誰かが呼んだ気がした。

まだ起きたばかりで…白くぼんやりとし、

不明瞭な視界にあったのはまずあの小さな黄緑のタンスだけだったが、

その一番下に押し込められていたはずの大きな水色の靴が無い事も、

まだクリスタルが来ていない事も、海側に窓が増えた事も、

そこから頭成が宣言通り外を警戒している事よりも、

五星にはそれが気になって気になって、仕方無かったのだ。

その頭成は入口の右手にできた新しい逆台形の窓から

静かに顔を出し、五星もそこへ行くと、

白い太陽はまだ先へ行くにしたがってより濃く

生命力さえ感じさせる真っ青な海と、その細波の上に輝いている。

「…ああ、起きたかっ。

でもクリスタルはどうした、あいつ遅いぞっ…!」

「それよりさ…誰か呼ばなかった?

さっき君以外の声が聞こえた気がするんだけどっ。」

「…静かに!だからオレもこうして外を覗いてるんだが、

たぶんあの声は、こっちの入口からだなっ…。」

そう言った頭成はまた素早く体を移動させ、

今度は反対の冷蔵庫側の窓からも外を覗く。

その前からあった方の窓には赤に白い兎模様のカーテンがかかり、

その為外からは新しくできた窓の方から覗くしかないが、

部屋の中からも相手の姿は曲線壁の向こうなので、どうしても見えない。

「…じゃあその人は、何て言ってたの…?」

「…何か、サハピです!とか…何とか…。」

「…サ、サハピ?じゃあもしかして…。」

「…もしかしたら、暗号じゃないか?くそっ!こんな時に限って、

案内状を一生懸命読んだはずのクリスタルが居ない…!」

「…その言い方だと、きっと名前じゃない…?」

たくましい腕を力ませ考え込む頭成に対し、

五星はオレンジの髪を垂らして首をかしげる。

だが彼の方は、まるで想像する事を楽しむかのようにそれを止めず、

名前だとしても敵か味方か、どんな相手か、

あるいは何かこの世界でしか起きない天変地異の事を

サハピというのかも知れない…とまくしたて、中々落ち着いてはくれない。

「…じゃあ、あれだったらどうする?!太陽が二つ出るっていう…。」

「…おおっ!それ私も、案内状で見たっ!」

「…だろっ?!」

「でも違うね!」

そう案内状によると他にも、

日食とも違う昼間にもかかわらず真っ暗な中で白い太陽だけが鮮明になる日や、

月に薄紫の半輪(はんりん)が現れそれが縦軸を支点に回り続ける日、

また突然雪が降り出す日や、時には蝶が異常発生したりする日もあるらしいが、

頭成はそれを言いたいのだろう。

「もうー、何をやってるんですかー?」

その想像ごっこをする二人の背中に現れたのは、当然クリスタル。

彼は二人が素早く振り向くとやや驚いていたが、

何故かしばらくするとエナセイを唱える。

「…お、お前こそ何してんだ?!気力がもったいない…!」

「…眠ってたから、試してみたんでしょう?

みんな貴方みたいに器用じゃないのっ…!」

「…そうですが、理解されて悔しいというのも、嫌ですね…。」

「…それにしても遅いぞ!何でいつも一番最後なんだっ…?!」

「…そ、そんな事より二人は、何で小声なんです…?」

それに答える五星。

「…実は外に人が居て、この家に向って名乗ってるの…!」

「へぇーー…。」

言うとクリスタルは真顔のまま、すたすたと扉へ。

「…ちょっと待て!…」

「…な、何です…?」

「…今、サハピかも知れないんだぞっ…?!」

「…何ですそれ…?」

「…やっぱりね。何か良い案でも浮かんだのかと思えばっ…。」

そう呆れる五星だが、クリスタルの行動も慎重な彼らしくないではないか。

「…じゃあ君は、何か知ってるの…?」

「…い、いいえっ。ですが普通に考えれば、

野花うさぎさんのご友人ではないでしょうか…?」

そう言われゆっくりと頷く二人。

すると頭成は急に真面目な顔になった。

「…ああ、天変地異っていうのは、冗談だっ…。」

「…えっ…?!」

「…でしょうねぇ…。」

「…でも敵か味方かは、判らないだろ…?」

すると今度は五星とクリスタルが頷く。だが肩の力を抜くのは良いとしても

無駄な時間を費やしてしまった気がする五星は、頭成に白い目を…。

「…サイテー…!」

「よくそうやって言うけどな、

本当に酷い奴はオレみたいじゃないぞっ…!」

「…知ってますよそんな事っ…。」

そう言って扉の前で腕を組み考え込むクリスタル。

そこに聞えたのは透明感のある、だがよく通る男らしい声である。

「えーーと、サハピですっ!

鮮やか岬騎兵隊のっ!通りすがりの方に訊いたところ、

貴方が起きているという事で、訪ねて来たのですがー!」

やはり来たかと思った三人は、やや緊張。

だがこの段階になってクリスタルには、いつもの優しい風が吹く…。

「…き、騎兵隊ですかっ?!

やっぱり開けるのは止めましょう!ここは慎重に!

黙っていれば諦めるでしょうから…!」

「そ、そう。

別に知ってる人でも無いから、それでも良いけどっ。

でも知らない人だからって幻想世界で開けないのは、

ちょっと失礼じゃない?」

「…ああ、でもオレ達の目的は、

夜陽ちゃんを捜す為にまず強くなる事だろ?

だからクリスタルがどうしても怖いって言うなら、それで良いと思うぞ。

消滅はしないようになっ…。」

そうして三人の意見は一致したが今度は扉を叩く音がし、

本も出さず密かに気力を確認するクリスタル。頭成は身構え、

また五星は相手にどうしても会わなければならない事情があったならと

野花うさぎにも悪い気がし、そうして彼女がまた迷っている内に聞えたのは、

まだ生まれたての三人にとっては衝撃の台詞。

「おやっ、やはり誰か居ますねーー?!

野花うさぎさんの声ではないようでしたがー。

ご友人であれば顔ぐらい見せて下さいっ。

素直に開けないなら、扉を壊しますよー?」

「…え?!じゃあもう、開けようか…?」

「…ダメですよ!五星らしくもないっ…!」

「…なっ!お前は、そう思いたいだけだろ!

今は開けよう五星!脅しかも知れないが、

もしも本気ならどっちにしても会わなきゃダメだし、

あの言葉を聞く限り、どちらかといえば善人だっ…!」

すると頭成に頷く五星。

彼女はまず、扉がこちらから見て左への内開きなので、クリスタルをそちらへ。

彼に開ける係りを頼み、頭成と二人いつでも武器を出せるように構え、

一呼吸おいてから合図する。

「…お願い…!」

「…は、はいっ…。」

ガチャ…。

もしかすれば本当に良い人かも知れない。

だが…青天白日に輝いたのは銀の切っ先。

途端にそこにはずらりと四振(よふり)の刀剣が並び、

相手は背に日を受け黒い影となっていたのだ。

「…野花うさぎさんは、どこだっ…?」

「違います!

だから、落ち着いて聞いて下さいね…!

まず私の名は五星。危ないところを彼女に助けられ、

一晩泊めてもらっただけの者ですっ!」

「そうですっ。

起きたら貴方が居て、こっちこそ疑った程ですから!」

そのそれぞれ武器を出したまま説明する二人と、

波がかった金髪の中から凝視したまま思考するサハピ。

クリスタルはしばらく考え微かに安心した表情になり、

剣を収める音に素早く五星の横へ。

そこで彼が見たものは、長く白い制服にベルトを締め、

やや丸みを帯びた金の小手と長靴(ちょうか)を装備した、

いかにも好青年らしい相手。

白肌に細い眉、顎も鼻筋も同じように細く、

目は小さく二重で優美さも含みより甘く、

だが口元は固く結ばれ、全体に引き締まった顔立ちだ。

そしてそのまま両手の平を腰の高さで見せ、警戒を解くサハピ。

笑顔で迎えた五星に二人も安心し、四人は一応の自己紹介を済ませた。

それによると彼のサハピというのは略称で、実はサハピハルマという名らしい。

「うん、なるほどっ。私はまた盗賊か何かが入り込んで、

そこに訪ねて来たものだから、彼女を人質にとり、

立てこもったのかと思った!失礼っ!」

「い、いいえ私達の方こそ色々考え過ぎて、申し訳無いっ。」

「~ほら、開けて正解だったろ?」

「で、ですが、善人を装った悪人だったかも知れませんし、

やはり僕の慎重な判断も評価して欲しいですねっ。」

「ハハッ、そうそうっ!

特に君達みたいに優しそうな子は、気をつけなきゃねっ。」

そう言いながら腰に手を当て笑うサハピ。

どうやら彼は大分前からこの人里離れた場所に一人暮らす野花うさぎを心配し、

もっと生得の近くへ住むようにもすすめたが、

その度笑って誤魔化されるばかりなので、今も様子を見に来たと言うのだ。

つまりその理由についても謎のまま…。

今日のように見回りできれば良いが、隊員にも限界がある。

「だから君達…、何か知らないかっ?」

そう熱っぽく五星に訊くサハピ。

「う~んっ。私は、静かな場所に住みたいだけに思えますけど…。

たとえば向こうの林に珍しい植物が生えるとか、

そういうあの人にしか分からない秘密でも、あるんじゃないですか?」

「ああっ、確かに静かで、美しい場所だっ。

だが美しい土地なら大陸中にあるし、

まあこういう言い方も変だが、珍しい植物だからと、

それを独り占めするような人でもない。

ではやはり、何故ここに?私は危険だと思うのだが…。」

そう言ったサハピは海側に視線を投げたが、

三人にはそういう彼の方にも、まだ確認しなければならない事がある。

「ええ、それも気にはなりますが、

鮮やか岬騎兵隊ってどういう組織なんです?」

「そ、そうですね。僕達まだ二日目ですからっ。」

「それにしては、強そうでしょっ?!」

その胸を張る頭成に頷くサハピ。

「ああそうか、これは失礼!

では覚えておくと良いっ。私達鮮やか岬騎兵隊とは、

ここから西にある鮮やか岬という町に住む正義の集団で、

私はまだまだだが中心となるお三方や隊長等は、

既に二度も四つ羽様のお告げを聞かれたご身分!

しかもその誠実さは、

たとえばアン軍であっても、処罰の対象にする程だっ。」

「へぇーー。」

明るくだが驚きの声を上げる五星。

彼女の中では世界の中心といえる生得を支配するアン軍が、

力で何もかもを従えている…という印象だったが、そこは改めなければならない。

また生得だけでなく今話に出てきた実は遥かに海を越えて西にある

鮮やか岬等の大きな町は全て、案内状の地図にあるのだ。

「それで、ちょっと失礼かも知れませんが、

訪ねて来たのは上官からの命令ですか?

だとすれば、組織で野花うさぎさんを保護しようとしている、

という事になりますが…。」

「ああ、確かに命令ではあるが、彼女の存在は私が隊長に知らせた事で、

つまりこの巡回は彼女の生活を邪魔しないよう、それとなくという事だねっ。

だから君らも何か彼女に悩みがあるようであれば、そっと聞いておいてくれ。」

「ああ、はい!」

そう微笑して応じる五星に続けて、サハピに訊く頭成。

「それで…ちょっと失礼ですが、

貴方の組織はその…どのぐらいの規模なんです?」

「それは結構失礼だと思いますよっ!」

「もう頭成ぃー!

でも…できれば教えてもらえますか?すみませんっ。」

「ハハッ!

何度も言うが私達は正義の組織だから隠す事も無く、まったく問題無い。

そうだなぁー仲間が調べた情報によると、

例えばアン軍が中心となる部抜殿の仲間十人程と、

本当の末端まではよく分からないが、

他も合わせて五十人といったところだから、私達はその半分以下かな?

数だけで考えればかなり心許ないけどねっ。」

「なるほどっ。」

「意外と少ないだろ?

だがアン軍も、AZAKI殿の一派とプレイ殿の一派を切ったから、

大体それぐらいで…、

私達の方は誰も疑いようの無い善の集団で、結束も固いからねっ!」

「…そうですよねっ!」

「ああ、実はこれでも十分心強いぐらいさ!

いざとなれば常に大義ある我が隊の元には、

大陸中から戦士達が駆けつけるだろうからね。

それ程義に反した行いはありえないと、密かに自負しているんだ。」

「素晴らしいっ!」

「正義の為に戦い続けるなんて、格好良いですねっ!」

五星とクリスタルは改めて彼を信じたようだが、

だとすればこんな事一つを訊くにも、結構な気を遣う。

そうそれは夜陽が住むというあの悪人の町の事。

だが勿論彼女の行方とは絶対に必要な情報であり、

この機を逃がせばどんな人物に当たるか分からない。

そう思った頭成は、五星の代わりに訊く。

「うんっ?ああ、友達の家探しだね。

その名に聞き覚えは無いが、どの町に住んでるんだい?」

「…えっ?」

だが聞き返された頭成はどう説明しようかと迷い、代わりに答える五星。

「そ、それは確か悪人の町だって聞いて…。

でもそんな事する子じゃありませんしっ!

私達も普通の人間です!中立のっ!」

「そんな五星っ、善です善!僕も二人も!」

「な、何ていったっけ?そういえば一度しか聞かなかったなぁ。」

町名を忘れてしまったのか顔を見合わせる三人。

だが頭成が急かすので、二人は思い出す限りの情報を口にする。

「そうだ確か、遠いって!盗賊とかが住んでいるともっ!それで~~。」

「正直僕は…まだ行かない方が良いと思いますが、

聞いた限りでは一番怖い悪人の町じゃないですか?」

「…ああ、そういえば野花うさぎさん、そんな事言ってたなぁ。」

「…なるほど…。」

つぶやくと急に真剣な顔になり、ゆっくりと頷くサハピ。

すると彼は外を警戒し、腕組みまでして静かに語られた話によると、

どうやらそれは第一暗黒街とも呼ばれる最西端の町トレランス。

そしてそこを支配する三大勢力といえばブリガンテにソーンジ、

デュプルアイという悪名高い組織だというのだ。

「うーん、いかにも悪そうな名前ですねー。」

「うん、そうだろ?」

強く頷き続けるサハピ。その彼いわく、

初代首領は町の創設者でもあるブリガンテという集団は北側に住み、

主に西部一帯の酒場経営や個人の復讐また

世界中の町や村にある様々な問題の解決に協力する等、

いかにもな武闘派の三代目が率いる者達であり、

信頼を第一として常に掟を重んじ、

自分達をファミリーと呼ぶ少数精鋭の組織。

中央の十字路辺りを支配するソーンジは、

スペスの為なら通行料でも賃料でも何でも取り、たまに大きな仕事も受け、

仲間の数だけでなく一番経済力もある

知性派のボスが仕切る黒装備が決まりの組織。

また南側に住むデュプルアイ(wI)は、

主に盗賊達からあらゆる品々を買い取り富者に転売し、

情報も売る為脅したり買収したりで集めた間者を世界中に置き、

ボス自身は旅を続け、たまに用事がある時にだけ

ふらっと帰って来る変わり者で、女だけの盗賊集団。

そしてその構図は、もう一年以上も変わっていないというのだ。

「三つもの勢力が支配する町ですか。」

「ああ、私達正義の集団にとって、

組織だからこそまだましな部分もあるが、中々厄介な連中だ。」

そう大分前、酒場でソーンジの連中がデュプルアイの一人をからかい

抗争にまでなりかけた時、ブリガンテが間に入って収めた事もあったが

未だ協定等も無く、具体的な和解には至っていないのが現状。

サハピは正義の人らしくそこだけは憂鬱な顔で言い、

その一々に驚き目を丸くする頭成と、

頭ではあれこれと考え、だがその恐怖を顔に出す事さえできないクリスタル。

「で、ではー、行くの止めますっ。」

「えっ、~決定っ?!」

そしてそれには五星も珍しく目を鋭くする。

「止める訳にいかないよ!何言ってんのっ…。」

「そんなぁ、生得から人を使って、夜陽ちゃんを呼ぶんですよ!

その方が賢いと思いませんっ?!」

確かに賢い判断ではあるが首を傾げる頭成。

「うーん、でもそれじゃあ、つまんないなーー。」

「だよねーー。」

「そんな理由でっ…?」

また慎重なクリスタルは、頼む相手にはお金を貯めて支払う等、

つまりはそれを依頼にしてしまえば良いとまで言ったが、

頭成は別な理由も挙げる。

「だってさ、オレと五星が言ってるのは準備してからの事で、

まっすぐ行こうという訳でもないし、

もしも誰かに頼んだとしても、夜陽ちゃんの家を見つけて、

そこに居なかったら彼女を捜して、

連れて来てもらわなきゃダメだろ?

それだと何か悪い気がしないか?きっと失敗するよっ。」

「うんっ、そうだね!

やっぱり、特技コンセンを使える人にお金を払うか、

お使いをしてもらいたい人を探して夜陽の町まで行って、

その報酬で移動費をプラスマイナス0にするのが良いねっ。」

その五星の提案にやっと納得しそうなクリスタル。

「何だ、そういう事ですかー。

では無料で送り届けてくれる人もいるでしょうが、

着いてからもずっと一緒に居てくれる人を、探しましょう!」

「あっ、それ良いね!」

「じゃあ決まりだなっ。まず生得に行くぞっ!」

だがサハピは元気な三人を見て今一度釘を刺す。

「まあ、本当に血の気の多い、

欲望を解放しようとここへ来たような奴らばかりだから、

理由があるにしても、絶対っ注意する事だね!」

まっすぐに彼を見て頷く五星達。

彼女ら三人はここまでで十分感謝していたが、

てっきりその案内を頼まれるかと思っていたので、

私に遠慮しているのだろうかと、眉間にしわを寄せるサハピ。

「…しかし、どうしたものかなぁー。

私には一応巡回という任務があってこれは切り上げても良いが、

移動呪文を使える隊長は鮮やか岬に居るはずだし、

勿論自慢できるほど美しい場所でもあるが、馬に乗れるのは二人までだし、

やっぱり君達はまず町へ行って仕事を探し、

その稼いだスペスでコンセン屋を雇うのが良いかなっ。

それとも、私の後ろをついて来るかい?」

「いいえっ。一度自分達の足で歩くのも、良い経験ですから。」

「別に隊長といっても、立派な体をしているだけで、

見た目も優しい人だよっ?」

「大丈夫です!いつか鮮やか岬にもお邪魔しますからっ。」

「そうか、元気があって結構!ハハハッ!」

「ですがー。」

「そうだ!前回は生得まで行ってから、後は迷宮との往復だったし、

歩けば体力とか素早さも上がるかも知れないぞっ。」

「で、す、がっ!二人共、

ここはこの家で、コンセンを使える人が来るのを待つ

というのはどうですーー?!あの窓から目だけを出しそしてー。」

「反っ対っ!君ね、どこまで慎重なのっ?!」

「置いて行きますよっ!」

「ううっ…。」

そうして頭成にはまるで子ども扱いされるクリスタルだが、

いくら楽しむ為とはいえ生まれたてどころか卵のようにもろい彼女らが、

ここから生得まで歩くというのも、確かに無謀過ぎる気はする。

だが二人が彼を落ち着かせようと言うには、

ここから生得までは、そう大きくもない北の森を抜けるだけらしい。

「えっ、そうでしたっけ?」

「そうだよ。もう一度地図見たらっ。」

「すぐすぐー!こんなの直ぐだってー!」

あの赤茶色の本で地図を見せ、その最短距離を示す頭成。

それでもクリスタルは騙されないという顔だが、決定権は五星にあるのだ。

「じゃーー分かった!

もしも人が来たら、コンセンで送り届けてもらうとして、

とりあえずは海でも見ながら、歩いて行こうよっ!」

「それなら、目的地が生得の人でも良いなっ。」

「なるほど、危険地帯には行かなければならないとして、

まず生得まではその人と一緒に行く訳ですねっ!それなら安心ですっ。」

そのサハピから見てどこまでも仲の良い三人。

彼女らが望む未来や守りたいものとは正にこういう時間そのものだろうが、

それは心配性の彼から見ても実に活き活きとした絆で、今は頷くしかない。

「うんうん、決まったかい?

じゃあ私はそろそろ行くけど、本当に気をつけてねっ。」

お礼を言う二人と、何故かその背中を追って行くクリスタル。

二人も素早くそれに続くと、

左手の丘と右手の海の間にある草原はどこまでも北へ。

そのそよ風に揺れる草々の中には一頭の白馬がいた。

「あー!イメージ通りですねーー!」

「ハハッ、よく言われるよっ。」

「オレも早く欲しいなー!カッコイイよあの鞍っ!」

その象牙色の背もたれ付きの鞍は大人の肩幅ほど。

それは上へ行くに従って細く先に緩やかな二つのかどがあり、

日の光を受けた肩から首の先にあるのは、澄んだ瞳。

するとクリスタルはサハピが戻ったその背中をそっと撫で、

その情景に微笑する二人。

サハピは小さく手を振ると肩越しに一度だけ振り向き、

コンセン屋にはトレランスへ行きたいと言えば良いと、

もう一度町名まで教えてくれ北へ走り去って行った。

その颯爽とした姿に手を振る五星達。

「ありがとうございまーすっ!

ここからもっと北にも、人が住んでるのかな?」

「それはそうだろっー。でも良いなーあの馬!」

「フッフッフッ!」

そこへ何故か笑いながら戻るクリスタル。

彼は本を出すとそれをテンポ良く覗き込む五星らにも見せる。

鎧馬(よろいうま)

背中の皮膚が進化し鞍と軟性に富んだ背もたれになった馬。

よってこれは乗り易く、その角度は様々だが振り落とされる事も少なく、

見た目にもこだわり鞍を付ける者もあるが、

実は最大の特長といえば性格にあり、

その従順さと勇敢さは戦闘に適していると言える。

大陸中で見つける事はできるが、

自由を旨とする彼らの主(あるじ)はまず自然であり、

手なずけるのはやや困難な生物。速く走る事より長距離向きで体は頑丈。

すると絶叫する五星。

「だあぁ、自分だけ捕まえたぁー!」

「フッフッフッ!」

「さっきの仕返しかっ?!あれ皮膚だったのっ?!」

「そうです!案内状に簡単な紹介がありましたので、

実は扉越しに発見した時から、こうするつもりでした…。」

「ふーん…。良しじゃあ次から、君が動物を触る係りねっ。」

「それは自由でしょーー?!子供だなーー。」

「寧ろオレがやりたいが…。」

その妖しい笑みのまま本を見てと自然を愛するクリスタル。

その隙に頭成もいつの間にか南へ歩き出し、

五星も辺りを警戒しながら後を追い、

そう彼女らの二日目の旅はこうして始まったのだった。



草原とはいってもこの辺りだけは丘が多く、一体どこからが森なのか、

もう慣れてきたはずの三人にもよく分からなかった。

岩山を目指すという緑のローブと帽子を身につけた旅人達とすれ違い、

また今度は栗毛の馬にまたがった同じく岩山へ遠駆けするという

黒鎧を着た戦士風の二人とも手を上げて挨拶を交わし、悠々と行く三人。

彼らからもまた夜陽の情報は得られなかったが、

あの淡い色取り取りの小石達は消えても、

左手には今も小麦色の砂浜と海があり、

五星はその輝く潮風の先に目を細め、一人想像。

確か案内状によると真っ直ぐ飛べば西側へ行けるらしいが、

だとするなら船はあるのだろうかと

今更ながらに嬉しい疑問も込み上げてきた。

そして、どうしても少し先を行く頭成。

だがクリスタルは景色を楽しむ五星の代りに彼を監視。

するとその背中は、先にある丘の上で動きを止めたかと思えば…、

急に姿を消す!

そこで叫んだのは残された二人。

「なっ~!ああーそうですか、森が見えましたかー?!

ですがそうする事は分っていましたよぉーー!!」

「私もー!ちょっと考えが足りなかったねぇーー!!」

そう急に現れて脅かされるかと思い、歩きながら耳を向ける二人。

だが帰って来たのはまるで洞窟から聞えたような

小さく鋭いだけの意味不明な言葉で、

海だの森だのまたそれがでかいだのと何を言っているのかは分かるが、

何を伝えようとしているのかまでは分からず、

心配になって走るクリスタルに釣られて、五星も同じ気持ちで続く。

そして短剣と盾を出す五星。

同時に彼女はクリスタルにも小声で合図し、戦いを覚悟。

すると丘を越えたその二人も同じように立ち止まってしまった。

何故ならそこには、遠くどこまでも西の先まで森があり、

当然高さや大きさはそれぞれだが草木が密集し、

その深さの為確かに南にあるはずの生得がまったく見えない程だったのだ。

一面の緑。

その計り知れないほど豪壮(ごうそう)な生命の集合体から放たれる、

力強く心地よい波動。

そして頭成はというとその前にある木立に隠れ手招きし、

やはりクリスタルはその彼を指差し、五星も睨む。

「…気持ち良いですけど、帰りますよねっ?」

「ええっ?!~いいや!」

「…もう速く!

二人共何やってんだっ?!中からは見えるんだぞっ!」

「もう遅いよっ!

誰か居たとしても、私達も君もとっくに見つかって、

一人でそこまで行っておいてさ、それは無いよね!

でも行こうっ!」

「嫌ですよー!だったら砂浜を行けば良いでしょー!」

「私も言うけど、そこに居ると丸見えだよ!」

「そ、そうですね、アハハッ!

でもそれなら、そこで説得しても良いですかっ?!」

いい加減うざったいという顔の二人だが、

彼にはどう考えてもここを抜けるのは賢いと思えない。

「そう大きくもない森だと言ったのは、誰でしたっけ?

そうだ二人だ!二人でしたよねっ?!」

その恨みがましい声に横顔を見せ、肩越しに言う頭成。

「…オレだ。五星は関係無い。」

「…頭成…。」

「誤魔化されませんよー!魔物が居ますここには!

そうだそれは迷宮にしか居なくても、魔物と呼ばれるほどの、

何かの主は生息しているはずです!!」

「うるさいな、お前はっ!」

「もうよっぽど何かあった時まで、黙っててっ。」

「というより二人だって、また森かよー!ていう感じじゃないですかっ?!」

「いいやっ、突然砂漠とか雪原になった方が、絶対変だろっ。」

「たぶんだけど、誰も居ないみたいだし、もう行かない?

それにこの決定は私の好奇心からだから、その言い訳だけど…。」

「それじゃあダメでしょー!」

「いいや分るぞっ!」

「どっちを選んでも、危険はあるよ?」

「………。」

「そうだよな!確かによく考えればそうだ!」

「それに、猛獣がいる場合は別だけど、

静かに進めば、森の方が発見されにくいでしょっ。」

「んっ、まあそうですがー。」

「じゃあ決まりだな!」

興奮したので深呼吸する五星。

それにしても確かに広大な森だ。

また緊張に汗ばむクリスタルは傍にある木にも触れ、

二人も見るとそこにはこう記されてあった。

そだち

真っ直ぐに伸び、成長するに従い下の方まで枝を増やす、葉が真緑の木。

まだ若いものは上の方にしか葉がなく、それはまるで

年をとるに従って足元がしっかりする、人生のようである為こう呼ばれる。

上で寝る事はできないが枝は丈夫で、十分に成長したものになら人一人楽に登れ、

細身の人間ならだが幹へ隠れる事もできる。

その最大は約十五メートル、幹は直径二十センチにまでなる。

「し、渋いですね!生態が美しい!

ああーでも何で野花うさぎさんに、

この辺りの地理を訊かなかったのでしょうっ!」

「そりゃあ私も、無理して何か大変な失敗をするよりは、

誰かに頼った方が良いと思うよっ。

でもずっとそれじゃあつまらないし、成長しないでしょっ?」

「ああ、それになクリスタル、そんな心配しなくても、大丈夫だぞっ。

昨日は確かに幸運過ぎたが、オレも五星も油断して無いからっ。」

「では走らないで下さいよ。」

「それは私も言いたい!」

「くそっ!」

その苦笑いする彼を先頭にこっそりと森へ分け入る三人。

中は予想に反して明るく所々から光さえ差していたが、

今迄迷宮以外では常に誰かといるかほとんど街か草原しか歩いて来なかったので、

その緊張も仕方の無い事。寧ろ、思う存分意見してすっきりしたのか、

一番後ろを歩くクリスタルの方が丁度胸近くまであった細長い草をつかみ、

その詳細も見ながら進む。

長々草(ながながくさ)

大体多くても四つか五つだけまとまって生える、八十センチ程の細長い草。

濃い緑色であまり目立たないがこれも隠れるには最適で、

中に小動物や蝶、それに飛蝗がいる場合も多い。

辺りはその生い茂った長々草とそだちで一杯だが、

彼はその詳細にリスや狸という動物を想像。

突然振り返った五星が走って来たので慌てたが、

彼女もそれを見ながら言う。

「じゃあここはちょっと暗いし、拒絶の森だねっ。」

「ああ、アケハナトビラ辺りにあったのが、寂しがりの森だからですねっ。」

「これ何だっ?!」

すると突然叫んだのは頭成。

彼は警戒の意味もあって彼方此方に視線を走らせていたが、

右手の木々の間に、長い傘が特徴の一つの小さな白いきのこを見つけ、

それを指差す彼に走る二人。

「う、美味そうだよな?ちょっと、採ってみてくれっ。」

「自分で採れば良いでしょー!」

「さっきのは、動物を触る係!~それに冗談だからねっ。」

「そうか、では遠慮無く!」

言うと頭成は、躊躇いも無くそれを採った。

森潤茸(しんじゅんたけ)

主に後譲りの木が倒れた跡に生える、太い所でも直径一・五センチ、

頭部が長く四センチ程の白い円筒形のきのこ。

食べれば胡桃のような味で軽い毒程度だが癒してくれる効果もあり、

高級な果物であるクリームカップを買うスペスが無い者は、

これを捜し求める場合もある。

パクッ!

「あっ!」

その突然の食事を指差す二人。

五星とクリスタルはもっとじっくり観察したかったのだが、

手にしていた頭成は胡桃味と知り、我慢できなかったらしい。

「う、うまい!これもっと無いのかっ?!」

「何で二人とも予告無しなの…?食べちゃったよこの人っ。」

「まあ、クルミのような味であれば、

美味しくて当然ですが、きっとまだありますよっ。」

「本当に癒されてる感があるっ!」

「毒でもなかったでしょ!

次見つけたら私かクリスタルに預けてよっ?」

「案内状によるとクリームカップという果物は、

毒以外にも様々な状態異常を回復してくれる物で、

それは高いのでしょうが、これも売れませんかね?」

「勿体無い!オレ達で食べようっ!」

「じゃあ沢山見つけたら、売ろうよっ。

誰かにあげたくても、その人達を捜すのも大変だしっ。」

三人はよく目を凝らしたが、

恐らく後譲りの倒木だろう凸凹した立派な幹はあっても

その陰に白い御褒美は無く、

その視線が遠く奥へいったと同時に頷き合う頭成と五星。

二人はそっと後ろのクリスタルにも合図。

頭成が右手の木に、五星は反対の木に、

クリスタルだけはその左手の茂みに隠れ、一言も無く覗き込む。

何故ならずっとずっと先に開けた場所があり、

その手前の木に誰かがしゃがみ、もう一人が南側を覗き込んでいたからだ…。

人数は二人。だが敵ではない。

その姿を見た五星は素早く首を振り、

頭成が驚くのを見てクリスタルにも振り向く!

何とその二人が身に着けている物は空色のローブと、

オレンジのリストバンドに紫のワンピース。

という事は、あれは野花うさぎと…、

たぶんだがもうそれが判ってしまってから見れば、明らかに灯。

二人が知り合いなのは聞いていたが、一体ここで何をしているのだろう。

そう森潤茸を採っているなら笑い話で済むが、

まだ若い五星にも彼女らは、何かに追われているようにしか見えない。

「…行こうっ…!」

「そうだなっ!何があったか知らないが…。」

「…しっ!もしも近くに敵が居たら、教える事になっちゃうから…!」

「…ああ分かった…!」

「…だったら急がないで下さいねっ…!」

そのクリスタルを無視し、低い姿勢で進む頭成。

代わりに振り返った五星が強く頷くと、頭成は二人の周囲に敵が居ないかを確認。

同時に縛られている訳でも無い事を素早く二人へ伝えた。

「…で、その握りこぶしは…?」

「…生きてるって事…!」

「…良いですね!これからはそうやって伝えましょう…!」

一応それにも頷き茂みから顔を出す五星。

もしも近くに敵がいたなら野花うさぎも覗き込んだりしないだろうが、

彼方此方に視線を走らせ、五星の方もしばらくして声をかける。

「…野花うさぎさん!それに、灯さんですよねっ…?!」

「…あっ!」

「…え、何っ?!」

あの優しく接客してくれた時とは違うややかすれた太い声を発し、

中腰になって丸みを帯びた銀装備で揃え、剣を構える灯。

よくは見えないがうなじ当てが広がった兜にある

T字の鼻当ての奥からは殺気が漲り、

鍔が無く全体に重厚な金の剣だけは柄の部分が渦を巻いてやや細く、

特異な印象を与えている。

だが野花うさぎの構えに変化が無い事から、

今はそう差し迫った状況でも無い…という事だろうか。

三人は手の平を見せてゆっくりと近づき、

灯の方も野花うさぎが間に入る頃には装備を解いていた。

「やっぱり、誰かに追われてるんですかっ?!」

訊いたのは五星。

それにまず口を開いたのは灯だが、野花うさぎも互いの為に一応の確認はする。

「アハハッ…!何だ君達かっ。

もう北まで手が回ったのかと思って、つい警戒しちゃったよっ。」

「三人とも、ついさっき起きたのっ?!」

「え、ええっ!」

「じゃあ何が起こったか、まだ知らないねっ?

実は私達、元はアン軍の人間でプレイの一派にいた賞金首なんだけど、

丁度今はそれがバレて逃げて来たところなのっ!」

「ええー?!」

心底驚いて棒立ちの五星と気まずそうにやや下を向く灯。

野花うさぎは焦って耳をパタパタとさせたが、

頭成とクリスタルは五星に言われるまでもなく、彼女らを責める気は無いようだ。

それもそのはずプレイがAZAKIの巻き添えになったというのは、

その真偽は定かではないが既にKAIYAに聞いた事であり、

クリスタルはただ心配するのみだ。

「で、では速く逃げましょう!部抜が来ます!」

「それでオレ達は、どうすれば良いですか?!

おとりぐらいにはなれますよ!」

灯はその頭成の言葉に厳しい表情となり、

どこへでも飛び出して行きそうな彼を、手の平で抑える。

「まさか!一度会っただけの、

しかも生まれたての君達にそこまでしてもらったら、私恥ずかしいっ!」

「でもっ!…オレ達はまた生まれ変われば良いだけですけど、

灯さんや野花うさぎさんは、ずっと暮らしてきて…。」

「そうだけど…、でもそれじゃあっ。」

だが五星も言う。

「頭成の言う通りです!野花うさぎさんには一度助けられていますし、

アン軍の横暴さも知って…それに困った時に助け合えないなら、

人との繋がりなんていらないと思います!」

「うん、ありがとう!気持ちだけでも嬉しいよっ。」

「だけど、本当にどうしようかっ?!」

そう言う野花うさぎには当然灯を逃がす責任があり、

警戒して彼方此方を見回し、

それに不安を感じたクリスタルはまた黙り込んでしまった。

まず大人しく素直な彼の思考では、彼女らが追っ手と戦うのを

生まれたてらしく見守るだけだった場合も、

消滅後二人をパーティーに迎え楽しく生きる事はできるが、

それは当然言うべきではない。その不安そうな目をじっと見る五星。

だが思慮深い彼なら何か言いたい事もあるだろうと、

そっと背中を押し、するとクリスタルはまた脅えながらも訊く。

「お二人はどうやって、観測者の千里眼から逃れたんです?

い…今だって、見つかりませんか?!」

それには野花うさぎが答えた。

「私の目塞!中級まで鍛えてたから、自分以外のもう一人、

つまり灯と二人でパズラーからも逃げられたんだけど…、

そのお陰で今も観測者からは、見えないはずっ!」

アン軍にはそういう名の観測者がおり、

その仕事とは大体支配者へあらゆる事柄についてその概要を説明したり、

必要とあらば献策までし、いわば参謀や助言者といったところだが、

それより今の彼らにとっては灯の逃亡を助けるのが先である。

「…逃げるところを見られましたか?」

「いいえっ!でももしかしたら、何人かには見られたかも知れないから、

状況がもっとはっきりしてから、私にも追っ手が差し向けられるはずっ。

灯は断交の時消滅してたから、まったくの別人なんだけど、

私は戦わず…逃げたから、当時と同じ強さを保持していて、

でもだからこそ正体を見破られたのねっ。」

今ので五星とクリスタルは理解したようだが、頭成は違う。

「うんっ?でも…目塞って、その千里眼を防ぐ技ですよねっ?

灯さんは別人で貴方は目塞を使うのに、どうして正体を見破られたんです?」

「ええ、でもだからこそパズラーは、

何で私みたいな者が一人で行動し、迷宮まで行き、

しかも忍者特技の中でも沢山の経験値が必要な

目塞まで使えるのかって、そう思ったんじゃない?

観測者が千里眼で見えない相手といえば、

自分より強いか目塞を使えるかのどちらかだし、

そうつまり奴を甘く見た、私が悪いの!」

「そんな事無いよ!

彼女は、どうせ生まれ変わって判らないんだから、

生得に住んで静かに道具屋でもやりたいっていう私に、

何度も忠告してくれていたの!…でもそこに来たのがパズラー。

そうだ!私達を賞金首かどうか試す事に関しては、

セイントにも許可を取ったって!」

「えっ…?!」

小さく驚く五星。

セイントの優しさや正義も所詮はアン軍の為だけにあるものだろうか…。

だが、突然追い出されたかたちのその灯の愚痴には、野花うさぎが答える。

「うん、でもセイントだったら、

きっと知っても黙っていてくれたはずだよ!

だから、まさか私達が賞金首とは、知らなかったんだと思うよっ!」

「どうだろうねっ?」

セイントまで疑い、思い出したように五星達を見る灯。

「…月鬼(げっき)に、月兎(げっと)…。

鮮やか岬で賞金首が見つかってそこへ行かなきゃならないから

忙しいとか何とか、とぼけた顔でこの宝剣を売りに来て、

私がお金を支払うそろそろ帰るかなって時に、突然そう言われたの!」

「…というと?」

そう言って目を丸くする五星に答える、野花うさぎ。

「当時の私達の名前っ。

まあ私は野花うさぎと名乗っているだけで、

消滅はしてないから、本名は月兎のままだけど、

今考えてみれば、参謀役の奴が直接賞金首を討ちに行くって、

それがもう不自然だったね?」

「うん。でも私は、賞金首を捕らえたから、

その詳細を千里眼で見るのに奴が鮮やか岬まで飛ぶんだって思ったね。

だってたった三人で来て、いきなり誰か捕まったって言うんだもん。

もう頭の中はーー誰だ、誰だっ?!

まさかプレイかなって、そればっかり!

パズラーって前からああいう嫌な奴だったよね!

いきなり……月鬼に、月兎…。」

「それで動揺してしまった、という訳ですかっ。」

「うん。私って気が弱いのかな?アハハッ!

でも三人とも城に帰って助かったね!

それから、奇襲するつもりだったのかも知れないけど!」

またしばらく考えて訊く頭成。

「包囲して捕らえてからでも、十分調べられますからねっ。」

「そういう事っ。」

五星らも大体の状況を把握…。

その三人を気遣ってか灯はやや冗談風にも明るくも話しているが、

何故か頭成だけは微笑して見える…。

やや呆れながらもその訳を訊く五星。

「面白いと…思ってるでしょ?」

「……いいやっ。

いいやー失礼だなぁ!ただまあ、今こそ戦う時だっ!!うんっ!」

彼は誤魔化す為なのか本当にそう思っているのか、

五星を見てある木陰を指差すとそこへ隠れ、南側を警戒する任に就いた。

「それで、クリスタルはどう思う?」

「ええっ、ではまたお二人に質問ですが、追っ手は誰で、

そしてこの情報は、生得解放戦線にも届いていますか?」

それには灯が答えた。

「そうね追っ手なら、

私達はパズラーでさえ見つけられないんだから、

多分アン軍だけでは足りず、他に賞金稼ぎや盗賊まで雇ったりで、

今はまだ生得にいる兵士か彼らの支持者だけで、それでも大体四、五十人!

でこの事はもう生得解放戦線も知ってると思うよっ。

だから部抜や竜鱗が城に残るかといえば、それは判らないけど…。」

小さくうなるクリスタル。

何にしても情報が少な過ぎ、野花うさぎが見られたかどうか等々、

当然それによっても対処の仕方は変えなければならない。

「生得解放戦線の事は、あの部抜でさえ気を揉んでいましたので、

たぶんそちらをこそ警戒して十分な戦力を残し、

またアン軍には住民に追跡を強制できる程の信望も無く、

寧ろやり過ぎとさえ思われていますから、

まだそれも、厳しいものにはなっていないでしょう…。

そしてさっき灯さんは、

パズラーがたった三人で来たと言いましたよねっ?」

「うんっ。

一緒に居たのは、まあ強いのかも知れないけど、当時は居なかった奴らだったね。」

「ではたぶん、本気では無かったのでしょう。」

「何で?」

やや疑問に思う五星。

「えっ?な、なぜならー、

本当に捕まえるつもりなら店を包囲するでしょうし、

町の外にも兵を配し、失礼ですがそうなると、

アン軍は勝った側で一年以上も前から消滅していない

部抜や竜鱗それにセイントなど猛者揃いなのですから、

灯さんと野花うさぎさんだけでは、逃げ切れなかったでしょう…。」

「ああ、そうかっ。」

それに納得する五星と、まだクリスタルに話したい事がある野花うさぎ。

「でもセイントは、半年程前アンを守る為に消滅してるよっ。」

「ああ、そうなんですかっ?」

「うんっ。

でも今クリスタルちゃんの言った事はほとんどそのままで、

私一人ではどうにもできない程、アン軍は強いのっ!

パズラーは観測者として参謀役に徹して長いから

戦闘向きじゃないけど、だとしても生得内で戦ったりしたら、

やられちゃうだろうからねっ。」

頷くクリスタルに、

五星はやはりあの私闘に対する処罰や部抜の決闘も思い出し、

じっくりと話し合っていられるのも後数分と判断。

だがどうしても気になる事があり、最後にそれだけは訊く。

「足留めしてしまって、すみません!

でも、生得からはどう逃げてきました?」

恥ずかしそうに答える灯。

「じ、実はその…私の考えで、隣近所の人やすれ違った人達には、

生得解放戦線が攻めて来るって、嘘の情報を流してねっ。

それで一人で逃げようとした人には、

危ないから必ず誰かと一緒に行くようにとか二人になるよう仕向けて、

奴らは北門から攻めて来たぞっとかも叫んで、自分達も南門からっ。

つまり、私達二人が目立たないようにしたのっ…。アハハッ!」

「ああっ、じゃあ十分な時間はあった訳ですね!」

一応悪人でない灯は人々を巻き込んだのが恥ずかしかったのかそう言い、

続きは野花うさぎが答えた。

「うんっ、あえてコンセンは使わず、南門から逃げる人々に紛れて脱っ出!

それから海へ入って北へ。しばらく泳いでから、この森へ入ったって訳っ!

私の方も最後の質問だけど、誰か家に来たっ?」

つまり大混乱だった事が想像される生得だが、

五星はその二人の機知に感心しながらも自分達も役に立ちたいので、

はっきりと答える。

「ええっ。でもそれは鮮やか岬のサハピさんだけで、

敵になるか味方になるか分からないとしても、

この事はまだ知らないみたいでしたし、

それからは旅人風の何人かとすれ違って…、

それに後から来た二人の戦士も私達には何も訊かず、

遠駆けにでも行く様子でしたっ。」

そう普通に考えれば、あの家はまだ知られていない事になるが…。

頷く野花うさぎと、胸に手を当てだがまた心配そうな顔で彼女を見る灯。

「うん、大丈夫っ!サハピさんは知ってる人だからっ。」

「へぇ、そうっ…!じゃあ一旦、家にお邪魔しても良いねっ。

行きながらでもこれからどこへ行くか考えて、着替えも借りるねっ!」

「うんっ!月兎時代の服や装備はあるから、なるべく着なかった物を選ぼう!」

恐らくまた目立つ事を避けコンセンは使わず、あの家へ行って…また出るのか…。

五星は彼女らの行動力にも感心しつつ、だが頭成が何か南側を指差し、

その手で今度は指を二本立てて合図しているのを見つけ、

それを野花うさぎ達とクリスタルにも教える。

そしてそのまま身を屈め、野花うさぎ達を更に奥へとやる彼女。

その目の前に草の根を分け遠く木々の奥から姿を現したのは目つきの悪い盗賊で、

まだこちらには気付いていないようだが、その視線が欲していたのは明らかに敵。

当然向こうへ行ったと嘘を教えようかとも思ったが、

彼女は二人と示し合わせ灯と野花うさぎを見なかった事にし、

西側へゆっくり歩き出すと、その盗賊達にも手を上げて挨拶。

…何も訊かれない事を祈った…。

「…鮮やか岬まで行く事にしようっ。」

「…ああ、訊かれたらだろっ?

でも待てっ!それからまた会ったらどうする?

生得に行く事も仄めかしておくか…?」

それには小さく首を振る五星。

彼女にとっては、その再会すらあって良い事ではない。

するとクリスタルも、自分の態度を決めたようだ。

「…本当は、野花うさぎさん達が見つかってしまう事の方が怖いですが、

僕は黙って、彼らを怖がっているふりをします。その方が自然でしょう…!」

「…えっ?」

「…ふり?」

だがそれに並行して歩いて来る、二人の盗賊。

五星がちらりとその姿を見た限りではいずれも男で、

頭に淡い紺色の大きな花柄がある象牙色の布を巻き、

同じ色の鎧を付け、だがそれらは肩当てやタセットそれにブーツにまで、

縦に細長い穴が開いているので、何かの骨を加工したものだろう。

長めのリストバンドとズボンも象牙色で、淡い白に統一しているように見える。

それにしてもたった二人とは…。五星はそれを大いに怪しみ、

だがあまり意識するのも良くないと考えゆっくりと歩き、

二人の違いも整理する。

一人は細身だが、がっしりとした顎に無精ひげを生やし、

もう一人も細身だが、二重まぶたの大きな目で、意外と美しい顔。

するとその二重の方が、先頭の彼女に話しかけてきた。

「こっちに来たの、見なかったぁー?」

「えっ?…ああ、いいえっ!たぶん向こうじゃないかな?!」

「ふーん、君らも賞金首捜しだよねー?!」

「ええ、私達も丁度鮮やか岬の人に聞いて、

彼の場合は二人を投降させたかったんだろうけど…、

その手伝いをしていたところっ。でももう帰るよっ!」

「何でっ?」

今度はもう一人の無精ひげが訊く。

「だって居ないからっ!」

そう盗賊が、三人を自分達と同じ追っ手だと決めつけ、

それに調子を合わせる五星の作り話に、乗ってみる頭成。

「もしかしたら、もう別な場所で見つかったかもなっ?」

「………。」

クリスタルは作戦通り目を合わさないようにしているが、

無精ひげはその顔を凝視。

何事かを二重の男に耳打ちすると、また五星に訊ねた。

「それって誰だっ?

もったいない事する奴だなー!

捕まえればアン軍から10万スペスだぞっ?」

「サハピって人だけど…えっ10万っ?!何でそんなっ!」

「いいやアン軍からすれば、それでも大した額じゃないんじゃないか?」

「ああっ、なるほど!さすが生得の支配者だねっ。」

「じゃあ気をつけろよっ。」

「ええっ。」

「オレ達はこれから、お前らが歩いて来た方へ行ってみる。」

「じゃあねぇーー!」

ガスッ!

軽い態度の二重男は無精ひげにけられ、苦笑いしながらその後を追った。

まずい、もうばれたのか!

そう思ったのは三人同時だが、あまり考えている時間は無い。

「…どうしようっ?

足止めなんてしたら、ますます怪しまれるしっ…!」

「…奇襲だ!もうそれしか無いっ…。」

「…ちょ、ちょっと待って下さい、二人共っ…!」

すると盗賊達は、今度はにやにやと笑いながら、振り返って話す三人の前へ。

素早く引き返して来たかと思えば、まず無精ひげが凄んで見せる。

「どうした、何か不味い事でもっ?!」

「いいえっ。

ただ、もうそっちは見たから、教えようかと思って。」

「怪しいなーー!

おいおいっ、まさかお前らも賞金首かっ?!

でもそんな風にも見えないなっ。ていう事は何だっ?」

「さあっ…?

でもどっちにしろ、これからグッサロさんの本隊が来ちゃうから、

それで終わりじゃねー?」

「おいっ小僧!」

クリスタルを指差す無精ひげ。

「お前さえ生かしておけば、こいつらは殺しても構わねぇんだぞ?!」

そうかこの二人は斥候。一人生かしたクリスタルを連れ去り、

灯さん達を見つける為に頭目の前で尋問するつもりだ。

そう覚った五星や頭成より速く、

両手に剣を出す無精ひげに、弓を出す二重の男!

だが五星は、その距離四メートルはあろうかという間合いを一気につめ、

まずはこいつと叫び弓兵を斬り下げ、その胴を斬り払い、

後ろへ回って無精ひげからの斬撃までかわしながら、

肩当ての一箇所をつかむと、その頭に細かく剣を落とす!

「な、何ぃっ!放せっ!!」

「こいつらぁっ!」

その振り返った無精ひげには頭成が当たり、互いに激しく両剣を合わせたが、

次の瞬間、その彼の得物である鉄の刀はまた…弓兵へ。

「あっ!!」

そう叫んだのは無精ひげの方。

声も無く、だが深々と突き刺さる胸の刀を見る弓兵。

その賊も武器を槍に持ち替えたが時既に遅く、

回復しようと聖水の小瓶を出した無精ひげの方も、

頭成の体当たりにその機を失い、黄、赤と変化していった弓兵の視界は、

いつの間にか黒く塗り潰されていたのだ。

そして五星の前で崩れ落ちる敵…。

「嘘だろぉっ!!」

叫ぶ残された盗賊。三人はこれなら勝てると思ったが、

無精ひげは一番近いしかも今は短剣しかない頭成に剣を落とし、

だがそれは難無く十字に受けられ、

もう一方の剣が相手に達する前にまた体当たりを受け、

何と突き飛ばされたところに、今度は五星が盾で体を隠しながら接近!

足でその足を払うという小技まで見せた。

「~おわっ!」

「今ならどうだっ?!」

叫んで打ち込む頭成に、その攻撃を受ける盗賊。

だがいくら生まれたてでも三人を相手にするのは無理があったのか、

クリスタルが投げた杖は、見事頭に命中!

「てめぇこらぁーー!!」

「わわわっ!」

慌てて逃げるクリスタル。

ドッ ドドッ!

その隙を見せた盗賊へは、五星と頭成が攻撃!

無精ひげの視界も一瞬黄色くなったが、それはさっきの聖水で回復。

盗賊は逆転を狙い、五星が杖を拾おうとした手に剣を落とし、

だがそれはかわされ、…その誘いからの短剣は辛うじて受けたが…、

間髪容れず放たれた頭成の連撃までは、かわし切れなかったようだ。

「おしっ!!」

「い、いいや!お前らごときに負けるかぁー!」

吠えながら退いた場所で、また聖水を出す盗賊。

だが今は焦りのせいかその回復も、やや早めになってしまっている。

「…強過ぎる…!

まさかお前ら鮮やか岬騎兵隊かぁーー?!」

「いいえっ!でも戦いを選んだのは、貴方達だからねっ!」

言い終わるのも待たず、今度は五星へ走る盗賊!

彼女は体ごと盾で押し返す…と見せかけ、直前で止まり、

予想通り頭に来た右剣は受け、胸を狙って突く!

だが実はそれも誘いで、

それを払おうと胸まで上げられた剣は、同じように上げてやり過ごし、

低く体ごと踏み込んだ彼女の短剣は、その目から見て左の胸を裂き、

そのまま後ろへ。

振り返った五星は、体から数センチと離れていないその位置で、

首を相手と同じ方へ向け、それを刺そうときた左剣も手首を蹴って弾き、

逆にその横腹へ…深々と短剣を突き刺していたのだ。

その耳に聞えたのは、何かを詰まらせたような声。

更にそこへ飛び込んだのは刀も拾い隙をうかがっていた、頭成の猛攻。

もはや相手になす術は無かったようだ。

「やったー!良しっ!!」

「ほ、本当に倒したんですかっ?!」

うつ伏せで動かなくなった相手に拳を見せる頭成と、

慎重な思考で眼前の勝利さえ疑うクリスタル。

だがその二人にも五星の華麗さに驚く暇は無い。

「…しっ、また仲間が来るかもよっ…!」

「…では一旦、野花うさぎさん達のところへ…?」

「…うん!でももう、家へ向ってるかもねっ…!」

小声で確認し合うと素早く盗賊達の装備を解きスペスも頂く三人。

彼女らが得た物は、花柄のバンダナ二、骨の鎧二、リストバンド四、

ズボン二、革の靴二組、それに鉄の槍一本と鉄の剣が三本、

鉄の弓一張りと鉄の矢を二十本、合わせて150スペスという大きな収穫。

だが森潤茸を見つけた頭成さえ今は走るしかなく、

三人の常識では鎧が高いので骨の鎧二つが何スペスになるかと期待する

今は意外と冷静なクリスタルも一旦それは忘れ、一生懸命に野花うさぎ達の元へ。

しばらく行くと先頭の五星の目には、茂みから出る彼女達が映った。

「~よく無事だったねっ!で相手は何人っ?!」

「誤魔化せなかったなら、私達も戦うよっ!」

「いいえっ!二人を斬って、

その盗賊達の話では後から本隊が来るとかっ!」

「えっ倒したのっ?!す、凄いねー君達っ!」

「不意打ちしたとしても、まったく反撃されなかったの?!」

そういえば一撃も身には達していない。

だからこそ倒せたのだろうが、頭成は自分の強さを喜ぶと共に

五星の活躍が大きかった事を頼もしく思い、

戦闘に及んだ経緯から始めその事も含めて話し、聞いて驚く野花うさぎと灯。

「へぇーやっぱり凄い!素質なら私達なんかより上だっ!」

「アハハッ!プレイに鍛えられていた頃を、思い出すねっ。」

「それで、だからという訳ではないのですが、私達も行きます!」

その五星の発言に頷く頭成とクリスタル。

もしも野花うさぎ達が友人でなくても三人なら見捨てないかも知れないが、

足手まといではないか。それには野花うさぎが答える。

「いいえ、ここまでで十分…!ありがとうっ。」

「でもっ!」

「頭成君もね、よーく考えてごらんっ。

君達が倒した盗賊はたぶんまだ一ヶ月ほどの敵!

という事はその彼らが私達を確かめもせず生まれ変わり、

本隊と合流できたとしても、

その末端の言う不明確な話なんて、誰も信じないよっ。」

「…あ、そうですねっ。」

納得して振り向く頭成に、それを整理する五星。

よく考えてみればだがあの二人の盗賊は野花うさぎ達を見てもいないのに、

勝手に五星らが知っていると決めつけ、返り討ちに遭っているのだ。

となると嘲笑を受ける事を恐れ本隊には黙っている事さえ期待でき、

知らせたとしてもそんな弱い奴らの言う事など、

誰も信じないというのだろう。

相手の一人が兎の姿だったならともかく人数さえ合わず、

そうなれば本隊も興味を持たず、

悪くすればたまたま強敵に会って負けたのが悔しく、

その仕返しの為に仲間を利用するつもりだとも、思われかねない。

「つまり私達は…心配し過ぎって事ですか?」

「そういう事っ!

だから私達の方はこれから家に行くけど、それも心配しないでっ。

このお礼は絶対するからねっ!」

そう言って両拳を上げる野花うさぎ。

だがそれにはクリスタルが答えた。

「何を言ってるんですっ?!

もう野花うさぎさんには迷宮で助けられましたし、

灯さんの良心的な店にもお世話になっておきながら、この上お礼なんてっ!」

「良くできた子供達ねーー?」

「うんっ、ここからは私達だけで大丈夫!

でもこの縁は勿体無いから、これからも助け合おうねっ!」

その灯の提案に頷く四人。彼女らはそれからも、

クリスタルが実は衝撃をオフにしていた事も含め、静かに談笑。

野花うさぎ達が北へ、五星達が南へ向うのはしばらく後になった。

「でもお前さ、その衝撃をオフにしてる事、ここだけの話にしろよ?」

「何故です…?」

仲間にまで見栄を張らせようとする頭成と、やんわりと拒否するクリスタル。

その仲間同士のささやかな幸福の中にいても、一人考える五星。

その思考では寧ろこの自然体の方が怪しまれず、

着いてからも目立った事はしない方が野花うさぎ達にとっても良いというのだ。

ああ、あれは愛の木。と遠くに見つけたものにも、それを口にすればまた

野花うさぎさん達もプレイに会えると良い等という話になるので、黙って歩く彼女。

だがその顔はどこか満足そうであった。



森を南進する五星達。

また野花うさぎ達を追う者が現れないとも限らないので、

自分達なりに考えた陣形で進む。

それは三人が歩く後ろの上からの視点で見た場合、

先頭が五星でそのやや左斜め後ろに頭成。

五星の六歩ほど後ろにはクリスタルが続くというものであり、

攻守の両面を意識して基本は五星が自分と回復役のクリスタルを守りながら戦い、

盾の無い頭成が遊撃に徹するというのだろう。

つまり五星の思考では敵が前に居ると考えれば、

左手の頭成は性格を考えてなるべく自由に戦わせるのが良く、

また武器のみなのでたまに彼女の左手にある盾が必要になるかも知れず、

後ろのクリスタルを守る場合も短剣で止めを刺した方が、

素早く脅威を除けるという事だ。

今もその三人の上を青に赤い縦線の入ったトンボが飛び、

西側の奥にある木にいた出っ歯のタヌキは彼らに気付くと螺旋を描くように登り、

驚いたクリスタルはそれを頭成にも教えようと肩を叩いているが、

何とそのいつも彼以上にはしゃぐはずの相手は、人差し指を口へ。

どうしても遊びたいならまず五星の許可を取ってくれと、

考えられない真面目さを見せた。

「ほっ、本当ですって!

たぶんあれは、リスタヌキ!~いいや、タヌキリスです!!

でも一体どうしたんです?気持ち悪いですねぇーー。」

「まあついにオレも、冒険が面白くなってきたんだなっ。

それにタヌキリスっていうのは…嘘だろ?」

「何で信じないんでしょうねぇー。」

その二人には自分で頼んだ事でもあり

警戒もしなければならないはずの五星だったが、実はその頭の中といえば、

野花うさぎ達が談笑の中で教えてくれたある情報で一杯だったのだ。

そうか生得城って元々盗賊の物だったのか。

どうしてもアンに皮肉の一つも言いたくなっていた、あの灯の話。

それによると誕生から四年のこの世界には初めから生得とその城があり、

そこを占拠していたのが、大嶽丸(オオタケマル)という大盗賊だったらしい…。

迷宮が発見された幻想世界暦三年に誕生したアン軍。

当初一冒険者だった彼女は、あの城からその盗賊団に笑われもしたようだが、

迷宮深く進むにつれ仲間を増やし、彼女自身強くなり、

いつしかその勢力は数も質も大嶽丸を上回るようになり、

純粋な武力によって生得城を奪ったのは、来て一年ほど経った幻想世界暦四年。

その時は相手が盗賊だった事もあり人気も出たが、

それから約半年で100階到達を成し遂げてからは

部抜が独断で軍を率い中部のアハインという町へ侵攻。

その上たった一人の将軍に追い返されるという醜態を晒し、

それでも平和主義者の多い明空(めいくう)が属町となってからは、

ひとまずその野心も収まったとか……。

だとすれば現在は幻想世界暦五年という事になるが、

今もアハインの町を護るその豪傑は、

薄っすら銀色の肌に薄桃色の髪をなびかせたジェンダという名の女で、

部抜はその彼女が使う一騎討ちという、

応じなければ丸一日気力が0になってしまう侍(さむらい)の特技で

一対一に持ち込まれ、撤退を余儀無くされたらしい。

これは申し込み、相手が否応を選択するまでは互いに攻撃できず、

下級でも十分は一対一で戦えるという武力に自信がある者には好都合のものだが、

それでも一人に対し二十四時間に一度しか使えず、

発動中はこれもまた互いにコンセンは使えず、

体力を半分まで押し込まれてしまえば解除される技らしく、

従って五星が考えるにこの部抜の敗北は、

恐らくはまだ不安定な情勢を考えた彼が犠牲を避けた結果だったろう。

まああの武骨な雰囲気のある部抜が一騎後に撤退を決断したのだから、

一人の戦士として見た場合もそのジェンダが強過ぎるという事でもあるが…。

それには、面白ぉーと心の中で叫ぶ五星。

その彼女は実のところさっきの盗賊を倒した事で、経験値を210も取得している。

「…おお、そうだ警戒ねっ、警戒っ!」

言いながら素早く振り返る彼女。

「急にどうした?分かってるよそんな事っ。」

「何か怪しいですねっ…。」

「敵は居ないのっ、敵はっ?」

「おっ、それならオレも、頑張って探すっ!」

「それも冗談ですよねっ?」

確かに自ら敵を求めるようでは指導者として失格だが、

来るという者に応と言える豪気さもまた必要ではないか。

そう考え一人頷く頭成。

クリスタルは小走りになりその五星の顔を覗き込んだが、

冷静といえば冷静…。

だが彼としては釘を刺しておかなければならない。

「ふぅーーまったく!」

「おお良いぞっ!お前はいつも、そう言う役ねっ。」

「お断りします!

それで五星、だからという訳ではありませんが、

夜陽ちゃんの事を訊くのはもう止めませんか?」

「何で?」

ぎくりとしながらも軽い気持ちで返す五星。

「それはっ、

なぜなら夜陽ちゃんの居場所を知ってしまった場合どうしても急いで、

危険な目に遭ってしまいそうだからですっ。」

「ああ、それはオレも分かるなっ。

じっくり楽し…いいや、じっくり強くなって、

もっとこの世界の事を知ってからでも良いと思うぞっ。

本当は、中途半端は止めた方が良いとも思うけど、

家は教えてもらったし、

別に彼女が助けを求めている訳でもないしな。

普通に考えれば、夜陽ちゃんも楽しんでると思うぞっ。」

「そうかなー?

こんな煌びやかな世界にいて、

あれこれ遠慮するのはもったいない気がするけど…。」

「逆ですよっ。

夜陽ちゃんにこそ遠慮せず、じっくりと楽しみ、無理なく捜すべきですっ。」

「何だ、楽しみたいで正解だったのか…。

じゃあオレも賛成!でも決定は、五星次第だなっ。」

「分かった。考えてみれば生得へ着いた時も、

全ての人に聞き込むかっていうとそうでも無かったし…、

二人がそう言うなら、夜陽を捜す時とそうでない時を分ける事にしようっ。

でもその代わり関係ありそうな人、事件、場所を発見したら、

絶対忘れないで教えてよっ!」

「ああ、それで行こうっ。」

ほっとして頷くクリスタル。

確かに必ず会うと約束しただけで、なるべく早く会おうと誓った訳でもなく、

クリスタルにとっての夜陽は五星の友人というだけで

それ以外の何かを知っている訳ではなく、その性格や目的も不明であり、

この世界ではただ歩くだけで楽しい代わりに、何が起きてもおかしくないのだ。

それにしても…この森は一体いつまで続くのか。

クリスタルがそう思った時、彼に弓矢を渡す頭成。

その手にはさっきの槍といつの間に見つけたのか、三つの森潤茸がある…。

すると一瞬嬉しそうに笑いながらも、

眉間にしわを寄せるクリスタルと、彼の代わりに訊く五星。

「見つけてくれたのは嬉しいけど、何してんの?」

「ああ、もう持ち物が一杯だからオレは槍を、

そしてクリスタルには弓矢を持ってもらおうと思ってなっ。うん!

ついでだがオレは、予備装備を使わない武器で埋めたくない方だ。」

「そ、そう。

ああっそうすれば、二十四個以上でも持てるねっ。

八個以上のアイテムを持ってるからって、

両手に何も持てないのも変だしっ。」

「武器を構える時、置かなければならないのは面倒ですが、

とにかくそれはまず食べてみたいので、僕にも一つ下さいっ。」

「私もっ!」

「ああ良いよっ!欲しいって言うならなっ。」

「みんなの物ですよー!」

そしてそのクルミのような味に空を見て目を細める三人。

五星は味だけでなく柔らかい触感も面白いと思ったようだ。

「ああー本当だぁー!

私クルミとかナッツとか結構木の実好きなんだよなーー!!

うっまーいっ!」

「僕はお茶が欲しくなりましたっ。」

「やっぱ最高!」

結局皆でそれを味わってしまったので森潤茸は無く、

持ち物は二十二個という事になったが…、

三人はまたあれこれと話し世界の大自然を想像。

その緊張と興奮の中でそれでも楽しく歩き続け、

するとまた南からの人影を見つけた五星は短剣を外し、

代わりに入手したばかりの、上から見ると長い六角形の鍔に、

丸い柄の部分には白い布が巻かれた鉄の剣を装備。

その緊張が滲んだ顔でじっと相手を見詰める。

先頭を来るのは白いドレスを着て波がかった金髪の婦人。

だが五星が興味をもったのは寧ろその人の乗り物で、

その一見鳥へ進化する前の恐竜のような生物の手は翼になっているが、

馬のように大きな体の全身を輝く淡いピンク色の羽根で覆い、

小さく鳥のような頭にも三本、尾にも紫が混じった沢山の羽根を持ち、

二本足で歩いて来る。

そしてこれは護衛だろうが、その後ろにも全身を灰色の鉄鎧で覆い、

目が十字に開けられた兜を被る二人の戦士がいる。

「おおー!でもたぶん、グッサロって盗賊じゃないねっ…?!」

「あ、ああっ!もしもそうなら、

もっと仲間を連れていても良さそうだよなっ。

覚えやすいよな、グッサロ!」

「それよりそれ必要基本筋力、大丈夫ですか?」

「うんっ。それは1で短剣と同じだし、長くて威力もあるからねっ。

でもちょっと壊れやすいかなっ…。」

だがそれはしまいまず丁寧に謝罪する五星。

婦人は微笑を返すと下馬こそしなかったものの、

その美しさや品の良さを鼻にかける事も無くゆっくりと足を止めた。

近くで見れば大きな目の割りに、ベージュのアイシャドウと口紅がよく似合う、

頬がこけて見えるほど細身の女性である。

「こんにちはっ…。私の名はラブフリー。

それに剣の事なら気にしなくて良いのよっ。

誰でもこんな所で会えば、警戒するのは当然だわっ。」

「いいえ、失礼しましたっ。

まだ来たばかりでどうしてもっ。ハハハッ!」

「そうなのー、ふーんっ。」

すると戦士達を見ていた頭成もその友好的な態度には安心し、

彼女と話す気になったようだ。

「もしかして貴方も岩山へ行くんですか?」

「ええそうよっ。

この先にはあの岩山しかないって思ってる人もいるみたいだけど、

その周りには色々な建物やお店、それに美しい場所があるから、

たまにこうしてねっ。貴方達は生得へ行くの…?」

「はいっ。」

そう元気に答えて見上げるクリスタルと、

頭成の方は彼が照れているからとからかう振りをし、そっと耳打ち。

「…野花うさぎさん達の事分かってるよな…?」

「…当然でしょう。君じゃないんですからっ…。」

「だったら、気をつけた方が良いわねっ。

賞金首が見つかったって皆大騒ぎしているからっ。

でもね、アン様自身は、そうでもないみたいよっ。」

一瞬考えたが、それには顔をほころばせる五星。

「それはっ、アン様が賞金首を赦すかも知れないって、事ですかっ?

よ、良かった!だって平和が一番ですからねっ。」

「いいえっ。

ホホホッ!でもね、どうしても捕まえたいって訳でも無いみたいで、

ただ単に、会いたくないのかしらねっ。噂ではそうだわっ。」

「へぇー…。」

それを聞いて思い切った事を言う頭成。

「じゃあとりあえずその岩山の頂上にでも、城建てるかっ?」

「えっ、何て事言うんですー?!それとこれとは別でしょうー!」

「ホホホッ!

本当はそれも自由だけどアン軍が許さないわねっ。

まったく自分達の事を何だと思っているのかしらっ。

私も実は紫の彼に賛成だけど…、その前にそこには呪いがあるわねっ。」

「えっ呪い…ですか?」

そのぞっとする言葉に、

さっきまでは彼女の話に笑ったり驚いたりしていた五星も、

今は苦い物でも食べたような顔だ。その話によると、

そこにはまだ迷宮が発見される前ある力の強い者が住み、

同じようにそこへ住んだ者をことごとく斬り殺し、

当然最後には退治されたようだがその善意の人も何故か行方不明となり、

以来誰も住まなくなったという、恐ろしい伝説があるらしい。

だが脅えながらも不思議に思う五星。

「でもちょっと、漠然としてますよねっ?

嘘じゃないですか?!」

「私もそう思うけど…本当に誰も住まないから、

今も様子を見に行くところなの…。一緒に来る?」

顔を見合わせ…ようとしてクリスタルに無視される頭成と、

顔を見合わせるラブフリーの護衛達。

だがその顔をちらりと見た五星は迷惑だろうと思い、遠慮する事にした。

そう三人にはそこにある楽しみや恐怖伝説への興味はあっても、

じゃあ一緒に家を建てましょうという余裕は無いのだ。

「いいえ、貴重なお話ありがとうございますっ。

でもラブフリーさんの事は覚えましたから、

またどこかで見かけたら声をかけて下さいっ。

もしかして旅がご趣味ですか?」

「ええ、大体見抜かれるけどねっ…。」

「そうだ私達、まず強くなる為に、依頼斡旋所に行こうと思ってるんですっ。」

「ホホホッ。友達がいるって、本当に良いわねっ。

じゃあついでだから言うけど生得の斡旋所にだったら

たまに私も頼む事があるから、見つけたら受けてねっ。」

彼女は呪いの話を打ち払うかのように明るい話題を残し、

会釈する戦士達と共に去って行った。

そして歩き出してすぐ小さく叫び、クリスタルに訊く頭成。

「…それで、あの鳥触った?」

「ええっ勿論です!」

竜鳥(リト)

輝く深緑の羽根が生えた体と、

小さく鳥のような頭にも三本の紫混じりの白い羽根を生やした、

足の長い大きな孔雀にも見える鳥。

竜のような尾にも大きく美しい羽根があり、脚も太く大きく走るのに適し、

約半分ほどの羽根は深緑だが色や大きさも様々で捕まえ易く、

大体よく探せば大陸中に居るので、珍しくは無い生物。

特長は平均三メートル以上の高い跳躍力と強靭な足腰で、

高所から飛び下りても損害は受けず、彼らの中では美しい羽根を持つ事の他、

走るのが速いのも雌に好かれる条件。

「でも大陸中に居るんだろっ。何で見つからないんだ?」

「何故ですかねっ?

でも野生馬なら居ましたから、これもどこかに居るのでは?」

「まだまだ、世界は広いって事じゃない。

今度乗った人を見かけたら、どこで捕まえたのか訊いてみようよっ。」

「もうー呪いとか、生得の歴史とか、色々あって疲れるな?

ちょっと休もう!」

「そんなーー。

では好きな情報だけでも、頭に入れておけば良いじゃないですかっ。」

「そうそうっ。

私達にとってどうでも良い情報は、忘れちゃおうよっ。」

「あっ、じゃあ頼むなっ。」

「僕達が覚えておく、とは言ってませんよっ?!」

「気になるなら、本に書いておけば良いでしょう。」

「アン軍の奴らめーー!なあっ?」

「何でも話せば良いと思ってますよね?」

「ふざけるならどんな依頼を受けるかは、私とクリスタルで決めるからっ。」

互いに文句を言いながらも楽しそうな三人。

そしてやっと森が終わると一切我慢せず、皆で大きな声を上げた。

そのやや見下ろした先に現れたのは大いに繁栄した町。

様々な物語や人生が入り乱れる世界。

そうだが木々の間から見えた生得もやはり、自然の中にあったのだ。



全体に淡いというだけでその色や大きさも不揃いな石で造られた壁は

微かな光に照らされ、白や薄紫の小さな花達は咲き乱れ、

そこはそよ風に色を感じるほどの、とても穏やかな草原だった。

そうまるでまだ所々に町まで続く長々草を覗けば

そこから不意に小動物でも登場しそうな、詩的な風景。

よって五星達は森を出てもしばらくそこへたたずみ、

町の様子をうかがっていたのだ。

この小休止はあの時城にしかいなかったはずのアン軍の兵が

今は関を設けているかも知れないという頭成の意見にもよるが、

その様子も一切無く、外から見ても城の居館つまり全体のうわっかわは見えても、

そこからも威圧的な何かは感じられない…。気になる事といえば、

北門側にある幻想世界独自の言葉でいうところの町壁(ちょうへき)を

見上げた二人が、侵入者を捜すあるいは惨事を嘆くという様子でもなく

話し込んでいる事だが、

しばらく考えた三人はまさかいきなり賞金首と決めつけられ、

斬りつけられる事も無いだろうと、彼らと話してみる事にした。

その丸い肩当ての銀鎧に、こげ茶色のズボンと銀のブーツを履いた男達。

一人は短い赤毛で腰に剣をさげ、また一人は長い黒髪で槍を背負い、

その銀鎧を見た頭成は後ろから五星の肩をつつき、注意を促す。

「…うん、分かってるっ…!」

「…本当か?オレはたぶんアン軍だって、言いたいんだぞ…?」

「…ですがここは町の外ですよ?

武器を出しておくのも、自由では…?」

つまりクリスタルはいつでも戦えるようにしておきたいのだろうが、

敵が疑ってもいないこの状況においてその慎重さは、

五星の考えでは逆。無駄な戦いを求めてしまう行為なのだ。

だがその二人のありがたい言葉は一応覚えておく事にし、

元気に挨拶する五星。

「こんにちはっ!…大変でしたねっ?」

「ああ、こんにちはっ。」

するとまず振り返ったのは長髪の方だったが、

よく見るとその左胸には黒く指二本を並べた程の大きさに、

Annとあり、それを見て笑顔で振り返る五星。

二人の方も冒険が楽しくて仕方無いとでも言うように笑顔で返し、

赤毛の兵は彼女らを一瞬知り合いかと思ったようで、

それを判断する為しばらく経ってから応じた。

「…ああ、こんにちはっ。だが、大変なのはこれからさっ。」

「どうしたんです?まさか…まだ賞金首が居るんですか?!」

もう知っているという態度の五星。応じた二人も何の疑いも抱いていない様子だ。

「アハハッ!そうじゃないがー、実はこの町壁を変えると言うから、

その事を話していたところなんだっ。困ったもんだよ…。」

「まったくなっ。」

「えっ、そうなんですか?」

何だそんな事かと思いながらも驚いてみせる三人。

二人によるとその提案者は他でもないアン自身だという事だが、

では一体何が困るのだろう。

「ああ、町に住まないと分からないよなー。

実はこの壁を変えるには、莫大なスペスと人が要るんだ。

これは最初からこの世界にあった物で、

せっかく誰も壊さなくて無傷なのに…、

変えるとすれば扱いは個人の家や庭と一緒で、

それは今も基本は誰でも二軒までだからねっ。

高さは十メートル程だろうけど、

たぶん三百メートルにもなるこの壁を最強にするには、

少なくとも人は…三十人、そうなるとスペスも、

2000万は必要だと言われているし…。」

「え…にっ…、2000万ですかっ?!」

「ああっ。」

今度は素になって驚く三人と、苦笑いする長髪の兵。

そう彼らの話が事実なら、

三十人が平等に二十メートルの壁を建てていくと考えても、

一人で約66万スペスも払う計算になるが、

既にあきれ果てた赤毛の兵はなおも続ける。

「うん、西側も合わせて、計4000万スペスだね。

それにこの古めかしくて味のある優しい雰囲気を

好きな人もいるからねぇ…。反対はしてるんだが、

賞金首の事件があったばかりだから賛成する者もいてねぇ、本当に困ったよ…!」

「な、なるほど…。」

その家についての新情報に納得する五星。

当然町壁を変える意味は、

灯や野花うさぎ等のプレイ派や生得解放戦線に対しての警戒で、

つまり頑丈な物に変えるという事だろうが、

この家に関しての摂理は、一人でどれだけの大きな家を幾つでも建てられるなら、

スペス次第で広大な土地を持てるという事にもなり、世界観が壊れるからだろう。

設定を庭扱いにするにしてもあまりに遠いと設置できないのは当然で、

だとするなら町の外側の住人にだけその義務を負わせるのかという、

非常に切実な問題にもなってくる。

そこまで考えた五星はあまり訊いてばかりいると変に思われるので、

自分なりの意見も言う。

「…お金持ちばかりを外側に住ませるというのも、

絶対に強い反発があるでしょうからね。」

それに笑いながら頷いたのは長髪の兵。

「ハハ、そうそうっ!もう軍を出て、鮮やか岬騎兵隊にでも行くか…?」

「…な、何っ?!

これはまだ審議中で、それにあの武骨な部抜様でさえ、

住人にその義務を負わせるのは良くないと言ってるんだぞっ?!

少し気が早過ぎるんじゃないのかっ…?!」

「だが今の話では、スペスは富者達から集めるとしても、

自宅を建てる権利の一つを住人達から奪うんだぞっ?

それこそが問題!それは無理だ!たぶんなっ!

という事はだ、誰がその義務を負う?~オレ達だよっ!」

当然あり得ない話ではないと頷く赤毛の兵。

権利の一つというのは、人によっては家の近くに壁を建てるだけ…だとしても、

そこに必ず建てて置かなければならないのだから、

彼はその事を言っているのだろう。

また五星達の考えでも、元々城に住み家を建てる必要の無い

アン自身から順にその義務を負うという方法もあるが、

今迄の政治を見る限りまずそれはあり得ない。

反対するのはセイントと…今の話にも出てきた部抜だろうが、

彼の場合正義や信念ではなくアンに対する忠誠を基本としているようなので、

その彼女の決定に逆らえるはずもない。

するとそこで、聞き捨てなら無い事を口走る長髪の兵。

「…灯さんの店も潰しちゃったしさ、オレの気が早いっていうより、

お偉方こそ、ちょっとやり過ぎなんじゃないのか…?」

「うーーん!まあ今回の事で、

またプレイ派を赦せと言う人も、出てきたしなー。」

「…そこまでしますか?」

だが五星はそれを聞いても自然な反応だけを見せ、

二人にも落ち着くよう、後ろで組んだ手を伏せて合図。

アン軍の兵達にもお礼だけは言い静かにその場を離れた。

そして北門近くまで歩いたところで足を早め、素早く訊く頭成。

「~どう思う?オレはたぶんだけど、

プレイって人、何も悪くないと思うぞっ?」

「当時野花うさぎさん達の代表でもあった訳ですし…、

アン軍のやり方は横暴そのものですからね。僕もそう思いますっ。」

「それを考えるのは…もっと強く、賢くなってからで良いよっ。

余計な事をすればかえって迷惑だからねっ。

それより私達にできる事があるでしょう?」

「…ああ、店の事だなっ?

でもどうせ二人の仲間が教えるだろうし、言うのは気が重いなっ。」

「…そ、そうですね!

ではここは、五星に言ってもらいましょう!僕も嫌ですから…。」

「別に良いけどっ…。」

真顔で正面を向き、まだまだ子供だな…とつぶやく五星。

だがその足が迷宮や東側のベンチを過ぎて

広場前に並ぶ商店と東側の建物の間に差しかかり、

ずっと南側まで見渡せる場所まで来た頃にはやはり彼女も、

強い怒りを感じ、立ち止まってしまった。

その襲って来る感情と…戦う五星。

何故なら隣近所は無傷だが、

あれ程可愛らしかった灯の店も今は北側の壁の一部が残っているだけで、

他も木片や、もう何だったかも分からない程焼けただれた黒い塊で、

辺りにはそれを憐れむ者さえ無いのだ…。

「これってさクリスタル、ずっとこのままなのっ?」

すると硬い表情で一歩……退き、頭成の陰からだが、慇懃に言うクリスタル。

「いいえ…。私の記憶が正しければ、

家は跡形も無く綺麗に、最後まで壊してしまえるはずっ!

よってこれは恐らくですが…見せしめにする為かと…。」

「オレの前で言えばカッコイイのにー!」

「うんっ私も、クリスタルの言う通りだと思う!

相手が評判も良かったはずの灯さんだから、

結構小さな連中で、がっかりだけどねっ…。」

なるほどこれは示威行為でもある。

という事は、これを見て騒いだり議論したりするようなら、

それはアンにとって面白くない事なのだ。

そこで五星は、どうりで出歩く住民も少なく静かなはずだと納得。

だがそこから城を振り仰ぐ事も無くこの事実は後で本人達に知らせるとして、

予定通り依頼斡旋所を探す事にした。

それならまず知っている者を見つけなければならないが、

丁度その時彼女の目に留まったのが真っ白い家にある一つの看板で、

その鋭く尖った屋根と同じ色の赤橙(あかだいだい)地には、

白銀で依頼斡旋所とある。

「真向いなんて偶然だけど、これじゃない?!やった行こうっ!」

「…もう大丈夫だぞっ…!」

「…面目無い…。」

小声で言うと五星に続く二人。

だがその彼女の方はまたその左手にある店へ行くと

すっかり魅入ってしまったようで、

誰でもちらりと見て先を急ぐ事はあるが、足を動かす気配も無い。

それは箱型で全体に薄っすら黄色の壁に、

二階のバルコニーには色取り取りの花が飾られ、

その手すりにある三つの隙間からは金色の光が漏れるという、甘美な趣のある店。

店内には三段に分かれた紫のひな壇型の展示棚もあり、

そのずらりと並べられた品々の間から店主らしき男が出てきた。

「いらっしゃいませー。」

その声は軽やかに高く髪はブロンド。

彼は左右の白と黒が先で二つに分かれたピエロ帽子を被り、

細身の体には同じ柄のローブを着て、面長な顔にある細い眉と目は優しく、

三人の目からはとても背が高く見える。

「どうぞ、ご覧になって下さい。」

「えっ?ああ、はいっ!」

その緊張した様子の五星に微笑する店主。

彼は展示棚にあった金銀の装飾で豪華なオルゴールを斜めにし、

それに腕組みをしたまま首をひねり、また元に戻し、

やはりそれを可笑しいと感じたクリスタルは笑ってしまったが、

戦利品を思い出した頭成はまずそれらを売ってしまえるかを訊く。

「今回は自信あるぞっ!」

「高額になっても、勝手に買い物しないで下さいよっ。」

「はいはいっ、どれどれーー。」

当然気さくに応じ、

一番下の段にある丸めた絨毯や宝石等を脇へ寄せる店主と、

そこへ二人から手渡された品々をどかどかと置く頭成。

だが彼は何故かそうしておきながら五星の背中を押し、

自分ではクリスタルの隣へと戻ってしまった。

「…何故です…?」

「我らの主君は五星様っ。

という事は、一人一人が力となれるこの世界にあっては、

この方をこそ覚えてもらった方が…早いというもの!」

「ああっ…それもそうですねーー!

…ですが、急いては事を仕損じると申します!よってまずは…。」

「いいからいいからっ。ここは五星を覚えてもらおうっ!」

「自分が始めたんじゃないですかー!」

本当はいつの時代も一人一人が力になれるのだが、

戦国時代のようだと町民農民等の一般の人間には知識も教養も、

技術も無く、国盗りや築城から治山治水等の政治にいたるまで、

できる事に差があり過ぎ、頭成が言いたい違いとはそういう事だろう。

だがこれは、

質実剛健の五星の名声を高める方法として間違いでは無く、

この店主も彼女と話した今を境に、大いに好感を持つだろう。

「おおーーこれは、グッサロ盗賊団からの鎧ですねっ!」

「ええ、そうです。」

「…では大変失礼ですがー、盗んだんですか?」

「ハハハッ!そんな言い方初めて聞きましたけど、違いますっ。」

「では、元団員の方々で?」

「いいえ、倒したんですっ!」

「へぇーー!」

やはり感心する主人に胸を張る三人。

彼は自分を店名と同じだとも教え、イリトクと名乗った。

「凄いっ!生まれてまだ二日目で、グッサロ盗賊団をですかっ?!

これはこれは、可愛いらしい外見からは想像もできないお三方だっ…。」

「ああでも、私達にそんな丁寧に話すのは、止めて下さいっ。

そんな大した奴じゃありませんからっ。それで…幾らになります?」

「…そうですねーー、いいやっ、

本当なら全部で300スペスぐらいだけど、600で買おう!」

「おお、ありがとうございます!」

「いいや、気にしなくて良いよっ!なぜなら私はこの鎧一式を、

グッサロ達に一つ500で売るからねっ!」

「~えっ?!」

当然驚いた三人だが中でもまず頭成が訊く。

「それをお客さんに言うのもどうかと思いますけど、

そんな事して大丈夫なんですか?」

「うんっ。グッサロ盗賊団が住む場所は遠いから、

これはそういうのを専門にやる友達に売るだけだし、

ここには神と鮮やか岬騎兵隊がいるだけで、

彼らを守るものは無いからねっ。もしも何かされたら、

逆に退治してやろうってぐらいだよ。」

「ああー!…でも、勇気ありますねっ。」

その頭成には五星も頷いているが、

クリスタルはグッサロ盗賊団の恐怖を知っているだけに不安を感じたようだ。

「や、止めた方が良いと思いますよっ。」

「心配してくれてありがとう。でも彼女らにとっても、

二つで1000スペスはそう高くも無く、

それで倒した君らが着て歩くのを防げるし、無理な要求にもならないからねっ。

寧ろ買い取った事を、感謝されるんじゃないかなっ?」

「はぁー、そういうものですかっ。」

言って頷く五星に笑顔で応えるイリトク。

だが彼は途端に顔を引き締めると、灯の店があんな事になってと指差し、

客入りを心配していた事へも触れた。

「これじゃあ灯ちゃんも、そのお客さん達も可哀相だし、

まったくいい迷惑だよっ。来る人来る人が同じ事を言うけど、

本当にどうするつもりなんだろうねー。たくさん敵を作っちゃってさーー。」

「本当ですよねっ。ただでさえ評判が悪いのに…。」

「でも君らが来てくれて、助かったよっ。

これでまったくお客さんが来ないんじゃあ、

出て行ってやろうかと思ってたねっ。」

「まあまあ、私達はまた来ますからっ。」

そして笑いながら手を振った彼女達は、隣のドアへ。

だが何故かその場には頭成だけが残った。

「もしかして…ひとつを、1000スペスで売るつもりですか?」

「えっ?!…ああ、それでも良いなー。そうだ忘れてたっ。

薬草五つおまけねっ…!」

「頂きまーすっ!」

「もう何やってんのっ?!」

「すみませんっ!

欲張ったイリトクさんがどうかなったら、君の責任ですよ!」

という訳で戦利品を売り600スペスを獲得。

それに薬草五つを貰い今度こそ斡旋所へ入る三人。

すると中を照らすのは、黒い花が二段になった怪しいが豪華なシャンデリア。

その先の尖った花弁は刃物のように鋭く壁一杯に紫の幕が垂れ下がり、

まるで呪術師が占いでもするような雰囲気だが、

奥にある黒いカウンターの受付の右端にも

白いダックスフンドがお座りする置物があり、

それを見た五星はすぐ二人へ振り向く。

「…普通こういう雰囲気だと、猫じゃない…?」

「いいや自由!これも自由だからっ。」

「何か怖いですねーー。本当に、依頼斡旋所なんでしょうか?」

「誰か居ませんかーー?!」

その五星の声に、左手からそそくさと出て来る女。

その店主らしき人は大きな目に赤い眼鏡をかけ、鼻も口も顔さえも小さく、

色白で美しいとさえ言えるが、栗毛の髪も顎先までであり、

着ている物も、白地に細く濃い黄色のチェック柄の入った

ぞろっと長いシャツと可愛らしく、

その自分らしく飾らない外見とは反対に、彼女は丁寧にお辞儀。

早速接客する気になったようだ。

すると何故か三人を凝視する店主と、無意識に見つめ返す頭成とクリスタル。

だが五星だけは、広い袖口からもちらりとしか見えない手が気になって仕方なく、

その眼鏡の奥から覗くのは微かに笑ったような目である。

「うんはいっ!じゃあ初めましてーー。

私は当店を経営する、友美という者でーーす。」

「…初めての方?で、良いと思わない…?」

「まあまあ、自由!自由だからっ。」

「…話すのが苦手な方なのでは…?」

「それで今日は、どんな依頼をお探しでっ?」

言うと彼女は、下から大きな茶色い本を取り出し、それを開いて見せる。

「えっ、本があるんですか?!」

「ええ、ありますよっ、何故です?」

「実はレーザーという人に絵はあるけどって、言われたんですがっ。」

「ああ、あの人いかにも戦う事にしか興味が無さそうだから、

商人の特技なんて知らないんじゃない?」

やはりというか何故かというか友美も知っているレーザーだが、

その間違いは後で教えるとして、五星は特技について訊く。

「~じゃあこれ、商人の特技なんですかっ?」

「ええっ、これみたいに文章だけでも、

特技絵画で集めた絵だけでも、一緒にも、載せられますからねっ。」

「それより依頼だろ依頼っ。」

「そうですねっ。急ぐ訳ではありませんが、

じっくり考えたいので、早速見せてもらいましょう。」

そのクリスタルの言葉にゆっくりと開かれた一頁。

だが…次の頁が開かれるのを止めたのは、頭成だった。

「これ、どうする?」

「…うーん訊かなくても分かるでしょ。よく見てっ。」

「…何ですっ?ああ、なるほどぉーー。」

「もう沢山の冒険者が依頼を受けちゃったから、

残ってるのはこれぐらいかな?

もしも気に入らないなら彼らが諦めたりしたものを受けるか、

新しい依頼が来るのを待つのも、自由ですけどっ。」

その一頁目は以下のように記されてある。

商人頭・頂誉人の悪事を暴け。

難易度A、成功報酬33000スペス。

「…でどうする?」

「それ見栄?!見栄なら止めてくれるっ?!」

「じゃあ詳細!もうちょっと詳しく…。」

「いらないって!」

「…こ、これは、誰からの依頼ですか?」

「それは言えません…。」

二頁目

食べればグレープフルーツのような甘酸っぱい味がする、

集中力を上げる多月の実(たげつのみ)という果物を、五つ欲しい。

買っても野生でも可。

難易度B、成功報酬15000スペス。

詳細
偶振刃の西にある大岩辺りにもっとも自生すると聞いた、
満月のような黄色いこの実が、五つ欲しい。
買っても良いが高くつくから採ってくる事を勧めるが、
この情報もちょっと怪しい。
ごめん!でもできれば、三日以内でお願いしたい。

「どっかで聞いたような気がするけど、考え過ぎか?」

「…ああっ、町名?!

うーんでも、サハピさんが嘘を言う訳無いからー。」

「これにして、実があるかだけでなく町名も同時に確かめたいですが、

長く険しい道のりになりそうですねっ。」

「じゃあ、次お願いしますっ。」

「ええ構いませんよっ。では、はいっ!」

三頁目

彼女に気に入られる為、ピンクのリボンをつけたお邪魔半水を、

生得の広場で虐める役をやって欲しい。

難易度D、成功報酬2000スペス。

詳細
当然それを、カッコイイ俺が助ける!

「カッコ悪いなーー。誰ですこいつ?」

「これも、匿名希望です…。」

「数万の報酬でも、受けるべきじゃないねっ?」

「…広場でそんな事したら、

アン軍の弓兵に殺される危険も大きいですよ…。」

「まあ一回ぐらいは死んでも良い、悪人向けのものですかねー。」

四頁目

戦闘狂・英雄殺しの勇明理(ユミリ)討伐。

難易度S、成功報酬500000スペス。

すると興味を持ち、訊いてしまう頭成。

「ご、50万?!これって誰です?!」

「ああ、依頼者じゃなくて、

標的になってるこの人?~それなら、答えられますっ。」

「き、訊かなくても良い気がするけどなぁーー。」

「ではビシッと言いましょう!」

「この人は、今迄に三人もの英雄を討ち果した暗気使いで、

戦闘狂とはいえ…とても強い相手ですし、

それに多分今も迷宮深くで鍛えているので、この額ですかねっ。

実は衆牙(しゅうが)という暗殺集団の一人だったって、そんな噂もありますしっ。」

すると訊いてしまったものは仕方無いと諦め、自分でも質問する五星。

「じゃあその英雄というのは?」

「おおっ、よくぞ訊いてくれました!

ええーーと一人目は行方不明になった少年を助けに未開の森へと入った

勇者ジャスティスで、

二人目は100階を目差す際のアン様も彼に襲われて、

立ち塞がってこれを行かせた騎士ドゥカティ!

そして三人目は、悪党狩りをして名を馳せたPKKトールです!

まあ要するにー、

強く志の高い相手を倒す事が彼の楽しみなのでしょうねーー。」

そう楽しそうに話しながらも五星達には荷が重過ぎるだろうと、

また頁をめくる友美。

だがその手は、また別な手に止められ…その止めた手をまた弾く五星!

「~止めろっ!」

「こっち見ないで下さい!!やりませんよっ!!」

「いいや…やはり止めておこう…。」

「もう面倒臭いよぉー!一頁目と同じギャグでしょーー。」

「ですが、暗気使いとは普通、暗器では?」

「ていうか普通、アンキなんて知らんっ。何だそれ?」

「た、たぶん、隠し武器の事じゃない?」

その五星の言葉に予想するクリスタル。

「そうですね。でも幻想世界では暗気…ですから、

恐らく技なのでしょう。ねっ?」

「ええ、そうですよっ。で…やるんですか、やらないんですか?」

何故かクリスタルを見て言う友美。

「彼の冗談ですよっ!…いいやごめんなさい。

でも僕達が出来るように見えます?

そ…そうだそんな事より、コンセン屋っていくらで頼めます?」

「えっ?

ああっ何だそれなら、無料で飛んでくれる人もいますよっ。」

「えっ?」

依頼を見ている途中だが、

クリスタルはそういった事情にも詳しいだろう友美へ訊き、

だが三人はその疑問符の応酬に、固まってしまったようだ。

両手を上げる店主。

では依頼など受けずそのコンセン屋を探すのが良いか。

そう思った五星だったが、実は無料なのは少数派で、

他は大体100から1000ぐらいは取るらしい。

随分差があるな…と彼女は早速二人とも相談。だが考えてみれば、

皆楽しみで商売をしている者ばかりなのでそれは当然であり、

100スペスで飛ぶ者を見つけられれば良いが、別なコンセン屋に当たり、

その者が他を紹介してくれなかった場合、1000以上になる可能性も有り得る。

やはりもう少し稼いでおくのが良い。

結果三人はそう判断したようだ。

「ああ、でもなるべく、値切ろうなっ?」

「やっとまともな事を言いましたね…。」

「せめて、同じギャグは止めてね…。」

「しつこいなぁっ。」

五頁目

30階をうろついているケルベロスキングの討伐。

難易度B、成功報酬5000スペスと、その魔物からの戦利品。

その五星達から見て強敵の割りには、他に比べ報酬の低い依頼。

勿論詳細を見るまでも無いが、アン軍の悪評はここでも続く。

「最近ではアン様達も生得城を守るのに忙しくて、

彼女達にとっては強くもないこんな魔物さえ、倒してくれないのよねー。」

だが一つ不思議に思う五星。

「えっ、倒したから、進めたんじゃないんですか?」

「いいえっ。

面倒だから、出現してからも無視を続けたのでは?

やり過ごしてからも異次元階段は使えますからねっ。

それに階の主を倒したとしても、たぶんまた何か出たり、

別な仕掛けが作られたりすると思いますよ。噂ではそうです。」

「そういえばそうですね!じゃあこの人は、

自分より強い人に頼んで、安全に進みたいって事だっ。」

そう五星は納得したようだが、頭成は首を振る。

「でもこんな事続けてたら、強くなれないぞっ。」

「ただ、この依頼者の弁護もしますが、

苦手な相手だったらどうします?死ぬよりましでは?」

そのクリスタルに頷き、更に友美に言う五星。

「どうでも良いですけど、その魔物からの戦利品って、これはねぇー。」

「アハハッ!スペスは無いけど、早く進みたいんでしょうね。

貴方達も依頼します?」

「いいえ、まずは受ける側で!」

六頁目

中部にある町シピッドからの護衛。

難易度C、成功報酬10000スペス。

詳細
ある組織に狙われているのだが、シピッドからの護衛をお願いしたい。
別にコンセン屋でも良いが、着いてからもしばらくは頼みたいので、
強くなくては困る。当然護衛してもらう時間が長くなればその分は払うが、
最低レベル四十以上、二十程度なら、三人で頼む!

「ダメだな?」

「うんまあ…正直1万ぐらいなら、もっと簡単な依頼かと思ったね?」

「すみません。僕達生まれて、まだ二日目なんです。」

「別に良いですよーー、私も楽しいしっ。

じゃあこれならどうですっ?」

結局どれも無理そうなので、友美のすすめに従って依頼を選ぶ五星。

勿論他は難し過ぎて残ったのだが、

それは簡単過ぎて報酬も安く、誰も選ばなかったのだ。

その依頼内容とは以下である。

面倒だからという依頼人の代わりに、2階での落し物探し。

難易度E、成功報酬…1000スペス。

「ちょっと、何でここは飛ばすのっ?!止めてよ!」

「………。」

「止めろと言ってるでしょ!」

詳細
戦闘中、仲間に渡そうとして投げた、
二つの輪の間にある空間に何も無いのに一つという、
不思議な青い腕輪を探して貰いたい。あれには特殊能力もあって、
もう昨日の事だから既に拾われている可能性も、
憎たらしい魔物に宝箱へ入れられた可能性もあるが、
だからこそ真面目に探しても無かった…という方にも、
信用できる場合半分は払おう。その時の戦闘は確か、
2階に下りて五の一から七の三辺りで行われたので、
まずはそこを見てくれれば良いとは思うが、
仲間からはもう4階へ進もうと催促されているので、
できれば三日以内でお願いしたい。

見てこれに決めようかという五星。

「うーん決闘が行われたのは、

六の二から北東の方角に歩いて八の四までの九面の大部屋で、

そこに下り階段があったからね。

という事は2階だけどこの位置も、そんな遠くはないねっ。

良し!じゃあこれで良いねっ、二人共?!」

「…………。」

「僕は良いですが、頭成は我慢して下さいね?」

「じゃあ行こう!ありがとうございます!」

「またどうぞーー。」

「今は、耐え忍ぶ時ですぞっー!」

「自分に言って下さいっ。」

扉を開け駆け出して行く三人…。

まさか盗賊を倒し自信をつけた彼女らは、

スティンギングスネークに苦戦しイメージに全滅寸前だった事を、

忘れてしまったのだろうか。

だが彼女も油断していないと感じる事が、既に油断だと知っており、

自分を守る役目の二人の事もあるので、無理をしようとは考えていない。

それでも剣と盾を持っていると想像し、歩きながら動く五星。

クリスタルが突然出した杖も綺麗にかわし、

彼にはアン軍の私闘禁止があると注意もし、

それを見た野花うさぎ達の事で二人を元気づけたかった頭成も、

心から安心していたのだ。



相変わらず大分先まで見える闇の恐怖とまではいかない迷宮だったが、

階段を下りた五星達にはやや不思議な現象が起きていた。

それは迷宮に入って北への扉を開け通路を進んだ時の事。

一の五まで歩いたところで突然後ろのクリスタルが悲鳴を上げ、

訊けばさっきまでは誰もいなかったはずの場所に忽然と人が現れ、

何事も無かったように南へ歩いて行ったというのだ。

「ほ、本当ですよっ?!」

「うん、私にも小さく見えたから信じるけど…、

前はそこで眠って、今起きたってだけじゃない?

そうだ、隠し扉があるんだっ!」

「だなっ。あそこにあれば2階へ下りる階段まで一直線だし、

あって欲しい場所だ!」

三人はさっそく右手の壁へ集まり、

一の四まで戻ってからは、薄青い石壁を触りながら進んだ。

「…うんっこれ?いいや、これはただの隙間だねっ。」

「どうか分からないぞっ。

あぁー、やっぱり好機到来覚えようかなーー?!」

「それは隠し扉や、抜け道を知る事ができる特技ですよね?

ダメですって!下級から500も必要じゃないですかっ!」

「えっ君は、もうそんなにたまったの?」

「……やっぱまだ無理だった。でも、後少しだ!」

「義賊の特技なら、お願いですから開錠にして下さいねっ。」

何故それだけの特技のしかも下級に500の経験値が必要なのだろう。

その答えは簡単。

これは迷宮だけでなく、大陸中の建物に設置されている隠し扉や抜け道にも、

同じように使えるのだ。またこれも当然ではあるが、

その扉や抜け道の方にも強度や開錠難易度、価値や仕掛けの他、

見つけ難さを表す隠性(いんせい)というものまであり、

この特技を覚える程高い隠性のものを見つけ易くなる仕組みで、

互いに極まれば義賊側が勝ってしまうがそれには最上級の好機到来が必要なので、

逆に犯人の目星もつくというもの。それはともかく、

石の隙間やただの傷にも注意深く視線を向けるクリスタル。

自分が言い出した事で今は先頭でもあるので

怖い汚い…等とも言わず触れているが、その時間が二人に比べ異様に長いので、

五星らはいい加減にうんざりし、

そのまま一の三までは我慢したが、ついに彼を急かし始めた。

「もっと速くても良いんじゃなーいっ?」

「オレの肩に当たるのが、お前の進めっていう合図か?」

「うるさいですねーー。~あっ!!」

だがクリスタルがじっくりと探したのは正解だったようで、

その手には一見ただの石だというのに

触ると直径五センチ程に丸く抉られている場所を発見!

強く押すとそこは一瞬にして扉となり、

開けるといつもの鋭い音と共に先へと繋がる。

「おおっ良しっ!!さすが~、細やかなだけあるねー!」

「オレはこうなると思ってたぞっ!」

「そうですか、そうですかっ。」

笑顔で振り返るクリスタルに大はしゃぎの二人。

だがそれもそのぐらいにして、今は頭成を止める時だ。

「止まれーー!」

「だから僕が先頭を歩いたんですよっ?」

「何で?ここ真っ直ぐ行ったら、あの決闘があった大部屋で、

2階まですぐだろっ?」

「ダメダメ!私はもう少し1階を見てまわって、

できれば強くなって自分達の強さを再確認してから、

2階へ行くつもりなんだからっ。」

意外にも素直に頷く頭成。クリスタルは無言でその後ろへ回ったが、

油断させようとしている訳でもないようだ。

「良いよっ、じゃあそうしよう!オレは余裕を持って行けば、

一度ぐらい2階の魔物とも戦えるんじゃないかって、そう思ったけどなっ。」

「危険だってー!だから、まず1階探索なのっ。」

「そういう事です!」

一応その隠し扉を潜り、二の三へ行って一度閉め、

反対のそこからでも開く事を確認した五星。

慎重な彼女らはそれからももう一度、一の三へ戻って北へ。

もう少しであの手伸ばし蝙蝠に遭遇した場所という、二の十地点まで歩いた。

「ほらっ、さっきの隠し扉を出た先から、

真っ直ぐ北に歩いて来れば、ここだったろ?

野花うさぎさんに助けてもらった帰りに、この通路も通ったんだよっ。」

「うんだけどね、隠し扉のあの押す場所…、

何かあった場合アレを捜せないとなーー。」

「あっ、確かにそうですね!

焦っている間に魔物はすぐ後ろまで来ますし、頭成には騙されるところでしたっ。」

当然そんなつもりは無かったが余裕の笑みを浮かべる頭成と、

また見えてきた梁に今度は魔物が居ない事を確かめ、更に東へと進む三人。

六の十まで来たところで、今回初めての冒険者と出会った。

先頭から手を上げて来たのは、

赤い武者鎧の腰には刀を差し、髪を逆立てた鉢巻の青年。

そして他二人のパーティーは、

黄色いローブを着てそのフードで顔を隠した女僧侶と、

剃髪して茶色いローブを着た、細身ではあるが

堀の深い顔の迫力を更に際立たせるほど大柄な魔術士。

そして先頭の赤い武者鎧を着た青年は笑顔の五星に、軽く挨拶を返す。

「こんにちはーー!」

「こんにちはっ!」

だが他二人は黙って歩いたので社交的な彼女も声をかけ辛かったようだ。

「…緊張してるのか、明るいのは赤い鎧の人だけ。

それに随分、男らしい魔術士だねっ…。」

「そうか、どんな風にするのも自由だもんなっ。

きっと呪文も使うけど筋力が高くて、あの前衛の侍と一緒に戦ってるぞっ。」

「…そ、それよりあの人、まだ見てます…?」

「ハハッ、見てただけだってー!」

「じゃあ、あそこから逃げるかっ?!」

「そこまでしなくても良いですよ。」

だがクリスタルは一応彼の背中から確認。

すると一面前つまり二十メートル程先の七の十には、南へ抜ける扉があった。

「良し入ってみよう!この辺りも歩かないと、

まだ1階を半分ぐらいしか知らない事になるからっ。」

「どうでも良いけどなーー?」

「いいえっ!

埋める派や慎重派としても、ここは五星に賛成です。」

まだ開けた事の無い扉にそっと両手を当て、先に耳を澄ます三人。

力を入れない限り開かない造りなので

向こうの会話等を聞ける場合もあるだろうが、

今は左手…つまり東側から、何か地面をするような音がする。

人が傷ついたとしても体を引きずる事は無いからやはり魔物で、

その音は重く…強敵の気配。

そう考えた三人だが体勢は変えず視線だけを揃える。

「…扉から手を離すなよ、五星っ…?」

「…何で私だけに言うの…?」

「…どうせ僕は、言わなくても真っ先に扉を開けて逃げると、

そう言いたいんでしょ…?!」

すると遠く暗闇から出てきたのは、予想以上に巨大な相手。

それは青く太い蛇のような下半身に、六本もの腕がある上半身には革鎧を付け、

先が外側を向いた両角は真っ青な髪を貫き、

裂けた口からは大きな牙と長い舌が垂れ下がり、

一つ目の部分にのみ穴が開いた鉄仮面をつけた魔物。

頭成はそれを大体四メートルと見たが、

瞬間その六本腕のそれぞれに剣や槍それに弓が出されたのには、

クリスタルは固まって動けず、五星はそれに鋭く注意!

頭成にさえ逃げるよう促したが、

下に槍二本、中段には剣と盾、上には弓というその並びを見て、

流石の彼も飛び込むのは止めてしまう。

「逃げるよっ!」

「でも弓があるぞ!」

「…あ、当たった場合は薬草もエナセイもありますからっ、速く!!」

ギギッ……!

まずは…と引き絞られる弓。その鏃(やじり)は三人へ向けられ、

だがそこで魔物の後ろから声がかかった。

「止めっ!」

それに動きを止める魔物。

その背中から顔を出したのは子供のような姿の四頭身の小人。

彼は短い黄緑の髪にやや潰したような緑の丸帽子を被り、

その童顔には似つかわしくない小さな鉄鎧をつけ、

その鋭く発せられた声に武器をしまう魔物。

五星らも迷宮内とはいえそれに習ったが、相手も丁寧に謝る。

「ごめんごめんっ!

ちょっと考え事をしてたら、彼が勝手に歩いちゃって!今は何階っ?」

「~えっじゃあこの魔物、召喚獣っ?!」

「そうそう!」

「何だぁ~~!ここは1階だけど、君何階から来たの?」

それに両手の指を全て立て10階からだと教え、

危ない目に遭わせた事を申し訳無く思ったのか、照れ笑いする小人。

五星にとっては希望の盾が見られたかどうかも気にはなったが、

彼は悪人にも見えず打ち解けて話し、

肝を冷やした頭成とクリスタルは、まだ呆然としている。

「…焦った…。」

「ぜ、全滅寸前でしたねっ。」

「…生得城前の射殺とか、部抜の決闘とかは、全部他人事だもんなっ。

これからは気をつけよう!」

「盗賊の時にそう思って欲しかったのですが、

君が心を改めてくれると助かります。」

そしてやはり特に害は無さそうな相手となると、話してみる五星。

するといつも魔物を連れ歩いている彼は、

会話が続くのが意外だったからかしばらく間をおき、ライアンと名乗った。

「じゃあ君は、召喚士なんだっ。

それで彼は、何階で見つけた魔物?」

「ふふんっ彼はねー20階辺りに出る魔物で、

仮面青鬼(かめんあおおに)!名前は六戦(ろくせん)!

僕の友達っ。他に赤や黒もいるけど彼は回復もできるし、

僕はそこが気に入ったんだっ!」

「へぇー、六つの装備を同時に操るから、六戦かー。」

「うんっ、君は見たところ、あまり長い人じゃないねっ。

じゃあ教えてあげるけど、召喚士は最大で四体まで連れて歩けるし、

操作は一体までで他は任意にもできて意外と簡単だから、君も覚えてみれば?

小さな壺に入れて歩いたりカード化したりもできるし、楽しいよ~~。」

「へぇーそうなんだー。ありがとうっ。

もしかしてだけどサウスティーカップの人?」

「うんっ、実は丁度今も戦争が起きるかも知れないって物騒な噂が立ってね、

それで10階まで行って、経験値稼ぎをしてきたところなんだっ。

彼が消滅ぎりぎりまで追い込んだ魔物を…僕が倒して、

まあ、深いから消滅の危険もあるけど、かなり楽勝だったね!」

「良いなぁーー。」

そう実は名前が可愛らしいという理由で

その西部にあるサウスティーカップの町も憶えていた五星。

だが頭成は、たとえ初めて会った相手であっても冗談を忘れない。

「じゃあその魔物、貸してもらえるか?」

「…え?」

「それは無理ですよぉーー。」

その六戦と目が合い更に疑問を口にする五星。

「でも彼は、とても強い魔物なんじゃない?」

「ああ僕の場合は、

魔物と仲良くなれる汎愛(はんあい)っていう特技を中級まで上げたからねっ。

そのお陰で自分より強い魔物でも仲間にできるんだけど、

それでもちょっと戦力不足かな…。そうだっ!

君らもサウスティーカップに住まない?!歓迎するよっ。」

「…え?うんじゃあ、考えておくねっ。」

「丁重にお断りいたす。」

「考えておくって言ったでしょー?」

「…いいやあの反応は、断りたいんだ…。」

「…それはそうでしょうが…。」

そう冗談っぽく応じ、戦争になるかも知れないという噂は、

知らない振りをする五星達。恐らくそれは生得を狙う者があり、

当然戦争ともなるとそれを他の町も静観できず、

結局は大陸中を巻き込んだ戦いになる…という見方だろうが、

さりげなく頭成が訊いたところ…まったくその通りだった。

だがそれなら生得解放戦線等という輩が組織された時から、

噂になってもいいはずだが…。

「うんっ!

その噂によるとねっ、生得解放戦線だけじゃなく、

別な組織も彼らとは別に動いてるみたいで、

それがトレランスの町や偶振刃の町またこれは無いと思うけど、

海峡を挟んである明空の町かそこにある組織だったら、僕達も無視できないし、

もしそうでなくても盗賊とか魔物崇拝をすすめる怪しい村の連中とか、

その隙に町を奪いに来る奴もいるかも知れないでしょう?

だから大変なんだっ。」

頷く五星とクリスタルに、難しい顔をする頭成。

「ふーーん…。

でもオレ達、まだどの町にも家を建ててないから、

その戦争には参加しないと思うぞっ。」

「そうそう、その方が良いよ!僕だって本当は嫌なんだからっ。

前のサウスティーカップはもっと爽やかな町だったのに、

もう最近はアンを支配者にしたいってとんでもない奴らまで現れて、

それは赦せないけどねっ!」

頷き、更に話を促す五星。

「そうか君の町には良い支配者がいるんだねっ。

でも戦争の噂が立って、武力のあるアン軍が良いという人も出てきたっ。」

「そうそう、そうなんだっ!嫌だよねぇーー。

アンだって幻想世界の支配者って訳じゃなく、

ただその最古の町の支配者ってだけでさ、

サウスティーカップの平和はずっとシビル様が守ってきたのに…。」

その寂しそうな顔に同情し、支配者の事も訊く五星達。

その話によるとそれは女王シビルと二人の実力者の事で、

まあ女王は分かりやすいがその下にいる二人とは、

町の商人頭でもある名士KAENと、

迷宮が出現する前からの住人で釣狐(つぎつね)という人形士らしい。

「はぁ~召喚士だけじゃなく、人形士とかもいるんだっ。」

「うんっ、

僕らは観測者と同じでまったく戦闘向きではないけど、

慣れてくるとその特技が強力だからねっ。

釣狐様だったら一挙に三十体、

つまり最大数の人形を動かす事もできるらしいよっ。」

「へぇーじゃあ、ほとんど消滅は無しって事?」

「それはどうかな?

居場所を特定されたり、仲間に裏切られると、脆いんじゃないっ。」

だが彼は町の為にもそれは秘密だと言い残すと、

六戦の背中から笑顔で手を振り西へと消え、

それに手を振り返した五星は耳打ちし、クリスタルに訊ねる。

「…さっきの頭成の発言、意外と慎重だったね…?」

「…いいえ!気付きませんでしたかっ?!

あれは自分と同じ志の者をじっくりと選ぶ眼で、

つまり胸に大志を抱きながらも凡人のふりをし、

情勢を見極めるつもりなんですよっ…?!」

「…ハハハッ!えぇー大志ってぇーー!

……なるほど…。」

「何か言ったか?行くぞっ!」

「…その時担ぎ出されるのが、貴方ですっ…!」

「…分かってるよ…!」

「あっ、そういえばお前ら!

六戦っていうあの召喚獣、触るの忘れたんじゃないか?!」

「ハッ!!」

それには素早く反応しライアンの後を追うクリスタル。

すると彼はどうやら快く応じてくれたようで、

クリスタルは六戦の一番下の手と、がっちり握手!

またやや怪しい笑みを浮かべその詳細を持ち帰った。

仮面青鬼

青い髪の頭に二本角があり、長い舌と大きな牙のある口元は見せているが、

それ以外には一つ目の部分にのみ穴が開いた鉄仮面をつけ、

革鎧から六本もの腕を生やした下半身が蛇の魔物。

尾も入れると体長四メートルで主に20階から23階までに出現。

エナセイも使える上肉弾戦を得意とし、

武器を持って現れる場合は希だが、召喚獣にすると全ての腕に装備可能。

よって大体無理して20階へ行った者はこれに討たれるか、

脅えて逃走すると言われる。

「あの大柄な魔術士のような怖い人が近づいてきた時には、

さりげなくこれを見せ、追い払いましょう。フフフッ!」

「あの子エナセイも使えるんだー。クリスタルも召喚士になってよっ。」

「それは止めた方が良いなっ。

だってオレ、魔物と間違って攻撃しちゃうから!」

その話で盛り上がったまま先程の扉を開ける三人。

するとそこは七の九から東南へ広がる四面の部屋だったが、

五星とクリスタルの埋める派はあの赤茶色の本も片手に、

Z字を描くように綺麗に移動。

先に一つだけあった扉から南へ出るにはやはりしばらくかかった。

「ずっとこうすんの?」

「地図は今の内に完成させておかないと、後で困るって。」

その五星に頷くクリスタル。何か物は手に入らなくても、

地図だけでなく様々な情報で埋められていくページを見て、

充実した気分になれるのだろう。

そして八の七へ出て、左手と正面は壁だったので、右へ進む三人。

先の六の七から南西へはどうやら北への扉もある大部屋のようで、

北東から入って六面の隅々までを見渡す三人の視点からは、

長方形を横にしたような空間。

だがその部屋の端から左手にある六の六面の天井に見えた物は、

見覚えのある太い木だった…。

そこでまず前へ出たのは、やっと魔物退治できると向きを変えた五星。

だが何故かそれを制したのは、いつもは猪突猛進な頭成で、

その彼へ振り向くともう一度正面へ眼を凝らす彼女。

「…何、多いっ…?」

「…いいや、下だ、下っ。」

「…えっ…?!」

「…違う、お前の下じゃないっ…。」

「…僕も分かりました!あの梁の下ですねっ…!」

彼女にはクリスタルも教える。

そうそこにあったのは五つの水色のボタン。

それは梁にいた五体の手伸ばし蝙蝠が一斉に目を開けると、

また一斉に振り向き、前衛目がけ襲いかかって来たのだ!

「あれ、静かにしてたのに…。でも来るぞっ?!」

「うん分かってる!クリスタルもお願いね!」

「はいっ!」

当然素早く戦闘態勢に入る三人だが、

何と手伸ばし蝙蝠達は途中で下のお邪魔半水をつかむと

振って反動までつけ、それを次々五星達へと落とし、連携攻撃を開始!

早速盾で一体を防ぎ、もう一体も剣で払う五星。

だが下に落ちた魔物は腹部へ体当りをし、

素早く上から牽制する魔物達の線まで逃走。

その間にまた上から落ちて来るお邪魔半水達…!

ドドッ!

「こ、こんなのありっ?!~キャアッ!」

「…これは予想外だな。

あそこまで逃げられると、こっちが反撃を喰らうぞっ!」

「とにかく一旦退いて下さい!」

「お邪魔半水でも、盾で弾いただけじゃ倒せないよっ!」

「オレも今知った!

イメージの盾攻撃が強力だったのは奴が強い魔物だからで、

きっと今の装備ならまだ殴った方が、大きなダメージを与えられるぞ!!」

「まだ一体しか倒してませんよ?!」

これは呪文?

と目の前が薄っすら黄色くなってきたのに自問自答する五星。

当然初めての事に混乱しただけでそれも体力が無くなってきた証しではあったが、

いつもは鮮やかな動きを見せる頭成さえ、

落ちて来た一体を斬った隙に、別な一体が目の前に落ち、

それが腹部へ来るところを返り討ちにしようと構えていると、

その魔物は彼を凝視したまま一切動かず、

代わりに上から手伸ばし蝙蝠の攻撃が来る等と、苦戦している様子!

「てめえっ、そんなに賢い訳ねーだろっ!!」

「落ち着いて下さい!」

「君もエナセイ使って、そうだ頭成にも薬草!

こうなったら、逃げながら戦うよっ!!」

五星は短く指示を出すと背中を見せて走り出し、

だが三人は来た道へは戻らず、部屋を走り回り、

敵の足並みが乱れてきたところで反転!

近距離まで来たお邪魔半水だけを狙い、返り討ちにする事三度!

やっと手伸ばし蝙蝠のみとする事に成功し、そこで反撃にかかった!

「それぇ、皆殺しだぁー!!」

「おおっー!!」

「…危なっかしい二人だ…。」

腕にしがみつこうと飛んで来た一体へ、優しく盾を当て…、

そこで叩き斬る五星!両手の剣先を外側へ向けた頭成も、

二体の位置へ一瞬にして×印の斬撃を閃かせ、

どうやら最初は押されていたこの戦いも、彼女らの作戦勝ちのようだ。

「そっち行ったぞ!~でも傷つけるなよ!」

「うん分かってるーー!」

残った一匹をかわし蹴飛ばし、何とかクリスタルの方へやる二人。

だが彼の攻撃は破壊力がどうこうではなくまず当たらないので、

結局頭成がつかみ、そこへ連打する事に。

バンバン バンバンッ!

「た、倒しましたっ!」

「良いぞっ!じゃあ…エナセイも頼む!」

「私もお願い!…ヘヘッ!」

「…うんっ?」

その言い方に不自然さを感じるクリスタルと、

実は薬草を一つしか残していない二人。

「無駄遣いし過ぎでしょー?!」

「仕方無いだろこれはー!」

「ねぇー、だって凄い攻撃してきたからーー。」

「あ…でも良いです!宝箱出ましたからっ。」

その声に素早く振り返った五星と頭成の視界中央には、

生涯でまだ二個目の宝箱が…。

あまり細かい事を考えてしまう彼女らをなだめるよう、堂々とある。

それに一瞬目を輝かせ、だが顔を見合わせる三人。

「だよね…。どっかに黄園さんいない?」

「ハハハッオレも忘れてたっ。~でも~!」

「覚えるんですよねー?」

そこで本を出し、一応その開錠の必要経験値を60と確認する頭成。

「ちょっと待って!

仲間としては嬉しいけど、本当にそれで良いの?

だって迷宮から出て、誰かに開けてもらう手もあるよっ。」

「ですねっ。それは頭成の自由ですよ?」

「ああ、オレは大丈夫だっ。

これがたった60で覚えられると分かった時から、決めてたからっ。」

「じゃあ、お願いしますっ。」

その五星に頷くクリスタル。頭成としても、

下級とはいえこれが好機到来同様大陸中で使える特技と知り、

よく考えて選んだものだ。

すると淡く白い光がその体を覆い、黙って天井を見上げ、頷く彼。

「あ、説明を読んでるんだっ。」

「楽しみですねーー。」

「…本当、こういう時だけは無口だね…。」

「ええ、まるで幼子のようです。」

「うるさいなーもう!」

言いながらも早速宝箱の前で片膝を突き、光る針を出す頭成。

まずそれを蓋と箱の隙間に入れ、罠の解除を始めたようだ。

「んっ?!いいや良し!~罠は石つぶてだっ。」

「だったら…大丈夫じゃない?!」

「分からんっ。」

「アハハッ僕じゃあるまいし、そんなー。

君はいかにも得意そうじゃないですかー。」

その皮肉は無視し、五星にも説明しながら開錠に励む彼。

それによると罠は、様々な形で現れるボタン列の中から、

まったく押せないものや、ゆる過ぎるものを選ばず、

適度な抵抗があるものを押す事で、解除できるらしいが…。

やはりだがどんな時も愛嬌を忘れない彼は、

まだ解除されていない宝箱へクリスタルを呼ぶ等し、一生懸命針を回す。

「…おっ!!」

しばらくして声を上げちらりと五星を見る頭成。

「~もう、どっちなの?!解除できたの、できなかったの?」

「~大丈夫だってこれは、何度も挑戦できるからっ!

でもあんまり失敗し続けると、作動したり、

解除できなくなるらしいなっ。」

「そ、そうなると、どうなるんです?」

「またそれより上の、開錠特技が必要になるらしい…。」

「ふーん、それで失敗したって、どうやって分かるの?」

「ああ、成功したと思って…開けてしまうかもって事か。

それは勘次第だなっ!とにかくオレを信じろっ。」

「えーー?!」

手持ち無沙汰でもある二人は不満の声を上げたが、

今度は強く頷く頭成。

まあ石つぶてだからな…と余裕の台詞を口に、

首まで鳴らしたかと思えばすぐに解錠作業へと移り、

今度は鍵穴へと針を入れ、

そのまるで何かの職人のような語り口調の彼が言うには、

鍵は大きさもまちまちの円に沿うように回し、抵抗がある部分を見つけ、

そこを擦り続けるとまた更に抵抗がある一点が現れるので、

そこから一気に外側へ引く事で解錠できるらしい。

その説明通り針の頭を摘んでゆっくりと回し、

たまに素早く回し、抵抗を探る彼……。

「楽しそうですねぇー。僕も覚えて良いですか?」

「…え、良いけど、盗賊団にはならないよっ?」

「開いたっ!」

そう思った頭成は蓋を持ち上げようとしたが、

びくともしないという事を確かめ、もう一度挑戦。

だがしばらくすると今度こそカチンッという音が響き、

中からは赤い布の上に沢山のスペスと、革の脛当てが出てきた。

「…また、革の脛当て?」

「そ、それはそうでしょ。そんな良い物ばかりは出ないよっ!

気にしない気にしないっ。」

「次に期待です!どうしても欲しい物があったら、

戦利品を売って、コンセン屋さんに頼んだお金が余れば、

それで買えば良いですし。」

悔しい頭成は思い出したように魔物達を漁り、

それでも全部で25スペスも得たと知った時にはまた笑顔になった。

だが気になった五星がよく底を覗けばそこには一枚の札があり、

その光る白枠に囲まれた紫の面に

また白でそれぞれの先が鋭い十字の印が描かれているのを見つける彼女。

「き、綺麗っていうか、そうだ煌びやかだっ!」

「~言いたいだけだろっ。

どちらかといえばエレガントだなっ。でもそれも入ってたかっ?」

「おお、これは帰省の札ですねっ?!」

「何それ?」

そうただ単に煌びやかというだけで喜んでいた五星。

だがクリスタルの説明によるとそれは、

迷宮で消滅した者の望郷の念が札になった物で、

三日間放置されたその後に残され、使えば淡い光が発生。

一度に六人までもが一瞬にして生得まで帰れるという、少々高価な品物らしい。

するとそれに頭成は満足顔で頷いているが、

その思考では恐らく3階かそれより深くへ進み、強敵と戦い多量の経験値を獲得。

そして一気に帰り、その豪華な戦利品を売るつもりに違いない。

だが当然それは許さず、自分で持つ事にした五星。

確かに一攫千金を目指すのが賢い場合もあるが、

今は本当に血の通った仲間つまり命や魂のある友人達といるのだ。

「うーん、それはそうだなっ。

作った仲間のキャラじゃなく、今は五星やクリスタルと居る訳だし、

いざという時の為にとっておいて、守りを優先すべきだっ。」

「そうそうっ!

そうするとね、粘り強く生き残れるから、

いつの間にか強くなってるって訳!でも使う時には惜しまないから、

集まれー!て言ったら、すぐ来てよねっ?」

「分かりましたっ!」

まだ生まれたての三人には緊急事態専用なので、

今からしっかりと相談しておく五星!

だがもうそのつもりだった良い子のクリスタルは彼女の話より、

一体のお邪魔半水が点滅しているのを見つけそこへ走り、

しゃがんで漁ると同時に何故か動きを止め、そこから二人の顔を凝視…。

一切動かなくなってしまった。当然気になり理由を訊く二人。

「どうしたの?

…だってそれはどう見ても…ただのお邪魔半水だよねぇ。」

「いいや、魔物は触れなくても良い代わりに、倒せば本に載るし、

点滅してるから驚いたんじゃないのか?」

「…何ですかねこれ、えっ…魂?」

眉間にしわを寄せる五星。

「…た、魂?さっき頭成が見た時には、無かったのにねぇ。」

「ああ、無視した。どうせ合成アイテムだろうと思ってなっ。」

「もう勝手に…!あっ、でもそういえば私も、

他世界で見つけた時には合成とか面倒だから、捨ててるわっ。アハハッ!」

「もしかしてその詳細を見てるのか?」

「ええっですが、それにもお邪魔半水の魂とだけあって、

他には…鍛冶屋に持っていけば良いという事だけで…。」

「良いからまず、その無表情止めてくれる?怖いからっ。」

「だから合成アイテムだって。とにかくまずはその物を見せてくれよっ。」

「それもそうですねっ。」

照れ笑いしながらも、その青白い輝きを取り出すクリスタル。

それは彼の手で微かにだが浮き沈みを繰り返し、

それに素早く顔を近づけ見詰める二人。

「へぇー、綺麗だねーー?!」

「ああ…、だが魂を手にした者の反応としては、実に残酷だなっ。」

だがそれにも笑顔で首を振るクリスタル。

「それもそうですが、僕としては何々の爪…とか、

何々の…髪とかの方が、嫌ですねっ。リアリティーも必要ですが…。

それにこの綺麗な光、いかにも改心した魂という感じではっ?!」

「君上品だもんねー。私は変わった物の方が嬉しいけどっ。

でもこれは…売っちゃおうか?」

「何でっ?魂狩りでもすれば…。」

「すれば何ですー?そんな残酷な活動はしません!」

後で鍛冶屋を見つければ教えてもらえるだろうが、

自分でも手にした五星の判断でとりあえずそれはとって置く事にし、

つまりはもっと強い魔物の魂を入手するまでの参考にという事だろうが、

三人はその話をしながらもさっきはZ字に歩いた部屋の西隣にある部屋へ。

つまり今は北にある扉もそっと開け、

するとそこもまた同様に四面の部屋だったが、

その北東の天井にも梁を見つけ一瞬あたふたとし、だが何もおらず…ほっと一息。

また更に西隣にももう一つ同じ大きさの部屋はあったが、また何事も無く、

だがそれに何となく気の緩みを感じた五星は寧ろこれを良い機会と考え、

連携攻撃にすっかり弱気になってしまった自分達を、もう一度鼓舞。

拳をつくって声を上げる。

「連携にだって勝ったんだっ!恐れずに戦おうっー!」

「おーし!じゃあ次のも、全滅させてやろうー!」

「じゃあ僕は~、一人も死なせませんよーー!!」

…キャ~~~…!

だがそこに聞えたのは外からの悲鳴…。

「ほら来た!」

そう小さく叫ぶと耳を澄ます五星。

頭成とクリスタルはあまり超常的な力を信じない方なので、

嵐の前の静けさを感じていた彼女のようにはいかないが、

その冷静な態度を見たからか、先へ後へと取り乱す様子も無い。

「でもこういうの、初めてだねっ?!」

「当然だが、今は助けられる側だもんなっ。」

「それよりも相手が何人なのか、

また悲鳴を上げているのが善人なのか悪人なのか、

まったく状況がつかめませんけどっ?」

「うんでも走って!」

「行くぞっ!!」

「待って下さいよ!」

引きずられるように部屋を出るクリスタル。

するとどうやらその悲鳴は目の前にある壁向こうからで、

素早く右へ走った五星達は二の七まで。

そこから南を見ると左手の先には扉の無い部屋があるようで、

その入口では何かが飛び跳ね、中に居る相手を威嚇している様子。

「…行くかっ…?!」

「…うん、でもゆっくりね!

また頭成は左斜め後ろ、クリスタルは後ろから来てっ…!」

「…わ、分かりましたっ…!」

彼女らが中腰のまま近づいて見るとそれは一見顔は子狐のようだが、

体にはモモンガを思わせる飛膜(ひまく)があり、

その上に小さな爪を生やした…三体の魔物。

当然三人はその小動物のような敵に一瞬

とてつもなく弱い人が悲鳴を上げている…とも思ったが、

見かけだけでそれが判るはずもなくまたゆっくりと近づき、後ろからそれを急襲!

叫んだ五星は、もしもそれが強敵だったとしても

さっきのように逃げ回りおとりになる事もできると、

自分でも剣を振って後を追う。

キィー キィーー!

「これ猿かぁ?!」

「それはどうでも良いから、集中!」

「可愛らしいからと、騙されないで下さいよ!」

一撃また一撃と次々決まる前衛の攻撃!

それに一体が倒れると、五星の予測では南へ逃げるかと思われた魔物達だが、

それは部屋へ入り、向こうの東側にある扉との間で頭をかばう女戦士へも行かず、

北側の壁へ。

彼女らがそういえば何故か飛ばないなと思っているとそれは壁へとよじ登り、

梁から滑空して来たではないか。

その小さな両爪の間にある顔へ一閃し、振り向く頭成!

「こういうの多いな?」

「うーんと、もう君強いから良いやっ!自由に戦って!」

「でも油断しないで下さい!あっちにもいますっ!」

その言葉に視線を走らす五星…。

よく見ると女戦士の向こうにある扉前にも三体。

だがその魔物達は彼女の視線に気づくと前の群同様北の壁を目指し、

それに素早く並走する二人!

「行かせるかぁーー!」

「行かせても、勝てそうな気がするけどなっ。」

「だから、油断しないで下さいって!」

だがそれらは本気を出すと意外と素早く、合計四体の滑空攻撃を前にする二人!

「まずは、よける事に集中して!!」

「~分かった!」

すると今度は五星の予測通り、

爪で頭成の肩を掠めた一体はその後ろの地面に落ち…、

彼女の盾を滑るようにあしらわれた一体も、

その剣へ吸い込まれるように飛んで来た一体も、

また同じように二人の後ろへ。

一瞬焦ったクリスタルには目もくれず、また壁へと走る…。

「今だぁーー!!」

「追撃だなっ、追撃!」

すると頭成はそれを壁へ蹴飛ばし、動きを止めたところを刺し、

もう一体はよじ登るところをつかんで串刺しにし、

五星はその背中へ低く接近!一気に二体を切り払い、

回復役のクリスタルはただ感心するしかなかったが、

どうやら思いがけない戦闘もここまでのようだ。

早速悲鳴を上げていた女へと走り、そこで一休みの三人。

「ふぅーー!じゃあ、回復お願いっ!」

「やっぱり、危なかったんですか?!」

「いいや、多分かすり傷だっ。」

「でも、気にしなくて良いよ。回復を頼んだ訳じゃないし、

かすったとかそんなの、判る訳ないもんねっ。」

クリスタルはその五星にエナセイを使い、

そう強い魔物ではなかったとはいえここに新手が来ると危ないので、

辺りを警戒する頭成。

そうなると当然女に声をかけたのは余裕のある五星だった。

その差し伸べられた手に顔を上げ、辺りを見回す女。

その人は、長く生き生きとした赤い髪の上に銀の王冠を戴き、

紺色の肩当てと小手に、胸当ての下には白いスカートとまた

紺のブーツを履くというどこかの王女のような格好で、

その小さな口からまた小さく…フォンミアと名乗った。

「ではフォンミアさんですか?」

「え、ええっ!とにかく、ありがとうございますっ。」

お礼を言い短い眉を上げるフォンミア。

だがその小作りな鼻や丸い顔にあるのは大きくつぶらな瞳で、

全体の印象としては極めて愛らしく、体は細くとも大人だがまるで人形のようだ。

「い、いいえこちらこそお助けできて、光栄ですっ!」

「アハハッ五星ー、まだ彼女、どこかのお姫様だとは言ってないぞー?」

「そうですよ。でも、そうなんですか?」

「いいえっ?」

それはよく誤解されると前置きした上で、

今はやはり両方の入口を塞がれ挟み撃ちにあい、混乱していたという彼女。

「やはりそうでしたかっ。」

「ええですが、本当に助かりましたっ。

実は私皆様よりも強かったのですが、一度消滅し、

装備だけはこの通り立派なもので、ここへ来るまで誰も止めてくれなくって…。」

それを聞いても顔には出さず、

吹き出しそうな頭成へも振り向き、その脛を蹴る五星。

彼女の考えでも人には長短があるのだ。

「…という事は、誰かとはぐれた訳ではなく、

生まれたてのまま一人で来て、こうなったんですか?」

装備が強いなら勝てた魔物だったようにも思えるが、

よく考えてみると、ボーナス値をどう振り分けたかは分からないとしても、

まだ体力も低いはずで、死んでしまう危険もあり、

もしもそうなっていたら今度こそ自宅から持って来ただろう装備も

消えて無くなり、再起もより困難になっていただろう。

「…ええ、私って本当にダメですね!ですが皆様が一生懸命戦う姿を見て、

これからはもっと注意しようと思いました!」

そう言ってフォンミアは頷いているが、どうしても疑問に思う頭成。

「じゃあ、仲間と来れば良かったんじゃないですか?」

「ええ、それも考えましたが…、

私だけの為にそこまでしてもらうのも、気が重くって、

どうせ一からならまた消滅しても同じ。だから一人で沢山の経験値をもらって、

後で彼らを驚かせようと、思いましてねっ!」

「もう思わないで下さいねっ。」

そのクリスタルの言葉に笑い出す四人。

彼女の考えにも一理はあるが、

本当に見かけ通りフォンミアはまるでお姫様かお嬢様のようで、

だがその危なっかしいが憎めない彼女は気前も良く、五星へお礼の品をくれた。

それはフレイムの実という、直径三センチ程の赤く綺麗な玉のような実。

また彼女いわくそれは薄桃色をした棒状の茎に、

炎の精が飛び跳ねて踊っているような形の愛らしい葉までつける、

高さ五十センチ程の植物フレイムに生るという、とても高価な品。

だが当然五星としてはまず未知の物を貰った事が嬉しく、

むしろその驚きに対して礼を言う。

「ありがとうございます!~何だろうでも、美味しそうっ。」

それを覗き込む頭成。

「もしかしてフレイムだから、強化される属性は炎ですか?」

「ええそうですよっ。

美味しい物ですが、私の強さには無関係ですし、

食べると……ああ、これは言わない方が良いですねっ?」

「ですが五星は、君主になりたいんですよね?

ではー炎の属性を強化しても、あまり意味がないので…。」

パク!

「マンゴーだ!」

パク!

素早く言い二口で食べ切る五星。頭成とクリスタルも予想はしていたが、

まさか彼女がここまで意地になって食べるとは…。

唇をなめ、頭成を見る五星。

「マンゴーー!」

「あーじゃあオレも食べたかったなぁーー。何度も言うなよぉー!」

「…後で採りに行く事にしましょう。」

「嘘っ…?!炎属性が、2も上がってる!」

その言葉に驚くクリスタル。

彼が光属性を上げる愛の実を食べた時に上がったのは1のみなのだ。

「…な、何かの間違いでは?」

「実は一緒に迷宮探索をしていた友達が農民に転職しちゃいまして、

その時はちょっと困ったのですが、彼女が作った物です!

だから良いのに当たったんですね!」

「こんな事もあるんですねっ。へぇー!」

「愛情が育んだ実だったって事か。」

「野生のでも、加算される数値が違ってくるんですか?」

「うーーんまあ、そういう場合もあるでしょう!」

そうあいまいに答えるフォンミア。

だがまたこれもよく考えてみれば、

野生の物だけ全て効果が同じというのも、変な話ではないか。

そう結論づけた五星は特に急ぐ訳ではなかったが、

早く行って見つけなければ、あの依頼の品が

誰かに拾われてしまう可能性もあり、話を進める。

「では、入口までは一緒に行きますので、どうぞっ。」

「本当ですかっ?何か別なご用事があったのでは?」

聞いて代わりに説明する頭成。

「ああっ良いですよ。また貴方が魔物に遭遇したら、

引き返さなきゃ、いけないんですからっ。」

「こらっ!まったく失礼ですみません!悪気は無いんですよっ?」

「本当にもうーー!」

また笑いながらも部屋を出て、まず北へ歩き出す四人。

その頭成の冗談に気付かなかったフォンミアだが、

五星の盾が希少な物である事には気付き、視線を落としながら言う。

「凄ーいっ。これどうやって入手したんです?」

「そ、それより貴方が住む町の事でも、教えて下さいっ。」

「えっ?~ええ、良いですよっ。

サウスティーカップという、とても素敵な町ですけど…。」

「あっ、じゃあライアンさんと同じですね?」

「ラ、ライアン…さん?」

「知らないって事は、結構大きな町だな?」

「ええ、実はどの町も規模では生得に負けませんし、

私の住むサウスティーカップも、自慢の町ですよっ。」

微笑さえ隠せないフォンミアに、まだ見ぬ町を想像する五星と頭成。

その隙にクリスタルはさっきの魔物の詳細を見た。

キツネモモンガ

主に1階から2階へ出現。

顔は子狐のようだがモモンガのような体を持ち、

人を見ればその飛膜で滑空し、三ミリの爪で襲い掛かって来る魔物。

だが敵わないと感じ逃げる場合走らなければならず、

奴らなんてただの小動物だ…という意見もある。

「じゃあ僕も戦えば良かった…。」

そのクリスタルの失望はともかく、会話を続ける五星。

「じゃあフォンミアさんも何かあった場合は、戦いに加わるんですか?」

「ええそうですねっ!

慈しみ深いシビア様の、しかもあんな美しい場所を誰かに渡すものですかっ。

当然戦いますよっ!」

「やっぱ愛されてるんだなー女王は。アンとは違いますねっ。」

頭成はそう言ったが、ライアンの言葉を思い出すクリスタル。

「ですが、アン様をサウスティーカップの支配者にって、

そんな声もあるんですよね?」

その質問に彼女の顔色をうかがう五星。

「…きっと、一部ですよね?」

「…というと、ああ~~!

詳しくは知りませんが、力だけを信じる怪しい組織の事ですねっ。

そういう人達も少しはいるんですっ。

確かに、悪法もまた法なりですから…、

強く美しいアン様を慕う気持ちも分かりますが、

私はあえて自分達の町を差し出す気持ちには、なれませんねっ。

だってそうして何の意味があります?何の得もありませんからねっ。」

「ハハッ、そうですよねっ。」

あえて波風を立てるのも馬鹿馬鹿しいので、笑って誤魔化す五星。

単に言葉遣い一つで決め付けるのは良くないが、

フォンミアの言い方では、何かの必要に応じてなら、

慈悲深いと噂のシビアさえ差し出してしまいかねない。

そう考えた彼女はどちらかといえば私はライアン派だな…と、

彼女の人物を微調整していた。

そして入口へ消えるフォンミアへ手を振るクリスタル。

「では気をつけてー!」

「本当にありがとうございます!またどこかで会った時には

素敵なお店で、ゆっくりとお話しましょうねー?!」

「ええ、楽しみにしていますっ。」

「良しじゃあ一の三から、真っ直ぐ2階に行こうなっ!」

言って早歩きになる頭成と、直ぐ後ろからついて行く二人。

「それで五星…相談なのですが、彼女を四人目にしてはどうでしょう?」

「うーーん、ダメかなーー。」

その言葉を聞きやっぱりダメか…とやや残念そうなクリスタルと、

素早く振り向いた頭成は、何故か嬉しそうに声を上げる。

「だろうなっ。オレも彼女は優し過ぎると思ってたんだよっ。

何か意地が無いって言うか、クリスタルには悪いけどさ、

何かあって不仲になるよりは、友達として仲良くしておいた方が、絶対良いぞ。

だったらオレはさ、骨のあるサンドイッチを推すよ!」

「…ですかねーー。

私としては、彼女も五星の魅力さえ知ってくれれば、

ついて来てくれると思うのですがーー。」

「大丈夫だって!

別に意地悪じゃないから、私達が強くなって町をつくった時には、

そこへ住んでもらうし、仲間にするなら、

まあ頭成の意見を聞いても、別な隊に入ってもらう手もあるからねっ。

でもここに入れるのは反対…!」

ここだけの話とはいえはっきりとものを言う、

まだまだ戦い続けるしかない力無き君主五星…。

かみくだいて言えば、当然彼女もフォンミアのような

素直で憎めない人物も嫌いではないが、

厳しい世界全般によく言うようについては来れないという事だろう。

そう人だろうと思想だろうとまた法だろうと、

どれほど邪なものさえ憎まず、どれほど優れたものの為にも戦わないなら、

一民として生きれば良いだけの事で、

続けて五星が言うにはたぶん世俗的な彼女には、

自分達の大切なものの為に、命も、恋人も、

生活も、姿形さえも顧みず、どんな誤魔化しも無視して突き進む

という強い信念や志が、理解できないのではないかというのだ。

これは確かに彼女の勝手な想像だが…また一つの考えとして、

特に必要だと思う程の人材では無い相手の

その主義や価値観を捻じ曲げてまで戦いへ引き込む事こそ邪道で、

つまり彼女が求めているのは友ではなく仲間であり、

だとすれば誰もが不死身ではないのだから、常に真心から勇気を示し、

死をも覚悟であらゆる困難と戦う方がいっそ清々しく、

それは大きな力をもたらす事はあっても、後悔は生まないというのだろう。

しかしだからこそ、

フォンミアのような人々からの支持や理解を得る事や、

また自己同様に高い志を持つ者へ敬意を払う事は士の理想として相応しく、

五星にあってはその辺りも心得ているようだ。

そうこれを危ういと言うのなら、

夢や志にかける情熱というものはある程度にしなければならない事となり、

それは一方で愛や純粋な願いでもあるが、

また一方で行き過ぎた時には…その者達の情熱が強いほど、

侮辱や邪魔あるいは多くのにせものを生む悪習となってしまうのである。

「もしも彼女が、実は高い理想をもって、

そうでなくても人や国の為に戦ってきたなら…むしろ私が侮ったわけだから、

その時はこちらこそ謝らなければならないけど…どうだろうな?」

「さすがは五星様、ご賢明です!

…ですがまあ彼女だけにそう、厳しい目を向けられますなっ…。」

「またいつの間にか、

譜代の家柄(ふだいのいえがら)になっちゃいましたねっ。」

「大体民というものは皆、貴方様のご恩徳にすがり…って何だそれ?」

「アハハッ!それは知らないんだー。」

「代々同じ主家に仕え、まあ…忠節を尽くしている家柄という意味ですね。」

「さもあらんっ。」

「知らなかったでしょ!」

「その意味は知ってます?

一応言っておきますが、そうだろうなーーという意味です。」

「さもあらんっ。」

大志を持った者は数多あるがその目標や夢あるいは志というものの違い、

またレーザーやセイントのように力量に差があり過ぎたり、

勢力が異なる場合など、まだまだ士を求める武将頭成の悩みは尽きないようだが、

三人は冗談交じりにだが半分は真剣に語り合い、奥へと進んだ。

そしてあの九面の大部屋へ着き、

地図を見ながら隅々まで歩く二人と一人立ち止る頭成。

あの時は観衆のせいで気にならなかったようだが、

よく見ると八の三から北へ向って下りる形の階段には、

下り口に近い奥の床に大きく欠けた部分があり、

それを見た彼はこういう事もあるのかと驚いている。

そうこの世界では物を動かせるのだから、壁や木等も含め物を壊す事もでき、

そしてそれはそのままかといえば、

例えばこの迷宮なら破壊されて迷惑するのは魔物側なので、

それを修理する魔物もいるらしいのだ。

「凄いなぁーー。」

本を閉じ頷く頭成。

「こら、君もちゃんと歩くのっ。そっちしか歩いてない事になるでしょう。」

「そうですよっ。これを習慣にして、

ゆくゆくは君の記憶でも異次元階段を使い、隊を率いてもらうんですからっ。」

「それを先に言えよ~~。それよりあれっ!前は無かったよな?!」

「えっ、あったよっ。」

「嘘っ?!」

「君はあの決闘を見て、眼が行かなかっただけでしょう。」

「ああ、そうかっ!」

確認すると他二人は修理する魔物の事も知っていたらしいが、

悲しいサンドイッチの抜け殻さえ見ず、また話しながら下りる三人。

するとそこはまだ2階なので壁や扉の造りは同じだったが、

迷宮入口と違い手摺さえ無いその階段がある一面つまり一部屋は、

代わりにぐるりと壁で囲まれ、

北側へのみ六面の長方形を横にしたような大部屋があり、

彼女らはまたゆっくりと左右を確認しながらその中央へ立った。

見れば右の東側にも、左の西側にも扉がある。

「どっち行く?」

一応初めての階なので声を潜めて訊く頭成。

「うーーん、落し物があるのは

五の一から北東の方角に歩いて七の三までの範囲でしょう?

でも迷宮だからどちらを選んでもその順路次第だと思うけど…、

普通に考えれば、こっち側だねっ。」

それは行き止まりもあるだろうが言うと左を向く五星。

アアァ~~~……!

だがそこへ聞こえたのは、二度目の悲鳴。

聞いた彼女は素早く振り返ったが、

頭成とクリスタルは黙って歩き、二人には何も聞えていないようだ…。

それでもしばらく耳を澄ます五星。

思い出してみればそれは恐らく西北からの悲痛な印象を受ける男性の声。

「確かに聞えたんだけどなーー。」

「で、では危険の少ない方にしましょう。」

「その反応……本当は聞えたんじゃないか?」

「え、そうなの?」

「いずれにしても、その方を助けには行けませんよっ。

大体迷宮というものは一階下りればそこは、

別世界と思って良い程の違いがあるんですからっ。」

「またこのゲーマー様に向って失礼な事言うなぁー!」

「そうだよねぇー。

しばらくはずっと弱い敵ばかり出る迷宮もあるけど、それも常識だよー!」

だがこれは、たまに叫び声が聞える仕掛けがあるというだけかも知れず、

一旦忘れ、七の五から六の五への左の扉を選び、西へ出る三人。

その右手には北への扉もあったが通路は左手南側へのみ続いているので、

その直前に壁等がない限り、目的地はもうすぐという事になる。

だがその時ミシリ…と不気味な音を立て、閉まる扉。

「…この先って、事だね?」

「…今迄こんな音しました?!

それにどんな魔物が出るのかだけでも、訊いておくべきでしたっ。」

「面白く無いだろそんなのっ。」

話しながらも行くと先には、北からの入口に扉の無い四面の部屋があり、

その入口となっている六の三から直ぐ右手には西への扉もあったが、

この部屋全体が依頼にあった範囲に含まれているので、

三人はまずそこから捜す事にした。

薄っすらとしか見えずやや遠く感じるが、東南の方角にも出入口があるようだ。

「じゃあ、隅々までね!

壁の向こうへ行ってからやっぱりこっちだってなると、

その間に強い魔物が現れるかも知れないしっ。」

「2階なんてー、たった一階の違いだろー?」

「でもその割には警戒してますね。その調子でお願いしますっ。」

「あ、あれはっ?」

「うーんと、ただの……何だあれっ、傷跡?

でも依頼人もさ、壁のこっち側か向こう側かぐらい、

覚えておけよなっ?!」

「ええ…。

ですがもしかすれば、位置を変えながら戦ったのでは?」

「そろそろ4階にって書いてあったのに、ここで苦戦したんだ。」

「見栄じゃないか?」

「ハハハッ、悪い方にばかり捉えますねーー。

他の冒険者も敵になりえますし、私達だって強敵に遭いましたよっ。」

それはそうだが…と文句は言っても、彼方此方へ視線を投げる頭成。

勿論仲間の人数や職業の組合せまたそれが誰なのか

あるいは魔物に奇襲された場合や準備が十分でない場合等と状況によっても

戦闘の厳しさはまったく変わってしまうので

実は四階まで行く実力のあるパーティーなのかも知れないが、

しばらくして五星が階段側の壁角で動きを止め、二人もそこへ走った。

一応だが位置は七の三。

その足元で青く柔らかい光を発するのは丸みを帯びた二本の輪。

ちらりとだけ二人を見た彼女が拾い上げてみると、

それは臣愛の腕輪(しんあいのうでわ)という物で、

そのどう見ても依頼の品を発見した三人は、早速喜びの声を上げる。

「良しっ、結構楽に見つけたねっ!」

「うんうんっ、これが人の物でなければなぁーー。」

「そうして自分の物にしてしまう悪人も、いるんでしょうねぇ。」

臣愛の腕輪

性能…耐久力に2加算、必要基本筋力値…1、壊れやすさ…5%、

特殊能力…装備者のみ250回復、希少価値…C。

説明…

主に忠誠を尽くした者へのみ与えられる瑠璃色の宝石・臣愛と、

鉄の腕輪二つで作られた、装備して使った者の体力だけを

250も回復してくれる腕輪。

「良し戻ろう!

きっとこれだけ良い物だと、冷静な振りはしていても、心配してるだろうしっ!」

「ええーー?!せっかく2階まで来たのにこれ拾っただけで、

まだ何にもして無いぞっ?!」

「もうー私達にとっては、まだ危ないんですってーー。」

また母親役のようなクリスタル。

無事目的の物を見つけた五星はいつもの頭成にけらけらと笑ったが、

途端にその顔は険しいものとなった…。

そうその目に映ったのは人骨の集団。

それはいつの間にかクリスタルの後ろ約十メートルにまで迫り、

両手を伸ばし、あるいは天井を見て顎を震わせ、剣を振り上げる等、

一直線に向って来るではないか。

「多過ぎる!元来た道、とにかく逃げようっ!!」

「…えっ?~ああ分かった!」

「どわぁーーー!!」

先頭で余裕もある五星はたまに振り返り、頭成はただ懸命に、

クリスタルは叫びながらと、真っ直ぐ北へ走る三人!

距離にして五十メートルというものを今迄で一番長く感じ、

もうとっくに五星の頭の中には戦意すら無かった。

これは当然イメージや仮面青鬼よりは弱いだろうが、

彼らにとっては高確率で強敵であり、

それが数えられるだけでももう十体以上も現れ、すぐ後ろまで迫っているからだ。

更に少しずつ距離を縮められ…それでも冷静な頭成。

「もう戦うかっ?!」

「ダメ多い!多過ぎるし、たぶん一発や二発じゃ、倒れないよっ!!」

「ひ、百体ぐらい居ませんかっ?!僕にはそう見えます!!」

すると必死に走った彼女らの右手にはさっき通った扉が現れ、

だが何故かそれはビクともしない!

「多分だけど、一方通行!そっちはっ?!」

「開かない!」

「ききき、きっと鍵がかかってるんですよ!そうだ一度戻ってっ!」

その脅えるクリスタルの袖も引き、まるで壁に仕掛けられた

大針の罠のように延びる骨人間の手や剣を次々と避け、その脇をすり抜ける三人!

アアァ~~~!

耳には聞き覚えのある叫びも響いたが一瞬も足を止める暇など無く、

一気に四面の部屋まで戻り、その東南の角から更に東へ!

どういう構造か等考える事もできず、ただ下りた時に見た

あの右側の扉が開いている事だけを祈り、必死に走る!

するとそこは開き若干の安心感を覚えたクリスタル。

頭成はさっき開かなかったあの扉を睨みそうしながらも階段を駆け上ったが、

統率者五星は、まだ彼らを安心させてはくれない。

「ここも、上がって来るかもよ!」

「え~~?…いいや、あり得る。」

「アハハハハハッ!」

もう笑うしかないクリスタル。

気がつけば三人は、あの入口からすぐの隠し扉に今迄一度もした事の無い、

ぺたぺたと素早く触れる動作を何度も繰り返し、

やっと見えないくぼみを見つけ、それを背中に深呼吸していたのだ…!

九死に一生とはこういう事だろうか。

勿論五星はまずクリスタルをこそ気遣ったが、

その青ざめた顔からは、はわわはわわと情けない声が漏れるばかりで、

杖を持つ手さえ震えている。するとその感情表現には感心する五星。

「い、今更だけど、そういう事もできるんだっ。

へぇー、私も後で練習してみようっ!

~でもだったらさ、まだ余裕あるよねっ。」

「な、無いですよ!二人を心配させまいと、逆にっ!」

「いいや、お前も根性ついてきたんだっ。でも驚いたなーー!」

「あの悲鳴、彼らの叫びだったんだねっ。アハハッ!

それで…誰か骨人間の詳細、持ち帰った?」

「えーーと倒してはいないので、ありません。

つまり召喚獣になった六戦はまた別だという事ですねっ。

勿論頼まれたとしても、彼らには触りませんでしたけど……。」

「多分、がいこつ何とか、またはボーン何とかだろうなっ。

でも問題は強さと特徴だっ。

一体ぐらい倒しておけば……何て、言ったらダメだぞ?」

「アハハッ、何その言い方ー。

それよりあの扉は何で開かなかったの?!

やっぱり一方通行?あの北側のもそうだったんでしょ?!」

「どうりで変な音がしたとは思いましたが…、

目的地が近づいて、気がゆるんでいましたねっ。」

「本当は浅い階からああいう事されると面倒で嫌な方だけど、

まあ今回の場合は緊張感があって、ありだなっ。」

特技・開錠があっても急いでいる場合等はただ鍵を開ける事さえ難しく、

改めて探索の重要性を思う三人だが、話し込む事で何とか落ち着くと

それでも五星だけは油断せず、迷宮を出た。

そして依頼斡旋所まで戻り、

丁度受付で友美と話していたブロンドの長髪にサークレットを付け、

銀鎧に黒マントを羽織った男が率いる戦士達にも軽く会釈はし、

ゆっくりと腕輪を渡す五星。

勿論友美は1000スペスを支払い微笑しただけだったが、

とても良い事も教えてくれた。

それは彼女の友人でもあるコンセン屋が、北の露天街で待っているという事。

「やった!ありがとうございます!」

「いいや、これはたまたまっ。気をつけてねっ。」

「待ってるなんて、悪い事したなーー。」

「そ、そうですねっ。

あのガイコツ達に追われたのが逆に良かったというのは、

不快ではありますが…。」

「じゃあ急ごう!」

「そんなに急がなくて良いよっ。

彼もたまには人を待つのも面白いってそう言ってたし、

店でも見てるんじゃない?」

そう言われても走り出す三人。

正直もう走りたくない二人は、そこまで急がなくて良いんじゃない

という意味の言葉を早口に言ったが、彼女の耳には届かなかったようだ。

そう五星にとってこの先には、夜陽がいるのだ。



迷宮をすくうようにある露天街の西端には全体に黄色い小さな店があり、

何を売っているのかとその手元を覗いて見ればそこでは肉が焼かれ、

あたりには薄っすら灰色の煙と、芳ばしい香りが立ち込めていた…。

その近くにある北門の脇へ座りながらそこで買っただろう

大きな塊を食べる青年。

毛先を外側へ向けた髪を横分けにし、顎細く目はやや釣り上がり、

その目を左頬から貫くようにある傷と耳が大きいのが彼の特徴だろう。

その姿は、真っ白い七部袖の下に薄紫のバルーンパンツを合わせ、

先の角張った赤茶色の革靴を履くという全体に軽い印象の物。

どうやらこの人こそ友美が紹介してくれたコンセン屋のようだ。

「…おお、来たか!~来たかなっ?!君らがそうだろっ?!」

「え…ええっ、初めまして!」

「よろしくお願いしまーす!」

「明るい人で良かったですねっ?」

安心する三人と、気軽に話しかけてくれた彼の名は世故(せこ)。

その態度も服装も軽い印象だが実はある事情によりとても困っており、

それによると三人は、その救い主にもなるらしかった。

すると早速訊ねる五星。

「どう、困っているんです?」

その率直さに世故は口を曲げ、不快感をあらわにして答える。

「無料のコンセン屋さっ。」

「~ああー!…なるほどっ。」

その話によると、無料でコンセンをする者は居ても良いが、

それがあまりに沢山の客を引き受けてしまうと当然だが彼の稼ぎも楽しみも減り、

一生懸命になって覚えた特技を使いまくりたいというその願望は、

どうしても叶わなくなるらしい。

では無料で使ってくれれば良いのに…とも思うクリスタル。

だが世故に言わせれば、鍛冶屋も目の前にある肉屋も

当然のようにスペスを取るのに、何故自分達だけが、

彼らのせいでそれを無料で行わなければならないのかという事で、

しかも最近では、それが当然だと思っている住民までいるらしい。

「顔も見た事無いけどなっ、きっと偽善者だぞ!」

「そ、それはどうですかね?」

「絶対そうだって!

せっかくこっちは上級まで上げたっていうのに、

これじゃあこの傷も、無意味に思えてくる!」

「その傷とコンセンが、どういう関係があるんです?」

「ああ、堪構(かんこう)っていう義賊の特技があってね、

それは傷が消えなくなる代わりに、

筋力・耐久力・集中力・精神力のいずれかを大幅に上げるものなんだけど、

オレとしては、そうまでして耐久力を上げて戦い、

莫大な経験値を費やし!~やっと手にしたコンセンなんだわっ!」

「ああ、なるほどっ……。」

苦笑いで頷く五星。

訊けばその堪構はもう消去したらしいが、

その憶えた特技を消せるという事も知らなかった彼女は、

頭成には真顔で見られ、クリスタルには

それは僕が教えるべきだったとかばわれ、やや恥ずかしそうな面持ち。

だがそんな事より問題は彼の料金だろう。

「ああっそれはね、300スペスッ。」

「おっ安い…じゃないですか!ではお願いします!」

生まれたてにはまだまだ大金だが、賛成の頭成とクリスタル。

「まあ、期待はしてましたけどねっ。」

「友美さんが高い人を紹介するのも、変ですからねっ。」

「それで君らは、何をしに、どこへ行くの?

障りが無いなら教えてもらいたいんだけどねっ。

その方が案内とかもしやすいしっ。」

そこで特に隠す必要も無く事情を説明する五星。

世故はそれに目を閉じて首をひねり、しばらくはそうして頷いていたが、

また今度は何故か額に手を当てて言った。

「だろうなーと思ったよっ。暗黒街ねぇ…。

じゃあやっぱりこのかっこうで正解だなっ。」

「…じゃあ、目立たないようにって事ですか?」

「良い勘してるね君っ、その通りだ!」

するとそれには頭成も興味を持ったようだ。

「じゃあオレ、どう見えます?」

「あそこには…すぐ馴染めそうだが、

こいつ誰だ?つえーのかとは、思われるかも知れないなっ…。」

「ぼ、僕はどうです?」

「ああ正直に言えば、オレ達から離れるな!って感じだなっ!」

「フフッ…!」

その笑いを堪えられない五星に対し、

笑っている場合ではない…と過度に緊張するクリスタル。

だが彼女には責任があるので色々確認しておく事もある。

「一回飛ぶのに、300スペスですか?」

「いいやっ。そう確かにそれはオレの好み次第でもあるけど、

基本は見たい場所に、全部行くねっ!」

「ありがとうございますっ。」

「よーしっ!!」

「………。」

「ただし、実は今回の場合丁度良かったよ!

オレもグリンって友達の農民に頼まれてさ、

ドン・ブリガンテへの届け物があったところだから。」

「へぇ……えっ?!」

「ブリガンテファミリーきたっ!」

「………!!」

「そろそろ、覚悟決めたら?」

「慣れてくれ。

これが済んだら、なるべく行かないようにするからっ。」

「~~~!!」

その無表情のクリスタルを安心させる為当然の説明もする世故。

「ハハハッ!でも別に怖がらなくても良いってー。

届けるのはオレで、君らは東門の外で待っててくれれば良いからっ。

それから夜陽って子の所に行けば、問題無いだろ?」

「そ…それなら良いですが、頭成、君だけは本当にっ…。」

「分かってるってぇーー。」

「そうだね、今ので私も分かった!絶対、変な真似しないでよっ!」

「そうだ!300で良いなら、お金余りますよねっ?

じゃあ君だけ、濃い色眼鏡を買いましょう!」

「…えっまさか、目を合わさないようにかっ?!

それから何だ?!どんな約束でも、三つぐらいまでなら守れるぞ!」

「じゃあどんな状況だろうと危険だと思う度止めるから、

言ったら直ぐやめてよっ?」

「~それより色眼鏡はどうするんです?

べ、別に釣り上がった形のでも良いですからっ。」

「それこそ無駄遣いだろー!」

「アハハッ!じゃあさ、笑った目が描かれたのにしようよっ。」

「逆になめてんのかって事だろぉ~。」

当然それは遠慮したい頭成。世故はそんな三人を見てくすくすと笑ったが、

今の会話で彼も大体彼女達の事が分かり、

まさか頭成も乱暴な真似はせず、恨みを買うような事も無いだろう。

そうなると世故は行く先々の説明もしてくれるというから、

クリスタルにも楽しみはあるというものだ。

「では皆様、飛ぶ前に注意しておきます!

まず、住民と眼を合わさない事、そして喧嘩になりそうだったら、

ここに知り合いがいるんだけどなーアハハ……と言う事、

抜け殻という名のー、

はっきり言って死体を見ても大声を出さない事とそれにー。」

「と、途中で一人だけ降ろせますよねっ?!

できるなら、ちょっとそういう使い方を見てみたい気もしますっ。」

「…いいや、大丈夫っ。いつも一緒だぞっ…!」

「少しの我慢だってー!」

また脅えてしまうクリスタルだが、

五星の頷きを見た世故はコンセンを使い、四人の体は一気に上昇。

それは薄紫に青の線が入った光で町を遠ざけ、

彼女らはそれはそれはもの凄い勢いで、草原、寂しがりの森、

二つの町に挟まれたまた広大な草原それにまた一つ、

まだ名前も知らない森とを越え、

気が付けば北から南へ建物が密集した雫型の右上を薄っすら削ったような形の、

トレランスまで飛んでいたのだ。

その空高くどこまで続いているかさえ想像もつかない程厚い灰色の雲が広がる町の、

薄く切り裂かれたような黒い巨岩を、また何枚も何枚も連ねた町壁をまだ遠くに

…降り立つ四人。

それは大雑把に高さが揃えられただけで、彼女らには険しい崖のようにも見え、

丁度正面にある東門の中もまた何故か薄っすらと赤く微かに白煙が立ち、

まるで好き好んで地獄へ行く者などいないという現実を、

来る者全てに教えているようである。

すると早速感想を述べる五星。

「うーーん…流石ですねーー!

それにあの東門の中が赤く見えるのと、道の煙は何です?」

「ああ…あれは君主の特技で、我空間(がくうかん)ってやつだ。

中央通りを支配しているのはソーンジの組織だから、

誰かが勝手にそんな事をできるはずも無く、あれは彼の特技で、

ついでに言うが街全体を覆っているあの雲は、

たぶんドン・ブリガンテのものだなっ。

じゃなけりゃ多分誰も認めないだろう…。」

その未知の楽しみにも素直な五星。

「へぇーー!

じゃあそれを使って、明るく美しい雰囲気にもできますねっ!」

「ああ…だがそういう事は、静かに言ってくれっ。」

もうクリスタルなどは森を向いて町を見ないようにしているが

気の強い頭成は訊く。

「じゃあ世故さんでも、怖いですか?」

「そりゃあ怖いよーー!

で、でも行って来るっ。頼まれたしな!まず君らはここを動くなよ!」

そう言い残し、加えてそばにある生い茂った枝や葉の先が綺麗に尖った

三本の木々に隠れるようにも指示し、自分では北門へ走る世故。

三人は一応指示には従ったが強風が黒々とざわめく草原を煽り、

もう既に置き去りにされた気分だ…。

よって無理もないが落ち着かないクリスタル。

「こ、この木の詳細見たい人ー?」

「今はいらないよなっ?」

「う、うんっ。」

「じゃあちょっと景色を見せてくれっ。」

「まさか楽しんでるの?!」

そう緊張するクリスタルや五星と違い片手を木に当て仁王立ちの頭成。

「す、凄いですねーー。ちょっと見直しますっ。」

「いつもこうじゃないっ。」

「ああーーオレ住むなら、ここでも良いなぁー!」

その感傷にひたる頭成の発言に、斜め後ろから白い眼の二人。

とくに五星は絶対そんな事許さないとは思ったが、彼の自由も尊重せねばならず、

トレランスには住まないとしても自分達の町にも

どこかこうした暗い雰囲気を取り入れなければならないかとも思い、

これは小さな悩みが生まれたとも言える。

でも眺めるだけで落ち着くような素朴な風景はあった方が良いな。

何かとても大切な事を思い出せるかも知れない。

そうして時間にしてたった十分後…。

世故が戻り手を振りながら走って来るまでは良かったが、

何故かそれに合わせたように東門からも大勢の黒づくめの一団が出て来て…、

森からも無数に双頭のカラスが飛び立ったかと思えば、

その空にもまた六人の戦士が現れ、

銀鎧にこげ茶色のズボンをはくといういかにもアン軍といった姿の彼らは

手に手に剣や槍を揃え、迷い無く彼らへと向って行くではないか。

当然これはただ事ではないと感じ、皆を急かすクリスタル。

「ま、巻き込まれる前に逃げましょう!!

彼らは恐らくこの草原で、戦うつもりです!」

「まず落ち着け!世故さんに従うんだ!」

「じゃあ、この木陰でじっとしてるんだ!

それが一番安全だからなっ!~見ろっ!!」

鋭く発せられたその言葉にまた東門へ眼を戻す五星。

するとそこからは、

今はもう銀鎧の六人と睨み合っている黒装備の一団だけでなく

大勢の野次馬も出て来て、遠くからその光景を見つめ、

またしばらくすると南門の方からも数人が出て来てそれに加わり、

不気味な風音だけだったはずの草原にはいつの間にか

百人近くも集まっていたのだ。

その中心に堂々と歩み出たのは、

飛んで来た戦士達の中でも先頭に立つ美男。

その姿は、長く灰色がかった白髪に緩やかに波うつ金のサークレットをつけ、

細身に合わせた白いマントを垂らした銀鎧は、

タセット部分の金属板が二十にも分かれたもので、

黒い幅広のズボンを鉄のブーツに入れた全体に上品といえるものだが、

その態度は気丈というより、居丈高という方が正しいだろう。

目に宿るのは自分達こそが支配者だという、強い自負心だ。

「私はトメント!早速だが今日は部抜様の命により、

灯や他賞金首の行方を追って来た!異存がある者はいるかーー?!」

ざわつくトレランスの住人。

当然それは町を調べたいという事だろうが、

その突然の要求に対し前へ出たのは、さっきも真っ先に出て来た黒装備の一団。

中でも一番堂々としているのはやはり、

長髪の映える白く面長の顔に顎ひげを生やし、

微かに見える黒目が鋭く光る細い目の男で、名はソーンジ…。

その長身の体は黒一色に染められ、

胸の下にはあの森から飛び立った双頭のカラスが翼を広げた模様のある、

羽根の一片一片を重ね合わせたようなタセットの大鎧をまとい、

飾り気の無い薄いグリーブの脇には、一振りの長剣も見えていた。

その柄にゆっくりと左手を乗せ…冷笑を消すソーンジ。

という事はこの口を開くまでの間は恐れなどではなく、余裕だというのだろう。

「…異存は無いが、通行料は払ってもらう…。」

「な、何っ?」

「そうだな六人で、アン軍の人間だとー、5万スペスってとこか。

…払わないなら、恐らく北門の通行はドン・ブリガンテが許さねぇーだろうし…、

南門を支配するデュプルアイが許可しても、そこから北へは進めねぇぞ…?」

「ど、どうせ北へも行くが…今ブリガンテは関係無いだろ?!

まずは東門を通してもらおう!」

また笑みを浮かべ親指で柄を擦ると、そこへ視線を落とすソーンジ。

「…いいや、無関係にとはいかねぇー。

何せ彼も、アン軍を嫌っているからなぁ…。」

その一言にげらげらと笑い出す聴衆。

「ガーハッハァーー!!」

だが中でも大笑いしているのは、

彼のすぐ横に立つ薄っすら黄色い肌とモヒカンの、三頭身のトカゲ。

低く品のあるソーンジのものとは違い高いかすれ声ではあるが、

体に合わせ小型化した両肩当てを外した黒鎧を着た奴は、

タセットの後ろ部分キューレットとも言うらしい、

その太い剣のような形で尾にも見える物を上下に揺らし、

腹を抱え踊り、続けて払え払えと後ろの野次馬を扇動!

その一団の野次や威勢たるやもはや手が付けられない様子である。

「~通行料っ!ほら通行料っ!!」

「そうだー!払えねぇなら、死んで通れぇーー!!」

「5万じゃ甘いっすよ!10万にしましょうー!!」

「いいや土下座だ!土下座しろこらぁーー!!」

「そうだぁー!もっと叫べぇーー!!」

「…フフフッ!だがもう止めろ、オオトカゲ…。」

「良いじゃねーかぁ、ボス!!

だって、こいつらの方が勝手な事言ってるぞっ?!

自分の町でもねーのに、デカい面すんなってのっ!」

「…まあ待て…。」

なだめるソーンジ。だがオオトカゲの方は、

手さえ出さなければそれで良いと思っているのかトメントへ文句を言い、

口を閉じる気配は無く、

当然それにはアン軍も笑えず双方共に殺気立ってはいるが、

五星の視点からはどうやら話し合いで済みそうにも見える。

その彼女らは、劣勢なトメント側から少しずつ南を回り

群集へと混じっていたが、

今は世故がいるので訊くべき事は訊いておく事にした。

またその前に黒装備の男達を数え、大体四十人と見た彼女…。

「やっぱり凄いですねっ。あれが三大勢力の一つソーンジですか?」

「ああそうだっ。しかも今は大体半分ぐらいだなっ…。

それに、隣で威勢良くトメントを挑発しているのは、オオトカゲ。

東側の人間はあまり知らないが、あそこのナンバー3だっ!」

「え、そうなんですかっ?!」

「…ああ、それにトメントは、

アン軍内でもパズラー派のはずだが、今日は部抜の命令で来たのか。

という事は、強行突破してでも調べて来い!とか、

強引な命令を受けているかも知れないし、

ナンバー2のデビウォーは居ないようだがー、

ナンバー4の天姫(あまき)って奴も居るし、

これは厄介な事になるかも知れないぞっ…!」

「天姫…、どの人です?!」

組んだ腕の中で指差し、その先を細かく振る世故。

彼女も見ると、そのソーンジとオオトカゲの後ろに居たのは、

ふっくらとした唇が特長の女のように美しい顔に、

細かく波うつ金髪を首元まで伸ばし、

すらりと背の高い体に着た黒く大き目のローブは

首元から見える裏地と腰紐が艶めいた紫という、妖しい雰囲気の少年。

彼は二人に見られていると気付き一瞥。

だが次の瞬間には素早くフードを振り、眼を戻してしまった。

その先で首を鳴らすオオトカゲ。

「~元々、月鬼だったか何だか知らないがー、

灯の店といえば結構な人気店だったよな?

その主人を追って狩ろうって言うんだから、お前らも酷い奴らだっ。」

「ハハッ!

それは…潔く消滅すれば良いものを、奴らがアン様に逆らうからで、

元々!悪事ばかりを働いているお前らに、あの方をけなす権利など無い。

余計な事は言わず、できるだけ早く我らを通す事だな…。さもなければ…。」

「大体、どんな理由があっても争うなって、あれが気にいらねーー。」

「それなら、生得に近づかない事だ。それで済む。」

「それが済まねーんだよ!!

迷宮もあるし、あの規則が変わらねーとなぁ、

オレ達みたいな強い人間が喧嘩になる度、

まるで子猫のようにお上品なだけのお前らに

泣きつかなきゃ、ならねーじゃねーか!~ああっ?!」

「ふぅーー、まったく柄の悪い奴だ。

規則だから従えという、分り易い話なのになーお前らー?」

「その規則が気にいらねぇてんだよー!」

そこでずいずいと近づき睨みつけるオオトカゲに、睨み返すトメント。

まだソーンジは冷静だが、

彼もアン軍が気に入らないのは確かであり、狙いは金だろうか。

「…もう止めろ。こいつに文句言っても、仕方ねぇ…。」

「良いじゃねーか!やっちまおうぜっ?!」

そのオオトカゲの言葉に、剣に手をかけるアン軍。

「別にこちらは良いんだぞ?だが恥をかくのは、お前だろうがなっ。」

「言うじゃねーか、優男(やさおとこ)っ!!」

そう叫び左右に出した手斧で構えるオオトカゲと、

その後ろに控える黒装備の一団…。

当然トメントも、銀製で縦に三本線が入った逆三角形の盾を左手に、

右手には半分棒のように丸みを帯びた長剣を出し、

その配下達も構えてはいるが…やはり自分達は余りにも寡勢。

よってトメントの正気を疑い、その顔を覗き込んでしまっている。

そしてソーンジ自身はというと目を閉じているが、

どこか後ろの方からぼうっと炎が生ずる音を聞き、そこへは振り返る。

「…待て…!」

「…は、はあ…。」

その目を見て手の平にあった炎を消したのは、髪を逆立てた魔術士。

「…うーん、だがオオトカゲ、

確かにこのままじゃあ奴ら、一銭も払わないだろうなぁ…。」

「だろぉ~?!」

するとソーンジは後ろの配下達を手で制しながらも、

その指でトメントを差し、オオトカゲに背を向け、

それを受け声を裏返して喜んだ彼は遠慮無く前へ。

トメントも配下達へ振り返り、その剣を納めさせたではないか。

「安心しなボスッ!良い感じで分からせてやるからよぉーー!!」

「…ああ、適当に遊んでやれ。

では、後腐れ無しの一騎討ちで良いかぁーー?!」

突然声を張り上げるソーンジに頷くトメント。

「…ふんっ!たかがトカゲではないかっ…。」

「…ですがあいつは幹部だという話もありますし、

油断して負けるとパズラー様はお怒りにならないでしょうが、部抜様が…。」

「…私が負けるというのか…?」

だがトメントがそう言い終えるやいなや、

オオトカゲは素早くその盾を蹴り、斧で反対の足も払う。

「おおっ!」

虚を衝かれ膝を突くトメント。

辺りは一挙に歓声に包まれたが、

やはり甘かったしかも敵であるトメントへは、死を望む声が充満。

「殺せー、皆殺しだぁーー!!」

「全員生まれたてにして、もう一回殺してやれぇー!!」

「~だ、黙れっ!!」

その見上げた彼へ降って来たのは当然、振りかぶられた連撃!

「うおりゃーー!!」

ガンガンッ、ガンッ!!

それは何とか盾で受けたとはいえ悔しいトメントも

逆にオオトカゲの足を払ってやろうと剣を振り、

だがそれは地面と斧の頭で止められ、結局退く事に…。

「くっ、卑怯だぞっ!!」

「あぁっ?!喧嘩も殺し合いも先手必勝だー、馬鹿めぇーー!!」

更にその言葉を聞き終わる前に斬りかかろうと、踏み込むトメント。

だがそれにも頭突きをされまたも退き、

彼は相手を侮辱した事を激しく後悔。しかもその苛立ちが

油断した自分へ向いていた事にもめまいがする程怒り、

その姿はまるでもう前へ出る以外の一切の思考を止めてしまったようだ。

「貴様ぁっ!!」

「どうした来い来いー!」

挑発しながら退くオオトカゲに力ばかりの袈裟切りに行くトメント。

だがその剣も斧の頭で受けられ、

反対に振りかぶられた斧を受けようと盾を出したところへ、

何とオオトカゲは素早くその武器を消し…、

代わりに炎を出した手を斜め下内側へ、

激しい爆破音と共にその腹を焼くと、相手を吹き飛ばしていたのだ!

そして…自由が利かないまま配下に受け止められるトメント。

この技はオオトカゲいわく爆吹掌(ばくすいしょう)。

トメントはその威力に視界が赤くなり悲鳴に似た怒声さえ上げる。

「ぐぅこのっ…!おのれぇーー!!」

「ギャハハハハハッ!部抜には自分で来るように言うんだなぁーー!!」

「何っー?!」

哀れでもあるが彼はソーンジ達の実力を過小評価し、

同時に自分達アン軍の実力を、過大評価していたようである。

仲間に回復させ、だが叩いても叩いても中々消えない火には

更に苛立つトメント。

その様子に勝ったオオトカゲらは大笑い、アン軍は意気消沈。

どうやら勝負はついたようだが、どれだけ自分が不遜な態度をとったとしても、

恥辱を受けた側はそれを認められず、

ましてや心の小さな人間としてはこれも当然の事なのだろう。

配下に引き摺られていくトメントは正気を失い、

とても善人とは思えない事を叫ぶ。

「覚えていろぉー!

これはアン軍に対する反逆として、必ず裁いてやるからなー!!」

「~はっ?!後腐れ無しのはずだろ!」

焦って身を乗り出すオオトカゲに、両手を上げ呆れ顔のソーンジ。

アン軍はまた何事かを叫びながら飛び去ってしまったが、

これではもしもここに野花うさぎ達が居たとしてもしばらくはどうにもなるまい。

早速五星達の後ろで噂する野次馬達。

一人は黒い肩当てにある太い金属枠からまた太い腕を出し、

大きくまとめた棘のような黒髪を逆立て、

全体に黒装備なのでソーンジの人間だろうが、

もう二人は、白いローブを着て髪の変わりに頭部全体に龍のタトゥーをした者と、

鉄の胸当てに灰色と薄茶色の明細柄ショートパンツをはいた、

短い白髪を後ろに流した女。

だがまず唾でも吐きそうに声を出したのはやはり、大棘頭だった。

「何だありゃーー!

アン軍なんて、本当に強い奴ら以外はあんなもんかよっ?!」

「フフッ!醜態っていうのは、ああいうのを言うんだろうねぇー。」

「そういえば大分前だが、

隊を率いていた部抜もたった一人に追い返されたらしいぞっ。」

「それ本当かよっ?!」

「あー、その噂本当だったの?もう来ても怖くないわねー。」

「そりゃあ十七回も死ねば、誰でも強くなるよなーー。」

「それ誰の事だ?」

「…そりゃあ部抜さっ。」

「私初めて聞いたぁーー!」

「お前色々知ってんなーー。」

その真偽は定かでは無いが、

あの部抜も生まれたての頃には色々あったという事だろう。

そうしたまだ歓声やざわめきが収まらない中、

これで戦争になりますねと天姫に耳打ちされ、目を細めるソーンジ。

だが彼が指示したのは意外な事だった。

「…だったら天姫。」

「はいはーいっ。」

「…誰を連れて行ってもかまわねぇから、生得城に10万程届けて来い…。」

「ええっ?!」

驚く天姫にオオトカゲも悔しそうに言う。

「な、何でだよソーンジ、オレ達は勝ったんだぞ!?」

「…フッ、勝ってしまった詫びだ…。」

そのボスの決定には逆らえず、だが町と面子は守り引き上げるソーンジ。

これから彼らの組織はより大きくなり、

反対にアン軍はますます信望を失い、時代が変わるかも知れない。

後ろで噂する野次馬達やそれに混じって頷き続ける世故そして

まだ生まれたての頭成さえそう思ったが、

これにはいつもは悪に否定的なクリスタルまで、感心している。

「なるほどっ、上手いものですねー。

トレランスとは寛容さ…という意味だと知ってはいましたが、

無益な争いは避けましたかっ。」

頷く五星。

「うんっ。これでもしもトレランスが攻められたら、

何もかもアン軍が強引って事になるからねっ。」

「おいおい二人共、それだけじゃないぞっ。」

「~ん、というと?」

頭成に言われたにもかかわらず、クリスタルに訊く五星。

「戦争の事は分かりませんっ。」

「五星にも分からないのか?」

そう言って説明する頭成いわく、ソーンジはオオトカゲや強硬派の不満を抑え、

偶発的にせよそこで自分達の強さを証明したばかりか、

その争いを収めるよう動き、

たった10万スペスで組織にとって有益な面ばかりを、残そうとしている。

小さく頷く五星。

「うん、なるほどっ!

この噂はすぐに広まってソーンジの評判は上がるけどっ、

さっきの天姫とかいう人が使者に行って、お金まで払うと言ったら、

アン軍も攻める口実を失い、

その間にも彼らはまた少しずつ、大きくなっちゃうんだ!」

そこで初めて頷くクリスタル。

「うーん、そうですねぇー。

鮮やか岬騎兵隊も、和睦の為に10万スペスも用意したソーンジを責め、

アン軍につかないでしょうし、そうなると明空もどうでしょう?

結局はアン軍に従うにせよ反対はするでしょうし、

それでは世界的に見た場合も大義無く、やはり上手い方法ですねぇーー。」

「だろっ?オレ達にとって10万は大金だけど、

ソーンジは大組織だし、そう痛くも無いしさっ。」

「うん、もしも戦争になったら、

別に戦いたくも無いブリガンテやデュプルアイにも、

抗議される可能性があるもんねっ!」

「面白いですか?」

そう言って目を細め、頭成を見るクリスタル。

「当前だろっ。」

「でしょうねぇ…。」

「それで…?」

「僕達に、悪そうなチーム名を付けるのだけは、止めて下さいねっ。」

「それはダメだなーー。」

「ふ、二人こそ、カッコウ悪い名前をつけるのだけは、止めてくれよなっ!」

そこへ帰って来た世故は、

さっきまではどうなる事かと冷や汗をかいていたはずだが、今は上機嫌なようだ。

「ハッハッハ!まさか君らも、トレランスで組織つくるの?」

「い、いいえまさかっ!

私達はただどの国の不完全な法にもよらない、

自分達にとって最高の場所が欲しいだけですっ!」

「それって意外と贅沢だけど…、

もしかしてオレの方こそ、ただの諦めた大人?

夢としては素晴らしいよっ!

専制君主制みたいに君と二人が強い立場にあっても、

皆立派なら問題無いけどねっ。」

「…ええと、頑張ります!」

「おうっ!」

そのほとんどの野次馬やソーンジ達が去った事を確認した世故は

頭成に求められた事もあり、ブリガンテ・ファミリーについても触れる。

「興味あって当然だわなー。もしもドン・ブリガンテが居ても、

会ってくれたかどうかは分からないけど、

今オレが会ってきたのはまだ若いオークリーていう奴だよ。

でもあいつもかなりやるなっ。雰囲気で分かるんだっ…!」

続けて訊くのも頭成。

「じゃあ世故さんも、見た事無いんだっ。」

「ああっ。

まあ噂では、鼻が高くて甘い二重の顔に髭を生やした中年で、

肩幅の広い小男らしいけど、もしかしたらどこかで会ってるかもなっ。」

聞いた頭成は五星とクリスタルにも顔を向けその意味を訊ねたが、

それに答えたのも世故。彼もかなりの噂好きのようだ。

「確か、狩りが趣味って聞いたからさ、

どこかの森で会ってても、不思議じゃないだろ?

それにトレランスの人間なら分かって当然かも知れないが、

他の町の人間が、また別な町の支配者の顔を知らないなんて、

よくある話だしっ。」

「じゃあ支配者って、そういうものなんですかっ?」

「ああっ、毎日演説でもしない限りはねっ。

じゃあそろそろ友達に会いに行こうかっ!今更だけど、どの辺りか分かる?」

それに応じながら南門へ歩き出す五星。

「えーとー確か…川があるって聞いて、

どっちにしても、南門から入るつもりだったんですけどねっ。」

「ああ、デュプルアイが、女性だけの組織だからかっ。」

「ハハハッ、そうですっ。」

笑いながら壁沿いに歩く五星に頷く三人。

目的は彼女の友達に会う事なのだからそれは五星の好きにすれば良いが、

やはり同じ悪人の街へ入るにしても、女性同士の方が安心できるのだろう。

だが元気にそう答えた彼女も、ごつごつした黒壁を叩きながら進むにつれ、

少しずつ不安になってきたようだ。

「ど、どういう人達だろうね…?いきなり殺されないかな?」

「さあなっ。

でも突然そんな事になったらオレ達も戦うから、そこは安心してくれっ。」

「…ええ、抗議しますよっ!」

そのクリスタルへは白い目を向ける二人。

だが慌てた彼の言う、誤解なら解き、

生まれ変わってからお詫びしてもらった方が賢いというのにも、一理はある。

「それも…そうかな?でも後悔するでしょう!私が死んだら~!」

「確かに不戦条約とか同盟を結べれば、後々有利かっ。」

「そういう事です。」

勿論頭成とクリスタルの二人もデュプルアイ達の敵が

どういう相手なのかは知らず、

まったくの悪だった場合不戦条約や同盟を結ぶつもりなど無いが、

その話で盛り上がる三人。だがそこで何故か先程からあの赤茶色の本を出し、

首をひねりながらもその地図を見ていた世故が、彼女らを止める。

「どうしました?」

「いいやっでも、川なんてあったかなと思って…。

今見てるんだけどさ、世界地図や拡大地図を見ても、

この辺りには無いみたいなんだよなー。」

「えっ?」

「もっと北の方だったかなー?オレもその辺りはまだ行って無いから、

トレランスに住んでいる人にしか分からない隠された川ってのが、

あっても不思議じゃないけど…。」

言いながらも先頭を歩く世故は三人も連れいつの間にか南門まで。

そこも東門同様開け放たれていたが、

中はあの雲のせいで宵を思わせるほど暗く、だが青々とした芝生は、

両端が緩やかに南へ折り曲げられた南北の通りにずらりと並ぶ

淡い水色の平屋を満たし、その四方を細い花壇で囲まれたそれぞれの前には、

真っ白な石畳や青い街灯まであり、

三角屋根の正面から張り出した同じく三角形の玄関ひさしと四段の階段、

それに両脇にある四つに分かれた窓は白で、

思いのほか爽やかな雰囲気と言える。

「おおっ、南側は煌びやかじゃない?」

「へぇー!」

「もっと怖い感じかと思っていましたが…。」

「だろうなっ。

でもこれはデュプルアイが貸している家で、彼女らの家じゃないからっ。

ああ、だからといってそのデュプルアイ邸が怖い感じって訳でもないぞっ。

~ほらっ。」

「はぁ~~!」

その指が投げ出された先に声を上げる三人。

そこにあったのは、赤枠の長窓が横に八つも並ぶ、青い三階建ての邸。

窓の上には扇のような形に飾られた結晶が三つあり、

その装飾と横に長い大きな屋根だけが他に比べ

微かに艶めき銀がかった淡い水色という少々派手な印象の建物だが、

どこか殺風景な印象。

そう世故が言うにはだがあれはこちらから見て反対つまり

中央通りを向いているらしく、そこで一応訊いてみるクリスタル。

「あれは水晶ですか?」

「うーん残念っ!

あれはね、彼女らが使う水系呪文の氷を意味している!」

「なるほどぉーー。」

「別に全員使えなくても良いみたいだけど、

そうなると、何でお前は使えねーの?みたいな事を言われるらしいし、

何かナンバー3までは、絶対習得しなきゃダメみたいだな、うんっ。」

その世故という名の通り色々と知っている彼に、今更ながら感心する五星。

「さすがぁ…!よく知ってますねー!」

「ハハハッ当然だよー。オレはコンセン屋だぞっ?

彼方此方飛び回って大体の事情は知ってるから、

さわりだけで良いなら、何でも訊いてくれよっ。」

そのお褒めの言葉にますます気を良くする世故に、満足の三人。

だが問題は…川が無い事だが、

何かの勘違いで見落とすなど誰にでもあるので、

四人はもう一度それぞれの地図を確認。

だがその沈黙が流れたところへ一人の怪しい男が現れた。

浅黒い肌に赤い髪を後ろへと流し、

その胸から腹部までに胴を施した黒い服は袖も裾も短く、

一見独特なお洒落を楽しんでいるようだが、

目は泳ぎ素早く振り向きと、何かに脅えた様子だ。

「あ、あんたら、デュプルアイの知り合いっ?!」

その第一声に振り返る頭成と、彼に釣られて男を見るクリスタルに世故。

そしてその出現に気付いてはいたが、最後に振り返る五星。

油断は禁物だが、どれ程警戒してもいつかは必ずそれを破られるのだから、

常に堂々としていたいのだろう。要するにこれは、

少しは強い部分も見せておかなければならないという事である。

「…ええと、違います。けどー、そうだ!

私の方も質問ですけど、この辺りに川はありますか?」

「~あぁっ?!…いいや、無い。

それよりこれを、デュプルアイ邸に届けてくれないか?

あ、あの大きな家がそうだって聞いたから、頼むよっ!」

言うと細長く薄茶色の紙袋で包まれた物を出す男。

これはどこかで見た事があるな…と首を捻ったクリスタルが考えてみると、

それは露店で肉を包んでいた袋であり、

そのついでに五星の前へ出て代わりに話を訊く彼。

「それでこれがどうしたんです?な、何か、訳ありのようですがぁ……。」

「話なら聞きますよ。」

言いながら頭成も前へ。

すると男は、やはり彼だけは住民だと思ったのかその目は見ず及び腰に…。

だが目的は果たさなければならないので会話は続けた。

「いいや、何て事は無いんだけどよ、

もうあいつらに関わるのはごめんなんだわっ!アハハッ!じゃあ頼むぞ!」

「ち、ちょっと!」

言い残すと突然門へ走り去る男!

五星は世故に振り返ったが、その彼も飛行呪文までは使えないという事で、

渋々その包みに手を伸ばし、だがそれを止める二人。

「勝手に置いて行ったんだから、そのままにしておけよっ。」

「そうですよー!」

「ま、まあそうだけど、別に誰かから恨みを買った憶えも無いし、

罠って事も無いんじゃない?」

「だけどさっ…、じゃあ分かった!オレが開けて見る!」

「ダ、ダメですよ!あの人の脅え方を見たでしょう?!

恐らくこれはデュプルアイ本人か、またはその組織の中でも、

重要な人物が求めた物なんですよっ?!」

そのクリスタルの言葉を手掛かりにして目を見開く頭成。

「…そうかつまり、組織全体にとって重要な物かも知れないなっ。

でもそうなると、やっぱり頼んだのはデュプルアイ本人か?!」

言って二人を見る彼と、

その様子を見ながら家へ帰って行く住人や、南門から出て行く人々。

すると世故は自分自身と彼女らの為にも、やや大きな声を上げた。

「じゃあやっぱり、届けないとなー君達ぃーー!」

それを聞いて笑い出す五星。

「うーーん、レーザーさんや黄園さんがしてくれたのと、

ちょっと違う気がするけどね?」

「まあまあ、賢い!オレもこの人に賛成!

…もう沢山のデュプルアイに、聞かれたかも知れないしなっ…。」

「で、ではとりあえずそれは届けて、

それからまた住民にでも、川の事を訊いてみましょう。」

「えっ、届けるついでに川の事も訊こうよ。ねぇっ?」

「ああ、そうだな。じゃあ行くぞっ!」

「………!!」

別に貸家を抜けても良いのだが、物怖じしない五星は右手の通りを選び北へ。

するとしばらく歩いた先の正面には、

ソーンジが支配する灰色や黒等暗い色の建物が目立つ

中央通りの一角も見えたが、左手には…とても長い池が現れ、

彼女はそのままそこへ架かった

wI(デュプルアイ)と八つも刻まれた長い銅板も渡り、

またしばらく歩くと森でさえ見なかった

大人三人が手を繋いでも足りない程太い一本の愛の木も過ぎ、

やっとデュプルアイ邸へと達した。

「うわぁ~~!」

そしてまた声を上げる五星。

近くで見た建物は薄っすらと青く輝き、玄関にも赤く大きく

入口にあるドアの上から丸く覆ったような革のひさしがあり、

その可愛らしさに驚いた彼女は見詰めるだけだったが、

二人はあれこれ言いたくて仕方無いようで、それには世故が答える。

「森にあんな大きな木あったか?」

「どうでしょうっ?植え替えたのでしょうか?」

「確かだけど…庭を作るにしても、

木の大きさは一定までだから、植え替えたんだろうなぁー。

勿論育つのを待つ事もできるけど、普通支配者はそこまでしないんじゃないか?」

「じゃあこんなでかいのを生えてる場所から…持って来るんですか?」

「僕が思いますに、道具として持ち運ぶ事はできないでしょうし、

そうするしかないのでは?」

視線を向ける二人にゆっくりと頷く世故。

つまりこれ程大きな物は担ぐ事もできず、

幻想世界特有の荷車に積んで持って来るしかないのだが、

そこで五星はやっと口を開く。

「うーん!じゃあやっぱり、この一帯を支配しているだけあるよねー。」

「こういう派手な家に住みたいのか?」

「特に派手でも無いでしょう。」

力関係の弱い三人。

だがその五星の自由や趣味を守りたくて、世故も口を出す。

「ああ、確かにこれは豪奢な造りだけど、

立派な家を建てる事に人生を捧げてる奴もいるから、

そんなに珍しいとか、派手な方でもないなっ。」

そうして四人が話し込む内に建物から出て来たのは、二人の女。

その彼女らは、薄っすらと青く輝く銀装備に身を固め、

それは丁度口角までの頬当てと短い鼻当てもある兜に、

胴には胸当て腕には小手を付け、

下には短い矢印型の金属板を前に四枚横に六枚のタセットと脛当て、

そしてブーツを履き、露出した腹部と肘それに腿は黒革で覆うという、

いかにも兵士然とした姿。

彼女らを迎えたクリスタルは目を見開いてから急いで横を向いたが、

右の一人は、色白で黒目がちな美人で青く長い髪を垂らし、

またもう一人はこれも鋭い目の美人で、赤く肩までの髪を散らし、

その二人を見て呆然とする五星。

するとその青い髪の女の方が五星達に話しかけてきた。

「何してんの?もしかして見学っ?」

当然それに答えたのは同性という事もあり、話しやすい五星。

「ああ、いいえっ。でもこれを預かってきたもので…。」

包みを受け取りもう一人へ渡す青い髪の女。

受け取った方が開けるとそれはレイピアのように細い緑色の剣で、

彼女からもすぐに反応があった。

「ああっ、頼んでおいたやつだ!

へぇー持って来てくれたんだぁ!ありがとうー!」

「~いいえっ当然の事です。」

「それっ、グッサロに売るやつ?」

「いいやっ。あいつからは買取るだけで、

頼まれもしないのに売る事は、まず無いねっ。」

「じゃあ、組織が買ったものだね?」

「そういう事っ!良い値がつくよ。」

それにしてもグッサロというのはどこかで聞いた憶えのある名だが、

わざわざ笑顔の五星に睨まれずとも、知らない振りをする頭成。

「…そりゃあそうだろ。そういう顔は、

寧ろ正直過ぎるクリスタルへこそ、向けられるべきだ…!」

「…うんうんっ…!」

聞いたクリスタルは他には無理でも二人には強い眼差しを向け、

赤い髪の女はそんな四人を見詰め、これは強者の余裕だろうか、

不審がる事も無く話を進める。

「~それで、男はもう帰った?」

「はいっ!…ちょっと怖がっていたようで、それで私が…。」

「ああー!あいつ臆病だからなーー。

帰ったの?まあ良いか、スペスは後で渡せばねっ?」

「だねっ。それより君らもしかして、配達屋?」

「…えっ、それはぁー。」

「まあそうですが、何か仕事を貰えるとしても、どんなものかによりますねっ。」

その五星の反応を無視し何故か配達屋を開業する頭成と…、

クリスタルと世故は、まだ何が起きているのかよく分かっていないようで、

それに笑顔で頷いたのはまた青い髪の女。

「ハハッそれはそうだよねー。でも、簡単な仕事だよっ。」

するとその彼女の手に現れたのは茶色い封筒の手紙で、

頭成はそれを丁寧に受け取るとやっと気付いたクリスタル達にも笑顔を向ける。

「…はぁ…?!」

「…え、君ら配達屋だったの…?」

当然彼を責める態度のクリスタルと本当に配達屋だと信じる世故。

五星としては別にどちらでも良いのだろうが、その軽率さには少々困った様子だ。

「…今更、冗談だとか言わないよね…?!」

「…何で?スペスも貰えるし、絶対受けた方が面白いだろっ…?」

「実は私達のボスね、今明空の北門から出てすぐの鍛冶屋に居るから、

それを届けてくれない?」

当然その言葉には耳を疑った四人だが驚愕を顔に出す訳にもいかず、

こんな場面で断ればそれこそ怪しまれてしまうだろう。

「うーん報酬は受け取ってないって言えば、幾らかは貰えるだろうし、

別に大変な仕事でも無いでしょう?コンセンも使えるよね?」

「はい、絶対大丈夫です!」

「ま、まあそうだけど、安請け合いは止めてほしいなぁー。」

「叱りましょうこれは!」

「…仕方無い。すぐに運んであげるからっ…。」

「じゃあ頼んだよっ。」

手を振る青い髪の女。そうして二人のデュプルアイは、

勿論中身を見たら殺すからねと釘を刺し中央通りへと消え、

早速五星は頭成から手紙を奪い、クリスタルはそのすねを蹴る。

ガスッ!

「絶対この方が面白いってー!」

「君にとっては、そうでしょうね!それに五星も五星です!

この暗黒街の三大勢力の話、聞きましたよねっ?!」

「大丈夫だってっ!

私が責任持って預かるし、今は世故さんだっているんだからっ。

~でもそういえば、川はどうしようっ?!

そうだここまでで、300ですかっ?!」

「まさかっ。なるべく止めて欲しいけどどんなに無茶をしても、

そんなけち臭い事は言わないよっ。」

それにありがたいと頷きつつも今更のように言うのは頭成。

「それで、川はたぶんー偶振刃の方だな?」

「ええまあ…そのようですねぇ。」

「ク、クリスタルまで!何で最初から教えないのっ?!」

「まあまあ、楽しかったんだし、良いんじゃないか?」

そう五星をなだめる世故。

つまり結論から言ってしまえばクリスタルの

一番怖い悪人の町発言がきっかけで、

サハピがこちらを教えてしまった訳だが、

当然野花うさぎの話にあったもう一つの町も噓ではなく、

そうなると悪の町が二つある事になる。

その事実に改めて驚きつつもこれからまた夜陽の家を探し、

デュプルアイ本人へ手紙を渡すという、

大きな仕事もこなさなければならない三人。

まだ彼女らには荷が重過ぎる気もするが、

期待過剰の頭成や心配性のクリスタルは、

まったく正反対の理由で騒ぎ続け、

だがもしかすればデュプルアイのボスも輿に乗って会うかも知れず、

大勢の仲間に囲まれ部屋の奥からベール越しに会うという事も考えられ、

五星だけは一切緊張していない。

そう…ただ会ってこれを渡すだけ。

自分に言い聞かせた彼女だったが、大きな楽しみには違いなく、

そうなるとこの四人には休む暇も無かった。



見物する事も無く暗黒街を飛び立った五星達は美しい河口にいた。

トレランスから遥か東南へ。

その海に注ぐ西の巨岩から溢れた乳青色(にゅうせいしょく)の流れは、

雌龍川(しりゅうがわ)というらしく、この名の由来には、

いつもは西の砂漠にいる黒龍が度々水を飲みに来るからだとか、

雌龍の背を思わせるように長大で美麗だからとか諸説あるが、

何にしてもその甘く美しい川と純白の砂は、初めて見る三人を魅了。

特に五星などは夜陽との思い出に浸り、まだ一言も口にしていないほどだ。

ここから北へ行き、左右から木々の迫る崖の隘路を抜ければ、

数キロで第二暗黒街とも呼ばれる町偶振刃だが、

そこへは寄らず、まっすぐにここへ連れて来た世故は

自分の判断が間違っていなかった事を強く実感。

ふらふらと歩きながらではあるが、

東の崖を背にして建ち並ぶ家々から夜陽のものを探す事さえ、自分だけでしている。

そうやや離れた東南の方角に見えるのは、

左右の森に狭められてはいるが川の先に続く水平線。

その川の北東には数軒の家が建ち、町へ続く道の右から

青い一つ屋根の白壁に高い床の玄関まで階段があり、

それをぐるりと低い柵で囲んだ家や、

黒く艶めく屋根の右に小さな煙突があり、

カーキ色の壁に大きな窓が三つ並んだ反対の北側に、

赤く染めた木の扉が一つだけという可愛らしい家、

そしてまたその手前には、川から水を引きその小川と低木で周囲を囲み、

中心に小屋だけを建てた小島のような家など造りは様々だが、

中でも世故は奥にある簡素なレンガ造りの家に注目。

その前で腕を組み、じっと三人の見物が終わるのを待つ事にした。

その本を伏せたような屋根の河口側にあるのは、白く大きな格子窓三つ。

道に沿った正面には大きな両開きの扉一つと、

その足元に綺麗な白木の板が並べられただけだったが、

全体の色合いを構成するレンガの一つ一つは、所々にある肌色や薄ピンクより、

淡い紅梅色(こうばいいろ)を多く用いているので、愛らしく清楚な印象でもある。

そしてそこに表札を見つける世故。

すると大きな声を出す前に隣の頭成達と目が合ってしまった。

「おお、いつの間にっ?!びっくりしたぁー!」

「夜…陽…、ここじゃないですか!」

「ええ、そのようです!五星ぃーー!!」

その間にもう一度確認する世故と頭成。

確かにその扉の右上にある白板には、夜陽とある。

とんとんっ…とんっ!

走って来て立ち止まり、また沈黙する五星。

他三人は泣くのかと思い顔を覗いたがまったくその様子は無い。

「発見ー!!じゃあ、ノックしよう!」

「~ああっ、そうだな。」

「まあ、難なく見つけましたからねー…。」

「うんうん、男性としては、しんみりされるよりずっと良いぞ!」

だが何度扉を叩いても反応は無く、

留守だと分かった五星はここで待つ事も考えたが、

しばらくすると看板を立てる事を思いつき、その準備を始めた。

「えっ、看板なんて立てれたか?」

「うんっ!スペスが無いからまだ家は無理だけど、

その庭や前に立てる看板だけなら、きっとできるはずっ!」

「なるほど自宅設定はしても、家は建てず、

看板だけ立てるんですね!僕も見たいと思っていました!」

「こっちが別荘じゃないと良いなっ?」

「良しできたっ!」

しばらくして家の前に現れたその白い立て札の文章。

夜陽様へ。

まず、突然ご自宅の前にこのような物を立てた事、お許し下さい。

ですがどうしても貴方が見つからずこの方法しか思いつかずに、

ここに待ち合わせの時間と場所を記しておく事にしました。

本日○○日から数え四日後と五日後の午後三時からの一時間、

二人の仲間と共に寂しがりの森の広場で待ちますので、

どうかお越し下さい。

非常に残念ながらまだ互いの心を知らぬ仲であり、

戸惑う気持ちもあるかも知れませんが、

貴方がどんな事情を抱えられまたどんな仲間と共にあろうと

お会いできるのを楽しみにするのみです。

ですからどうかよろしくお願い致します。

五星より。

「文章はともかく、酷く他人行儀だな…。」

「そ、そうっ?

なるべく丁寧にって思ったらこうなったんだけど~、

それにほらっ、会ってなら良いけどー、

まずこうして手紙みたいに話すなら…ねっ?」

「僕なら、何か大切な話でもあるのかと思いますが…。」

「…まあ…良いんじゃない?

それよりここで一つ、大切な話があるんだけどさっ…!」

その上擦った声に嫌な予感を覚えつつも振り向く三人。

するとやはりその世故の後ろにはいつの間にか、

紫のローブにあるフードから三本の銀色の紐を垂らし、

顔の前で直線にしたそれを胸元のボタンに引っ掛けるという、

風変わりなかっこうの一団が…。

そしてまたその後ろからも三人の男が進み出たではないか。

右の一人は、細身だが大きな体を忍装束で覆い、

その上にあるのは目の奥が黒く塗りつぶされた細い鉄仮面。

長い両手両足それに腰には暗い銀の小手とグリーブにタセットを付けただけの男で、

また左の一人は、金髪の両脇を黒く染め、

端正ではあるが面長を際立たせる額寄りの鋭い目と、

その上にある二本の深い縦じわそれに下にあるくまどりが特徴で、

首元の生地が段になった薄小豆色のローブをまとい、

その長い袖と裾で手足を隠した男…。

そして中央の一人は、着ている物は二人以外の者達と同じだが、

つり上がった目の小さな瞳と後ろに靡かせた腰までの白髪、

それに同じく白い胸元までの長い顎鬚が特徴の…威厳ある老人。

そう何と彼らは数えれば三十人以上も並び、押し入って辺り一帯を我がものとし、

まるでその眼は家にある時計でも見るようであった。

すると当然その自分の油断には呆れ、驚きにも押し黙る五星。

そんな彼女へ声をかけたのは頭成のみだ。

「…逃げるか…?」

「…どうしようか…?」

「…え、で、ですが…。」

「…お前には訊いてない…。」

「…お兄さんは、動かない方が良いと思うぞっ…。」

言って三人の後ろへと回り小声で続ける世故。

するとそれを聞いた彼女らはこの集団が何であるかと、

またその中心に立つ老人の名も知り、進退窮まってしまう。

そう何とこの男こそ、ここに居並ぶ生得解放戦線を率いるAZAKI。

いつもは豪放な頭成さえあのKAIYAの噂話や

サンドイッチと部抜の問答も思い出して唇を噛み、

だが世故もそのAZAKI本人が口を開いた事で、

五星の顔色を窺う機会さえ失ってしまう。

「お前達はこの夜陽とかいう娘の、知り合いか?」

「え、ええっ。

貴方達もそうですかっ?突然でびっくりして…。」

「ああ、実のところ今日は家賃を貰いに来たのだが、

居ないなら代わりに6000スペス払ってくれ。」

「えっ?!」

死んだ?

その唐突な要求に頭の中でつぶやき、ちらりと頭成を見る五星。

「…じゃあ、逃げた方が良かったかな…?」

だが彼女が自分達は生まれたてで友人を訪ねただけである事、

それに世故も雇われただけである事を説明すると、

意外にも柔らかい言葉が返って来た。

「そうか、ならばそれは本人に払ってもらおう。」

「ほっ…。」

「それに勘違いされると困るのだが、今言ったのは二ヶ月分の家賃で、

何も脅迫している訳では無いからな?」

「は、はい!」

実は見た目から子供である彼女ら以上に焦っていた世故。

彼は1万近いスペスを持っているのだが、

一度頼まれただけの客しかもその友人の為に家賃を払ってやるのも、

人が良過ぎるではないか。

そう彼や五星と頭成が様々な事を考えたり、

クリスタルが何も考えられずにいると、

AZAKIの隣に居たくまどりの男は…彼に耳打ち。

どうやら四人がここの住人ではないと説明してくれているようだが、

聞いたAZAKIは納得したものの、また別な要求を切り出す。

「うんうん…、

それはさて置きお前達、我々と共にアン軍を滅ぼさないか?

生得の政治には…うんざりだろ?」

「…お気持ちはよく分かりますが、

さっきもお話したとおり私達まだ生まれたてで、

お役には立てないと思いますっ。」

「あ、ああっ。

ちょっとこの世界は、凄過ぎて、ビビッてるもんなっ?!」

「~ええ、そうですそうですっ!!」

「…良い演技だぞっ…!」

勿論心から脅えるクリスタルの演技を褒めたのは世故の冗談だが、

それぞれのフードの中から敵か味方かと…四人を見る男達。

AZAKIは彼女らに意外に思える程親切に接しながらも、

アンの横暴さや、また自分達の側はその住民の一人一人までもが、

彼女を憎む者の集まりである事、

そしてそこから生み出される家賃や寄付等の利益までを得々と語り、

五星はその微妙に張り詰めた緊張感の中でも安心する事はできたが、

彼を生み出したアンの政治やこの勧誘にもうんざりし、

だが幸か不幸かそこに歩いて来たのは、また北からの別な一団…。

もう何が何だかよく分からないが、頭成は悦び勇んで五星の肩を押し、

クリスタルだけは無表情のまま、一切動かなくなってしまった。

「…ちょっと!こんな大事な場面で、現実逃避しないでよ…!」

「…良い良いあいつは、それより見ろよっ…!」

その先頭から来たのは、褐色の肌に、弓を射る右側のみを剃った長髪の男。

顔も含め全体に細身だが肩幅の広い堂々とした骨格を持ち、

その目はといえば黒目と白目が逆転して釣り上がり、

背中までを覆うのは茶色い毛皮の肩がけ。

それと同じ素材で作られたであろう胸当てと腹巻きに腰巻きを付け、

革のブーツまで履いた…いかにも野蛮な悪党といった雰囲気。

その配下といえば皆、鉄の仮面をつけ、

それはハート型の上にある両端と下部分を尖らせ、

その内側に開けられた穴も丸みを帯びているが

釣り上がった目のような形をしており、敵の恐怖を駆り立てる物。

その仮面を包むのは両側と後頭部を丸い鉄で覆い、

顎部分に鎖帷子を垂らした風変わりな物で素顔は一切見せず、

茶色い忍装束の首から胸元と両小手と脛には黒布を巻き、

手足にも黒い手袋と皮の靴を履いた姿。

そして確かにその姿は不気味でもあるが、

何故かそのたった六人に動揺していないのは

忍装束に仮面の男とくまどりの男、それにAZAKIだけだったのだ。

「なーんだお前らぁまだ居たのかーー?!

さっさとアンに謝って、生得へ帰れば良いものを!!なあお前らぁー?!」

その猛々しく野太い声が轟くと背からは風まで起こり、

対してばたばたと音を立てる…紫のローブ。

だがAZAKIも負けてはいない。

「これはこれは~誰かと思えば…、

こそこそ殺す集団がたった六人で、頭領も連れて来たかっ。

お前らこそ、山野ででも暮らすのが、似合っているぞ!」

その言葉にも笑い余裕を見せる頭領。

男は五星達も意識したのか、つちまみれ・剛(ごう)と名乗った。

当然世故へ耳を向ける五星。

「…誰ですっ…?」

「…衆牙(しゅうが)っていう暗殺集団を率いる一人だよ。

もう一人はつちまみれ・柔っていうらしいけど、見た事は無いなっ…。」

「…という事は、同格の二人で支配する組織ですか…?」

「…うん、まあそういう事になるが、

どちらかといえば大勢の配下と表立って活動するのがつちまみれ・剛で、

裏で活動するのがつちまみれ・柔だって話だっ。

だがそんな事よりもしも戦いになったら、逃げる事だけを考えろよ…!」

その年長者の忠告を聞き素直に頷く三人。

反社会勢力に暗殺集団とは偶振刃もトレランスに負けていないようだが、

つちまみれ・剛はやはり彼ら生得解放戦線を快く思っていないのか、

これは冗談では無いと言わんばかりにしつこく挑発する。

「良いから出て行けっ!

格好悪く目立っているお前らは…目障りだっ。」

「ハハハッ!

だが元々この偶振刃は大嶽丸(おおたけまる)という盗賊がつくった町。

それを奪ったお前らこそ、今すぐ出て行くが良い…。」

「あの大嶽丸は勝手に消えただけで、奪った訳じゃないっ。

それに鼻につく偽善者ってのは、悪の世界でも嫌われるんだよー!」

「そうかっ!では、さっさと消えるが良い!」

「お前の事だっ!!」

叫ぶと今にもつかみかかりそうな勢いのつちまみれ・剛に、

逆に一歩退き、両手の平をブロンズに光らせるAZAKI!

後ろの衆牙達も剣や鎖鎌を、

そして生得解放戦線も袖から両手を出して構えたものだから、

五星達はまた戦いになるかも知れないと素早く夜陽の家へ寄り添い、

もう世故に至ってはコンセンの準備に入りその機会を窺い、

途端にさっきまで静かで美しかったはずの辺りには、鋭い緊張が流れた。

そこで素早く整理する五星。

この町を支配していた衆牙は自分達の威勢や面子の為、

生得の支配者に追い出されたかたちの、

一面では敗軍でもある解放戦線を追い出したいと考え、また彼らもそれに抗い、

従属してまで存続を選ぶほど落ちぶれてもいない…という訳か。

でも同じ町の中で争わなければならないなんて、不幸だな…。

だがそこで両軍の間に立ったのはまたあのくまどりの男。

彼は眉間のしわを一層濃く、目も鋭くして言った。

「まあまあっAZAKI様も、剛殿も、少し落ち着いたらどうです?!

我らとしては、ここで偶振刃の半分を支配する衆牙と争い、

余計な犠牲を出し、きたるべき時を遅らせる訳にもいかず…、

また衆牙としても、

…まだアン軍と一戦もせず十分に力を残した我らの為に、

犠牲を出すのも馬鹿馬鹿しいでしょう…。どうです?」

「ふんっ!…まあなっ…。」

「ハッハッハッ…!

流石は我が腹心の険連(けわつら)。ここはお前に、従うとしよう!」

「恐れ入ります。」

「だがなぁーー!」

だが右手を上げその指先を回すつちまみれ・剛と、

それを見る解放戦線や五星達。

納得したはずの彼はこれ以上何がしたいのだろう。

すると一瞬目を鋭くした彼は五星らにも一瞥。要点だけを言う。

「だがこのお嬢ちゃん達は、オレ達に譲れ。」

「何だとっ?!」

「ええっ?」

そう小さな声で驚くしかない五星と、

彼女にまたちらりと視線を向けられた頭成は、世故へ訊ねる。

「…いつでも使えますよね…?」

「…ああだが、ついて来るかも知れないぞっ…?!」

「ええーー?!」

そうクリスタルはつい声を上げてしまったが、

つちまみれ・剛はまた肩の力を抜くとくだけた調子で続けた。

「なーに、ちょっと話したいだけだ。こいつらには勿体無いからなぁーー。」

「…聞かぬ、と言えば…?」

AZAKIも五星達を知っている訳では無いが意地になって訊き、

だがそれを止めたのはまた…険連と呼ばれた男。

「いいえ、ここは退きましょう。

彼らはたった六人とはいえ皆それぞれに手練(てだれ)!

我らは志こそありますがほとんど来たばかりの者も大勢おり、

彼らを守ろうと思えば、全滅の危険さえあります…。」

「…う、うーむ!

だがそれでは…その入ったばかりの者達にも、示しがつかんぞ!」

「いいえ、ここは耐えるべきです。」

その問答にも薄っすらと笑い、また指先を回すつちまみれ・剛。

「これが見えないのかぁー?まあ…これは見えても、

崖にいるオレ達の仲間までは、見えないだろうがなぁー?!」

「…おのれっ!」

悔しがるAZAKI達。

そのほとんどは彼方此方を見回し、

反対に怒鳴りもせず冷静でいるのはやはり、忍装束に仮面の男と険連のみ。

どうやら彼らは既に幾重にも囲まれ退かざるを得ないらしく、

その事実は解放戦線の観測者である一人が慌ただしく報告。

相手の目的はどうあれ悔しくて仕方無いAZAKIは、

何度も聞き返している。

「何っ、それは確かかっ?!」

「は、はい…!

私は観測者として以外はまだ全然で、

自分より強いか目塞を使える等の理由で見えない事も多いのですが、

それでも…二十は居ますっ!」

「むぅ~~!」

そのうめくAZAKIに騒ぎ出し、撤退を勧める兵達。

だが彼も馬鹿では無いのでそれが多数になる前に

早々と衆牙達の脇をすりぬけ北へ。そのまま偶振刃へと帰ってしまった。

さて残ったのは衆牙と五星達だが、

彼女は一応ここにも人が住んでいるという事に淡い期待を持ちつつ、

死の覚悟さえし、頭成とクリスタルそれに世故へも鋭い眼を向ける。

「ごめんね、私のわがままに付きあわせて。

その上こんな事になって、もう少し二人の言う事も聞いて、

慎重になれば良かったかな…?」

「良いって、気にすんなよ!言うべき事は言うけど、

いざその場になったら一緒に死ぬのが臣というものだ!なあっ?」

「え、ええっ!何かあったら、また一からやり直せば良いんですから、

落ち着きましょう!」

「…飛べるけどどうする?それとも一応、話は聞くかっ?!」

そうAZAKI達に比べたった六人ではあるが、ゆっくりと四人を囲む衆牙。

だがその静まり返った浜辺で頭領の剛が言ったのは、実に意外な事だった。

「…まあまあお前ら、そう怖がんなよっ。

別に殺そうって訳じゃなく、

オレ達もまあ簡単に言えば、勧誘だよ勧誘っ。」

その言葉に一瞬だけ振り向き、また頭成とクリスタルを見る五星。

だが彼女は、握りこぶしをつくり強い眼差しを寄こす頭成からは

すぐに眼を逸らし…、

反対に指で小さく小さく×を作るクリスタルへは、微笑を見せる。

「…ありがとうございます!

でも私達、善でも悪でも無い中途半端な人間なので、それはお断りします!」

「そうか残念だなーー。」

眉間にしわを寄せ、意外と人間らしい顔を見せるつちまみれ・剛。

だが彼も簡単には引かない。

「実は偶然にも、お前達とグッサロ盗賊団の戦いを見ていた仲間がいてなぁ、

良い動きをする生まれたてがいるって、聞いたんだわっ。」

その言葉にどきりとする五星達と、彼女達から一歩距離を置く世故。

彼もまさか三人がそんな大それたまねをする人間には見えなかったらしいが、

つちまみれ・剛も人を売り渡すような人間には見えず、五星だけはひとまず安心。

だが一体この世界の情報というものは、ここまで早く人から人へ届くものなのだろうか。

疑問に思った五星はその偶然とやらを怪しみもしたが、

それをとやかく言うだけの立場でも無く、また今はそういう状況でも無い。

「そうでしたかっ、ありがとうございます!

でも…お断りします。ハハッ、きっと買いかぶりですよっ。」

「そうかーー?!」

ハッハッハッと声でのみ笑う配下達。

だが彼らはそうして打ち解けたように振舞いながらも…指先を動かし、

機あらばと相手の実力のほどを試そうとしているようにしか見えず、

内心不気味に思った五星は話題を夜陽の行方へと切り替える事に…。

すると驚くべき事に興味を持ったつちまみれ・剛の方も、

彼女は粗衣(そい)を纏った侍と一緒だったという意外な情報を口にし、

聞いた五星はまるで餌で釣られた家畜の如く、大きく身を乗り出す。

「本当に夜陽でしたかっ?!」

「ああ、確かにそう呼んでたなっ。

だからその娘を捜したいなら、まずは真功郎(しんくろう)を見つける事だ。」

その名に聞き覚えの無い五星だが、

普通に考えれば彼女の新しい仲間か、それ以上でも恋人だろう。

だがたとえそうだろうと、その者も知らない五星らにとっては、

また同じだけ目的地の発見が困難な別な道を見つけた気分であり、

頭成とクリスタルも苦笑いするしかない。

「じゃあ今度気になる相手を見つけたら、その人の名前も出そうっ。」

「そうですねぇ…。しかし今更ですが、

ここに住んでいるのが本人で、良かったじゃないですかっ。」

だが五星は慰めようとした二人や世故やつちまみれ・剛にも笑顔を見せ、

何故か確信めいた眼差し。

「でも貴方の言い方だとー、

まるでその真功郎という人を、知っている感じですよねっ?!」

「おおっそうだそうだ!流石は頭だなっ…。

お前らが勝手に想像するもんだから、いつ言おうかと思ってたんだっ。」

「じゃあっ!」

眉を上げ顔を見合わせる四人。やはりここへ来て正解だったようだが、

それにしても真功郎とこのつちまみれ・剛とは、一体どういう関係なのだろう。

「関係も何もねーよっ。でもな、あいつは有名人なんだわっ!」

「ゆ、有名人ですか?」

五星の中で有名人というと今迄は峻厳な支配者であったり、

まあ彼女らには悪いが賞金首であったり、

名のある悪党であった場合がほとんどだった訳だが、彼の場合はどうだろう。

訊けばその真功郎という男は、そのどれにも当てはまらないという。

「というと…。」

「被害者。…まあ言ってみればこの世界の、犠牲者だわなっ。」

続けるつちまみれ・剛いわく、

真功郎とは迷宮深くに現れた恐ろしい魔物に非情な呪いを受け、

だが誰にも理解や助けを得られず…孤独の中で生きる者。

すると悲しみに揺れる五星の瞳。

だとすれば夜陽ならきっと彼を助けたいと願い、

いいや助けると決意し、常にそのそばから離れないはずだ。

「じゃあ…いいや私だったとしても、彼を助けます!

だから居場所を教えて下さいっ!」

「まあそう焦るなっ。

オレ達も、裏の世界に生きる者として人助けなんてしたくなかっただけで、

別に嫌っちゃいなかったからよ…。

でもあいつらの行方なんて誰も知らないぞっ。

当然この町の事なら何でも知っているが、

他の事ならその兄ちゃんの方が、詳しいんじゃないか?」

だが顔を向けられた世故は素早く首を振り、それも僅かだと謙遜。

「たっ、確かに。だがオレが知ってるのはその男の名と、

その呪いっていうのが確かー、迷宮に入ると全基本能力値が1になって、

どこにいても経験値が百分の一だって噂くらいだなっ。」

その過酷さに驚く三人。

「~ええっ?!」

「じゃあ…自分でその魔物を倒して呪いを解くっていうのも、絶望的っ。

いいや絶対無理だな!」

「何て残酷な話なんでしょう!赦せませんっ!」

「知っているのが名前だけだったから、

同音だというだけで、別人かなって思って…。」

またしばらく言葉を失う五星。

それを見たつちまみれ・剛は時期が悪いと思ったのか、

いつでも待っている…と改めて勧誘する意志を示すと、夜陽の情報を与えた事、

それにグッサロには黙っていた事とを一つ貸しだとも言い残し、

さっさと帰ってしまった。

そうある意味では前門の虎後門の狼といった脅威は去ったはずだが、

暗い気持ちの四人。

当然だが今その頭の中には、邪悪で陰険なある魔物がいるのだ。

「じゃあ、早く夜陽を見つけなきゃ!うん、なるべく早くっ。」

「もっと詳しく訊けば良かったな?」

「…ですが夜陽ちゃんの危機ですから、五星の気持ちも分かります。」

だがその真面目な顔の三人に明るい情報を伝える世故。

「まあまあ、そう暗くなるなって!

真功郎という人の事だったら、きっとオレよりグリンの方が詳しいし、

生得へ帰ったら会えるよう話してみるからさっ。」

「本当ですかっ?」

「ああ、グリンも優しい性格だから、真功郎さんとも何度か話したらしいぞっ。」

「良し、じゃあ決まりだな!これで一気に夜陽ちゃんに近づいて、

しかもそこには、オレ達が全力で臨むに値する戦いがある!!

ああーーこれ以上はありませんぞー主君!!」

「ほんっとうーに、夜陽に会ってもそういう事だけは言わないでよ!

でも、ありがとうございます!では早速帰りましょう!」

「確かにまったく酷い魔物もいたものですが、

ここはまず依頼を果たしてからにして…、

それに急いでも、消滅するだけですよっ?」

強く頷く五星。

日が中天を過ぎてからもしばらく経つが、

まさか彼女も人から頼まれたものをそのままにしておく気は無い。

すると早速世故に明空へと飛んでもらう三人。

もっと情報を得なければ何とも言えないが、

きっと夜陽はその人の為に…泣いている…。

なぜなら大切な人が誰にも理解されず、助けてもらえず魔物の呪いに苦しみ、

それは彼女にも本人にもどうしようもないのだ。

だとすればその自分ではどうしようもないという部分は、

人々に理解されているだろうか。

甘えと切り捨てられているならそう思うとなおの事憐れに思う彼女。

ファンタジーに悲劇はつきものだが、これにはきっと深い事情がある。

そう感じた五星は、

まだ晴れ晴れとして明るい空から、東へ大海を見渡し、

自分が書き残した文章を反復。後悔したり不安になるどころか、

どんな恐ろしい相手にも自分だけは絶対に怯まないと、確信していた。



広い海峡を越えた先にあったのは、

南西にある大きな門と、西北を向いた長い町壁。

世故に訊いたところそれは何と全長五百メートルもあるというが、

まず三人の目を引いていたのはそれに沿って内側の小高い場所にある、

賑やかな広場だった。

向かい合った四つで一揃いのクリーム色のベンチは、

奥にある北東の門までずらりと並び、

その間の所々には青や黄あるいは紅白と鮮やかな屋根の露店。

そしてそこを歩く人々は、手に何かを持って食べたり飲んだり、

店にならぶ品々を見たりしていなければだが、

必ず町の眺望に目を向け、指差したり、どう見て回ろうかと相談したり、

体をぶつけ合いはしゃいだりしている。

その下に広がる数え切れない建物は、

南西側にもまた北東側にも広場に対して垂直に二列、

その中にまた二列の街があるという、

短い四列で長い二列を挟み込んだような形で建ち並び、

そこから東南の海側も広場という極めて美観を意識した造り。

更に三つ目となるその東南の門から出れば、

東側となる左手には壁に沿った浜辺の街、右手には南西を向いた街があり、

世故が言うには、その一列に守られるよう門側にある

一見砦としか思えない建物こそ、ここの支配者であるラフターの邸。

その大の上に中その上に小と三段になった石造りの屋根を囲むのは、

高い木壁であり、上には見回りをする灰色の鎧を着た兵もいたが、

勿論五星らの目的は、浜辺の街でも一番北側にある一軒。

つまり見物するのは後にするとして彼女らはまず、そこへ降り立っていたのだ。

そのレンガ造りで高山のように上へ反った台形の上に、

黒い円柱形の屋根を横たえるという、

おそらく金鎚を思い描いただろう一軒の前に並ぶ四人。

だがその外観より裏から聞えた声に耳を澄ます五星。

そうその建物と町壁に挟まれた場所からは、

男らしく太いだが優しい声と、聞き覚えのある女の声がしたのだ。

「~ですから、そんな大量に注文されても、オレの店だけでは出来ませんって!」

「ええっ?!この前は多分無理だと言っただけでしょう?

こっちもね、組織で動いてるんだから、そんな彼方此方に頼む訳にいかないの!」

「困ったなぁーー。ラフターさんからも二十本ぐらい頼まれてるんですよー。」

「そんなのちゃちゃっと作れば良いでしょうー。

困ったのはこっち!戦になるかも知れないんだからぁーー!」

頷いてしばらく三人へ振り返る五星。

「…うんっ!やっぱりこの声は、あの人だねっ。」

「えっ、やっぱりー?!オレもそう思ったんだよなーー。

あの人がそうだったのかー、へぇーー!!」

「…この目で見るまでは信じられませんが、多分そうでしょう!」

「知り合いが居るのか?」

すると三人はあの宝箱を開けてくれた…とある女性を説明。

多分彼女こそデュプルアイだろうと予想し、

聞いた世故は大いに驚きまた怪しみもしたが、早速五星を促す。

「~じゃあ、呼んでみてくれよ!」

「ですねっ…。黄園さーーんっ!!」

その声に静まり返る裏口。

「…呼んでますよ。」

「え、私っ?」

その会話を聞いた五星は違うのかな?と振り返ったが、

またしばらくして現れたのは、

黒がかった渋い銅に白角のあるバイキングヘルムを被り、

その体には鉄の胸当てを付け、ゆったりした紺のズボンをはいた大柄なドワーフと、

やはりあの時と同じ白髪に、輪のようになった両手両足の金鎧を着た、黄園その人。

まだ警戒しているようだが三人を見ると、あの時と同じように笑う。

「カハハッ!そうか君達かぁーー!…で今日は、どうしたの?」

「や、やっぱりそうでしたかっ…。

でも、何で偽名なんて使ったんです?」

「え……?」

「だって貴方は、デュプルアイさんですよね?」

それに今度は長い沈黙をつくった彼女だったが、

四人に敵意が無いと分かると、すぐに真実を語った。

「…そりゃあ、あんな場所で名乗ったら、

デュプルアイもこの決闘に関係があるのか?とか、変な想像されるからねっ。」

「あ…なるほどっ。」

「うんっ!」

そう頷き顔を向けた黄園に、笑顔で応える頭成。

だが彼は何故かそうしながらも本を出しそこへ何事かを書き始め、

それを覗いたのはクリスタルだった。

「何ですそれは?」

「一応彼女の事も、書いておこうと思ってなっ。

だってこの世界で町をつくるなら、武力が必要だろ?」

「…僕達の町に来ますかねーー…。」

「…どう引き込むかは、後で考える。

その時、あんまり恨みを買ってるようだと困るから、調査は任せたぞっ…。」

「…はいはいっ…。」

という事でそれを誤魔化す為にもドワーフへも訊き、

北東と南西の門はそれぞれ北門と南門、

そして海側にあるのは港門と呼ばれていると教えてもらう二人。

「うーん、さすがは黄園さんの友達だなーー。」

「えっ、ハハッ!

~そりゃあオレもここの住人だからなっ。

だって面倒臭いだろ?南西門、北東門とかさっ。」

「当たり前の事なのに、失礼ですよっ!」

相変わらずの二人に黙って頷いている五星にさえまだまだ聞きたい事はあるが、

彼女は手紙を渡すのを思い出し急いでいるのは相手も同じかも知れないとも考え、

まずは依頼を果たす事にした。

訳を聞かれれば頭成に笑われるかも知れないが、

ゆっくりと上げた右手に手紙を出すと、それを黄園に渡す彼女。

「ああ、これねっ。」

「それ何だ、武器じゃないって事?」

「………。」

黙ってそれを読みふーんと鼻を鳴らしただけで、消してしまう黄園。

「…確かに、届けました!」

「うん、ありがとうっ。

そうかぁ…あいつら、ついに20階まで行ったか!

よしよし!じゃあそろそろ、組織に入れてやっても良いかなー。」

この人がトレランスの三分の一を支配するwIのボス。

という事はアン軍にたとえるなら竜鱗程の力があるという事だろうか。

いいや、一帯を支配するというのと、

その支配者に仕えるのとでは全然訳が違い、彼女はその権力で街を自由にでき、

誰をどう使うのかも思いのままなのだから、

竜鱗より強い立場にあるのかも知れない。

一瞬五星は仲間もいるという意味では竜鱗の方が上かとも思ったが、

その絆さえ、アンの冷徹さを思えば彼女達の力が上だと判断。

だがその思考はいざという時に彼女に助力、または助言する為にあり、

そうして真心を示せば、誰もその関係を邪魔できないと思っているのだ。

だがその純粋な思いに対するのは、頭成の思考…。

もしもだぞ、もしも竜鱗の信用を落とし、

あの子供っぽいアンが疑心暗鬼になったところへ罠を仕掛け、

デュプルアイ全体かあるいは他勢力の兵も借りて、

彼女達が奇襲を仕掛ける事ができたとしたらどうだろう…。

そうして竜鱗を暗殺してから次は、

それを敢行したデュプルアイを倒したいからとソーンジが部抜へ相談し、

だがその裏で組んでいるのも実はデュプルアイで、

また彼も奇襲によって討ち果たしたらどうだ。という事はだ、

もしもそれが成功した場合その次代を築くのはーー、オレ達じゃないか!?

と…何故か燃え上がるその野望をひしひしと感じ、

話題をクリスタルの宝石へと変えた五星。

だが彼はそうして一人想像。

楽しい会話へ戻るのは現実的な話になってからだった。

「や、やっぱりこれ綺麗ですよねー!煌びやかぁ~!」

「うん、そうだね!ついでだから、彼に頼めば良いよっ。」

「じゃあお願いします!」

「やった!ついに僕の帽子にも、独創性が出ますねっ?」

そこで会話に入りドワーフを見ながら言う世故。

「でも君、何か特殊効果とか、付けなくて良いのっ?」

「おいおい、この子らにはまだスペスも、材料も無いだろっ。」

「ああ、そうかっ。」

「別にサービスしても良いけどなっ。」

だがそれには黙って首を振るクリスタル。

そう彼の常識でもあまりお世話になってばかりでは情けなく、

その上それを口にすれば大体の大人は、その遠慮を笑い、

結局好意を押しつけ、後になって頼りないままの自分達に、

文句まで言い出すのだ。

だがその常識は周囲の住民には反感を買うかと思い、五人にだけ耳打ちする彼。

よってその遠慮深いクリスタルに大人達が頷いていると、

頭成は二人が忘れていた事を思い出したようだ。

「それで言い難いんですけど、料金の方を…。」

「うんっ?ああこの配達料ねっ。じゃあね…。」

「こらっ頭成!

そんな事してせっかくの絆に傷がついたらどうするの?!」

「そんな事ー!ねぇーー?!」

「カハハッ!気にし過ぎぃーー。でも、さすがボスだねっ!」

だが勿論言い出した彼も、

予め聞いてもいない事を直前になって指摘され、面白くは無い。

「これじゃあ…ワルにはなれませんよね?」

「というより、なる気あるの?

それに悪の世界にもそういう信頼とか、知性的な部分を大事にする人はいるよ。」

「という事で、お代はいりません。私達スペスにも困っていませんのでっ。」

「良いから良いから、ほらっ300スペスだから、取っておけば?」

「い、いいえっそんな!~あっそうだ!」

またいつも通りに言い、今度はドワーフへ眼を向ける五星。

「この宝石、彼の帽子に埋め込むには、いくらかかります?」

すると鍛冶屋のドワーフは、にたりと笑うと腕組みをし、頷きながら言った。

「うんうんっ、特技を覚えたての奴なら1000スペス取る事もあるが、

オレは熟練の一人だから、300ぐらいで良いよっ。」

「おっ!て事は、今私が上げようとした額だねっ?!」

「そうなりますね。」

その黄園とドワーフの会話に顔を見合わせる四人。

皆納得の結末だが失礼にもなるので五星が訊くとその鍛冶屋はバレットと名乗った。

よく見ると彼は長い髪で隠してはいるが、頬に傷があり、

その下にある太く長い頑丈そうな顎からも相当な偉丈夫と言えるが、

その大きな両手から発せられた、優しい水色の光。

中でゆっくり帽子と一つになった願いの石は、

被ったクリスタルが窓へ走ると、そこでもきらりと光った。

その二色それぞれの顔、白と水色の輝きともう一つの輝きは、叫ぶ彼の瞳。

キラキラーンッ!

「やったぁっー!」

「お前そういうのは上手いなっ。でっ、強くなったか?!」

「いいえっ?でも、価値がぐんと上がってますね!

お金に困ったら売りましょう!」

喜ぶ二人にもう一度お礼を言う五星だが、

黄園とバレットは自分がしてあげた事を覚えておかない質なのか、

今は世故と会話している。

「ええっなんでオレは職業柄、大体生得に居ますねー。

でも今日はお二人に会う事ができて、とても光栄ですよっ。」

「カハハッ!

私もたまに来るだけで明空の事は全然知らないけどねっ。」

「それを言えばオレだって、伝説の鍛冶屋でもないけどー、

気に入ったなら二人もここに住めば良いっ。

何といってもここの支配者はラフターで、世界一の名君と呼ばれているからなっ。」

彼が鍛冶屋だからではないが、あいづちを打つ世故と黄園。

五星もその輪に入って訊けば事情通の世故いわく、

あの小高くなった広場は寧ろ支配者であるラフターとその将軍や兵達が、

住民にお金を払う事で維持されている。

「でも彼は中々の人格者だから、当然そうなると住民の評判も良くて、

最近では皆で明空を守ろう!って声が強まってるらしくてねぇ、

近々その自宅の権利を提供しているはずの住民達が、

国からスペスを貰う事まで遠慮して、

壁は一人一人の義務になるらしいですよっ。あくまで噂ですがねっ。」

その情報に驚く五星とバレット。

「へぇー!じゃあアン軍とは、全然違いますねっ。」

「よく知ってるなー兄ちゃん!その通りだよっ!」

「…アンも可哀相にねっ。」

言って目を細め北を見つめる黄園…。

強権を発揮している側のアンが何故憐れなのか。

その意味は既に君主になるつもりでいる五星にも分かる気はするが、

彼女がどういう人間にせよ、人は人で、神ではなく、

いつかその怨嗟は必ず身に達するからだろう。

そうしてまた暗い雰囲気になりそうなので、クリスタルからアレを借りる五星。

それをバレットに見せると彼は微笑して見せた。

「ああ~、ハハッ!まあ魂だから珍しい物には違いないが、

これはお邪魔半水のものだからなーー。

特殊能力も無く、多分武器や防具と組み合わせても、

何かの値が僅かに上がるだけだぞっ?悪いが、試した事さえ無いよっ。」

「なるほどっ。でも少しは、上がるんですね?」

「まだこの子達は生まれたてだってっ。

だから、ちょっと上がるだけでも、十分嬉しいんだもんねっ?」

その黄園に頷く頭成と、五星から魂を受け取るクリスタル。

「ですねっ!たぶん状況を考えれば、

クリスタルの防具に埋め込む事になりますけどっ。」

「それはそれは、いつもありがとうございます。」

「これはこれは、殿には感謝せねばなっ?ワッハッハッハァー!」

そう言ってゲラゲラと笑うバレット。

その彼の補足によるとこの魂という物は好物とする魔物がいたり、

悪魔に渡すと妖宝にしてくれる等の噂もあり、

また物によっては、迷宮を進む上で重要な道具となったりするらしいが、

とにかく四人は無事に依頼を果たし、

黄園が実はデュプルアイだという衝撃の事実も知り、

新たにバレットという友人まで得て、上機嫌で明空を後にした。

眼下にあるのは手を振る友人達と、幸福に満たされた町。

だがこれから彼女達はグリンを訪ね、

真功郎と夜陽の悲しみも…知らなければならない…。

よって四人の中でも五星だけが一人、遠のく町を睥睨(へいげい)していたのだ。



北へ飛び生得の南門に降りた五星達は、経験からグリンの家を予測。

元々灯の店がありイリトクや友美が店を出しセイントが顔を出す東側が

庶民派の住む一角なのではないかと思ったが、今度は西側の街へ連れて行かれ、

丁度その中ほどにある入口からは城壁も見える一軒にいた。

まだ明るいはずだが、明空に比べると何となく抑圧され、静まり返った町。

だがその家は薄っすら黄色がかった木でできた平屋で、

正面にある上だけが丸い古木の扉も珍しくは無かったが、

全体にとても落ち着いた雰囲気があり、また出て来た人も、

灰色の髪に四角く長い顔の小さな目のお爺ちゃんだったので、

早速どうぞと言われた彼女達にもまったく抵抗は無かった。

そしてその緑の半袖と薄青いズボンの背中から、中へ入る四人。

扉の両側にある窓から通りが見えていた事はクリスタルさえ安心させたが、

部屋は長方形の木製テーブルの短辺がこちらを向き、

その脚部分がGの字形である事以外には特に洒落た部分も無く、

右手に別室への扉と奥に木の冷蔵庫、

そして左手の奥にやっと白いベッドとどことなくさっぱりし過ぎており、

三人の常識でも長い住民なら普通は色々と飾りたくなるのが普通なので、

それだけは不自然に感じているようだ。だがこの状況で誰かの罠というなら、

それはアン軍が仕掛けたものとしか考えられず、

まだ一冒険者でしかない五星達にその危険は無い。

という事で木の椅子は丁度五脚用意され、その奥にまずグリンが、

右側に世故と五星が、それに左側には頭成とクリスタルという具合に腰掛ける五人。

するとまず三人の中で一番家主の近くにいた頭成が、部屋を見回しながら言った。

「ええとこちらは…、仮住まいですか?」

「もぉーー!」

「僕と場所を変えて下さいっ!」

「アハハッ!これは見破られましたね、グリンさんっ。」

「うんうん、そうだよ。よく分かったねっ。

本当の家は、畑に隣接した土地にある農家だから、

こっちにはあまりお金をかけてないんだっ。

だからここは仲間と会議したりする場所かなっ?

もう世故君は登録済みだけど、

君達も泊まれるようにしておくから、使って良いよっ。」

「あ、ありがとうございます!

へぇーー。~な、訊いて良かったろ?」

「いいやっ、何で訊く必要あるの?!~本当にすみません!」

「アハハッ、良いんだよっ。」

子供とはいえ少々失礼な質問にも、ただ笑顔で答えるグリン。

するとますます安心したクリスタルは、大切な事を思い出したようだ。

「あっ、でもそうだ!荷物は届けましたよっ。ねっ?」

「ああっ、無事ドン・ブリガンテの所にねっ。」

「ああ、ありがとう!

私はひいきにされているから殺される事は無いだろうが…、

それでも期限ぎりぎりでねぇ。

そのお礼と言ってはなんだけど真功郎君の事については、全て話そう。」

「はいっ、お願いしますっ。」

そのかしこまった態度の五星にも手の平を見せるグリン。

ひっそりと言う彼いわく、見かけは老人だが魂の方は違うのでもっと楽にして良い。

「というと…実はもっとお若い…?」

「…そうそう。でもね、この事は農民仲間も知らないから、

一応黙っておいてねっ…。」

「…わ、分かりました…!」

その和んだ雰囲気を快く思いながらも話を促したのは世故。

「…それでさっきも言った通り真功郎さんの事なんだけど、確かに本人か?」

「ああ、間違いない。私も一度迷宮で助けてもらった事があってね、

酷い呪いを受けたシンクロウといえば、彼しかいないよ。

世故君からも迷宮に入ると全・基本能力値が1になるとか、

経験値が百分の一になるとか、それは聞いたろ?

でもね、あの呪いの本当に酷いところは、

ただ一緒にいるだけでも彼と同じ状態になるという事なんだ…。」

それにはまた驚く三人。

中でも頭成などは中腰になって叫ぶ。

「ええっ?!じゃあ、仲間と話もできないじゃないですかっ!!」

「ああ、それに彼の場合は、その状態を信じてもらえなかったみたいだし、

その何割かは、黒後ろ髑髏(くろうしろどくろ)の存在を知りながらも、

やっぱり…怖くて関わり合いたくなかったのか、

信じない振りをする人もいたって言うねぇ。」

「そ、それは酷いっ…。」

勿論許せないクリスタル。彼は五星の気持ちも考えて首をすくめ、

だがその彼女はというともう恐れと驚きを押し殺し、テーブルで手を組んでいる。

「…だったら、皆を恨んでいるでしょうねぇ。」

「ああ…。」

「~それでその魔物、黒後ろ髑髏っていうんですか?」

「そ、そう。見た人間も僅かで、情報を交換しようにも、

常に信じる信じないという話から始まるから…はっきりとは言えないが、

噂では必ず後ろから襲って来る黒い大髑髏らしくて、

紫のマントを羽織っているとか…。」

聞いて頷く五星に、あからさまな嫌悪感を表す少年達。

「怖っ…!でもだから、黒後ろ髑髏だっ!」

「不気味ですねぇー。」

「…それでその中は、触手になってるんだろ?」

「まあ…そういう噂だねっ。」

その世故の補足さえ暗に認めるグリン。

だが五星は、その相手の不気味さを耳にますます凛々しい顔つきとなり、

怒りとは普通醜い感情と言われるが、まるでその澄んだ瞳で

醜悪に対してのそれは美しいはずだとでも、語っているようだ。

「では、私が倒します!いいや…私達がねっ?!」

「そうだな!でも、何階にいるんです?」

「そ、そうですよ!それが分からないとっ!」

「見つければ良いだけだよ!」

するとじっとその目を見詰めつぶやくグリン。

「…うん!まあ…真功郎君達がどこに居るのかは分からないが、

その魔物は恐らく、120階辺りにいると言われている…。」

聞いて驚きの声を上げる頭成と失望するクリスタル。

世故も二人の反応は当然だという顔をしているが、

五星はたとえそれが何であれ邪悪である事には変わりなく、心は揺るがない。

「し、しばらくは無理だけど…絶対倒すよっ!!」

だが深くもたれかかり目をつぶる世故が言うには、

そうでもないという事だがその言葉に食いつく五星。

「というとやはり、兵力と物量!つまり軍ならって事ですか?!

世故さんに言わせれば、結束して当たれば無理でもないとっ?!」

「ああっ、オレはそう思うんだけどぉー、

実は自分達さえ良ければいい奴らばっかりだからなぁー。」

そうそれが一番の問題…と強く頷く五星。

また詳しく世故に訊いたところその呪いには、

たまに持ち物を落としてしまう効果や、特技を忘れてしまう効果もあるらしく、

恐らく皆それを怖がっているのではないかと言い、

すると何故かその話に渋い顔をつくったのはグリンだった。

「…実は私も、それで盗賊撃退という、

家がどうされようが、持ち主が死のうが畑だけは守れる特技を、

完全に忘れてしまってねぇ…。」

「そ、それはお気の毒に…。」

「それからなんだよ。真功郎君を無視するようになったのは…。」

その告白に下を向く世故と少年達。彼を見つめるのは五星のみである。

「…近づかなければ、良いだけだったのでは?」

「……うん、手紙でも書けば良かったのかも知れない。

でも怖くてねぇ。今になって思えば誰にでも優しく、

しかも人々が平和に暮らして行くにはどうすれば良いか

なんて事まで考えてくれていた彼を何故見捨てたのかって…そう思うけど、

いいやこれはさ、そういうのを趣味にする人っているだろ?

でも大抵は口だけで、いざ恐ろしい敵が現れれば、皆逃げるんだよっ。

でも彼は違ったのにねぇ…。」

その悲しい事実には頭成さえ背筋を伸ばして俯き、クリスタルは泣くのを堪え、

五星も手の中で拳をつくって聞き、

それからもグリンはその呪いについて…、

実は真功郎より前にいた犠牲者達も皆消えてしまっている事、

それにアン軍や鮮やか岬騎兵隊そして明空や

サウスティーカップの民までも彼の話を聞かなかった事、

更には…呪いにかかった者が自ら消滅を望んでも、

何とそんな時に限って黒後ろ髑髏が助け生かす事さえあるとも説明。

黙って聴いていた四人はそのあまりの陰険さまた情けなさにも

あきれ返ってしまったが、五星はまた不意に生じた大きな疑問もぶつけてみた。

「ではっ、神は何をしてるんです?!」

「それは…真功郎君にしか分からないねっ。

四つ羽様と話す事はあったみたいだけど、どう助けてもらったかは…。

まあ、満足できているようなら、姿も消さないだろうけど…。」

魔物、つまり悪魔とは元々堕天使であり、

そうなると当然神にも大きな責任はあるはずだが…。

もしもその彼らさえ、大昔の神々が悪魔達に不介入を誓った…

等という理由で助けられず、退治するのは自由と

本人を突き放していたとすれば余りに無慈悲で、理不尽な話。

また当然この世界においての神や高位の魔物とは管理者であり、

これは全住民の誰もが知らない事なのだが、実のところ…

双方共に住民を助ける側と何とか恐怖や絶望を与える側とに分かれ、

絶えず人心においての覇権を争っている。

ただそれにしても黒後ろ髑髏の行いは、非道と言う他あるまい。

「…では最後にですが、

二人が住んでいたのは、確かにあの偶振刃の家ですか?」

その五星の問いにも、何故かゆっくりと首を振るグリン。

彼が言うには、そこはあくまで夜陽個人の家であって、

姿を消してしまうまでの真功郎はこの生得の南にある丘の洞窟に、

一人で身を潜めていたらしい。

「な…何てっ、何て酷い話ですっ!」

「た、確かにそうですが、落ち着いて下さい…!」

「ああそうだ。オレも一緒に死ぬって言ったろ?

それにその真功郎って人にだって、夜陽ちゃんがいて…、

オレ達としてはもう、そいつを見つけ次第ぶっ倒すだけだしな!」

五星はその頭成の勇ましい言葉にやっと腰を下ろし、

だがしばらくしてから再び口を開く。

「ふぅーー、分かりました!

では私が貴方の代わりに…、いいや失礼!

全人類の代わりに、彼に謝ってあげます!それで良いですねっ?」

「…あ、ああ本当に、それは本当に頼むよ!」

「オレもコンセンを使って君らを助けようっ。

このままじゃあ人間が、余りに情け無いもんなっ?」

「ええっ、死ねば良いんです。死ねばっ。

そんな、残虐非道な存在に苦しめられる人を、見捨てるぐらいならね!」

「頭成は凄い事言いますねぇ…。

でも見捨てた人々の気持ちも分る気はしますっ。…そのぐらいがまともでしょう。」

「それじゃあ、私達がまともじゃないみたいでしょう?!」

「そ、そうは言ってません!勇気とは、それはそれは素晴らしいものです!」

「当然だなっ。」

そう言って頷く頭成はじめ、それぞれに考えは違うが闘志を燃やす五星達。

こういう話の本当のところはもっと事情を知った人物から、

じっくりと話を聞かなければ分からないのだが、更に考える五星。

鮮やか岬騎兵隊にはサハピが、そしてアン軍にはセイントまでいるのに…。

その激しく憤る気持ちはどうしても消せず、

それは幸か不幸かこれから迷宮へ入ろうとしていた三人を強く鼓舞し、

もうまっすぐ北へ歩き出していた五星の目には、迷宮の悪意しか映っていない。

窓越しに世故とグリンに手を振りその彼女を追う頭成達。

だが実は丁度その頃、

遥か西のある一軒にはその五星が憎んで止まない巨悪がおり…、

一人の男と話し込んでいたのだ。

その薄暗い室内。

二体の背を向けた女神像もある石壁のその中心にある闇に浮かび、漂い…、

そしてせせら笑う黒後ろ髑髏。

その正面に胡坐(あぐら)をかき話し相手となっていたのはやはり、

真功郎その人だったのだ。

「そうか分かったぞ!

お前は、私のように本当に苦しんできた者をも見捨てない、

上辺だけではない者を待ち、その死体を曝し、

これから生まれてくる人々に本当の善など一つも無い事を…、

証明するつもりだなっ?!」

「……フフッ!何という男だ。」

そう呆れる黒後ろ髑髏に対し全身から怒りを発し、

切れ長の目を光らせ…睨みつける彼。

その真功郎は、

薄っすら青い髪を垂らした細面で小柄な体には白装束をまとい、

胸元からも赤い虎柄のタトゥーを見せと、姿から堂々としてはいるが、

対した黒後ろ髑髏はやはり相手がどれほど強くあろうと、

他が自己へ向ける敬意こそ正道(しょうどう)と信じ、疑っていないようだ。

「…だがそれも所詮は、理想に過ぎん…。」

「いいや違うな!…まったく可笑しな奴だ。

何度も言うが私は、お前のような醜悪な存在に滅んで欲しいだけで、

これは自然な感情の流れであるから、その私を無理に屈服させようとしている、

お前こそが不自然という事になるのだ!」

「…フ、フハーハッハッ!

いいや、やはり可笑しいのはお前だ…。

では訊くが真功郎よ、お前が自然で我が不自然というなら、

何故、我が恐怖や苦痛に耐えたのが…お前一人なのだ…?」

「…私ひとりというのは、おかしい…。」

「フハハッ!

他はもうとっくに老いこの世を去った者達ばかりなのだぞ!

お前一人も同じではないか。

…そうそれ以外の者達は必ずどれだけの才財(さい、ざい)に恵まれようと、

見かけばかりの恋人や、偽りの美しい自分を守る為、

小さな小さな罰から逃れんが為に、次々と我に屈服したものを…、

何故お前だけが我を赦せんという理由のみで、正義を貫き通したか?!」

「お前がそれほど汚いからだ。」

「いいやそれこそお前が、不自然に強く、

そして我が、この世で神と崇められるに相応しいという、何よりの証し…。」

「………。」

「…なあ真功郎、現実を見よ。世を見よ。人々を見よ。

実在する我らや…志高く善良な民であったはずのお前の人生に続く、

日々の怨憎会苦(おんぞうえく)、艱難辛苦(かんなんしんく)を知ろうともせず、

自分達だけは光の中にいたい奴らなどはもはや…、

どれほど立派な話をしようと、善ではないのだっ。」

「…確かに限界があっては、善とは言えないなっ…。」

「…そうだ。だが、何故否定しない?

今迄のお前は、違うこの世にも善はある善はある!

彼らはただ知らないだけ!自分を誤解しているだけだと、

頑なに否定し、

どれだけその深い苦しみを訴えようとも全ての人の形をした者達に、

甘ったれだ、愚か者だ、病人だ、ただの怠け者だ等と揶揄されるばかりで、

それでも人を信じ言い返すその姿が…、

今日までの楽しみでもあったものを……。」

「…ふんっ!」

「そう、そうしてお前が苦しみ訴えている間に、

お前が、お前以上に強く美しい心を持つ者や、

それに賛同する義士を捜し求めている間に、

善と悪の戦いには…決着がつき、世は治まったのだ。

つまり、

この我が跳梁跋扈する醜悪な世こそが、真に民が望んだもの!!

さあっ!我が鞭に美しき心から血と膿を流し、大いに喜んで見せよ!!」

「断る。いつもいつも言うがそんなに納得がいかないなら、

私も他の犠牲者と同じように、殺せば良いっ。」

「フハハハッ…!いいや、命ある限り苦しみ続けてもらうぞ…。

いつも見てる、いつも見てるぞ…。」

そしてまた奴はいつものように不気味な笑い声だけを残し、

触手の中へと消え、だがそれを悔しそうに見詰める男の背中には、

一人の少女がいた。

…その全身を覆った黒いローブから悲しげに流れる赤髪と、

どこかへ消え入ってしまいそうな白肌…。

「…私達を救うっていう、神の話は…?」

「ああ…どうだろうな。

事態は一向に良くならないが、君や他の犠牲者達もいる事だ。

もう少しの辛抱だろう。」

頷く少女。

そうその名は、夜陽といった。



ああ、分かった。

彼女の名は、月や、沈まぬ太陽という意味ではなく、

それはつまり暗黒にある唯一の光なのだ。

真功郎と夜陽の悲しみを知った五星は、

迷宮の薄青い壁とその奥を染める闇を見てそう確信し、

だがその怒りに燃える胸とは裏腹に、常に冷静な思考。

それはまだ歩いていない1階の北東を埋めてから、

様子見程度に2階へ行く事を勧め、また彼女という体はその通りに動いていたのだ。

そうして東南の角を曲がり、あのパラメータの被害者に手を合わせ、

頭成だけは片手拝みでその脇をすり抜けると、更に東の通路を進む三人。

突き当たった北の通路もしばらく西へ、

七の十までの空白を埋めたところで引き返し、

九の十から南への扉を開け、

するとそこからほとんど一直線に抜ける事ができれば、

1階の地図は完成するのだが、五星にはまだ気になる事があるようだ。

「それにしても、誰にも会わないね?」

「え、こんなもんだろっ?心配しなくても、これからまた色々あるってっ。」

「これは恐らくですが、

トレランスでの騒動を聞いた住民が、皆そちらへ行っているか、

あるいはあの殺伐とした雰囲気や生得での息苦しさを嫌った住民が、

明空へ行っているかの、どちらかでしょう。」

「ああ、それはありえるね!」

「お、なるほどっ!そういえば明空は、凄い賑わいだったからなっ。」

「皆何だかんだ言って、やっぱり楽しい方が良いんですよっ。

それが人間というものです。」

そうもっともな事を言ったクリスタルは辺りに人気が無い事を確認。

二人にも世界情勢を把握してもらう為アン軍の現状から説明し、

だがそんな時先から歩いて来たのは…、

長く青い髪に金のサークレットをした純白のローブ姿の女で、

その白い顔は何故か彼方此方へ向けられ、酷く狼狽した様子ではないか。

当然身構える二人と無言でエナセイを準備するクリスタル。

そして五星は場合によっては出過ぎる頭成に言う。

「…静かに…!」

「…だから何だっ…?!」

「…分からないけど、彼女も誰かに追われているのかも…!」

「都に災いが来たっ!災いがっ!!ああ、ああっ!」

その途切れ途切れだが聞き捨てならない言葉に、警戒はしても駆け寄る三人。

とくに五星は、思わずその手を取り問いかけていたが、

そのまるで宝石のように艶めく神秘的な青の瞳を見詰めながらも、

魅惑される自分を打ち払い、思い切って声を出す。

「~どうしたんですっ?!お怪我はっ?!それに都って、生得の事ですかっ?!」

「お、多くの者が死ぬっ!だがこれは始まりに過ぎないというのに、

ああっこのままでは戦争がっ、戦争が始まる!」

「しっかりして下さい!」

「ああ私には…、誰にもどうにもならない、死屍累々の町が見えるというのにっ!」

そうただならぬ事を漏らし五星の手を握り返しながらも、顔を歪めるだけの女。

頭成はその一挙一動に目を光らせ、だがそんな中でも慎重なクリスタルには、

どうしても疑問に思う事があった。

「わ、分かりました!ですが貴方は、何故この上の事が分かるんですっ?

確か迷宮内では、観測者でもその階の事しか把握できないと、

そう聞きましたがーー。」

頷く五星と頭成。

だがその疑問にさえ答えない不可解な女は、

そのままふらふらと北へ歩くと扉を開けて消え…、

その更に後ろからはまた別な二人が歩いて来たではないか。

五星から見てその二人は、

長い黒マントから銀鎧を覗かせ、黒髪を後ろにまとめた男と、

革鎧に赤とベージュで縞模様のタイツをはき、

それに赤を基調とした花柄のシャツを羽織った、くまどりとツインテールの女。

さっきの事がどうしても気になった少年達は、

その目立つ二人にさえ一瞥も無く話し込んでしまっているが、

五星だけはその疑問も彼らに解消してもらうつもりでいるのだ。

「…ちょっと二人共…!」

「ですよねー!何だったのでしょう?!」

「さあっ…。でも観測者の特技も、あそこまでいくんじゃないか?

今度調べておいてくれよっ。」

「…それよりあれ!二人共、油断しないでよっ…?!」

「やあっ君達っ!」

まず声をかけてきたのはおそらく噂好きの男で、

それに対して五星は軽く敬礼し、おどけて見せる。

「こ、こんにちはっ。」

「とてもとても個性的なはずの私達に、目もくれず、

見入ってしまう気持ち、よく分るよっ。

何せ彼女の方が何倍も興味深い人物だからねぇっ。」

「それはどういう事です?」

当然訊き返す五星だが、今度は女の方が割って入り、強い口調で遮る。

「ちょっと何笑ってるのっ?!君も、相手にしないでっ!

実は今とても大変な状況なんだからっ!」

「アーーハッハッ!

だから~それを今説明しようとしているところだろっ。何を言ってるんだ君は?」

「貴方こそ、ちょっと緊張感が足りないのよっ!」

「す、すみませんが、そろそろ教えてもらえます?」

喧嘩するほど仲が良いとは今の世でも同じだが、

当然五星達としてはそれが重大であればある程、早く聞きたい。

「ああ実はねぇ、彼女は通称青目(あおめ)と呼ばれる預言者で、

何とああして彼方此方で予言しては、

それを一度も外した事が無いという、神に近い人物なんだっ。」

「…へぇ~~!」

まるで自分の事のように自慢気に話す男と、まだ驚く事があった三人。

だがそうなるとやはり食いついたのは、頭成だった。

「~じゃあ今この上で、何かが起きてるって事ですかっ?!」

「では、一旦帰りますっ?」

「でしょう!なのにこの人は、面白い面白いって、そればっかり!」

「仕方無いだろー!楽しまなくてどうする!

それこそ、四つ羽様の怒りを買うってものだっ。

前はアンの100階到達や、部抜の侵攻までを言い当ててるんだから、

~きっと今回も当たるぞっ?!」

「もうーー!」

「ハハハッ、何かが起きるぞぉーー!」

「怖いのにーー!」

アンを呼び捨てにしこの態度…という事は、生得の人間ではないな。

そう感じた五星が訊いてみると、二人はやはりトレランスの住民だという事。

だとすれば、恐らく自分達の仲間や家に無関係なこの事態を楽しむ気持ちも、

少しは分るが…。勿論まだ色々と訊きたい三人。

だが誰かに話したいという欲求を満たしたその二人は名乗る事さえ無く、

足早に青目の後を追って行った。

「オレも分かりますよーアッハッハッー!~で、どうする?帰るかっ?!」

「真似しないで下さい!失礼ですよっ!」

「うーーんっ…。」

悩む五星。

災い…ならば、生まれたての自分達は行かない方が良い、というのは分かるが、

その好奇心を押し殺さなければならない理由といえば、

この世界には消滅があるという事と…夜陽が遠ざかるという事である。

「~~良し分かった!じゃあ戻るぞ!」

「まだ結論出てないよぉーー。でもっ出た!先へ進もうっ!」

「ほっ…。流石です、我が主君!」

「えぇーー!見ようよぉーー!!」

「帰ってから、聞けば良いでしょ?」

「そうですよ。私達が行って、何になります?

それよりここは嵐が過ぎるのを待ち、足手まといにならないのが肝要!」

「…やっぱりさ、お前もオレと同じような感じの、武断派って事にしない?」

「しないしない、ダメだよクリスタルはっ!」

「止めなくても、なりませんよっ…。」

「うーん…でもそれじゃあさ、世故さんやグリンさん、

それに居たらだけど、セイントさんはどうすんの?」

だがやっと歩き始めた二人を止めたのは頭成の正論、ならぬ正義論。

「…ど、どうしよう、命捨てる?

でもそうだっ!そんな事しても、三人は喜ばないよっ!」

「あっ!…まあ、そうかもなっ。」

その判断に安心するクリスタル。

元々助けるだけの力量が無い者を一体誰が責められよう。

三人はそう結論を出すと、九の六まで歩き、

そこからぴたりと張り合わせたように重なる通路を、西へ東へ素早く移動。

気付けば東南の角前にあったあの扉から出て、

ついに1階制覇を成し遂げていたのだ。

そこで拳を上げたのは、何故か地図に興味が無いはずの頭成。

「良ーし完成ぇーー!

じゃあ、あまり深くまで行くと危険だからな!…帰るぞっ?!」

「いいえっ?」

「無理するといけませんからねー。…とでも、言うと思いましたっ?!」

「乗り悪いなぁーー。」

今は早く帰りたいという珍しい頭成。

夜陽を忘れている彼はどうしても予言が気になるらしいが、

二人はそれを思い出させると勿論彼も連れ、あの入口付近の隠し扉から2階へ。

下りた先の大部屋をまだ隅々までは歩いていないと気付き、

二人は首を回し愚痴る頭成を気にしながらも、ゆっくりとそこを埋めた。

「だって夜陽ちゃんだってさー、この話聞きたいだろぉー?」

「はいはい、もう止め!

青目様に会いましたって、あの子はそれだけで喜ぶからっ!」

「…フッフッフッ!少しずつ地図を埋めていくのって、楽しいですよね…?」

「…人を…じゃなくて、良かったな?」

「何の話してるの?」

「~あ!これによると、まだ東南の角を埋めていませんねぇー。

ここには、通路一本分の余裕しかありませんから、

鍵がかかっていない限りは、ここも行けるはずです!」

「うん、じゃあそこへ行こうっ!」

「仕方無い、憂さ晴らしでもするか!」

頭成もやっとやる気を取り戻し、東の扉へ歩く三人。

だが突然開いたそれは、三つの人影を中へ入れた。

「ああっ…!

こういうの何だっけ?何とかの影とかさ、正体不明の敵を思い出すよなっ?」

「うんそうだね!じゃあ一旦退くよっ!!」

「え…?」

本から視線を上げるクリスタル。

するとそこにいたのは、異常に細い体の相手で、

偶然にもヒントになった頭成の言葉を聞いた五星は素早く二人の袖を引き、

十分な間合いをとっていた。

そう現れたのは当然あの骨だけの人間。

二体は剣と盾を引き摺り、それに後ろの一体は両手の槍を振り回し、

壁や床を見ながら堂々とこちらへ…。

五星が下したあの時の判断には数もあったが、

ただ逃げ回るのも面白くないので、今度は戦うと決めたようだ!

「でも、退いた意味あるか?!」

「うんっ!何を持っているか分かっただけでも、十分ねっ!」

「ど、どうしても戦うというなら、たった三体とはいえ2階の敵!

ですから、気をつけて下さいよ!」

そのたどたどしい忠告にくすりとしながらも、迎え撃つ前衛。

頭成にとっては彼らもただの敵だが、

今の五星にとっては少し違うようで一人心の中で叫ぶ。

黒後ろ髑髏……だとすれば、

髑髏兵とでも言うべき姿のお前らはその配下も同じではないか。

…滅べ!

どんな武器も当たれば地獄だが、技には絶対の自信がある二人。

彼女らはいつものようにクリスタルを守りながら戦い、

危機にあった時には助ければ良いと思っていたが、

左の頭成へは両槍を持った一体が、

そして五星の前には剣と盾を持った一体が立ち塞がり、

だがそれをすり抜けたもう一体が、何とクリスタルへと走った!

「うわっ五星ぃ~!」

「させるかって!」

振り向きざま剣を振った五星!

だがその標的だったはずの髑髏兵も振り向くとそれを剣で受け、

今度はその一体が彼女と戦う格好となり、

そしてその間にまたクリスタルへと走る、背中の一体。

まずい!

このままでは、後ろにいる敵が代わる代わるクリスタルへと走り、

自分は満足に戦う事もできなくなる!

「頭成っ!」

微かに悲鳴めいた声色の五星に、

クリスタルへは待っていろとだけ言い、槍をかわす頭成…。

だが柄も短く盾の無い彼は、両手に槍を持った一体に防戦一方となり、

かわすのが精一杯の様子。

ドシュッ!

…とそこへ嫌な音が響く。

「ああ、来るなぁっ!!」

瞬間壁に映ったのはエナセイの光。

五星はそれにクリスタルの危機を察し、叫びながら剣を振る!

「どけぇっ!!」

ギッシャーー!!

そう激しく奇声は発してもただ避けるだけで、威嚇と牽制を繰り返す魔物。

まさか時間稼ぎをし、先に回復役を倒すつもりだろうか。

考えた五星は、右手の剣を横から振り、敵の左手の盾へ。

だが途中で手首を回しその肩を斬りつけると、

相手が振り下ろしてきた剣は盾の左上にある抉れた部分で受け、

その影から突き…、

僅かに退いた体のその頭部にも、踏み込んで一撃!

そのまま足を払うと、剣は点滅して倒れるその体を追い、

また強烈な一撃を見舞っていたのだ。

「どうだぁっ?!」

その足元で動かなくなった一体。

だがやはりクリスタルの方は逃げても逃げても、癒しても癒しても追い回され、

視界が黄色くなってきた事でついに堪えられなくなり、

また必死に叫ぶ!

「五星ぃーー!!」

「待ってっ!」

叫び返しながら振り向き、何と優に大人二人分もある高さまで飛び上がり、

その空中で一回転する五星…。

彼女は、高く高く掲げた一刀で一瞬にしてもう一体の髑髏兵の後ろへ降りると、

その剣は敵を両断!

何と受けた方は振り向くまでの間に滅茶苦茶に斬りつけられ

…反撃する暇も無かった。

味方とはいえその余りの勇猛さに恐れをなすクリスタル。

「だっ!!そ、それ何ですっ?!また凄い勝ち方しますねぇーー!」

「冒険者の特技で、大跳躍(だいちょうやく)!

経験値200も使ったけど、それより頭成はっ?!」

するとそれを見た彼も勇気づけられたのか、

右手の槍を短剣で外側へ払うと、左の槍も上へ弾き、

そのまま左へ踏み込み短剣でその胴へ一撃!

だがその踏み込んだ方の足で蹴りを入れると、

意外にもその相手は振り上げた両槍の中ほどを持ち直し、突きの構えに!

「危ない!距離をとった事が裏目にっ!」

「頭成っ!」

叫ぶ五星とその前を横切るクリスタル…!

だがその両槍にも踏み込んだ頭成は、頭部へ一撃を見舞うと、

そのまま手で素早く後ろのクリスタルを制し、

相手がこらえ、また距離をとってから来た突きには、

何と低く踏み込んでそれを肩すれすれでかわし、

揃えた両剣で薙ぎ払っていたのだ!

ドォッ!!……ガシャン!

一挙に、かわし踏み込みながらの、二重の斬撃!

その絶技に目を点にする二人と、

点滅し、ふらふらと退く敵の横っ面を叩くよう振られたのは、

再び右に持ち替えられた鉄刀。

だが本人は拳をつくって戻ると意外にも五星をこそ褒めた。

「おしおーし!でもお前、本当に強いなっ!

オレだけだったら…クリスタルを助けられなかったぞっ?!」

「うん、でしょう?」

「何だっけ、大跳躍?!良いの覚えたなぁーー!」

「ええ…本当に強いですねぇ…二人とも。

一体何なんです?!もう……もうそれしか言えません!」

「うんっ、これは重畳(ちょうじょう)!!

~かなっ?この分だと、直ぐにでも町が作れそうだね!」

「ああ、それで正解!最強の軍をつくるぞぉーー!」

「強いのは良い事ですが、危険な思考ですねー。」

「そうだっ倒せる!これなら、あいつも倒せるよねっ!?」

静かに頷く二人。彼女らは早速雪辱を果たし、

危な気にではあるが逃げるだけだった相手に快勝。

装備等の戦利品も得て、意気揚々とその先にある予定の扉を開けると

それでも警戒は怠らず、次の戦いへ備えた。

髑髏兵(どくろへい)

悲しいかな迷宮で死んだ体がなるという骨だけの敵。

剣や盾を持って現れる場合もあり、

何も持たない者も多くは素手による爪攻撃を行い、

スペスは多めに持っている事もあるが、

主に2階から3階へ出現する下級の魔物で、

集団で出現した場合には頭を使って攻めて来る場合もあり、注意が必要。

その詳細に頷くクリスタルと、本当に髑髏兵という名だと知り、

あの台詞を口に出しておけば良かったと悔しがる五星。

そして扉を開け東へ抜けた場所は、

左手はまた扉、右手は通路という、十の五地点だった。

「うん、じゃあやっぱりまず角を埋めようっ。その方が後々分かりやすいしっ。」

「いいやでも待てよっ!もしかしたらあの扉の先は、

あの髑髏兵の群に追われた時に開かなかった、扉の先に繋がってるんだぞっ?」

「ではー、覗いて見るというのはどうです?」

「うん良いねっ!」

決めて北の扉へ歩く三人。そこを開けると、

正面と右手は壁だったが左手はどこまでも通路だった。

「…やっぱり、頭成の言う通りかな?

あっ!でももっと先には、曲がり角とか、階段があるかも知れないか。」

「だろっ?

もしもこの先に階段があって、他からは行けないなら、

かーなーり遠回りする事になるぞっ。」

「では行って見ます?ああーでもそれだと、結局頭成に流されている気がっ!」

微笑する五星と笑いながら頷く頭成。

ちらりと見るつもりがやはり気になってという事は、彼女らにもあるようだ。

だがその通路にはどこまで歩いても何も無く、先は六の六で行き止まりとなり、

ここで珍しい事だが、素早く地図を出す頭成。

「……あっこれ見ろ!南側には、確かに扉があったはずなのに、

ここには何も無いぞっ!!」

「う、嘘っ?」

「ええ確かに…。では一応調べてみましょう!」

三人は一生懸命その壁を捜したが、隠し扉の取っ手となるあのくぼみや

何か別な仕掛けも一切発見できず、そこで気付く頭成。

「じゃあ、扉に見える飾りだっ!」

「そうかもっ!ああいう場面では、結構怖い罠だねっ。」

「地図を見ると、向こう側にしか取っ手マークがありませんので、

たぶんそうでしょう。嫌いですこういうのはっ。」

だが頭成は、面白いじゃないかと心の中ではつぶやき、

その表情を見た二人も当然彼の高ぶりには気付いていたが、ここは素直に戻り、

また一番東の通路を南へ。

するとその先からは突然何かが飛んできて、素早く反応した五星に斬られ、

ばたばたと他二人の足元にも落ち、

見るとそれは辛うじて消滅を逃れたキツネモモンガだった。

また素早く判断する五星。彼女は頭成を止め、

まだ生きている魔物をクリスタルにこそ討つよう厳命!

断れば何を言われるか分かっていたので、彼も渋々それに応じた…。

ドッ ドドッ!

それを見ながら五星に訊く頭成。

「…魔物の場合さ、攻撃を受けて瀕死になると、動き鈍るの…?」

「…え、知らなかったの…?!」

「ふぅー終わりましたーー!

…でもこれ、ヌイグルミみたいですよねー。」

「でしょう?だからこそ、君にって!」

「ダメだぞ、魔物なんだからっ!

それにどんどん倒さないと、お前の経験値はどうすんだ?」

「アハッ、そうですよねぇー!

僕も大跳躍を覚えて、飛んで行きたい気分ですっ。」

「良いけど、開始直後から逃げないでよねっ。」

「じゃあオレが覚えようかなーー。階級あるの?」

歩きながら頷く五星。

その彼女の話によれば、大跳躍は下級から前に四メートル、

ため無しでも上に三メートル、その上助走をつければもっと遠くへも飛べるらしい。

「すっげー!

じゃあ壁につかまったり、堀を飛び越えたり、色々と使えるなっ?!」

「そうですね!ジャンプして逃げると、可愛いかも知れませんっ。」

「…怒るよっ?」

派手な技でもあるが、いざという時に便利な特技を覚えた五星。

三人はそれからも、真似して大跳躍を覚えようかという頭成をなだめる等、

声を潜める事も無く堂々と角を曲がり、南側の通路を進んだ。

つまり十の一から、五の一面まで。

だがそこから北への角を曲がり五の三まで歩いたところで、突然身を低くする五星…!

勿論後ろの二人も見習ったが、

首を伸ばせばその彼女のずっと先の壁にはとても小さな二人組が居て、

しばらくそうしているとその相手の方も、とことこ歩いて来るのが見えた。

「…何あれ、小人っ?向こうも気付いたのかなっ…?!」

「…大丈夫だろっ。大勢でもないし。二人か…?」

「…いったい何です…?ああなんだ、子供じゃないですかっ。

まさか貴方達はサウスティーカップの方々ですかー?」

「…だめっ…!」

小さく鋭く言う五星に、頭成も手で座るよう合図したが、時既に遅く、

クリスタルは笑いながらその二人へ走ると、やはりしばらくして一転。

驚いて戻って来るではないか!

「どわーー!逃げて下さーーいっ!!」

「~何っオレに逃げろって?!それより、エナセイの準備だ!」

「いいや、見た事も無い奴だ!クリスタルに従うよっ!」

その追って来た相手とは、

全身をごつごつした蛇のような鱗で覆われた…赤ん坊で、

それは赤い目を釣り上げ牙もむき出しに一本角を傾け、勢いよく走って来る!

「あれも魔物っ?!それとも、鬼のような人っ?!」

「わ、分かりませーんっ!!」

「良いから、決めたからには走るぞっ!

それでまた相手の足並みが乱れたら、そこで反撃だっ!!」

悔しいかなまたも全速力で角を曲がり、来た道を戻る三人!

だが五星はしばらく走った東南の角で頭成の肩をつかみ、

今は何もかも突き飛ばしてしまいそうな勢いのクリスタルは、

…気が済むまで行かせてやる事に…。

その静寂を裂いたのはもう一つの叫び。

ギャーーー!!

闇から現れた一体の悪魔の子は口から唾液を撒き散らし、

それを単純に汚いとも思ったが、

五星と頭成はやはり一切手加減せず、その体を左右から攻撃!

すると相手は赤ん坊とはいえ2階の敵で打たれ強かったが、

手足が短い事もあってその攻撃は当たらず、しばらくして絶命。

それから来たもう一体は腕組みをする五星達と仲間の死体とを見て逃走を始めたが、

せめてもの情けで素早く追いついた彼女らに斬られ、あえなく倒されてしまった。

小悪魔

主に2階から3階へ出現。

子供でも悪魔は悪魔で悪魔であり、この一本角で赤いつり目の赤ん坊は

全身がごつごつした蛇の鱗で覆われ、歯の生え変わりも、

小さな牙から大きなものへとなるだけで、単細胞で凶暴。

親悪魔からも人を苦しめる為にはと攻撃しか教わっていない為か、守りを知らず、

奇声を発し、ほとんど一心不乱に爪や牙で攻撃してくる場合がほとんど。

大体複数で行動し、僧侶には過敏に反応するという噂もある。

「な、なるほどー。怖いですねー。分かりましたぁー。」

その詳細を五星の本で見せられ納得するクリスタル。

だが彼女が見せたいのは、そこではないらしい。

「そうじゃないのっ。」

「悪魔は、悪魔で、悪魔だからっ!」

「何ですー、このくどい言い方はぁーー?!」

「それは良いからっ!可哀相って気持ちも…うん、少しは分かるけど、

次からは倒そうね?」

「僧侶嫌いだったのか…。ブフッ!

それにお前は、やあーー!って挨拶に行ったんだもんなっ?」

「人型だと、魔物か人か、分かり辛いですねぇー。

それに僕も言わせてもらえば、攻撃範囲は狭かったのでしょうが、

当たれば大変だったのでは?」

「うん、それはこっちが反省!買うのを忘れて薬草も一つしかないし、

怖がってしまったら一方的にやられて、使う暇も無かったかもねっ。」

「ええーそうかなぁー?!あんなの落ち着いて戦えば、

クリスタルでも五分ぐらいで倒せるぞっ。」

「長いなぁーー。」

「フフフッ!」

「それに宝箱はっ?!全然出ないぞっ!」

「ですがさっきの小悪魔、40スペスも持ってましたよっ。」

「おおっ!じゃあどんどん貯めて~、

オレ達の家を買える日もそう遠くないなっ!」

また愚痴を言ったり小さな事に喜んだりと忙しい二人。

まだ戦利品の方も依頼に比べては僅かなスペスと、幾つかの装備だけだったが、

五星にとってはこんな時間さえ楽しく、薄暗い迷宮も明るく進む。

そして北へ歩いた先を、初めに髑髏兵の群に遭遇した方への扉は開けず、

更に西へ。

先の四の三地点から西北へ向って四面の正方形となった部屋は、

右手に、東へ行ってそこから折り返すような形の壁一枚を隔てた道と、

西北の角からも北へ行ける道、それに西と南への扉という

四方へ行ける大部屋だったが、

そこで今度こそ西北の一面に三つの人影を見つけ、

どこか救われたような気持ちで駆けだす三人。

彼らは皆えんじ色で楕円形の肩当てに黄色に黒の虎柄の鎧、

それに黒い腰巻と灰色のズボンとやや奇抜な印象の姿ではあったが、

同じ三人組というのも声をかけやすかった理由だろう。

今は五星とクリスタルも、埋める作業も忘れ部屋を斜めにまっすぐ彼らへ。

その話しこむ彼らへ元気に挨拶した。

「こんにちはっ!」

「~うんっ?ああ、こんにちはっ。」

振り向いたのは、肩までの髪の前を二本だけ垂らし、

細く鼻筋の通った目元が涼しげな美男。

彼は五星らを好意的な冒険者と判断すると、早速棍棒をかついだ坊主頭の巨漢と、

それに緑髪を逆立て腰の短剣が似合った盗賊風の小男と共に、

自分達をトラノムレと名乗った。

「…トラノムレ、とにかく強そうな名前ですねぇっ。」

頷く前髪の美男。

だがそれに答えようと前へ出て来たのはさっきの小男で、

よく見れば彼は細い目の釣り上がった狐顔でもある。

「ああそうだ。シピッドのトラノムレ!聞いた事無いだろ?

でもそれは今だけだっ。覚えておくと良いぞっ!」

「はいっ、よろしくお願いします!」

続けて自分達が傭兵団だと説明する男。

それはともかく素直な五星は他二人の事も含め自己紹介したが、

丸目に太眉の一見優しそうな坊主頭の男も、三人に興味を持った様子だ。

「それで君達はー、何で10階へ行かないんだ?」

「それは、どういう意味です?」

そうか知らないのかと微笑する前髪の美男と狐顔の男に、顔を見合わせる五星達。

実は丁度今もこの三人は、それについて話し合っていたところなのだが、

今日の10階ではある催し物があり、それはある特定の条件を満たした者が

珍しい呪文を習得できるというものらしく、他二人もそうだが、

それには興味津々の頭成。

更に坊主頭が言うには、それは魔王が執り行っているものらしい。

「えっ、ま、魔王?!そんなのが居るんですかっ?!」

「ああっ、もし居てもオレは、魔王の褒美なんて嫌だけど、

二人は欲しいって言って……でもその居るって事さえ噂で、

はっきりとはしないけどねっ。君達も闇呪文を覚えたいならー。」

だがそれを止める前髪の美男。

彼はじっと五星らを観察し、まだ生まれたてだと分かったようだ。

「そうなのかっ?

ずいぶん堂々としているから、オレ達より慣れた冒険者かと思ったぞ?

自信があるんだなー!」

「アハハッ!それはどうか分からないけど、装備を見れば大体だろ。ねっ?」

「ええっ実はそうなんです。ハハッ!」

するとまた口を開く狐顔の男。

「じゃあ、普通は闇術(やみじゅつ)なんて

魔物が使うものだって事も、知らないな?これも覚えておいた方が良いっ。

不思議だったろ?だから今の浅い階には、ほとんど人がいないのさっ。」

「なるほどぉー。」

納得する五星だがそうなるともう一つ疑問がある。

「でもそれじゃあ、もっと深い階に行った人が、

そこへ戻って来て、簡単に条件を満たしてしまうのでは?」

「おおっ、子供ながらに鋭いな!

でもな、大体皆面倒臭がって、異次元階段を使うだろ?

そうなるとずっと浅い階で何が起きてるかなんて、

そいつらは知らないらしいぞっ。」

「あっ!生まれたてで、良い事もありますね~!!」

「そうそうっ!だからオレも、二人にそう言ってたんだっ。急ぐなってね。

…でもこのままだと、3階へも行けなそうだなぁ…。」

その楽しい話題に、会話を人任せにしておくのが嫌になったのは頭成。

「じゃあ、この階が精一杯のオレ達も、まだ下には行けませんかねっ?」

「何ですかその言い方はー?

自分で無理だと言ってるようなものじゃないですかー!」

あきれるクリスタルと、そんなおかしな質問にも真面目に答える、前髪の美男。

「アハハッ!まあまあ金髪の君も、良いじゃないかっ。

何か~そうだなぁ…昇降機を見つけるとか、護衛を雇うとかして行けない事もないし、

あらゆる可能性を考えた方が面白いよっ。」

「そうですけどー。」

「ほらほら、もっと柔軟な思考を持てよっ…!」

「でも君は思考より、もっと肩の力を抜いて、柔軟な対応を心がけた方が良いよっ。」

その五星の鋭い意見には、笑い出すトラノムレ。

彼らはその世間話が済むと、自分達も実はまだ5階が精一杯だと告白。

つまりそれは異次元階段を使ってという事なのだろうが、

一応それぞれに名乗り、西の扉へと消えた。

「…ふーんっ、ウィズダムさんに、スラッグさん、

それにゲートキーパーさんかーー。

そういえば今のところ英語の名前って、クリスタルだけだねっ?」

「でも、もしも彼らの絵があったら、

みんな見た目通りの名前だから、大体誰が誰だか、ハッキリと分かるなっ?」

「ハハッ!

でもそれは…頭成も、五つ星という意味の五星も同じでしょう。

きっと彼らもそう思ってますよっ。」

「じゃあ、よく意味が分からない名前も、クリスタルだけだねっ?」

「ああっそうだな。何でお前がクリスタルなの?」

「おおっ、言いますねぇーー。」

軽口で戦いながらも、自分達は南への扉を開ける三人。

開けて二面進むと右手にだけ道が続いていたのでそのまま西へ進むと、

何とそこに居たのは、またあの三人組。

という事はどうやらこの通路は奥で繋がっており、

五星達から見ても先にある北への扉を開けようとしたところで、

こちらに気付く美男。

五星は二人が教えたその事実を疑い、知人に似せて出てきた幻覚等、

また迷宮の仕掛けではないかとも思ったが、

近づいて行くとやはり相手はウィズダムだったので、安心して声をかけた。

「アハハッ、よく会いますねっ。

でも考えてみれば、そんなに珍しい造りではありませんけど。」

「じゃあこういう迷宮とか、好きな方?」

「ええっ大体私達は、何でもやりこむ方ですねっ。」

「うん、それでこそ意味がある。」

「ですよねぇー!

空いた時間に、ちょっと浸りたいだけの世界を望むなら、

旅行とか友達と遊びにでも行けば良いのにって、思いません?」

頷くトラノムレの三人。するとスラッグはそのいかにも冒険者という言葉には、

何かに期待するよう大きく目を開け、三人の前へ。

意外にも素直な姿勢で訊いた。

「でさっ、偶然ついでにだけど君ら、下へ行く階段知らない?

オレ達大陸ではシピッド周辺の盗賊を狩る依頼ばっかでさ、

腕には自信あるんだけど、迷宮はさっぱりでねぇ……。」

だが勿論首を振る五星。

「いいえっ。でももし良かったらこれからもこうして、情報交換しましょう。」

「それは良いっ。」

そう言ってスラッグにも頷き、扉を開けさせるゲート。

彼らもサハピと同じように普段は略してそう呼んでいるらしいが、

せっかくなので五星達もその後へ続くと、そこは西から東への二面となり、

警戒しながら行き着いた先には、何と三人にとっては初となる謎の看板があった。

それは丁度六人の頭の高さにある横長の古めかしい木で、

それには左からこう書いてある。

若くして深き闇を知りたければ、手探りで進め。それは意外と近くにあるだろう…。

当然その意味を考える六人。

その間に五星が看板について訊くと、

ウィズダムはそれにも気持ち良く応じてくれた。

「ああ、まだ君ら本当に生まれたてなんだねっ。

たぶんこれは、魔物や神が作った…というのでなければ、

商人特技の看板制作だよっ。自宅設定した場所以外に立てたい場合や、

店等にかけたい場合も、芸術に自信が無い人は彼らに頼むんだっ。」

「は、はあ…。」

一生懸命咀嚼(そしゃく)しようとする五星に、

ウィズダムに対して素早く訊く頭成。

「でも覚えれば良いだけ、じゃないですか?」

「ああ、それはそうだねっ。でも経験値がもったいないんだっ。

鍛冶屋のように材料を集める必要は無いけど、

自分で使ったとしても、一回一回作るのにスペスはかかるし…、

商人に頼んだとしても、技術料はそう高くもならないからねぇ。

それに何といっても習得には2万も必要だから、

普通は彼らに頼むのが一般的かなっ。」

驚くクリスタルと五星。

「そ、それはーー頼んだ方が良いですねっ!」

「うんそうだねっ。2万もあれば、別な特技を覚えますよっ。」

「そうだろっ?その看板制作は階級無しの特技で、

覚えてからは色々な種類の看板を彼方此方に置けるけど、

どれだけ頑丈に作っても、壊そうと思えば壊せるし、

まあ迷宮では伝言とか合図、

それに注意書きに使ったりする場合がほとんどだねっ。

ただ大陸と迷宮で計十一ヶ所に立てられるし、

拳闘等の武術大会に使う勝ち抜き戦と総当たり戦の表示、

時価商品の表示、それに賭場の自動計算してくれる物なんかにも、

この特技が使われる事がある。そして何より便利なのは、

手に持つ道具としての高札や旗とかも作れる事だねっ。」

するとそこでその黙って聞く二人に隠し、赤茶色の本を出す頭成。

だが五星は良い意味でも目敏い。

「……今、何か覚えたでしょ?経験値、余裕あるはずだもんねっ。」

「さあっ、~どうだろうなぁっ?」

「まあ、それは楽しみにしておきますが、

それよりこの文章の意味が大体分かりましたよっ。ねぇっ?」

だがそのクリスタルに首を振るスラッグとゲート。

「あ…あれっ?まあとにかくこれは、恐らくですが、

隠し扉の先が3階への下り階段って事で、それは2階への上り階段から、

そう遠くない場所にあるって意味ですねっ。」

するとゲートを見上げ、叫ぶスラッグ。

「ああっ!!だから見つからなかったのかぁーー!

しまった!じゃあやっぱりあそこだ!!」

「うんっ、もう一回行って見るか?」

「君らも聞きたいっ?」

上げ調子に訊くウィズダムに耳をふさぐ三人。

今はまだ自分達の力だけで楽しみながら進みたいのだろう。

だがトラノムレ達の方はそれが分かると、

これを残した誰とも分からない相手とクリスタルに感謝し、

そこを早々と去って行った。

「じゃあねぇ~!」

「ええ、また会いましょう!

うーーんそれにしても良いねっ、この看板!

何かいかにも、迷宮を探索してるって感じでっ!」

「ああ、じゃあ行こうっ!新たな敵が、オレ達を待ってるぞっ?!」

「なんか寂しいですねーー。

やっぱり彼らを追って、一緒に3階まで下りますか?」

「アハハッダメダメッ。」

「そうだぞぉー。やっぱり自分達の力で……、

いいや、そうだ!そうしようっ!!行くぞっ?!」

「ええっ、そうしましょうっ。」

「ダメダメッ!何、クリスタルまでーー?!

ウィズダムさん達は私達よりずっと強いの!

そんな事してたら全滅しちゃうでしょうー!」

寂しがり屋のせいで命知らずにもなりそうな刹那的なクリスタルと、

頭成の方は、さっき覚えた特技で何とか強敵と戦いたいのか、

いつも通り生き急いでいるが、

ここはまたいつも通り冷静な五星様の強い意向により三人は扉を出て、西から北へ。

恐らくウィズダム達が開けたであろう、一の二から北への扉の前まで。

するとそこで五星がまた気配というものを感じたようで、

急に立ち止まってしまった。

そこまで後たったの五メートルという場所でじっとその扉を凝視し、

両手を広げ、後ろの二人を抑える彼女。

「…待って待って!きっと何か居るから…。」

「そんな事言って、またウィズダムさん達じゃないか?」

「…ええっ?!何故ここを二週するんですーー?

…油断し過ぎですよ!野花うさぎさんの隠れ蓑の術だって、

この五星の勘で分かったんですからっ…!」

実はそろそろ帰ろうかと思っていたので、

またウィズダム達だろうという頭成の言葉を信じたい五星。

だが考えてみれば、ここは西の端で、

上り階段までは二百メートル以上もあり、一切油断できないのだ。

数秒考えて後無言でゆっくりと退く五星。

「えっ、帰るのっ?!」

「…うんその為にも、静かにしてっ…!」

「も、もう遅いと思います。」

その言葉と同時、ガンッと大きな音を立て開く扉。

見るとそこに居たのは、

男か女かは分からないが黒目が左右へ寄った老人の大顔に、茶色い毛を生やし、

その長い部分が後ろに二ヶ所だけあるという、気味の悪い首だけの魔物…。

「ぎょわぁーー!!」

悲鳴を上げるクリスタルに、

いつもは冷静な五星さえその気味の悪さには驚いてしまったが、

脅える彼を見た彼女は素早く決断。

頭成には鋭い眼を向けその軽挙妄動さえ抑えた!

「たっ、退却っ!!」

「ええ~~!?」

「何が、ええーですーー?!当然でしょー!!」

逃げ出す二人に、頭成だけは踏み止まって二人を先へやろうと構えたが、

それはずるずると床を這いずるとまさに蠢き(うごめき)…、

たまにぴたりと動きを止めたかと思えば、長い毛を彼の鼻先まで伸ばし、

その悪意ある動きでいつまでも追って来る!

「うわぁ~~!…やっぱオレも逃げようっ。」

そう決めた頭成は、二人の背中を追いながらそのまま四の二まで。

トラノムレに会った部屋の前まで来たところで、願うように叫ぶ!

「わ、悪いけど、追いつかれそうだ!

さっきの事は謝るから、一緒に戦おうっ!!」

「嫌ですよぉーー!」

「うう~、分かったぁ!!」

勇気を出して振り向く五星に、

何故か頭成は魔物の長い毛に頭から足先までを撫でられ、微動だにしていない。

「キャーーー!!」

「何かゆっくり過ぎて、逆にかわせない。」

「ふざけんなぁーーー!!」

叫びだがエナセイを準備するクリスタル!

頭成が大きく距離をとって確認したところ、そっと触られただけだからか、

不思議にもダメージにはなっていないようだが、

もっと離れて見ていた五星とクリスタルには、

彼の体から何かがきらきらと消えていくのが、はっきりと見え、

半ば強制的に彼を退かせると、その状態を見る事を勧めた…!

「君は本当にもぉ~!!」

「ごめん!でも、何とも無いぞ!健康だってっ!」

「もうそれは良いから、まず飛んで下さい!」

そう訳の分からない事を言ったクリスタルだが、

彼は五星の腕をつかみ大跳躍を要求!

その間にも魔物は向って来たが、五星は寧ろ頭成にこそ、

さっき習得したであろう秘密の特技を実行する事を厳命!

「戦闘系だよねっ?!」

言いながらその胸倉をつかんで何度も確認すると、

最後には彼を魔物の方へ投げ飛ばしてしまう!

「なっ!!そこまでするかっ?!」

「え、援護するから、速く倒してっ!!」

「あれに鳥肌が立たないのは、君だけなんですからっ!!」

自業自得とはいえ…こんな場面で使う事になろうとは…。

彼はやや気が引ける思いだったが、

右手に掲げた鉄の刀を鮮やかな赤に輝かせると、それで一閃!

魔物は大きく退き、

五星はそこに大跳躍してまた跳び斬りを降らせると、

そのまま目にも留まらぬまるで瞬間移動のような動きで退き、

驚くクリスタルに並び、

頭成の方は、刀と剣で迫る両方の毛を外側へそらすと、

大股に踏み込んで蹴飛ばし、

その時急に速くなった鞭のような一撃は受けてしまったが、

また刀を赤く光らせ、それを思い切り投げつけていたのだ!

…ドッ!!

ごあぁ~~~!!

また気味の悪い叫びを残し仰向けにへばりつく魔物。

頭成は早速宝箱を探しにそこへ二人も呼んだが、

彼女らの方は、喰いしばりってあるでしょと言い、中々近づいて来ない。

「…悪かった…。

じゃあ探すぞぉー!えーと…あった!!良しっ!!」

「良くないよねー?」

「ですよねぇーー?」

だが頭成は、罠の解除をしながらも、怖がる二人をあやす。

「まあまあほらっ、戦利品!何かなー?

それに大跳躍からの素早い退き、アレも覚えたろ?

アハハッ何て名付けるかは、五星次第だけどさっ。」

「名前なんて無いよ!」

「一瞬だけですけど、

あれも経験値を使って覚えた、特技かと思いましたっ!」

「アハハッ!……え、そうなのか?」

「いいえっ。で、でも凄いでしょう?」

「ええ、凄い応用力ですっ!」

愚顔毛(ぐがんもう)

男女の判別ができず、黒目が左右へ寄った老人の大顔に、

茶色い毛を生やし、後ろに二ヶ所だけある毛が長い部分で攻撃してくる、

気味の悪い魔物。主に1階から3階へ、低確率で出現。

元々は…素人いびりとも呼ばれ、

その名の由来としては数秒だが麻痺攻撃や、

スペスの輝きや薬草の匂いを好む為それを奪う攻撃等、

生まれたてが嫌がるようないやらしい攻撃をしてくるからだが、

誰が調べたのか臓器や筋肉に骨等の中身は無く、

もっと下階にいる魔物が人の卑しさを凝縮して造った

合成魔獣だという見方が根強い。希少種だが性格は負けず嫌いで、

やられたらやり返すまで追ってくるので、挑発は簡単。

そして何故かその詳細を見て目を隠すクリスタル。

「ああ~~ぐぅっ!!

この絵、触ると動きますから止めた方が良いですよっ…。

でも一体で良かったですねー?!」

「うん。もう二度と会いたくないねっ。」

「おいおい、しっかりしてくれよ!?気持ち悪いだけだろっ!

それにさ、オレの強襲の事も訊けよっ!」

ではとその特技を褒め、頼りになるとおだてる二人。

だが一応気になる事も確かめてみると、

やはり彼は持っていた全スペス200を取られていた。

「ああーやっぱりぃー!あの長い所で触られた時、

一瞬だけど、キラキラッて光ってたもん!!」

「このグガンモウめぇ~~!!」

「ま、まあまあ、頭成の分だけの被害ですし、

倒せたんですから、それで良いじゃないですかっ。

そうだ!だったら今度は逃げましょうよっ!」

「………。」

「難しい問題だなーー、五星。」

「………。」

財と主君の意向、それに背を向けず戦うという事の

どちらを優先させるべきか、考え込んでしまう頭成…。

それは冷静に考えれば分かりそうなものだが、

動揺した彼は、罠は解除したが、鍵開けには失敗してしまい、

その沈黙は新たな戦士の特技・強襲について説明し、堪える事にした。

「あの強襲なぁ…、

実はたった300で習得できて下級でも一・五倍、

中級で二倍、上級で四倍、最上級にまで鍛えると、

六倍もの威力を発揮する技なんだっ!」

「へぇ…。」

「ま、まあまあ、200スペスなんて、何とかなりますよっ。」

ガチャガチャ、カチンッ!

「全気力を使うから、慎重に場面を選ばなきゃいけないし、

たまるまで待つのも我慢だけど、かなり使えるだろ?」

「うん、分かった分かった。それで、何が出たの?」

「希少な魔物ですからねーー。」

「んっ?」

中を覗き込み首を捻る頭成。

だがその中身は何か鍵のような物と、220スペスだった。

「やった、じゃあ取り返したねっ?!」

「あっそうか!倒したから、取り返せるのが自然だ!」

「で、ですが、何でも力で解決している気がします。」

「それは良いよ~~!でその鍵は何っ?」

その詳細を見る頭成。

すると三人はまた機嫌を良くし、帰りの階段近くでまた二体の小悪魔を見つけたが、

奇襲はかけず、そっと階段を上った。

義賊の鍵…

義賊の特技が無くても宝箱の鍵や、大抵の扉は開ける事が可能な物だが、

消耗品でしかも高額。

特に扉に使った場合は一度だけで消えてしまうというから、

合鍵のような位置付けで、熟練の義賊が作製可能。

頭は平らで丸く、そことのこぎりのようにギザギザになった先の間には、

小さな紫の宝石が光る。

「じゃあオレが使って良い?」

「うん、お願いっ。」

「僕達も使ってみたいですが…そうだ!どうせなら、

みんなでそれぞれの職業の特技を、五つ以上覚えましょう!」

そう言って目を輝かせるクリスタルに、

歩きながらではあるが顔を見合わせる五星と頭成。

その意味はクリスタルいわく、

ある職業の特技や呪文ばかりを五つ以上覚えると、特訓というものを使えるようになり、

それは自分が覚えたものなら相手が覚える際に必要な経験値を下げ、

またそれを半径十五メートル以内でならだが、

威力と効果は無くとも実際に特技を使って練習できるので、

感覚をつかむにも便利なもの。

聞いて驚く頭成。

「~え、そんなのあるのっ?!どこに書いてあったっ?!」

「普通に書いてありましたよー。」

「クリスタルって、役に立つねっ。」

「だなっ!」

「こんな当前の事で褒められても、全然嬉しくありませんねぇー。」

それは要するに専門家になれるという事だろうが、更に補足するクリスタル。

その説明によると、合成特技や合成呪文もあるらしく、

それは例えば、炎の呪文を覚えたとしても、

最初はただ小さな炎の玉が飛んで行くだけで、

それを矢のように飛ばすには、型が必要だが、

組み合わせると野花うさぎのマインドアローのようにもでき、

しかも特訓をしてもらう際には、

一つの技や呪文として教えてもらえるので、とても便利な法則だとか。

これはその強さや性質によって、一つにする為の経験値が必要になるが、

緊急の場合等も設定し直す必要も無く、

実はまだクリスタルさえ知らない君主の特技で

取捨選択(しゅしゃせんたく)という、

消滅後も三つだけ特技や呪文を残せるものにも使え、

一つのものとして残せるので、合理的な手段といえる。

その特訓に驚き同時に喜ぶ二人。また上がって直ぐの階段近くでは、

弱い魔物と戦っていたらしいフォンミアに会い、

義賊の鍵の事についても訊き、それは長い人には売れない場合もあるが…、

今でも生まれたてや盗賊等には、3000スペスで売れる場合もあると教えられ、

自分達でもまったく嬉しい事続きに思えた三人は、なんだか少し申し訳無い、

だが嬉しさに身をよじる気持ちで出口へと向った。

「ちょっと待った!……まさか、また一人じゃないよね?」

「えっ?!ああっでも今度はぁ~、薬草もあるからぁ…。」

「ダメでしょー!もう来なさいっ。」

「はーいっ。」

結局彼女も連れ四人で階段を上る五星。その先頭の彼女と頭成はそっと振り返り、

クリスタルがフォンミアと楽しそうに話すのを、微笑して見ていた。



赤い空や海というのは…夕焼けを想像させ、

赤い大地というのもまた鮮やかな砂浜だったりするのだが、

今日も魔物を倒し、その達成感の中にいたはずの五星の目に映ったのは、

そのどちらでもなかった。

火と嘆きに閉ざされ、恐慌をきたす人々。

その物を次々と無に変える鋭い音が響く中で、

あの芳ばしい香りを漂わせていた肉屋から親切な丸帽子の青年がいた店まで、

露店は右から左へなぎ倒されるように全滅。

奥にある城の北側の一角さえぶち抉られ、

西も東も火柱が立ち背中へ走って行く者は一人も戻らず、

瞬間彼女の脳裏をよぎったのは当然あの…青い瞳だったのだ。

あの海を思わせる青で火が消せれば良いが、

誰も彼も逃げ水をくんでくる者もおらずそれは燃え広がるばかり。

何て事だ…!

そう彼女は胸中で一言。

だがまだ被害の少ない南へ走り出すとベンチにもたれかかる者や、

地面に大穴が開いてそこへ仰向けに倒れる者等の死体が彼方此方にあり、

相手が災害にせよ侵略者にせよ、死力を尽くした者も大勢いたのだろう。

つまり四人は彼らの勇士を見ていないだけだったのだが、

まず誰が何の為にこれをしたのかを、考えなければならない。

するとまず頭成が生得解放戦線の急襲か

または野花うさぎ達の報復だろうかと、常識的な推測をし、

それを考えてみる五星。

もしもこれがあの場は上手く収めたように見えたトレランスによる報復だとすれば、

世界最強のアン軍を相手に戦力やこの計画に費やす時間に余裕があり過ぎ、

もしも急いだならますます無謀で後先の事を考えていないようにしか感じられない。

そう何故なら彼女達アン軍は100階到達時ほどの情熱は無かったとしても

戦いを好む上級者の集団で知識や経験も豊富なはずであり、

この世界に費やす時間も長く、そうなると彼らの事を詳しくは知らないが

ソーンジやブリガンテがここまでの攻撃を仕掛けてしまえば

後の大害は言うまでもなく、その決定もとても難しくなるはずなのである。

そしてその彼らを除けばこれはいずれにしても、元はアン軍である彼らの内戦。

だがあの灯の店が破壊された騒ぎは、

生得の隙を突きたいAZAKI達が動く機会にはなっても、

プレイらが報復する理由には、なり得ないのではないだろうか。

そう彼女の思考においてのプレイらは未だ追われる身…。

しかも逃げたばかりの野花うさぎ達を保護する必要さえあり、

対して生得の方は十分警戒していたはずなのだ。

ではやはり…生得解放戦線…。

当然これをプレイ達の計画した報復として

たまたま機会を得ただけと見る事もできるが、もしも彼が賢い人間なら、

自分達に注意が向けられている今は絶対に選ばず、

反対に血の気が多い人間なら、

これはもうとっくに起きていなければならないはずなのだ。

だがこの幻想世界は途方もなく広く、

どこにどんな勢力や人間がいてもまったくおかしくない。

結局そこへ行き当たった彼女は詳しい情報を得る為

逃げる住民を捕まえようかとも思ったが、

そんな一将のような働きは頭成にでも任せれば良く、

今はまず的確な命令を出さなければならない。

そういつもは仲間を冷静さへと導くクリスタルさえ、

こんな時には頼りにならない。

「な、何ですこれはっ?!…そうだ世故さんはっ…?

グリンさんはどうしましたっ?!」

「落ち着けって!まず、ここで何があったかだ!」

「いいや違う!何が起きているかだっ!」

城の正面からの轟音にそう叫ぶ五星と、

フォンミアはクリスタルの袖を引き、二人にも逃げるようにとその説得を促し、

だが険しい表情で進んだ頭成の目に飛び込んできたのは、

東側の通りへ走る住民と、それを叩き潰す巨大な黒い手…。

それに西から追いすがった騎士は地面すれすれを飛んで来たが、

その二つの体を比べる限り巨大な手のみの魔物は大体、八メートルはある。

目の当たりにして体が動かない四人。

魔物は大陸に現れないはずでは?

ガゴンッ!!

…とそこで騎士に体当たりし、自分の体ごと家に押し込める魔物。

そうかあれは誰かの召喚獣だ!

だとしても誰のものだろうという疑問は残るが、そう五星と頭成が話していると

両者が貫いた家の壁から出て来たのはやはり…魔物の方のみ。

そしてその大きな一つ目は手首を軸に、こちらを向いたようだ。

叫ぶ五星。

「速く後ろへっ!」

「分かった!」

「あ、あれは確かトレランスに居た、トメントという方だったのではっ?!

助けましょう!」

叫ぶクリスタルに、二人は短く首を振りその無意味を悟らせ、

やや残念そうな彼も、今度はフォンミアを落ち着かせる事に忙しくなり、

すると魔物は、まるで油が落ち地面に同化するように消え、

だが辺りは城からの言い争う声や見えなくなった敵の位置情報が飛びかうなど、

今迄以上に騒がしくなった。

当然魔物が何所へ行ったかも気にはなるがそれは目に任せ、耳は城へ向ける五星。

「い、いいや、ここは危ない!やはりアン様を逃がすべきだっ!」

「馬鹿なっ!お守りするにしても、それはこの城こそ最適だ!

貴方だけは我らがお守り致しますので、どうかご安心を!」

「いいえ、こうしている間にも住民達が!

彼らの為に戦いましょう!一体何を躊躇われますっ?!」

「た、戦うにしても、弱ってからにしましょう!」

「この卑怯者!アン様に不義をすすめるかっ!!

まずお前から斬ってくれる!!」

噂では支配者然としたアン軍がこの期に及んで、迷うだと…?

あれが来てどれ程経ったかは分からないがその武骨者達だけでも集め、

さっさと戦えば良いではないか。

普段は威張り腐り、まさかこんな時にだけ一住民に成り下がるつもりか!

そちらは見ず目を怒らせる五星。

だがそんな時に広場から走って来たのは、青く短い髪の黒鎧の男と、

フードで顔を隠した白いローブの男。

「~それもそうだが、お前の兄上がアレを倒したのは何階だっ?!」

「た、確か60階と聞いたが!」

…60階っ…?!

つぶやいた五星さえ、どうしても印象だけでものを考えてしまっているが、

だとすれば100階到達したアン軍で十分倒せるはずだ。

だがこれは、通常迷宮にいる物とは訳が違うのか、

またその時は…軍だったからか、

ぐだぐだと言い争うアン軍の声は一向に止む気配が無く、

それでも深読みしてみれば目の前の二人もアン軍の末端で、

部抜や竜鱗は野花うさぎ達を捜す為に今は留守だろうか。

するとまた、気になる事を口走る二人。

「して今度は、いずこへ行ったか?!」

「分からん!だが、今迄の動きを考えれば……。」

そのローブの男と目が合う前に走り出し、城の北側へ行く五星!

頭成とクリスタルも短くだからこっちだと叫びフォンミアを励まし、

むしろ流れに逆らうような四人が城の西側へ達した頃

予想した北側に現れ、爆風で城をも揺らす魔物!

その力を溜めていた事で四人は助かったのかも知れないが、

瞬間悲鳴さえ忘れるその大きな衝撃には、頭成さえ叫ぶ。

「~なっ、何で逃げないっ?!」

「見ておきたかったのー!でも、もう南側へ出るよ!!」

「では走りましょう!!」

「遅いよぉーー!!」

「ご、ごめんね!でも今は走って!」

魔物が城の正面へ回って来る恐れもあり、広場へは行かず、まず西通りへ入る五星!

それぞれ必死に走っても、まだ生まれたての彼女らの足並みは乱れなかったが、

丁度門へ後一歩という所で見た物は…あの噴水ではなかった。

そうその建物の陰で見たものは、

バッ…と大きくだが鈍い音を立て、体を広げる魔物!

もう西日の時間でその陰は見えなかったのだ。

油断した!

思いながらも頭成は、素早く五星に視線を…。

すると彼女はその手を引くと、体を傾けてクリスタルの方へ投げ、

自分では装備も出しあの大跳躍を使って、倒れて来る四本指の上へ!

欠片と共に舞うと前へ回転してその背中を蹴飛ばし、

また大きく後ろへ宙返りしていたのだ。

着地し、門から出る五星。

「あっ、ぶなぁーー!」

「馬鹿!オレを守ってどうするっ?!お前が主君なんだぞっ!!」

「え…だって、この技しかないでしょう?」

「それより逃げましょう!」

「あ…!」

すると何故かそれ以上逃げようともせず見上げるフォンミア。

三人も見るとその空にはいつの間にか、銀色の蝶がいて…、

実は銀鎧の剣士だったその人は

轟音と共にまるで一本の剣のように魔物を突き貫けると、

後ろ回し蹴りでそれを右へ!

そこへ両剣を走らせ、そのまま足を軸に反対へ斬りつけながら回転し、

何の技なのか次の瞬間には手も振れず、魔物を吹き飛ばしていたのだ!

…ドォッ!!

魔物は噴水の上を一直線に飛び、建物へ激突!

一転今は町を包む大火さえ、惨状を作りだしていた魔物のものではなく、

彼女の闘志を表し、だが奴はその見るからに強烈な攻撃にも立ち上がり、

巨大な目を血走らせている。

「ほう…、やはりただの魔神の手では、無かったか。」

その冷淡だが気品のある声に正体を察し、静かに武器をしまう五星。

目の前にある背中を見れば、

その全体に蝶を思わせる形の鎧は、腰が細く、肩当てが二重になり、

大作りな五角形のタセットも緩やかに広がり、

両手両足の腕当てや小手にグリーブは厚く、だが隙間無く引き締められ、

そして振り向いた白く端正だが卵型で愛らしささえある顔には、

左側のみを隠した長く金色の髪が流れ、細く薄い眉と二重の涼しげな目があり、

鼻は長く、全体に小さな作りなのでその下にある唇は、大きく見える。

それがどう動くのかと凝視しつつ、

いつもは自然と出てくるはずの礼さえ…口にできない五星。

「アンッ!!」

その城からの声に瞳だけを動かす剣士…。

叫んで飛んで来たのはやはり、部抜と竜鱗だった。



時々鳥獣の声は聞えてもそれは大分遠くからで、

その広大な草原の先には何も無く、そこにはたった十二人が居るだけだった。

ここはアハインとシピッドの中間地点。

実は遥か東にアケハナトビラがあるというだけで、

召人原(しょうじんばら)とも呼ばれているが、

中部は鮮やか岬、アハイン、シピッドとまるでくの字を描くようにあるので、

二つの町はそれぞれ北と南にある事になる。

そして今ここに居るのは大きく円を描き外側へ目を向ける十人と、

そこからも点のようにしか見えない中心の二人。

これは両者とも他とは別な物を着ているが、

外側にいるのは、装備が剣や槍あるいは弓等とそれぞれでも

皆茶色い耳を立てた獣人なのでいずれかの兵達だろう。

この者達は本来醜くとも妖精や精霊であるらしいコボルトという種族。

その太く長い首の先にある象牙色の目と牙は極めて鋭く、

伸ばした槍先のような形の金属を連ねた深緑のタセットがある腰は細く、

だが毛深く筋肉質でその四肢も太く手足も大きく、

そうして造られた体そのものには、無言の圧力さえある。

その彼らに一々振り向き

十分な距離があるか確かめているのは、薄青い衣を着た男。

彼は着物と比べても袖を大きく垂らした

袍(ほう)というより古風な着物のような上衣(じょうい)と、

僅かに足が見えるだけの白く太い指貫(さしぬき)というぶかぶかした袴をはき、

腰までの長髪には太く青い帯状の模様がある、金の冠。

その篤実さを絵に描いたような男らしくも美しい顔には

立派な口髭まで生やしだがその目は、不安に苛まれ、

対するのは、袖や裾に金の刺繍が入った赤いローブで全身を覆う、

長く波うつ黒髪の美女。

だがその居丈高に突かれたこげ茶色の長杖にある黄金の十字架の先には、

どれにも太い刃があり、首元にあるタトゥーの右は素直に微笑んでいるが、

もう片方は、目が上に口が下に向けられた刀のような形で

醜悪な笑みを浮かべた何とも不気味なもので…、

どうやらその話というのも、到底穏やかとは言えない内容。

実はこの二人はそれぞれアハインの町とシピッドの町の支配者で、

名をキャラメグラにショーンビアといい、

今は丁度あの生得の惨事について話し合っていたところなのだ。

だがあえてその目は見ず、キャラメグラの頭の上にある夕暮れ前の空に、

首を捻るショーンビア。

するとキャラメグラの方はゆっくりと口を開いた。

「本当に…、本当にお前は何て事をしてくれたんだ?!

私は~、私はあれ程、止めろと言ったのに!!」

「まあ落ち着け。一支配者ともあろう者が、情け無い。」

「一支配者だからこそ、今は焦っているのだ!」

「うーむ、前々からアンに見下されていたお前は、喜ぶと思ったが?」

「そ、そんな事は無い!

あれはただ向こうがほんの少し強いというだけの事で、

お前の見方がひねくれているのだ!」

「そうか?ジェンダがいなければお前など、とっくに平民になっているぞ。」

「それは今関係の無い話…。

と、とにかくこんな事とは思いもよらず、

まったく反省の無いお前とこれ以上一緒にいては、私まで疑われる!

帰らせてもらうぞ!

何か理由があっての事かと来てみれば…時間の無駄だったわ!」

「そうか…だが、もしもこの事をアンに言うつもりなら、

我が軍と衆牙の矛先は、お前の町アハインになるぞ?」

「…何っ?!」

「まずこの場に移動呪文を使える者は、三人。

その内一人がシピッドへ、一人が偶振刃へと飛び、

残った一人がアハインへ行って内通者にお前の返事を伝えるのだ。」

「ぐっ、偶振刃の悪党とも繋がっているのか!

ほ、本当にあきれ果てた奴だ!!」

「デュプルアイからの返事は、来ないがな…。」

そうトレランスの勢力まで誘ったと言うショーンビア。

まだ確定していない味方に手の内を見せるのはいかにも愚だが、

また一つの考えとして、まるで動物のように自分を大きく見せ恫喝し、

相手に本来の力を出させないという方法もある。

「…トレランスの、女盗賊達まで…?」

「一応なっ。

だがそれよりもやはりお前の結論を聞きたい。どうする?」

今は違う感情を懐いてだが、またも押し黙るキャラメグラ。

彼としても、想像に難くないアン軍の態度もその政治も面白くは無いだろうが、

だからといって戦争となると、話は変わってくる。

「…我が町を滅ぼすと?だがそれではお前がさっき自分で言った、

ジェンダをっ、忘れていないか?!」

「三分の一ぐらいはやられるかも知れないが、

こちらにはこの騒ぎを起こした召喚士もいる事だ。

たとえジェンダでも、一人では一刻ともつまい。」

「…お前は…!」

「それにっ!…お前が普段から毛嫌いしている西部諸侯は愚か、

ジェンダは町を護っただけにせよ、過去にあの部抜を追い返してもいるしなぁ…。

私が召喚獣を送ったという事も信じるかどうか分からず、

そうなると生得や明空など、東側からの援軍も望めまい…。」

「そ、それは、信じてもらうしかあるまい!

そうだ!それさえ信じてもらえればっ…!」

「いいやその場合も、申し開きをすると言って時間を稼ぎ、

トレランスやサウスティーカップそれに明空には友好の使者を送り、

お前のアハインを落とすだけの事。大義など、

いくらでもでっち上げてしまえば、鮮やか岬も動けないだろうしなぁ…。」

「うう~む…!」

何て狡猾な女だ!

そう悩んでは見せても、内では唾する男。

だが一支配者でもある彼は深層心理では恐怖していた。

実はその、既に彼方此方で口の端に上っているジェンダという将軍…。

自称最強の狂戦士でもある彼女は、

100階を目指す前のアンに誘われもしたらしいが、

またそれをあっさりと断ってもおり、

その否が直接の原因かどうか定かでは無いが後に部抜を敗走させたあの戦いも、

彼にとっては悩みの種だったのだ。

そうこの支配者に言わせれば、世の中には断り方というものがあり…、

しかもその相手と和すどころか勝手に戦ったジェンダは、

武一辺倒(ぶいっぺんとう)なのだ。

「…だが私はそれから……度々生得城へ行き、

今ではそのジェンダさえ止め無い程の、友好的な関係を築いている…!

何の問題があろう?」

「アハッ、ハッハッ!」

「…何がおかしい?」

「アン軍は正義か…?そうではあるまい。

どれだけへりくだって見せても何かと口実をつけ、

アハインを踏み潰すつもりだったに違いない。」

「それもっ…お前の勝手な想像というものだ!」

「いいや、今が好機。お前は私につくしかないのだ。」

「トレランスや偶振刃があっても、

中部が緩衝材の役割を果たし、平和だったものを!

そ、そうだっ!AZAKIの…生得解放戦線のせいにしてしまえば良い!

何なら奴らにも話をつけ、

そうだ奴らなら、今回の事も自分達の示威行為になると、

罪を認めるかも知れんぞっ?!」

「…それも、ジェンダの入れ知恵だな?

情け無いっ。いい加減器量を見せたらどうだ?」

「何っ?!お、同じ一支配者に過ぎないお前に、何故そこまで言われねばならん!

面白くない!」

「そうかっ?」

「だが…だがだっ、もう起こってしまったものは、止めようが無い。

…話とやらを聞こう。」

「やっとその気になったかっ。」

強く頷き、兵士に何事かを合図すると、

東南の方角から来る一条の光にも、ほくそ笑むショーンビア…。

それは一体誰なのか。それは今暴れて来たばかりの召喚士であると

キャラメグラにも想像できたが、一支配者である彼さえ、

シピッドとそこを治めるこの女の恐ろしさは、想像できなかったようだ。

徐々に強まる風。

その中で振り向き、また反対へも視線を走らせと、

集まってくる兵の一人一人に眼をやるキャラメグラ。

生得も怖いが、このシピッドも怖い。

そう世界でただ一人の思い悩む支配者と言っていい彼や、

ただ一人の反逆者と言っていいこの女の戦いは、ここから始まったのだ。



もう黄昏時ともなると八方には銀色に輝く槍のような灯がともり、

少しずつ住民も帰ってきた広場。そんな中五星達の目の前にあったのは、

柄頭から剣身の中程にまで様々な宝石が埋め込まれた剣…。

そして倒れた敵に止めを刺し、踏みつけてそれを抜いたのはやはり、アンだった。

すると何故か既に絶命した魔物の詳細より、その剣に目をやる彼女。

何としばらくすると、これはいらないからとそれを後ろの二人へ下げ渡そうとし、

だが断られているようだ。

部抜や竜鱗は警戒の為他へ飛んだので手の平を見せるのは、

今日もあの艶めく青いローブに楕円形の両肩当てと、大盾のような鎧を着たセイント。

彼は静かにその手を下ろすと、また静かに言った。

「私にはこのパズラー殿同様、何の功もありません。

もしも下げ渡すおつもりなら、

この戦いで死んでいった者達にこそ、お与え下さい…!」

「…ふんっ…!」

「では…、私は人々の様子を見てまいりますので。」

そうしてアンの背中へは一礼も無く言い、

やや離れた場所にではあるが後ろの五星達には、会釈して行くセイント。

勿論それには四人も丁寧にお辞儀。

だがその視線はすぐもう一人の男へと移っていた。

そのパズラーもアンやセイントと同じ金髪だが

肩までのそれは微かに黄色く毛先は細かく散らし、

一つの渦が少しずつ大きく巻かれていく模様の

網目状に縫われた緑の布で立ち上げられ、

合わせた薄緑の着物は衿(えり)部分にぼかした横縞が入り、

履物は一見下駄のようではあるが先の角ばった茶色の靴であり、

奇抜だが趣のある印象。

そしてその全体を落ち着いたものに見せていたのは、

横に長い逆三角形の目にある大きな栗色の瞳で、

そこから細顎を際立たせる痩せた頬にかけては、一本ずつ緑の線がある。

当然三人は密かにその彼を野花うさぎ達の敵として見詰め、

だが五星だけはそれとなくだがその後ろにいる二人組にも、意識を向けていたのだ。

その残ったアンとパズラーを指差しいかにも文句を言っているように見えるのは、

ツーブロックの横分けを後ろへ靡かせ、丸みを帯びて頑丈そうな灰色の鎧を着た女で、

隣に居るのもまたいかにもそれを宥めているように見える、

両側が紺色となった四角い白の帽子と、

青いローブの腰に丸い金が連なった装飾を付けた僧侶らしき女。

そしてその文句は、このアン軍の不手際の後では、

もう誰にも止めようのないものであった…。

「おいおい、何なんだよあの態度はぁーー!!

じゃあ私達住民はさぁ、こんな事がある度に逃げ回らなきゃいけない訳ぇー!?」

「…ま、まあまあっ。支配者様には、絶対服従よっ…!」

「死んだこいつらもどうするよー!倒すの超遅ぇーてぇーー!!」

「た、確かにそれは可哀相だよね…。」

だがその二人には目もくれないパズラー。

胸中では、馬鹿めアン様にこそ死なれたらどうする

それこそトレランスや偶振刃の思う壺ではないか…等と吐き捨て、

その裾を払う動作を見た五星はまたほとんど反対の事を思っている。

もしも自分が死んだら、

確かに力は振り出しに戻ってしまうが、生まれ変わってまた戦えば良い。

そう彼女の考えでは、信頼できる仲間や配下がいれば、

彼らはその死地に生ありとも言うべき勇敢さに自分を改めて主君として認め、

忠誠を尽くしてくれるはずなのだ。

甘いだろうか。だが…まったく誰も当てにはできないという冷徹な思考では、

結局信頼できる者が居ない事にもなり、

しかもここは人生をやり直せる、幻想世界なのだ。

さてその住民や五星達の感情を無視し、

反面いたわりまで見せ、眉間にしわを寄せるパズラー。

すると彼はやっと仕事を続ける気になったようだ。

「…しかしここまで強化、しかもカード化された魔物をこの生得まで飛ばし、

私の千里眼でも位置が分からない程の強さをもつか、または目塞の使い手で、

もしも任意にではなくどこかから魔物を遠隔操作していた…となりますとこれは、

かなり手ごわい敵という事になりますが…。」

「それ程の召喚士なら、私も知っているはずだ。あり得ん。

部抜と竜鱗に命じたのは、あくまで北門と西側への守備。

よってその命知らずは、お前らがよく探せば済む事…。」

「はっ!

…ああっ!こ、これは私とした事が、気が付きませんでした!!

現在も確認中ですが、こちらの被害は民も合わせれば、

死亡二十七人、負傷者五十人以上です!

町の塀や城が受けた損害を考えますと、被害額は約15万スペスにもなり…。」

「それは訊いていない…。余計な気を遣うな。」

「はぁ…。」

アンびいきだからこそ傍にある事を許されているのだろうが、

その言葉にはさすがに俯き加減のパズラー。

そして五星達も幸か不幸か、その会話が聞える位置にいた。

「…支配者なのに、全然責任感無いねっ。

自分の町だって言ってるのに!想像以上の傲慢ぶりだっ…。」

「こんなもんじゃないのか?!この人達にとってはっ?!

要は力だよっ!全部力っ!」

「わわっ、悪かったですねー!いつも力任せでぇーー!!」

そう賢いクリスタルは、二人が言ったのは自分にだと優しく誤魔化したのだが、

五星は良いぞと頷き頭成は笑い、

やや惚けた風のフォンミアだけはまだ気付いていないようだ…。

だが次の瞬間その瞳はきらめき、先にはまたパズラーがいた。

「ご覧下さい。」

そう言って彼が両手の間に出したのは、大きく半透明な世界地図。

上に散らばっている小さな緑の光は、各地に居る住民を表しているようだが、

これは観測者が自分の見ているものを他人に説明する時に使う、

大観図(たいかんず)というもの。

だがパズラーいわく、

西から東にいたるまで町や集落に人が集まっているだけで、

後は彼方此方に少数が固まり、特に目立った様子も無く、

だがそれこそが不自然。

「鳥獣や魔物を非表示にすると、

今はこのような位置関係になるのですが、どう思われます?」

「…それより、この南からの軍は何だ…?」

アンが指差したのは、ゆっくりと一塊に北進して来る約三十人程の集団。

「これは恐らく、明空のラフターです。

この騒ぎを聞き、それでも偶振刃などへの警戒の為、

大体三分の一程を連れて来たのでしょう。

彼程度の詳細なら見れますが、確認しましょうか?」

「いいや、それはいい。…ではこれは?

これこそ、お前が不自然といった原因だろう。」

「ああっそれは、先ほど確認しましたところ、

アハインの支配者キャラメグラです。

周りにいるのは何故かシピッドの兵ばかりですが、

恐らくそこにショーンビアも居て、

この騒ぎにどう対処すべきかと会合を開いているのでしょう。

同じ中部でも鮮やか岬騎兵隊は、独立の気概が強い勢力ですので…。」

「そうか。ならば奴らもここへ呼んでやるがいい。」

「すぐにでも。」

「…でお前、さっきは何を言おうとした…?」

やっと訊いてくれたかと頷くパズラー。

その彼いわく、これは今戦いを挑む為の襲撃では無い。

「……という事は、これは少しずつ生得を弱らせる為か…?」

「…はい…。」

「つまらんっ。要するに何の問題も無い…という事だろう。

この幻想世界では、皆好きに生きれるのだっ!

よって生得が嫌なら他へ住めば良いだけの事で、

また我らとしても、それでも戦うというのなら、相手になるだけの事。」

「ですが、好きに生きれるからこそ、

貴方の支配を終わらせようとする者もおり、

その理由等はそれこそ今アン様のおっしゃった、

つまらない等という理由で、構わないのです!」

「………。」

「…つまりですがこれは、民心を揺さぶる為かと…。」

「だがどれ程の大敵であろうと、討ち果たすのみ。結局は今までと変わらん。」

だがそれには軽く笑い、冗談っぽく言うパズラー。

「ハッハッ!…恐れながら、それは違います。

もしも私の予想通り、敵の狙いが民心を動揺させる事にあるなら、

当然相手は、必ず我らがこの仕置きで失敗すると踏んでいるのですから、

民などはまだ今迄通りで良いでしょうが、

貴方は今のままでは、いけないのです。

…そう優れているからこそ君主というものは…。」

「くどいぞ。」

短く言い、目だけでパズラーを見るアン。

止めようにも周囲にそれだけの実力者はおらず、

あの宝剣はいつの間にか、彼の首に突き付けられていたのだ。

「セイントも気に入らんが…、やはりこれは、お前にくれてやろうか?」

「…いいえ、口が過ぎました。…どうかご容赦を!」

また鼻を鳴らし、城へ歩き去るアン。

その武を讃(たた)える者も無かったが、反対にその愚を阻む者も無く、

ゆっくりとついて行く参謀役のパズラーさえ、

自分自身や、また直言してしまったセイントなど友の身まで案じ、

それ以上は何も言えなかったようだ。

すると内心ではあきれながらも、目を点にして見詰めあう四人。

多分あの気性のせいで…何人か死んだな…。

もしも殺さなくても処罰は苦痛を伴うものだったに違いない。

だが思った五星も、それを口にすればまたクリスタルが余計な心配をするので、

素直な感想の方を口にする。

「はあ~~!予想以上の、更に上を行ったねっ?」

「そうそうっ、こんなもんだって。全然、良い人なんていないんだよ。

だから真功郎って人も、どこかへ消えたんだろっ。」

「ええ、そうでしょうが!

これからああいう発言は、一切止めてもらいますよっ?

~ああそうだ!今のもですよっ?!」

だがやはり人生観が違うのか、クリスタルの真面目さに気疲れしたフォンミア。

「別に良いんじゃないっ?頭成君は、頭成君のままでっ。

だってこの世界の意味が無いじゃないっ。」

「…うむっ!それぞれに一理ある。控えるようにな…。」

「御意っ。」

「一切です!」

「アハハッ、でも面白ーいっ!しばらくここにいようかなぁーー。」

非常に申し訳無いが、その言葉は笑って誤魔化す三人。

大難(だいなん)の去った生得にはそれから生まれ変わった者達も含め

徐々に人が戻り活気づいていたが、彼女らの方はそれからグリンの家へと向った。

するとやはり、向って左側の壁が剥ぎ取られ、今はどこか空しく見える扉。

五星とクリスタルは、

次々と無残な姿となる友人達の家に改めて不吉を感じ、

だが一人頭成だけは、破片で手を切る事もないだろうが、

まずその壁にそっと手を当て、彼を呼ぶ。

「グリンさんっ?!グリンさーーんっ!!」

「きっと居ないよっ。でもそれはさ、上手く避難できたって事じゃない?」

「そういえば、そうですよね!ちょっと安心しましたっ。」

「えっ、何で完全に安心できないの?」

その不思議そうに訊くフォンミアに、真面目に答えるクリスタル。

「それは、この騒ぎに乗じた悪人達が、

彼のような善人を襲うかも知れないと思ったからです。」

「…あっ、そうだね!じゃあ私の家は、大丈夫かなっ?!」

「…そ、それはーー。」

そう言われまた真面目に考えてしまう、やや不器用なクリスタル。

すると五星はグリンの財に関しては、何も置かなくて正解だったと安心しながらも、

部屋を見回し、頭成には奥も見るよう頼み、フォンミアにも答える。

「…でもフォンミアさんの自宅は、サウスティーカップでしょう?」

「…ええそうですねっ!だからきっと大丈夫ですよ!」

それでも心配するクリスタル。

「そうですかねぇーー?」

「オレも心配無いと思うよっ。」

奥から戻った頭成も言ったが、

この三人の根拠としては既に騒ぎが治まったからであり、

アン軍の大観図を盗み見たところ目立った動きも無かったからだろう。

だが五星の思考では万一という事もあり、

これから何が始まるのかまでの保障は一切できないのも事実だ。

「じゃあ私達はここで休ませてもらうけど、君は帰ってみる?」

「うーん…。」

「心配なら、その方が良いよ…。

思い悩むばかりだと良くないし、明日はクリスタルしかいないけど、

何かあったら助けられるよっ。」

「うんっありがとう、やっぱりそうする!

これは生得へ目を向ける為の、作戦かも知れないんだもんねっ。」

強く頷く五星。

実は三日間程眠らなければならない彼女と頭成だが、

それは予め話し合った事であり、

クリスタルには余裕があると言えば分かり易いだろうか。

二人は寧ろ羨ましそうに起きていられる彼を見て、

クリスタルの方は珍しく腕組みまでし、普段の努力を誇っているようだ。

それが勉強だと確認するとフォンミアは手を振って去り、

その彼女を心配しつつも、またそれぞれの席へ着く三人。

「何も同じ位置に座らなくても、良いんじゃないか。

それにさ、まず家で眠る必要ある?」

「一応です。」

「そうそうっ。例えば道の真ん中で寝たら、

起きた時に怖い人にぶつかるかも知れないし、

そこでアン軍の粛正が行われていたら、どうするの?

巻き込まれちゃうでしょうっ。」

「おおっそうか、色々と目が覚める思いだ!」

「ダメじゃないですかっ。寝ましょう。」

「アハハッ!じゃあ今度はさ、

また明空か、鮮やか岬、それにアハイン辺りまで行って、夜陽を捜そうよっ!」

「それよりまず家だなっ。

やっぱ良いよ自宅っていうのはっ。ああーー眠いっ。」

「珍しく和んでますねー。」

「こういう人に限って、実はそうなんじゃない?」

「それはどういう意味だ?」

良いから寝ましょう…というクリスタルの一言で、目を閉じる三人。

別に寒くは無いが、大穴から見えたのはすっかり暗くなった町。

いつもと違うそれは、心から楽しむ彼女らにとって美しくもあったが、

行き交う人々は誰も他人を捕まえては話を訊くなど、忙しく走り回り、

これを機に世界を統一すべきだと叫ぶ者まで現れ、

最後の一瞬まで退屈は無かった。

そしてゆっくりとだが今度こそ目をつむる五星。

そうここは常に流動的で、次に起きた時にはまた何かが変わっている世界だ。

だが当然それは彼女の考えでもどの世界も同じ…。

では何が違うのかとよく考えてみればそれは神がいる事ともう一つ、

夢が叶う事であった。

叶わなくても、諦めても、

衣食住があればそれで良いじゃないか、幸せだと思うべきじゃないかという、

それが叶わなければ生きている意味さえない人々にとって

お前はその程度なんだからという…優しい侮辱さえ無い場所。

そう誰でも夢が叶うこの世界は、

五星が助けると宣言した真功郎のように、魔物に呪われてしまった人を除き、

いつまでも優しく、いつまでも楽しく、人々を迎えてくれる事だろう。



……いいや、そんなの赦さない。



そう実のところ彼女は夜陽という友もその事情も無関係に、

ただその一念で決めていたのだ。



五星 設定職業・君主
体力13 気力8 筋力15(基本筋力12+3)
耐久力52(基本耐久力7+38+4+2+1) 素早さ15 器用さ7
集中力4 精神力9
属性…水0 炎2 土0 風0 光0 闇0
今回の成長
体力3 気力5 筋力4 耐久力2 素早さ11 器用さ4
集中力2 精神力7 炎属性2
特技…大跳躍・下級 呪文…無し
経験値319

装備 鉄の剣 希望の盾 革の鎧 冒険者のズボン
革のブーツ
必要・基本筋力値合計8


頭成 設定職業・戦士
体力20 気力3 筋力26(基本筋力16+2+8)
耐久力16(基本耐久力6+1+4+2+2+1)
素早さ8 器用さ8 集中力4 精神力2
属性…水0 炎0 土0 風0 光0 闇0
今回の成長
体力8 気力2 筋力5 素早さ3 器用さ5
集中力1 精神力1
特技…開錠・下級、強襲・下級 呪文…無し
経験値190

装備 短剣 鉄の刀(鍔無し)
バンダナ 革の鎧 冒険者のズボン 革の脛当て 革のブーツ
必要・基本筋力値合計10


クリスタル 設定職業・僧侶
体力12 気力15 筋力7(基本筋力6+1)
耐久力13(基本耐久力6+1+1+4+1) 素早さ8 器用さ2
集中力7 精神力14
属性…水0 炎0 土0 風0 光3 闇0
今回の成長
体力5 気力8 筋力1 耐久力2 素早さ6 器用さ1
集中力2 精神力9 光属性1
特技…無し
呪文…エナセイ
(光系、距離約三メートルまでで、一人を小回復、
まだ気力消費も激しい)
経験値24

装備 杖 神降帽子(かみおりぼうし) 信心のローブ
厚革の小手 革の靴
必要・基本筋力値合計5

三人の所持品
薬草一つ、革の脛当て、帰省の札、お邪魔半水の魂、
鉄の剣二本、革の盾二枚、鉄の槍二本、義賊の鍵

合計スペス1800。