し、

まだ入口の辺りは石の隙間から丈の短い草が生える程度でひらけていたが、

それは少しずつ色濃く奥の森へと続き、

もうそこへ立ってしまったクリスタルなどは唖然とするしかないようだ。

「…これは…どうしたら良いのでしょうっ。」

「フフッ、どうしたら良いと思う?

本当はイリトクさんに注意を促した上で帰ろうと思ってたけど、

面白いじゃない!」

「これこそ探検だよなーー!」

「あれ…私達は、探検に来たのですか?」

そのソルバラに首を振る五星。確かに迷宮探索を探検とも言えなくはないが、

彼女の前で奥を覗き込むイリトク。

その眼から見てこの部屋は、南北で半分にした北側にある八面の中が、

四十メートルもの壁で仕切られ、どうやら通路になっているらしく、

勿論それを見た五星も心の中では怪しいとつぶやいているが、

行って見るとそこは、壁の向こうで行き止まりになっているかも知れず、

それは後ろを塞がれでもしない限り戻れば良いとしても

先が落とし穴になっていたら大変なので、皆で注意し合いながら進む。

「ソルバラから見て、今の私達が3階へ落ちたら、全滅してしまうと思う?」

「…どうでしょうかねぇ。

運にもよりますが、イリトクさんも居て、私の地図もあるので、

絶対全滅という程でもない気はしますが、

一人二人ぐらいの犠牲は覚悟しなければいけないかも知れません。」

「3階ぐらいなら任せなさい!」

「まあ普通に考えれば、オレやソルバラが盾になって、

五星や回復役のクリスタルを守るべきだろうな…。」

「おお、それは頼もしい事ですが、

この幻想世界の場合は呪文を習得する速さも緩やかで、

武官も同じように鍛えてきた大切な人材ですから、君も死なないで下さいね。」

そうして森をかき分け壁の右へ向う五人。

そこで木々に触れてみたクリスタルだがそれらは魔界の植物だからか、

詳細にはただ魔物達が戯れに創りだした物…とあり、

そういえばこの部屋自体も小動物や昆虫などもおらず

まるで不気味な美術館のようで、

改めてそれを感じた彼は心配して振り返るイリトクに、乞うような目を向ける。

「こ、これはちょっと…ですよね。帰りません?」

「…いいや、でも君らは帰っても良いよ。後で何を見つけたかは教えるし、

分けられる物ならだが、君らにもあげるから。」

だがそれに頷くクリスタルを追いこして行く三人。

そうして彼らが通路となっている入口に達すると

さっきまでの森はその通路で更に曲がりくねった太い幹や枝が多くなり、

縦横無尽に彼方此方へ放たれ、

だがそのほとんどは南側の壁中央に寄り添うようにして立つ、

一つの巨大な木から生み出されたものらしい。

その巨木とは、高さ十五メートル、太さは八メートルもあるだろうか。

そうそれは枝が突き抜けるなどしているので、

よく見れば反対の壁からも確認できたかも知れないが、

真緑の葉は切れ込みの無い手の平ほどもあるもので、

またそれが茂る異様とも珍奇とも言えるごつごつとした赤紫の幹や枝は、

ぼんやりと光沢さえ放つ。

するとそれから目を離さず頷いたのはイリトクで、彼に訊いたのは五星。

「うんっ!じゃあきっと、宝はこれに関係しているな。」

「どんな宝だと聞きました?しつこいようですがもしもスペスなら、

さっきの宝箱がそうだと思いますよ。」

「いいや、何でも心の通う宝だとか…そんな風に聞いたなぁ。」

「へぇっ…心の通う。でも、もっと仲間を連れて来てからでも…。

クリスタルの言う通り、一度帰りませんか?

…ああっ!!」

「おあっ!!~イリトクさん戻って!」

その叫ぶ頭成とつぶやくソルバラ。

「やはり何かあるとは思っていましたが…。」

彼女が振り向くとクリスタルは驚くばかりだったが、

枝や葉が邪魔しても先は反対まで見えているというのに、

イリトクの背には薄っすら光る緑の壁が現れ、

いつもは判断の速い五星と頭成も、その後を追う事はできない。

という事はどうやらここは一人しか通さない不思議な通路らしいが、

そこで何か太い根のような物につまずいたイリトクは、

膝を突いたまま辺りを見回す。

「な、何だろうな?

別に…大木がある以外は、他と同じように感じるけど…。」

つぶやくように言った彼はまた薄緑に艶めく森を見回し、

だが五星達が頭成を押さえている間に反対へ抜けると、

しばらくして何事も無かったように戻って来たではないか。

「…でも気を付けた方が良いなっ。私は十分見たからこれで気が済んだけど、

君らは止めた方が良いんじゃない?」

「いいえっ、次はオレの番です!~なっ?」

「…うん分かった!でも危なくなったらすぐ戻って来てよ!

それができないなら、止めてよねっ。」

「えっ?!…じゃあこの役は、クリスタルに譲る。」

「誰がその権利を欲しいと言いました?」

「アハハッ、まあここは頭成殿に任せたらどうです?」

「うん、ソルバラがそう言うなら良いよ。でも気をつけてねっ!」

「ああっ!」

すると感心な事に一応大切な道具は五星に預け、

喜び勇んでその枝葉の中へ消える彼…。

当然四人は上級者のイリトクが歩いた時より何倍も心配して見守っていたが、

またしばらくすると頭成もゆっくりとその通路を抜け、

五星のもとへ帰って来たではないか。

「…うん、よく帰ったね!」

「当たり前だろーー。でも通路を過ぎて奥の西北の角に、死体があったぞ。」

「…えっ?!」

驚く五星だが、イリトクは見ていなかったようだ。

「あれ、そうだったかなー。飾りじゃないの?」

「な…何があったのでしょう。罠でしょうかっ?!」

「落ち着いて下さい…。いざとなれば私もいますし、帰省の札もありますので。」

「装備もらってきて良かった?」

「それは許可できませんねぇー。」

「やっぱり?」

「まあ良いやっ。じゃあ次は私が行くねっ。」

「~えっ、何故です?!」

そのクリスタルの問いには、当然彼は正統派の僧侶の為体力や耐久力が低く、

ソルバラは本当に生まれたばかりだからと答え、ゆっくりと歩き出す五星。

するとやはり、薄っすら光る緑の壁はその頬とオレンジの髪を照らし、

耳を澄ませば聞えるこぉーこぉーと鋭く発せられこだまする風音は

まるで迷宮の息吹のように彼女を迎えたが、

その足が…太い根を踏むのと同時…。

何と巨木は彼女の目の前で縦に裂いたような黒い目と口を開け、

その巨体で頭成達へも振り向き覆いかぶさると、叫び声を上げていたのだ。

ごぉーー!!

その響き渡る声はまるで獰猛な獣。

その手のように延びる彼方此方の枝と、

足のように這い体を運ぶ根は眠りを裂く悪夢。

つまり魔物となった巨木は背と床の石を割り、体を解放。

狂気を帯びて襲いかかって来たわけだが、

瞬間身を低く、太さ一メートルはあろうかという枝をかわした頭成は

すぐに五星へ叫ぶ。

「まず逃げろ五星!」

「何で私にだけ反応したのっ!!~まさか女だからっ?!」

「~僕に憶えがあります!!」

言うとあらゆる破片の中でイリトクと走り出すクリスタルに、

その声に振り向きもせず五星へ走り、バチバチと枝を払うソルバラ!

「とにかく壁の後ろへ!!」

「分かった!!」

するとそこでクリスタルいわく、これはおそらく希望の盾が原因。

「な、何でっ?!」

「何故ならあれは神が与えた物で、魔物の怒りを買って当然ですし、

それ以外の理由だともうー、性別しかっ!!」

「なるほどっ!」

その答えには納得しながらも、しばらくは壁を折り返すよう西へ。

だが森を抜けて入口の方へ行ってしまうと見つかりそうだと考え、南へ走る五人!

巨木はその複雑に絡み合う森の隙間に彼女らの姿をちらりとでもとらえると、

そこへびゅるん…と枝を打ち、あるいは根を這わせ、

またこれは慌しく草を踏んで走る五人にとっても意外ではあったが、

葉はまるで刃のように彼方此方へ降り、さらに恐怖を煽る。

「うーおっ!!進化したんじゃないのかっ?!」

「うん、何かこれでもかって感じだねっ…。」

「その余裕に初めて苛立ちを感じます!」

「それより足元が危ないっ!!」

そう叫ぶソルバラに思わずクリスタルの足元を見てしまったイリトクだったが、

牽制となっている葉は一向に降り止まず、

またその隙に飛んで来た鞭のような一枝には、痛々しい音と共に激しく転倒!

だが彼はそのままの体勢で振り向くと、素早く呪文を唱える。

「炎は必ず土の上に生じ、というのはこれかなっ!」

そこから沸き起こった両手一杯の炎は

見下ろす森を抜け山をかけるように飛び、

対する巨木は葉での牽制攻撃でむしろ自分の集中が乱れたところへ

その弱点である一撃を見上げ、そこへ五星が走る…。

「…武というものは格闘技とも違って、

大きければ良いというものでもないよっ…!」

そうつぶやいた彼女は巨木の枝を蹴り、枝を蹴り、

巨大な目の前で大跳躍も使ってさらに上へ。

そして何とその頭上から一気に斬り下げぶつかりそうだった枝は盾で弾くと、

見事に着地したではないか。

ぐぉーーーー!!

その一撃に悲鳴を上げ、自他の幹や草々を震わせる魔物…。

すると頭成とソルバラも足を止め、彼女に続く!

「うわっ、でも無理しないで下さいよ!!エナセイッ!」

「おお、悪いなっ!!」

「…お先にどうぞっ…。」

またクリスタルはすぐにイリトクも回復。頭成は走りながら両手に匕首を装備し、

それを次々巨木へ突き刺し足場を作って登ると、額へ強襲を見舞い、

巨木はその強烈な赤に口にある黒牙をさらに鋭く、

その彼は敵の枝葉に視界を奪われ着地には失敗したものの、

またクリスタルのエナセイを受け、怒りと屈辱に暴れる巨木は

しばらくまるで光を争うように他の草木をなぎ倒していたが、

その八つ当たりを受けたようなソルバラは素早く来た根の上に立ち、

続けて来た枝へは右腰に回した三尖刀を突き刺すと、

それで更にもう一つの枝も弾く!

ドンッ!

そこで早速あの銅の細剣を左に、大きな目に投げつけるソルバラ。

「今ですお二人とも!!」

その声に希望をもつクリスタル。

「これなら勝てそうですね?!」

「うーーん、凄いなー…。」

そう既に感心しているイリトクだが、またそれを受けて身悶えする敵へは、

盾で体を守った五星が左から右へ斬りつけながら走り、

鉄刀を持ち直した頭成も、彼女を飛びこえ匕首と両方で斬りながら左へ!

また続けて、本当は不味いが敵の真正面に立つソルバラは

三尖刀で滅茶苦茶に斬りつけると、払うように来た枝も伏せてかわし、

素早く後ろへ…。

それを追ってきた角のような根はクリスタルが凍てつかせ、

氷を蹴って敵へ飛び込んだ不撓不屈を構えるソルバラと、

その体を飛び越えるイリトクの炎。

それからの五星と頭成の猛攻にはさすがの大敵も耐えられなかったようで、

明滅した体は大音と共に倒れるとあの恐ろしい目も口も消し、

息せく五人が見詰める中一切動かなくなっていたのだ。

気付けばそこにあるのは…ただ暗い森。

「だ、大勝利だぁーー!!」

だがその不気味なはずの空間で明るい声を上げたのはクリスタルで、

前で戦っていた三人も静かに微笑。

イリトクは彼女達の戦いを称賛しながらも巨木の影を指差し、

その示す所に集まると五人一斉に覗き込む。

そこで五星は一つの種を拾った。

よく見るとそれは上と下が小さく尖った形の、

緑色に茶と黄緑の縦じまが入った艶やかで美しくもあるが、

拳に納まるほど小さな物。

とはいえその未知の物に目を輝かせた五星が詳細を見れば、

それこそ青目の予言した宝だと分かった。

その心通いの種という名の品を高く掲げる彼女。

「良し、これこそ宝だっ!」

続けて声を上げたのはクリスタル。

「ええ勿論!絶対これですっ!」

「ああ、それが何かは分からないけど、やったなっ!!」

「そうだ種だというなら、家を建てる場所に植えましょうっ。」

「お兄さんも嬉しくて仕方無いねぇーー!」

そう素直に喜んではみたものの、どうしても興味を捨てきれず、

せめてその種を買おうと交渉するイリトクには、

五星と頭成が上げた眉を曲げ困った顔で応じ、

その間にソルバラとクリスタルは、二人して巨木の詳細を見た。

怪面蔓草(かいめんつるくさ)

迷宮に木やその根や蔓となってあり、それに人が触れると襲いかかって来る魔物。

通常は主に3階から8階へ出現。

折られた幹のように鋭く尖った頭と、縦に裂けた黒い目と口がある体に

何本かの鞭のようにしなる枝をもち、それで叩く攻撃を得意とするが、

たまにくわえ込んで投げたり、また動きが素早くもあるので、要注意の敵。

弱点は炎だが叩く攻撃には強く、

特にその中でも2階に現れたやや変わった個体は、

神怨十鬼(しんおんじゅっき)と呼ばれる最近魔界で強くなりつつある

神を怨む一族であり、その装備や道具にしか反応しないと言われ、

また幻想世界暦五年、起の節(きのせつ)…その怪面蔓草の王を倒したのは、

五星、頭成、クリスタル、ソルバラ、イリトクという名の五人の冒険者である。

それを読んでも…なかなか気付かないソルバラ。

「では原因はこれですねっ。魔界も色々、手段を講じてくるものです。

……ええっ?!」

「という事はー、ソルバラは知りませんが、

セヨの神消玉にも反応したのでは?あれも神の作った物です。

そうまたもしもの時は、五星を守らなければなりませんので、

憶えておきましょう。」

「ああ、あれなら五星に預けたなっ。つまり結果的には良かった訳だ。」

彼が言うのはつまり倒せた…というだけの事だが、

それを尻目に商魂を見せるイリトク。

「頼むっ!20万スペス払うっ!」

「…えっ…20万!?

い…いいや、これは皆で勝ち取ったものですから!

でも当然イリトクさんも助けて下さったので、貴方の物でもありますよっ。」

「それよりこれを見て下さい!」

そのソルバラの本を見る五星。

「うんっ!君はその、神怨十鬼を倒したんだよっ!!」

「い、いいえっ、そういう事ではなく…。」

「おおっ…オレ達の名前が載ってるっ!!」

さすがに頭成はすぐに気付いたが、何故かイリトクにもあまり驚いた様子は無い。

よって驚いて訊くのはソルバラ。

「…ええっ、何故です?自分達の名前が本に載ってるんですよっ!」

「…だってずーと昔から、別な世界にもあった趣向だよ…。

でね、ちょっと待ってよー。はいっ。」

「あっ…イリトクさんの名前だけが消えました!」

「でも、ソルバラが驚くのも分かりますっ。

名前が載るなんて凄いじゃないですかっ!」

「そうだねっ!…でも私達の名前はどうする?

私なら、実は少しもこの世界を好きじゃない人に声をかけられても困るし、

消したいけどー。」

「もったいないなー!どんどん名を売った方が良いぞー。その方が人材もっ…。」

その口ごもる頭成に、五星の言いたい事に気付くクリスタル。

「おおっ、将軍も気付いたようですねぇ。

確かに本当に楽しんでいる人と、そうでない人とでは中々話は合いませんし、

それで済めばまだ良いですが、

自分もここに居るくせにこんなもの…という態度をとられると、

楽しんでいる方は腹も立ちますからねぇー。今から言っておきますが、

まず初めに彼らと喧嘩するのは、貴方でしょう。」

「ハハッ、口ではかなわんなー。」

「ですが頭成の言う通り、そのお陰で様々な機会も得られます。

だから五星は、本当にそれで良いんですか?」

だがその彼女が答える前に五星に同調したのはソルバラ。

「私は一向に構いません。どう考えても今の私達に俗っぽい宣伝は不必要ですし、

五星様がそうお決めになったなら、従うのみです!」

その言葉に頷く五星。

また彼女は頭成を慰める為もっと強くなったら残そうとも言ったが、

そうして名を消してしまうもう一つの訳とは、

それを見て会いに来た相手を失望させてしまうからだろう。

その場合彼女を頼って来た者には、何一つできる事は無いと言うしかなく、

それはとても申し訳無い事なのだ。

すると素早くその作業を終える五星に、ゆっくりと近づくイリトク。

「頼むっ!君らが英雄だって言うのも内緒にするし、

…20万スペスも払うからっ!」

そこで五星の意向を汲んだクリスタルが進み出て、

いつでも見に来れば良いと言うと、

やっと彼も思い直してくれたようだが、

それならそれでイリトクにはまだ話があるようだ。

「ああ、そうか…。じゃあそれで良いやっ。」

「ほっ…。」

「だが、一応商人としては心配だから、これだけはハッキリさせておきたい。

そう君の国へ住む権利だけは、

そうだなーー7万スペスで買っておこう!どうだいっ?

いやー小さな人間だから、そうしないと安心できなくてさー。」

「お買い上げありがとうございます…。

ハハッ!これではどちらが商人なのか、分かりませんなー。」

「こらこらっ、また勝手に!」

「うん、じゃあ決定だねっ。ありがとう頭成君!君とは気が合うようだっ。」

だが当然それを認められない五星とクリスタル。

「いいえそんなっ!イリトクさんなら、いつでも住んで下さいよっ。」

「ええ、勿論そうですよっ。頭成のは冗談です。」

「もう国をつくるのですか?さすがは五星様っ!

ですが私なら、小屋でも構いませんよ。」

「戦神アテネみたいに戦うくせに、何言ってるんだ。

さあイリトク殿、これは粗品の神降帽子(かみおりぼうし)で、

この下に付いてるのが…まあ…クリスタルですなっ。」

勿論それには、彼に本の能力値欄を開かせ、

死なない程度に笑顔のまま攻撃するクリスタルだが、

イリトクの方はやはり商人だからかその申し出を断られると困るらしく、

四人が良い家に住み素晴らしい国をつくる為にもと、

どうしてもそれは払いたいようだ。じっと考える五星の目を見る頭成。

彼は彼女が支援を受けてくれると分かると飛び上がって喜び、

五星はイリトクへ建国予定地を告げ、

約束通りのスペスを受け取るとそれには改めて驚き、

だがそんな喜ばしいなか部屋に入って来たのは、

五星達の両手に乗るほど小さな体に黄色いドレスを着て、透明な羽をもつ女…。

髪は紫で、何故か瞳の大きな愛らしい釣り目がくすんでしまう程青ざめ、

急いでいる様子の彼女は自分をアリスと名乗ると早速用件を言おうとしたが、

それにはまず頭成とクリスタルが応じた。

「次々何か起きるなっ…?」

「…ええ。ですが女性だからと油断しないで下さいね。」

言い合ってアリスに訊く頭成。

「どうしたんです。伝士環に脅されましたかっ?」

「~えっ?!いいえ、私はただっ…。」

「この部屋にいた凶暴な木なら、僕達が倒しましたが…。」

だがやはり急ぐのか一気に事情を話すアリス。

「いいえ、その凶暴な木は知りませんが…、

実は私、デュプルアイに壊滅させられたサウスティーカップの正規兵の一人で、

ここへもその一員であるクリステッドという友人と

別な冒険者の方々も誘い自分を鍛えなおす為入ったのですが、

丁度この部屋へ来た時、

はさみの中央に角のある大きな鍬形のような昆虫に襲われ、

恥ずかしながら自分だけ逃げてしまい…おそらく隊は全滅。

でも今はっ、せめて彼らが大切にしていた装備だけでもと、

決心して戻って来たという訳なんです!」

「へぇーー。でも、普段から勇気自慢をして、

いざとなったら逃げ出した…という訳でもないし、

貴方も死ぬよりはずっと良い結果じゃないですか?~なあ?」

「ええ。皆で戦ってもどうにもならない相手から、

アリスさん一人が助かったというだけですし、

そんな事を気にしなくても良いと思いますよ。」

「…ええ、そうかも知れませんが…せめて遺品だけでも。」

そんな魔物もいるのかと思いながら、話へ加わる五星とイリトク。

「それは大変なご苦労を…。ですがそれなら、まだ手付かずのはずですよ。」

「さっき頭成君が言ってた人達だね。」

「ええ確かに。場所は分かりますか?」

「は、はい!ちょっと待ってて下さいねっ。」

言うとすぐあの西北の角へ飛んで行くアリス。

戻って来た彼女は五星達が正直な人物だと分かったようで、

さっきまでの表情は変え、やっと明るく話す気になったようだ。

「ああー良かったぁーー!

でもこれもあなた方が、死体を漁らなかったお陰ですっ。」

笑う頭成に頷く五星と小さく拍手するクリスタル。

ソルバラとイリトクも満足そうに頷き、

六人はせっかくなので一緒に脱出する事にしたが、

これも頭成の臣下としての計画なのか、

その帰りアリスと話したのもまた五星だった。

「ええっ?!」

「それは、驚かれますよねぇ…。今私達とパーティーを組んで下さった方々も、

聞いて呆れていました。」

他四人も驚くしかなかったが、

何とアリスが言うにはデュプルアイとの戦いの後国へ帰って来たのは、

彼女とクリステッドだけだったらしいのだ。

「確かに、思い直してくれる人もいるでしょうし、

城を守る兵は残っているのですが、

出撃した隊がたった十分の一しか帰って来ないなんて、情けないです!」

「ええ…。ただこう言ってはなんですが、

その正規兵はもう生まれたてでしょうし、

新たな人生をどう生きるかは自由。でしたら貴方の国も、

彼ら以外のもっと優秀な方を召し抱えたらどうです?」

「そ、それも進言はしましたが、同じ生まれたてでも、

やはり気心の知れた、世界やサウスティーカップの事情にも明るい、

しかも私達の戦い方になれた方でないとっ。」

「おおっなるほど!…これは失礼しました。」

「いいえっ。ですが皆様こそよくご無事で。

…階の西側には、伝士環まで居たというのに…。」

「ああ、彼らですかっ。

ですが私達の見たところ、そう強い相手でもありませんねっ。

よくご存じなのですか?」

「ええっ!実は奴ら、ずっと昔から度々我が国を攻め、金品を強奪!

初めはそうして十人足らずで悪行を繰り返すばかりだったのですが、

つい最近になると召人原にまで行って生まれたてを誘い、とにかく数を集め、

仲間が何人死のうが目的を達する、非常に危険な集団になってしまったんです。」

「ほう…。」

「噂によると、今もああして西側に居たのは、

頂誉人という商人頭の依頼で青目様が予言した宝を見つけ、

その報酬を得る為だったとか…。という事は軍資金を集め、

また何か別な悪事を働こうとしている訳じゃないですか。

本当に困ったものです。」

なるほど奴らはパラメータ同様頂誉人とも繋がっているのか。

聞いた五星は一度頭成達へも振り返ったが、またアリスへ向き直り、

その一人はマンヒノという名だったと教えた。

「そうですかっ。では覚えておきます!」

「…それにしても、彼らの目的とは何でしょう。

そうだ大体にして、伝わる、士の、環とはっ?

アリスさんから見ても、ただの悪者ですよねっ?」

「確かにそうです。が…どうやら彼らが最終目標としているのは、

トレランスも偶振刃もなく、全暗黒街の統一という噂で…。」

「~ええっ?!」

「お気付きの通りそうなると、

もっと小さな集落や町に住む悪人達も支配しなければなりませんので、

今はとても殺気立っているんです。

そしてそのせいで、まずは生得解放戦線が狙いなのか、

最近では彼らとの小競合いも後を絶たないみたいですよっ。」

さすがその隣国の正規兵だけあってアリスは偶振刃の事情にさえ詳しいが、

そんな物騒な二国も含め、更に北にはトレランスさえある彼女の国は、

正規兵も二人しか帰って来ず、これからどうするつもりなのだろう。

「ではトラノムレという傭兵団はどうです。彼らを呼べませんか?

それはもっと慣れた方も居るのでしょうが、

盗賊退治なら自信があるようでしたよ…。」

「ああ、彼らなら知っています。

でもそのトラノムレが住むシピッドという国もまた信用できず、

それに傭兵という事でしたら、

KAEN様に仕えるひゅんしゅん様もいますので。」

「噂によると、かなりお強いらしいですねっ。」

それにはやっと微笑をもらすアリス。他四人もそれを見ると安心したようだが、

五星にはもう一人ライアンという知人もおり、

アリスが知らない事を確かめた彼女もそこでようやく胸を撫で下ろした。

そう彼女が知らないという事は、彼は起きていなかったか、

あるいはデュプルアイと直接は戦わず城を守る隊におり、

死んでいないという事になるのだ。

またそこで、ああいう好漢もいるのにとアリスを勇気づける五星。

もしもライアンに会ったなら彼へ伝えるようにも頼んだが、

その彼女にも自分達の建国を教え、

その五星の顔はもはや一人の戦士のものではなく、

様々な不満を抱えた人々の真心に応えられる

自分の理想とするものになっていた…。

またそんな五星を見て、

話題をクリステッドの迷宮嫌いというやや明るいものに変えるアリス。

それにはイリトクも含めた皆も、ただ微笑ましく見るしかなかったのだ。



頂寿山から南へ広がる悲甘原(ひかんばら)の西海岸側には

約一千二百キロの彼方に鮮やか岬もある裡安(うちあん)という料理店があった。

今も晴天が包む草原。

そこには、町の北側で馬を借り幼命の森から西北へ進んできた五星達がいた。

そうソルバラに教えられるまでは知らなかったようだが、

これは各宿や料理店などへ馬に乗って行き着いた店で返せば良いという、

想像するだけでやや経営が面倒な、それでも面白い趣向の制度。

よってそれを聞いたクリスタルは深く考えず

自分もやりたいなどと言う有り様だったが、皆はそれに反対。

今も口をへの字にする彼には…溜まった馬を返せないと、

口を揃えて言っていたのだ。

「貴方らしくもない。…それって夢?

でも無理なものは無理でしょ。ちゃんと計画を立てないと。

勿論完全に無理ではないけど、

騎乗した状態でコンセンを使うには最上級にしなきゃダメなんだから、

まだ上級の世故さんでも…しばらくは無理。という事は、

誰かが一頭一頭乗って、生得まで返さなきゃならないからねっ。

しっかりしなさいよー。」

「もぉーまったくー!まったくの夢見る少年だなー。ダメだ本当にーー。」

「アハハッ、可愛いじゃないですか。…これは、お二人の冗談ですよね…?」

「…私もそう思いたいですが、

虐めはこういうところからも始まるので、気を付けたいところです…。

そうだ、逆に二人を弁護しますが、いつもはもっともっと優しいですよっ。」

「…じゃあ頭成、クリスタルに謝って。」

「ええー何でオレがー。五星さんこそ謝れば良いじゃないすかーー。」

「頭成殿の更正は後でするとして、一々誰かに馬を返してもらわなくても、

狩人の特技に便利なものがありますよ。」

「そう、それですっ!どうです、やっぱりあったじゃないですかー!!

さあ、馬貸しをやりたい人は集まれーー!!」

「うんじゃあ、元々それをやってる人を誘って、町に作ってもらおうかっ。

君には政(まつりごと)を行ってもらうつもりだったけど、

どうしてもやりたいと言うなら、兼務してねっ。」

そうして冗談を言い合いながらも、店を見る四人。

右手には東へ上る形の階段もあったがまず一階へ馬を返し、

その馬等の動物を貸す特技・友貸(ともがし)が農民ではなく狩人のものなのは、

やはりこの世界において動物を飼うのは、

野生動物を捕まえる事から始まるからだろう。

彼らは自然の中で勝手に繁殖し、特技を鍛えるほど貸せる時間と距離がのび

客にも喜んでもらえるという訳だが、それは最長二十四時間で一千キロまで。

あまりに貸せる時間と距離が長いと、貸した方も商売にならず後悔し、

先で殺される事もあるからだ。

それはそうと目の前の馬小屋は、白い自然木を使って奥まで。

一方は西を向きまた一方は東を向きと並ぶ馬達は皆、時々鳴き声を発し、

あるいは四人を見て隣の馬へぶつかるほど身を乗り出し、

勿論それを見た五星にはそれだけでも十分にここの活気が伝わり、

丁度階段の上り口から見上げた場所にあるのは大きな四角い窓。

右側に銀の鎧兜を付けた男が座り、

左側には灰色の髪に豹柄のローブを着た女が頬杖を突き、

その二人はどう見ても恋人同士にしか見えなかったが、

あえてそちらには目もくれず軽やかに階段を上る四人。

すると中は白とベージュのレンガ造りで、

目の前には左への矢印が彫られたドアがあり、その通りにアーチをくぐると

またベージュの丸いテーブルが奥と手前に全部で十二台並び、

そのそれぞれには交差したような四つの羽が背板になった

鉄のガーデンチェアが五脚ずつ置かれ、床は赤いレンガ。

その南北に長く広い二階には、レンガアーチは他に三つあり、

奥のものは北側の下り階段へと続き、また右手にあるものは

調理服の下にベージュのズボンをはいた三人の店員が立つ、

料理を受け取る厨房。その前は広々として左右のテーブルには果物が山と積まれ、

そして最後のものが一番大きくその向かい側のバルコニーにあり、

当然だがそこから見えたのは、一つの白い岩場を囲む爽快な海。

見渡せばその小島の向こうには水平線が流れ、空には薄っすらと霞む雲もあった。

またこういう店が混まないかというとそんなはずはなく、

一々数えるのも面倒なので大体三十人以上と見た頭成は、

まずソルバラに振り向く。

「これだから、お洒落女の紹介する店はっ!」

「おっ、褒めて下さるんですかっ?」

「きっれぇーー!!」

「えっ、今こそ煌びやかと言うべきではっ?」

小さく感動しながら南から見て左奥のテーブルを選び、そこへ歩く五星達。

北側の左から順番に頭成、クリスタル、五星と座ったが、

一番最後を歩いていたソルバラは厨房近くに座る薄緑のとんがり帽子とローブの、

その腰を茶色いベルトで締めた爽やかな青年に手を振ると、

自分が飲み物を取って来ると言った。

「えっ…いいよ!私も行くっ。」

「いいえ、ここは私が紹介した店なので遠慮無く。

それより効果ありと、効果無しでは、どちらにします?」

「では僕は、愛の実だけの、効果ありでお願いします。」

それに訊いたのは頭成。

「…んっ、効果というと、まさか酔うのか?」

「まさかっ!属性強化の事。

野花うさぎさんの家で飲んだ時、何も上がらなかったでしょう?」

「ええ、飲み物にする時に二種類の実を使う場合、

その順番で効果有りか、無しかを選べますので、

クリスタル殿の選んだ愛の実だけのトゥルーハートで、効果ありだと、

じつは実を一つしか使わず、

二つ合わせた場合に効果無し…となる為、経済的でもありますねっ。」

「なるほどっ。では属性を上げたい方は一つの実でジュースを作り、

どんどん上げられ、要らない方は二つの実で味だけを楽しむ、

むしろ贅沢な飲み方という訳ですねっ。」

「計算された食事…という感じだな。

まあ良い、じゃあオレはシェイキングで!」

「アハハッ、かっこ良く言うね。じゃあ私もそれで。

ああ、ソルバラも分かるだろうけど、ハンドシェイキングねっ。

飲み物って、少しずつ無くなるから良いよねっ。」

「ええっ。では基本は全てLサイズなので、皆さんもそれで良いですね?」

するとそのソルバラと入れ代わるように現れたのは、

何と今日も鉄の鎧に青いズボンをはき、白髪を七三分けにしたKAIYA。

勿論五星達はその偶然に驚いたが、彼はにっこり笑うと早速話しかけてきた。

「おおっ、KAIYAさんっ!」

「おお、頭成君っ。」

「こんにちはっ。まあ、一人ぐらいは知り合いも居るかなと思っていましたけど、

商売の方はどうです?」

「ああ、順調だよ。…実はある国に、野獣の化石がたくさん売れてねっ…。

これが酒でないのは残念だが、お祝いに来たところなんだ。」

軽く頷くクリスタル。

「まあ、大人に聞いたところによると、

味だけでは面白くないでしょうが、効果があると、

それはそれで困りますからねっ。」

そういつも通り常識人らしい事を言う彼だが、

何故かそれには頭成が声をひそめ、そこへ三人も素早く額を寄せ合う。

「…でもな、オレが聞いた情報ではだがー、

当然二十歳以上の人にのみだけど、その効果がある飲み物もあるらしいぞ。」

「…な、何だってぇ?!」

目を大きくしテーブルに両手を突くKAIYAに

素早く振り向く五星とクリスタル…。

頭成は正面だったので顔の向きを変える必要はなかったが、

その激変した彼の表情には声を失ってしまったようだ…。

「…知らなかったっ!」

言って後ろに座る、青く艶めく鎧に片側だけの眼鏡を付けた

緑髪の青年へも訊き、そこでやっと信じるKAIYA。

「あーー、だったらオレも飲みたいっ!!

それに商品を買ってくれた国にも、幾つかお礼するんだったのにー!!」

その商人としての真心に感じ入る五星。

「ハハッ、では探してみたらどうです?」

「ええっ、元々ここは人生を楽しむ為にある世界ですので、

そういうちょっと変わった情報は、中々伝わらないのかも知れませんっ。」

「…いいや…その、確かどんな人が飲んでもほろ酔いまでで、

その感覚も二時間までらしいから…、

KAIYAさんの友達も教えなかったんじゃないですか?」

「…うーん、くそぉっ!

それでも飲みたいぞー!!何で教えないんだあいつらー!

でももしも珍しい物なら人には譲れないし、

飲むのも勿体無い気がして、悩みが増えたなぁー。」

またその彼から大きな感謝を受けている相手国とはどこかというのも気になり、

あれこれ一生懸命だった五星達にとってはまだまだ積もる話もあったが、

KAIYAの方は商人なりの疑問も口にする。

「…そうだっ。それより君ら、ここで食事とはずいぶん稼いだなっ。

いいや、だから商品を買ってくれとは言わないが…誰かに騙されてないよね?」

「お気遣い、ありがとうございますっ。

でもここで休む為のスペスなら、イリトクさんに頂いたもので…

心配ありませんよっ!」

「イ、イリトクだってっ?!…まさか奴が…!」

「……どうかしました?」

「…い、いいやっ…。」

その重苦しい間にゆっくりと目を大きくし、そして中腰になる五星。

「か、彼が何か?」

「まさか……ケチな奴が投資するなんてっ!でも良い奴だよっ。」

「ちょっとぉー!

あっ!でも、レーザーさんの時と一緒ですね?」

「ハハッ、そうそうっ!

まあ金に汚いという程ではないが、奴も中々…。

ほらあいつ、何かつかみどころないだろ。だからという訳じゃないが、

それはどういう経緯で受け取ったんだい?」

それに心通いの種を見せ、説明する五星。

するとそれを聞いたKAIYAには思い当たる事があるらしく、

しばらく頷き続けた。

「うーーんなるほどっ、20万スペスも出すと言ったか。

だがそれはきっと、金持ちにもっともっと高く売るためだぞっ。

だってこれは~、オレも見た事が無い品だからね!

あいつめそれが目当てだなっ。」

「いいえ。そうじゃないと思いますよ。本当に興味があったみたいで…。」

「そうかな~?」

「そんなー。別に高く売りたいだけでも良いですし、

何か商売上の恨みでもあるんですか?」

「アハハッ、それは無いよっ。

まあ本当のところ金にうるさいのは、ソーンジだけどねっ。」

その一言には興味を示す頭成。

「おっ、ソーンジ出たっ!

じゃあやっぱりKAIYAさんも、彼らと商売するんですか?」

「いいや、たまにだねっ。

でもリアルマネートレーディングをする組織は、あそこだけだし、

その辺りが奴らを一層悪人に見せているから、やばいよなぁ~~。」

「ええっ!現世でのお金と交換…だなんて、ダメじゃないんですか?!」

五星も興味をもったが、彼女も知っていて損は無いだろう。

「この世界では、禁じられていないからねっ。

でも同じように交換する組織は全部潰されたから、やっぱり怖い連中だよね…。

まだ奴らに隠れてやってる奴は居るだろうけど…。」

実のところここではこの商売を金貨交換屋というのだが、

またこんな時にだけ強く頷くのは、頭成。

「へぇー、じゃあいくらブリガンテと上手くやってても、

まだソーンジも安心できませんねぇ…。

それにまとまったとしても、またどうせ色々な問題で争うし、

もうこの世界で抗争していれば退屈しないなっ。」

「うん。でもまだ私達には、悪の世界の事情まで考える必要はないし、

聞かなかった事にしようねっ。」

「で、では…僕達の7万スペスの事も、他人に言わないようにしないとっ。」

そのクリスタルに優しく教えるKAIYA。

「アハハッ!7万スペスといったら…うーん、五千八百十円。

まあゲームソフト一つ買ったら終わりだし…、そんなに心配しなくて良いなぁ。」

「な、何だそうなんですかっ。ああー、良かったですねぇー!」

「結構高いよ。」

「…五星さんちょっと良いすか…?」

「…ダメだ…。」

その会話を聞いて相変わらずだと安心したのか、

KAIYAは手を振って北側の出口へ。

するとそこに入れ代わるように帰って来たソルバラは、まず頭成に訊く。

「はいどうぞっ。それより今のは誰です?」

「…いいや、何でもねぇー。お前は気にするなっ。

それより、良い商売があるんだけどよー。」

「やりませんって…!彼は生まれた日に会った商人のKAIYAさんで、

色々と世間話をしてたのっ。」

「へぇー。」

「肉も頼めば良かったー。」

「それなら買って帰れば良いじゃないですかっ。」

とにかく、ソルバラもハンドシェイキングを選んだようで、

クリスタルのだけはトゥルーハートを手に取り、一口飲んでみる五星達。

するとその透き通ったピンク色のジュースを飲んだクリスタルの口には、

濃厚な苺のような味が広がり、彼だけは大きくため息をもらす。

「おおっ~。これはどちらかというと、苺を口一杯に入れたような味ですねぇー。

くはぁー、爽やかに強力!!」

「そりゃあそうだろ…。おおっ、これやっぱり美味いなぁーー!!」

「言うと思った。まあ迷宮じゃないけど、もう少し静かにねっ。」

そうして感動的一杯に喜びをかみ締める彼女達だったが、

不意にバルコニーを見て小さく驚くソルバラ。

頭成も飲みながらそちらを見ればその海を背景にした空には、

美しい金色の毛を靡かせた鼻の低い犬の顔をもつ鳥がいて、

その二匹は蝶の羽のような形の耳をはためかせ、

彼を見ると一度前から順に首を傾げ、正面を向いてそのまま南へ…。

勿論指を差して教えた頭成だったが、

五星とクリスタルが振り向いたのはその生物が見えなくなった、後だった。

「いいや、ほ、本当だって!なあっ?!」

「ええっ、これは珍しいものを!

でもこの辺りには、昔から居ると噂されていましたっ。」

「で、何ていうんだあれ?」

「忘れました。」

「…えっ、そんなの本当にいたのっ?!まったく信じなかった…!」

「君がいつも冗談ばかり言うから、見逃したじゃないですか!」

「教えたのに…。」

またソルバラが言うには、ここから鮮やか岬までには鏡のように住民だけを映し、

誰もが死に装束にしか見えない浅鏡海岸(せんきょうかいがん)という

不思議な場所もあるらしいが、それはそうと自分だけ見たという優越感には浸り、

顔をほころばせて座る頭成。だが丁度その時、

南側に座る黒ずくめの男を見つけた彼はそれも皆に教える。

「おい、あれっ…。」

その声に今度こそ振り向く五星とソルバラに、クリスタルも目を凝らすと、

何とそれは細身だが大きな体に忍装束を着て鉄仮面を被った、

あの生得解放戦線の男。

こちらを向いた彼は一人海側のテーブルに座り、右の茶色いコップを

木の葉型の目と高い鼻しかないその妖艶な仮面に押し当てると、

反対で大皿を端へやり、どうやらここで食事していたようだが…、

そこへクリスタルの脇をすり抜けずかずかと向かって行ったのは、

これもまた何と…七人もの伝士環達。

やはり対立の噂を知っているだろう客達はその真緑の鎧を見るなり

ほとんどが目を逸らし、

その時から店内を賑わせていた全ての声が…消えてしまった。

「おおー居た居たぁ~!捜しましたよ、闇鎧戸(やみよろいど)さーんっ。」

「どこへ逃げたかと思ったよなー?」

「ワルのくせにこんな小綺麗な所で食うなよー!恥ずかしいー!」

その言い様を耳に、左手で頬杖を突くクリスタル。

「…もうー何なんでしょう。せっかくの良い雰囲気がっ……。」

「確かに奴らも変だが、お前も反応が早過ぎて変だぞ。」

「そうですよねぇ…。一体どうなさったんです?」

その会話にも構わず、黙って椅子を北側にある頭成のそばへと運び、座り込む五星。

当然大体何が起こるかは分かるが、

だからといって現実から目を背ける事はできない。

すると肩を怒らせた伝士環達は、

やはりまっすぐ闇鎧戸と呼ばれた男のテーブルへ。

そこで悪ぶった態度の割りに意外と素早く彼を囲み、

中でも一番に口を開いたのは、痩せた体にあの真緑の革鎧を着て、

金髪の側頭部をあえて黒く染め、離れ目にカラスマスクの男。

男は自分を二十五人長の悪艪(あくろ)と名乗ると、配下と共に野太い声を上げた。

「こんにちはっ。じゃあまず立って下さい!!…それで話済みますから…。」

「その名前、前からアンドロイドみたいで渋いと思ってたんすよー!

オレに譲ってくれませんかぁー?」

「でも今日は、たっ~た一人で、どうしたんですっ?

あんたが、生まれたてだって話も、あるんだけどなーー。」

「え、まじでっ?!でもそれじゃあはっきり言って、雑魚だなぁ~。」

「クククッ!で……どうしますこの状況ぉ~?」

「あれ、どうしたんすか?まさかその鉄仮面は、表情を隠す為ですか?

ここじゃ意味無いでしょー。」

「おら立てっ!ついに消滅の時きたるだ!」

言いながらテーブルを叩く男に、笑う一同。

何という悪辣な集団…。

その酷さに周囲の客達は、彼を生得解放戦線の幹部闇鎧戸だと知る者も、

知らない者も同じように密かな憐れみの目を向けたが、

何故か本人は正面を向いたまま、黙ってコップを傾けている。

それでも彼を殺しに来ただけの者達にとっては別に構わない事だが、

悪艪は納得がいかないらしい。

「話せねーのかお前?…そんな訳ねーよなっ?!…じゃあ何とか言えよっ。」

「………。」

「オレは伝士環の弐伍長(にごちょう)、悪艪様だぞこらぁー!」

「……フッ!」

「もういい、やれっ。だが手筈通り、余計な敵は作るなよ。」

「はいっ!」

何と頷くと一斉に闇鎧戸を殴りつける伝士環。

その勢いは凄まじく、まるで彼らの求心力そのものを表しているかのようで、

客の中には小さく悲鳴を上げる者まであったが、

やられている彼はそれでも座ったまま、声一つ上げない。

だがそれを数秒続けさせると、何故か配下を止める悪艪。

「ま、待てお前らっ!…てめぇ、本当になめてるなっ!!

それじゃあビビッたのか~、お前が闇鎧戸に似てるだけの…強い奴なのか、

分かり辛いだろうがっ!!」

「殺してから持ち物を調べれば…その時の画面で分かります。

それに、後で仲間に解放戦線を調べさせる手もありますよっ。」

「…ああ、それでも良いが、そんな時間はねぇんだとよっ。

それにここでもそうだ。

あんまりぐずぐずしてると、鮮やか岬が来ちまうっ…。」

「こらてめー!ちょっとはビビれよー!」

「…も、もしかしたら、体力に余裕があるんじゃないか。

つまり、生まれたてっていうのは、単なる噂で……。」

「…な、何っ…!?」

そしてそこで声を上げたのは何と五星だったが、

同時に立ったのは厨房に近い席にいた、

太い二本角が並んだ肩当てが特徴の重厚なブロンズ鎧の男。

その頬当てには顔に向って牙が、前立(まえたて)にも四本の角が並び、

そこから鋭い目が覗く。

「ねぇ君達!

いくら同じ悪だからって、そこまでしなくて良いんじゃないっ?!」

「そうだな。何もそこまで侮辱する事も無い。

それにやりたければ、外でやれっ。」

「…あっ?」

言って振り向く伝士環達に、

囲まれていた闇鎧戸は左右に出した黒い剣で内に外にと薙ぎ払い、

一度に五人を人形のようにしてしまい、

その今は長く見える両腕は、テーブルの外側へ…。

当然驚いた悪艪だったが、その配下に一々顔を向けている場合ではない。

「く、くそっ!

でもビビるなっ!雑魚は斬れても、まだオレ達がいるっ!」

「おおっそうだな!いい加減立てこらっ!!」

だが立たず、一瞬にして消える闇鎧戸…。

今度こそ残った彼らも驚く暇さえなくその後ろに回った闇鎧戸は、

悪艪を五度も斬って消滅させ、もう一人にも二度斬りつけ、

また素早くその肩に手を置くと跪くよう言い、立ち上がれないよう押さえる。

そうやられた方としてはもしも上手く立つ事ができたとしても、

その一瞬に斬られそうなのだ。

「…動くな…。」

そのくぐもった声に恐怖を感じる伝士環。

「うっ…か、勘弁して下さいよぉ~~。」

「武器を使えば勝てたものを……。

これを見ろ。この刀は、私が前世から持っていた物で、

つまりお前らがつかんだ情報は正しかったが、

死ぬ前に強い装備を家に残していたという事実を、見落としていたな。」

「ハハッ、なるほど…。」

「そう、実のところ私の体力はぎりぎりまで追い詰められていたが、

この、前は純白だった愛刀を黒く染めてまで求めた復讐の一刀を、

お前らごときに向ける無念さが分かるかっ…?!」

「~じゃ、じゃあそれは、誰に使うつもりだったんすか?」

それは生得解放戦線に居るのだからアン軍の誰かだろうが、

それには答えず、残りも斬り捨てる闇鎧戸。

「うわっ……!」

するとやがて店には安堵と明るい声が戻り、

迷惑に思っていたはずの客の中には拍手する者まで現れたが、

五星の感想は少し違うようだ。

「…助けるつもりだったのに…。」

「助けただろ。

でも、生まれたてなのに勝てた?装備と、あの瞬間移動のお陰かっ。」

「良いぞー!あ…、まあそうでしょうねぇ。

でもその説明はやはり、ソルバラにお願いしましょう。」

だが続けて弐伍長ってあるの?訊く頭成には、ありませんと答えるクリスタル。

それは伝士環達の勝手だろうが、説明を求められたソルバラは、

元ではあるがやはり鮮やか岬騎兵隊の人間であり、

事件を目の当たりにした複雑な気持ちのまま、小さく頷く。

「ええ、あれは神出鬼没(しんしゅつきぼつ)。

存知の場所へ瞬間移動できる忍者の特技ですが、

回数は日に二度、しかも攻撃されている時には使えませんから、

それは状況を考えなければいけませんし、

覚えたからといって常に何かから逃げ続けられる、という訳でもありませんね。

アン様の場合、消えて現れる際にたくさんの蝶を伴っているらしく…、

まあそれも噂だけで、あの特技自体私も初めて見ましたがっ。」

その説明に頷く五星。

「その割には冷静だね。」

「ええ実は、自分でももっと驚いて良いと思います。

何故なら、その習得には膨大な経験値が必要なはずで、

それを彼が持っている訳ですから。」

「なるほど。取捨選択で生まれ変わる前の特技を残したんだっ。

でもそれは、人も運べるの?」

「恥ずかしながら、分かりません。」

という事はそれ程これを使える人間は少ないのだろうが、

あの登場の仕方からも明らかに敵であると分かったはずの伝士環に対し

彼が逃げなかった理由とは、一体何であろうか。

それは恐らく、相手がどういう勢力であれ、

南偶振刃を支配する生得解放戦線の幹部である彼が

もしも逃げたという事になれば、

最強のアン軍を打倒する事など叶わなくなるからだろうが、

今もその事を示すよう北から入って来たのは、紫のローブを着た配下。

「大丈夫ですか、闇鎧戸さんっ!!すみません!

オレ貴方から言われた通りずっと外にいて、気付かなかったんです!」

「いいや、それで良い…。お前にはまだ戦うなと言ってあるだろう。」

「ああ、はい…。でもっ!」

「帰るぞ。」

「はいっ!」

「ちょっと、お待ち願おう。」

だがそこへ南側から入って来た二人は、白の制服と金の小手からして、

鮮やか岬騎兵隊。

前の一人は長身で、がっしりとした顎をもつ面長に短髪の青年で、

涼しげだがやや釣り上がって凛々しい眉目が光り、

また後ろの一人は、背は低く細身で細顎に坊主頭という、

いかにも真面目で大人しそうな雰囲気だが、

眉頭から分かれた短い毛が額へ伸びているのと銀色の丸眼鏡が特徴の、

優しいが人を見通したような強い眼差しを持ち、小さな口をきりりと締めた青年。

それを見たソルバラは、

二人がシトクリアにチャンドガンだと気付くと、すぐ五星にも知らせる。

「ああ、彼らがそうなんだっ。いかにも正義って感じだけど…、

規則より信念を優先しそうな二人だね。」

「…おお、さすがっ。その通りです!」

「うんっ。じゃあもしも、鮮やか岬が噂通りに見かけ倒しの勢力なら、

サハピさんと共に私の国に迎えて、将軍として厚遇するとしよう。」

「それは…できれば素晴らしいですが、

三人は根が真面目なので、どうでしょうねぇ。

忠誠心が邪魔するのではないでしょうか。」

「これはー、貴方がやったのですか?」

闇鎧戸に訊いたのは小柄なチャンドガンの方。

「そうだ…。」

だが訊いた彼はその答えに頷くと後ろ手に組み、

様子を見る為ゆっくりと周囲を歩き出し、

それに代わってまたシトクリアの方が話す。

「では、確かにこの世界は自由ですが、

この死体は三日もここに置かれ、店の方が迷惑しますので、

賠償金を支払って下さい。」

その彼と見合った瞬間また鼻で笑う闇鎧戸。

シトクリアはむっとしながらも、

続けて二度とこのような事の無いようにも注意し、

だがまた代わりにその闇鎧戸を見咎めたのは、チャンドガンの方だった。

「いったい何が可笑しいのです…?今我々が説明した事は、

まあ、それは貴方達のような悪の勢力から見れば馬鹿馬鹿しいでしょうが、

事実ですぞ?」

「いいや失礼。だが、それを笑った訳ではない…。」

「ほうっ、ではいったい何に?」

シトクリアもそう訊いたが、

闇鎧戸は二人が知人でどうしても懐かしかった…とだけ答えると、

そんな衝撃的な事をさらりと聞かされたチャンドガンの方も、

冷静でいられなくなる。

「な、何ですとっ?!…まさかそれは、生まれ変わる前は騎兵隊の人間、

という意味ではないでしょうな?」

「違うが、懐かしい…。」

「や、闇鎧戸さん。」

「ああ、そういえば…急ぎの用があったな…。」

「…えっ?~ああ、そうですねっ…!」

「何っ?」

「一体貴方は誰だっ?」

「それよりっ、シトクリア!」

当然逃げられると思ったチャンドガンは目の前にいるシトクリアへ叫び、

彼の代わりに対象のすぐ後ろまで移動していたが、

闇鎧戸はゆっくり五星の前まで歩くと、素直に礼を言う。

「…あの時の三人だな。礼を言おう。」

「ああ、はい…。」

するとブロンズ鎧の男にも頷き、

だが予想通り海へ飛び込むと、その空へ消える闇鎧戸…。

「ああっ!!な、何故奴が、神出鬼没なんてものをっ!

それ程強いとは聞いていないぞっ!!」

「確かに!だが追うぞっ!!」

「いいや待てっ!」

またシトクリアへ叫ぶチャンドガンに今度は配下の方を捜せば、

彼もコンセンが封ぜられた消玉で飛び立ち、二人は素早くバルコニーの手すりへ。

だがそんな急迫した局面でチャンドガンへ話しかけたのは、

何とソルバラだった。

「お久しぶりです!でも、二人で見つかるんですかっ?!」

「おおっ、ソルバラ!確かにその通りだが~、追わぬ訳にはいくまいっ!」

「そうだお前、本当に辞めるのかっ?!一緒に行こうっ!

あれが闇鎧戸だとは知っているなっ。

それなら奴はー、偶振刃に行けば居るさっ!」

だがそれには、はっきり戻れないと言うソルバラ。

対して顔を見合わせた二人は仕方無いと頷き、足早に階段を下りて行った。

その戻って来たソルバラを気遣うクリスタル。

「そういえば本当に良いのでしょうか。やはり彼らと共に行きたいのでは?」

「アハハッ、いいえっ!何を言うのです。」

「クリスタル、余計な事は言わない。」

「~えっ、僕ですか?!珍しいですねぇー。」

「当然であろうっ!五星様は彼女にご執心なのだっ。

その上…ソルバラの決意に対しても、失礼ではないかー?」

言って海を見る頭成とその横顔を優しく見詰めるクリスタルだが、

それよりと五星は話をシトクリア達に戻す。

「鮮やか岬騎兵隊も大変だね?」

「ええ、確かにそうですが、

私の考えでは、彼らが偶振刃へ逃げたなら増援も準備も必要ですし、

またそうでないなら、もう二人で見つけるのはかなり難しいと思いましたので…。

規則とはいえ…心苦しいところでしょう。」

「そうだねっ。あのチャンドガンっていう真面目そうな人が、

それでも追わざるを得ないって言うんだから、

それは規則の方を変えるべきだっ。」

言って事件があったテーブルを見る五星。

そういえば伝士環達の装備や道具は誰も怖がって取らないが、

またその元の席に戻って間もない彼女達には、すぐ東隣のテーブルから、

別な噂も聞こえてきた。

どうやらその会話を聞く限り、北側に座るのがこの店に誘った方。

彼女は、上の腹部までが紺、それから下が赤の体に密着した革を着て、

渋い銀色のタセットを付け、黒肌に結われた髪は輝く青。

また南側に座る誘われた方は、

その仕草から見てむしろ彼女の方がさばけている印象だが、

真っ赤なローブに白いケープを付け、

肩につかない程度の緩やかなパーマを茶色にし、

微かにその髪を撫でると安心したように続けた。

「やっぱり凄いね、この世界ってっ!」

「ごめんねー。こんな事になるなんてさー。」

「えっ、良いじゃなーい別にー。

自由で楽しいしーー。私も偶振刃に住もうかな?」

「あ、そうっ?でもそういえば、ここでもう一つ面白い事が起こってるよ。」

「えっ何っ?!」

「ああ、違う違う。この幻想世界でっ。

シピッドの南に、グリーンレイクってあるでしょ?

そこにアン様が新城を築くのっ!」

「…でも私、それはあんまり興味無いなー。」

「ええっ…!あそこ凄く綺麗じゃないっ!

ショーンビア様がすすめるのも、よく分かるなー。」

それを聞いたさっきのブロンズ鎧の男は…何故か慌しく、

だが無言で仲間と店を出て行き、それを見た五星も素早く三人に言う。

「これはっ…じゃあ私達も行こう!」

「それは、どこへでしょうっ?」

「いいから行くぞ!

ソルバラは正義が大事だから、よく分からないかも知れないが、

これはクリスタルにも分かるっ。なあっ?」

「ええ、そうですね…。悲しい事ですが、乱世の常です!」

「あの失礼ですがっ!」

その声に驚く相手の返事さえ待たず、また短く訊ねる五星。

「それは確かな情報でしょうか?

突然で、重ね重ね失礼ですが、どうしてもそれだけはっ!」

「え…ええ。もしかして生得の人?だったら良かったねっ。

これでアン様も、美しい場所に住んで穏やかになるだろうし、

町にいる住民達も、伸び伸びとできるよっ。」

「でもその言い方、この子らが本当に生得の人だったら、失礼じゃない?」

「えっ、だって…もしも生得の人だったらアン様が…、

ほらあの人、怒ると怖いでしょう?

でもこれは、ちょっと前にアン軍の友達から聞いたから、確かな情報っ。

それで彼女も今はとても上機嫌で、

噂ではそこで開かれる宴で、ドレスまで贈られるらしいよっ。」

「…ドレス。ではやはりっ!ありがとうございます!」

そう何かを察すると階段を下りる五星。

幸か不幸か今も静かな海と風は、その思考を冷徹にしていたのだ。



草原を西へと向う長い騎馬隊の先頭を行き、

遠目にも彼女と分かる馬上の人はやはり、アンだった。

今日も銀色の蝶を思わせる鎧に長い金髪の左だけを下げ、

両腰には二振りの剣…。皆栗毛の馬だというのに一人だけ白馬にまたがり、

だがその表情はというといつに無く穏やかで、

すぐ隣を進むセイントなどはその顔を覗き込むと大いに怪しみ、

後ろに振り返っていたほどだ。

その騎乗する為胴にあった大盾のような鎧を外し、

今はあの楕円形で銀縁の肩当てに青いローブだけの彼。

だがその青い目が捜していたのは総勢二十三人の兵の中にいる誰かや、

その丁度真ん中辺りで真面目な顔をつくるトメントでもなく、

その隣にいて彼と話すハイサンという老将。

セイントは彼を見つけるとはっと一声、そこへ馬を走らせていたのだ。

勿論その老将が身に付けているのは兵のものとは違う為

それだけでも目立っていたが、

金属的な紫の肩当ては、前後と上のどちらから見ても長い六角形で、

その鎧の他の部分は全体に丸みを帯びて重厚。

二の腕と腿にさえ隙間無く防具が当てられ、

角ばった面長に似合った立ち上げられた白髪は、綺麗に整えられ後ろへ。

小さな垂れ目には活力が漲り、

また鼻の下にある立派な髭は口までも隠していたが、

そこから発せられる声は雄々しく威厳さえあった。

「良いかトメント、今度こそ私が死ぬ!だからお前は引っ込んでいろ。」

「そ、そう言われましても…戦わない訳には。

という事はつまり、運次第ではありませんかっ。」

「うむっ!

確かにそうだが、私はそろそろっ、あの方の為に死にたい。」

「何をおっしゃるっ!」

見かねて言うセイントに、振り向くハイサン。

実は彼が迷宮の30階を一人歩きできるというのは有名な話だが、

セイントとしてはその忠節をこそ想い、冗談でも止めない訳にいかない。

「貴方には生きてもらわねばっ。

…まあ、この度の事で信望を取り戻されれば良いが、

おそらくこれからのアン様には、貴方のような方こそ必要なのですからっ。」

「うむ、私はどうも明空さえ信用できんがー、

もしも中部二ヶ国がこれまで通りアン様に忠誠を誓ってくれるなら、

情勢が好転する事もありえるっ。

だからそれにかけてみる今回の事も、よく理解できるぞっ。」

「…ええ。ただ責任逃れではありませんが、

元々この築城はアン様自身がお決めになった事で、

まあ私も止めはしましたが、ハイサン殿はどう思われます?」

「というよりも、お主は何故止めたのだ?

私はショーンビア殿の言い分に、一理あると思うぞ。」

それには素直に頷くしかないセイント。

実は昨日のアンはショーンビアから手紙を受け取っており、

その中での彼女の言い分とは、

生得が東へより過ぎ…覇者の居城として相応しくないという事と、

そのせいでシピッドやアハイン等の国は西と南にある悪の国から脅かされ、

一部はアンを討つとまでうそぶいているというのに

このままではいかにも危うく、

そういった大害を除く為にもできれば少しでも大陸の中央に近い土地に住み、

その威光で天下や自分達を守ってもらいたいという事。

それが支配者であるアンの心を大いに揺さぶった訳だが、

冷静な臣下にとって悩みの種というのはやはり、

ここが幻想世界であるという特殊な事情。

つまりそれはスペスさえあればものの数分で築城できてしまい、

長い会議も不要というものであり、

その為セイントの不安もショーンビアの人物には無かったが、

今日の行いに対する憂慮を拭い去る事はできなかったのだ。

「それに、起きたばかりの貴方にこんな事を言うのは申し訳ないが、

何故、まず我らが意見を求められたか、それはご存じですか?」

「いいやっ。」

「やはりそうですか。

私が聞いたところによれば、実はそれもショーンビア殿の手紙にあり、

彼女がそこで我らを忠臣と褒め、意見を求めるようにとすすめたからなのです。」

「おおっ!

ではー、ますますめでたい事ではないかっ。ハハハッ!」

「ですが、そこでもう一つあの方にすすめられた事というのが、

当然アン様を守る為とはいえ、この築城に部抜殿や竜鱗殿も含めた

ほぼ全軍を連れて来る事だったとか…。これはどう思われます?」

「ほう、それは確かに大げさだなっ。」

「そうでしょう!そして、

そんな事を同盟国の支配者に言われたら、貴方ならどうなさいました?」

「……部抜殿か、まあ今はたまたま居ないが、

竜鱗殿のどちらか一方を連れ、兵ももう少し連れて来たなっ」

「ええっ。当然程度はありますが、

実はそれが君主こそ守らねばならず、意外にも城や土地は易々と手に入る、

この世界の常識でしょう…。ですがそれがアン様なら?

今はご覧の通り、我らとたった二十数人を連れ、

二千キロは離れたあのグリーンレイクまでっ!

私はこれもおかしいと思うのですがー。」

「だが、それは気にし過ぎだろう。

先にはシピッド軍も居て何も戦に行くわけでもあるまいし、

これで十分ではないか?」

「いいえ…、それは現世での、

しかも大体兵力を百倍と考えた上で弱小国へ遠征する際の話っ。

確かにこの世界では兵の一人一人が強い力を発揮しますし、

調べた結果…偽の手紙では無いとも分かりましたが、

ただアン様一人を守る為としても二十数人というのはいかにも少なく、

もしもこれを、生得解放戦線が知ってしまったなら、どうなるでしょう…?」

「うーむ…。」

そう確かに例の手紙はアンの自尊心をくすぐり、

共は少なくて良いと見栄を張らせた訳だが、

もしも彼女が部抜か竜鱗のどちらかを連れて来たとしても、

まずそれがショーンビアの予想を超える軍になる事は無かっただろう。

そうつまりこれはアンの性格からいって、

必ず初めに考えた軍よりは少なめにするだろうという、ショーンビアの罠。

そしてその手紙の中でもう一つ妙だった事とは、

生得が覇者の居城として相応しくないという他に、

そんなに美しいしかも自領を明け渡す理由が、

自分などが城を築き独占しては国民の支持を得られないという一文。

それは裏を返せば、

ショーンビアも民心を得るのに苦労している…という意味であり、

当然それは単なる嘘ではあったが、そこに親近感を感じてしまったアン。

事実彼女にとっては、

様々な問題を非難される生得に住むのが煩わしくなったというのも、

築城を決めた一因だったのだ。

「トレランスや偶振刃は遠く、よって生得の守りなど考えずとも、

寧ろ貴方様のお命こそが大事!とそう言われたらしいのですが…、

本当にショーンビア殿やキャラメグラ殿はおもねるばかりで、

アン様も見栄を張るばかりでおだてにも弱く、皆好き勝手に振舞われるっ。」

「こらこら、お主だから許されるようなものの、わしは知らんぞっ。

AZAKI何するものぞっ!お主も堂々としていれば良いのだっ。」

「私も聞かなかった事にします。」

そのトメントには頷くだけのセイント。アンには何度も進言したが、

着く直前とはいえもう一度ハイサンに相談した彼さえ、

その老将の意気には心配を打ち消し、覚悟を決めてしまったようだ。

そうしてまたしばらく行くと何故か次々と声を上げる兵達。

セイントも見ると何とその西の先には、

薄っすらとだが青黒い夜空が現れたではないか。

まず驚きの声を上げたのはセイント。

「おお、あれは我空間っ!さすがはショーンビア殿。

だが少々やり過ぎではないだろうか。あれではやはり、目立ってしまう。」

「ほう~これはこれはっ、良い酒が飲めそうな夜だなっ。

あまり気にし過ぎるとな、アン様も興を醒ましてしまうぞっ。」

「確かにこの世界の酒は上品ですが、

出ても余り飲み過ぎないよう、お願いしますね。」

そうハイサンには言ったものの自分でも高揚を感じるセイント。

だがそれに魅入っていたのは他でもない、アンだった。

「…うーむ!これまで通りの忠誠、実に見事っ。

今の私にとってはまさに…光風霽月(こうふうせいげつ)の観さえある!

いかにも清々しいっ!」

すると無理もないが少しずつ馬を急がせるアン。

セイントは鋭く呼んだが兵達も続き、

一団は今迄の警戒も忘れ一直線にそこへ…。

目を細めた最も権威ある支配者にとってその青の世界は、

涼やかな風は微笑して退き、草々は喜びを露に揺れ、

一瞬髪を振り乱して見た先には、森と緑色に輝く大湖。

それは東側からちらほらと、

どこまでも続き囲む木々からもその大きさをうかがわせてはいたが、

奥の湖面と空には微かな陸さえ見えず、まるで果てしなく、

神とその胸の如くある絢爛(けんらん)な月と光には…もはや体さえも捨てる彼女。

そうその姿はさながら、

地上のありとあらゆる物の代表としてその場に参ずるかのようであった。

「…おおっ!おおーシピッドの将軍達、よくぞこれ程までにっ…!」

また遠く西へ目を凝らせば、そこには小さな森もあったが、

それを背に目の前に左膝を突いて迎えたのはシピッド国の将軍達と、

その後ろには今日も冠を被り青い衣のキャラメグラ。

また遠く北側の草原には白いローブを着た侍女(じじょ)と

目を閉じた十数人のコボルト兵も立ち、指を差す兵達にセイントも見上げると、

その空にはグリフォンに乗ったショーンビアがいるではないか。

「よくぞお越し下さいました、アン様っ。」

「…うむっ。」

それにはあえて鷹揚(おうよう)に頷いただけのアンだったが、

そばまで駆けるセイントとハイサン。

するとショーンビアは今もあの金の刺繍が入った赤いローブを着て、

それだけでも艶やかで目立っているものを、

広げれば七メートルはあろうかというその怪鳥の翼をはためかせると、

ゆっくりと降り、だが素早く将軍達の横に行くとそこへひざまずいていたのだ。

「遅れて申し訳ございません!

アン様におかれましてはお変わりなく、私も嬉しい限りでございますが…、

取り決め通りこの湖の一帯でしたら我々の土地ですので、

どうか好きなだけ大きな城を築いて下さいませっ。」

「うむ、そうしよう!

それにしてもこのコボルト兵といい、そのグリフォンといい、

シピッドは珍しい物ばかりだなっ。」

「はい。特別優秀な狩人がいる訳ではありませんが、

実はこのグリフォンでしたら、

アン様に差し上げるつもりで、乗って参りました。」

「おおっ何と!

これ程美しい夜を贈られ、その上、これも貰って良いのかっ。」

「はい。

残念ながらコボルト達は、このデッドリ将軍の兵でもありますので、

こればかりはアン様にも差し上げられませんが…。」

その言葉に微笑して頷くアンと、更に深々と頭を下げるのは錆色のフード。

それは淡い茶のような色でマントでもあったが、

目深に被るデッドリと呼ばれた将軍は、

その中に口元と頬に当てる黒の仮面を付け、素顔を隠し、

腰は細くともその分胸厚く、四肢太く、その体を隙間無く黒鎧で包み、

胸の中央には、砂時計のように上と下が広がった白い二本線。

タセットは大きく四枚で、背には大鉈を背負うという姿。

当然それには頼もしさもあったがやはりアンから見ても不気味であり、

だが彼はその相手の疑念が動き出す前に、ゆっくりと口を開いていたのだ。

「…シピッド国六真武将(ろくしんぶしょう)の一人、デッドリでございます。」

「おおっ、そなたがそうか。

噂では…まあ私は見過ごしてしまったようだが、

迷宮深くで手にした秘宝により、何やら強大な力を得たとか。」

「…はい。それは、さぞ期待外れでしょうが、

まさしくあのコボルト達こそが、その強大な力でございます。」

小さく驚き彼らを見直すアン。

するとセイント達も、面白い国もあるものだと感心したようだ。

「…ですが、姿はまるで悪の軍ですね…。」

「…またお主はそのような。意外と失礼な男だなっ…。」

「では、秘宝で兵をコボルトに変えている…という事か?」

「はい…。」

「いいや、それはそれで驚いたぞっ。

では宴がすんだらで良い。我が兵も何人か、ああしてくれぬかっ。」

「なっ~、アン様っ!」

叫ぶセイントをなだめるハイサン。

「…まあまあ、私も嫌だが、今は静かにっ…!」

まさか嫌がる者を無理やりコボルトにはしないだろうが、

いつもながらに勝手なアン。デッドリはただ一言はいと応じたが、

それを微笑でかわしたショーンビアはもう一人の将軍も紹介。

それは八剣(やつるぎ)という長身の男で、襟と袖、それに帯と裾部分の濃い、

明るい灰色のような煤竹色(すすたけいろ)の着物をまとい、

顎細く、その白い面長の左頬には、鼻根に斜め傷。

長い黒髪は上下の牙を思わせる中が黒く塗りつぶされた鉢がねで締められ、

それで眉までを隠し、そこから覗く目は美しくもあったが鋭く、

当然彼も、華やかさを好むアンにとってはデッドリ同様やや暗い印象ではあったが、

ここは幻想世界という事でもあり、その趣味をとやかく言う訳にもいかない。

「よろしくなっ。」

「恐れ多いお言葉…。」

すると早速築城作業へと移り、右手を出しその指先を遊ばせる彼女。

「さあ、どうしようか?」

「…自賛ではありますがせっかくの美しい景色ですので、

宴席は高い場所が良いかと。」

「それはそうだろうなぁー。」

そうつぶやき、ただ築城に集中するアン。

皆は東西からその様子を見ていたが、数分後そこに一瞬にして現れたのは

青黒い夜空に艶やかさの映える淡いベージュ色の巨城。

何と一番高い場所はおおよそ七十メートルあり、その入口は急で長い階段。

先から五十メートルも続く橋を支える脚は地面の部分が平たく、

板の下でアーチ状になり高さ三十メートル。

途中には小家のように立派な門もあり、

それは他の塔などにあるそれぞれの屋根同様青い四角推、

橋向こうは四つの辺が短い八角形となった床の上に

それと比べれば小さな箱型という白い窓が並ぶ居館となり、

それさえ幅、奥行き共に五十メートル。

特殊な八角形のかどには六角柱の塔がつき、

地上からその大きな青い門までは窓さえ無く、

これは権威を示すという意味でも十分。

城主のアンは早速階段を上ったが、

見上げたハイサンは驚いてセイントにも無言で問い、

それを受けた彼はというと眉間にしわを寄せ

実のところ胸中では無駄遣いに対する不満を愚痴、

また彼らに続くショーンビアとキャラメグラはというと、

勿論どんな城を築かれても褒めなければならない立場なので、

一人一人世辞を言うのも忘れない。

「いやぁー、さすがはアン様。美しくも、大胆な造りですねぇー。」

「…ああ、まさか私もこれ程とは。これで住民も畏敬の念を抱くでしょう…。」

その後ろにはデッドリと八剣、それにおそらく雑用を役目とするあの侍女も続き、

だが当然といえば当然入城できたのは全部でたった八人。

すると今はやはり機嫌が良いのか、アンも気軽に話す。

「どうしたセイント、緊張しているのか?らしくもない。」

「いいえ。ただ、相手が敵や交渉相手でも無いと、

どうも気を遣ってしまいまして…。」

続くハイサンも、

自分達が考えも無く先に上ってしまった事には頭をかいていたが、

誰にも怪しい動きは無さそうなので、肩の力を抜いて言う。

「おお、見て下さいアン様っ!

コボルト兵達が、飲み物や肴を用意しておりますぞっ。

今迄もショーンビア殿には数々の品を頂いたが、

こういう事は初めてですなぁー。」

「アハハッ、それは勿論。お口に合う物があればよろしいが。」

その彼女に小声で話しかけたのはキャラメグラ。

「…それよりショーンビア、何故これ程までにもてなすと、教えなかった?

それならそれで、私にも用意があったものをっ…。」

「…それは、お前には何も教えない方が、上手くいくと思ったからだ…。」

「…ふんっ!ジェンダを連れて来れば良かったわっ…。」

「連れて来てどうなさいますー?

こう言ってはなんですが彼女は未だに武骨で、この場には似合いますまいっ。」

「…何故、急に大声になる…?」

「…僅かにでも聞かれていたらどうするのだ。

それならいっそ、少しは聞かせ、安心させた方が良い…。」

勿論これは聞かれていないが、

その後ろのデッドリと八剣は黙って歩き、門をくぐる八人。

そしてこれにはセイントさえも小さく声を上げたが、

正面に現れた金枠の大きな青い両扉には、

上は外側下は内側にと稲妻状に落ちる並びでそれぞれ八つもの紫の宝石が光り、

そこを開けてすぐの広い廊下の天井には、

白地にまた大きくだが緩やかに張り出した金の星と、

床には青地に金色で四つに分けられた大きな格子模様がどこまでも続き、

その壁には高く大きく銀色の羽を広げた模様まであり、

それは彼らから見ればどこをどう見ても、

豪奢な造りとしか言いようのないものだった。

「…では、先に行っているぞ。」

そう一言、すぐに体を天井へと消すアン。

「おっ、魔法の昇降機ですなっ。」

「ええ、たぶん瞬間移動できる装置でしょう。

ずっと見上げておられましたから、おそらくこの上の部屋に…。」

言うとアンを追って消えるセイントに続く、ショーンビア達。

「では…私達も。」

「ハハッ、さすがアン様がお造りになった城は華やかだ。実に喜ばしい。」

「では私は、後から来るコボルト達にこの事を教えます。」

「うん、頼んだぞ。」

ショーンビアは透き通るような声の侍女にそう言い、自分でも上へ。

だが次にその両目に飛び込んできたものは何もかも白銀の間。

四隅には白く花弁の大きな花が置かれ、その広さに人形のように見えるアンは、

奥にある王冠を模った背もたれの玉座にあり、

その前にある白いクロスのかかった長いテーブルには、

銀の蜀台と食器それに杯、大きな器には果物が積まれ、

また中央が緩やかに押し上げられた天井からは、

親指大の水晶のような宝石が幾筋もの雫の連続となって輝き、

左右には花柄の額縁のようなそれぞれ三つの大窓。

そしてその左手の窓からは大きな月も見えていたのだ。

「ほうっ…。」

そうつぶやき、ほんの一瞬だがアンを見直してしまったショーンビア。

だが彼女はそれを顔には出さず打ち消すと、右にハイサンとセイント、

それに左に座るキャラメグラの奥が当然の如く空けられていたので、

静かにそこへ。

そのそれぞれの椅子にもあの銀色の羽を広げた模様はあったが、

皆がそろった事に微笑したアンは、またセイントに冗談を言う。

「どうだ、この銀の部屋は?~素晴らしいだろ。」

「ええ…見ようによっては上品ともいえますし…。

あっ!私が銀の物を好むからですか?」

「そうだ。気付くのが遅いぞっ。」

「ハッハッハッ!これは…やや贅沢過ぎる気もしますが、実にめでたい。」

そのハイサンに合わせるよう、部屋の高級感まで褒めるショーンビア達。

「確かにっ。この芸術に対し失礼かも知れませんが、

一体どれ程かかったのでしょう。」

「まだ一部しか拝見していませんが、

まあ私が見たところでは、200万スペスはかかったでしょうなぁ。」

「まあ、そんなところだ。それより料理が来たぞっ。」

入口…とは言っても今入って来たアン達同様、

その白銀の間にある赤い扉の前に、次々と現れる侍女とコボルト。

テーブルを囲んだ彼女らはなにやら長く大きな、

先と元とで極端に幅の違う茶色の肉が入った金の器と杯を出し、

それを配り終えるとショーンビアに残るよう言われた侍女だけが扉の前へ。

一同はアンの許しを得て食べ始めやっと宴は始まったようだが、

その勢い良くかぶりつくアンに、一応の説明をするショーンビア。

「これは角キリンという動物の脚で、

大型の為、体は三ヶ所に分ける事もできますし、

頭や胴でも能力値は上がるのですが、

まあ見た目が地味とはいえ、中々肉厚で柔らかいでしょう?」

「うむっ、中々の美味だ。」

「そして飲み物ですが、これはご存知ハンドシェイキング。

この度は貴方様の支配を世に印象づけるだけでなく、

三国の友好を深める…という意味もありますのでこれにしましたが、

やはりアン様には少々、子供っぽい物だったでしょうか?」

「いいや、私もこれは好きだぞっ。

それよりデッドリも八剣も六真武将と言うが、残りはどうした?」

「ああ彼らなら、迷宮30階辺りで鍛えている事でしょう。」

「…ハハッ、それは頼もしい…。お前も鼻が高かろう。」

「ええっ。なんでしたら、今からコンセンで見に行きますか?」

「ああ、だが私は神出鬼没とセヨを使えるだけに、

それは別な仲間に任せてあるのだ。」

「おお、なるほどっ!さすがは元冒険者ですねっ。」

「ハハハッ。」

という事は、瞬間移動と空を飛ぶ特技さえあれば、

わざわざ膨大な経験値を費やしてコンセンまで習得する必要は無く、

この世界でもパーティーを組む者が役割分担するのは常識のようだが、

そうしてショーンビアは、アンがコンセンを使えない事を改めて確認。

その顔を八剣へ向けると、彼は本を出し、その能力値を見て短く嬉しそうに笑い、

それを覗いたデッドリも頷いているが、

実はその二人の筋力と耐久力の値は一つも上がってはいない…。

そうつまりそれは、それ程までに彼らが鍛えてしまったという事であり、

当然この世界でも、値が低い時の方が能力を上げやすい仕組みだが、

それを外見や雰囲気から判断するのは非常に困難だろう。

その証拠に杯を傾けるセイントの目さえ和やかな宴に浸り、

ハイサンの思い出話に笑うだけなのである。

いつの間にか野に隠れた剛勇を集めこの時を待っていたショーンビア。

どうせアンはその名すら知らないだろうが、

今は迷宮に行っているという残りの六真武将。

その彼らが居る階さえ実は…60階…であり、ショーンビアが見る限り、

新参でやや下位に置かれているその二人さえ動きも良く、

それはハイサンやセイント等では相手にもならない程である。

そう言うなればその強さは、部抜と竜鱗が揃いやっと圧勝できるほどであり…、

片方のみであれば勝機さえあるというのがショーンビアの見込みで、

デッドリと八剣はその上。それに加えこの地にはこれもまた実はだが、

同じ六真武将である灰馬のショダール、それにもう一人もおり、

その事だけでも今のアンは非常に危険な状態にあると言える。

そう彼女が偉業を成したというのは確かに深遠なる迷宮。

だがそれは冷静な目で見ればパーティーの強さつまり

規模が違っても軍の強さであり、

例えば、回復や強力な呪文も使える屈強な戦士がいたとしても、

四方八方から攻撃されるあるいは麻痺や石化攻撃を受けてしまう、

それに目の前の謎解きが困難になる、

または迷って延々と戦闘を繰り返さなければならなくなる等した場合には、

一体どうすれば良いのだろう。

そう当然そんな時には仲間に助けてもらうしかないのだ。

ただその中でもアンが強かったというのは事実なので、

頃合を見計らっていた八剣は彼女に迷宮の事を訊ねる。

「それにしても、これはまったくの興味本位ですが、

アン様が一番手強いと感じた魔物は、なんでしたか?」

「おおっそれはだなー、たぶん70階辺りで遭ったシンシットクルイカンだ。

左右の顔がそれぞれ違い、

その男女の顔に真紅のローブを着た巨人という姿だったが、

男は恋人として冒険者を誘い拒めば激怒し、

女はそれに嫉妬してこれもまた質の悪い脅し文句を吐くという

実に気味の悪い敵で、あれは本当に厄介な相手だったなぁ…。

勿論セイントやハイサンは知らないが、あれと戦うのはやめた方が良いぞ。」

その言葉に、そっと首にあるタトゥーを隠すショーンビア。

八剣はその彼女を救う為にも続けて訊く。

「おおっそれは一体、どういう攻撃をしてきたのです?」

「ああ、奴は強力な雷呪文を使ったのだが、耐久力も高く、

食いしばりを持っていた時には、さすがの私も死ぬかと思ったっ。

当時は100階到達にはまだまだだったが、奴はそれ程の魔物。」

「うーん、なるほどっ。」

「まあ、もう倒したから、出ないだろうがなっ。」

「それにしても…100階とはっ。

ですがそのご功績も結局は、全て貴方様にそなわった知勇の賜物でしょう。

そう愚民が何と噂しようと、私にはそう思えてなりませんっ。」

「まあー、それはそうだがっ。アハハッ!」

勿論言い過ぎている八剣にも腹を立てているがアンを睨むセイントと、

またここぞとばかりにおもねるのはショーンビアに…キャラメグラ。

「まったく、その通りでございます。」

「ええっ。という事は、今は我らもおりますので、

貴方様がこの世界を本当の意味で統一するのも、

そう遠くない未来にあるという事でしょうなぁ。いやぁー素晴らしいっ!」

「ああ、そうだそうだっ。」

「なあー?」

「~いいや、まあ今のは冗談冗談っ。あまりふざけると、これが怒るからなっ。

当然私も、臣下に助けられてきたとは思っている。」

「おおっなるほど、さすがはアン様。

助力した者達も今のお言葉をありがたく思うでしょう。」

「その通りっ!」

「…そうかなー?」

「そうですともっ!」

「今更、何を疑われます!」

その会話には無言でセイントを見るハイサンと、気まずそうに顔を背ける彼。

するとその視線は助けを求めるよう、今も扉の前に立つ侍女へ。

よく見ると彼女は純白のローブにあるフードで顔を隠し、

そこから見えるのは白い細顎のみ。丸みを帯びた小さな銀の肩当てを付け、

その横に伸ばしたハート型のような胸当ての中心には、

縦に薄っすらと線が入り、上の両端にはたった三つの銀の鋲(びょう)で

外側へ傾けた三角形を描くという、慎ましい姿。

だがそれを一々確かめたセイントが微笑むと、彼女も優しい微笑を返した。

「貴方は何も食べないのですか。」

「ええっ…この場にいられるだけでも光栄です。」

すると、そう言ってうつむくだけの侍女を見たショーンビアは

その恥らう彼女を助けるつもりなのか、セイントにも声をかける。

「それよりセイント殿、

最近の生得民は、いささかわがまま過ぎではありませんか?」

「…それは、どういう意味でしょう…。」

「何故なら、まあ考えてもみて下さい。

ありがたい事にアン様は、大嶽丸という大盗賊を討ち、

僅かな規則で生得の争いを抑え、あの魔物が襲来した時には、

臣下の考えがまとまらないせいで遅れたというのに、

やはり最後には自ら成敗され、

その上何故か非難まで受けられて、この余裕ですぞっ。

まさにこの世界においてもこれでこそ傑出した人物というもの!」

「ハハッ!~そこまで言うなっ。恥ずかしい。」

「ですが私としては…、もう少し人々の心や命を重んじ、

素晴らしい君主になってもらいたいのです。」

そのもっともな意見には微笑し、何度も頷くショーンビア達。

ハイサンも似たような態度ではあったが、

それに答えたのはキャラメグラだった。

「確かに、我々支配者達にとっては、セイント殿のような臣こそ必要!

ですがまあ、これは少々考えが乱暴過ぎるかも知れませんが…、

アン様はそのお力で、何もかもが可能であるのに、それを行わず、

…そう本来住民にとってのこのお方は、

大人しくしているだけで外敵と戦って下さるという、

ありがたい存在であるはずなのだっ。

それなのに何もかも我慢され、それをっ…やれ規則が厳しいだの、

やれ傲慢だのと言われてもだなぁー。

堂々としていなければ、それはそれで卑屈だとか言う輩が!

それではアン様が、お可哀相ではありませんか?」

「………。」

「もう止めろキャラメグラッ。恥ずかしいというのに。別な話をするが良い…。」

「ですが、それでは内に悪を秘めた王でしょう。

…万一そうなれば、まあこのような場で申し訳無いが、私は去りますよ。」

ここが幻想世界で良かった。

実はマイクをオフにしていたデッドリは笑いが止まらなかったが…、

キャラメグラはさらに語尾を強め、

自分達はこの築城を機に改めてアンをもり立てると宣言。

明空は、辺境のしかも属国なので呼ばなかったが、

彼らの協力も得て世界を変えると、杯を上げて飲み干す。

そのすっかり気が大きくなった彼にはもう他はただ黙って頷くしかなかったが、

やはり仲が良く、遠慮が無いのはショーンビアだった。

「ハンドシェイキングで酔っているのか?」

「いいやっ、何故だ?…まあ、それでも酔っているというのなら、

それはアン様のご威光にですなっ。」

「アーーハッハ!

聞いたかハイサン、セイントよっ!真に愛い奴!賢い奴らよっ!」

「えっええ、まあ確かに…。」

「…聞いてしまいました…。」

だがその白けた場を締めなおしたのはハイサン。

「うんっ。まあつまりは、考えは様々だが、

キャラメグラ殿の言う事にも一理はある、という事ですなっ。

世界の盟主たるお方は、やはりアン様しかいない!

私もそう思っております。

何故ならトレランスと偶振刃は元々悪の国で、語るも愚か。

対して鮮やか岬といえばこれも、その上の三聖は顔も見せた事が無く、

サウスティーカップのシビル様もお優しいだけで、あの明空さえ、

まあ今は大人しくしていますが、どうも信用できませんからなぁ…。」

「おお、ハイサン殿とは気が合いますなっ。」

そう言って笑うキャラメグラ。

その話の流れから行き着くところまで、何から何までもが強引。

やはりセイントなどは志の高い者の支配こそ王道だと思っているが、

当然それにも、真の強者は弱者の気持ちさえ理解しなければならない

という意味は含まれ、今のアンに納得できるはずも無いのだ。

実はその苦悶の表情を見るショーンビアにとっても彼は有能なのだが、

アンの手前あまり褒める訳にもいかず、また話題を彼女自身へ。

「セイント殿は真面目ですねぇ。

ですが、だからこそ力を持て余すアン様の気持ちが、よく分からないのでしょう。

そういえばアン様、大変失礼ではありますが、お幾つになられましたか?」

「……実は今年で、十一になる。」

その一言には、声も無く驚いたショーンビア達。

勿論セイントとハイサンは知っていたが、

あまりそれをあちこちで言われると、ほとんどの人間は年上なのだから、

甘く見られるという事は容易に想像でき、今迄は黙っていたのだ。

それをこう簡単に言われては…。

だがショーンビアとキャラメグラは一支配者であり、

今更のようにその耳を誤魔化す事はできない。

「…はっ!これはやはりっ…天賦の才をお持ちでしたか!いやぁ素晴らしいっ!

私は勝手な想像をし、年上とばかり思っていましたが…。」

「…まったくもって!私がアン様ほどの頃はというと、そうですなー、

玩具が友達でしたっ。アハハッ。」

もう堪えられん。

そのへつらいと矛盾だらけの世界観にうんざりしたセイント。

その彼が話題をここへつくるかも知れない第二の都について変えると、

アンやキャラメグラも興味を示し、

ショーンビアは侍女を借りると一礼、そして退室。

勿論それには飲み物を用意するという口実を必要としたが、

廊下へ戻った彼女は、足早に右手奥へ。

何事か命を受けた侍女の方は一度城外へ出て

戻って来るとショーンビアに耳打ちし、

その内容とはどうやらシピッドの町を訪ねた者と、

このすぐ下に来ているという二人の使者についてらしいが、

まず一方は、実のところこの侍女の兄でもあるソーンジの天姫。

彼は戦いには参加できないがと100万スペスを寄越し、

勿論それは彼女達にとって吉報以外のなにものでもなかったのだが、

何ともう一方の使者というのは明空のジュウアミという者とその供であり、

この築城は何事かという詰問の為に来たようで、

それは今駆けつけたメタルという将軍に説明させているという事だ。

「おおっ100万スペスとは、さすがソーンジ…。気前が良い。

この事は覚えておこう。それで、お前の兄は元気そうだったか。」

「はい。」

「うんっ。では問題はー、その明空の使者だなぁ…。」

「フフフフッ…!」

「どうした?」

「それが…まったく情けない事にその使者は、私達の話を鵜呑みにし…。」

「…ハハッ!」

「メタルをアン軍の将軍だと、信じた様子。」

そう例えば…ただ城を築き宴を楽しんでいただけであるのに、

一体何を騒いでいるのか分からんと申せ、

私は主君からそう伝えるように言われました。

今は生得国の将軍役であるメタルがこう言えば、

無能でなくても無知なジュウアミは、帰るより他あるまい。

後はこの報告を聞いたラフターがそれを信じるかどうかだが、

侍女にとってもそんな情けない奴より、今はアンの思考が気になるようだ。

「勿論見てはいましたが…貴方の手応えはどうです?」

「うん。そろそろデッドリが、自身でも神出鬼没を見せ、

アンの蝶を伴ってのそれも見せてくれと頼み、

生得城へ行って帰って来ている頃だが…、

ハイサンやセイントが止めているかも知れんし、戻った方が良いかな?」

「いいえ。アンと離す計画のハイサンにはですが、

コンセンが封ぜられた消玉を渡しますので、

いざという時にも困らないと説得できますし、それでも断られた場合には、

デッドリも失望を匂わせるという計画ですので、問題は無いかと…。

まさかあのハイサンとセイントが、礼を欠くような真似はしないでしょう。

更に言えば、助けに来た配下が屋内でコンセンを使っても

天井にぶつかる恐れもあり、既にこの城の東側にも兵を配してありますので。

それよりもしも竜鱗が来たら、私に戦わせて下さいませんか。」

「ほう…それは、何か因縁でもあったかな?」

「いいえ。ですが興味があるのです。あのすまし顔の実力に。」

「ああ、良いだろう。だが…今奴は留守のようだぞ。

部抜ではダメか?」

「…部抜っ?!

まあそれでも構いませんが、いずれにせよ兵は使わせてもらいますよ…。」

「ハハッ!…好きにして良い…。」

その言葉に口元をゆるめ頷く侍女。

という事は彼女も六真武将の一人。実はヒルイという名だが、

最後に彼女はショーンビアに、何故プレイ達を誘わなかったのかと訊き、

その訳とはどうやら、まだ彼にはアンに対する忠誠心が残っている…

という噂もあるらしく、その事への警戒だろうが、

真偽はともかくとして、そんな危ない橋を渡れないのは当然だろう。

そう諭すと宴席へ戻るショーンビアに独りごちるヒルイ。

「…なるほど。私も用心深くなければ…。」

実はこの後ヒルイは、配下が持ち帰ったプレイ達の隠れ里の情報が誤りで、

それは、虎陰、斜妖、栄主利(こかげ、しゃよう、さえずり)

という名のまた別な忍者達のものだと判明するのだが、

その彼らの事はまた後で語るとして、

今はやはり連合軍の総大将ショーンビアの様子を見てみよう。

ゆっくりとテーブルへ歩く彼女。

その堪え切れない微笑は寧ろ上機嫌なアンへ向けられ、

次にそれは、あたかもその幸福を祝うようハイサンやセイントへ。

両かかとを上げたデッドリに首尾は上々と知らされた彼女は

ゆっくりと進路を変えると、窓から遠くを見下ろす。

その今は赤く光り、両方が醜悪な笑みを浮かべたタトゥーに触れ、

そのまま揃えた指先で首を切る仕種を見せるショーンビア。

それを森から見上げていたのは、

眉間にしわを寄せるつちまみれ・剛と…その愚痴に応えるAZAKIだったのだ。

「確かにあの合図は聞いていたが、

あれに総大将を任せて本当に大丈夫なんだろうな?

見ろっ、あれじゃあ完全に危ない奴だぞ!」

「うむ…だが、我らが欲したのは実行する大将。

つまり今は、彼女を恃む他あるまい。」

そう実は、キャラメグラと衆牙は直前まで知らなかったのだが、

生得解放戦線とも結んでいたショーンビア。

そうつまりこれは南偶振刃も含めた四国連合という事になるが、

そのすぐ後ろに立つのは、

肩当ても丸く黒一色で飾り気も無いが、胴も太い重厚な大鎧を着け、

その前で逞しい二の腕を組み、また黒く幅広のズボンをはいた脚も堂々とひらく、

六真武将のショダール。

明空の兜を捨てた今もその巨体の上で怪しく光る仮面には、

実は頭部を守る部分から同じ幅のうなじ当てまであり、

その後ろに控えるコボルト兵も四十…。

衆牙も三十、生得解放戦線は義勇兵も加え何と五十人と、

三軍とも目塞を使い、足りない分は使える者を雇ってパズラーからも隠れ、

だがその総兵力百二十が与えられた策を知る者は僅かであり、

野次馬らしき者も無いまま、宴は最終局面を迎えつつあった。

そこで一歩退き、肩越しにショダールを見るつちまみれ・剛。

だがその視線はすぐに、AZAKIの背中へと移っていた。

何故こいつらが…と、確かに初めはそう言った彼だったが、

もう策の直前という段階になってからこの頭領が聞かされたのは、

何と生得国の事だったのだ。

それを欲すのは誰か。

それは生得解放戦線だ。

では私がAZAKIへあの地を譲った場合、君が住む偶振刃はどうなる。

そう生得を得た日には偶振刃から出て行く

という約束を解放戦線にとり付けていたのはやはりショーンビア。

それにはつちまみれ・剛も納得するしかなく、改めて参戦を誓ったのだった。

まだつちまみれ・柔の考えは分からないようだが、

彼ら最強の暗殺集団にとっては労せずして叶う、偶振刃統一。

だがその鍵となるAZAKIの隣にいたのは、感慨深げな険連一人だった。



幻想世界暦一年、起の節(きのせつ)
神の一族とも噂される最初の住民二百人が生まれる。
彼らは生得の町に住み、誰でも自由に城へ出入り、
農耕や狩猟、商いを楽しみながら暮らし、
その後神・世が大陸の魔物を一掃、真の平和が訪れる。

幻想世界暦二年、承の節(しょうのせつ)
キャラメグラがジェンダや他数人と共に召人原へ移住、
アハインをつくる。

幻想世界暦二年、転の節(てんのせつ)
この時率いていた者は不明だが、
また生得から数人の狩人がグリーンレイクの北へ移住、
シピッドをつくり、そこで盗賊になる者も増えた為、
それを嫌った住民が鮮やか岬へ移住して町をつくる。

幻想世界暦二年、結の節(けつのせつ)
初代ブリガンテ含む盗賊達が西北部にトレランスをつくり、
しばらくしてその南にはいつの間にかデュプルアイが誕生、
そこを拠点とし、
鮮やか岬では各地の戦士達を集め、三聖が騎兵隊を結成。
生得では大嶽丸なる大盗賊団の頭目が城を占拠、
また西部の拠点として偶振刃もつくる。

幻想世界暦三年、起の節
一人の農民が迷宮を発見。
それと共に誕生以来の住民はほとんど姿を消すが、
そこにアン達が生まれる。
ラフターは生得から嘉吉原へ移住して明空をつくり、
シビルは雌龍川から南へ移住、サウスティーカップをつくる。

幻想世界暦三年、転の節、
ソーンジがブリガンテの許可をもらい、
元々住んでいた中央を拠点とし、
だがその頃から度々デュプルアイと衝突。
ついにブリガンテの仲裁を受ける。

幻想世界暦四年、承の節
アンが大嶽丸を討ち生得城を奪取。
その数日後、衆牙が偶振刃の支配を宣言する。

幻想世界暦四年、転の節
アンが迷宮の100階へ到達。
程なくして部抜がアハインへ独断で侵攻し、ジェンダに敗北。
代わりに明空が従属するも、
アンは以前から不満をもっていた二つの派閥と断交。
現在もプレイの行方は不明だがAZAKIは偶振刃へ移住し、
その南で生得解放戦線を旗揚げする。

そして幻想世界暦五年…起の節、五星達が生まれる。

その後の世界では、

生得に住む灯が賞金首だと発覚。逃亡は成功したものの店は破壊され、

彼女らを捜索する為に派遣されたトメントが数人の配下と共にトレランスへ行き、

ソーンジと小競合いを起こし、一騎の末敗北。

結局はソーンジが天姫を使者として10万スペスで和解し、

また生得には青目の予言通り謎の召喚獣魔神の手が襲来。

二十七人が消滅する大惨事となるなど数々の事件が起きた訳だが、

それを言うなら今このグリーンレイクで起きようとしている事こそ実は、

大事件ではないだろうか。

黒々とした草原には雲間から白い空が覗き、

おぼろげだが幾重にもなったその覆いは天と地を裂き、

微風が草々の先を揺すぶり、

その寒々とした中に小さな紫の花を見つけた白いドレスの女は、

そっと手を伸ばし、だがその静かに垂れていたはずの黒髪の間から、

目を見開いていたのだ。

…数はさほどでもないが北から馬が来る。

おまけに雨が降りだし、地を叩く音はさらに慌しくなった。

先頭の男は二振りの黒剣を背負い、その鉄仮面は雨粒を吸って不気味に光り、

続くのは紫のローブを翻したこれもまたフードを目深にした集団。

その八騎の前を走る二人だけが、左肩に細長く鋭い銀の肩当てを付け、

それから伸びた鎖は右手にあるまた銀の大鎌へと繋がれ、

勿論ドレスの女は胸に手を当て後ろへと退いたが、

それに振り返る者も無く、一団は一直線に巨城へ。

だがそれは城へ達するかという直前になって東側を縫うように走り、

その東南にあった、兵と馬の群へ。

そして意外にもまずその敵意に振り向いたのは

この挙を知っていたシピッド兵ではなく、その南に居たアン軍だったのだ。

「…何だあれっ?」

数人は湖へ見回りに行っているが、

もっと油断しているかと思えば中々真面目なトメント達。

まだ漠然とではあるが当然そのローブを知らない者はなく、

皆立ち上がって声にする。

「ああっ、あれは生得解放戦線っ!!先頭は…闇鎧戸だっ!」

「まさか!シピッドが目を光らせているはずではっ?」

「…嘘だろ…?」

「いいや~あれは確かだ!だが、数は少ない!迎撃しろっ!!」

「馬鹿、敵は騎馬隊だぞっ!!」

そう敵はたった十一人でも騎馬隊。

更に言えば、個々の強さに差のあるこの世界においてのその戦力は

今のところ情報も無く、目塞も使われているのでまったく不明であり、

その大きな動揺に白々しく剣を出し振り向くコボルト兵達と、

その眼前で黒馬から伸びたのは、二本の黒剣。

やはり次の瞬間鳴り響いたのは決死の金属音だったが、

後ろから続く者達も、今は雨とで白煙を伴った炎を走らせ、

巨大な氷に数人を閉じ込め、あるいは大鎌を振りまた切り裂いて突っ切り、

後には三本もの巨大な岩の槍を立て、

それに当然の如く吠え叫んだコボルト兵達は、無防備に宙へ舞う。

「ぎゃん!!」

「~ぐぅ!!」

あるいは既に彼方此方へ投げ出され、それきり動かない者も多数。

「どこから現れたっ?!」

「だが相手が誰だろうと、アン軍を守れっ!」

実はこのシピッド兵は皆生まれたてで、要するに死を受け入れた者達なのだが、

何も知らないトメントはそれには及ばんっと勇ましく胸を張り、

あの得物を出すと迎え撃つ姿勢を見せ、

まだ事実と受け入れられない者もいたが、それに習う六人のアン軍。

一瞬振り返ったトメントはそれでも皆盾になってしまったなら

それを助ける者も無くなると即断し、来る敵へ両足を開く。

「来るなら来いっ!!~おおそうだ、誰かアン様へ知らせろっ!!」

「もう行きました!」

ドドッ…!

するとそのトメントと六人は騎馬の衝撃にのけ反り、三人は倒れてしまったが、

呪文や大鎌までかわし、あるいはその馬腹を蹴って転がった残りは、

何とかダメージを受けずに済んだようだ。

「良い調子です!時間稼ぎしましょう!」

「お、おおっ!誰か回復を頼むっ!消滅した者はいるかっ?!」

「今のところ一人のみです!

…がっ、コボルト兵には多くの死者が出たようで、また来ます!」

「それは分かってる!!」

見てはいないが当然の事と答え走るトメント。

彼は残ったたった七人のコボルト兵もまとめると、そこから西北の城へと走り、

だがそれを察した闇鎧戸はまた素早く向きを変え、東南から突進!

「き、来ますよ?!」

「えーい、いまいましいっ!だがいくら馬術に長けた相手でも、

ここでは動きを止めない訳に行かないだろう!」

その言葉より前に、橋脚の影で呪文を用意していた四人。

だがそこへも闇鎧戸の命令一つで矢が飛びまたばたばたと倒れ、

激突し、あるいはその寸前で斬り、蹴散らし、

また風の刃で切り裂いていく解放戦線。

見回りしていた者達も帰って来たが、やはり彼らを止められる訳もなく、

アン軍は大いに狼狽。

「や、やっぱり強いっ!退きましょう!!」

「退けるかっ!!」

「いいやっ、ここは退いても良いと思いますよっ!!」

「何故、解放戦線がっ!いいや~、ありえた事だっ!!」

それは正しかろうが当然今はそれをどうこう言う時ではなく、

橋脚を過ぎ剣を構えるトメント。

すると西へ貫いた解放戦線達も、ある者は馬の背に倒れ、

またある者は振り落とされその馬は勝手に走り出しと、

どうやら襲撃を続けるかどうか…迷っているようだ。

「おお、やはり!こちらの攻撃も当たっていたのかっ!

見ろっお前達、今こそ密集陣形だ!!」

「待て待てぇーー!!」

だがその時、橋から飛び降りて来たのはハイサン。

彼はすぐにセヨを使い馬まで飛ぶと、それにまたがり、残った兵へ叫ぶ。

「命により追撃いたすゆえ、半数はついて来いっ!!」

「おうっ!」

「こうなったらやってやる!」

その息巻く兵達に、急く身を抑え視線を解放戦線に戻すトメント。

すると、さっきまであれだけ勢いのあった彼らは

名高い老将を見たからか今は西の森へと向い、どうやら撤退を始めたようであり、

対するハイサンはそのトメントの前で、しばらくは兵を待つ構えだ。

「そうだ、忘れるところだったわ。お前達五人は、セイントの元へ!

そしてお前達は、この事を生得へ知らせるのだっ!!」

「はっ!」

「そしてトメント、お主は残り、ここで兵をまとめよっ!」

「わ、分かりました!ですが、アン様はご出陣なさらないのですか?」

「出ない!出る必要も無いわっ!!

しかし、実は窓から見ていたのだが、あれが闇鎧戸とはなぁ…。

報告を聞いたアン様も少々驚いておられたが…デッドリ殿が出るというものを、

みすみすこの機を譲る訳にもいくまい!あれは元々我らが敵っ!」

「そ、それもそうですねっ!ではっお気をつけて!」

「はぁっ!」

そう一声、八人を連れ疾走するハイサン。

そして実は、既にショーンビアから白い高級ドレスを贈られ、

それに着替える為あの銀の間に更にもう一段増築していたアン。

広さは下と変わらないが、そこも贅を尽くし味わい深い光を放つ黄金の間であり、

家具は無いが、壁には灯火と数多の戦士が争う大彫刻。

そのドレスとは大胆にも肩紐だけのもので、

だが段々と膨らんだスカートからもまったく足が見えない程ではなく、

特に胸元にある花の刺繍が気に入った彼女は、

同じように赤いドレスを着たショーンビアと楽しんでいたものを、

そこへわざわざハイサンを連れたデッドリが来て、

「何もご自身で出られる事はありません!

恥ずかしながら我々としましては、宴へ誘っておきながらのこの不手際!

ここは私が行き、一気に打ち破ってご覧に入れましょう!」

などと言ってしまったものだから、今はこのような事態に…。

しかも今のアンの持ち物といえば、

鎧、小手、ブーツ、着ていた服、剣、剣、強聖水を一つだけを持ち、

後は箱に預けてしまうという情けなさではあったが、それも仕方無い事だろう。

憐れにも本来の傲慢さに策を受けた彼女からすれば…闇鎧戸は夜襲に失敗。

今はハイサンに追われる身であり、

セイントも一応の警戒の為銀の間におり、吉報を待つばかりなのだ。

ではここで気になるのは、これをパズラーが気付いているかどうか、

これを見ているかどうかだが、結論から言えば、彼は見ていた。

だがその千里眼から見ても、

装備は強くとも闇鎧戸はやはり生まれたてであり、

そんな敵に比べれば30階一人歩きのハイサンは、猛将の中の猛将。

数も同程度で、セイントの忠勇にも恃む気持ちがあり、

その鼠を追う猫を助けてどうするのか…という理論は、

綺麗に成り立ってしまっていたのだ。

それに加え実は、ついさっきハイサンが放ったはずの伝令も、

途中で二人とも斬られている。

ではそれを斬った衆牙は今どこにいるのかというと、

彼らは東の地平線の向こうで、残った馬とグリフォンを斬る機会をうかがい、

AZAKIはグリーンレイク沿いの森へ移動。

これは兵を分け過ぎな気もするが、

実は圧倒的な戦力を有する場合に敵を囲むのは、常套手段。

そしてショダールはというともうそろそろハイサンへの伏兵の役を、

配下へ任せようと考えていたのだ。

「…おのれっ、ここで伏兵とはやられたわ…。」

確かにシピッド国の裏切りにも驚きはしたが、今はそれどころではなく、

残った五人と共に背中合わせに睨み、つぶやくハイサン。

それを聞いたショダールには悪い癖が出たようだ。

「ハハハハッ!正確には、夜襲に失敗と見せかけての伏兵だが、

まあまあ楽しめただろう。だがもう終わりだ。やれっ!」

そのコボルト兵が振り下ろした斧を、肩を内側にかわし、

そのまま斬り上げるハイサン。

「おおっ、見事見事!」

そうこの男に一体何が見事なのかと訊けばただ、勝ったからだと言うだろうが、

気では負けていないハイサン。

「ではお主が相手をしてはどうだっ?」

「私はお前より強い…。」

「ほうっ!それはどうかな?確かにわしも、幾度かは消滅した身だが、

その分戦いにもなれ、今ではそうはいかぬぞっ。

それにな、不義を成す輩に強いのは、今も昔も同じよっ!」

「ほう…。だが今は逃げるのが上策ではないか?

あの消玉でも使えばー。」

「いいや、これはアン様にとっておこう。当たり前の事だ。

それにしてもお主は…ハハハッ!まるで黒坊主だな。

格好ばかりつけおって!

そうだ、いっそ剃髪(ていはつ)でもして、修行し直すが良いわっ!」

「回復する為の道具が尽きたな。」

「…試せば良い。だがお主も武士なら、まず私と戦え!」

その勇ましい言葉に仮面の中で笑うショダール。

だが丁度その頃白銀の間では、キャラメグラが怯える演技の真っ最中だったのだ。

「わ、私はどうすれば良いのだっ!そうだっ!私は、アン様のそばに居ようっ!」

落ち着かせようとしているのはデッドリとヒルイ。

「それでは私もっ。これは当然ですが、

何かあった時にはアン様や貴方をお守りするようにとの、ご命令ですので。」

「それが良いでしょう!」

「では、私が西側を見ますので、セイント殿は東側の警戒をお願いします!」

「ええっ。」

八剣にはそう答えながらもそれは兵達に任せ、

今は胸にあの大盾のような鎧もつけ、自身では入口を見るセイント。

手にあるのは、柄が太く鍔の先が幅広になった金の剣。

突然の侵入者を迎えた彼は早速それを構えたが、それもまた味方の兵だった。

「またどうしたっ?!…まさか、ハイサン殿が!」

「いいえっ!

ですが…解放戦線が、いいやっ、AZAKI達が階段を上って来ます!!」

「何ぃっ?!」

身を乗り出すと同時に左手の炎を消すセイント。

まさか闘志を消してしまった訳でもないだろうが、

それにしてもAZAKI自身が来るとは…。

そう彼にとってたった今外にいるのは、この襲撃の頭目であるのは勿論の事、

大陸最強の土術師。

だがまだ援軍とそれにショーンビア達という希望もある。

「数はっ?!」

「それは~何故かですが、わずか十数人で!」

「そうか、では早速私が行こう!聞えたろうが、君達はここを動くなよ!」

「はいっ!」

こうなると当然、アンはショーンビア達と居るのだから、

自分には八剣の応援が欲しいセイント。だが言葉通り西を警戒していた彼は、

居館へ飛んで来た敵影を見つけ、窓から出て行き、

当然急ぐセイントはそれを事実と確かめる事も無く、

兵と共にあの門をくぐり…橋へ。

出ると目の前に居た者はどう見ても解放戦線だったので、

斬って斬って、押し落とし、

だがその敵が聖水で回復しながら走った階段の上り口辺りには、

もう彼の想像を遥かに超えた敵が押し寄せ、一見してその数は…約五十。

トメント達数人は上りきった辺りで防いでいるが、

それもいつまでもつやらという有り様である。

「ううっ…しまった!おい、君は飛べるかっ?!

とにかくすぐ部屋へ戻り、この事をアン様にご報告…。」

だがその彼には、

話しかけたその味方を斬って落としたばかりの銀の肩当ての敵が、大鎌を振り、

すんでのところでそれを受けるセイント。

「そこにも居たか!隠れるのが上手い奴らめっ!!」

「アハハハハハッ!だがそれを言うなら、衆牙こそ名人よ!」

「…何、衆牙っ…?!」

言いながらも、左手で足元を燃やし隙をつくると、

押して剣を滑らせ、薙ぎ払い、突きながら見るセイント。

するとその東南では、

衆牙がグリフォンの上に立ち、あるいは馬を斬り、遠くへ追う姿が…。

「おおっ頭領、あれはセイントですよ!」

「…来たかっ。だがオレが待っているのは、別な奴だ。」

そのつちまみれ・剛は彼に一瞥もなく北東を見詰めているが、

さっきの大鎌はまだ死なず、

飛び跳ねてその地を這う風呪文をかわしたセイントは、そのまま顔を蹴り、

空中で炎を放つ。

「う、くそぉっ!!」

「良し!だが、意外と強いなお前!幹部候補かっ?!」

ではこれはその試練と思え。

そう言わんばかりに斬って斬ってやっとそのもう一人も落とし、

トメントへ走る彼。

「よく食い止めたな!後はオレが戦おう!

それより君はこの事を、早くアン様へ!!

そうだ、奴らには衆牙もついている事を、言い忘れるなよ?!」

「はいっ!…あっ…。」

だが無情にもそのトメントの眼前に現れたのは、巨大な岩壁で、

それは轟音と共に彼らと城を分断すると、一撃で橋を破壊…。

すぐに向き直ったセイントが破片に視界を奪われながらも見た者はやはり、

両手を上げるAZAKIだった。

「ワハハハハハッー、久しぶりだなセイントォーー!!

今までただただ恥辱に堪えた私は、

この一戦の為に生きてきたようなものじゃわいーー!!」

「…くっ!逃げれば良かった…。」

「それよりどうだっ?!

相変わらずの、いつ盾にされるかという気分はっ?!」

「そんな情け無い心が私にあると思うかっ?!」

「それよりどうしますっ?!

そうだ、私が飛び降りて西側へ回り、窓に向かって合図しましょうっ!」

「分かった、ではすぐにっ!

この上には銀の間があるのだが、

そこに居る誰かにアン様への伝言を頼んでくれ!」

「はいっ!」

それにも素早く頷くセイント。

彼の考えでは、特技・大跳躍を中級まで上げ、十六メートルは跳べるとしても、

2万4000という経験値は、

この場にいる何人を斬ってもそう簡単にはためられず、

進言を容れられたトメントは慌てて失敗する恐れもあり、

落下して死ぬ事は無いと知りながらも実感としての高さがあるので、

まずは見下ろす。

するとそこに居たのは、何とコボルトを率いたショダールの一団。

「おおっ、これは良い所に!」

「…いいや待てっ!では何故、偶振刃の者達と戦わないっ?!」

「ハハハッ…!誠実過ぎると、頭も鈍るのか?」

「…な、何ですっ?!」

「もう良い!奴らも、ショーンビアもこいつらの仲間だ!」

「そんな馬鹿な…。ではっ…もう援軍を待つしかありませんよ!」

「確かに!それにさっさと我らを殺さないのもおかしい!」

…そうだ、では今のアン様は敵に囲まれている事になる。

そう当然のようにセイントが察した時、

先の両側から順々に橋へ伸びる灰色の蔓に刺され、呻く味方。

「がっ…!」

その突き刺された三人は橋から離れた場所で足をばたばたとさせ、

あるいは放り出されて敵兵の餌食になるなど、

これで彼らが死にハイサンが連れていった兵を除けば

出た者は全滅した事になり、対する敵は膨れ上がって百以上。

セイントも内心では舌打ちしながらも、自分に来た蔓を焼く。

「はぁっ!」

勿論味方の物もそうしてやりたいが、

その蔓も簡単には消えず、絶えず薙ぎに、突きに、叩きつけに来て、

今は時間稼ぎしかできない。

「いいやだがっ、何とかアン様だけは!」

「でも私が言うのも変ですが、死んだら終わりですっ!」

「フハハハーー!!」

後ろに来た険連にも気づかず、不気味に笑うAZAKI。

彼は続けて、両手を胸の前へ持ち上げ、そこから次々と炎の風車を放出。

その扇大の気は宙の彼方此方へと散らばるとセイント達を囲み、

両指先で空を切るAZAKI。

するとその炎の風車はまた次々と二人へ襲いかかり、

橋のいたるところを燃やし、あるいは鋭く痛々しい音と共に焼き崩し、

当然トメントなどはもう必死になってそれをまたぎ飛び回るしかなかったが、

セイントは冷静にAZAKIの手を見つめ、紙一重でかわす。

「おおー、フハハハッ!中々上手いではないか、セイントよっ!

だが、もっと速くもできるぞっ。」

「確かに。ですが…だからこそ、遊び程度にしましょう。

余り奴にこだわっては、勢い余って皆殺しにしてしまうかも知れず、

もしもそのような事に相成れば、この後の策は成立しませんので…。」

という事はまだここで決着をつけるつもりはなく、

彼ら連合軍の考えでは、君主であるアン自身だけではなく、

生得軍自体をある程度叩いておきたいのだろう。

そう例えば、もしもアンを討っただけで退けば、

その後部抜がシピッドへ攻め入るのは当然であり、

その必然とは逆にいつアン軍が攻めて来るかは分からず、もしもそうなれば

自分達の損害は少なく敵の損害は大きくというショーンビアの狙いは、

外れてしまう事になるのだ。

だが中々に手強い…。

そう感じたのかただただ面白くないAZAKIは、また兵を繰り出し、

それには上級者のセイントさえ、

何か策はないものかと考える間もなく、槍をかわし、剣を受け、

後ろに居て脛に燃えついたトメントは、動揺し転倒。

仁将はそれに、薄青く輝く強聖水の小瓶を投げ、

受け取った愚直な若武者は、ありがたくそれを胸の中で割った。

さて丁度その頃黄金の間では、ショーンビアも同じような青い小瓶を取り出し、

それをアンに差し出していたのだ…。

漂うのは、賢者も酔わす魅惑的な香り。

だが今ばかりはいくら剛毅なアンでも、それをつける気にはなれないようだ。

そういつの間にかキャラメグラも居なくなっていたが、

またそれとは無関係に憤慨するアン。

「…遅い!ハイサンはまだ戻らんのか?!

そうだ、それに隣の部屋にいたセイントはどうした?セイントッー!」

「まあまあアン様…やはり彼は忠臣。

今は解放戦線が上って来るという報を受け、迎撃に出ているのです。」

「何っ…敵は逃げたのではないのかっ?!何故それを知らせんっ!

それにしても、ええいっ甘い奴めっ!

大体、真の忠臣なら、私のそばを離れないものだぞっ!」

「…はい、その通りです。

我らを信じたとはいえ、やはり離れるべきでは、ありませんでしたなぁ…。」

そのショーンビアの言葉に黙ってその前へ、右手に大鉈を構えるデッドリ。

振り返ったアンの視界にあるのは、彼とその背景である大戦の彫刻。

そう彼女にとって今迄もそこに居たはずのデッドリは、

まさにそこから這い出てきたかのような不気味さであり、

気付いて走り窓を開ければ、

下にはやはり誰とも戦ってはいなかった、二刀流の八剣。

彼は数人のコボルトと共に見上げ、

すぐ先の橋では、

何とあの憎きAZAKIが執拗な呪文攻撃でセイント達を苦しめ、

その周りで野蛮な声を上げ彼を煽り立てるのは、百以上の敵兵。

その上彼方此方には味方の兵が倒れ、その光景には身を乗り出すアン。

遠く西を見れば、

森から逃げて来た味方もコボルト兵に切り刻まれ、

その手からは消玉がこぼれ落ち、

またその南では、衆牙が一人を三人以上で囲み、次々と死角から攻撃。

一人また一人と討ち取り、一方的になぶり殺しにしているではないか。

という事は…ハイサン隊も壊滅…。

そこでゆっくりと宙に浮きながら言ったのは、八剣だった。

「ですが、そろそろ決着がつきそうですねぇ。

ただ、意外にも逃げる兵は少なく…、

わがまま放題だったにもかかわらず、羨ましい限りです。」

その台詞にも包囲された今を、そうまだ悪夢の夜を見つめるしかない彼女…。

その全身へまとわりつく負は深かったが、

やっとこれがシピッド国の謀略だと、確信できたようだ。

そこで口を衝いて出たのは、わななき高ぶる声。

「…お、おのれ、ここは我が国…我が世界ぞっ!

あれは何をしているっ…。あ、あれはっ?!

ここにあるものはただの草一つも、我が意に反してはならんのだ!!」

…もう違います。いいえ、元々違いましたっ…。

ではそろそろと壁から突き抜けるほどに大鉈を振るデッドリに、

まるで天敵に突かれた小魚のように身を揺らすアン。

セイントは敵を斬りながらもそれを見上げ、思わずつぶやく。

「…アンッ…。

~いいやアン様!今このセイントが参りますっ!!」

敵に振り向いたアンの体は少しずつ装備に包まれていったが、

同時にそれは、煙のような黄色い光に巻かれ、紫の閃光で貫かれ、

その能力低下と状態異常の中で、更にデッドリの連撃を受けてしまい、

更にその背には八剣の二刀流が立ち、また振り返る彼女…。

するとアンの体に立ったその刀は、不思議にもひとりでに飛び返り、

もう一度その胸を貫き、

またその二振りを素早くつかみ、更にゆっくり上昇する八剣。

「今迄お疲れ様でした。後は我々にお任せを…。」

「アン様ー!」

また叫ぶセイント。彼はAZAKI達に炎を放射。

いつの間にか後ろにいたコボルト兵も斬り、

だがそこで橋が断たれていた事を思い出すと、

もうアン様と殉死するしかない…と絶望の声を上げ、続けて下の衆牙達にも、

悔しいがお前ら如き雑兵へこの首をくれてやる事になったなどと感情を露に嘆き、

言われた兵は驚くばかりで黙っていたが、

その後ろにいた者はやはり怒ったらしくすぐ隣の者に頷いて一直線に飛び、

だが跳躍してその肩と頭を蹴り、門前に着地するセイント。

「なっ…だがそのまま行かせると思ったか!!」

「そうだ、まずこれを喰らえ!」

彼はその扉へ放たれた鎖鎌の分銅をかわし、そのまま炎を放射。

もう一人は両手に爪を出して向って来たが、

それも体勢を低く肩からぶつかり背中へと投げ、

続けてまた狙いを定める前のもう一人にも連撃。反撃を受けると、

回復しながらもう片方でつかんで落とし、

なおも阻む両爪の敵には剣を向け、

来たところを足で押さえてその顔を何度も斬りつけ、空いた反対で燃やし、

その隙に門を開けるとそこにも数人のコボルト兵が居たので、

また剣を向け威圧。

また彼らが怯んだ隙に、装置を使い、銀の間へと辿り着いていたのだ。

当然そこにも八人のコボルトがおり、立ち話をしたり、

あるいはアン軍兵の持ち物を漁ったりしていたが、

セイントは右の五人へ炎を放射しながらも、

左手の床でうずくまり皮袋を手に笑っていた者の腹を蹴り、

その無防備な体へ滅茶苦茶に剣を走らせる。

「うぐっ、何しやがるてめぇ!」

「こ、これは誰だっ?!」

「あの大人しそうな奴だ!オレがやるっ!」

言って向って来た者は殴り、蹴り、その後ろへは剣を投げつけ、

死体から槍を取るとそれを振り回し、先をキャラメグラへ向けるセイント。

だが一瞬追って来た者にも肩越しに睨むとさすがに疲れたのか、

息も絶え絶えに言う。

「…そこをどけっ!!」

「だ、だが…もう遅いぞ?」

だがそれを聞くと全身に赤い気をまとい、ただつかつかと歩み寄る彼。

目を丸くしたキャラメグラは顔を隠し、兵と共に窓の方へ退き、

その後ろに隠されていたのは王冠の背もたれ。

怯えるキャラメグラに言われた通り肘かけの裏に触れると、

飛んだ先の艶やかな金の床には壁の灯火が映り、

そこへも火を灯したようであったが、

こちらを見た八剣はゆっくりと壁に歩き出し、

その後ろには鉈を背負い仁王立ちのデッドリ…。

ヒルイは右奥でショーンビアのそばにあり、

ショダールは左奥の壁にもたれかかり、腕組みをしているではないか。

もっと仲間として接するべきだったか。

だが純粋だったアンはAZAKIの独善的指導により一切耳を貸さなくなり、

プレイまで同一視して、冷遇するようになった。

いいやだが私達も、アン様にアン様であって欲しいと願うばかりに

彼女が人と接する事を阻み、私心によって独占しようと…。

そうつまり自慢したり、金にしたり、

また別な交友関係を築くという自分達の利益を維持する為だけに、

臣下を続けたのではないか。当然憎むべきはAZAKIだが、

臣としてはその時に何もできなかった、私も同罪。

そう何もかも知っている私から見れば、

厳し過ぎた、甘やかし過ぎたというより、アン様はやはりただの子供で、

我々は凡庸な上、邪だったのだ…。

だが、

もう済んでしまった事などと思えるほど、この絆は浅くない。

「どこへやった?」

「ほうっ、これが見えぬか?」

そう軽い調子で返すショーンビアが指差したのは、

今は敷物のようになった純白の体。

予備の短剣と盾で飛びかかるセイントと、それを受ける八剣。

ショーンビアはヒルイに我空間を解かせ、

その光り輝く空へと飛び立ってしまったが、

何とそれを好機としたのは起きた竜鱗に留守を任せ、約四十騎で急行した部抜隊。

「見よっ!我らの進軍に、天も祝福されたぞっ!!」

「おうーーー!!」

「な、何だっ?!」

「アハハッ、今頃援軍かー。」

「それは油断し過ぎだろ…。」

だが、陽にかざした大剣を輝かせ、突撃する部抜。

その一塊の隊は勝ちに油断した東にある連合軍を蹴散らすと、

雪崩のように橋へぶつかり、ものの数秒でそれを木っ端微塵に破壊!

上で戦っていたトメントやその敵は落下し、

それには執拗なAZAKIも舌打ちをして飛びかわしたが、

そこで徹底抗戦を命じる。

「あれこそ我らが待っていた敵っ!!それ、皆殺しにしろぉーー!!」

「それはこっちの台詞だ、じじいめぇっ!!」

叫ぶと馬首を返し、予備の剣を投げる部抜。

AZAKIはそれを薄青く光る呪文盾で弾くと更に後方へと飛び去り、

アン軍の先頭は鉄壊も使い、約三倍の敵を突破。

中には槍と槍がぶつかり隙間ができた事で助かった者もいたが、

多くはその先に切り刻まれ、あるいは固く握られた剣に薙がれ、

滅茶苦茶に射られた矢さえ余りの標的の数にほぼ全てが敵の体に立ち、

その激しい攻撃に連合軍は混乱する者も出る始末。

「押すな馬鹿!!」

「退けぇっ!あんなのと戦っても、死ぬだけだっ!!」

「今のは誰だっ?!まさかアン軍の流言っ?!」

「良いからもっと後ろへ行けっ!!」

「飛べる奴は飛べよぉっ!!」

「衆牙がさぼってるんじゃないかっ?!」

「うるせぇこらっ!!」

続けて部抜は特に呪文を準備する者を狙いながら、それを繰り返す事三度。

そしてその余りの不甲斐なさにAZAKIは、険連にまで文句を言う。

「~ええいっ、何だあれは?!あれでも訓練したつもりか!!」

「まあ、落ち着いて下さい。」

「何でも兄ちゃんのせいにするんじゃねーよっ…。」

「わ、私は…お前にも言っているのだっ!!」

つぶやくように言ったつちまみれ・剛にさえ当たるAZAKIだが、

部抜は突然城の前で止まると、素早く命令。

「全軍止まれ!城を背に戦うっ…!勝てなければ、死あるのみ!!」

「おうっー!!」

「ですがそれでは、せっかく勝っているものを…逃げ場が無くなりますよっ?!」

そう言ったのは何と彼の背中に隠れていた…アリス。

本来はサウスティーカップの兵だが、

彼女個人はアンをそう悪くも思わず、今は義勇兵としての参加だろう。

「だがっ、四方八方を囲まれるよりはましだろっ!!

業を煮やしたAZAKIも、そろそろ強力な呪文を使ってくる!

…それより君は、密かに三人を選び、城へ穴を開けておけっ…!!」

「…はいっ!それでは他二人には、城の構造を探らせておきますっ。」

なるほど賢いものだ。

思いながらも薄緑の矛を振るのは、大柄で引き締まった体にも緑の武者鎧を着て、

長い金の髭が二段になった青い頬当てを付け、そこから細く鋭い目を覗かせ、

炎のように赤いザンバラ髪を後ろに靡かせた武将、春活(はるかつ)。

彼は派手な格好ながらその働きには切れがあり、

今繰り出そうとしているのは必殺の罰雷(ばつらい)…。

その敵兵を圧した大柱のような晴天の霹靂(へきれき)は、

六本に分かれると徐々に外側へ回り、術者の眼前で消え、

響くのは太く凛々しい声。

「ワーーハッハッハッー!

此度もまた我こそが最強っ!!そうだ皆の者、斬れ斬れぇーー!!」

「あんたに言われなくてもっ。」

そう甘い声を出し、だが激しく細剣を突いていくのは、女戦士ドチ。

そのすらりとした体には、淡い水色の大襟と

金の胸元が鮮やかな青い貴族風の服を着て、同じく青のベレー帽を被り、

金色の髪は肩までの長さに切り揃えられ、白いタイツには口が金色のブーツ。

その一見すると青でまとめた衣装に映えるのは病的な程の白い肌だが、

清楚な美女でもあり、目も小さく愛らしく、また鼻も小さく唇も薄く、

その彼女が敵を斬り、突き、押し返すものだからみとれる者も多数。

連合軍は春活の雷に倒れていたのも災いし、

それを助けに出る者もまたアン軍の猛攻にあう。

「どうだっ?!さあ、アン様を返せっー!!」

「返せと言われても、オレ達は分からんっ!!」

「じゃあ城に居るんだっ!…でもまずは、こいつらを殺せっ!!」

「たったそれだけの数で何を言う!!算多きは勝利!お前らこそ滅べっ!!」

槍は強引に押した衆牙を突き、剣は味方を助けようとしたアン軍を斬り、

鉄球はコボルト兵を吹き飛ばし、

その後ろから飛び出した同じくシピッド兵の大牙は、怯える者を斧で切り裂き、

またそれを助ける味方はその敵の尾を踏みつけて倒し、大勢で群がり、

そこへ解放戦線が放った爆発は彼らを四散させと

まさにそこは激戦となった訳だが、

元々ここで戦っていた味方が壊滅した事を知った先頭の部抜には

加減する必要も無く、思い切り大剣を振る。

ドド ドドドッ!

という擬音の中で明滅を繰り返し、その攻撃に倒れていく連合軍。

部抜はまだ糸が切れたばかりの邪魔な死体を盾で払うと、

更に後ろにも踏み込んで斬りつけ、

その隙に飛びかかって来た者へも仰け反って斬り上げ、

反動で落とした大剣は地を裂き、何とそこからは轟音と共に紫の気が噴出!

「ぐおぉっ!!…こ、これはっ……!」

「し、死ぬっ…?!」

「いいや、それがどうしたっ!!」

「そうだ、既に世界はシピッドのものだっ!!」

「押し返せっ!!」

その数え切れない程舞い来る武器にも、奮戦する部抜隊。

だが戦において不可欠なものとは、勢いであり、

その数という見方もできるものはやはり、連合軍が三倍。

従って当然春活やドチ、部抜という将軍は眼前の敵を次々倒していくが、

敵軍は数で圧倒。

加えて丁度そこへ門から出て来たトラノムレのスラッグが放ったのは、

アンが討たれたという報だったのだ。

「アハハハハハッ!

もうあの暗愚なアンは死んだっ!さあ降れ、降れぇーー!!

降る者は西へ行けーー!!」

そう叫ぶ彼は大きな白旗を振り、

同時にその脇をすり抜け、飛び降りて来たのはセイント。

「部抜殿ー!!」

「セイントッ!あ、あれはっ、あの傭兵が言っているのは本当かっ?!」

「…言って良いかどうかは分からんが…申し訳無いっ…!!」

「…くそぉっ!」

だが今は戦うしかないアン軍。それが隙になったかどうかは

まるで嵐のような剣戟に何一つ動かない物は無く定かではないが、

既に十五人も討ち取った部抜さえ、胸に多くの矢を受ける。

「おっ、おのれぇー!!」

「だが部抜殿っ!まず、ハイサンを救わねばっ!!」

「彼は生きているのかっ?!」

「私はそう思いたいっ!!」

「そうだ、アン様の装備はどうしたっ?!」

「それは既に兵へ知らせ、確保してある!!」

「おおっ良し!さすがはセイントだっ!!」

だが一本の剣だけは奪われてしまった。

そう叫びながら槍を払い、敵を突くセイント。

すると部抜は味方をかき分け少しずつ後ろへ行き、スラッグに問う。

「では、アンの剣を盗ったのはお前かっ?!」

「~何だってっ?!」

聞き返すスラッグ。彼はコボルトに守られながらも任に徹し、

まさか部抜が来るとは思ってもみなかったのだろう。

間もなくその足場から飛び出したのは閃光。

「かぁーー!!」

「…ああっ!!」

その切り上げに悲鳴を上げたのは、西側の壁角に居たウィズダム。

スラッグは反対に声も無く絶命したが、

ウィズダムは鋭く配下へ命令!アンの剣を奪った者を北へ走らせ、

だが部抜は、あれこそ敵と言わんばかりにそこへも兵を連れ突進。

ゲートもそれは防げず、宙へ投げ出され、

西から馬に乗り舞い戻ったショーンビアの本隊約百人の中に居たヒルイも、

そこから素早く飛び立ち、

呪文を唱えながらもその敵に十数人のコボルト兵を向けたが、

対する怒りに燃える部抜は、

それも大剣を振り波動で弾き飛ばしと、ものの数秒で撃破!

彼女自身にも急接近して三度斬りつけ、それに回復して飛び去るヒルイ。

だがそれを追い詰めようとした部抜の背後には、

いつの間にか大跳躍を使った…つちまみれ・剛がいたのだ。

「やあ、初めまして。

…そしてオレこそが衆牙の頭領、つちまみれ・剛だっ!!」

「…くっ…!」

だが部抜はその強襲も交えた連撃にも、

続け様に同じように赤くなった矢を三本受けても…まだ堪え、

その間に着地するつちまみれ・剛。

彼も取り乱す様子は無くただこの状況を楽しんでいるようだが、

両手にある得物が黒ずんだ金のジャマダハルという…A字型の上が両刃、

中にもう一本金属製の棒があり、その下の一本が握りの特殊な武器である事も、

またどうせなら自分で決着をつけようとするあたりもやはり、

分かりやすい無頼漢と言える。

そして当然その口から出るのは粋がった台詞。

「おおっ…!まあ動きは大雑把だが、さすがだなぁ~。」

「何をいい気になっている。」

「別にっ。だが言っておくが、今だってセヨを使えないだけだぞ。」

「ほうっ、騙し討ちしかできん野盗がっ…。ではこちらから行こう!!」

まなじりを上げ両手に握り直した剣を赤く、空を蹴る部抜…。

奴は切り上げが得意だ。

知っていた剛はそれを後ろへ跳びかわしたが、

素早く左手に持ち替え、

また同じ方の足で大きく踏み込んできた剣は鼻先すれすれで空を切り、

冷や汗をかく。

そう持ち替えた事で特技・強襲は消えていたが、今のは部抜の一撃なのだ。

「う、やるなっ…!」

「ふんっ、その程度か!」

言ってまた、切り上げに行く部抜と…、

それを両腕の刃を交差させ十字に受け、

またそのまま…前のめりになって手首を返し、両方で内側から斬りつける剛。

顎先すれすれでのけ反ってかわした部抜は、刃の向きを変え、

内腿を切りにいったが、

その右足に来た大剣を側転して左へかわした剛は、その間に上から蹴りを落とす。

だがその蹴りさえ頭を低くかわすとまた斜めに切り上げる部抜に、

右の棒部分で受け、左から踏み込みそのまま突く剛。

「うっ…!」

その一撃はついに部抜の胸を貫いたようだが、

その吹き飛ばされ間合いをとる瞬間に上から回した大剣もまた、

剛の顔を掠めたようだ。

その刹那に自分も距離をとり、体力を見るつちまみれ・剛。

「うおっ、掠っただけでこれかよ…!」

「ふんっ、力が違い過ぎるわっ!!」

もう黙ってその一騎討ちを見る全軍。

つちまみれ・剛も動きでは勝るとも劣らないと自負しているが、

能力としての素早さは移動速度だけでなく、

武器と道具の出し入れや、呪文の構えや詠唱時間、乗馬下馬などにも影響し、

彼は主に暗殺を生業としてきたので経験値は高く、

それによって様々な特技を身に付けているはずだが、

基本的な力はまだ苦節の冒険者である、部抜が上。

また一々言うまでも無いが二者は見た目にも分かり易く鍛え、

筋力と耐久力に関しても部抜が圧倒的に上だ。

そうなるとつちまみれ・剛の勝機といえば、

先を読んでの機敏な行動とそれを利用して必殺技を使う一瞬。

また呪文攻撃や、粘り強さと配下の援護等だが、

先程から配下に首を振り続ける頭領の誇りからして、

正面から数十合も激闘を繰り広げてしまえば部抜が勝つ事は明らかなので、

察した栗毛の馬上にあったショーンビアは、そこで一騎討ちを止める。

「もう勝負はついた剛ー!

いいや、それは続けてはならん勝負だっ!お前は暗殺者だろっ?!」

「くっ…!」

「ハハハッ、お前はそうではない…かも知れないがー、

シピッドの支配者は怖気づいたようだなー。」

その部抜の微妙な挑発にも乗らず、

悪とはいえその本分を思い出したつちまみれ・剛。

彼が配下の中へ消えるとまた部抜はにやりとしたが、

次の瞬間その表情は凍りついていたのだ。

「…何だと?」

肩越しに睨み、勇み立って回る馬を抑えるショーンビアに、静かに訊き返す部抜。

「今なんと言った?」

「フフフッ、だから…アンはどうするのかと言ったのだ。」

「それはっ…。」

一瞬彼でさえ口篭ってしまったが、もう別な隊が迎えに行ったなどという嘘は、

後手に回った今の生得軍にとってあまり賢いものとは思えず、

ショーンビアは既にそれが成されていないと知った上で訊いているようなので、

部抜も正直に答える。

「今迎えに行くところだ。

だが、何度アケハナトビラでお討ち死になさろうと、アン様はアン様だ!」

「だろうな…。

だがそれなら尚更の事、面子はどうなる。そうお前達の威信はっ?!

もしもそんな醜態を晒せば、今度こそお前らを見てあれこそアン軍よ生得軍よと、

怖れる者は無くなるのではないかー?」

脅しなので大げさに言うショーンビア。

その多くは兵に向って放たれた言い分にも確かに一理はあるが、

とはいえ、上手く騙され大敗してしまったアン軍が今また慌てて退けば、

万一損害は無くとも、笑われてしまう事に変わりないだろう。

そう今はもうたくさんの野次馬が森や草原に隠れているのだ。

だが熱が抜けた部抜もかまえずに話す。

「…それにしても、数ばかりは随分といるな。」

「アハッ、ハッハッ!…実は勝った時には来てくれるようにと、

宴の前に義勇軍へ呼びかけていたのだ…。

飛んで後ろを見てみるがいい。装備も陣形も無い。

だが、それを今ここで叫ぶか?

フフフッ、お前らの軍は消沈し、野次馬はおおよその状況しか見ないのだぞっ。」

「だから退けと?」

「…んっ、私の方は戦っても良いが?」

砂を切る音と共に持ち上げられ、ぎりりときしる大剣…。

それを笑うショダール。

アンが消滅した事で既に赫怒(かくど)している部抜は

あえてその武器さえ消し彼女を殴りたい気分だったが、

それをやれば自分一人で何人斬ろうとまた負けてしまう事は明らかなので、

それ以上感情を表には出さず、

後の問題といえばこの場をどう切り抜けるかだろう。

つまりショーンビアは、あえてその逃げ道をつくってくれているのだが、

多くこういった場合のそのずっと先には完全な敗北が、

そして目前には…罠があるのだ。

「お前だけ勝っても仕方あるまい。

一体あの時は、独断でアハインまで侵攻しながら、

何の為にジェンダから逃げたのか?!」

「ああー、思い出した思い出したっ!

あの時は、見かけばかりの臆病者に仕える奴が、余りに憐れで退却したのだ!

お前の死体と共に…それを教えてやろうか?!」

「部抜っ!」

そこへ来たのは春活にドチ。

「気持ちは分かるが…もう二十人も残ってないぞ…?

ここはアン様を迎えに行こう!」

「そうだよっ。せっかくショーンビアも見逃してくれそうなのに、

まだパズラー達がいるけど、ここで全滅したら一気に帰る国まで失うよっ?」

「くぅ…。」

悔しがって当然の部抜だが、

彼はもう一度ショーンビア達を睨むと退却を命じるため兵の元へ飛び、

またそこでもAZAKIを睨み、静かに腕を振って見せる。

「これよりアン様を迎えに行く!…覚えておけよ、AZAKI。」

そう彼としてはAZAKIの策謀と考えても無理はないが、

その言葉を聞いて自分達も何か言ってやりたいというのはやはり、

春活にドチ、それにセイントだった。

「もう年だからって忘れるなよっ!

オレの道徳観でも、お前は偶振刃が似合いの悪だっ!」

「そうそうっ、お前はプレイと違うからねっ。」

「せいぜい長生きをし、その命をとっておくがいい。

いずれその時が来れば、何か物でも取るように除いてくれるっ!」

「おのれっ…青二才共がっ!あれは八つ当たりか?」

「いいえ、単なる捨て台詞でしょう。」

余った馬は捨て、仲間の形見となる一品だけは持ち、召人原へ向かうアン軍。

途中で野次馬の中から出てきたのはハイサンだったが、

五人の将軍は彼の嘆きと罠や追撃を思えばと素直に笑う事もできず、

敵に比べ僅か十分の一という軍はゆっくりと寂しがりの森へ。

その時轟いた連合軍の勝ち鬨にはもはや…ただ黙って進むしかなかった…。

そうしてしばらく、

やはり肩を落としたハイサンは部抜に慰められ、

振り向いたトメントが数えると兵は七人しか残っていなかったが、

人々から自由を奪ってきた代償は大きく、

またどこからか聞えたくすくすと笑う声に、その主を探す春活にドチ。

何故か罠も追撃も無いようだがと前置きしたセイントは、

無駄に血を流してはそれこそ敵の思う壺だと、二人を諭していたのだ。



「あっ、まさか貴方は…アン様っ?!

本当にアン様ですか?!アハハッ!

私もこれからは生得に住むつもりですから、よろしくー!」

「ほうこの方がそうか。私からもよろしく。」

「…ああ、よろしく。」

短いくるくるパーマも大きな目もそしてローブや靴も、

その羽さえ薄っすら緑色の小さな妖精が挨拶すると、

その仲間だろう赤く短い髪に青い目の

その細顎が屈強な体に乗るという美を追求した形には、

薄っすらと赤く光る黒の革鎧を着た女も一礼し、

二人は初めから有名人に会うとは幸運だと言わんばかりに何度も振り向き、

やがて東にある寂しがりの森へと消えた。

だがその彼女達でさえアンがただの革鎧を着ている事にはふれず、

対しておそらく今も支配者だという事実の中にいる彼女。

そう当然だがアケハナトビラから出たアンは、その台から降りる事さえなく、

ただ黙って白ばむ空と草原を見ていたのだ。

その一見して呆然としたような彼女の中で巡る思考。

パズラーと竜鱗はどうしているのか、また部抜は誰と戦っているのか、

ハイサンとセイントは無事なのか、

またどれだけの仲間がこの危機を知りどれだけの兵を集める事ができたのか。

そうそれは冷静には働いているが、どれほど賢明に徹しようと推測でしかなく、

座るでなく、筒状の入口に寄りかかるでもなく、

彼女は最近建てられただろう遠くにある白木の家を見つめながらも、

どうやって帰るかさえ、考えなければならなかったのだ。

その左側がテラスになった平屋と、奥にある二階建ての農家からは

作物を取りに出て来た者もあるが、それすら目に入らない様子。

勿論、まだ悲報さえ知らない

その白と黄色のドレスに同じ色の麦藁帽子を被った二人の方は、

いつも城に居るか仲間に囲まれているはずの彼女を見ても

本人だとは気付かないようだが、その物悲しげな姿には何かを感じ取ったらしい。

「まさか、あれってアン様?凄く似てるねっ。」

「違うんじゃない。だって革鎧着てるし、

きっと生得軍に見つかったら殺されちゃうよ。」

「じゃあ、教えてあげよう。」

「そうだねっ。おーーいっ!」

「…うんっ?」

そちらへ顔を向けるアン。

「貴方っ、その顔わざとアン様っぽくしてるなら、止めた方が良いよーー!」

「そうだよっ、ここは幻想世界なんだからー!

こう言ったら貴方にも失礼かも知れないけど…、

図書館で静かにするのと一緒でねっ、

適当に遊びたいだけの奴らはみんな他行くんだよっ!

貴方はそうじゃないでしょー!」

「そうそうー!

そういう、ゲームに綺麗な名前と外見だけを求めるのは楽しむんじゃなく、

見たいだけの奴らだから、

その他大勢って意味も込めて癇客(かんきゃく)って言ってね、

どう生きるかは自由だけど、もっと楽しんで生きようっ!

そのままだとアン様に殺されちゃうよぉーー!!」

聞いてああ尊罵(ぞんば)の事か…と思い当たるアン。

そう実のところこの幻想世界では、

ゲームを好きでもないのに精通したように見せ、

せっかく一生懸命に楽しんでいる人々の邪魔をする者の事を、

古くは癇に障るよそ者という意味で…癇客、今でも…尊罵と呼んでいるのだが、

アンはそんな者と誤解されたのだ。

しかも後者に限っては実際アハインの南町に住んでいた者の名であり、

ある日その男は何度も消滅する事を理由に、

現世の身分や雰囲気を壊すような卑猥な言葉を吐き続けると、

四つ羽の天罰を受け、罪となる第一声から十二分後に消滅…。

以来姿を見せていないが住民にとっては非常に迷惑な存在であり、

それからというもの幻想世界そのものやテレビゲームを嘲笑、

人を怒らせたり困らせたりする者の事をそう呼ぶようになっていたのだ。

そう好きでもないものに文句ばかり言い傲慢に振舞うのは、

たとえそれがどんな世界での事だろうと、格好悪い。

だがそれでも、今敗れたばかりのアン。素直な彼女から見ればこの二人も、

まるで夕暮れの山里で出会った素朴な住民のようで、怒る気にはなれない。

「そうか…ハハハッ、ありがとうぉーー!!

だが私は、彼女の知り合いだから、これを許されているんだぁーー!

今だって仲間も来るから、心配いらないよぉーー!」

その意外な言葉に顔を見合わせる二人。

「えっ…そんなに心の広い人だっけ?」

「で、でもまあ、本人がああ言ってるんだから、大丈夫じゃない?行こうっ。」

実は別な意味で本人なのだが、言うと手をふって家に入る二人。

「フフフッ、上手く騙されたなっ。」

勿論、若干評判を回復したアンはほくそ笑み、顎に手まで当てたが、

やはりその思考には、また生得という存在が入り込んできたのだ。

もしもあのまま攻められていたとしても、まだ守れてはいるだろう。

という事は、防戦のため誰も迎えに来れないという事か。

それならここは一人でも歩いて行くべきだろう。

何も急ぐ事はない。

そう決めて東を向けば背中でガンッという音がし、

また振り向くとそこに居たのは、

黒い体に長い髪をふわりと立ち上げ、牙を生やした手の平ほどの小人。

そこから出て来たのだから、生まれたてか生まれ変わった者だろうが、

長く勝ち残ってきたアンにとっては、中々興味深い相手のようだ。

「さあっ、どんな事をしてやろうかなー?ウハハッー!

~うおっ!!」

驚くと肘を上げ、無表情のアンに固まる彼。

彼女の方も生まれたてだが、その知識や技術には格段の差があるのだ。

「おお、お前運が良いぞっ!その革鎧っ。生まれたてならオレと組もう!

そして、アンもブリガンテも三聖も、

大人しくしているラフターさえみんなみんな倒して、

真に素晴らしい悪の国をつくるんだ!!~なあっ?!」

それには微笑し、だが生得の支配者アンであると告げる彼女。

「ああー!そうかーそれは残念だなぁーー…。じ、じゃあなっ!」

「フフフッ!」

まあ野心があるなら伝士環に入るだろうが、

またそれも誰に聞いたのか西のアハインへ走る小人。

まず白木の家に寄っても良かったのだが、

それではアンが追って来ると思ったらしい。

「フフッ、可愛いものだっ…。」

つぶやくと…今度こそと歩き出す彼女。

だがその前に現れたのが部抜達で、

小さく頷いたアンに彼らが次々下馬し膝を折ると、

また森からも知らせを受け生得から駆けつけた数人の将軍と五十ほどの兵が現れ、

ついさっきまでは鳥の声さえ聞こえていたその場は、

まるで天上の神が優しい風を救い落としたかのように静まりかえる。

その草原に漂うのは黄金に変わった陽光。

そう先程森へ消えた二人の住民にとっても、これでこそアンはアンなのだ。

そこでまずゆっくりと顔を上げる部抜。

「…だ、大丈夫かっ?」

「アハハハハハッ!それは…心配し過ぎだぞ部抜!

もしも落ち込んでいるようなら、ここから出ては来ない。皆もそうだろうっ。」

「はっ!で、では~、すぐにでも戻りましょう!」

「心配しましたぞぉーアン様ぁーー!」

「格好悪いなぁー。」

「こらっドチッ!…ご老人に失礼だぞっ…。」

「いいやっ、やはりハイサン殿こそ忠臣!見習わねばなるまい。」

そうして春活はやや失礼なドチをたしなめ、

セイントはハイサンの涙もろさをかばったが、

アンは改めて姿勢を正すと、またおもむろに口を開いた。

「うん…、本当によく来てくれた。

だが、今ここにある私は、

取捨選択も習得しなかったせいで特技の一つも残せず…、

もはやただの女…。

対して敵はシピッド、アハイン、南北の偶振刃という四国連合であり、

武においてはジェンダ、つちまみれ・剛に柔、

知においてはショーンビアに険連、呪文においてはAZAKIがあり、

しかも六真武将の八剣という男は、…輝神圏(きしんけん)まで使いおった。

そうだ、もしかすれば生得を襲った謎の召喚士さえ、

あの場には居なかったのではないか?

……それでも良いというのなら、残るが良いっ。」

「何を今更!

君(きみ)、君足らずといえども、臣、臣足らざるべからずと申します。

この部抜、どこまででもお供する所存!」

「…お、おおっ、まさしく私も!右に同じっ!」

「言われちゃったねっ。」

「こらぁー。」

「では、アン様も反省しているという事で、良いですね?」

「ああ、している。」

「それは主に、住民に対してですね?」

「ああーーもう、そうだと言うにっ。今は城へ行く事のみを考えよ!」

勿論部抜の言った事を簡単に説明すれば、主君に主君としての徳が無くても、

臣下は臣下らしくしなければならないという文の、

その徳の部分を能力として表現したものだが、意外にも和やかなアン軍の再会。

だがそこへ進み出たのは…四人の将軍。

その一人は、透明な宝石で作ったレンズに赤茶色の紐を付け、眼鏡とし、

尖った耳に鮮やかな緑の髪を後ろへ流し、そしてまた緑のローブには、

同じ色の下地に蟷螂の顔が模様としてある覆面という

派手な格好の割りにはいつも慎重な発言をする、エンピアという魔術士で、

またもう一人は、

彫りの深い面長で男らしく強い眼差しを持ち、それを包むのは長い黒髪。

胸まではないが髭もたくわえ、

薄茶色の胸当てに大きく丸みを帯びた鉄の肩当て、

それに幅広の白いズボンは茶色のブーツに入れ、

同じ色の皮手袋という姿の、戦士ベルラノ。

また後の二人は、

黒髪を結い二本の角が付いたカチューシャを当て、

腹部を露出した黒っぽい胸当てに同じ色のズボンをはいた女と、

白いローブの背中にひれのような水色の飾りを付け

青い髪を逆立てた優男だったが、相対したアン達は、

勿論彼らも悲喜交々(ひきこもごも)の挨拶をすると思っていたものを、

まず背びれの優男が言い出したのは、背筋も凍る一言だったのだ。

そう何と…出たいと言うのである。

「…何?」

アンに代わってもそうとしか言葉が出ず、つめ寄る部抜に、

それを止めるハイサン。

「ま、まあまあっ部抜殿、それは…どういう意味だザッカイ?」

「どういう意味も何もっ…。我々四将は、ただ機を待っていただけの事…。」

「と…という事は、この表裏者(ひょうりもの)めがっ!!」

すると当然それに続いたのは風変わりな眼鏡のエンピアに、

角付きカチューシャのブラックオーガ、そして髭のベルラノ。

「フハハッ、まあ斬りたいなら…斬るがよろしい。

それでも我らの魂は、そうですなー、

ショーンビアの方へでも飛んで行きましょう。そうご心配なさいますな。

既に私どもには、幾つかの国から誘いが来ておりますのでっ。」

「元々貴方が勝手過ぎるから、こういう事になったのです。

それを責められても困ります!」

「まさかこの期に及んで、我らとも戦うおつもりか?

皆不満を持っていたのは他の何にでもなく、貴方が行った政治にだ!

これより下は無い!そう思えば、反発するのは当然ではありませんか!」

そのベルラノを見下し、睨みつける部抜。

「それは本気なのか、ベル?」

「ああ…本気だ。」

「では、今更アン軍を出ると…?~馬鹿な!!大恩を忘れたのかっ?!」

「なに馬鹿?~当然だっ!

まだ仲間だから我慢していたようなものの、最近のお前もアンも、

住民の事を一切考えず…だからこうなったのではないかっ!」

「おのれっ、言わせておけばっ!」

「何だ?~できるなら反論してみろっ。

馬鹿だアホだと、口喧嘩をするつもりはないぞ!それともやるか?」

「おお、やってやろうではないかっ!!」

「フハハッ…!」

こらえ切れず笑い出すエンピアに、

それを止めたのはブラックオーガとセイント。

「もう良いよベルッ!

部抜はアンの魅力に酔うばかりで、何も注意しなかったんだっ。

つまり、中身は凡将も同じなんだよ!」

「そうか…ではお前もベルと同じ、裏切り者だな!

まあ、エンピアなどは、初めから裏切ると思っていたがっ。」

「まあ待て部抜、何でお前はすぐそうして熱くなる?

ブラックオーガも、それは言い過ぎではないか?」

黙って首を振り、エンピアとザッカイの隣へ戻るブラックオーガ。

すると四将は彼女の黒いコンセンで西へと飛び、

また残った生得軍にとって致命的な事にそれを見上げ走り去る兵は、

三十数人にも上った。

「アハッ…ハッハッハッ!」

「な、何が可笑しいのです、ハイサン殿っ?!よく笑えますな!」

「まあご覧下されっ。あの方角は、アハイン。

という事はつまり彼らの向った先は、キャラメグラのところでしょう。

ふんっ、何がシピッドだ!見栄を張りおって!」

「むぅ…確かに。だが、それでも赦せませんぞっ!」

「それも当然。」

だがキャラメグラといえば無双の武人ジェンダの君主。

この戦いで増長した彼のアハインにもしもあの四将がつけば、

これは厄介な事になる。

そう思ったのは何も今も君主を見つめる春活だけではなかったが、

そういえば身近に迫っている危機だけを考えても非常に深刻な問題があり、

それは、アンが生まれたてになってしまったので、敵の観測者はその位置を知り、

つまり彼女を連れた者がコンセンを使って途中で落とされた場合には、

他と足並みが乱れてしまうというものだが…。

もしもそんな事態に陥ったなら徒歩や騎馬で移動する者がそこへ達するまでは、

先に飛んだ者達だけでアンを守らねばならず、

せめて待ち構える敵の位置を知るまでは移動呪文は控え、

まとまって進軍した方が良い…というのが、部抜達の判断。

それを聞いた東の空を見ていたアンは二人の伝令を放ち

パズラー達へ籠城戦を命令、自身でもすぐに逃亡戦を開始。

だが勿論、竜鱗の前であの大観図を広げていたパズラーは

その指示を受けるまでもなく、今は大体の状況を把握していたのだ。

艶めく白い床にあるのは、あの大きな翼の模様。

その銀は壁から天井を経て先は奥の青い扉まで延び、

それに沿うように散りばめられ天へ昇るのは、煌く黄色の流星。

またその神秘的な壁に関係あるのかどうか、外では多くの住民が狂喜し、

西から現れた大きな雲に乗る天使達を見上げ、

その手から振るオレンジの花を拾っているらしいのだ。

「何っ…?」

眉間にしわを寄せ竜鱗に聞き返すパズラー。

そう彼らにとっては、アンが横死してしまうという衝撃の中で起きた珍事だが、

天には無関係だという事だろうか。

「指を差す住民だけでなく兵が言うのだから、まず間違いないだろう。

窓を開けてみようっ。」

「分かった。だがすぐに済ませてくれよっ。」

「…うんっ!」

頷きながら大観図を過ぎ、南側の窓を開ける竜鱗。

そう彼としては、何でも把握しておかなければならないという事だろうが、

遠く空には噂通りの天使達が微笑みながら花を降らせ、

住民達が目を輝かせてそれをつかむ光景があり、

だがそれを確認した彼はすぐにパズラーのもとへ。

君主の死には無関係だと分かると、また彼女の逃亡戦の話に戻った。

「それで、今度はどうしたっ?」

「ああっ…どうやら部抜隊は無事で、

難無くアン様をお迎えできたようだが、問題はこの二つの砦だなっ。」

その指が示すのは寂しがりの森の東と、大戦草原のやや西。

では彼がその築城をどうやって知ったかというと、

そこに密集している敵を確認したのは勿論の事、

その二ヶ所辺りから来た者達からも情報を得たからだが、

その事実からもあの大戦は、

まだアン軍から全ての民心を奪ってしまったという訳では無いらしい。

それを切り刻んでしまいたいショーンビア。

では今の彼女の狙いとはアンを二度殺す事か、または部抜達の命か、

この生得か…。

いずれにしてもこの二人は思考戦を避けられない状況だったのだ。

「それで数は?」

「特に義勇兵には侮れない者もいて、おおよそ五十、五十だっ。」

そこに階段を駆け上って来たのは一人の兵。

「竜鱗様に報告!どうやらあのオレンジの花には、クリームカップ同様、

全ての状態異常を治す効果があるとの事!」

「良しっ!では、住民にも頼み、なるべき多く集めておけっ!」

「はいっ!」

これは天の情けだろうか。そう感じた竜鱗は早速そう命じたが、

体力を回復する物ではないからか、

無関心なパズラーは寂しがりの森に落ちた、ある一つの光に触れる。

叫ぶ竜鱗。

「おお、これはアン様っ!すぐ助けに行かねばっ!!」

「ああ、当然コンセンは使ったようだが、

やはりこの砦でセヨを使って空中に陣を敷いていた者達に…落とされたのだ。

一度でもコンセンを使った事のある者なら、

皆その高さや角度を知っているからなぁ…。

しかも援軍が生得を出立してから築くとは、してやられたもの。

そのせいで私はこれを知らせる事もできず、

また彼方此方でコンセン屋を雇い一度に来る事を考えたとしても、

それには時間がかかり、

最上級まで鍛えても一人で運べるのは六人までであるから、

その者達は全部で十人以上も必要になった。

それに加えこの大観図からは、

まだ解放戦線の一部や衆牙のつちまみれ・剛も消えている…。」

まだエンピア達の逐電(ちくでん)に気付かないパズラーは

必要なコンセン屋の数を多めに考えているが、

竜鱗が気になるのは偶振刃の者達のようだ。

「うーむっ。という事は…、

奴らはここへ向かっている、という事かっ?」

「そうだ。いいや、そう考えるのが適当だろう。

だから我らはここを動くべきではなく、まあ数では明らかに劣勢だが、

国を挙げてアハインが急襲でもしてこない限り…ここは突破できる!

よって今本当にどうにかすべきは、

この大戦草原に築かれたもう一つの砦だが…その主将はー。」

その二人の前に現れたのは、緩やかに尖った肩当ての、

上が黒で腹部辺りから紫になった銀縁の鎧を着た、淡い青毛のコボルト。

その体も雄偉だが、実のところ彼はこの戦においてデッドリの副将で、

砦ではコボルト軍を指揮しているガッツァーという者。

また毛色や体格が他と違うのは、非常に希少な変異玉という物を使ったからだが、

その実力も中々侮れないというのだ。

「見ろ。

まだ私でも手の内鏡(てのうちかがみ)を使えないせいで

外見で確認できる以外の装備や持ち物までは見れないが、

回復呪文は使えないとしても、筋力や耐久力、それに水属性まで高く、

これではっ…セイントやハイサンは、討たれてしまうぞ。」

「…では奴が副将で、もっと手強い奴がいる可能性もあるな…。」

「そうだ。」

「ではどうするっ?!

それに住民が噂する、六真武将とは何者?!お前は奴らを見れるのかっ?!

もはやここに居るのは僅か二十人足らずで、志願してくれる者も尽きたのだぞ!」

「ヒルイ、それにショダールという者はシピッドに居るが、

他は分からん。ただ…目塞を使っているだけかも知れんなぁ。」

「では、飛眼(ひがん)を使ってはどうか?」

「それも考えたが、この砦までは届かん。」

今竜鱗が提案したのは、パズラーの場合頭に細長い毛を靡かせた緑の鳥を飛ばし、

その目から見た眺めを情報として得られる特技だが、

それには距離があり、まだ彼は遠くまで飛ばせないのだろう。

それはともかくとして、まだ六真武将を甘く見る二人。

AZAKIや衆牙達を警戒するのは当然としても、

やはり今彼らがすべき事とは、まずは次の砦にいる敵軍を何とかする事であり、

だが武ばかりに傾倒し忍者やお抱えの商人など

それらを任せられる人材を確保してこなかったのは、大きな過信だったようだ。

例えば忍者なら潜入や破壊、商人なら義勇兵を買収など、

色々手はあるはずなのだ。

そんなところへ来たのが、最後の希望とも言うべき義勇兵。

「申し上げます!

通りで観測者から事情を聞いた五星という者が、

是非ともお会いしたいとの事です!」

「…うーんっ、だが今は、それどころでは無いっ。」

「…いいやパズラー、会ってみよう…。」

お前もこの状況をどうにかする為なら意地を捨てられるだろう。

そう竜鱗に諭され頷くパズラー。

彼は千里眼で彼女の能力を見ると顔をしかめはしたが、

むしろその弱さには安心し、一人だけは入る事を許した。

そう入って来たのは、途中でコンセン屋を見つけるまでは走り通した彼女。

だが今はその外套もゆったりと床へ、こつこつと足音を響かせている。

「初めまして。

突然ですが、どうかその役は私にやらせて下さい!」

その言葉に振り向くパズラー。

「…では、話を聞いていたのか?」

「いいえっ。ですが、あなた方の身になって状況を考えれば、

この城の戦力は残し、二つ目の砦だけは何とかしたいはずですので。」

身を乗り出す竜鱗。

「…おおっ、それはありがたいっ。」

「…うむ、鋭いな。

だが、生まれたてがどうする?…フフッ!虚報(きょほう)でも使うか?」

「はいっ、そのつもりです!」

「……何だ、その手があったではないか。」

そのパズラーの笑みに小さく頷く竜鱗。

彼は無口だと聞いていた五星だが、

そうと決まればまた一歩前へ出て、パズラーの代わりに話すらしい。

「君らが行ってくれるのか?」

「ええですが…、その軍を何とかできた暁にはプレイさん達の一派を、

つまりは灯さん達を、もう一度生得に迎え入れてもらえませんかっ…?!

今こそ彼らの力が必要なはずです!

それにこれを機に和解すれば、一石二鳥ではありませんかっ!」

だがこの事態にも、素早く首を振る竜鱗。

「だが、それは無理だろう。

我らが約束しても、それを知った時のアン様の怒りは、

きっと君らも賞金首にしてしまう…。」

「もしもそうなれば、私達は遠くに住みます。

それより竜鱗さんとパズラーさんは、

ただうんと言って彼女達を迎え入れてくれれば良いのです!

それでもダメですかっ?責任は私達が持ちます!」

「いいやっ、君の優しさは分かるが…それもできない。」

「では、これからも罪の無い仲間を追い込むと?」

「………。」

「それは当然、貴方の判断ではありませんが…

そうだ逆に考えて、プレイさん達の喜ぶ顔を、

アン様がもっと素直になった時の事も、想像してみて下さい!」

「…無理だっ。」

やはり配下さえ説得できない。

五星は、もしも彼らにこれを聞いてくれる程の度量があれば

既にセイントが何とかしてくれたはずとは思っていたが、しばらく食い下がり、

それを聞く竜鱗もまた、

私ならばその意見を聞くだろうという言葉を…飲み込むしかないようだ。

すると笑いながら前へ出るパズラーいわく、

プレイ達の深い恨みを考えれば…むしろ呼び戻す事はできない。

だがそうは言いながらも策には賛成し、すぐに1万スペスを用意する彼。

「…それはっ…。」

「~では、3万スペスならどうだっ?

正直そのはかりごとが成功すれば、アン様はここへ戻って来られるが、

恥ずかしながらこれからの生得軍には…スペスも必要になるっ!

確かに初めは、苛立ちから冷淡な態度をとってしまったが、

よく考えれば…天使からオレンジの花を授かった日に、

また同じ色の髪を持つ君が来た事は、縁起も良い。是非とも頼む!」

当然金額の問題ではないが、元々プレイ達と和解させる事が無理でも恩は売り、

あわよくば世に出る為の戦功にすると決めていたので、強く頷く五星。

またもう一つの頼みとして

嘉吉原の西側に町をつくる許可をもらう事にも成功し、

そう彼女が大観図に示したそこは

数キロ先で南嘉吉原というつまりは明空の領土だが、

それはパズラーとしても現状況と秤にかける程の事ではない。

「…良いだろう。ただし生得の規則は守ってもらうぞ。」

「はい。お許し下さり、ありがとうございます!」

ではとだけ言い素早く階段へ向う五星。今は助けられなかったが、

自分達の町にたくさんの人が住んでくれるようになれば、

人を隠すなら人の中で灯さん達も呼べる。

彼女はそんな期待に胸をふくらませ三人のもとへ。

それは今のプレイ達もこの世界のどこかで幸せには暮しているだろうが、

賞金首という言葉の印象も悪く、生得には強くなる為に必要な迷宮もあり、

更に言えば、主義の究極化を目指す彼女としては、

いつまでも昔の仲間を賞金首にするなんて子供染みた真似は、許せない事なのだ。

その真面目な顔のまま門を出る五星。

「どうだったっ?」

勿論花も拾っていたようだが、まずそう訊いたのはやはり頭成で、

彼女は黙って首を振る。

「そうか。まっ…そんなに上手くはいかないよなっ。」

「ですよねぇ…。よく考えれば、彼らには彼らの言い分があって当然ですし、

プレイさん達が憐れなのは、あくまで第三者としてですから…。」

「でもそれにしては、微かに嬉しそうですねっ。」

「うんっ!…側近の言い分は後で教えるから、

その時になってがっかりしてもらう事になるけど…、

虚報の実行とその報酬の町をつくる許可、

それに3万スペスも約束してもらったからねっ。」

「…どぉーーしぃ!!

あっそうだ!さすがは五星様っ、並々ならぬお働き!

この御手柄は末代までの語り種となるでしょう!ははぁ~~!」

「…おおっーではよいよですねっ!

ですが、町の事はよく許可してくれましたねぇ?」

「確かに…。それほど今はアン軍にとって重要な局面なのでしょう。

死んでも生まれ変われば良い…とはいえ、

全民を敵に回してしまえばいくら生得の支配者だと言っても、通用しませんから。

では早速!」

そのそれぞれに頷く五星。そしてその元気な姿には、

ここまで送ってくれたコンセン屋も応援したくなったようだ。

その人は青い茸のような形の帽子を被り、

長身に袖や裾の緑から段々と青に変わるローブを着て、

それに前を開けた赤いベストを羽織り、面長に青い目の光る鼻の高い老女。

エフォートという名の彼女は自称寂しがりの森に住む魔女らしいが、

この華やかな格好ではやはり怖れられる事もなく、

仲間と迷宮へ行かない時は主に

迷い込んだ生まれたてを助ける活動をしているらしい。

その迷い人を探す散歩のお陰で、馬を持ったご近所まで知っているという彼女。

そうつまり運良く彼女を見つけた五星としては、

寂しがりの森から大戦草原の砦まで馬に乗って行くつもりだろうが、

微かにかすれてはいるが透明感のあるそのエフォートの声は、

彼女達を安心させてもくれる。

「じゃあ、必要な物は買ってあるの…?」

「いいえ、それは明空で買いますので、

そのまま寂しがりの森までお願いしますっ。」

「…はいよっ。」

微笑したエフォートが頷くと四人も静かに空へ。

勿論まず明空へ向う理由とは、生得からまっすぐ寂しがりの森へ飛んだ場合、

その経過を大戦草原にいる敵に見られる恐れがあるからだが、

そのまま彼女達は、白地に淡く細い青と緑と赤の線を交えた、

やや風変わりなコンセンで南へ。

その風の爽やかさと言えばまるで鳥にでもなったようだったが、

それは五星にとってもやはり消玉に封ぜられていたものや、

また世故のものとも微妙に違うように感じられたようだ。

「この色のコンセンって、どうやって作るんですかー?!」

「ああ、やっぱり分かるっ?!実は森にそういうご利益のある泉があるのよー!」

「へぇー!」

そのエフォートの情報によると別な森には

浴びれば消滅時に幽霊になれる泉もあると言うが、

それは興奮してしまうだろう頭成に教える訳にいかず、

普段は閉まっている北門を飛び越え、そこへ着地する五人。

バレットに会った時には町壁のせいで分からなかったが、

そこはどちらかと言えば庶民の為にある裏通りといった雰囲気をもつ、

色取り取りの屋台が並んだ場所。そして丁度買い出しに行くと決めていたのは

クリスタルとソルバラにエフォートだったので、

頭成は気になっていた事を訊ね、五星も通りに目をやりながら答える。

「…それで、さっきのエフォートさんは、何だって?」

「ああ…風が最高ねぇー!てっ…。」

「何かもう一つ言ってなかった?」

「…今は大事な時だから、後で教える!」

「幽霊がどうしたとか。」

「……そういうの好きだっけ?」

「……いいやぁー。」

「何だっけ?そういう幽霊みたいなー、

人影がチラッとだけ見える現象もあるらしいよ。

でもやっぱり地味だって。だから話した事を後悔してたなぁ。」

「でもオレ、そういうのを聞いても、

全然テンション上がって、失敗とかしなそうだなー。」

「……うん、それを信じて教えたの。」

「本当にそうなのかっ?

もっと深刻な…あのお婆ちゃんの恋人が死んでさ…、

その人が幽霊になって、とかじゃないのかっ?!教えてくれ!仲間だろ五星!!」

「……いいや、違うから悲しまないで。」

「人影を…浴びるとか言ってなかった?」

「アハハッ、何を聞いてるのかな君はー。全然違うよーー!

こんな時に笑わせたらダメでしょうー。」

「アハハッ、そうかっ!じゃあ今は諦めておこう。」

そうして五星の真実の門が守られている間に戻って来た三人。

彼らが買って来た物は全部で四組の赤い布と、灰色の革鎧だったが、

どうやらこれで変装し、連合軍の伝令になるつもりらしい。

そうなると当然急がなければならないが、そこでまた鋭い事を言うクリスタル。

「シピッドといえば、トラノムレですが、参戦しているかどうかも分からず、

もしも連合軍についていたとしても、

さすがに彼らの真似はできませんからねぇ。」

それに答えるソルバラ。

「ええですが、もしも参戦している傭兵団が分かっても、

その鎧を作っている暇もありませんっ。行きましょう!」

クリスタルは優しいだけに少々甘い。

それは彼らの傭兵団としての誇りを傷つけてしまうからでもあるが、

今はエフォートを見て頷くだけの五星。

彼女達はまた風のように空へ舞うと一直線に西北へ飛び、

眼下にある巨大な建造物がアンのものだとも気付かず、

やがてその下に何があるかもまったく分からないほど密集した、

愛の木々の中へと降りていたのだ。

その着地と同時にいななく馬達。

この森に築かれた砦はもっと北にあるはずだが、

中腰の彼女達が振り向くとそこにあったのは、

長い半円柱の屋根さえ淡く黄色い木で作られた小屋。

そこには白、黒、栗毛、中には赤毛の馬も居て、それぞれに五人を見つめ、

また草を食み、まったく別方向を見て鼻を鳴らしたりと警戒し

中々手放しで歓迎という雰囲気でもないが、

急ぐ五星達にはそれに感想を言っている暇も無い。

「本当にありがとうございます!では後ほど、あのグリーンレイクの北で!」

「ええ、合図の青いワルドは立てておきますよっ。」

「…まずは五星達からだなっ。気を付けろよっ…!」

「…ですがここは慎重に。急ぎ過ぎではありませんか?目立ちますよっ…!」

「…クリスタル殿のご忠告に感謝します。ですが今は急がないとっ…!」

すると小屋の後ろから出て来たのは、

薄汚れた青いフードに黒い鉄の鎧を着た老人。

だが彼もエフォートが耳打ちするとしばらく、

にんまりとした彼女の横で目を大きくして五星達を見つめ、

栗毛の顔を何度か撫でて微笑し、素早くその手綱を差し出す。

「頑張れよっ。」

ありがとうございます。そう彼にも言うやいなや、

五星とソルバラは頭にあの赤い布を巻き、灰色の革鎧に着替え、

お代を払う他二人にさえ一言も無く走り去り、

当然衝突そして落馬という危険もあったが、二人は行く手を阻む木々をよけ、

大きな葉も長い草も踏みつけ、切り裂き、ただ真っ直ぐに西へ…。

後ろのソルバラが地図を見ながら記憶と照らし合わせた限りでは、

今アン軍が戦っている砦は随分北らしいが、

もう一つの大戦草原にある方にもやや北へ向って行くのが正確だと言うから、

聞いた五星は少しずつ進路を北へずらしながら、たまに左手も見て走る。

するとまた段々と密になる森。

特に北側は愛の木々と見慣れない柱のような木の幹と枝にその先は更に暗く、

今はほんの二十メートル程向こうさえ、まったく見えない状況。

随分走ったように感じたので、何も大まかな地図通りではなく、

先の森がぷつりと切れ、そこに目差す巨大な砦が築かれている可能性もあったが、

二人は赤い薔薇のような花が咲き誇る洞窟を見ても、

青い小川に顔ぐらいもある緑の蛙がいて、

そのそれぞれの体に足の代わりに尾や鰭(ひれ)があっても、

またしばらく走った先に白く光る蝶が群を成し、

クリームのような甘い香りを振りまいていても、ただ黙々と走る。

そして実はだが、その上でいつも自分を戒めている五星。

いいや、やはりいくら急ぐとはいっても、

はっきりと目的地を確認した訳でもないのに、

大体の情報を当てに走るのは、間違いだ。

「良し、ここから私達は、生得解放戦線の伝令!

でも砦に詰めている兵に訊かれたら、名前は正直に答えて!

それに、人を見つけたら教えてねっ!」

「…ああ、なるほどっ。

観測者が居たら、嘘を言っても見抜かれるからですねっ!」

「うんその通り!」

話の早いソルバラに感心しつつ頷く五星。

また実際敵に観測者が居たとしても可能性は極めて低いが…、

その相手がアンの動向より生まれたて同然の彼女らに興味を持ち、

生得から目をつけていたなら、目塞使いも必要だっただろう。

だがこの急ぐ時に今更そんな細かい事をとやかく言う余地は無く、

そうしてまたしばらく走ると森を抜け、青い草々が広がる場所へ出る二人。

大体何があっても動じない五星も、

その鮮やかな青には一瞬馬を止めてしまったが、

ソルバラの方は遠く正面に人を見つけ、

その既に解放戦線の伝令となった二人が訊ねたのは、

元々住んでいるサウスティーカップを目差していると言う、十二人の旅人。

その先頭は、

微かに赤みを帯びたそこに目一杯黒い花柄のあるやや角ばった服を着て、

その腰を白い帯で締めた赤毛に猫耳の剣士。

一瞬五星は、サウスティーカップでアンの支配を望む者達の事も思い出し、

彼女が生得軍側か連合軍側かも考えはしたが、たとえどちらかだとしても、

まさかこの急いでいるようにも見えない旅人の全てが実はアンびいき

という事も無いだろうと、思い切って訊ねる。

「…ええっ?うーーん…多分もう少しー、いいやっ!

私達は、北から少しずつ南へ進路を変えながら来たから、

もっともっと、北じゃないかなっ?」

「ありがとう!」

「この事は、後で私からショーンビア様に申し上げておこう!君、名はっ?!」

「あ…ああ、そうですかっ。私は寄り目猫です。」

その確かによく見れば寄り目の彼女に頷くソルバラ。

そうして二人はまた青い草々の大地も抜けた。

「あれで良かったのでしょうか?!」

「うん良いよ!でも、余計な事は言わない方が良いかもねっ!」

「ええ確かに。それに褒美が無いと知ったら彼女怒るでしょうねっ。

失敗しましたっ…。」

「アハハッ、さすがは元鮮やか岬!

でも今は解放戦線の伝令に成りきって急いでるだけだし、後で何か贈ればっ。

その時になればどういうお詫びもできるでしょう!」

「なるほどっ。あっ…きっとあれですっ!」

右手にある大きな蕾のような植物も気にはなったが、

更に北にたたずむのは錆色で四つ角に円柱の塔のある、高さ二十メートル程の砦。

それはアン軍を迎え撃つ為西側を向き既にちらほらとだが兵の姿も見えたが、

意を決した彼女達が近づくと、上を飛んでいるのは十数人の解放戦線。

セヨを使った彼らはコンセンを防ぐ為の隊だろうが、

門前には二人の衆牙、六人のコボルト兵も並び、

近づく一人に五星達も下馬すると、

巨大な門は重く、そして断続的な音と共に開かれた。

そこから足早に出て来たのは、あの鎌を持った解放戦線にもう一人の兵。

パズラーから聞いたガッツァーは留守だろうか?

コボルト兵が彼らに説明する間に一瞬そう思った五星だったが、

さっき自分がソルバラに忠告した余計な事は言わない方が良い

という言葉を思い出し、一伝令になりきって話す。

「険連様より伝令!

…実はAZAKI様の危機です…!ですからどうかっ、

寂しがりの森の南にある、割れた大愛までお急ぎをっ!!」

そう簡単に説明すると、一礼。すぐに戻ろうとする五星達。

当然割れた大愛などは無いが、

それはこの世界の何もかもを知り尽くしていないと分からない事であり、

突然の事に慌てた解放戦線達も五星達にすがるように叫ぶ。

「お…おい、待て待てっ!!そう簡単に言われても…。」

「ですが私達はっ、次の隊にもこの命を伝える為、

そして戻ったら共に戦う為にも、急ぐのです!」

「な、なるほどっ!…だがっ、今勢いのある我が軍を一体誰が攻めるっ?

何と言っても今は四国連合だぞっ!」

「ふぅー確かにっ…。

しかし、まだはっきりとした動きは見せていませんが、ソーンジです!

彼もいい加減、ブリガンテの物であるトレランスを離れ、

独立して偶振刃をとりたかったのでしょう。

そこでまずはシピッドにおられるAZAKI様を葬り…、

それを看破し、割れた大愛に彼らを発見したのが、険連様です!

ですからどうかお急ぎを!!」

「ソーンジが…。

だが彼は、我が連合軍に100万スペスを寄越したのではなかったか?」

「……フッ!ですが、

今になってみればそれも全て、我が軍を油断させる為でしょう。」

「あっ…おのれぇっ!確かにソーンジならやりかねん!

…だがやはりAZAKI様の命無くば、動けんぞっ。」

「そのAZAKI様は、既に偶振刃に戻る準備をなされ、

それに砦へ詰める代わりの兵なら、ショーンビア様が寄こすとか!」

「わ、分かった。ではー、ガッツァー殿の許可を取って来よう。」

「…そんな時間は無いのですがっ。」

そこで彼に耳打ちしたのは、もう一人の兵。

「で…でも、もしもこれが間違いでなければ、遅れた我らはどうなりますっ?

あのAZAKI様のご性格では、後で必ず激しくお怒りになりますし…!」

「うーーむっ!

だがこういう事は、コボルト兵が知らせる事になっているはず…。」

「…そういえば。」

「…ああ、そのコボルト兵なら、ずっと西で抜きました!

では、私は確かに伝えましたので、これでっ!」

そう言い残して南へ走り去る五星達。

当然残された二人は、

離れた場所に立つコボルトや衆牙の顔にも視線を送っていたが、

また彼らも彼らで、南偶振刃の行動には興味が無いようだ。

いいやもしかすればだが、散々叩いた敵を甘く見ているだけかも知れない。

「…うん良し、では確認の為に誰かやろうっ!

まさかこのような事態になろうとはな~。」

「そんなぁーー!

でもそれじゃあ、AZAKI様に殺されますってぇー!」

「………分かった!じゃあお前がー、あいつらを連れて行けっ!

だが、割れた大愛とやらまで走り、

もしもそこに何も無ければ、すぐ戻って来るのだぞ!」

「は、はいっ!」

半ば信じ、森へ八人を走らせる大鎌の男。

もしも襲撃が事実だった場合僅かばかりの兵でもいた方が良いと考えたのだろう。

コンセンやセヨを使える者はアン軍を阻む為に使えず、

それで一気に移動できる者が居たとしても、

連れて行くのが一人二人では意味が無いのだ…。

そう彼にとっては、今たまたま上官となったガッツァーの怒りを受けるより、

後でAZAKIに嫌われる方が余程恐ろしいというのもまた、困った事ではある。

「…上手くいきましたかねっ…?」

「…うん、たぶんねっ。

でも喜ぶのはもう少し走って、頭成達も無事だった時にしようっ…。」

「…さすがは五星様っ。

おおっ、私も頭成殿になるところでしたっ…。」

「…アハハッ、それは止めて下さい…!」

ドガンッ!!

「何を勝手な事を!貴方はそれでも、生得解放戦線の幹部候補かっ!!」

それから数分後、開け放たれた扉の縦枠を叩き、怒鳴っていたのはガッツァー。

知らせを聞いた彼はさっそく砦の内側にある居館から出て来て、

あの大鎌の解放戦線の前に居たのだ。

「申し訳無い!だが、だがだぞっ!

…もしも本当にAZAKI様に何かあった場合には、

ガッツァー殿の方こそ、いかに責任をとるおつもりかっ!」

「ぐぅー!!~だがそれではっ…。」

「も、申し上げます!何と、また険連様から伝令が来たようでー、

彼らが言うにはさっきの伝令は偽者で、丁度今の奴らはソーンジの本隊と合流!

先程出撃した八人を、包囲殲滅する構えとの事っ!」

「~な、何だとっ?!」

「しまった!」

「それで、敵の数とそこまでの距離は?!

伝令はどこだっ?!ここからは見えんぞっ!!」

「彼らはすでに走り去りましたが、その話によると奴らが待ち構えていたのは、

ここからは森の入口辺りらしく…まだ間に合うとは思うのですがっ…!」

「では、私自らが出る!当然皆殺しだっー!!」

「お、お待ち下さいっ!それでは私がAZAKI様に申し訳が立たず、

…いいえ、ここだけの話命さえ危うく、馬ならそう時間もかかりませんっ!

どうか私にこそ出撃のご命令をっ!!」

「では、十人だけ連れて行くのを許す…!

だが、このアンが来るかどうかという時に!すぐに帰城なされよっ!」

「あ、ありがとうございます!者共、続けぇっ!!」

そうしてまた十人と…合計で十八人。

つまり、約三分の一を寂しがりの森へ向ける事に成功した…五星達。

当然、後から来た伝令とは頭成にクリスタルだったが、

特徴ある垂れ目を布で隠していた彼もしばらく馬を走らせると、

クリスタルに笑う。

「ダッ、ハハァー!!思ったより上手くいったなぁーー?!」

「…いちいち声が大きいんですよ、君はっ!報告しますよっ。」

「これもお前が、一度解放戦線と衆牙に会っている事を、

思い出してくれたお陰だぞっ!」

「……それは作戦会議で五星が言いましたけど、

そんな事で将軍が務まるんですかっ?!」

「まあ上手くいったんだから、良いじゃないかー!」

余りの高揚に大切な事を忘れていた頭成。

だがあの蕾のような草を見つけ、

中を覗くとそこにもまた大きな薄桃色の五弁の花を見た彼は、

その薔薇に似た香りをきっと五星達も気に入ると思い、

それも採って帰る事にしたようだ。

大葉が花を包むという不思議な生態。

その花をクリスタルに見せながら走る頭成は、

たった今自分達が得たものがかけがいの無いものだと、十分知っていたのだ。



第一の難関を突破したアン軍は、

追い詰められようと再びコンセンを使う機会を得た。

だがそれを阻んだのが、大戦草原砦で腕を振り上げたガッツァー。

彼は兵を叱咤激励。部抜やハイサンそれに春活らを討ちたければ

今は生まれたてのアンをこそ狙えと叫び、その上度々先頭に立って奮戦。

何と実際にハイサンとトメントを討ち取り、

身包みをはがして兵の戦意を奪うところまでは良かったが…、

後ほんの少し兵が足りなかったばかりに

アンを取り逃がす事になってしまったのだ。

そうその隙を突いたのはアン自身。彼女はこれもまた何と、

乱戦のさなか野次馬から装備を買うという荒業で正体を隠し、一帯から脱出。

先でも二度は追撃隊に遭遇したがそれも部抜達の死に物狂いの働きによって撃退し、

だが門へたどり着いた頃には、ほうほうの体とはまさにこの事でさすがの彼女も、

ここは本当に生得かと住民に訊いたほどだったのだ。

対するショーンビアはそれを悔しがる事もなく、

二つの砦にその主将を労う書状と増援を送り、東へ版図を拡大する事に成功。

また一方の砦が築かれた寂しがりの森を領する鮮やか岬には、

急場の事なので後で必ず納得させるだけの条件を示すと約束。

アンが建てたはずの巨城にもその扉を壊し、

あの戦いの時は迷宮にいたはずの残る六真武将の二人と、六十もの兵を入れ、

その上自身ではシピッドから動かず、

居館の奥にある銀白の壁に囲まれた黄金のテーブルにおいて、

各支配者と祝杯をあげていたのだ。

それぞれに牙を見せ、猛々しく悦に浸る事で大いに団結を誇示するのは、

今はもう噂の四君。

勿論しばらくそれを眺めたショーンビアは皆のお陰で勝てたとも言ったが、

その形式ばった第一声の次に発せられたのは、

「何故ジェンダは来ない?」

という一言。

「ハハッ…支配者である私が居るものをっ。

お前はそこまで私を馬鹿にするのか?」

「いいや、そうではない。

これからはお前も、アハインの支配者というだけではなく、

四国連合の一つを束ねる男。

そのお前を護る者が居なくてどうする、という意味だ。…ハハッ!」

「ふふんっ、ジェンダは守りに残してある…。気に入らんのか?」

「それは本人の意思か?」

「それよりお二方、あの部抜の顔を見たかっ?!

意外にも中々良い顔をしていた…。

だがだからこそ、これからも楽しめるというものよっー!!」

「おおっ!…さすがは剛殿だなっ!

私のように落ち着いてしまうと、そう大きな事も言えんっ。」

「いいや、大言ではないぞっ。あの首は…我ら衆牙の物だ!」

「うんうんっお譲り致そう。我らは生得さえ頂ければ結構!」

サンドイッチと約した部抜の殺意さえ知らず、

まずは勝った事で逸る心を抑えるAZAKI。

だが彼でさえ一人の人間。

今はつちまみれ・剛にさえ喉を見せ、杯を傾けても仕方無い事だろう。

それもそのはず生得城へ戻った五星がまず聞いたのは、

悲鳴に似たアンの叫びだったのだ。

「おのれーあの妖怪女めぇっ!!~邪魔するなー!」

「いいえ!今はっ、今はダメですアン様っ!!」

どうやらパズラーも必死に止めているようだが、

その竜鱗を待つあいだに上から聞えてきた話を要約すると、

ショーンビアはアンが築いたあの巨城を、

持ち主でもないので維持するのは難しく、

開放して憩いの場とし、何と安楽城(あんらくじょう)と命名。

だが当然それはアン落城…という意味でもあるというのだ。

「何が四つ羽様だっ!!

い、一度でも殺せればっ…それから百回殺してやるっ!!」

「ならば、ならばなおさら行かせる訳にはいきませんっ!」

「それに…憩いの場とは何だ?

我が死さえも愚弄しているではないかっ!!お前は平気なのかっ?!」

「それがまた奴の手です!そうしてアン様を挑発する反面、

怒りに燃える部抜達の戦意を少しでも抑える為、

また警戒させる為にも、あのグリーンレイクには居なかった

まだどういう者かも分からない二将を六十もの兵と共に、

あの城へ配したではありませんかっ!貴方様が敵陣深く斬り込み、

それを戦意の低い兵が追って行ったらなら、どうなります?!

目を覚まして下さい!」

「六真武将の残りか…。だがお前が分からないなら、私に見せれば良かろう。」

「いいえ、力量だけではっ!

秘めた策や思考、何を用意しているかまでは分かりませんのでっ…。」

「…そ、そろそろ交代しようか…?」

こんな時にものんきな事を言うドチだったが、

そこにあの階段を上がって来たのは竜鱗。

「ここまで聞えているとは…恥ずかしい限り。

だがまさか君らが、あの状況で虚報を成功させるとはなぁ。

奴らも少々勝ちに酔っていたとはいえ、大したものだ。」

「いいえっ、仲間の策が良かったのでしょう。」

「…ほうっ。まあそれはそうと、これは約束の3万スペスだ。」

「ありがとうございます。」

一礼して皮袋を受け取り階段を下りる五星。

実は策を考えたのは彼女自身であったが、万一に備え警戒したのだろう。

いいえ、あの五星を討つには頭成やソルバラの勇将、

それに慈愛深く利発なクリスタルの他、中々油断ならない者もおりますので。

そう竜鱗が誰かに言ってくれるかどうかは分からないが、

これも自分達を守る手段ではあり、また彼女自身、

今すぐに手強い存在として見られるのも、良い事ばかりではないのだ。

「おっ、何この強烈に良い香りっ!」

「ずっと持ってただろっ。ああーやっぱり良いねーこの香り!」

だがそんな彼女を城門で迎えたのは、あの花の葉を開閉する頭成。

「どうでも良いですが、一体何度やるんですっ?」

「ハハッ…気に入ってしまったようですね。」

あの策を成功させた後にこれとはまったく大した子供達だが、

エフォートはそんな四人の前途を案じながらも合わせて笑う。

その頭成が持っているのは、繰り返すが大きな単葉で薄桃色の五弁の花を包む、

特に庭先や玄関に置かれる事の多い艶乙女(つやおとめ)という植物。

その詳細をクリスタルに聞いた彼は、

早速それをこれから建てる家に飾るつもりなのだ。

「うんっ、良いんじゃない。君が花を持って来るなんて、意外だけどねっ。」

「男子たるもの、自然の良さ、また趣というものも、

理解しなければなりませんからなぁー。」

その言葉に破顔するソルバラ。

「おお、良い事をおっしゃいますねぇー。」

「…いいえ、要はただ持って帰りたいだけでしょう。」

「オホホッ!

でもそれは彼だけじゃなく、大人だって自然の前では、そんなものよっ。」

そのエフォートには頷くクリスタル。

勿論頭成のそれはそれで良い記念だろうが、

真面目な顔になったクリスタルは話題を諸国の動静へと戻した。

やはり五星が居ない間の頭成は、寂しがりの森では地図まで描いていたものを、

今は戦功と花に夢中であり、ソルバラだけがその相手をしていたのだ。

「しかし、既に城へ入ったとはいえ、あのラフターが随分と遅れたものですねぇ。」

意外にもまず答えたのはエフォート。

「わざとじゃない、とは思うけどねぇ…。何か考えがあったんじゃないのかい?」

「大変失礼ですがやはり…その…、

ラフター様はエフォートさん達のようなお年寄りにも、評判なんですか?」

「えっ、オホホッ。

ええ、まあねぇー。でも私は寂しがりの森に住む魔女だから、

どこにも寄らない人間でありたいものだわ。

それに年寄りに見られたくないなら、この外見でいないわよ。

勿論可愛らしく生まれる人もいるけど、何か私は、無理してる自分が嫌でねぇー。」

「ああ、その気持ち何となく分かりますっ。」

その二人の会話に頷くだけの三人。

簡単に言えば五星達も疲れてしまった訳だが、

当然アンにとってはブリガンテの笑い声が聞える思いであり、

またそれに伴い、世界中から鋭い目が向けられているだろうとも予測でき、

加えて鮮やか岬やサウスティーカップという

比較的生得に友好的な国の動きは、まだ何も聞えてはこないのだ。

そこで訊く五星。

「そういえば、情報ってどのぐらいで届くの?」

「まあまあ、今は休んだらどうだ?」

「それはっ、まあ君も休みたいのでしょうが…、

おそらく情報なら、まず観測者の口から知らされるでしょうねぇ。」

「ええっ。当然強者の動きは分からないでしょうが、

約二百もの人間が集まり、ぶつかっては消え、

またまとまって逃げたりもした訳ですからっ。」

三人がまったくの生まれたてなのであえて言うソルバラ。

またそれを聞いたエフォートは観測者に興味を持ったようだ。

「確かに野次馬も居たようだけど、

やっぱりそれを遠くで見られるのは良いわねぇー。私も覚えようかしら…。」

そのつぶやきにはやはり、お主も覚えたらどうだ?と言う頭成。

クリスタルはその手にある葉を開け、香りで誤魔化したようだが、

丁度そこへ聞こえてきたのが、東側に居て城を見上げる、群衆の声。

「でって行けー、でって行けー!」

「そうだ消えろぉー!プレイに支配してもらった方がましだーー!!」

「それにトメントも出て行けーー!」

「十一歳だってー?!もっと早く言えよなー!」

「だよなー。だったら、子供だから許してやるかって、なったのにっ。」

「私、貴方の三倍年上ですけどー!」

「聡明だとかそういう人でもないしなぁー。」

「愛する生得を返せぇーー!」

それを上から睨みつけているだろう者は、五星達にとっても見覚えのある弓兵。

番塔にいる彼は、相変わらず薄赤い羽根付き帽子に布の服を着ているが、

今はすっかり畏敬の念を喪失している群集達はその弓の手入れを見ても、

ただ睨み返すばかり。

すると彼は、綺麗に整ったクリーム色の髪をなでると、

その矢を下に向けたではないか。

「危ないなー!!」

「おっ、何だお前っ?!アン軍のくせにっ!!」

「…ただ練習しているだけだ。気にするな。」

「こっち向けないでよ!」

「黙ってアン様に報告しやがれっ!!できるならだけどなーー。」

「ハハハハハハッ!!」

「そうだっ、じゃあ部抜様に報告しよう。」

「おお良いぞっ!しろしろっ!!」

「まず自分で攻撃して来いよー。情け無いなー。」

だがその弓兵が窓から消えると、南門へ走る六人。

「…じゃあ、オレ達も帰るか。」

「迷宮の…、迷宮の奥深くで待つからなー!」

聞いた五星達はアンが十一歳だったという事にも耳を疑ったが、

最後まで残った二人がコオドシとドクアトではないかとも思い、

だがそれは皆でよく記憶を探ると、声で別人であると判明。

一々確かめるのも面倒なので雰囲気が似ているだけだと結論付け、

そして当然この住民達の行動だが、それに関しても、

今迄虐げられてきた人々の気持ちは分かるので、彼らを責める気も無いようだ。

「じゃあ帰ろうっ。」

まだ家も建てていないのにそう言う五星に、

一瞬目を見開いたクリスタルさえただ頷き、五人はグリーンレイクへ。

湖はもう澄んだ輝きを取り戻していたが、

そこでもう一度地図を見ると、更に東へ。

より生得との約束通りに正確な位置まで飛んだ彼女達が見たものは、

言葉を失うような光景だった。

遠く東にある森からこちらを見るのは、白鹿の群。

そこまで続く膝までの草々は西日が満ちて黄金に輝き、そよ風に揺れ、

右手には丈は違うが瓜のような形の二つの岩が立ち、

それは近づくと上るのも大変そうだったが滑らかな質の淡い黄で、

左手には薄っすら青の花畑。

その空にあった群雲(むらくも)が過ぎると輝きはまし…

ひらひらと階段を駆け上るように舞った十数羽の赤い蝶は、遠く西へ。

五星はその感動をどう表したら良いか、ただ四人に振り返るしかなかったのだ。

「…凄いっ!これこそ煌びやかじゃないっ?!」

「おおっ、これは良い時に来たなー!」

「涙が出そうです…。」

「確かに!鮮やか岬を出てからこんな美しい景色を目にするとは、

何か皮肉を感じますが…。」

「じゃあ、今迄頑張ってきたご褒美じゃない?」

そう言いソルバラの顔を覗き込むエフォート。

すると彼女はそのソルバラの手に、もう一つのご褒美をくれた。

「えっ、これは消玉…ですよねぇ。」

「うん。みんなの好きな時に使って。」

だがまだ子供ながらに遠慮し、断ろうと走るのは五星。

「でもこれはっ、高価な物ですよね?!」

「ああ、良いの良いのっ。

わざわざ頼んで作ってもらったけど、ずっと使い道が無くてねぇ。

どうせなら貴方達のような素直な子に上げるのが良い。

今そう思ったんだよ。だから使って。」

「ありがとうございます。」

「でも家を建てたら、すぐに使う事になるなっ。」

「まあ、そうですねっ。夜陽ちゃんを迎えに行かなければなりませんのでっ。」

「でも彼女、ここを見たら何と言うでしょう。

きっと気に入ると思いますがっ!」

「ああ、そうっ。友達を迎えに行くなら、すぐにでも使えばっ。

言っておいたけど、私もこれから用事があるからねぇ。」

その代わりと言ってはなんだが、

自分がいなくても迷っている人を見かけたら助けて欲しい。

エフォートはそう言い残して空へ。

勿論皆と同じように手を振っていた頭成だが、

やがてその人差し指はそのまま岩へ向けられていたのだ。

「良しっ!じゃあ、あそこに建てるぞー!」

「えっ?…別に良いけど、私達の家はそうしないよっ。スペス分けようか?」

「花畑の中にしましょうよっ。」

「ずっと向こうに見えるのも、岩ですか?どうせなら森も見ましょう。」

「広いから、わざわざさけるのも馬鹿馬鹿しいが、

花畑の中っていうのだけは、許せん。」

「アハハッ、私やソルバラだったら良いの?古いなぁー。」

「で、ですよねー。趣ですよ趣っ!」

「まあ、約束にあったのがこの辺りというだけですから、

もっとじっくり選びましょう。」

それより重要なのはどういう家にするか。

そう言ったのは五星。勿論色々考えるのも楽しいが、

夜陽との待ち合わせ時間はもうすぐなのだ。

進言するクリスタル。

「ではやはり…防衛力を備えた家に。

見かけだけはどれ程可愛らしくても構いませんがー。」

「もう可愛くないと嫌だと言ってしまえ。」

「中は城のようにしましょう…。」

「いまさら迫力出しても遅いんだってー。」

「面白いけど、ちょっと静かにっ!」

「…ですがそれでは、アン軍を裏切る事になりませんか?」

だがその真面目なソルバラの意見には、一斉に首を振る三人。

「私も外観が城でなければ、中身はどう造ろうと文句を言われないと思う。

確かにこれには勇気もいるけど、

大体にして、築城禁止なんていう事自体、この世界でちょっと横暴だからね。

ラフター様も侵略を受けたら、どうするつもりだろう?

まあそれでも内装を咎められたら、シピッド軍が怖かったって言っちゃおうよ。」

「…今のお言葉、確かに聞きました…。」

「こういう時の頭成は、よくできた臣でしょう?」

「ええ、…まあ。

確認して許可されなければ、それはそれで困った事ですからねぇ。」

「…私、そんな事言った…?」

言ってソルバラに微笑する五星。それを受けた正義人の彼女も、

これは何かの書物で見た事のある場面だぞ…とは思ったが、

実際あまりにお人よしでも守るのに大変なので、今は黙っておく事にした。

そのそれぞれの意見を加味し完成したものは…、

まず十メートルもの高さはあるが綺麗なだけの石壁で直径百メートルを囲み、

その白には北と南にオレンジの門を設置。

中には三十メートル程で五階建ての石塔のような建物を置き、

その入口は南にある外側と同じオレンジ色の門が設置された、二階への階段。

一階には奥から物置にする地下のように床を開けて下り、

万一の場合は庭に侵入した敵を

そこにある小窓から弓や呪文で攻撃できるようにもしてあり、

二階は入ってすぐ目の前に噴水もある左右が来客を泊める為の六つの部屋で、

奥にある階段の上り口は中央。

その左側に向って渦を巻く少しずつ広がる金銀の螺旋階段は、

上が吹きぬけで途中から壁があり、上って行く右手が壁で、左手の手すりは低く、

そこを上がると三階は使者などと会う大広間。

四階が頭成達の住む臣下の間で、その上の五階がやっと五星の君主の間。

そしてその窓から手が届かない程離れた屋根は、平らな屋上。

当然その一見して侵入が困難な造りは邸や家というより…城。

また外観だけでも正確に言うなら砦というのが正しいだろうが、

見上げたクリスタルは、満面の笑みをつくる頭成と驚くソルバラの顔を見ても、

あえて静かに訊いた。

「素晴らしい…!ですが、スペスはどれほど残しました?」

「二千ちょっと。」

「え、ええっ?!返して下さーーいっ!!」

「今更そんな事言われても…。」

「五星にではなく、神に言ってるんです!」

「それこそ無理な話じゃない?」

「おおー、良いじゃないかぁーー!!

まあ中を見てみないと、分からないけどなっ。」

「私も良いと思いますっ!

それにスペスなら……えーと私も、2450はありますし…。」

「ではそれも合わせてやっと4000ですよーー?!」

「まあまあ、客間の扉や壁も頑丈に造ったから、安全で失礼も無いよっ!」

「……それも疑問に思うのですが…、では、外の壁はどうです?」

「…じゃあ、後で造り替える!」

「そんなに心配しなくても、上から攻撃して守れるってぇー。」

「私も自信がありますっ。」

「二人はそうでしょうが…。」

このあまりに無邪気な会話を聞いた支援者がどう思うかは分からないが、

四人はクリスタルの袖も引き中へ。

庭も思ったよりは広く、中心に直径四十メートルもある城以外の全てで、

その入口の門も半円型のオレンジ。

そこを開けた頭成達はまず海竜が彫られた噴水に走っていた。

その雄々しく泳ぐ姿に手を置く頭成。

「おおっ!これだけ豪華なら問題無いっ!やっぱり城だっ!」

「これに幾らかかったんです?」

「もうその話は止めようよっ。…確か3000スペスぐらいだったけど。」

「クリスタル殿の役目は分かりますが、迷宮へ入る、

また悪人を退治して戦利品を得たりと、

色々貯める方法はありますので、大丈夫ですって。」

口には出さないが、やはりソルバラさえ財には無頓着な武人と呆れるクリスタル。

だがそれはそうと更に赤い絨毯を進み、淡い水色の壁には紫に金枠の扉があり、

それに合わせた二本の蔓模様も過ぎ、階段を上る四人。

「はぁ~~。」

クリスタルはその銀の手すりを撫でただ大きくため息をつきながら上ったが、

その階段の意味に気付いた頭成とソルバラは黙って振り向き、

五星は嬉しそうに頷く。

「おおっ…我が城の堅固さに、気付いたかな?」

「お前っ、やるなー五星!」

「これでは、敵は攻め難く、こちらは守りやすいですねっ!」

「うんっ。私の考えでは、当然上からは矢と呪文を落とせるし、

それに大体右利きだから、そっちが壁だと武器を振り難いでしょう?

その上こちらの手すりは低く、そう邪魔にもならない。

さっきも言ったとおり客間は頑丈にできてるから、

階段に居る敵を蹴散らしたら素早く下りて、

そこへ入ろうとしている奴らも、一気に倒せるからね!」

「そうだ、壁も攻撃はできるけど、

余計な抵抗があるし、武器には壊れやすさまであるもんなっ。

無茶苦茶に振る事もできるけど、たまたま壁に当たって壊れたら悔しいだろうし。」

「勿論攻められるのは困りますが、何だか強い高揚を感じます!」

「うんうん、なるほどー。」

聞きながら後ろ手に組むと皆を追い越し、大広間へ上がるクリスタル。

白壁にベージュの絨毯に変わった床には、

丈夫そうな艶めく茶色い木の椅子が奥を向いて並び、

それはまず手前に五脚、中ほどに一番奥にある淡い金の椅子に向けた形で、

両端に三脚ずつと、多少ではあるがまたここでも防戦が想定されているようだ。

「うーん、中々深い気品を感じる大広間ですねぇ。」

「まだこっちは良いけどさ、五星が座るあれ、ちょっと渋過ぎないかっ?」

「良いのっ!たまにちょっと変わったのも良いでしょう?」

その五星に頷くソルバラ。

そこで思いついた彼女が言うにはアン軍やソーンジ達のように、

五星だけの模様も考えた方が良いのではないか…という事。

「良いですねっ!でもそれは後にして、僕達の部屋も見ましょう!

どこからです?」

「ああそれはね、あの玉座の前にある、

炎に包まれたダイヤモンドカットの青い模様から、

ゆっくりと天井に上がります!」

「オレの部屋は渋くて良いけどなっ。」

「おおっ、これはまた一風変わった。

では丁度良いので、私達の軍を表す模様もこれにしませんか?」

そのソルバラには頷きまず自分で上がる五星。

彼女達がオレンジの円から消えた先にあった廊下は、

またベージュの絨毯に、色取り取りの花柄が美々(びび)しい銀の壁。

背中の南側と奥には、円の中ほどを引き伸ばしたような大窓があり、

そこにはどこまでも草原が続き眺めも素晴らしいが、

さっきのソルバラの提案が気に入った五星は、

またその事を思い出したように話す。

「そうだ!そうだねっ!

やっぱりソルバラの意見を聞いて、あれを私達の紋章にしよう!

私がお父さんから教わった、情と利益、つまり情利の話にも合うし、

何か雰囲気が良いと思ったんだよなー。」

「なるほど…。

ではその柄外套の模様は、国としてはやや好戦的な印象ですし、

五星様だけに許される印にしましょう。」

「そこまではしなくて良いよ。」

「それに、煌びやかな部屋はありがとうございます。

ですが、情利とは?

それは普通、情…理ですよ?ご存じないのも当然ですが、

つまり人情と、人としての正しい道等…という意味ですねぇ。」

「それは聞いてないが…本当に華やかな階だなぁーー。」

「アハハッ、せっかく教えて下さったのに。」

「そうじゃないの。」

その五星いわくやはり情利とは情と…利益であり、

何事もその視点を用いて判断する事で、実は大体が上手く行く。

「それはっ、どういう意味です?

大体は、情と利益の両立が叶わないと思いますけど?」

「でも違うんだなぁー。

だってこの世界でも、国だろうと町だろうと問題は様々だけど、

実はそれが上手くいかないのは、極少数の人達のわがままでしょう?

ちゃんとお互いの為になる解決方法があるって事っ。」

「ウィンウィンっていうやつか?」

「うん、それも情利の一つ。それに自分だけの問題でも、

実は情にも利益にも適う事って、沢山あるでしょう。」

それには同意するソルバラ。

「そういえばそうですよね!

常識のある人は、大体その中で物事を考えがちで、

それはそれで大切でしょうが、実はもっと初めから見直せば、

素晴らしい解決方法があったりしますからっ。」

珍しい事に、頭成さえ今自分達が出て来た模様を見直し、強く頷いているようだ。

「素晴らしい考えだな。そう何ていうか無理のない正義だ。」

「うんっ、無理があると、

結局それは人々の望まないかたちになって、正義じゃなくなるからね。

それにお父さんが言うにはね、自分は情だけで動くけど、

情利の思考を説いた場合、利益だけを考える人も説得しやすいって。

だから後はそれをどう具体的にするか!」

頷くクリスタル。

「五星のお父さんは、思想家でしたっけ?」

「いいやっ、でもいずれこの世界にも来るらしいよ。

たぶん忙しくて無理だろうけど、もしも来た時にはよろしくねっ。」

「遊びに行けなくてごめんな…。

だがこれからも集まる時は、オレの家に来てくれ。」

「ええっ?!

見た事はありませんがきっと頭成のお父さんだって、怖いんでしょうっ?」

「どうでしょうねー?

寧ろこういった方のご両親は、我が子には優しいと思いますが…。」

「それはどういう意味だ?

それにな、オレの親父の怖さは、一般的なものだ!」

「それこそ私に対してどういう意味ですかって。~そうだ!

じゃあ後でさ、私達の軍の兵衣(へいい)も決めなきゃね!

勿論、基本は自由で良いと思うけど、生まれたての人や、

まずはという意味で兵役につかせてくれ…という人には、支給した方が良いから。」

「ああっ、それはオレに任せろ!」

「何故君に任せるんです?」

「おそらく、将軍だからではないでしょうか。

ただ、お二方の内どちらが決めるにしても、

あまり難しい事を気にしない方が良いとは思いますが、

着ていて格好良い物でないと誰も戦ってはくれませんから、

そこはお願いします。ああ、それに今はスペスもありませんねぇ。」

「ああ、ハハッ!…それもそうだねっ。」

「結局そこに戻ったか。」

「あっ!」

そこで何故か声を上げたのはクリスタル。

決起して盛り上がっていたところだが突然本を出しその金時計を見ると、

時刻はそろそろ午後三時になろうとしていたのだ。

「じゃあ、遅れるところだったね!

どうせ眠る時に来るんだから部屋は後にして、すぐに行こう!」

「ああ、早くこの城を夜陽ちゃんにも見せたいもんなっ。」

頷くソルバラから順に下へ移動し、次々と城を出る四人。

頭成は、たぶんあの程度の高さからなら落下ダメージも少なく、

死ぬ事はないのにとも思ったが、五星が急いでいる理由はすぐに分かった。

それはあの迷宮で手に入れた心通いの種。彼女達は中庭から北門を出て右へ。

そこにも長々の隙間から青い花が覗いていたが、

どうやらこの辺りに種を植えようというのだろう。

そうしておけばもしもまた夜陽の身に何かが起きていても、

家や町、それにこの種の明るい話題で、

それらを払拭する事ができるというものだ。

「えっここで良いんですかっ?!もっと慎重に考えないと!」

「良いよここでー。時計見せたのお前だろー。」

笑いながら振り向くと城の位置を確認し、地に光を放つ五星。

するとやはりそれは小さな小さな赤紫の芽となり、優しい光を返した。

その微かだが温かい光を見つめるソルバラ。

心通いの種。

頭の中でそうつぶやいた彼女は次の瞬間にはハッとし、

もう何が誕生するのか分かってしまったらしいが、

それは特に頭成、また五星達の楽しみを奪う事にもなるので、

直前で教える事にしたようだ。

きっとその時には皆なるほどと思うだろうが、もどかしい思い。

それはきっと、

今から悲しみを背負った友に会うだろう五星ほどではないだろうが、

ソルバラはその夜陽の為にも、まず彼女の明るい背中を押す。

「では行きましょう。」

「…うんっ!」

「本当に泣くのだけは、止めてくれよなっ?」

「もらい泣きしそうだからですか?」

そのクリスタルに鉄刀を出す頭成だが、飛び立ってからも城へ振り返る四人。

勿論その顔に憂いは無かったが、

この幸福を早く夜陽にも分けてあげたい五星は、

彼女が来てくれるかどうかとただそれだけは不安に思っていたのだ。



寂しがりの森の広場を見渡した五星は、

これは偶然でもあるだろうが、今は皆陽だまりにいる事に気付いた。

北側の左で敷物に商品を並べ胡坐をかいて客を呼ぶ、

卵形の兜の横に羽をつけ、重厚な銀鎧に黄色いズボンをはいた青年も、

その右手で、可愛らしい青と緑のローブ姿の少年二人が

木登りをするのを笑って見る白いドレスのお姫様も、

また五星達から見てすぐ左で、

宝石や高級そうな小手など沢山の品を地面に置いてそれを数える、

ちょっと怪しい純白の鎧兜に身を包む五人も…。

考えてみればこの世界には、疑似感覚としてはあるだろうが不快な熱や

目を痛めるほどの眩しさも無く、

ある程度人目も気にして明るい場所にいるのが普通なのだろう。

それはそうして片付けられた彼女だったが、今更ながらその頭の中には、

夜陽に書いた寂しがりの森の広場とはここだけだろうか…

という小さな疑問も生じ、

だがそれを聞いたソルバラは、すぐに五星を安心させてくれた。

「自分でそう書いてしまった訳だけど、本当に大丈夫?」

「ええっ。確かにこの森も、すみからすみまで歩けば広場はたくさんあります。

ですが寂しがりの森の広場といば…大体皆ここだと思うでしょうから。」

「…うんっ、ソルバラが言うなら間違いないだろうねっ。でも…。」

「だからそれは何故だ?もっと他にも広場があるんじゃないのか。」

「僕は分かりました!」

「おお、説明不足で申し訳無い。

ですが公園や町にあるともうそこはただの広場ではなく、

何々公園の広場、何々町の広場、と呼ばれますよね。」

「ああ、考えてみれば当然だけど、この森の中にも町があるんだっ。」

「ええ。私が知っているのは二つだけですが、それも後で説明しましょう。

それより今は、夜陽さんを捜さなければ。」

「知っているのはたった二つ…。じゃあ一体、実際には幾つあるんだっ?!」

「すぐに話を戻さないで下さいよー。」

またふざけ始めたな。

別にまったく悪くは無いのだがそう感じた五星は、

やはりその元気があり余っているだろう頭成を連れ、広場を回る事にした。

「夜陽ー!私が五星だよーー!!ここだよーー!!」

「そしてオレ様が、頭成将軍だー!覚えておくと良いぞーー!!」

「それじゃあスラッグさんじゃない。」

「冗談、冗談っ。真面目にやるってっ。」

「そうじゃなくて~、恥ずかしいから!」

実は夜陽が細かい事を気にする性格で、

今五星が心配した小さな事情で名乗り出なかったらどうするのだろう。

とにかく二人は念入りに彼方此方へ呼びかけたが、いつまで経っても返事は無く、

しばらくそれを見ていたクリスタル達の視線も、今は捜すのを手伝っている。

「やはりっ…五星も同じだと思われているのでしょうか?」

「そういえば私、まだその方の事を詳しく聞いていませんねぇ。」

そのソルバラに、

夜陽とその友人真功郎や黒後ろ髑髏の事について、簡単に説明する彼。

やはり彼女の方は、その呪いについて知っていたのは噂程度だったが、

聞けば聞くほどにその顔からは…表情が消えていく。

「そ、それは酷い!本当に最低の魔物ですね…。

でもそんな事…誰にも聞きませんでしたよっ。」

「悲しい事に、組織とはそういうものかも知れません…。

ですが、五星や頭成の場合は、人とはそういうもの…とも言えず、

この世界の誰に恥じる事も無いのです。」

「おおっ、五星様達ならどんな事情も無関係に、成すべき事を成すと?

それは凄い事ですねっ!ですがそれではー夜陽さんや真功郎さんは、

五星様ほど強くないだけの誰かを責める事すらできない…。

とても悲しい、やるせない事実ですねぇ。」

黙って頷くクリスタル。

すると五星達も二人揃って眉を上げ、仕方無いという顔で帰って来た。

「何か…来ないんじゃないかって予感はあったけど、やっぱり居ないねっ。」

「…あ、そうだ!

別にプレーなんだからー、悪人でも気にしないぞーー!」

「だぁー頭成っ!!…プレイとか言ったら世界観を壊して、ダメですって…!」

「わ、私も忘れていましたが、四つ羽様はっ?!」

だがどこにも赤い光線は立たなかったので、再び夜陽の話に戻る四人。

その頭成の発言には、さっきの白い鎧兜の男達も一瞬おろおろとしていたが、

自分達に対してでは無いと知り、また元の作業に戻ったようだ…。

いいやもしかすれば、何悪人プレーヤーだとっそれは許せん、

と素早く敵を探しただけかも知れないが…。

「…オ、オレを蹴らないのか?」

「本当に良いと思って、言ったんでしょう?」

「うーん…。

むしろ彼女達の方が、拒絶を怖れている可能性もありますからねぇ。」

「でも人々の反応を見る限り、そうでもないっ…と。

とぼけているように見える方も、あれから居なくなった方も居ませんね。」

そこでクリスタルに指摘され、観測者を雇う事も考える五星。

当然目塞を使っていたり、迷宮に居たり、

そもそも今この世界に居ないと意味は無いが、それも一理はある。

「でもさ、あの光の中から、一々夜陽ちゃんを捜すのか?

そうじゃなくても、名前順検索をするとか?

確かに良い案だけど、オレならスペスは取るねっ。」

「ああ、名前順検索かっ。それぐらい出来ないのかな?」

「ですよねー。でもそれより僕は、勿論決めつけるのは早いですが、

やはり夜陽ちゃん達が人をさけているように感じます。」

「またせっかくのご提案を否定するようで申し訳ないのですが、

実は名前順検索もできません。皆それぞれに楽しんでいますから、

自分達の時間と空間を大事にしたい人もいて、

それに本当に仲が良いなら、家や、居場所を教え合うだけで良いですし、

これは勿論ご存じでしょうが、友達を検索するくらいの事はできますよ。

皆さんお持ちのあの赤茶色の本に触れる事で、友人として認識され…、

登録した事は相手にもすぐ分かり、拒否したりもできますがねっ。」

するとしばらく聞いていた頭成は、やはり頭を抱える。

「ああー、その夜陽ちゃん達の友達が見つけられないっ!

そうだっ。あの時夜陽ちゃんを知りませんかって、聞いて歩けば良かった?」

「でも、偶振刃で…?珍しいかも知れないけど、

私は友達を作る為に幻想世界に来た訳じゃないから、

そんな事も気付かなかったね。」

「いいえ、僕もそうですよ。人それぞれですっ。」

「…それより、本当に来ないのでしょうか?もう五十分は経っていますよっ。」

そのソルバラに本を出し、触れるように頼む五星。

クリスタルはその意図を察したようだが、頭成には理解できなかったようだ。

「な、何故です五星様!

それならまず我々へこそ、それをすべきではありませんかっ?!」

「もうーー。

ソルバラは私達と違って、まだ仲良くなったばかりでしょー。

だから今の内にと思って…。」

「そうですよー。五星がこれをしないで一番気にするのは、ソルバラですし、

今忘れてしまったばかりに、会えなくなったらどうするんですっ?」

「ありがとうございます!」

言って頭成に軽く頭を下げ、その栄誉を受けるソルバラ。

そうか五星はソルバラを心から気に入り、

彼女にいつまでも仲間でいて欲しいから気を遣い、十分に仲の良いオレ達より

まだ付き合いが浅い彼女の心を繋ぎ止めておく事を、優先したんだ。

考えた頭成は自分でも五星やソルバラの本に触れ、

そうして四人はお互いを友人として世界へ認識させた。

そう確かに、長いからという理由だけでは本当の友人とは言えないが、

逆に昨日今日会ったばかりでも意気投合する場合はあり、

またそれが素晴らしいものになるかどうかは、

五星達のように何でも素直に意見し合うか、

あるいは親しき中にも礼儀ありを貫けるかにかかっているのだ。

だが、そんな改めて誓い合った彼女達に聞こえてきたのは、

西から来た生得解放戦線達の声。

後ろから付いて来た六人は相変わらずあのローブを着ているが、

不思議な事に先頭の男はそのローブに、

あの細長く鋭い銀の肩当てと鎖それに右手にも大鎌を持ちながら、顔を出し、

堂々と歩いて来るではないか。まだ幹部候補であるのにどういう事だろう。

その事情を知っている者は誰もが怪しんでいるが、

彼は細身で、白肌に短く赤い髪を散らし、両頬に一つその並びで首にも二つと、

外から内へ斜めに落とした青い線のタトゥーがあり、

かすかに端の上がった目は大きく鼻筋が通り、緩やかな曲線の下にある顎も細く、

まるで女のように紅までひいているが、どうやら男のようだ。

所詮見た目、とはいえその意識を喜ばす美。

それに気づいた者は誰もが目を奪われ、だが五星達も含め、

広場にいる者達がどうしてもひっかかっている事といえば、

それはやはり彼らが一体ここへ何をしに来たかだろう。

その答えはすぐに先頭の美貌から発せられた。

「ああっ皆さん、どうかお気になさらないで下さい。

どうかそのまま、そのまま。

我々生得解放戦線はこれから大戦草原の砦へ向かうだけで、

何も戦いに来た訳ではありませんのでっ。」

その凛々しく美しい声に、頭成に訊く五星。

「…あんな人居たっけ?

ああそうだっ。フードを取ると、ああなるんだっ…。」

「いいやっ、あの時は居なかっただけかも知れないが、

もしもあの中に居たなら、顔を覚えられている恐れもあるなっ。」

「ええっ。

まだ私達が虚報の策を実行した張本とは知られていないでしょうが、

大人しくしていましょう。そうだ座って…!

皆でこの木々に、あの黄色い鳩を探すのですっ。」

「…ああ、そういえば知ってます?

隠れかばという、木の上に隠れるかばもいるんですよ。」

「…本当っ?じゃあそれを探そうっ…!」

強く賛成する五星。

怪しまれない為にもできればやや真剣に探すぐらいが丁度良いとは思うが、

そうして彼女達が上手くやり過ごそうとしていると、

先頭の男はあの卵形の兜を被った青年から、丸みを帯びたブロンズの肩当てを買い、

それに付いている細長い金属部分を胸の前で固定、仲間に見せる。

「どうだっ?」

「ああ、良いねっ。

でもどうせなら元の装備に戻すとか、買い替えたらどうだ?」

だが何故かゆっくりと首を振る男。

「いいやっ、それでは私が解放戦線の者だと、誰も気付かない。」

「ああ、そうかっ。せっかく幹部になったのに、それは困るよなっ。」

「そうではない…。

私は、解放戦線なら働き次第で世の表舞台にも立てると、

人々に知ってもらいたいのだっ。この兵衣を着ているのも、その為。」

「いやぁー、クロスワードは真面目だからなー。恐れ入ったっ。」

「だから歩いて来たんですね?」

「ふふんっ、それでなくとも我らは…勝った側だから、

オレが歩く事をすすめたんだがなぁー。」

その勝った側の笑い声に耳を向ける五星。

「…中々感心な人がいるねっ。新幹部クロスワード。覚えたっ…?」

「…なんと五星様っ!

それはまさか、私におっしゃっているのですかっ?

まだまだこの耳にはどれほど遠国にいる勇者の名も、

速やかに入ってきますぞっ…!」

「…家老ですか君は?そういうのだけはすぐ覚えますからねぇ…。」

「…さすがは将軍っ。私も彼は覚えておきます…。」

実はこのクロスワード、

中部へ築城した際のアン軍を闇鎧戸の隊にいて撹乱。その功を認められ、

また自身の外見や態度がやや高圧的な事を憂慮した険連もすすめ、

使者にすべく兵衣を解かれた男だが、真面目は良いがやや禁欲主義に過ぎ、

それはAZAKIこそ褒めるものの、

闇鎧戸達からは余り無理をするなと言われる事もしばしば。

だがいつしかそのひたむきさのお陰で、

勢力内でデスサイズを操る者としては右に出る者が居なくなった程の人物だった。

そうその会話を聞く限り、

今はある失敗のせいで偶振刃へ帰る事になった仲間の代わりに

大戦草原砦へ赴くところらしいが、アンが生得城へ帰った現状を考えれば、

AZAKIにとっては当然の命令だろう。

そして一瞬だが、それを聞いて固まる五星。

「…申し訳無いけど、乱世の習いだねっ…。」

「…ああ、騙したあいつの事だなっ。一応隠れて正解だっ…。」

「そうですっ。既に五星は知っていましたが、

この世界では一般兵が着る鎧の事を、兵衣(へいい)、

そして、それを解いて将軍や参謀役にする事を、兵衣を解くと言うんです。

中途半端な格好なので気付きませんでしたが、

ソルバラは知っていましたよね?」

「…い、いいえ。それは私も知りませんでしたっ…!」

「…静かにっ。彼らが動くよっ…!」

「それにしてもー、

まあお前が幹部になるのは分かるが、あいつも慌てたものだなー。」

「いいや、私も今回の策を直前になって聞かされ、驚いていた。

いつか海峡を渡り、まずはアンなどに従属する明空を落とそう。

そうは願っていたが、まさかこのような事になるとは。」

「でも良かったじゃないかっ。オレ達にも、クロスワード何とか衆とか、

かっこ良い名前付けてくれよっ。」

「ええっ『衆』ですか?オレは、衆牙っぽいのは反対ですよっ。」

その言葉を耳にした五星が考えるに、

やはり彼ら連合軍は大義も、またそれぞれに力はあってもまだ烏合の衆。

だがその解放戦線達が東へ消えると合わせたように西から現れたのは、

三頭身だが、獅子のようなたてがみもある、目の細い真っ白な犬。

正確には犬人(いぬびと)というべきだろう。

何故なら彼も、胸元と膝が青の白い半袖着物を着て、

二本足で立っているからだが、その眉間にはしわが寄っていたのだ。

すると五星に話しかける犬人。

「…私は平和が一番だと思うけどなぁ。~ねぇ?」

「うんっ。私もそれが一番だと信じてるけど、中々上手くはいかないねっ。」

「ああ、どうしようー!

サウスティーカップにさえデュプルアイが攻めて来たって言うし、

やっぱりアハインが一番安全かなーー。

でも四国連合中最も生得に近い国でもあるしー、このままではー!」

それに答えたのは頭成。

彼がさっきの自分のように頭を抱えていたのも、可哀相に見えたのかも知れない。

「それは、質問かな?」

「うんっ!

もしも本当に平和な土地があるなら、教えてもらいたい程だよっ。」

「えっ、そんなに酷いか、今の状況っ?」

「いいやっ…自分でも優し過ぎるのは知ってるけど、

やっぱりなるべく平和な場所に住みたいだろっ?

鳥歌い、花そよぎ、誰も彼もが…完璧なマナーの中で生きられる場所!」

「じゃあクリスタル、交代なっ。」

「な、何故僕なんですっ?」

「そうだ、君でも良いから教えてくれ!

私が心ゆくまで、宝探しを楽しめる場所をっ!」

「…だが、丁重にお答えしろよ。」

「本当に分かりやすいなぁー。」

「よく言われるよ…。もの凄い平和主義者で…逆に怖いって。」

「おい、クリスタル!」

「ああっ、貴方に言った訳ではありませんっ。

そうだ!えーとっ、宝探しが趣味なんですか?」

それには顔を上げ、糸目を光らせる彼。

「うんうん、それはそうだよねっ。

そりゃあ君達も、宝は欲しいだろう。私は初代・ロック!

この辺りではちょっと有名な、冒険家だよ!」

「要するに、冒険者ですか?」

「そうっ。だけどあのジェンダさえ、勝手に狂戦士って言ってるだろ?

だから私も、自分を冒険家と思ってる。ほらっ!」

そう言ってあの赤茶色の本にある職業欄を見せ、

大きな顔と共にその『冒険家』という文字を強調する彼。

それを見た頭成はその熱意というか、本気で何かを楽しむ心には感心して言う。

「そうかっ、そういう細かい事もできるんだっ。

じゃあオレは、将軍だな。」

それには小さく驚く五星。ソルバラも何か言いたいようだが…。

「でもそれじゃあ、そのままじゃない?」

「いいや、オレこそが将軍!傲慢とかは言わせないぞっ!

他の勢力にいる奴らなんて、所詮仰ぐに足りない君主の一配下に過ぎないんだ!」

「勿論、後で変える事もできますけど、つまらなくありませんか?

せめてもっと、武勇伝らしい何事かを成してからでも…。」

「………。」

そのソルバラの意見に黙り込む頭成には、珍しくクリスタルの方がからかう。

「おっ、悩んでますよっ。」

「彼基本的に、派手なのが好きだからっ。」

「おおっ…将軍にとっては目立つ事も働きの一つという訳ですね。

それなら、もっとお洒落な感じでも良いのでは?」

「それより君達、そろそろ宝の話を聞いても、良いのでは?」

「ああ、ごめんなっ。

オレの職業や異名は、後で五星に決めてもらう事にするわっ。」

その言葉に眉間にしわを寄せる五星。

「異名をねだるとは…やはり傲慢不遜っ。聞いた事が無いっ!」

「フフフッ!まあ頂く相手としては正しいのでしょうがー、

もう宝探しに行きましょう。」

「~おおっ、大人しいクリスタル殿が、ずいぶん積極的ですねぇ。」

そうまだソルバラは三人の事をよく知らないが、クリスタルの意見には頷く五星。

だが当然それは初代・ロックの気持ち次第だろう。

「良いよっ。皆にも手伝ってもらおう!」

「おおっ、ありがとうございますっ。」

「良いね良いね、君達!どこに住んでるのっ?

教えてくれたら、そこに住んであげても、良いけどなぁー。」

「ああ、でも誰にも強制はできないからっ。」

「…いいえ、機会があれば住ませて下さいっ。お願いします。」

「ああっ、ちょっと!」

何故か深々と頭を下げる初代・ロックに、笑う頭成達。

彼も孤独な訳ではないだろうが、五星達も宝探しに興味を持ち、

五人はそのまま森へ。

もう一度迷宮へ行きたいとも思った彼女達だったが、

これから夜陽が来るというのも望み薄なので、

しばらくは彼に付き合う事にしたようだ。

更に五星が聞くと、彼は収集家でもあるサウスティーカップのKAENに、

アドベンチャーブックという、何か一つの事に打ち込んだ者が授かると言われる

透明な濃い赤の宝石を売った事があり、

その感動が忘れられず今も宝探しを続けているのだという。

「えーとじゃあそれは、ずっと宝探しをして、その情熱で授かったの?」

「いいやっ。地の中から、掘り当てたのですっ!」

「それはそれで、凄いこだわりと強運だねっ。高価だったんでしょう?」

「ああ、でもその名声も…ほんの一月程前まで…。」

「えっ、何があったの?」

「何も…。でも本当に、君達の町に住んでも良いよね?」

「アハハハ!

じゃあ冒険家としてじゃなく、今までの人生に何があったのー?

私の町に住むのなんて、相当酷い奴で無いと断らないよっ。

あ、まさか…。」

「いいやっ、別に悪人じゃないよ!

でも何か、排他的な人にばかり会って…それで臆病に。」

「それは憐れだ。」

「おお、では仁将頭成にしたらどうですっ?」

そのクリスタルの言葉に頭成はゆっくりと頷き、それを見てソルバラも笑い、

だが丁度その時彼女にも気になった事がある。

「そうだ、何で名前に初代って付けたんです?」

「ああ、それはー私を初代にして、この仕事を継がせようと思ってねぇ。

誰かが弟子入りして来た段階でっ、

はっきり二代目を継がせる!と、意思表示しておきたかったんだ。」

その理由には一度ソルバラを見て、素直な感想を言う五星。

「へぇー、君は変わってるねー。」

「そういえばお前、ジェンダの知り合い?」

「あっ、正直なところ僕も思いましたが、

別に彼はアハインの兵でもありませんし、

世間が名高い方を呼び捨てにするのは、当たり前ではありませんか?」

「ええ、元鮮やか岬の私にも常識はありますから、どうか正直に答えて下さい。」

「うん、じゃあ言うけど、ぜんぜん知らないっ。

でも私にも常識があるから、話す時はさん付けするよっ。」

それに口を開いたのは五星。

「アハハッ、そこは疑っていません。

だっていくら丁寧な言葉で話しても、雰囲気で失礼な人っているでしょう。

私はそういう人の方が嫌い。」

「それはオレも嫌だなー。

例えばさ、おおー頭成さーん最近どうすかー。

て後輩に言われても、馴れ馴れしいけど仕方無い奴だなーで済むけど、

これはこれは頭成先輩、今日は何のご用です?

うんっ、何です?よく聞えませんねー。

もっとはっきりおっしゃって下さいませんかー。

いいえいいえ、私の耳はまったく健康です。悪いのは貴方の声。

申し訳ありませーん、もっと大きな声を出して下さいませんかー?

うーん、それが限界でしょうかねー?だとさー、腹も立つだろっ?!」

「そ、それはそうでしょう。」

「というよりそれ、嫌がらせだから。」

「だろーソルバラー?」

「な、何故私なんです。何か失礼な事しました?」

真面目なソルバラにも同意してもらいたい頭成。

初代ロックも面白いと思ったのかくすくすと笑い

ますます四人を気に入ったようだが、

その足は広場から南西の方角へ向い、歩いて三十分程。

森はまるで迷路のようにどこまでも続いていたが、

寂しい雰囲気は無く、清々しい虫や鳥などの鳴き声も聞えた。

「それで先生、今日は何を探しに行くんです?」

「うん、何でも良いよ!

何っでも良い物を見つけて、それを飾ったり売ったり、

あげたりするんだ!ねえっ将軍!」

「そうですなー。それこそ至上というもの!」

「ただ一応、生涯の目標はあってねー、オルファの光と言われる霊薬。

もしもそれを見つけられれば、大きな成果だねっ。

でもそれも全部土地と運次第だし、

後はプレートや風の子を見つけても、幸運と言えるねぇー。」

「へぇっ、聞いているだけで楽しくなってきたけど、…何それ?」

勿論そう訊ねる五星に、初代ロックいわく、

プレートとは、何らかの文字が入った金属板で、多くは金や銀で作られ、

だがそれを扱う者や地域によって価値は大きく変わり、

ゴールドバーにするにしても鍛冶特技が無いと変えられない為、

スペスに変える者がほとんど。その大きさは小さなカードのようだが、

例えば『力』や『勇』など男らしい文字が入った物だけを集めている者もおり、

また、昇遊石(しょうゆうせき)とも呼ばれる風の子は、

使えば一度だけ大空へ舞い、

地上百メートルから十メートルまで一気に落ちる事ができる

直径三センチほどの水色の石で、

ぶつかっても失敗して落下してもダメージにはならず、

その開放感から求める者も多い。

「おおそれは…どっちも欲しいな!

でも風の子は、クリスタルが嫌がりそうだなー。」

「訊かなくても分かるでしょう。」

それには笑いながらも、前に出した右手を光らせ、辺りを見回す初代ロック。

すると彼は、大きな二本の愛の間にある柱のような木の奥に生えた長々草の中に

小さな光を見つけ、突然そこへ走りだすと子供のようにはしゃぐ。

「あったっ!あそこだ!」

そこで地面に向けた両手を何かを掘る時のように、何度も内側へ回す彼。

するとその両手招きに地面から立ったのは…淡い光と、中に漂う小さな輝き。

それを見た五星はまた彼に訊ねる。

「そ、そうやって探して、掘り出すのっ?!」

「そうだよっ!でも問題は何であるかだけど、なんでも損は無いからねっ!

そこが良いだろっ?クリスタル君は、エナセイ使えるよねっ?」

「えっ、何か怖い動物でも出て来るとかっ?!」

「それはないだろー。」

「私も見るのは初めてです!」

その間にクリスタルが触れると、柱のような木はクイという名の植物。

まっすぐにしか伸びない細長い幹は、成長しても直径十五センチ程にしかならず、

だが最大で八メートルにも達し、上の四分の一にしか枝が生えない常緑樹で、

風にしなり折れ難い反面葉はなめらかで特徴が無く、

その細長くこざっぱりとした姿から目印にしたり、

また丈夫なので並木道へ植えられる事も多いものらしい。

その勉強に素朴な喜びを感じた彼には宝探しなどする他があさましくも見えたが、

強い好奇心や、またこれからの活動も考えてスペスへの欲望にも勝てず、

すぐに皆の背中へ。

すると何とその地面からひょっこり出て来たのは、

アーモンドのような形と色の…ネズミだった。

「…えっ?!こんな馬鹿なっ!」

そう叫び顔を近づけた初代ロックに振り向き、驚き、奥へ消えるネズミ。

「あっ!!~捕まえなくて良いのかっ?!」

「あれは良いんじゃない?」

「面白い…ですねっ?」

「え、ええっ。確かに意外です。」

「…動物を掘り出すなんて、初めてだっ。でもだからこそ凄い!」

そうだ見た事も無い動物だったら捕まえれば良かったか。

そう言ってしまった初代ロックは五星と共に素早く頭成を止めたが、

この世界においても、もう見えなくなってしまった野生動物を追うなどという

無茶な事をするよりは、次にかけるのが賢いだろう。

ただその前に冒険家は、クリスタルに回復を頼む。

「ああ、なるほどー。掘り出すのに体力を消耗するんですねっ。」

「うんっ。基本は最大気力の半分か、

良い物だと全てを使って一つずつ掘り出すんだけど、

更に良い物になると、それと体力も半分使うんだっ。

だから盗賊や凶暴な野生動物、また怪我にも注意しなきゃならないけど、

階級は無く、一度に探せる範囲は最大で直径百メートル内。

さっきも言った通り土地によっても掘り出せる物は違うけど、

その確立は、良くない物が小、普通の物が高、

ちょっと良い物が中、とても良い物が極小と決まっているから、

誰でもできるし、運動が苦手な私でも、ずっと続けてしまうんだよねぇー。」

聞いて頷くソルバラ。

「ああ、今思い出しましたっ。確か、星倉(ほしくら)という特技ですね!

前に住民から人生相談を受けたシトクリア様が、

それをすすめるのを聞いたもので。」

「それはどういう相談だ?まさか、僕は戦士や魔術士には向きません!

どうしたら良いでしょう!とか、そういうんじゃないよな?」

「アハハッ、まさかー。

もっと気軽に選んで、色々試してみれば良いだけでしょう。」

「いいえ、そういう相談でした。」

「うーん、僕達はたまたま上手く選んだだけですからねー。」

頷きながら遠く花畑にも光を見つけ、そこへ歩く初代ロック。

また五星とクリスタルは、さっきの手つきが気になったのか、

それについても訊いた。

「ああやって、可愛く使わないとダメなの?」

「別に良いじゃないですかっ。それが似合わない人は…使わなければ。

いいやでも、使えないというのは、ちょっと可哀相ですねぇ。」

「別に、ただ手をかざすとか、手の平を上に向けてそれをゆっくりと上げるとか、

対象に背中を見せたままでも掘り出せるよ。」

「おっ、じゃあオレも覚えて良いな?」

「皆に平等な権利ですからっ。」

その愛の木とクイに囲まれた場所にあったのは、緑色の小さな花の群生。

またクリスタルがそこに一本だけある他に比べ丈の低い白い木にも触れてみると

それは薄葉宴(はくようえん)という木で、黄緑色の薄い手の平のような葉が茂り、

上に向って広がる枝も、幹も細く、だが繁殖力が強くすぐに群生を成す植物で、

その為わざわざ植えられる事もあり、

その奥を上品に隠し風に揺れる姿や涼しげな音は、

落ち着いた雰囲気を好む人々に愛されていると分かった。

「君、植物が好きというのは、中々才能を感じるなぁー。」

「いいえ、本当にただ興味本位ですから。アハハッ。」

「またお前はそっちばかりにいってっ。二代目ロックになれないぞっ。」

「ですがそれ、爽やかで素敵ですよね。持ち帰っても良いのでしょうか?」

「どうぞっ。好きな場所に植えて下さい。」

そうソルバラに言う五星に、

また初代ロックが説明するには、星倉は町でも使え、

植物は植え替えると成長が遅くなってしまうらしいが、

それでも構わないソルバラは早速それを入手。

そして説明しながらも特技を使っていた彼はというとやっと出てきた宝に、

またきらりと目を光らせ、その赤いスペスにしか見えない物に感動の声を上げる。

「こ…これはっ、レッドスペス!!

良し良しっ!たまにこういう事もあるから、止められないんだー!ほぉ~~!」

そこに戻って五星に言うソルバラ。

「また何か、変わった物を見つけたみたいですねっ。」

「うんっ。私はまた、野獣の化石でも見つかったのかと思ったけど。」

対してそれをなでたまま動かなくなる初代ロック。

よって待ち切れずにその顔を覗き込んだのは、頭成とクリスタルだった。

「それでそれは、どんな物なんだっ?」

「もしかして、高価な物ですか?」

「うん、私達森の民にはねっ!

だってこれは、自分より体力、気力、筋力、

それに耐久力の合計値が高い動物が近づくと知らせてくれる、

狩人の特技・生察(しょうさつ)の下級も使えて、

その上一度だけだけど、投げるとその動物を一キロも逃走させるという、

ありがたい道具だよ!だから一つは欲しかったんだー。」

頷く五星に、ソルバラとクリスタルも納得。

「うんうん、じゃあ安全の為にも、絶対あった方が良いねっ。

やったじゃない!」

「確か鮮やか岬にも、幾つかあったとは思いますがっ。」

「では、また体力を消耗しましたね?エナセイの準備をしますっ。」

「いいや、大丈夫だよっ。気力の全てまでで、体力は使ってないから。

四つ羽様がこれをどう見ているかは分からないけど、

中程度の物なのかな?希少価値は高いはずなんだけどっ。

そういえば、確かに初めて見る動物だったけど、

何でさっきのアーモンドネズミに体力まで使ったんだろう?奥が深いなぁーー。」

そう言って森の奥を見たまま感慨にふける初代ロック。

そのせいで彼は気付かなかったようだが、

いつの間にかその目の前には一人の少女が立っていたのだ。

その袖の無い藍色のローブには太い金の腰輪を付け、

そこに輝くのは両脇に小さな物が一つずつと、

中心に大きな物が一つの丸い緑の宝石。

真ん中で分けられた黒髪は綺麗に結われているが幼い印象で、

目も鼻も口もそれぞれ小さな、利発で可愛らしい顔立ちだ。

そしてまず訊いたのは五星だったが、彼女は名を絹麗(けんれい)というらしい。

「…じゃあ君、この辺りに住んでるの?」

「はいっ、このずっと先にあるクロニクルの町に。

そして今は、ある物を探しに出て来たのですが…、

そうだ貴方達は透明チョコを持っていませんかっ?

あるなら売ってもらいたいのですが。」

「あー…どういう物かも分からないけど、それは無いねっ。

でも一緒に探してあげようか?」

「いいえ結構です。そこまでしてもらうと悪いので…。」

「じゃあもしも見つけたら、クロニクルへ持って行くよっ。」

「ありがとうございますっ。」

初代ロックも彼女に約束したが、

この先にも町があるという事を聞いても、にこにこ笑うだけの五星。

だがそれを聞いた頭成はさっきの町の話を思い出し、目でソルバラに訊く。

「うーん、クロニクル…という事は、ダンジョンメーカーの町ですね?」

答える絹麗。

「ええそうですっ。

みんな、今は国となったアハインやシピッドばかりに関心を持つのに、

よくご存じでっ。ではきっと他もご存じなのですね。」

「おっ、やっとこの森にある町の話が聞けるぞっ。」

その嬉しそうな頭成に他もソルバラを見たが、それも絹麗が説明。

そこで教えられたのが彼女が住むクロニクルの他に、

森の西北に位置する誇り同好会という人達が支配する仁義町と、

また反対の東にあると言われる、妖精や獣人だけが住むチルドレンズストーリー。

聞いた五星達はまずこの森の広さに改めて驚き、辺りを見回したが、

その絹麗の話では彼女が知らない町さえ、まだ沢山あるはずだというのだ。

「そしてそれぞれを支配しているのが、

金眼鏡さんに、片山さん、それにペイトンさん。

元々あった大きな町が建国したので、

前は集落でもそう呼ぶのに十分な歴史や知名度があった場所は

大体町という事にしたみたいですよ。

別に国でも良いでしょうが、それだと自国の領土に別な国ができて、

鮮やか岬騎兵隊としては奪われた事になりますから。」

「うん、そうだねっ。

そういう問題も出てくる。でも君の町は…迷宮を造るの?」

「ええ、自宅の地下は十一階まで造れますから、

迷宮士の特技さえあればっ。出て来た挑戦者に睨まれるので、

最初からあまり強い魔物を呼び込まない方が良いみたいですけどっ。」

そうさらりと言う絹麗に感心する五星。

対して拳に力を込めた頭成も何かに堪えている様子だ。

「ああーそんな事までっ!じゃあもう~クリスタル頼むっ!!」

「…僕も造りたいですが、君の為には嫌です。」

「私も初めて聞きました…。色々な楽しみ方があるんですね!」

つまりソルバラは悪との戦いや鮮やか岬周辺での生活に没頭していたのだろうが、

それに応じる五星もますます興味を持つ。

「うんっ面白そう!それにしても獣人や妖精だけの、幻の町?

ペイトンっていうのも可愛い名前だねっ。」

「…ええっ!

実は私も、チルドレンズストーリーへ行ったという人にさえ、まだ会った事は無く、

でも噂によると、支配しているその正義の飼い犬という組織のボスが

ペイトンさんだという事で、彼は金色の毛を背にしたシベリアンハスキーの犬人!

だからきっと逞しい方なのでしょうねぇ。」

その絹麗に訊く頭成。

「おおっ、その人にも会ってみたいが…片山さんっていう人も、強いのか?」

「そういう失礼な訊き方は止めて下さい。」

「ああ、その人なら知ってます。

二、三度ですが、グッサロ盗賊団と戦うところを見ました。

ですが、見かけによらずとても優しい方ですので、

クリスタル殿は気に入られると思いますよっ。」

「け、結構です。アハハッアハハッ…。」

「お前も分かりやすいなー。」

その会話に笑う五星と絹麗。

彼女が広場にも行くというので五人は手を振って見送ったが、

その出会いから去り際まではまるでこの森の詩を振りまく精霊のようであり、

気を良くした初代ロックはまたどんどん奥へ。そうしてまた四人も、更に南西へ。

もう初代ロックはこの辺りに慣れているのかと思い安心してついて行き、

そこで一応だが五星はまた気になる事を訊ねる。

「ずっと南西の方角へ進んでいますが、

オルファの光が出やすい場所にでも、心当たりがあるんですか?」

「いいやっ。

大体それは、オルファが迷宮奥深くで発見した物で、

帰ってから商人に見せた事で増えたという伝説の霊薬だからね。

そう簡単には見つからないよっ。

むしろこの先に何があるのか分からないから、それは楽しみだけどね。」

「おっ、それは私達も同じ。好奇心は捨てられないねっ?」

「うんっ!オルファという人物に関して言えば、

今は西の砂漠辺りに住んでるとも聞いたけど、

それすら事実かどうかは分からなくて、

そもそも会ったと言う人もいれば、元々そんな人は居ないという人までいて、

でもだからこそ面白いよねっ?!」

この先に何があるかを心配するクリスタル以外はだが、笑顔で頷き合う五星達。

すると、またしばらく進んだ先には中々に急な登り斜面があり、

近づいてみるとその二十メートル程もある上には

小屋が建ち並んでいたので、彼女達は一斉に身を低くする。

「…じゃあ、ここがクロニクル…?」

「…うーん、もうちょっと華やかな感じだったはずだから、多分違うなー。」

「…適当ですか先生…?」

「…だから、そういう言い方は止めて下さいって…。」

「…盗賊の町じゃないでしょうね?まず私が登ってみましょう…。」

「…うんっ。

ロック君さえ知らない町を見つけられたのは、とても嬉しいけど、

どういう場所かも分からないからね。

でもソルバラは、そういう潜入みたいな事もできるの…?」

「…任せて下さいっ…。」

だがそのゆっくり歩き出したソルバラを止めたのは、初代ロック。

彼が言うには、さっき入手したばかりのレッドスペスが光り、

強い野生の力を感じるらしく、

そうそれは五星から見れば微かに光っているだけだが、

それとは別に持っている彼には音まで聞えているらしいのだ。

「…何かキィーン、キィーンってねっ…。」

「…本当に光ってるっ…!」

「…ではもっと慎重に行きますっ…。」

またそう言って進むソルバラをなおも止める初代ロック。

だが五星は、自分達なりに行動したいようだが…。

「でも危ないよー。」

「…いいやそれは、

彼女に強い警戒を促してくれたよ!それだけで十分。ありがとう。

でもソルバラも、本当に気をつけてねっ…。」

「…ええっ…!」

「…何故五星は、オレに行かせない…?」

「………。」

勿論その冗談のような頭成の発言は、無視するクリスタル。

彼は黙ってソルバラとその先の建物を見詰め、次の瞬間その窓に人影を発見。

すぐ五星にも知らせる。

「…あれをっ!」

「…うん、彼は何かを伝えようとしてる。

という事は、もしもここを襲っているのがグッサロさん達でも、

戦わざるを得ないねっ…。誰か一人でも消滅した人がいたら、討ちとろうっ…!」

「…だったら奴と戦う事はさけ、

まずコオドシとドクアトを追い込んで恐怖を煽り、敵軍を撹乱。

それから弱い順に倒していこうっ。

その後は逃げて追って来たところを、住民と共に叩けばっ…。

でも動物だったら、どうすれば良いんだ…?」

答えたのは初代ロック。

「…それは、どういう動物かによるねー。

…まあ私は、そうだクリスタル君と共に、隠れてるけどっ…。」

「…いいえ。親切なのでしょうが、その時は僕も戦いますよっ…!」

すると登ってきたソルバラを見て静かに窓を開けたのは、

黒いシャツにズボン吊りの住民。

その短く茶色い七三分けに口髭を生やした男が言うには、

やはり今のこの西側には巨大生物が来ており、

そのせいで村中が静まり返っているらしいのだ。

「…やはりそうでしたか。では、まだ私達に何ができるかは分かりませんが、

ここの町名と、後それに、その生物の特徴も教えて下さい…。」

「…ああ、ここはまだ二十軒ばかりの村マジックワンド。

それでその怪物の特徴だが、あれは巨大なザリガニだなっ。

黒い体で、大きく重そうなはさみが角ばっているから、

皆、文鎮(ぶんちん)ザリガニって呼んでるけど…。」

「…そ、それは大変!この家は大丈夫ですか…?」

「…いいや少しもっ!

既に西側の一軒はやられたようだけど、ここも来たら一発で壊されるねっ。

でも皆この雰囲気を大事にしているから…。

だってあまりに豪華だと、貴族の家みたいだろ…?」

よく見るとやや薄汚れて黒ずんだ壁は板一枚らしく

この豊かな森にあっては涼しげな印象とも言えるが、

到底その文鎮ザリガニという怪物は、撃退できそうにない。

「…では、まずここから非難しましょう。さあっ…。」

「でも、ここで友達を待ってるんだよなー。

それに文鎮ザリガニも、後十分ぐらいもすればどこかへ行くだろうし…。」

「…え、それで大丈夫なんですか…?」

「…うん、もっと長く居座るかも知れないけど、楽しいよっ。

だってこういう状況も、珍しいし…。」

「…ではー。」

「ああ、でもねっ、私達はあまり迷宮にも行かないし、

盗賊を倒してスペスを奪う事さえないから、

建て直す為の費用を稼ぐには森の物を売るか、商売するしかないんだっ。

だから、もしもどうにかできるならだが、頼むよっ…。」

「…分かりました。では私達に任せて下さいっ…!」

またその村人は画家らしく、

前に文鎮ザリガニを描いた物を出そうかとも言ったが、

急ぐソルバラは丁寧に断り、そのもっと詳しい特徴などを聞いただけで、

すぐに五星のもとへ。聞いた五星はやや眉をひらいて応じた。

「…それはー、もしかしてだけど、そっとしておいた方が良いんじゃない?」

「そうかも知れませんが、どういう行動に出るかは分かりませんし、

警戒はしておいた方が良いと思います。」

「ああそうかっ。さすがは元鮮やか岬だね!じゃあ行こうっ!」

言うと早速歩き出す五星。

何やら遠くからは、木を倒すような音と、

しゅーしゅーという鳴き声も聞えてはいるが、

それは彼女の足を止める理由にはならなかったらしい。

その五星を諌める意味でも、珍しく冷静な事を言うのは頭成。

「でもまずは様子見だなっ。それで、何人ぐらい手伝ってくれるんだ?」

「それは…あまり期待できません。

当然訊いてみなければ分かりませんが、彼の話を聞いた限りでは、

大人しい住民がほとんどという印象ですので。」

頷いて言ったのは五星。

「別に誰かを犠牲にしている訳でもないから、どうしようと勝手だけどねっ。

きっと今迄はこうして凌いできたんだよ。

それはそうとロック君、君の四項目の合計は?」

「…う、うーんとこの表示によれば、278だね。

体力142、気力89、筋力17、耐久力30の合計でねっ。

一応見るっ?」

「いいや大丈夫。でも結構高いねっ。もしかしてだけど、消滅して無いの?」

「う、うん。そう長くは無いけどねっ…。

そうだよねーちょっと勿体無いけど…皆でどうにかなるよりは、

このレッドスペスのご利益を使ってしまおう!」

「いいや、使わずに何とかしようっ!

この町を助けたいのは私達の都合で、それは君の大切な物だからねっ。」

そう五星に言われ、にこりと笑う初代ロック。

それでもまだ怖がる彼を安心させたのはこの時もクリスタルだったが、

勿論五星が頭成とソルバラに言いたかったのは、

その生物は思いのほか強いという事だ。

よって自分達なりに考える頭成とソルバラ。

「たぶん間違い無いだろうが、巨大ザリガニだと体力と筋力が高そうだな?」

「恐らくですが、耐久力も高いと思っておいた方が…。

なぜなら呪文を使わないとすれば、気力はあまり必要ありませんから、

その分他が高い事になります。」

「とにかく今の私達にとっては、ほとんど何もできない程強い…。

たぶん、迷宮に居たイメージくらいかな?」

また動物や魔物には素早さの他に

陸海空の移動速度を端的に表した数値もあるのだが、

その文鎮ザリガニとは、どういう動きをするのだろう。

「またくるっと回ってさー、腕を振り回すんじゃないのか?」

「フフフッ、その言い方は、君がそうしてやられたからでしょう?」

「ほうっ、いつイメージに勝ったんです?!

まだ十日も居ないんですよねっ。凄いじゃないですか。」

「いいえ、あの時は逃げて、助けられただけです。みんなでねっ。」

「手には持っておくからね!」

そう言ってレッドスペスを見せる初代ロック。

そうして小屋の横まで進んだ五人には、大きな古井戸が見え、

扉が一つ二つの他の平屋はそれを囲むようにと、

そこからは村のほぼ全てが見えた。

その古井戸にぽつりと咲くのは、黄色く花弁の細い花。

正面の家にあるポーチの短い階段下に置かれた樽も、

まさか中身がこぼれる事は無いだろうが穴が開き、

左手の家に吊り下げられた看板には、黒でフルーツショップという文字。

その古めかしいが味わいのある村の良さというものは

さっきの村人に聞いたソルバラが説明し、まず頷いたのは五星。

「うん、これでこそ村だよねっ。村長とは気が合いそうだ。

あんまり造り過ぎるとただのお洒落な町だし…。」

「僕としては、逆に造っているようにも感じますが…。」

「ハハッそれも一理あるな。それで、あの果物は何という物だ?」

「私も分かりませんねぇ…。」

そうソルバラも首を捻っているが、

頭成が指差したのはフルーツショップの横に生えた

ちらほらと白い葉があるだけの低い木になる、薄っすら金色の実。

その実は丸くなめらかな幹も白に近い色をしているが、

五星の目にもその清楚な上美しささえまとった姿は、どこにも無かったものだ。

「うんっ、あれも良いね!」

だがどうしても気になるのは実が一つしかない事。

するとその訳はソルバラが教えた。

「ああ、何かと思えば…あれは心丈夫(こころじょうぶ)。

気力を最大の半分まで回復する実ですが、

木になっているのを見るのは、初めてなもので…。」

「おお、あれがっ?!じゃあ早速頂こう!」

「また君はー。あの場所からして、フルーツショップの物ですよー。」

「…巨大生物までいるのに、住民まで敵に回したくない。」

そう忠告する初代ロックの意見もそうだが、あまり欲張らない五星。

「じゃあ、一つぐらい貰えるかも知れないから、

その巨大生物を追い払ったら、頼んでみよう。」

「えっ、たったあれ一つの為に、命かけるのっ?!

それは立派過ぎると思うぞー。」

「別にそんなんじゃないけど、私達だって楽しんでるでしょう。

それに多くは騙されているけど、本来人は真心にしか感じないの。

だから君も自分を本当の士と思うなら雑念は捨て、

何でも実際にやって見せないとね。あれ一つで十分っ。」

「確かに、ソルバラの話を聞く限りではお金持ちの村でもありませんし、

我々の建国予定地からも遠く、

今回の場合は元々無理でしょうが同盟や何らかの義務を求めるより、

余り欲張らず、評判だけを上げるのが良いと思います。

ただ、たった一つしか生っていないものを、頂けますかね?」

「それはどうでしょう?でも、それで決まりですねっ。さすがは五星様だ。」

「君らが戦っている間に交渉しても良いよっ。」

「いいや。君は隠れて、本当に危ない時には助けてねっ。」

初代ロックにはそう言い、身を低く静かに移動する五星。

何故か先頭の彼女は、樽のあった家とフルーツショップの間にさしかかると、

左を向いてそれ以上進まなくなっていたが、その前からは急な下り斜面となり、

後ろで目を大きくするクリスタルからも、大体の様子は見えているようだ。

そしてその彼の目に映るのは、

既に何本かのなぎ倒された木々とそこから逃げる小動物達に、

また別な木も両方のはさみで切り倒そうと力を込め、

あるいはその両腕を揃えて叩く、体長五メートルはある怪物…。

だが五星はそれを見て絶句する彼にも構わず、

まずその左手にあった窓にしがみつく、

淡い青の袖が覗く白いエプロンドレスに髪を結った黒目がちな女と、

身振り手振りで話しているところだったのだ。

ガラッ。

「…何をしたいのかは分かるけど、止めたら?」

「…わざわざすみませんっ。防音性の高い窓ですね。」

その女いわく、北から来たあの怪物の弱点は、火しかなく、

しかも村に住む魔術士達は大戦の情報を得に、

また勝ったシピッド側と少しでも友好的な関係を保ちたいと考えた者も、

彼方此方へ挨拶に出ており、そのせいで一切手助けはできない。

「教えて下さり、ありがとうございます。」

「本当にやるのっ?騎兵隊の人なんだろうけど、

その子なんて、革の小手を付けてるよねっ。

それに所詮動物だけど、あれもまあまあ強いよっ?」

「ええ。彼女は元で、私達も鮮やか岬騎兵隊ではありませんが…、

やるだけはやってみます!」

「そうっ…。

気が強い個体でない限り身の危険を感じれば逃げ出すと思うけど、

特に黒は、火でも大きなダメージは与えられないからねっ。」

言うと頷き、閉めた窓の中から拳を見せる女。

さすがの頭成は、あの果物の事も訊いてくれ…と身振り手振りで伝えたが、

それには目で五星に指示された、クリスタルが応じる。

「後でねっ。だそうです…。」

「えっ?でもその時貰えなかったらっ、まあ良いか、別な物でも…。」

聞いて心配するのはソルバラに初代ロック。

「…余裕があり過ぎですよ、将軍っ…!」

「…本当に気を付けてよっ…。はらはらするなー。」

「まあ見てろって。なっ?」

「うん!」

そう頷くと、逃げ遅れた一匹のリスの前に小石を投げ、

文鎮ザリガニの反応を見る五星。

ド ドドンッ!

「…ああー何て事をっ!可哀相ではありませんかっ…?!」

「…友人としては、お前の方が可哀相に見える…。」

確かに無益な殺生は良くないが、その二人の視線も促すソルバラ。

すると南側にいるリスへ近づいた怪物は、しばらくそれを見つめると、

また急に向きを変え北へ。

先のそこでも、またガシガシと別な木を挟み込んでいるようだ。

「うんっ。

一歩進むのにだいぶ間があるから、勝てなくても森に逃げ込めば大丈夫だねっ。

それに向きを変えるのも、遅いしっ。」

「…ああ良かった。リスは無事ですね。…ほっ…。」

「もう本当に止めてくれるか?怪物も生きてるんだぞ。」

「いいえ、クリスタル殿なら、あの怪物も憐れむはずですから、

重要なのは、その無駄な優しさを私達が無視する事ですっ。」

それには強く頷いてゆっくりと下りる五星と頭成に、

目を潤ませてソルバラを見つめる…クリスタル…。

初代ロックだけはその彼と共にやや時間をずらして下り、木陰に隠れたが、

いくら勇気ある五星達でも、目の前まで来るとやはりその怪物は大きく、

まるで地から突き出た大岩のようであり、

こう隙だらけの相手であるにもかかわらず、中々第一の攻撃が出せない。

その呼吸や力みと共にゆっくりと動くのは、巨大な筋肉。

「…じゃあオレからだな…。」

「…待って!もしも攻撃されそうになったら、後ろの森に入るよっ。

ソルバラも良いねっ…?」

「…分かりましたっ…!」

「…じゃあお願いっ…。」

それに頷く事さえなく、右の鉄刀を赤く怪物へと飛び…斬りつける頭成。

だがその一撃に、

身をよじるようにとてつもない勢いで振り向いた文鎮ザリガニのはさみは、

後ろへ飛んだ彼のつま先すれすれを過ぎ…次の瞬間その目は、

素早く彼らを見下す。

「良し分かったー!森へ走れぇっ!!」

「よくやった将軍!ソルバラも走って!!」

「はい!何をしてるんです、急いでっ!!」

「あわわっ!」

と袖を引かれるクリスタル。そう彼女達を畏怖させたのは、

いざという時には素早い野生動物の瞬発力というものだろうか。

五人は何とか森へ逃げられたようだが、

やはりこっそり見ている村人もいるのか、

もはや声も無い初代ロックにもどこからともなく悲鳴が聞え、

巨大生物にとっては木々に阻まれるまでの短い猛追だったが、

隙間から入り込んでくるはさみは、次々と葉や枝を降らし、

一瞬間がある尾での攻撃は、その木々さえも揺らす。

バッシーーン バッシーーン!!

「よ…よし、よーしっ!!で、これからどうするっ?!」

「このまま、北へ走ろう!!」

聞いて素早く言うソルバラ。

「誘導するんですねっ?!魔物ならともかく、動物には効くかも知れません!!」

「いつもながら冷静なご判断!このクリスタルも嬉しい限りです!!」

「もうレッドスペスを使ってしまいたい!」

「何本か倒されたぞ!!もっと後ろへ!!」

「じゃあ大きく回り込むよ!!」

「クリスタル殿っスリーアイスを!!」

「それより、まっすぐ南へ逃げるのはどうですっ?!」

「やっぱり止めれば良かったのかー?!」

誰に言われるまでもなく全速力の五星達は、

枝をかわし、石を飛び越え、何とか望み通り北側まで辿り着けたが、

もうすぐ近くまで来て木々の間から横顔で彼女らを凝視する文鎮ザリガニの方も、

中々捕まえられない相手だと分かると、またすぐに向きを変え、村へ戻る構えだ。

「それじゃあ困るのっ!」

言って頭成とソルバラを誘うとやや北へ走り、怪物が切り開いた場所へ出る五星。

すると文鎮ザリガニの方も一度動きを止め、ゆっくりと振り向き、

それを見た五星は更に北へ。

「後百メートル走ってっ!!」

「はいはーいっ!!」

「ソルバラは後ろを確認!でも絶対無理はせず、危なかったら森へ!」

「はい!」

そう二人に指示しながらも、クリスタル達にも北へ移動するよう頼む五星。

勿論それは、怪物が彼ら二人の方へ行ってしまえば誘導が無意味になるからだが、

その作戦通りソルバラは追って来る怪物から余裕があるうちにさっと森へ。

五星と頭成も東側の森へ入ると、奥で木々に身を隠し、

それを見たクリスタル達も振り向く怪物に愛想笑いをして退き、

そうこうしているとその相手の方も、もう彼女達は諦めてくれたようだが、

問題はこの後だろう。

「…ふぅ!向こうへ行ってくれるかな…?」

「…そういえば、奴は何をしに来たんだ…?」

またしばらくするとゆっくりと北へ行き、

そのやや離れた場所でも木を挟む文鎮ザリガニ。

五人はまるで向かい合った家に住む者のように東西の森から顔を覗かせ、

辺りには小動物まで戻りどうやら作戦は成功したように見えるが、

落ち着いた五星やクリスタルから見ればさっきまで怪物と揶揄していたその姿は

どう見ても他の動物達と変わらず、自然界の一員に思える。

「…体の大きさは関係無いね。彼も大変だ。」

「そうでしょうー。」

「でもやったぞ!本当にー、ぎりぎりだったけどなっ!」

「…むっ!ここにも宝の光があるぞっ、君達…!」

「…それは諦めて下さい。でもこれで五星様も、英雄ですねっ。」

だがそれには首を振る五星。

「何だ、クロスワードのまねか?」

「そ…そうじゃないけど、やっぱり、そっとしておいた方が良かったかもってね。」

その言葉に歩み寄る初代ロック。

「そうだよねー。じゃあ君の町では、彼を怪物と呼ぶのを禁止しようっ。」

「そういう変な規則は作らないけどね。」

「…えっ?

…王よ、上品な町を造りたくはないのですか…?」

「…いいや、上品でなくとも、素晴らしい町をつくるのだ!

確かに…物を大事にするのは良い事だが、

命無き物にではなく、命ある者にこそ、優しさを示さねばならん!

よってこの事は、よく覚えておくように…。」

「…は、これは私とした事が、失礼しましたっ。ははぁーー!」

「オレより油断してる奴らがいるな。」

「まあそうですが、結果として追い払った訳ですし、

村で少し休ませてもらいましょう。ああ怖かったー。」

「分かりました!

この世界で命ある者といえば住民と神だけですし、

勿論、全てを優しく扱う事ができれば一番ですが、

それが無理なら当然命ある者を、

またその中でも特に人間を大切にすべきですからねっ。」

そう発言するソルバラに対して人差し指を口に、宝を掘り出す初代ロック。

「…えっ、薬草?!こんな危険な場所にあるのにっ?!」

「アハハッ、危険なのは今だけですから。」

その後マジックワンドに戻った五人は、あの古井戸の前で口髭を生やした男や、

また別な村人達からも感謝され、丁度フルーツショップの女は留守だったが

断っておくという彼らからあの心丈夫まで贈られ、

そこでも宝探しで尖がり殻という普通は海にしかいない生物を見つけ、

炙って食べるとそのウニとチーズを合わせたような味に舌鼓を打つなど、

非常に喜ばしい、充実した気分で帰る事ができた。

そうやはり騒がしい中ではあるが、また名声を高めた五星。

初代ロックも、マジックワンドのように簡素でも良いから

すぐに町へ家を建て第一町民になると張り切っていたが、

それは頭成達にとっても実に素晴らしい一歩だった。

その彼方此方で面白い物を見つける新たな友人も連れ、

コンセン屋に送ってもらう五人。

だがその先に悲しみが無いようにと祈っていたのはソルバラでもなく、

五星一人だったのだ。



いつの間にか支配者を月にかえた空は

その輝きと光に照らされたもの以外全てを淡い青に変え、

降りる五星の目には、何と色取り取りの花が咲き乱れるフラワーアーチがあった。

慎ましい緑の葉にはラッパ型の薄赤い花々が垂れ、下にも白や黄色の花。

そこにはまだまだ蕾で尖って見えるものもあったが、

またそれらを照らすのはゆっくりと漂い輝く、たまにちちっと鳴く蜂達。

砦を左手に、横に二本の板がある薄っすらカーキ色の柵を回り

その正面の南側まで走ると、奥にある優しい赤の壁には、

それよりもっと濃い茜色をしたドアと三角形の屋根があり、

ポーチと手前に立つ頭の丸いヨーロピアンポストは白。

その神秘的なまでの美しさには声も無かった五人だが、

しばらく見つめたソルバラは蜂に顔を近づけ、そこへクリスタルも呼び、

二人でそれが安全かどうかを相談し始めたようだ。

「きっと大丈夫ですよっ。」

「で、ですが、近づく者を攻撃するような生物だったら、どうします?

もっと離れましょうよ。」

「そんな事しないですって。」

「まだ分かりませんよー。

攻撃してくるというのは非常に危険ですが、家主にとっては有益ですからねー。」

「ああ、番蜂という事ですね。それなら私も欲しいです。」

言うとその一匹を指先にとめ微笑するソルバラ。

五星は送ってくれた長く黒いローブからクリーム色のズボンを見せた

美しい顔のコンセン屋の少年に、無料だと言われ、

お礼に世故という人には会わないよう忠告。

そして頭成と初代ロックはといえば、ただ驚いてばかりいる。

「これは…誰が住んでるんだろうな?」

「えっ、君らの友達じゃないの?!

そうか、まだ誰も住んでないって言ってたもんねっ。

でもそれじゃあ私にも分かりません。」

「でも、だからこそ面白いじゃない。ほら出て来たよっ。」

その初の住民を笑顔で迎えようとアーチをくぐる五星に、

何と出て来たのはフォンミア。

「えっ?!…君は…偶然だねっ!!」

相変わらずの赤く長い髪に銀の王冠。

それに紺の胸当てに白のスカートを装備した彼女だが、

何故かその五星の言葉には、人差し指を振って応じる。

「何を言うかと思えばっー。

わざと経験の少ない観測者を雇って余計な人の反応を除き、

アレはっ?それじゃあ、コレは?

という具合に一生懸命に君らを探し、やっとここへ来た私ですよー!」

「ああそうか、ごめんっ。でもよく探せたねっ。」

「根性根性っ。まあ大体君らの強さを知ってたし、

勿論、見た目もそんなには変わってないだろうと思って、

パッと開いて、違ったらすぐに閉じてもらってね!

でも丁度私がここへ着いた頃には、どこかへ行っちゃったでしょう?

探したんだよ本当ぉーー!」

「ハハハッ。」

勿論彼女の登場には頭成さえ驚いたが、文鎮ザリガニの脅威については、

ソルバラと初代ロックの紹介も含め、彼が説明し、

だが幸か不幸か聞いたフォンミアには、楽しさのみが伝わってしまったようだ。

そして、続きはクリスタルに頼む頭成。

「…じゃあお前が、あの時の恐怖を思い出しながら、説明してくれ。」

「嫌ですよー。格好悪いーー。」

「へぇー、マジックワンドにねー!

あそこは要らない道具を鉱石と交換してくれる動物の商人ビーバーも居て、

結構人気なんだよっ。

でも家が少ないのは、その文鎮ザリガニのせいだったんだねっ。

うーん私が行った時には居なかったけど、見てみたい気もするなー。」

だが心配して言うのは五星。

「でも、本当に止めた方が良いよっ。」

「何でっ?大きな動物を倒したら、その分お肉もたくさんだよっ。」

「えっ?!…ああ、そういう違いもあるんだっ。」

「うんっ!」

「でもダメね。」

「ダメって言われると行きたくなるなー。行こうよー。」

「子供ですか。また今度ねっ。」

「また行きたいなー!」

「行くけど、君も野生動物の強さが分かったでしょうっ。」

いずれにせよもう時間は無いが、そのフォンミアと頭成の最後にもう少しだけ…

というお願いを止める為に発言したのは、やはりクリスタルとソルバラ。

「それはいけません五星様。さすがにもう寝ませんとっ。」

「あ、久しぶりーー!」

「え、ええっ…こんばんはっ。」

「別に私も構いませんが、もう十分楽しみましたよ。

それに、フォンミアさんと行けないのは残念ですが、

欲張ると良い事はありませんっ。」

「せっかく会えたのにー。夜も居ようよー。」

「欲張らないと面白くないのになー。」

「そこは凄く気が合うみたいだけど、また今度ねっ。

そうだ、じゃあ約束しておこうよっ!」

ギッ…。

そこで家から出て来たのは、

小太りの体に淡い赤のローブと中に小麦色のベストを着た、

細かく波がかった栗色の髪のおばあちゃん。

だが彼女は五星達に気付くとやや腫れぼったい目を大きくし、

そのまま微笑して家に戻ってしまった。

「あ、こんばんはっ。…あれっ、ちょっと待って下さい!」

それでも微笑したままうんうんと細かく頷き、ドアを閉める彼女。

「…今のは、フォンミアのお婆ちゃん?!」

「いいやっ。違うけど、私がスペス足りないって言ったら、

ここを建てて、登録してくれたのっ。」

「じゃあここはー。」

「そう、セツさんの家です。だから静かにねっ。」

「静かにって、その意味は何だ?今起きてるから、ああしておられる。

大体、自分の家みたいにしてたのはお前だろ。」

「まあまあ将軍、私達が居ない時には、彼女達がこの町を守るのですから、

優しく優しくっ。」

「では最後に、私達の城も見てもらいましょう。」

「うんっ。じゃあ私は、セツさんに宝物を自慢してくるとしよう。

家を建てるのはそれからっ。」

そう言った初代ロックは、あのレッドスペスや黒い尖がり殻、

それにまだ五星達には何であるかさえ分からない、

大きく細長い黄色いチューリップのような物を両手にドアへと走り、

早速五人は、彼は絶対お婆ちゃん子だとも噂しながら城へ。

だが実のところフォンミアにはもう一つ気になっていた事があり、

それは大分前から聞えていたという謎の声についてらしいが…。

「…えっ、今はしないでしょう?」

「うん、しないよっ。でも、さっきも何か言ってたような気がするなー。」

「じゃあきっと、サハピ現象だな。」

「たとえ居なくても…さん付けをして、それに彼の名前で遊ばないで下さい。

それよりその声は、助けを求めているようでしたか?」

「いいえっ、でも、何かを頼んでいたような気もするなぁ。」

「あ……私は分かりましたっ。来て下さいっ!」

突然そう言うと城壁沿いに北へ走るソルバラ。勿論四人は黙ってついて行ったが、

すぐ後ろを走っていた五星にも全てが分かったようだ。

「ああーそういう事かっ!分かった!

でももしもそうだとすれば、クリスタルが分からないのが、意外だなっ。

教えてくれてありがとうねフォンミアッ。」

「一体何ですっ?!何です、頭成っ?」

「皮肉かそれはっ…?

オレが分かる訳ないだろ。そうだ、何ですフォンミアッ?」

「うーん何だろうねー。あ、もしかしてアレじゃない?」

その五人の前に現れたのは、どこか艶めいて逞しい三メートルほどの愛の木。

頭成はつまり何だと、まだ分からないようだが、

早速声の正体を知るソルバラは

その素敵な存在にさっきの家で見た光る蜂を自分の自宅設定を使って放ち

…木に話しかけているようだ。

「愛の木さーん、何かご用ですかー?」

するとその根に近い所にあるU字型の影は、淡いオレンジの口となり、

その上の細枝から更に上にある丸い目を開く、愛の木。

「おおーやっと帰って来ましたかぁー。この家は君のっ?」

「いいえっ。でも…私の家みたいなものですっ。」

「じゃあ、みんなの家だね。それが一番だよっ。

それはそうと頼みたい事があったんだけど、まずは挨拶しないとねぇー。」

その緑色の瞳を見詰め静かに頷く五星。

頬には小さな葉までつき、彼女にとっては可愛らしくさえ見えたが、

クリスタルにとっては、いくらその温かい声を聞いても

フォンミアの手をつかんで離さなくなったところから見て、少々怖かったようだ。

だがおそらく、月日が経つにつれ彼が一番仲良くなれるだろうというのは、

五星でなくても想像できる。

「初めましてー。でもまずは、どうか私に名前を付けて下さい。

そして、君達も知っていて植えた訳ではないでしょうが、

気に入らないとしても、誰かに譲り、決して捨てないで下さいねぇー。」

「アハハッ、一気に言うねっ。」

「せっかちなオレには、この方が良い。」

「ではお願いしまーすっ。」

「本当にクリスタル君は怖がりだなぁー。

でも声は、この木のものだったんだねっ。」

「た、確かに…心は通っていますが、まさかこんなに突然話すとはっ。

それはそうと貴方は、ずっとそこに居て大丈夫なんですか?」

「うんっ?」

不思議そうにクリスタルを見る愛の木。

「だって、そうして話して…、

そう心まであるのに、他の神のように動けないんですよね?」

その言葉に頷く五星。

「おお、さすがっ。彼はクリスタル。我が軍随一の優しい男です!」

「ちょっとぉっ。」

「アハハハッ、面白い子ですねぇー。でも大丈夫ですよー。

人に翼が無いように、鳥に穴を掘る丈夫な爪や、魚に足が無いように、

私も無い物ねだりはしませんっ。

でもずーと誰も来なかったら、寂しいですねー。

だから時々で良いので、君が話し相手になって下さい。」

そのにっこり笑う木の願いには拍手する五星達と、照れ笑いするクリスタル。

「な、何でですかねー。でも仕方無いですねー。」

「良いぞクリスタルッ!こうなると思った。

じゃあ名前は…難攻不落(なんこうふらく)か、

要害堅固(ようがいけんご)にしようなっ。」

「いいやっ。」

その頭成の発言を軽く受け流す五星だが、

眉間にしわを寄せたのはフォンミアで、そんな彼女に説明するのはクリスタル。

「それ、どういう意味?知らないと恥ずかしいかなっ。」

「いいえまったく。

難攻不落は、攻め難くなかなか陥落しない事で、

要害堅固は、地形が険しく守りが固い事ですが、

どちらも彼の名前として、まったく相応しくありませんので…。」

「何で?要害堅固でも良いだろ。

オレ達の強さそのものを、地形の険しさにたとえてさっ。」

「でも本当にどうしようかなー。」

そう微笑して悩む五星。

「急がせてしまったみたいですねー。

もっと気軽に、それに今決まらなければ、別に後でも良いですよー。」

しばらく考え、その頬にある葉にもう一度目をやる五星。

「じゃあ、頬の葉さんは?」

「ああー残念っ。丁度お願いしようと思っていたのですが、

この頬の葉が耳飾りのようなので取ってもらえませんかねぇ。

だって女の子みたいでしょうー。」

「ああ、じゃあ男だから、違うのにしないとねっ。」

「一応そうですねぇ。どうとらえるかは自由ですが、

ご主人様が間違って命名してしまうと、大変ですからー。」

「じゃあ、ラブもダメだね?」

「いいえ、良いですよっ。だってそれは、男女のものです。」

「フフフッ、なかなか深い事を言う木だなー。

じゃあ木の精だとそのままだから、地の精にしようっ。」

「おお、立派な名前だっ。ありがとうございますー!」

「おいおい地の精…何でさっきの難攻不落の時は、黙ってたんだ?」

「それは、冗談だと思ったのでしょう。」

「違う、オレは地の精に訊いてるんだ。」

「じゃあもう、地の精で良いじゃないですかー。止めて下さいそういうのはー。」

だがやはり、雰囲気通りにまじめな地の精。

「申し訳無ーいっ。では彼の意見も聞いて、もう一度考えましょうか?」

「いいからいいから、無視してっ。」

言いながら頬についた葉を取る五星。

すると喜んだ彼は、

もう既に三つほどあるが、たまに自分の足元に薬草が生える事、

それにこの辺りで何か起きた場合にはすぐに知らせる事ができるとも教え、

その素晴らしさに聞いた頭成は、思わずフォンミアにも言う。

「それは良い!じゃあフォンミアも、覚えておいてくれよっ。」

「ええっ、これからどんどん友達が増えるでしょうし、

私からも伝えましょうっ。」

「それで、知らせるってどういう風にするの?」

また訊く五星に頷く地の精。

彼いわく、それはどんなに離れた場所にいる主人の前にも、葉を降らせ、

それを並べ言葉にして知らせるというもの。

「~ええっ凄い!素敵ぃー!!」

「そ、それは最高だ!

…グッサロ盗賊団が襲来…とか、教えてくれるんだろっ?!

テンション上がるなぁーー!」

勿論十分感動してしまった五星と頭成だが、

それでも冷静で真面目なのはさっきから興味深そうに地の精を見ていた、

ソルバラだった。

「…確かに凄いですね!もしかして、眠っている間も教えてくれるのですか?」

「勿論それもできますよー。

でもあまり一生懸命になる子には、おすすめできませんけどねー。」

その言葉には、また腕組みをして頷く五星。

「うんっ。私はこの世界にいる間だけで良い。

夢中になり過ぎて何かあったら、それこそ大変だもんねっ。」

「ええ、そうですよー。とても素直な方で安心しましたー。」

「これは五星様らしいご判断っ。」

そのたった一日にして五星らしさを理解したソルバラには、

皆も笑い、彼女が地の精の後ろに薄葉宴を植え、

そこに北から馬を引いたイリトクが来たところで、彼女達の今日は終わったのだ。

そうその遥々来た商人は客間を借り、頭成達はそれぞれの部屋へと消え、

フォンミアはセツの家で初代ロックと共に話し込みと、

穏やかに終わったはずの一日。

五星さえベッドの前まで歩くと、

何も灯に照らされずともオレンジ色に輝く天蓋(てんがい)を開け、

力が抜けていくのを感じていたが、

実はその目が閉じてほんの数分後には、驚くべき事が二つあった。

その一つは、

サウスティーカップの実力者釣狐によるデュプルアイ邸への反撃、

そしてまた一つは、

明空の夜に突如として現れた鮮やか岬騎兵隊による襲撃だが、

当然微笑をたたえたまま眠る五星が知るのは、ずっと後になってから…。

よってこの二つの戦いについては、また目覚めた時に驚いてもらうとしよう。

そして今夜を飾るのは、城の窓を見ながら静かに歌う、地の精。

願いなさい、叶えなさい、私だけは見捨てない。

どうしても苦しい時にはそういう私達を見つけなさい。

たとえこの世の何もかもが卑しく笑おうとも、

やはりその中でも醜い者は嫌われる。誰も傷つきたくはないからだ。

泣くのは君じゃない。泣けないのは君じゃない。

泣くのはあいつだよ。泣けないのはあいつだよ。

夢うつつの中その歌を耳にし、夜陽にも教えようと決める五星。

だがその真の邪悪を知り、強く大きな心を持った少女の感想はたった一言、

面白い事を言うものだとただそれだけだったのだ。





五星 設定職業・君主
体力30 気力26 筋力20(基本筋力17+3)
耐久力60(基本耐久力11+38+4+2+1+3+1) 素早さ33
器用さ21 集中力22 精神力19(基本精神力16+3)
属性…水0 炎2 土0 風0 光0 闇0
今回の成長
体力17 気力18 筋力5 耐久力4 素早さ18
器用さ14 集中力18 精神力7
特技…大跳躍・下級 呪文…無し
経験値555

装備 鉄の剣 希望の盾 革の鎧 冒険者のズボン
革のブーツ 常勝のマント 薄璧の首飾り
必要・基本筋力値合計12


頭成 設定職業・戦士
体力46 気力12 筋力43(基本筋力30+8+5)
耐久力31(基本耐久力19+1+4+2+2+2+1) 素早さ15
器用さ24 集中力7 精神力5
属性…水0 炎0 土0 風0 光0 闇0
今回の成長
体力26 気力9 筋力14 耐久力13 素早さ7
器用さ16 集中力3 精神力3
特技…開錠・下級 強襲・下級 呪文…無し
経験値360

装備 鉄の刀(鍔無し) 先重の大匕首 短剣(予備なので加算は無し)
バンダナ 革の鎧 ボールガントレット 冒険者のズボン
革の脛当て 革のブーツ
必要・基本筋力値合計15


クリスタル 設定職業・僧侶
体力27 気力80 筋力12(基本筋力11+1)
耐久力21(基本耐久力12+2+1+1+4+1) 素早さ24
器用さ11 集中力27 精神力48
属性…水7 炎0 土0 風0 光14 闇0
今回の成長
体力15 気力65 筋力5 耐久力6 素早さ16
器用さ9 集中力20 精神力34 水属性7 光属性11
特技…無し
呪文…エナセイ
(光系、距離約三メートルまでで、
一人を小回復、まだ気力消費も激しい)
氷撃
(水系、距離十メートルまでで、極小の氷気を一つ放って攻撃、
凍らせる事も可能で気力消費も激しくは無いが、
まだ集中力と水属性が低いせいで、威力も低く、
ただし、両手で二つ、合わせても距離は変わらないが、
やや大きめで高威力のものを出せる)
スリーアイス
(水系、距離二十メートルまでで、
横に浮かんだ三つの鋭い氷を、その中心を軸に回転させ、
それを飛ばして攻撃、だがまだ気力消費も激しいせいで、
片手で一度しか使えない)
経験値66

装備 杖 鉄の盾 神降帽子(かみおりぼうし) 信心のローブ
厚革の小手 革の靴
必要・基本筋力値合計7


ソルバラ 設定職業・騎士
体力37 気力16 筋力53(基本筋力25+27+1)
耐久力26 (基本耐久力23+1+1+1) 素早さ18
器用さ9 集中力10 精神力15
属性…水0 炎0 土0 風0 光0 闇0
今回の成長
体力26 気力16 筋力14 耐久力15 素早さ14
器用さ8 集中力8 精神力10
特技…無し 呪文…無し
経験値812

装備 不撓不屈 銅の細剣 鮮やか岬騎兵隊の制服
革の小手 革のブーツ
必要・基本筋力値合計9

四人の所持品
薬草三つ、帰省の札、セヨの神消玉、
冒険者のズボン、信心の帽子、革の脛当て、
スティンギングスネークの魂、心丈夫の実

合計スペス4630。


町の情報

町名未定 人口九人 位置…明空の西北、グリーンレイクの東

特徴、北に薄っすら青の花畑があり、東に滑らかな淡い黄の岩が二つ、
その二地点からさらに東には森があり、赤い蝶と白鹿が生息。

施設・五星達の砦、心通いの木、セツの家

住民…地の精、フォンミア、セツ、初代ロック、イリトク