薄っすらと輝く光の中、オレンジの髪を靡かせた女は、

遠くどこまでも続く草原を見ていた。

だがその光は一瞬にして消え、肩までの髪を持ち上げていた風も止み、

白肌に似合わない短剣を握りしめる彼女。

その小さな不調和も、両肩から胸に二筋の金属が打ち込まれた

厳しい革鎧が打ち消していたのだ。

下は幅広の白いズボンに、淡い小麦色の革のブーツと、

短剣は柄が艶やかな茶色い木で、丸鍔(つば)がやや上に反った黒い鉄。

鎧の二筋は刃を止める為の物だろうが、

表に回って彼女を見てみると、決して戦いへ行くような顔には見えない。

満面の笑みなのだ。

「…煌びやかだ。うんっここには、その言葉が似合う!」

そのよくよく見る限り後ろ姿からは想像できず、実は少女と言って良い顔。

指先で軽く触れたように艶やかな肌をふわりと上げた目尻の大きな目は、

その瞳も大きく、細くやや上向きの鼻はつんと跳ねた頬からなだらかに下りる細い顎へと、

小さな唇の大きな口を挟み、可愛らしいがしまりのある顔と言える。

その彼女が立っているのは、アケハナトビラ…という石造りの扉の前。

上に大中小と順に星型の突起が並ぶ筒型の直径たった三メートル程の入口で、

それがのっている台も直径八メートル。高さも二十センチと小規模だが、

これにはここへの入口…という重要な役目がある。

そう実は彼女もついさっきこの扉から出て来たばかりなのだ。

「…凄いっ…。」

何故かまた正面の景色を見て、呟く彼女。

すると突然今度は、背伸びを始めた。

「良いっ!良いぞっ!

これなら凄いっ!今迄のより、ずっと滑らかだっ!」

何故か顔や腕、脚等、とにかく自分の体の彼方此方を触り、

じゃあ今度はと、しゃがんでもみる彼女。

また滑らかだとか全然違和感が無いだとか生き生きとしているだとか

一人そんな事を言い出し、どうしてもその興奮を抑えきれない様子。

そうこれは実のところ本物の体では無い。

というより彼女にとっての、新しい体だった。

「生まれた。私はここでも、生まれたんだっ…。

いいやっ、もしかすれば今迄のがっ、…夢じゃない?」

そうゲーム、仮想世界…と言ってしまえばそれまでだが、

彼女本人や、また既に住み暮らし生きてきた人々にとってここは、

完全なもう一つの世界。

彼女はどうしてもそう思いたかった。

そう感じても仕方無い程の美しさであり、

さささっと微かに音を立てる、足首までの青々とした草も、

その緩やかに起伏する大地も草花の香を運ぶ風も、

見上げれば白い太陽が輝く真っ青な空さえも、

彼女にはまだどこをどう見ても、

気に入らないという部分を見つけられずにいたのだ。

他はどこまでも草原でその大きさをうかがわせているが、

遠く東側にはこれもまた壮観な森。

その不思議な裂け目、

入口と言えるだろうまっすぐ続く細道を見ながら、手の平を見る彼女。

するとそこにはシュン!と小さな音と共に、丁度握れるほどの赤茶色の本が出現。

開けばその右上には、五星(いつぼし)…とあった。

「フフフッ!」

言うまでも無いかも知れないが、ページには青で、彼女の基本能力値が…。

だがそれを見もせずもう一度消し、取り出してみる五星。

シュン!

「おおおお〜〜〜すげぇー!!何で今迄来なかったんだろーー?!

魔術士?!いいや私はっ、君主で生きるんだから、

魔術士系君主っ?!うぅーもうどうでも良いやっ!

とっ、とにかくこれを、早く誰かに話したい!」

だがそこで本来の目的を思い出した彼女。

実はもう誕生して四年にもなるこの世界に、彼女の親友も来ており、

五星はその夜陽(よひ)という友達の、

絶対ここで会おうねという言葉だけを信じ、ここへ来ていたのだ。

何故現世(げんせ)で、つまりもう一つの世界で会えないかというと、

出会った場所も別れた場所もまた別な世界だったから…という、

なんともロマンに溢れた理由ではあるが、

それでも彼女にとってはあまりに魅力的な事情で、

また絶対に諦めないという心さえあれば、

その夢想の先には常に未来があるように思えた。

「でも遅いなぁー。まさか来ない…?!

〜いいや、それは無いかっ。」

とこの台詞からも分かるように後から二人の仲間も来るのだが、

そんな事よりと五星は、素早く左手にあった短剣を背中に、

だが思い直し、

もう一度それを見せ腰から少し離した位置で消し、

作り笑いまでする。

「…ハハッ!」

そう実はその後ろ、十メートル程離れたそこには、

灰色のフードを目深に被ったいかにも盗賊らしき男が立っており、

その怪しい目つきに察した五星は、彼に敵意が無い事を示していたのだ。

し、身長は大体〜〜、ああっ!背は関係無いやっ!

フードに合わせ、右にだけ肩当てのついた革鎧も灰色だが、

これはまた五星の装備とは別物なのか、

反対の腰から持ち上げ、もう一つの革に留めているように見える。

そしてその手には…今のところ何も無いが、

笑顔を返す訳でもないところを見ると、どうやら好意的な相手でも無い様子。

「ま、まだ友達が来なくってっ。貴方も?」

「そんなところだ…。」

同じく灰色の両革の小手に革のブーツと、淡い黒ズボンの艶。

男は鋭い目をゆっくりと後ろへ反対の草原へも走らせ、

それをまた五星へ向けた。

仲間は…すぐに来る…とまでは言わなかったが、

今一度言い直せば、逆に怪しまれる。

彼女は笑顔のまま仲間の事は一旦忘れ、他に誰かいないか探す事に。

すると首を巡らせば遠く森の北側から、何故かこちらへ手まで上げ、

一人の女が歩いて来るではないか。

そうその人は束ねた赤い長髪を揺らす、同じく淡い赤肌に赤い目の、

目も耳も尖ったエルフという外見。その細身で長身の体は、

厚い銅の胸当てと、薄い銀のタセットにグリーブ、

それにこげ茶色のブーツといった、動きやすい装備に包まれていた。

「待ったー?!」

「…えっ…?」

「でも、何であんたそんな生まれたてみたいな格好してるのっ?!

〜あ分かった、PKKするつもりでしょ?!いいやPK?」

「そ、そうそう!」

「どっち?

一応教えておいてもらわないと、協力しにくいじゃんっ。」

「…ちっ!」

張りのある彼女の声に、聞こえよがしに舌打ちをする盗賊。

だが彼はゆっくりと後ろ向きのまま北へ。

しばらくして向きを変え、伏せていた仲間と共に走り出していた。

「やろうぜ!な、何でだよっ?!」

「…二人ぐらい!こっちは四人だぞっ…?!」

「ダメだっ!…あれはレーザー。」

「…レーザー?!」

「ああっ、もっと集めねーと、アレは倒せねーー!」

という事は、彼らはレーザーの機知(きち)にというよりも、

彼女の強さに退いたという事だろうが、

何にしても助けられた五星は深々と頭を下げる。

「ありがとうございますっ。

私つい興奮して、いかにも来たばかりの子って感じで…。」

「良いよ良いよっ。私もそうだったし、それより一人?」

「いいえっ。後男が二人、友達が来る予定ですっ。」

「そうっ!じゃあこれから楽しいねっ。幻想世界へようこそ。」

その握手を受ける五星。

レーザーはまず彼女に、この世界においての死は…消滅であり、

もしもそうなった場合には、生まれ変わるしかなく、

さっきのような緊迫した状況は楽しむと共に、

注意もしなければならないと教えた。

「あ、はいっ!

まあ最近のは…全部そうですからねっ。

私元々、覇王の印っていうゲームの方に居て…。」

「しっ!」

と今度はそれに、人差し指を口に当てるレーザー。

五星はまたあいつが来たかと思い北へ眼を向けたが、そこには誰も居ない。

「え、後ろっ?!」

そして振り返れば遠く草原が続く西の彼方に、赤い光線が立っている。

「…外の話をすると、

通称・四つ羽様と呼ばれるこの世界の神が来ちゃうから、

話すにしても小声で、短時間にねっ…?」

「…あっ!すみません。忘れてましたっ。」

そう五星も忘れていた事だが、どうやら案内状にあった通り

ペガサスに乗った戦士という姿のこの世界の神がおり、

彼は今二人が話した声に反応。

あの光線で警告を発しているというのだ。

そうその神は、こうした現世の話など雰囲気を壊す事だけを、罪とし、

一応事情は聞くが基本何もかも把握しており、

その事実を元に処罰するのが役目で、

またレーザーいわく、あれが近くまで来れば、もう手遅れ。

「こ、殺されるんですかっ?!」

「そうですっ。

別な罰を与える場合もあるらしいけど、

気をつけて、今友達が生まれて来ても、

この世界の雰囲気を壊さないよう、生活して下さい!」

「なんかレーザーさんて、そのっ…、神様の友達って感じですね。」

「いいや長いだけっ。もう一年半ぐらいかなっ。」

「凄いっ!」

いきなり強い味方を得たと思った五星だが、

レーザーは極たまに昔からの仲間と遊ぶだけで、基本は一人で生活。

そのスタイルを変える気は無いらしい。

「とても、残念ですっ…。」

「まあまあ、貴方が気に入らない訳じゃなく、

ただ楽しんで生きたいだけだからっ。それに、

生まれたてに必要な事は、全部私が教えてあげるしっ。」

そう胸を張るレーザー。

だが五星はその銅の胸当てがどうしても気になる様子。

「こ、これって、高い装備ですか?」

「ああ高いよっ!3万スペス。

だって特注だからねっ。名付けて、厚銅の胸当て!」

「えっ?!…ああ、そ、そうですよねっ。」

五星は、この世界の通貨が、スペスという物である事、

それがどういう物であるかという事もそうだが、

鍛冶屋に頼めば自分だけの装備を作ってもらえる

という事も知らなかったらしい。スペスの事は後で説明するが、

それにしても悪意無く、合理的な言い方のレーザー。

「じゃあこの世界を、何にも知らないねっ?」

「ま、まあアハハッ!急いで来たものでっ…。」

「まあ私も案内状は読まなかった気がするけど、

きっと気に入るから、ゆっくりしてってよっ。」

まるでこの世界が自分の物であるかのような口ぶりだが、

彼女はそれ程までにここが気に入っているというだけの事だろう。

五星の方も、ここへ来た人間は良い意味で帰れなくなる、と聞いている。

それもそのはずレーザーは、ほらねっほらねっと、

髪をかき上げてみたり、宙返りしてみたり、

両手に、薄っすら銀色に輝く青い短剣を出し、

それを上でくるくると回し、投げて地面に突き刺してみたりと、

ここでは色々できるようだ。

「やっぱり仲間になって下さい!」

「ハハハッ!大丈夫だってー!慣れればね、君でもできるよっ。」

「嘘だー!」

「特技や、呪文じゃないからっ。」

「えぇー?!」

最近の仮想世界では色々できると知っていた彼女だが、

まさかここが…これ程とは…。レーザーの言う事は要するに、

決まった動きがデータ化されているのではなく、

一つ一つアクションで行っている…という事だろう。

そのせいで自分より弱い相手に負ける事もあるが、

それは当然、

自分より強い相手にも勝てるかも知れないという事でもあり、

だからこそ面白いとも言える。

「やってみる?!」

「はいっ!」

早速、自分の短剣を出し、回せず手に突き刺し、ダメージを受け、

抜いて反対の手で地面へ突き刺そうとし、

後ろへ放り投げてしまう五星…。

「やっぱり無理ですよー!!」

「練習、練習っ!」

「ダメージになってるしー!」

「ああそうだよっ!しかもねっ、

軽く当たった場合と、強く当たった場合、

これによっても、ダメージが変化するからっ。」

「またまた凄い!でも無理ですってー!」

「じゃあ重装備にする事だねっ。仲間は何?」

「えっ?ああっ確か〜、

義賊系・戦士と、僧侶になるって言うのが、一人ずつです。」

「じゃあ来たらすぐ回復っ。今体力いくつ?」

「な、7ですけどっ?」

「じゃあー、やっぱりそうした方が良いよっ。」

それはそうであろう。生まれたばかりだからこそ、

寧ろ死んでも良いという奇妙な状況ではあるが、

彼女五星はどちらかといえば何事も一生懸命やる質なので、素直に忠告を聞く事に。

ガンッ!

だがそこに突然響いたのはアケハナトビラを開く音。

そこには、五星と同じ革鎧を黒く染め、両肩当てを外し、

紫のソフトモヒカン頭に、白に紫の線でジグザグ模様のバンダナをつけた少年が、

黒いマスクと短い眉の間にある大きな垂れ目をメ一杯に開け、二人を凝視していたのだ。

「よけろ五星ぃー!!」

「違うっ!」

「もうーー。」

そう短剣を振りかぶり思い切り投げる彼だが、

レーザー姉さんはそれを小さな革の盾を出して弾くと、その腕で手の平を見せる!

「味方!」

「あ…す、すみませんっ!良いとこ見せようとしてっ…。」

「正直過ぎるわっ。」

「フフッ!まさかこの彼が一人目?」

「そ、そうです。確か…、」

「オレは、頭成(かしらなり)ですっ!

クリスタルもすぐ来るぞっ。」

言って台から歩いて来る彼。

「えっ、クリスタル?」

「えっ、まさか忘れたっ?」

「ああっ、それも友達の名前じゃない?」

「あ、それっ!黒く染めれたのっ?!できるのそんな事?!」

「これはっ…。」

「それに、レーザーさんの盾っ!装備って、この双剣なんじゃっ!」

「四つ装備できるの。壊れた場合、すぐ代えられるようにねっ。

装備以外も、アイテムは八つまで持てるけど、

そこが塞がっちゃうでしょ?

それに弓を装備した場合も、矢は九十九本で一束っ。」

「もうーちゃんと読めよぉーー!

色々知らないで、神に文句言うのだけはやめてくれよなー!!」

「フフフッ、頼りになりそうじゃないっ。君も生まれたて?」

「そうです…!うわーーー!草原すげぇーーー!!」

「慣れるのは早くても、驚くのは遅いねっ。」

「これが今からオレのもんだぁーー!!」

「せめて小さい声で言ってよー!」

「いいやっ!当然だが、お前の物でもあるぞっ!」

友達も生まれ安心した五星だったが、

同時にそこで彼らと話し合った第一目標を思い出し、すぐ訊いてみる事に。

「…そういえば、夜陽って子知りませんかっ?!」

「夜陽?…てどういう子っ?

一応、名前と外見は変えられないから、記憶にあれば案内しても良いけどっ。」

「えっ、外見変えられないんですかっ?!」

言って頭成を見る五星。

「失礼だなお前は!」

「だって、いかにも悪そうだし!」

「別に良いだろー?」

「大丈夫だって、色だけじゃなく、髪型も変えられるからっ。

それに、どんな外見でいるのも、自由でしょ?」

「そ、そうですけど、爽やかでないとっ。」

「ああそうかっ!

悪人に思われると、人捜しが難しくなるって事かっ。

でもその子さ、名前が分かってるならー。」

そうレーザーに言われ、事情を説明する五星。

「へぇー!」

「そういえば!ここでずっと待ってたら、会えませんか?!」

「ああ〜〜それはダメッ。当然君達にとっては危険でもあるけど、

生まれたてだけなの、ここから出て来るのはっ。」

ああーと頷く二人。

それは実のところどこででも休め、記録しておけるという事でもあるのだが、

これで夜陽を捜すのはやや難しいものになった。

五星は自信があるようだが、

本当に今も夜陽という名前でいるかどうかさえ、定かではないのだ。

「まず、どっち行ったら良いですかっ?」

「まあまあ、そんな急いだって、見つける前に消滅するだけだよ?」

「う〜んっ。じゃあまずは、どの組織を倒せば良いかなー?」

「あのねっ!

私は少しずつ強くなって、それから本格的に捜すつもりだけどっ?」

「ああっ、そうした方が良いよっ。」

「つまり、楽しんで良い…って事か?」

「こういう楽観的な人物なんです、彼は。」

「フフフッ!」

ガンッ!

「…ハハハッ!五星も頭成も、もう来ていたんですかっ。

でその方はどなたですっ?」

また素早く開き、閉まる扉。

五星にとってはもう二人目なのでその端で小さく舞う砂埃さえ見えたが、

高く透き通るような声の主は当然もう一人の友人、クリスタルだった。

彼は額に、盛り上がった縦の楕円形を囲んだ両側から

先に二度曲がった角形の装飾もある、

後ろに先が幅広の垂れの付いた、ちょっと潰した感じの白い帽子を被り、

合わせた白いローブの太襟にある模様は、

頭成のバンダナ同様大きなジグザグ。

その下からちらりと見えている足には、薄緑の靴を履き、

右手には赤茶色の頭が四角、先が丸みのある八十センチ程の杖を持った姿。

帽子からはみ出た程度で分かり辛いが金髪で、

その顔といえばだが色白で顎の細い、

どちらも大作りで優美な半円を描く眉と目が中心の、美少年といったところ。

「二人共、中々似合ってますねー!すぐ分かりましたっ!

…でもどうですっ、生まれ変わったこの僕の、完成度はっ…?」

「あっ、クリスタル君はちゃんと神に気を遣ってるねっ。えらーいっ。」

「70…パーセントッ?」

「どうでも良いけど、おせーよ!」

「ごめんごめんっ。」

「謝らなくて良いよっ。頭成もついさっき来たばかりだから。」

ガスッ!

それを聞いて彼を蹴るクリスタル。

「ダメージになったらどうすんだっ?!」

「き、君は蹴らないで下さいよっ?!

死ぬかも知れないんですからっ。」

「筋力高そうだもんねー頭成君はっ。でも死なないよっ。

ちょっと分かり辛いところに書かれてるけど、

両手や、そこで持った武器以外で攻撃しても、

ダメージにはなら無いからっ。」

ガスッ!

「へぇー!まだまだ教えてもらわないとっ。」

「うんっ。でも三人とも…綺麗に六頭身で揃えたねっ…。」

そうレーザーは八頭身だが、

外見がエルフである事も含め、それも自由に選べるらしく、

気遣いのある彼女は、もう一度生まれ直す人がいないかを確認。

だがそれには三人とも笑顔で首を振る。

「…オレは、大丈夫です!

だって生まれる前に作った体、そのままだからっ…!」

「…僕もです!光の加減とかで、全然変わらないしっ…。」

「…うんなんかさっ、

私達は新しい自分になれたんだって、そう実感できる感じっ?!」

「良しっ!!では現世での話はここまでにしてっ、

約束通りっ、まずあの森へ入りましょう!」

「はーい!良いよなっ、五星?」

「どうです?」

「良いよっ!

勿論何となくだけど、レーザーさんは信用できるから。」

軽く挨拶も済ませた三人を背中に、あの細道へ歩き出すレーザー。

五星も、森の中で講義を受ける…とまでは聞いていなかったが、

心配するクリスタルの袖もつかみ、

一応彼にエナセイという呪文で回復もしてもらい、

頭成もその後ろから彼方此方を警戒しながら、東の森へと続いた。

二人が彼女の判断を仰いだのは、

一応三人の中では五星がリーダーだと決めてあるからで、

その頭成の思考では、レーザー程強くなってしまえば、

生まれたてを斬っても得は無く、警戒対象にもなっていない。

そのリーダーの質問。

「町があるんですかっ?」

「いいやっ。

ここからまっすぐ生得(しょうとく)まで歩いたとしても…、

ああ、生得ってのは、町の名前なんだけど、

集落らしいものは〜〜、無いはずだねっ。」

「えっ?でもレーザーさん、

もう一年半も住んでるんでしょ?」

はず…というのは、どういう事だろう。

すでに五星にそう聞いていた頭成が訊き、にやりとするレーザーに、

怯えるクリスタル。

「そ、こ、がっ!この幻想世界の、良いところでしょ〜?!」

「…ああっ!そうですよねー!」

「お前、急に親しげになったなっ?」

思い当たるところのあるクリスタル。

実のところこの世界では、自宅も、その集落も町も、

自分達で好きな場所に造る事ができる。

「えーー?!」

「それも知らなかったのか…。まあ良いやっ!

こっちもその方が、見てて楽しいしっ。なっ?」

「ええっ。大体、指導者という者は、実は無知ですからっ。」

「う、うん、まあなっ。」

「否定しろっ!でお前は、毒舌っ!」

「あーはっはっ!

だからニヤリとしてしまった訳です、子供達よっ!

でもそのせいもあって、一月程前に通ったはずのこの道の先さえ、

油断できませんので、ご注意下さいっ!」

「んっ?

でもそういえばまだ私達以外、一人しか見てませんよっ?!」

「それは嘘だよーー!」

「えっ?僕が見たのも、レーザーさんだけですけど?」

「だよねーー!」

「何でお前らはそうなのっ?!

さっきあの南側の森から四、五人出て走って行ったし、

一人上を飛んでいったの、見て無いのっ?!」

「頭成君、ほとんど正解。

実はあの木陰にも一人いるけど、それは分からなくて当然だし!」

聞いて驚くクリスタル。

「え、そうなんですかっ?流石だなーー。」

「飛んで行ったって?!」

「飛べる世界なら、他にも沢山あったでしょう?」

「いいから警戒しろ、警戒っ!」

張り切って逆に危ない頭成と話に盛り上がる二人を止め、

またあの短剣を取り出し、それを指差すレーザー。

だがそれは振りだったようで、下を向きながら小声で教える。

「さっきも言ったように、この辺りはまだ草原でしかなくて、

生まれたてが多いけど、その生まれたてを狙って

早めに能力を上げようとする、ちょっと慣れた奴もいるから、

それには気をつけてっ!」

それに口を開いたのは頭成と五星。

クリスタルは一人心配そうにレーザーの言う木陰を見詰める。

「じゃあ、あの茂みに隠れてるのもっ?!」

「たぶんだけど、そうだねっ。」

「じゃあさっきの盗賊もっ?!」

「そうそうっ!」

「あ、来ましたっ!」

「そうだねっ。」

そこであの木陰から斧を片手に、まっすぐ低い位置を飛んで来るゴブリン!

ブォッ!

「もらったぁーー!!」

「そうかなっ?!」

レーザーは短く声を発すると、振り向きざま短剣を投げようとしたが、

その前にくるくると縦回転し、敵の胸に立った別な短剣がある!

「良しっ!」

とどうやらそれは頭成の物らしいが、

その横にはまた二投目が深々と刺さり、

点滅して倒れ、その動かなくなった敵に駆け出す三人を押さえ、

ゆっくりと近づくレーザー。

「まだまだっ!食いしばりもあるし、

倒れて死んだふりしてるだけかも知れないからっ!」

「あ、そうかっ!あぶねー!」

「でも、うっまーい、頭成っ!」

「まあなっ!」

「じ、じゃあ僕は、回復しましょうかっ?!」

「それ冗談?」

レーザーは大の字になったゴブリンの上に、足を乗せ、

でもよっわいなーーこいつハハハッハハハッと笑い挑発してみたり、

投げた短剣を抜くついでに、その鉄の刀を奪ってみたりもしたが、

それは一切動かない。

「良し、死んだ!」

「ちょっと可哀相な気もしますねー!」

「いいやクリスタル君、これがこの世界の掟っ!

それに頭成君、君は後で能力値を見てみっ!

もしかしたら器用さとか、

集中力とか、何か上がってるかも知れないから!」

「そうですね、良ーし!」

「これ、このままなんですか?」

「三日程ねっ。」

答えながら腕組みをし、顎を撫でるレーザー。

「それに、ゴブリンになんて、なれましたっけ?」

「なれないっ。

でも何か、現世の話を大声で言い歩くとか、

そういう質の悪い事をすると、なれるって聞いた事があるけど…。」

「それは要するに、

…誰々が総理大臣になった…とかですよねっ?

でもなれるって、罰じゃないですかっ。」

「自分でこうなりたいという、そういう奴もいる。うんっ。」

「私は嫌ですねー。」

「うーむっ。」

レーザーは先重(さきおも)となった、

見た目からも刀身の先辺りが幅広の鍔無し刀を、立ててみたり、

寝かせてみたり、ちょっと振ってみたりし、

詳細も見てその値踏みをし、

また五星はその、裸になって緑色をした上半身の肌と、

肩幅の広い体や、鬼のように鋭い耳や爪を見て、

生まれたてながらに不自然さを感じている。

そう何故か身に付けている物も、細めの黒ズボンだけなのである。

「この人、いいやこのゴブリン、ちょっと変じゃないですかっ?」

「確かに馬鹿な奴だ。

飛行呪文を使えるって事は、相当経験値をためたはずで、

それで生まれたてを襲うなんて……、

という事はっ!狙いは私かっ?!」

「そ、その可能性もありますねっ。

騙まし討ちみたいな戦法で、

ここまでなったのかも知れませんしっ。」

「鎧兜も、何もかも売って、強い武器だけを買って装備し、

私を倒し多くの経験値を得ようって、そういう事だこいつはー!

倒して良かったー!いやぁ〜〜ありがとう頭成君っ!」

「ど、どういたしましてっ。」

「大手柄じゃないですかっ!」

まあ生まれたての頭成の攻撃も、

牽制程度にはなっただろうが、そこで訊く五星。

当たり前かも知れないが、

強い者を倒した方が、高い経験値を貰えるのかという事。

「うん、そうだねっ!

相手の基本・能力値八項目の合計の三倍に、

自分の器用さの値を加えたものだから、全然違うと思うよっ!

魔物からは、大体決まっただけしか、貰えないから。」

「そ、そういえば!」

「五星そればっかだなー!

一回死んで、案内状読み直してくれよー!」

「記録すれば良いだけですよっ?」

「酷い言い方ー!」

「私も、五星ちゃんの訊きたい事分かった!魔物でしょ?」

「そうですっ!」

ゴブリンをまたぎ、三人の前に出るレーザー。

彼女が言うには、魔物はこの先の町・生得にある地下迷宮にいるという事で、

そこからは出られないという事情により、

召喚士等が連れ歩く場合はあっても、彼らは大陸のどこにも現れないらしい。

だがここ特有の鳥獣や植物等は、よく探せば見つかるというし、

稼いだ経験値から特技を覚えれば、それを捕まえ、乗る事もでき、

まあ退屈もしないだろうが…。

その一々に五星を見て頷く、頭成とクリスタル。

だが頭成は、そうだ捕まえたのに乗れるんだーと今一度興奮し、

クリスタルを揺さぶっている。

そして心の内で呟く五星。

もっと案内状を見ておけば良かったか?

だが彼女にも、前の世界で敵の急襲を受け、その時から夜陽と話せていないから、

どうしても急いでしまった…という理由はある。

「まあ、良いんじゃない?少しずつ覚えていけばっ。

だとすればまだまだビックリするような事も、あるだろうけどねぇー。」

「そう考えれば…、ちょっと嬉いですっ!」

「うんっ!じゃあこれはー、五星ちゃんに渡そうかな?」

そう言ってレーザーが渡したのは、全部で五枚ある金の通過・スペス。

それは縦六、横二・五センチ、厚さ三ミリのライスとも呼ばれる物で、

人が住みついた当時から世界中に散らばっており、

初めは商人達を中心に、

ついには農民や狩人までもが使い始めたのがきっかけだが、

スペスという呼び方は迷宮が発見され、

冒険者が来るようになってからのもので、

それ以前から住んでいた人は、未だにライスと呼ぶ場合もあるという。

「じゃあ私、ライスって呼ぶ!」

「そうっ。じゃあ取っておいて。」

「良いんじゃない。」

「僕は反対ですね…。」

だが何故か真面目な顔で言うクリスタルに、視線を集める三人。

「五星と頭成にも分かりやすく、簡単に言えばですが〜〜。」

「良いから早く言えよー。」

「嫌味なのっ、その前置きが!」

「なになにっ?!」

「つまり、今のレーザーさんの説明では、

ライスという言い方をしてしまった場合、

元から住んでいた長い人と誤解されますし、

そうなると五星の真っ正直な性格からいって、

…後で損をする事に…なりそうでは?」

「ほぉ〜〜!」

うなるレーザー。

一応小声で訊いてみたが、クリスタルも二人と同い年らしい。

そうもしも彼女らが長くいた頼れる人物と誤解され、

それを小耳に挟んだ者や、人から聞いた者が、

強敵に追われ急に助けを求めてきた場合等、

そこに人気が無ければだが…それで全滅…。

つまりクリスタルは、その人を見捨てるという非情な選択肢は、五星に無く、

相手が素早い者であれば、逃げる事もできないと言うのだろう。

「うんうんっ。

二人共、こういうのをね、先見の明があるって言うのっ。」

するとそれに頷く頭成。

「これだよ、五星殿っ!」

「うん、分かった!」

「この為だけに、こいつ連れて来たっ!」

「失礼ですねーー。」

「じゃあとりあえず、最初はスペスで!」

「だったら異議無し。」

「フフフッ!」

可笑しくて可愛くて、仕方無いレーザー。

実のところ彼女はこの辺りに、宝実(ほうじつ)と呼ばれるこの森の木々になる

赤い実を採りに来ていたのだが、

同じように見上げて歩く三人からも、まだ何の声も聞えて来ず、

しばらくはその景色を楽しみながら行く。

もう十分に成長しきった、愛という名の木々。

それは高さ十二メートルにもなるやや斜め上へ沢山の枝を広げ、

そこに綺麗なハート型をした黄緑の葉を茂らせる木だが、

よく探せば大陸中の森林で見かけるものだ。

だがレーザーいわく、これ程まとまって生えているのは、ここだけ。

そこで落ちてきた一片をつかむと、レーザーを見る五星。

「おおー!」

「そう綺麗でしょ?でもねっ、私が探してるのは、もっと良い物!

まあそれだけに、今はほとんど残ってないだろうけどっ。」

また風情に無関心な頭成は、

それは探し物ならきっと良い物だろう、という顔。

「じゃあ、何ですかっ?」

「この木々の実っ。」

「ああっ!でも、何色ですっ?本当に全然ありませんね。」

クリスタルも体を左右に揺らしたが、どうしても見つけられない。

「…みんな採られたって事だなっ。」

「そのようです。」

「えーー?!」

「大丈夫っ!葉の陰とかに残ってるはずだからっ!」

「それを探しに入るんですか?」

「いいやっ。今はこの先の開けた場所で、講義をする為っ!」

やはりなという顔の五星に頷く、頭成とクリスタル。

彼らとしても、何も知らず滅茶苦茶な事をし、

五星や自分達が楽しめないのは嫌だ。

丁度人一人、大人の肩幅程、

その道端に三メートル間隔で並ぶ幹へ身を寄せ、森を覗き込む頭成。

障りなく鼻を抜ける、森の香りは……良し!

この辺りに動物はいないのだろうかとも思ったが、

薄茶色の細道がどこまでもまっすぐ続くのを見る限り、

この奥には、何かが、いそうだ!

「どっ…。」

「ここにも動物はいるよ!

でもだからって、静かに音を立てないように歩く?」

そこで何かを見つけ、声を上げたのは五星。

「あ、あれっ!クリスタルもほらぁっ!」

「ああっ、アレならさっきからずっと居て、へぇ〜と見てました。」

「えっ…?」

「オレ達にも教えてくれよー。」

「探してるのを知らないじゃないですかっ。」

そう高い枝の上でくるりとふりかえった顔は、

丁度真ん中に一本、耳の上にも一本ずつと、

後ろへ三本の筋が入った頭骨を持つ、黄緑のトカゲ。

ケエッー!

それを五星が体長十五センチ程だろうかと思った瞬間、頭成は三人の前へ。

「ケエッー!」

「もう逃げちゃうよっー!」

「あれは確かっ、ミドエリトカゲ!」

「えっ、レーザーさんでも、珍しい生物ですかっ?」

「うん!」

そうクリスタルに頷いたレーザーが木に飛びつく頃には、

素早く居なくなっていたが…、

彼女が言うにはどうやらあれは臆病で、人に懐かない性格らしい。

だが夢中になっているレーザーに声をかける五星。

「い、行って見ますかっ?!」

「ああっ!ごめんごめん、そこまでしなくて良いよっ!

でもこの目で見るのは初めてだったから、ついっ。」

頭をかきながら歩き出すレーザー。

また好奇心旺盛な五星は、ここでも訊く。

「…という事は、図鑑でもあるんですか?」

「うんっ捕まえると、

君らも持ってるあの本に載るし、絵もあるからねっ。」

「絵ですか?」

「案内状には無かったろうけど絵画っていう、冒険者の特技があるの。」

それは、目にした風景や人物ならばまるで現実のような迫真性で完成させ、

部屋に飾る事も可能な特技である。

途端に笑うクリスタル。

「ハハハッ、それはつまりー。」

「言うなよっ?

ただでさえオレ達、向こうの話をし過ぎだと思うぞっ?!」

「じゃあレーザーさんでも、

絵でしか、見た事が無かったんですかっ?!」

「そう!だからあんな、子供みたいなマネしたのっ!」

そうだいぶ仲良くなってきた四人ではあったが、

歩き続けるとその先の左手には、

鮮やかな水色で切れ込みのある大きな葉が、根から三本生えた草があった。

するとまた走り出す頭成。

「これはっ?!」

「それはいいでしょー!貰っておけば?」

「何で?」

「だって、こんな所に生えてるんだから、

綺麗だけど、誰も採らないって事でしょ?」

「生えてから、誰も見つけて無いだけかも知れないぞっ?!」

「人通ったの見たんでしょ?」

「きっとあの人は飛んでたから、見逃したんだっ。」

「なになにー?」

「ああっなんだ、薬草じゃないですかっ!」

そうレーザーより先に言ってしまったクリスタル。

彼が覚えているのも無理はない。ちゃんと案内状にもあるのだ。

「ああ、薬草かー!」

「ほら言ったでしょうっ。」

「でも君らには、絶対あった方が良いね。」

「そうですよっ。

回復量は少ないですが、僕達は体力自体が、低いですからねっ。」

「おい五星、こいつオレ達を誰だと思ってるんだっ?」

「そうだ!…かなりのゲーマー様だぞっ…!」

そしてその薬草を頭成から受け取ると、香りをかぐレーザー。

「ああー!なつかしぃー!ほらっ。」

「あっ!なんか爽やかな、ミントっぽい香りですねっ!」

そう花には香が、食べ物には味があるらしい…という、

また今では当たり前になった仮想世界の事情まで説明するクリスタル。

だが五星は、この世界の何もかもが気に入り、

もう旅行にでも来たように楽しみ、更に奥へ。

やや警戒しながら歩く四人。

「あっ懐かしいでまた思い出したけど、ここ寂しがりの森っていうからね…。」

途端にドキリとし、

何かまたその知識の中で、警戒すべき事でもあるのだろうか。

五星の背中へ隠れ、そこに頭成も呼ぶクリスタル。

「そ、そうですかっ。

でっ、さびしがりって、何を狩るんです?」

「……んっ?」

「プフッ!」

その頭成が吹き出す音を聞いて気付き、笑い出す五星。

「〜フハハッ!」

「だからっ…、」

「ああっ、違う違うっ!寂しがり屋の森って意味で、

サビシとかいう人種とか、動物を狩る訳じゃないから。」

「ああっ!それはっ、安心いたしました。」

「アハハハ!」

「デハハハッ!」

「そんな!初めてなんだから、あり得るでしょっ?!」

「どうかなぁーー?!」

「ありえねぇーー!すみませんね、ほんとっ。

オレもそうかも知れませんが、まあ…現代っ子なんで。」

「フフッ!

でも、この世界でも若いんだから、仕方無いんじゃない?

この森はね、ここみたいに綺麗な道が東側にもあって、

どちらからでも入ってみたくなるから、そう呼ばれてるの。

人が集まってそうな気がするでしょう。

でもほらっ、そろそろこの道も終わるよ。」

聞いて目を凝らす五星。

「えっ、まだまだありそうに見えますけど…。」

「分かった道だ!道が終わるだけで、

森はどんどん、どんどんどんどん深くなるんだっ…。」

「止めて下さいっ!」

そう頭成の期待通りどんどん怖くなるクリスタルだが、

美しさだけだった森は少しずつその手を放すように、道が草々の中へと消え、

辺りは右手が緩やかに、大きく窪んだ場所に。

そこは木々が少なくかなり奥まで見えた。

「あ、ドピンク!」

「伏せて!」

何故か五星の肩をつかみ、自分も伏せるレーザー!

頭成とクリスタルも見習ったが傾斜奥の木々の間には、

小さな小さな猪に囲まれた大きなピンク色の猪が、

運ばれて来た木の実や草にさえ見向きもせず、居眠りする姿が…!

「…ミドエリトカゲ程ではないけど、これも珍しい…!

…実はあの小さな個体は、子供ではなく雄で、

メヅヨイノという生物だ…!」

「…え?でも、好きなんですねっ、こういうのっ…。」

「すっげぇーー!」

「…静かにして下さい頭成!

こうして大人しくさせますから、

私達が強くなるまで、一緒に居てくれませんか…?」

「…うん。

たまに大きくたくましい雄が生まれる場合もあるらしいけど、

基本的には、雌が強い動物だねっ…!」

「聞いて無いねっ?」

「…すっげ…!」

「…この人もそうみたいですね…。」

「しまったっ。」

と今度は何があったのかそのまま後転し反対の茂みへ身を隠し、

そこへ五星達も呼ぶレーザー。彼女が言うには、

既に獣道となったその遠くに今迄見た事も無い建物があるらしいが、

それはともかくとその茂みを作る葉のあまりの大きさに、

この植物は何か?とも訊く頭成。

彼が知らない建物ぐらいでは怖がらない気の強い子なのは知っているので、

五星達も止めはしないが、

レーザーいわく、これは巨葉(きょよう)という植物。

二センチ程の太い茎に幾つも重なるようにしてある枝から、

七つに分かれた切り込みの大きな葉が延びる、

最大でも一メートル程にしかならないもので、

だがその葉は、大人が両腕を回した程もあり

下にある物を完全に隠してしまう為、

人や動物が隠れるには丁度良い草だというのだ。

「…デカッ…!」

そう驚く頭成と、今も油断できないので何とかその注意を引こうとする五星。

またクリスタルも心配そうに頭成を見詰める…。

「そ、それより、あの家を気にするのが普通じゃない?」

「うわデカーッ!」

「静かにっ!!」

「違う。もっと下にあるこれ…ほらっ!」

「………。」

だが三人の歩みを促すレーザー。

「…まあまあっ!

少しずつこの茂みを移動して、あの家を見てみようよっ…!」

「…そうですねっ…!」

その五星達を尻目に巨葉の一枚を取り、隠れてみる頭成。

するとほとんどその家からは、

体全体が見えなくなっているのではないかと思われ、

これは後で何かに使えると判断。

そうしてからやっと興味の対象が皆と同じ物に移ったようだ。

「…でもあんな綺麗な家、

悪い奴が住んでいるようにも見えないけどなっ。」

「いいえ、レーザーさんが知らない以上、油断できませんよっ。」

そして四方に注意を払いながら、ゆっくりと進む四人。

丁度彼女達から見えていたのは、白く円柱形の家。

その右から左へと上る外階段には、木でできた薄茶色のドアが三つ並び、

更に近づくとそこを下りた所にあるのは、大きな玄関らしき両開きのドア。

しかも平らな屋根には長い草が生え放題と少々変わった造りだが、

四人が見詰めているのは階段から離れた部分にある、

割れば人一人が通れそうな…丸窓。

そこから誰かが覗いていないか様子を窺っていたのだ。

そこで訊いたのも五星。

「…あの窓なら屋上から足が届きそうで、心配ですね。

狩人の家じゃないですか…?」

「…あっ、そうかもねっ…!

中々妥当な見方だけど、魔物と一緒に暮らさなければならないから、

もしかすれば召喚士とか、やっぱり悪人…、

でもそれならもっと奥に住むかなぁ…?」

葉の陰から訊くのは頭成。

「それで今は、居るんですか、居ないんですか?」

「…それは分からないねー。観測者でも無いから…。」

「なるほどっ。まあ大体は案内状で見ましたが、

…観測者の説明も、要ります…?」

そう言って説明するクリスタル。

そう観測者とは特技を覚える程より広範囲にいる、

より強い相手の情報を得たり、動物の位置や詳細までも知る事ができる職業で、

この世界でも当然情報は重要であり、中々に恐ろしい相手といえる。

つまり目を閉じたり瞬きもせずにいると何もかも見え、

だが一人で生きて行くならだが非力で、

それを防ぐ忍者の特技・目塞(もくさい)というものもあり、

他にあれもこれもと特技が無いせいで、

必要なものを覚えてしまえば転職する者がほとんどらしい。

「…じゃあ、

今私達がここに隠れているのも、知られてます…?」

「…相手に興味があればね。

それに、この家の持ち主がそれを覚えているとは、限らないけど。

この先が目的地だから、危険が無いなら進みましょう…!」

そうかじゃあ…と普通に歩こうとする頭成を止め、

怖がるクリスタルの袖も引っ張り、レーザーに続く五星。

まだ生まれたてなのだから、

どちらかといえば慎重に行きたいところだが、

レーザーは家を見ながらも全体に神経を注ぎ、少しずつ三人を誘導。

獣道に戻ってからもしばらく歩き、やっと開けた場所へ出た。

そこは一息に言ってしまえば、憩いの陽だまり。

「おおぉ〜!ここに居たのかーー!」

そのまだ若い木々がぽつりぽつりとしかない

薄っすらと草々さえ輝く景色には目もくれず、

きっと森の中にも誰かいるとは思っていたが

やっとの思いで人を見つけ、走り出す頭成。

左手の木陰には足を投げ出して座る、

それぞれ薄緑に薄青いローブを着た魔術士風の男女。

右手には、胡坐をかいて武器に呪文をかける厳しいドワーフ風の男や、

もっと奥には、切り株に腰掛けこちらの様子を見ながらも装備の確認する、

その額に銀製で青い一本角のカチューシャをつけ、

皮衣を着た狩人風の女性もおり、

他にも離れた場所には何人かいるのだが、一々見に行くのは彼だけである。

「へぇー、そういう格好も有りですねーー!」

「な…何か?」

「生まれたての人じゃないかな?」

「こらー、まず講義でしょっ!

…君はまだそんなに強くないんだからーー!」

「フフフッ!」

笑うと相槌を打ち、短剣を出すレーザー。

五星はその頭成を止められないだろうと思い、

どうせなら夜陽の事も訊いてもらうよう頼む。

「僕にも教えて下さいっ。

一応僧侶ですけど、武器の扱いも知っておきたいので…。」

「ああ、五星ちゃんに教えるのはね、基本中の基本。

別に、レーザー流・剣術を教える訳じゃないしっ。

見るだけでも覚えられるよっ。」

「私も訊いて良いですかっ?」

「うん何っ?」

そう言って五星に振り返るレーザー。

「この中に、知っている人はいますか?」

「ほうっ…、それは頭成君の質問かと思ったけどっ。」

その野心的で人材に興味があるはずの彼は、

まずこの世界の人々がどういう趣味かを知ろうとしているようで、

それならとそちらは見ず密かに指を差すレーザー。

そこに居たのは、さっきの角付きカチューシャをつけた女性。

そうよく見ると彼女は、鼻も口も顎も小さな作りの顔に

長い睫毛の横長な大きな釣り目があり、

その五星達よりやや長身の体にある皮衣とは何の獣かまでは不明だが、

ふさふさとした栗色の毛を持つ両腕を肩から下げ、その交差させた腰部分に

爪を引っ掛けた物と、そのアームウォーマー。

下も同じ物で作ったのかその腰巻きをしているが、

腿には別な白革で作られたであろう短めのレギンスをはき、

靴は白い毛に太い三本爪の足という、愛らしくも野生的な姿だ。

「…あの人だけは知ってる!でも見ないでねっ…!

二、三度口を利いただけで、あんまり親しくは無いからっ。

名前はフライシュ。いかにも野生的だけどそのまんまで、

口数も少ないし、大体は迷宮とか、

人気の無い場所で肉を売って生活してー、

確か最近は、この森に住んでるって聞いたけどっ。」

「へーー。良い人かどうかも気になりますけど、強いんですか?」

「まあまあ?」

「何っ?!」

するとそこに響いたのは女にしては太い声。

やはりその主だったフライシュは最初から聞いていたのか、

またそこだけ気になって聞いていたのか素早く立ち、弓まで出す。

「分かったごめんごめんっ!聞いてないのかと思って…。」

「そうか!じゃあもうちょっと、向こうでやれっ!」

そのもっともな言い分に謝る五星とクリスタル。

「ごめんなさいっ!」

「申し訳ないっ。」

「すみませんー!」

そして最後は、丁度悪いところへ来た頭成。

その残念そうな顔からどうやら夜陽の情報は無かったようだが、

フライシュは軽く頷くと、今度は弓を確認。

それを見たレーザーは彼女に背を向け、五星に耳打ちする。

「…まるで自分の土地だねっ…。」

「まーだ聞えてるぞっ!」

「でもみんな、好きに生きてるって感じですねっ。」

「そうだよっ。だってこの世界の神は、自由と喜びの神で、

何をしなければならないって事も、無いからねっ。」

「…本当に素晴らしいなっ?!」

「僕達にとっては至上の神ですねっ。」

「じゃあ、そろそろ初めようか!」

そう約束通りではあるが復習も兼ね講義してくれるというレーザーに、

頷いた五星は短剣を出し、彼女と相対する。

そしてその頼りない短剣を撃つレーザー。

ギンッ!

「わっ!!」

「うん、でしょう?」

「何っ、まさか衝撃っ?!」

「多分、正解です!」

後ろに立つ他二人もそうだが、受けた五星が一番驚いている。

「君が手に短剣を落とした時は、勢いも無く、

ダメージも小さくて気付かなかっただろうけど、

案内状にもある通り、かなり本物に近い雰囲気になってると思うよっ。

頭部と腰部には無いけど、これも、ここの面白さの一つ!」

「じゃあ私も、良いですかっ?!」

「どうぞっ。」

ギン、ギンギンッ!

と何度もレーザーの武器を叩き、止まらなくなる五星。

「フフッ!良いよ良いよっ!そうっ!」

「た、楽しいっ!何か、楽器でも演奏してるみたいなっ!」

「逆に良いぞー!」

「あまり厳しい目で見ないようにっ。

夜陽ちゃんさえ見つけられれば、後は楽しめれば良いんですから。」

「はい止めーー!これは一応覚えておいた方が、

後で驚いて負けちゃうなんて事も防げるので、今教えましたが、

実際に消滅つまり死もある戦いにおいて、

この強い衝撃に圧倒されたり、

気をとられて別な攻撃を受けるなんて事が無いよう、注意するようにっ!」

「はいっ!」

「それにダメージは、どうやって与えるんだった?」

「ダメージ…。それは両手にあるー、いいやっ!

両手か、そこで持った武器でのみ、与えられますっ。」

「正解!

武器を無くした場合素手で戦う事もできますが、

ダメージは足につける武器も無く、蹴り等では与えられません。

だけど相手を退かせたり、

間合いや位置関係を有利な状況にするには、

当然足の使い方も必要だから、これも覚えておくように!」

「な、なるほどっ!」

「クリスタルッ、じゃあオレさ、蹴りまくって良い?!」

「まあ…戦闘は得意でしょうし、ご自由にどうぞ。」

そこでまたレーザーに質問する五星。

「何かを蹴る事はできますか?

たとえば、敵の剣を防ぎながら、回復する道具を仲間へとか。」

「…できる。

うんっ、今から色々考えておいた方が良いね!

それに例えばその切り株。」

そう指差し、頭成とクリスタルを退かせ、そこに飛び乗るレーザー。

「あっ、どこかに上がって攻撃するとか、

そこから飛び下りながらの別な行動も、可能だって事ですねっ?!」

「そうだ!たぁーーー。」

「うわっ!」

悲鳴は上げたが、真横にした短剣で綺麗に受ける五星。

「さすが五星様、かなり良い調子ですぞっ!」

「もう三人とも、かなり高貴な身分ですねっ。」

「これは乗っている馬からでも、仲間の肩からでも、できるからねっ!」

「へぇー!」

そこで五星が傷ついた場合、最初は道具も沢山は買えず、

回復しなければならない役目のクリスタルは、

呪文を使うのに必要な気力についても訊いてみる事に。

「うん、体力は違うけど、

気力は精神力の強い順に、少しずつ自然回復する!

だから心配無いよっ。」

「…ええっ?!せ、精神力次第ですかっ?!」

「大丈夫だってー。お前も強くなるからー!

そうするだろー?!」

「…リアルスピリットに不安があります…。」

「だから上げれば良いからぁー。」

「そう値を上げれば良いだけっ。

でも君はその役目を負う訳だから、よろしくねっ!」

「任せて下さいっ!」

それに笑顔をこらえ頷くだけのレーザーだが、

五星には更に好感をもった様子。

だがそんな彼女を死なせたくは無いので、講義は続く。

そう死なせたくない…といえば、体力・耐久力の話だが。

「でこれは、頭成君に言った方が良いかも知れないけど、

相手を追う場合、体力や耐久力に自信があれば良いけど、

あまり長距離を走り続けると、少しずつダメージになるから。」

「大丈夫です!それは、私がさせませんからっ。」

「レーザーさんには失礼かも知れませんけどー、

オレ深追いとか、そんな馬鹿な事しませんよっ。」

「あーダメだー自覚して無いしっ、絶対するよねー。」

「私が止めますって!」

「しないって!」

「何なんですか、その自信は?!」

「まっそれはともかく、その耐久力は、

鎧兜や小手、他にも盾とかの合計になるから、どこを攻撃しても同じで、

ただ戦士の特技で、急所を狙う会心っていうのもあるけど、

基本は勢いとか深さによって、それぞれ三段階に分けられるからっ。」

「すごーいっ!」

その迫真性に喜ぶ五星。

またこの特技・会心は、下級の内は一度に一人にしか設定できず、

こぶし大ではあるが、ひそかに弱点を見つけ、

そこを打つ事で大ダメージを与えるもの。

だが一度見つけてしまうとその住民には他に弱点を設定できない為、

倒すなら気付かれる前が良いだろう。

勿論消滅後は再設定も可能だが、魔物には無作為に発生。

その弱点の多くは、誰がこの特技を使っても、

その相手がそれまでの人生において大きなダメージを受けた位置に出現し、

一度も攻撃を受けた事が無い者の場合はよく使った部分となるが、

新たに大きなダメージを受けてからは、そちらに変更される場合もある。

聞いて頷く頭成。

「腕が鳴る…っていうのは、こういう時で良いよな?」

「ええ、正解です!」

嬉しくなった頭成は、だったら本気で生きてみよう!…と、

まるで今迄思い悩んでいた者のように心の中で叫び、

左手にあの小さな本を出すと、能力値を見る。

するとレーザーが言ったように、

素早さが1だけ上がっているではないか。

「良しっ!でも、何で上がったんです?」

「というと?」

「最初だから、上がりやすいんじゃない?」

「…僕もそう思いますが…。」

「そう、二人の言う通り。

でもね、相手が強い敵だったって事もあるよっ。つまりこれは?」

「………。」

そう突然言われ押し黙る三人。だがレーザーにとって意外にも、

それに答えたのは五星だった。

「強敵と戦う事が、強くなる近道!」

「そういう事っ。」

「確かに当たり前だけど、経験値が多く貰える…とかじゃなく、

能力値も上がりやすいってのは、何かニヤッとしてしまうなっ?!」

「えー安全に行きましょうよーー!」

「いいや、何の為の回復なんだって事だっ!」

「無茶をする為の僧侶ではありませんからねー。」

「まあまあクリスタル君、これあげるから。」

そう言って赤い実を出し、彼にあげるレーザー。

当然五星達はもう採ってたの?とちょっと驚いた顔だが、

考えてみれば一つだけ必要という方が、不自然かも知れない。

「い、良いんですか?」

「良いよっ。

僧侶の君が必要になる、光属性を上げてくれる実だからねっ。」

「ありがとうございます!」

「そうだ属性!

君は大体知ってそうだけど、他二人は

別な事に自信を持ち過ぎているせいで、ちょっと怪しいから、

呪文についても教えておこう!」

「お、お願いしますっ。」

「喰らいませんけど、お願いします!」

ガスッ!

その頭成の強気な発言にも微笑をたたえるレーザーいわく、

水は炎を消し、炎は必ず土の上に生じ、

土は風にも動じず、風は水をも揺るがす。

「その続きは、光と闇は互角に戦い、

世がある限り決着はつかないって言うんだけど、

当然色々考えはあるでしょうがこれが幻想世界の常識ですので、

肉体派の二人も一応は、覚えておくようにっ!」

「はーいっ!」

「うん、素直でよろしい!

〜〜の場合は、どうなんだろう?とかいう、

好奇心や探究心で訊くなら良いけど、相手を言い負かしたいだけの

意地悪な子がいなくて、先生安心しました!」

そこで、好奇心ですけどっと手を上げたのは、クリスタル。

「じゃあ光属性が強い者は、

闇属性が強い者に、大きなダメージを与えられるんですか?」

「うーん、良い質問だっ!

だが実は、お互いに大きなダメージを、与えられないんだっ。」

「な、なるほどっ。」

納得するクリスタル。

勿論どちらも相手に大きなダメージを与える、

またこの世界のようにどちらも相手に小さなダメージしか与えられなくても、

不満にはならないだろうが、朝と夜があるように、

善と悪、それに光と闇も、延々と戦い続けているのかも知れない。

とにかく五星は、

魔術士系君主になりたいので、これも訊いてみる事に。

「へぇーそれより、攻撃呪文は、両手でも出せますか?」

「うんっ!

両手でそれぞれにも出せるし、合わせると威力は倍!」

「やっぱそうですよねー!」

「じゃあオレ、魔術士になって良い?」

「良いけど、この三人で生きて行くのは難しくなるから、

すぐ他の人に声をかけるよっ。」

「あまり仲良く無い奴を入れるのは、嫌だと言ってましたよね?

わがままは許しませんよっ。」

「肉体も強い魔術士になれば良いだけだろっ?」

聞いて一応は考えて答える五星。

「うん、それもできるねっ!」

「ほらっ。」

「難しいのではありませんかー。」

だがレーザーは慎重だ。

「でも、それぞれの職業によって、

基本能力の上がり易さとかがあるから、

初めは無理しない方が良いなーー。」

「ほらー。」

「ああっ、でも問題無し!それでも後で覚えるっ!」

「でもどうですかねー?

君は結局呪文も使わず、突っ込んで行きそうですがっ。」

「戦士は、体力、筋力、耐久力、それに次いで器用さが、

僧侶は、主に精神力、次いで気力と集中力が、

君主は、主に気力、器用さ、集中力、精神力が、

次いで、素早さが上がりやすいから、覚えてねっ!

これで講義はおしまいだけど、最後に…死なないように!」

レーザーは別に綺麗事では無くそれが賢いからと付け加え、

頭成と五星にも、それぞれ一つずつの贈り物をくれた。

それはゴブリンから獲得したあの刀と、消玉(しょうぎょく)という道具。

「おおっ、ありがとうございます!最初から強い武器だっ!」

「消玉?」

その直径五センチ程の、薄っすら灰色がかった玉を見る五星。

「それは簡単に言えば、呪文を封じ込めた玉なんだけど、

奪った物だから、ちょっと灰色っぽくなってるでしょ?

それが期限を現してるの。」

「へ、へー期限なんてあるんですかー。」

「でも誤解しないで!

正当防衛って事もそうだけど、それに封じられているのは、

コンセンっていう移動呪文で、町まで一気に行けるし、

別に悪の力が宿ってるとか、そういうんじゃないからっ。」

「一気にっ?!やったぁ!」

五星は手放しで喜び、頭成は刀を凝視しているが、

クリスタルは質問を続ける。

「使うと消えちゃうから、消玉ですよね?」

「そうっ。」

「それは分かりますが、では色は期限を現すだけですか?」

「実はね、これは元々友達に、自分の力、

つまり呪文を貸す方法なんだけど、その友情が薄れると、

いつか力も消えちゃうのっ。」

「はーー。」

「だから作って誰かに売る場合も、その人と会わなくなると、

いつか完全に黒くなって、消えちゃうって訳。

よく会うと友情があるっていうのも、変だけどねっ。」

その言葉に夜陽を思い出し、前のめりになる五星。

「じゃあ早く使った方が良いですか?」

「そうだけどっ、でもどうかなーー?

途中で親切な人に会って、送ってもらったりしたら、それ売れるし、

消滅さえしなきゃ、歩いても間に合うと思うけどなぁ。

一生懸命歩いて行くというのも、

厳しいけど鍛える事になるから、一つの方法だからねっ。」

「でも消滅したら…、意味がありませんっ。」

「まあそうだねー。」

そう言うと短剣をしまい、森を見回すレーザー。

クリスタルにあげてしまった事は無関係だろうが、

彼女にはその愛の実以外にも、何か都合がありそうだ。

そして別れるのは寂しいがまず夜陽を捜したい五星。

「一緒に行けるのは、何人までですか?」

「六人!一応、迷宮の事も考えてあるんだろうけどっ。」

「もう少し遊びましょうよー!」

「残念ながらだめ。

お姉さんにはこれからやる事があるのっ。

でももし時間があればだけど、灯(あかり)の道具屋へ行ってみてっ。

私もたまに行くから。」

「灯…という事は…、何故か女性と縁がありますねー。」

「やっぱりクリスタルでも、嬉しい?」

「残念だなーー。」

「ハハハッ!すぐ会えるってっ。

それにその店にはね、普通に男も来るよっ。」

町を支配してるのも女だけどね、という気になる一言を残し、

手を振ったレーザーはさっき家を見つけた方角へと消え、

これで五星達三人は、完全な生まれたてだけの集団となった。

そこで女ばかり出てきて面白くないのかとも思い、二人を見る五星。

すると彼らは意外と真面目な顔つきだ。

「今は女が支配者って事は、

これは、五星を支えるオレ達にとって、良い報せだっ!

レーザーさんには、本当に感謝しないとなっ。」

「そうですねー。権力に興味はありませんが、

優しい五星がいつか人々をまとめる事ができれば、嬉しいですっ。」

「そ、そこまでは、考えて無かったなーー。」

そう反応しつつも、組んだ腕の中で消玉を握る五星。

しばらく考えた末早速使って生得へ飛ぶと決め、二人にも話す。

そうここで訓練し能力を上げてから進んでも良いが、

その先で悪い奴らに見つかっては、努力は一瞬にして無駄になるのだ。

よってそれには賛成する頭成とクリスタル。

「うんっ!

まず安全だろうし、町へ行くのが良い!迷宮もあるしなっ!」

「ええっ。今までの事をまとめると、

寧ろ生まれたてである僕達には、迷宮の方が安全とも言えますからねっ。」

「そうっ。

迷宮内には魔物という共通の敵がいるし、人同士の争いとか、

予想できない状況に、巻き込まれにくいって事!

確かに、どこで何が起きてもおかしくはないけど、

レーザーさんが勧めてくれたんだし、

支配者がいるって事は、その人に従っていれば良いんだから!」

「オレ、挨拶に行って良いっ?」

その元気の良い頭成は、

五星とクリスタルが心からお願いし何とか止められたようだが、

そのおかしな三人を見ながら、まだ手入れをしていたフライシュ。

彼女は三人が気付くとニコリと笑い、

だが肉を買う金が無いと分かると、そうか…気をつけろよと一言。

また作業に戻ってしまった。

そして決めたら早い五星。

貰った消玉を放つと三人の足元にオレンジの光が生じ、

強く輝くとそれは巨大な炎の器のように彼女らを押し上げ、

天空から東方へと舞わせた。

その衝撃や勢いが、

生まれたての彼女らを驚かせていなければ良いが、

レーザーは木の上で実を食べながら、そんな事を考えていた。



これはきっと、私の色だ!

一体どれだけの種類があるかは分からないけど、間違い無い!

五星はあのオレンジの光の中、

ひゅるひゅると鋭い風の音だけを聞き、そう確信していた。

左を飛ぶ頭成は、両手を後ろへ、ほとんど自然体で真面目な顔をし、

右の足にしがみついたクリスタルが、

さっきから何事かを訴えているが、あまり気にはならない様子。

「そう高いもんねっ。でもっ…。」

自分には飛ぶ力があり、

その意志を持って今空にあるのだから、何が怖いものか。

下を飛び行くローブに鎧の上だけを着た者は、こちらを見上げているが、

堂々と草原を行く戦士達は、その最後尾を行く者だけが振り返り、

当然これは、そう珍しい状況でも無いという事だろう。

そう今迄飛ぶ者を見なかったのも、ただ広過ぎる世界が理由である。

左手の北には、灰色の大きな岩山、先の東側には海も見えたが、

彼女達の注意はやはり目の前に広がる、

ごつごつした石壁に囲まれた町・生得の中心にあって一際高く、

白壁に紺色の屋根が集まり、奥が角になった五角形の城へと向いていた。

一辺の幅が三十メートル、高さ十五メートルはあろうかという

城壁の門と一体となった四ヶ所の番塔の一つには、

目だけをこちらへ向けた薄赤い羽根つき帽に布の服を着た弓兵。

白や紫、赤や黄色の花々が咲く長方形の花壇も並ぶ中庭にも兵はいるが、

彼らはこちらの様子を見もせずゆっくりと歩き、

派手なドレスをまとった婦人達と話等している。

そして、もう五星達以外は見向きもしないが、

また高さ三十メートルはあろうかという居館。

これは五つの角に先が尖った屋根の塔があり、

その中心となった広い屋上には下から少しずつ細くなった柱が、

やはり先の尖った屋根もある短い円柱の部屋へと続き、

そこへ行くには、北側にある細い階段を上って行くのだろう。

恐らくそこが支配者の部屋だろうが、

さてその間既に色取り取りの町へとぶつかっていた五星達。

当然といえば当然かも知れないが、

遠くから人が飛んで来て、その強い振動や音と共に大きな光が消え、

噴水のある中央広場もすぐそこという場所へ下りたというのに、

そこへ振り向く者もいない。

辺りは、青い壁に紅白のしましま模様の屋根だったり、

クリーム色に赤く丸い屋根だったり、

木造で古い雰囲気を出した店等、二列に並んだ各商店が城へと続き、

だが何故か皆後ろ向きというその間に、

地面に直接掘られたような浅く大きな噴水もあり、

扉は無いがここ生得の町の門前といったところ。

そう上からも見えていたが町は、円を描くように高い壁に囲まれ、

三人の下りた南ともう一つ北側にも門があり、

その白く美しい石畳は入口から徐々に色も質も不揃いなものへと変わり、

遠く西へと続く。

「城見た?!」

その興奮した頭成に、平静を装う五星。

「う、うんっ。あれでしょ?」

「あ、あんまり見ると、恥ずかしいじゃないですかっ。」

「二人共気にし過ぎだろー?」

「そういう訳じゃないけど、堂々としていたいのっ。

せっかくレーザーさんが消玉をくれて、呪文を使わせてくれたのに、

全員生まれたてだって気付かれると、面倒な事になりそうだしっ。」

「なるかってーー。」

「なりますよー!」

丁度そこに聞えて来たのは、広場からの言い争う声。

「あっお前、あの時のっ!その、オレの盾を返せっ!!」

「な、何よ急に!私知らないっ!!」

「まず装備を解け!話はそれからだっ!」

「私の物なのにっ!貴方こそ落ち着きなさいよっ!!」

周りにいた者達も自分には無関係だと主張する為か、

少しずつ店の間から他の通りへ行ってしまったが、

その目に対して縦に金の線が入った筒状の銀の兜を被り鎖帷子を着た男は、

鉄の剣を振り、実は女盗賊の可能性もある、大きな目に青い髪が足までもある、

黒革のノースリーブとマントにショートパンツをはいた四頭身の小人風の女は、

白銀の丸い大盾で防ぎ、二人はもう必死になって、戦っている様子。

「死ねっ!この泥棒女!!」

「ここまで強くして、死ねないっ!」

「オレはお前に装備を奪われて、死にかけたんだぞぉ!

〜じゃあお前は、死ねっ!」

「助けてぇーー!」

「ど、どう思う五星、クリスタル?!」

「待って!」

「で、でもどっちが悪いのか、全然分かりませんしっ!」

騎士は執拗に噴水の周りや中までも追いかけ回し、剣を振り、

たまに炎の玉まで出し、

魔女は自分が得意な呪文で攻撃されたのがよほど頭に来たのか、

そこからは同じ炎を噴射し、やり返している。

「うっ!こんなものっ!」

「も、もうどっか行け!」

だが強引に間合いを詰めた騎士の一撃に、

薄っすらと青白い呪文で回復しながらも逃げるのみとなる魔女。

そうして二人は何度か噴水の前を行ったり来たりした後、

剣を杖で受け止め上と下になった格好から動かなくなってしまったが…。

ド、ドッ!

「う、くそぉっ!!」

「わ、私は巻き添えになっただけでっ!」

その二人に降って来た矢は…どうやら城から。

その無情な鳥のように飛んで来た攻撃はしばらく続き、

上げた両腕を交差させ、指差ししたりするその抗議も、

ついに虚しいものとなってしまい、

そしてこれには見ていた全ての者が驚いたが何より三人に衝撃を与えたものは、

その二人の為に射撃を止めようと叫びながら門前に出て来た善意の男性もまた、

同じように討たれてしまった事…。

よってその場に残ったのは、所々に矢が立った三つの体。

あれも討て…と支配者が命じたかどうかは分からないが、

五星は人を制しておきながら、

自分で何か声一つでも上げる訳にいかず、それを飲み込む。

全ての商店が大通りに対し後ろ向きなのは、

このような事態を避ける為だろうか。

頭成もその場を動く事ができず、取り乱している。

「しょ、消滅した?!」

「どっちが悪かったんでしょうかー?!」

「ちょっと静かにしよう!」

また二人を止める五星。

見れば、高く大きく羽を広げた模様の、その重厚な淡い紺の城門を飛び越え、

恐らく支配者の配下だろうが、一人歩いて来るのだ。

その男は…白肌の端正な顔に細長く赤い目があり、髪は長く真緑。

だが五星達を驚かせたのは、彼の前腕から手、それに足が…竜のもののようで、

先で三本に分かれた頭一つ分程の白角や、その尾さえもあり、

胸から膝までをワインレッドの布で覆うという、その奇抜な姿。

当然印象もあるだろうが、近づいて来ると長身でもある。

「…ここから、二十メートルぐらいかなっ…?」

「…いいや、考えないで…!」

当然無謀な事は考えていないだろうが、

明らかに危険そうなこんな相手にまで関わるのかと、

密かに頭成をにらむクリスタル…。

竜人(りゅうびと)は弓兵に倒された二人の、

おそらく何もかもを剥ぎ取り、

またゆっくりと城へ飛び去ってしまった…。

そしてまるで微調整されたかのように帰って来る、広場の賑わい。

「ほ、ほらっ!ほらほら〜〜!」

「何ですか五星様!その下品な言葉遣いはっ?」

「臣下なのか仲間なのか、どちらかにして下さいっ。」

「やっぱり危険あったし!

強くも無く、また弱くも無いという〜つまりっ、

普通の住人を装っておいて、正解だったから!」

「そうむきになるなよっ。」

「何かあった時には、黙って五星に従いますからっ。」

「じゃあさクリスタル、あの赤い実、〜早く食べてみてよっ。」

当然さっきの事も気にはなるが、

しゃくしゃくと音をたて、食べてみるクリスタル。

体力回復など他にどんな効果があろうと、

食べると能力が上がるものをそのままにしておくのは、

彼女らの鉄則に反するという事だろう。

「あっ!…何か、苺のような味ですねっ…!

…それでいて、後にこの皮の部分の風味が…。」

「ふ、二口っ?」

「それはそうだろっ。そんなに何口も必要っ?」

「自分でも探してくれば良かったですねー!」

「まだまだっ、強くなってから!」

「そういうのには積極的だなーー。」

「ちょっと良いかいっ?」

また三人の冒険へと戻り和やかな雰囲気の彼女らだったが、

そこへ話しかけてきたのは店の陰から出て来た一人のおじさん。

角張った顔に白髪は七三分けにし、背は低いががっしりとした体に鉄の鎧を着て、

青いズボンを合わせ、革のブーツを履いている。

「うんうんっ、楽しそうだね。

それよりどう、この野獣の化石買わない?」

その外見にしては若く明るい声の彼が両手の平で見せてくれたのは、

大きな角のような物だが…。

「…えっ、いいや要りませんっ。」

「こら頭成、何で勝手に断るの?

これは、どういう効果があるんですか?」

「まあどっちにしても、高そうですねぇ…。」

「えっ、でもさっきのコンセンは、消玉だろっ?!」

「何で分かったんです?!」

「だってー、君達の会話聞えてたからっ、

生まれたてなら、まだコンセンは覚えて無いだろうと思って。」

「ほらー、だから静かにしようって言ったのにー。

もしかしてこれは、消玉の材料って事ですかっ。」

「そうそうっ。4000スペスね。」

その値段に仰け反る頭成。

「え、4000ですかっ?!」

「私達にとっては、大金だ。」

「これだけで作るんですか?」

細指でそれを差すクリスタル。

「おっ鋭いね君。

実は消玉を作るには、他にもう一つ必要になるんだけど、

オレとしてはこれだけでも、十分商売になるのさっ。」

材料の半分でこの値段とは、高価なものを貰ってしまった。

五星らは改めてレーザーに感謝し、その気前の良さにも驚いたが、

このおじさんの期待に応える事はできない。

「とにかくオレ達、スペス無いからなー。」

「じゃあ〜作った友達は?

その人にでも売れれば良いと思ったんだけどっ。」

それに答えたのはクリスタル。

「レーザーさんという方から頂いたのですが、

彼女は今、ここから西にある寂しがりの森に居ますしっ。」

「やっぱり、知ってます?」

そう五星も顔色を窺うように訊いてみたが、何故かおじさんは難しい顔をする。

「…ああっ、レーザーね。

なんちゃってっ!結構良い人だよなー。ならほらっ、この薬草はサービス。」

「びっくりしたー!」

「恐れられてるのかと思いましたよー。」

「ありがとうございますっ。」

安心してお礼を言う頭成に、改めて冗談だと教えるおじさん。

「いいやね、怖いのは怖いよっ。

でも確かにー、まだ生まれたての住民には優しいって聞いたなー。」

「やっぱりそうですかっ。」

五星はレーザーを好きなだけにその彼女が本当に良い人で嬉しかったが、

だとすれば…疑問が。それはさっきの騒ぎだが、

あれがもしも本当に支配者の判断なら、

彼女のような良い人は希という可能性も出てくる。

「…こんな事訊くのは、図々しいかも知れませんが、

さっき三人を消滅させたのは、やっぱりここの支配者ですか?」

「う〜んっ、そうだねっ。」

そう答え、一軒目の商店の青壁にある、案内板を指差すおじさん。

そこには町の地図の左に、以下のように記されていた。

その一、許可無く生得内に住んではならない。

その二、許可無く生得上空を通過してはならない。

その三、許可無く城内に入ってはならない。

その四、どんな事情があろうと、生得内で争ってはならない。
(構えただけで処罰の対象とする)

その五、どんな事情があろうと、賞金首を助けてはならない。

その六、どんな事情があり、どこへだろうと、城を造ってはならない。

その七、何か異変があれば、それが迷宮内での事だろうと、

直ぐに我々へ報告しなければならない。

その八、上のその五以外の許可を求める者は

必ず我々へ素性を明かさねばならず、

もしも違反した場合には、処罰を受けてもらう事とする。

「…読んだ二人共…?」

「厳しいなーー!」

「そうですか?

支配者としてこのぐらいー、でもよく考えると…。」

「それなんだよ君っ。

誰もがアン様を支配者として認めている場合、

それにこの規則がもうちょっと人々の事を考えてくれていれば、

皆不満は無いんだけどねーー。」

「アン…っていう名前の人ですか?」

「そうだよっ。…女性だし、名前は可愛らしいけどねっ…。」

そこで門を見る頭成。

確かに用も無いのに何度も開かれるようでは、門や城の意義も薄れるが、

たまに兵士らしき人物がその前を歩くだけで誰も近寄らず、

あの一番高い場所にある部屋を、振り仰ぐ者もいない。

「そりゃあ、迷宮の100階まで到達したのは、彼女だけだけど、

それだって沢山の仲間に支えられて、やっと成し遂げた事だし、

その元々の仲間を、賞金首にしてしまった訳だからねっ。」

「ええっ賞金首?!」

「…しっ!お嬢ちゃん、声が大きい…!」

「雰囲気出しますねーー。」

「いいえ、真面目に聞きましょう。」

そう彼が言うには、

支配者であるアンはそのきっかけとなった100階到達を成し遂げた

当初の仲間三十人の内、何と三分の二に見切りをつけ、彼らと断交。

やり方は強硬では無いが、

今も彼らを赦す気は無いと、彼方此方で触れ回っているらしい。

「そんなっ!仲間なのにですかっ?!」

「ああっ、実は到達を目指した彼女がその指導とか訓練とか、

助言とかを受けた際、相手にかなり侮辱的な発言や行動があったみたいで、

それを恨んでるんだなーー。」

「じゃあオレッ、アンの味方…して良い?」

「うん良いけどさ、とりあえずアン様か、

せめてアンさんって言った方が、良いと思うなっ。」

「君だけ小声で話して下さいっ!」

「当時からいた人達も、

土術士のAZAKIや、その配下の嫌味な奴らはともかく、

優しかったはずのプレイの派閥まで追い出す必要は無いと

思ってるらしいし、残った部抜様もどちらかといえばだが、

血の気の多いお方だしなーー。あーー困った困ったっ。」

そう頭をかいて笑うおじさん。実は噂話が楽しいのだろうか。

五星は今話に出てきた人物が男なのか女なのかも気になり、

それも訊いてみる。

「その元々あった三派の長って、全員男ですか?」

「あ、ああっ…、三人ともそうだよっ。」

「別に性差別はしないって事かっ?」

「ではとにかく、特にAZAKIという人物には、要注意ですねっ。」

「そうそう、まあそういう事だっ。

オレは今からその、AZAKI達が集まる場所に行って、

道具を売るつもりだけどねっ。」

「なんだーー!」

緊張がほぐれつい声を上げる五星。

「反アン軍からの誘いかと思いましたよっ。」

この言葉通り頭成は、アン軍の問題点を聞かされたので

彼がAZAKIやプレイの友人かと思ったが、安心したクリスタルも言う。

「じゃあおじさんは、中立って事ですねっ?」

「まあそんなところだっ。

真面目で厳し過ぎるのも、自分勝手で滅茶苦茶なのも、嫌だって事だわなっ。

言い忘れたけどオレはKAIYA、よろしくねっ。」

「こちらこそっ!」

「よろしくお願いします。」

そしてやはり人懐っこいのは頭成。

「どこかで会ったら、助けて下さいよっ。」

「ハハッ、ああ助けるともっ!

当然だが外ではちゃんと装備も整えて、戦えるようにしてるからねっ。」

KAIYAは最後に、装備は見せているだけでも

目を付けられる場合があると彼女らに注意し、

迎えに来た仲間らしき一団と共に、生得を去って行った。

「えーー!でもやっぱアン様、厳し過ぎるなーー。」

「今KAIYAさんと一緒に行ったの、さっき上から見た人達じゃない?」

「…違いますねっ。でも格好が似ているので、

もしかすれば彼らも商人だったかも知れません。」

聞いてますますやる気になる頭成。

「商人でも消滅したら意味無いから、

普段は戦士みたいに見えるって事だっ。フフフッ!」

「どう楽しんでも良いですけど、相談の上でお願いしますねっ!

あと夜陽の事も忘れずっ。」

「訊くの忘れましたねっ。」

「あ…!」

「まあ、良いんじゃないか?

この町のどっかで、買い物してるかも知れないしっ。」

「そうですそうですっ。レーザーさんだって、

急いでもただ全滅するだけだって言ってましたし、気長にやりましょう!」

「あっそうだ、町中の人に訊けば良いんだっ!」

「えっ…?おいっクリスタル!」

「まず迷宮へ行き、

純粋に楽しんでいる住人という、雰囲気をつけましょうっ!」

「そうかなっ?〜じゃあまずは、地図だねっ。」

その地図によれば、今五星達が居る中央広場から

例の後ろ向きの商店街は乱れ無くまっすぐ城へと続き、

その東西にもそれぞれ町の石壁に沿って北側まで

緩やかな曲線上に中央を向いた商店や家が建ち、

中心にある城の北側にはまた別な露店街が、南向きの迷宮入口をすくう様な形にある。

「じゃあ、この両側が商店街って事か。」

「ええ、それに迷宮入口を囲むようにあるのも、

そこへ入る人達を相手にした店でしょう。」

「そうかなっ?

だって許可取らないとダメなんでしょ?

ていう事は、本当はこの辺りに店を出したいとか、色々不都合もあると思うよっ。」

「場所の奪い合いかっ。それは、そうかもなっ。」

「とりあえず行きます?」

「うんっ。

規則が無いのは困るけど、それが良い規則かどうかが問題。

つまり、世界の上層を占める者が賢く誠実でないと、

世の中は絶対上手くいかないって事ねっ。

あ頭成、その鉄の刀しまってねぇー。」

「えっ、鞘に入ってるぞっ。」

クリスタルも見るとそれは確かに茶革の鞘に入っているが、

五星はKAIYAの言葉を思い出し、

まったく見えないようにした方が安全だと思ったようだ。

その彼女に賛成のクリスタル。

「そうかも知れません。

僕のは威力の小さな杖ですが、これも仕舞っておきましょう。」

「その代わり迷宮に入ったら、派手に暴れようっ!」

「じゃあオレ、薬草持って良い?」

「どうぞどうぞっ。一番ケガしそうですしっ。」

大通りをまっすぐ城まで行き、だがあまり近づかないよう

門番が遠く西側にいる瞬間を狙い、その反対をすり抜ける三人。

そこには向か合った頑丈そうな木製のベンチも置かれていたが、

彼女らはそこに座る白いローブを着たエルフの額に…触覚があっても、

城の壁際に黄緑のドレスを着た紫の髪と目の妖精が…透明な羽で浮いていても、

茶色に赤のベストを着て話し込む商人風の一人の顔に大きな傷があっても、

考える事を止め黙々と歩き、

全体に軽やかな音楽でも聞えてきそうな町並みにも溶け込み、

ついに迷宮らしき場所を発見。

その入口は十メートル四方の丸く抉り取られた部分に階段を造り、

底と穴の周囲に白い石を敷き詰めたものであり、

露店街を背にした五星は、勿論そこで買い物や立ち話をする客らも気にはなったが、

何より下に誰もいない事が意外に思えたようだ。

「アン様の仲間が、出入りを制限してると思ったけど。」

「ああ、じゃあこれは流石に、皆の場所だって事じゃないか?」

「魔物の巣が皆の場所でも、あんまり嬉しくはありませんが…。」

すると早速あの赤茶色の本を出す三人。そこには以下のように記されてある。

これはある日突然大陸に落ちて来たと言われる、巨大建造物。

だが一方では創造以来の物で、ただ発見されなかっただけだとする説もあり、

それを裏付けるよう人が住んでからも約二年間は未開拓で、

発見されてから既に二年、未だ挑戦する者が後を絶たないという場所。

それは第一発見者だという農民が見つからないのだから無理もないが、

中は薄青い石壁の魔物が住む迷宮で、深さは不明とされ、

二十平方メートルもの一つの床が、一辺に十面も敷き詰められ、

それが十列並び、天井までも二十メートルと高く、

一つの階を大体二百平方メートルの正方形に仕上げた空間。

その広さの為一面の端から端までは、人が小指の第一関節より小さく見える程である。

その情報に腕組みをしたり、頷いたり、首を傾げたりする三人。

「じゃあ迷宮が、

つまり魔物達が現れる前からの住人にとっては、

ただ迷惑になってる場合もあるなっ!良しっ、オレが全部退治してやる!!」

「許さないよっ無謀な探索は!」

「正義感から来ているなら、まだ許せますがね。」

「鉄の刀もあるのにー。」

「だーめっ。でももう行こうっ!

ずっと見てるだけだと、怖がってると思われるしっ。」

「ですが、あの沼のように漂う闇はなんです!

入っただけで、溺れませんかっ?!」

「上手い事言うなーー。」

「でもどうせ僧侶なんだから、後ろからついて来れば良いでしょ。」

クリスタルを安心させようと、歩きながら話す五星。

だが頭成は手すりを触りながらおり、途中でその手から腕そして肩までと、

少しずつ青白い光が上がって来るのに気付き、素早く手を放す。

その薄っすらリボンの様に残り漂い、消える光。

「な、何だこれっ?!」

「そ、そうやって、入るんじゃない?」

「違いますっ。頭成君もちゃんと読んでいませんねーー。

これは異次元階段といって手摺を触りながらおりると、

行った階の上り階段まで、瞬間移動できるものなんです。」

「えっじゃあ、次々おりて行けるって事かっ?!

何人でもっ?!」

「もう、何度言ったら分かるの?そんなすぐ強くなれないからっ。」

「いいえ、行けるのは、一人の記憶につき六人まで。

大勢連れて行きたい場合は、その記憶がある人間を分ければ良いだけですが、

帰りは歩いて来るか、早く戻りたいとしても、

呪文か道具が必要なので、やっぱり無理はできませんねっ。」

「なんだっ。でも何でー?!帰りもこの階段使いたいのにっ。」

「それは分かりません。」

「私分かった!」

そう何故かきっぱりと言う自信満々な五星。

彼女は頭成まで追い越し、階段をおりながら続ける。

「これを造ったのが、魔物だからだっ!」

「〜ん、なるほどー!」

「き、危険な場所には行きやすく、そこからは帰り難いって事ですねっ?!」

「そうっ!

中々恐ろしい奴らだねっ。

頭成みたいなのはどんどん突き進んで、死んじゃうかも知れないし…。」

「まあ…五星も、今にオレがどんなに冷静か分かるさっ。」

「アハハハッ!」

だがおりて行くと少しずつ言葉を失う五星。

あまりの驚きに声も出せないのだが、何が凄いかというとやはりその広さだ。

「…お、おお〜〜!」

「っだこれはーー?!扉もでかい!!」

「だ、だからっ、広さも知ってるでしょう。確かに広いですがっ。」

本にあったとおりの薄青い石壁。

北と東にも十メートル四方の大きな扉があり、

その模様も両扉の中心から渦を巻き外側から下へ落ちて矢印となった

怪しく不気味なものだったが、他に障害物等も無く、

まだ生まれたての三人にも全てが見渡せた。

そう暗闇を照らす呪文等無くても十分に見える一部屋…。

だがその部屋が広過ぎるせいで彼方此方に視線を泳がせ、

また本を出してその地図を見ても、安全だと確認するまでにはしばらくかかった。

「…という事は、ここは南西の角という事になりますねっ。」

「誰も居ないのかっ?!」

「そう…みたいだね!」

五星はクリスタルが確認した反対の階段脇も見てそう言い、

では…と小走りになった頭成が北の扉を押すと、

それはガンッ!と鋭く重い音を立て、

端で小さな砂埃まで上げ完全に消え、次ぎの部屋への入口となった。

「良し行くぞ!」

ガスッ!

「な、何だよっ?!」

「だから行動が〜速過ぎるのっ!」

「うわ凄いなーー。」

その後ろにいるクリスタルの驚きに釣られ、先を見る二人。

扉を開けても中は意外と明るく、一面が二十平方メートルと知らされた

二面先の終わりを示す線さえ薄っすら見える程だが、

今五星達が立っている場所から北の角まで百六十メートルもあると考えれば、

更に先がどうなっているのか気にせずにはいられない。

また扉が消えたその壁の厚さを見れば、それも大体一メートル程。

「五十メートルぐらい先は、何とか見えるって事か。」

「どうなってるんだろうねっ?行ってみよう…!」

「どうなってるんでしょうねっ?

もう少し考えてから、行きましょうっ…。」

そのクリスタルを一瞥し、仕方無いという顔の頭成。

「じゃあ分かった!注意しながら、慎重に行くぞ!」

「考えましたが、案内状のすすめでは元々六人パーティーが基本なのに、

まず僕らだけで楽しく生きたい、そう言い出したのは頭成君ですから、

ここは慎重にお願いします!」

「うん良いねっ。じゃあ私が一番前を歩くから、それに合わせてっ。」

「それも仕方無いな。じゃあ薬草持つ?」

「いいや何かあったら、二人に回復してもらうっ。」

「あ、それ良いですねっ!」

「良いけど、ちょっと慎重過ぎないか?」

言いながらゆっくり歩いて行くと、右奥から人影が。

当然三人は一瞬身構えてしまったが、

どうやらそれは魔物では無く別なパーティーのようだ。

その先頭の男は長い赤毛を後ろで結い、髭を胸までたくわえ、

まだ布の服と短剣しか身に付けていないが逞しいドワーフといったところ。

そして後ろから来た仲間は、緑の髪に水色の服を着た少女風の小人と、

赤いメッシュの入ったおかっぱ頭で全身に革鎧をまとった、目の鋭い義賊風の女。

それに最後は灰色の短髪に銀の鎧を着て杖を持つ、僧侶風の男である。

彼らは五星が手を上げると、軽く挨拶を返した。

「やあっ!」

「…こんにちはっ。」

「どうした?こんな所から進まないなんて、まさか初めて?」

「ハハハッ、実はそうです。」

「じゃあ気を付ける事だ。

さっきこの先の角にお邪魔半水(おじゃまはんすい)がいて、

オレ達は無視して来たから。」

「魔物…って、無視できるんですかっ?」

「ああ、見ての通りオレ達も生まれたてだから、

そろそろ疲れてね、面倒で素通りして来たんだっ。

回復役の僧侶の気力も、オレ達の体力にも限界があるしなっ。」

そこで素早く五星に並ぶ頭成。

「でも気力って、回復するんですよねっ?!」

「えっ?」

「ハハハッ!」

するとドワーフはその後ろで笑う僧侶と交代し、続きは彼が話す事となり、

気力に関しての事なので、呪文を使うクリスタルも前に出る。

「そうだよっ。でも…、ほらっ。」

彼は本を出し、他は一応手で隠したが、そこには気力5/11とある。

「まだまだだろ?」

「はいっ。」

「別に気力が回復するのを待っても良いんだけど、

道具も無くなってきたし、気疲れもするし、

そんな時強い奴に会うと、やられちゃうからねっ。」

「で、でも、ここ1階ですよねっ。」

「ああ君は、異次元階段の事が心配なのか?

うんうんっでもね、異次元階段は誤作動を起こさないから、

それは安心して良いよっ。ここは1階!

オレ達が言ってるのは、

たまに強い魔物が上がって来るって事さっ。」

聞いて眉間にしわを寄せ振り返るクリスタルと、目を丸くする五星。

その僧侶いわく、この迷宮も弱肉強食であり、

弱い魔物は当然あまり下へ行けないが、強い魔物はたまに上がって来る。

それではまるで小さな魔界ではないか。

笑みを見せながらも緊張し、素直な感想を口にする五星。

「き、厳しいですね!」

「でもオモシレーッ!」

「そ、そんな時は、どうすれば良いんです?!」

勿論訊いたのはクリスタル。

「そりゃあ、逃げれば良いんだよっ。

奥深くにいる魔物でも素早いとは限らないし、

例えば食に貪欲だったりした場合、その習性を利用したりねっ。」

「な、なるほどっ。お邪魔半水の習性はなんです?」

「それは弱い敵だってー!名前考えてくれよ、恥ずかしいなーー。」

「でも油断できないよっ!」

そう頭成に注意し、彼らにも夜陽の事を訊く五星。

ドワーフ達は知らないと言ったが、

代わりに余計な事かも知れないがと前置きし、

体力が減ってくると黄色から赤に視界が変わる事を教え、帰って行った。

「ありがとうーー!」

何故か元気にお礼を言う頭成。

「本気でお礼言ってるって事は、まさかこの人知らなかった?」

「ああ、君は知ってたんですかっ。

丁度説明しようと思っていたんです。」

そのそれぞれの体力を確認しながら歩けば、五星9、頭成12、クリスタル4。

クリスタルが言うには、例えば落とし穴などの

どこか高い所から落ちてもダメージだけで絶対消滅はしないというが、

二人は心配で心配で彼を守るように進んだ。

普通といえば普通だが、部屋も曲がり角も無く、長く続く廊下。

そして一の三から三面つまり六十メートル進み、

一の六辺りまで来たそこで何故か床に雑然と並ぶ、水色のボタン五つを発見!

「…何だこれ、罠?」

「クリスタル分かる?」

「…あ、それです二人共!お邪魔〜何とかですっ!」

くるっ!

そこで一斉に振り向いたのは、上から潰したような丸の睨みつける五つの目!

両手に乗せる程しかない大きさのそれは、次々前衛二人に飛びかかり、

次々と五星に斬られ、頭成に殴られたり突かれたりし…絶命した。

「やっぱ弱いなぁー!」

「私達が強いんじゃない?!」

「…本当ですか?体力見て下さいよっ。」

聞いた二人が本を出すと確かに2ずつのダメージを受けており、

早速クリスタルに言う頭成。

「おお、気付かなかったっ!じゃあ回復はよろしくっ!」

「ほらーっ!ぶつかって来たの、ダメージになってるんですよっ。」

「魔物の場合は…そうかっ!手が無い奴なんて、結構いるもんねっ。」

「エナセイ…。」

シューーと白く輝くクリスタルの手で、頭成回復。

「五星は、ちょっと待って下さいねっ。」

「うんっ。」

「一応ダメージ2でも、回復しといた方が良いもんなっ。」

「意外と素早いですよねっ。

まあ、この幻想世界においては魔物が動くのは当然としても、

結構南まで来てましたしっ。だって角に居たはずでしょう?」

そう言われて気付いた五星。

「ていう事は、もっと沢山出たら危なかった?」

「それよりこれ、遠くからでも回復できんのっ?」

「さっき使った感じでは、これが限界ですねっ。」

クリスタルは五星から三メートルほど離れ、手をかざして見せる。

「じゃあその距離も、鍛え方次第って事だよな。」

「ごめんまだー?」

「ええ、もうちょっと!」

そこで道具の大切さも感じる五星。

「そうかじゃあやっぱり、薬草もあって良かったねっ。」

その薬草が回復できるのは50までらしいが、

それは彼女らには十分な量であり、なるべく使いたくないのだろう。

そして警戒しながら気力の回復待ちをする二人を余所に、

目を閉じたお邪魔半水を撫で、また撫でと繰り返す頭成。

少なくともクリスタルにはそう見えたが…。

「良し!」

「で、どうだった?!」

「ああ、戦利品ですねっ。」

勿論宝箱ならたまに落とすらしいが、それが無い場合の装備や道具、

スペス等はこうして漁るしかないのだ。

まあ倒せば装備を脱ぎ捨てスペスを撒き散らすという方が変だとは思うが、

魔物の体を漁るという行為も、頭成には何の抵抗も無い。

「そういえばオレ、義賊にもなりたい!」

「それで幾らあったのっ?」

「全部で、たった3スペスですかっ?」

「ああ違う、これ五星の分。」

「そうなんだっ。じゃあ頂きます。」

「誰かまとめて持ちます?」

「いいやオレ鎧が、じゃなくて、小手が欲しいからっ。」

「まあそれでも良いかっ。

本当は鎧の方が強いだろうけど、楽しめないと意味無いからねっ。」

「その代わりにではないですが、

仲間の言う事は聞いてもらいましょう。」

欲薄く、信頼し合っているという珍しい程良い子の三人だが、

当然まだ幼さも残し、何かに夢中になる心は持っているようだ。

手にした金貨を眺める五星。

その輝きは薄暗い迷宮に抑えられているが、

彼女には先にある艶の一つにまで目を細め、

親指で撫でそのままぐっと押してみたり、これで何が買えるかという事より、

綺麗だから集めたいだとか、そんな純粋な価値観がうかがわれる。

そして思い出したように本を出すクリスタル。

二人もそこに集まり読みながら進む。

お邪魔半水

今でも大体1階に居て、古くは半水とだけ呼ばれていたが、

迷宮に挑む者も増えてくると、この魔物は子供でも倒せると判明。

それからは…お邪魔がつきこう呼ばれる。

見た目も透明な青色に、上が潰れてにらんだ様な一つ目で、

表面張力で固まった大雫のようだが、魔物は魔物であり、

足の下に入っては転ばせたり、膝裏にぶつかっては体勢を崩させる等、

ちょっとイラッと来る攻撃をしてくる。

当然得られる経験値やスペスも少なく宝箱を持っている確立さえ低いが、

わざわざ召喚士の特技を覚え、これをペットにしている者もいる。

「倒すと図鑑に載るのか……。

じゃあ今度から無視しようなっ?」

「でもさっきは、何もして無いのに襲いかかって来ましたよっ。」

「まあ私達、さっきの人達よりは、弱そうに見えたかもねっ。」

そうして三人は一の六から、

まっすぐ行って一の十つまりその角を曲がり右へ。

すると当然、東側を向いている事になるのだが、

二の十地点に立って見るとそこは、まっすぐか、右かの分かれ道で、

歩いて来た通路からは厚い壁一枚に、また裏が通路になっていた。

また視界ぎりぎりだが、その南への道は先で東へと続く。

「何となくだけど、迷宮っぽくなってきたなっ。」

「でもこんなの楽勝ですよっ。問題は魔物です!」

「罠もあるよっ。それに迷宮だって迷うと戦い続けなきゃいけないし、

そんな時に強い魔物に遭ったら慌てて、やられちゃうよっ?」

「そういえばそうだなっ。今ので基本思い出したっ!」

「よく考えればですがー、隠し扉とか、仕掛けもありますからねっ。」

「待って!」

そこで突然二人を押さえる五星。

見ればまっすぐ東側の廊下にある梁に、何かがぶら下がっているようだ。

「じゃあこっちだな!」

「…だから、ちょっと待ってよっ…!」

小声で言い頭成を止める五星だが、

彼は先程のお邪魔半水との戦いで自信がついてしまったようだ。

「たぶん何とか蝙蝠か、何とかバットだっ。」

「…それはそうだけど、数は数っ?!

それに動かないなら、気付いて無いかもよ…!」

「…とにかく大人しくして下さいっ…!」

だが頭成は少しずつ少しずつそれに近づき、四の十まで。

仕方無く二人も続く。

「…あっ…!」

「…どうしたの…?」

「…何ですっ…?!」

「…手、あの蝙蝠、手があるっ…!」

五星も見るとその八匹の黒い蝙蝠達は、

十メートルぐらいの高さにある太い木の梁にぶら下がり、

皆腕組みをして寝ているではないか。

その腕の細さが異様で、爪に毒がある事などを想像するクリスタル。

「…特殊攻撃があるかも知れませんねっ…。」

「…じゃあクリスタル、絵画覚えてくれよっ…。

こういうのをどんどん描いていってさっ…、」

「…でもこんなのきっと、珍しくも何とも無いですよっ…。」

八匹はちょっと多いな。

そう五星がそう思っていると、

頭成は恐らくそれで全部倒してしまうつもりだったのだろうが短剣を投げ、

クリスタルは悲鳴を上げ、目覚めた蝙蝠達はキキッと高い声で鳴き、

前衛目がけ襲いかかって来た!

バチンッ!

反射的に、短剣で叩き落とす五星!

だがそれは死なず仲間の後ろへと飛び、

バタバタとした羽音の群れに紛れ特定するのは困難となり、

その間にも二人の頭上を越え、クリスタルに襲いかかる蝙蝠!

「うわぁーー!」

「だからっ、どうしてこんな事するのっ?!」

「一発で倒せれば、また拾って投げれると思ったんだっ!

でも大丈夫、この刀もあるしっ!」

そう叫んだ頭成はクリスタルを狙う蝙蝠を斬り、

振り向いて目の前に来た一匹も斬り、五星にも加勢。

彼女の短剣をかわし続けていた一匹もすぐに追い払い、

そこで二人に訊く五星。

「良しっ!じゃあ逃げるっ?!」

「大丈夫じゃないかっ?倒そうっ!」

「せ、精神的に来てますけどっ!」

「一匹しか倒してないのにっ、勝てる?!」

そこにまた三匹、四匹と束になり、

五星の腕にしがみついてそのまま噛みついたり、

頭成の刀をかわしその背中を爪で引っかいたりと、話す間も与えない蝙蝠達。

クリスタルは回復呪文が使えなくなると、二人の後ろから杖を出し、

敵を牽制するのが精一杯の様子!

叫ぶ五星。

「ダメだー!このままじゃあ、いきなり全滅だーー!!」

「回復はまだかっ?!それに誰か来ないのか、クリスタルッ?!」

「き、気力は頑張ってもどうにもなりませんし、

こんな時に他力本願になるのは、止めて下さいっ!!」

「そうだ薬草ちょうだいっ!」

「良しほらっ、最後の一つ!!」

「ええっ?!」

「大丈夫、そろそろエナセイ使えますっ!」

「でも、大丈夫っ、じゃない!」

言いながらも五星は片足を上げ、

そこにしがみついた蝙蝠を素早くつかみ、斬り捨てる!

「これで後六匹っ!」

「寄るなっ!今回復中だろっ!」

「魔物がそんなの聞く訳無いでしょっ?!」

「刀が重いっ!」

「そう感じるだけだって!キャーー!」

「もうちょっと待って下さい!」

ゴブリンを入れてもたった三戦目にして本当にやばいかも知れない…。

そう感じ冷や汗までかいた頭成だったが、

一匹の蝙蝠が顔の前を飛び、刀をかわし続け、

かすりもせず群へ帰る前の一瞬に、

おでこに蹴りを入れて行ったのには完全にキレ、

彼の中で…何かが変わってしまったようだ…。

また叩くようにきた両爪をかわし、その蹴りもかわし、

綺麗に揃ったその足をつかむ…頭成。

叩きつけ、そこにガッと切っ先を落とす…!

「こういう時こそ、冷静にだ…。」

「でも後、五匹っ?!じゃあやっぱ逃げるっ?!」

「いいや後、四匹っ!」

鋭く言った頭成はまた短剣を投げ、叫ぶ蝙蝠を遠く天井へ。

「あっ!」

とクリスタルは五星を回復しながら驚く。

なんと頭成は、右手の刀を逆手に構えると、ゆっくりと前へ。

その真正面に来た一匹を斬り、また進んで手首を返し一匹を斬り、

また一匹斬り、

最後のは右足にしがみついたところを、串刺しにしていたのだ!

「これでもう…敵は居なくなった。」

「そ、そうですかっ。

でもそれじゃあ、頭成ばっか経験値貰ったでしょっ?!」

「それは仕方無いよー。…回復するっ?」

「うんっ?ああ、頼むっ!」

「基本能力値とか、属性も少しは上がったろうけど、

今度はクリスタルにも、経験値を上げないとねっ。」

「気にしないで下さい!

僕は、ずっとこのままで良いですからっ!」

薄暗い迷宮でにっこりと微笑むクリスタル。

二人は遠慮する彼を連れて辺りを見回したが

もう止めが必要な魔物は居なかった…。

ではと彼方此方に散らばるそれらを数える五星。

クリスタルと頭成はまた本を出しその情報を見る。

手伸ばし蝙蝠(てのばしこうもり)

魔物なのでどうせ出れはしないが静かな迷宮内を好み、

昼間は天井にぶら下がり主に1階、夜は3階辺りまで集団で飛行し、

大人しい魔物を食べて生きる小型の魔物。

特徴は手が延びるというより手があり、その先にある爪で攻撃してくる事だが、

眠っていて静かに下を通る場合には襲って来ないらしい。

「薬草も無いねっ。一旦帰ろう。

今稼いだのは、全部で25スペスッ!」

「最初はこんなものでしょう。」

「じゃあオレ達が8ずつだなっ。それは良いけどさ、宝箱は?」

「きっと出るよ。今回はたまたまっ。」

「僕もそう記憶しています。」

「じゃあ次が楽しみだなっ!」

こうして三人はそれから誰にも、何にも遭わず、無事迷宮を出た。

だが2階へ行けなかったのが残念だと言う頭成。

彼はもう一度念を押され、最初は全力で戦い、全力で生き、

素早く帰るものだと二人に教えられてしまい、

宿に泊まる必要も無いしかも元気な彼女らは、そのまま灯の店へ行く事になる。

さあレーザーさんが紹介してくれた灯さんとは、どんな人だろう?

その表情を見る限り三人には期待しか無かった。



目当てとする灯の店は町でも一番東にある通りの南側にあった。

作りは小さいが、場所をとらないようにか縦長で、下から真緑と白で二色。

一階の道に面した部分には壁が無く開放的で、

その奥に見えるのは上がり框(かまち)に階段だけだったが、

そこを上がった二階が大窓もある自宅と、全体に商売を大切にし、

何かを売り買いするつもりの無い住民でも覘いてみたくなる店である。

そう住人の印象さえどこか寂しく変えた薄紅の空に、

五星達はまだ開いていてくれれば良いとそればかりを願っていたが、

いざ来てみるとその品数に驚き、

しばらくは隅にいた灯らしき人物に話しかける事も無く、

ただただ店内を眺めてしまったのだ。

全て腰の高さで斜めになった四つの展示棚の右手は、

クリスタルが貰った愛の実も置かれた主に食べ物が並ぶ場所。

そこには細長い茎の黄緑が花に近づくにつれ少しずつ白くなっている植物の他、

黒く丸い実や水色で楕円形の実、それに薄茶色の大きな肉等があり、

通路となった中央から左手には主に銀製の剣や盾それに兜が並び、

奥の洋服掛けに鎧が一つだけある。

「いらっしゃい。」

その柔らかな笑顔にもただ笑顔で応え、銀の剣を手に取る五星。

どちらかといえば彼女の中にも銀は神聖だという印象はあるが、

それは金や胴に比べ白に近い光沢が、金のカネやそれに伴う欲望や、

銅の何となく野蛮で力任せな雰囲気からは、かけ離れているからだろう。

自分も英雄のように戦いたい。

丁度五星がそう思っていたところ、

そのある種魅惑的とも言える刃の艶に、明るい紫が重なる。

オレンジのリストバンドに合わせた、灯のワンピースである。

そう色の白い灯はやや丸みを帯びた顔に顎先までの栗色の髪を合わせ、

太く自然な眉と筋は細いが先がふっくらとした鼻も人間らしく魅力ではあったが、

そのやや厚みのあるピンクのあでやかささえ滲む唇からは、

また商売人らしくもない、人の好い声を漏らす。

「お金足りるっ…?」

その睫毛ばかりとなった大きな目に、思わず微笑する五星。

「えっ?

ああ、スペスはあるんですがっ、まだ生まれたばかりで、

それにここにはレーザーさんの友達がやっているからという理由だけで、

来てみたんですっ。」

「ふ〜〜んっ。」

「でも、冷やかしじゃあありませんよっ!

仲間のあの子がまだ体力4しかなくて、それで良い防具でもあればと思って…。」

「ああ、それなら良いのがあるよっ。

それに見てくれるだけでも嬉しいからっ。」

「すみませんっ。何か夕暮れになって、ちょっと怖くて。」

「私悪人に見えるーー?」

「見えませんよ。アハハッ!」

「そうだ、オレの小手も後で買えばいいやっ。感謝なんていらないからなっ。」

「逆に恩着せがましいんですよっ。」

その頭成達には笑いおすすめを選ぶ灯。

「これっ、厚革の小手っていうんだけど、

結構みんな金属かでなくてもスマートな革が良いのか、

誰も買わないんだよねっ。何が悪いんだろうー?

やっぱりこのゴツイ外見かなー?」

「それ良いですねっ!」

だが一目でそれに走るクリスタル。そして五星は、灯と同じ感想をもったようだ。

「何かゴーレムの腕みたいですねっ。」

「でも本人が気に入ってるなら、それで良いだろっ。」

「…でももう一つ、大きな問題があるよねっ…。」

そう彼女らが持っているお金は全部で39スペスであり、

当然これは物価次第だろうが、

彼女達ゲーマーの常識で考えても少な過ぎる額のようだ。

よって大丈夫だろうかと顔を見合わせる五星と頭成。

だが灯にすすめられたクリスタルは、

早速その縦に見て丸みを帯びた五角形の小手を色変えし、

白地に、金色で両脇から緩やかに上る二本線を直角に曲げ、

それを手首側と平行した直線で結ぶという模様を入れ、

上下にある縁も金色にしてみる。

「凄い!これ耐久力が4も上がるんですか!」

「はーいっ、必要・基本筋力も大丈夫みたいですねっ。

装備の合計がその値を超えると、動けなくなりますのでっ。」

「でも…お金が。そうだじゃあ、取って置いてもらえますかっ?」

「100までなら負けますよっ!でもそれ以下は、ツケでっ。」

聞いて嬉しそうな五星と頭成。

「あっ、じゃあツケでお願いしますっ!」

「良心的な店で良かった…。」

だが五星は二人から白い皮袋を受け取ると、

そのちょっと大き目にまとめたスペスを手に、しばらく固まる。

「……。」

「ん、どうしたの?」

「実は、39スペスしかないんです!」

「アハハッ別に良いよー。じゃあこれが、手付け金ね。」

「それには及びません…。」

その初めて聞く声に振り返る三人と、小さく驚いた顔の灯。

いつの間にかそこには、

長身だが一見しただけでは男だとさえ分からない程色白で顎の細い美男が、

波がかった金色の長髪を撫で、青い瞳を輝かせていた。

その微かに艶めいた青いローブの上には、

銀縁に青の楕円形の両肩当てと、胸から膝までもある大盾のような鎧を付け、

それには大きな十字架と下でもがき苦しむ悪魔の右手という模様があり、

靴は白く先が細くなった物。

だがじっくりと見なくても相手を知る灯は、明るく挨拶する。

「こんにちはっ、セイントさん。」

そう実のところセイントといえば

あの城にいるアンの仲間だと誰もが知っているのだが、

彼はゆっくり頷くと皮袋を出し、それを五星に与える。

「130スペスありますので、どうか受け取って下さい…。」

「えっ、でも!」

「ありがとうございますっ!」

「ちょっと頭成、…少しは遠慮したらどうなんですっ…。」

「いいえこれは、

貴方達が魔物を倒した功への神の鉄鎚(てっつい)からの賞金で、

私も決して怪しいものではありません…。」

「そうそうこの人ねっアン様の仲間で、

そういう名前の組織の長をしているのっ。

だから貰っちゃえばっ?たった130だし。」

「おいおいっ。」

そう言い、笑顔で灯に向うセイント。

灯も楽しみで店をやっているので、急な訪問客も大歓迎なのだろう。

どうやらセイントは、五星らが迷宮で戦闘していた頃丁度1階でその様子を見ており、

このスペスは一体につき10と計算し、その十三体分の賞金。

また髪を撫でたセイントは丁寧に説明を続ける。

「私も少しは…観測者特技を使えてね、

同じ階にいる君達生まれたての情報なら、何でも分かるんだよっ。」

なるほどと頷く頭成。

彼は頭を下げありがたくお金を受け取ると、それを灯へ支払う。

「でも、同じ階にいないと、分からないんですか?」

「こらっ、何気なく貰うなっ!」

「それにその訊き方、失礼だと思いますよっ!本当にごめんなさいっ。」

「うん、どれだけ千里眼を鍛えても、

迷宮はまた別世界だから力を使い直さなければならないし、

同じ階に居る者の情報しか、分からないね…。

それにもしもその条件を整えたとしても、

自分より強い相手の情報を見る事はできない…。

これは道理といえば道理だけど、私としては歯痒いかなっ…。」

聞いて首を傾げる頭成と、その首を戻しながら訊く五星。

「で、でも、レベルって無いんですよねっ。」

「ああ、この世界の基準として、

基本能力値八項目の合計を十で割ったものが、

住民の間でレベルあるいは格と呼ばれているんだっ…。」

「へぇーー。」

「その基準の中で私達より強い人間となると、

そう沢山は居ないけど…やはり完全に支配したとも言えない…。

そういう意味もあって日頃の行いが大事だと、

アン様や部抜殿にも進言しているのだけれど、中々上手くはいかないねっ…。」

そう言って目を閉じるセイントと、その肩を叩く灯。

「まあまあ、大丈夫だって。いずれ分かってくれるからっ。」

「そうだろうか…?」

それを何とかしてあげたいと思いながらも、力もお金も無い五星。

話題からもしかすればレーザーをアン軍か神の鉄鎚の一員にしたいのか

とも思ったが、セイントは彼女の事を知らず、

灯に訊いても答えてもらえないでいる。

「誰なんだい…?」

「ま、まあ、もしそういう人がいたとしても、自由を好み…そうだからね。」

「好みそうだ…?」

それには五星もくすくすと笑ったが、

彼女は灯の反応も見てそれ以上レーザーの事は言わず、

代わりに夜陽の事も訊いたが二人も知らないようなので、

もう一度きちんとお礼は言い、その場を去る事にした。

だが一人戻るクリスタル。

「あのっ、最後にもう一つだけ良いですかっ?」

「うん、なんだい…?」

「昼間広場で…私闘があった際、

最後に彼らの所持品を持っていった人が、いましたよねっ?」

「ああっ、彼は竜鱗(たつりん)…。

私達の中でも、部抜殿の次に強いと言われている男だけど、

物静かなだけで実は優しい性格だから、会ったら話しかけてみると良いよっ…。」

「ありがとうございますっ!」

その戻って来るクリスタルと、悔しそうな頭成。

「そうか、そんなに強い人だったのか!

じゃあ話しかけておけば良かったな?!」

「ああ、優しい人だって言うから?」

「いいや、強いって言うから!」

「そういうのは、やめてよねっ。」

生まれてから胸躍らせるような事ばかりの三人はその笑い声を抱えたまま、

ゆっくりと押し寄せる夜の町を抜け、また迷宮へ。

灯と実は銀装備を売りに来たセイントは、その後ろ姿を見送り、

彼女らがこの世界に何か大きな楽しみをもたらしてくれる事を、

心から願っていた。

「何で銀製品ばかりなんです?」

「みんな買ってこれを使えば、

正義の町!という雰囲気になるじゃないか…。

そうだ、安く売るから、君も装備してくれよっ…。」

「ええっ…?!」

そして気の早い頭成につられるように走る五星達。

今度はクリスタルの心配をしなくて良い分一挙に魔物退治へと思ったが、

迷宮入口に差しかかった所で露店街の一番東で敷物を片付ける、

口髭に赤い丸帽子を被り白シャツを着た細身の青年に、呼び止められてしまい、

そこで寄り道する三人。

「じゃあ、薬草でも買うかっ?」

「そういえば買い忘れたねっ。」

「僕も舞い上がっていました。」

勿論彼らに言わせれば十分な道具が買えなければ

頃合いを見て帰ってくれば良いだけなのだが、

考えればついさっきも一階で危機に陥り、

強い魔物が上がって来るという話も聞いたではないか。

「そうそう。

それに見ての通りこれからは夜になるから、眠ってしまう人も多いし、

助けて欲しくても誰も居ないなんて状況にも、なりやすいよ?」

それに真面目な顔で質問する頭成。

「そういえば、眠って意味あるんですか?」

「分かった!…一旦現世に帰るって事じゃない…?」

「…きっとそうですよ…ねっ…?」

「うんそうだよっ。まあ記録だねっ。

四つ羽様はこの世界の人々から楽しみを奪う事だけを罪とするから、

誰でも人生をおうかできるんだけど、その分夜になると、

盗賊や戦闘狂、復讐者や野心家が動き出す事が多いから、

まあたとえ迷宮の中でも…巻き込まれないようにしないとなっ。」

五星達はその親切な青年から一つ5スペスで薬草を三つ買うと

夜陽の情報も求め、また何も得られなかったがお礼は言い、

やっと迷宮へと入った。

一度歩いた北へ行こうとする五星とクリスタルだが、頭成は東へ。

二人は特にどちらでも良いと思っていたので黙ってそれに続き、

だがしばらく歩いた三の一地点で、先頭を歩いていたはずの頭成にぶつかる。

そう慎重にゆっくりと歩いてはいたが、

その為隅々まで見て彼にぶつかってしまった五星。

「どうしたの?

何かあったなら、今度こそひきかえそうっ!

あの蝙蝠の時だって、危なかったんだからねっ?」

「…いいや、人が来るなと思って。」

「では一応、戦闘態勢を!」

そこに短く息を切らしながら走って来たのは、

鮮やかに青く、昼間見たゴブリンより大きく、

その五星らの二倍はあろうかという体の太い腕に大斧を装備した、

赤いモヒカンのゴブリン!

彼は三人が左へよけたのに眼もくれずおそらく階段へだろうが、走り去って行った。

また五星は彼が十分遠のいたのを確認し、二人の視線を東へ向けたが、

誰かが追って来るという事も無い。

「何だったんだ?いかにもやばい事をしたって感じだったぞっ?!」

「そうだよねっ。もしかしたらこの先に行けば、

あいつに倒された人の死体があるかもっ…。」

「怖い事言わないで下さいよー。

それに、悪人とは決まってませんしっ!」

「あいつがただの盗賊なら、オレ達も襲ったか、

そうでなくても狙ったはず。

だから、計画的に何かをして来たって事じゃないか?」

「…さすが将軍。でもこの場合は、私もその通りだと思うよっ。」

「でもって何だ。」

「僕達が見られた段階で、生まれたてだと見抜かれ、

大した物は持っていないと思われただけかも、知れないですが…。」

結果彼を結構な悪人と断じた頭成だが、

その自信満々の彼をちょっと後ろへやり、先頭を行く五星。

七の一まで来た所で奇妙な音に立ち止まり、ずっと先の闇へ視線を投げた。

そこに聞えてきたのは、しゅーーしゃー、しゅーーしゃーという、

何か細い物を素早く振るわせたような音…。

「…頭成っ。」

「んっ?!」

「じゃなくてクリスタルッ、蛇は大丈夫だよね?」

「大丈夫ですよっ。僕は後衛ですしっ!」

だが一応と、二人に薬草を渡すクリスタル。

「いいや、これはお前が持って、

何かあったらすぐ使ってくれ!頼むぞっ!」

「私は一応貰っておくけど、〜とにかく離れないでねっ。」

「は、離れませんよー!」

ゆっくり近づく前衛と、何かあった時に二人の邪魔にならないよう

クリスタルは一定の間隔をとって続き、

すると突然闇の中から大きな針が飛んできて、彼の小手に当たった!

ガンッ!

「うわぁっ!」

…反射的にそれを囲む三人!

やはりそこに居たのは、尾に大きな針を持つ蛇。

それは茶色で、体長一メートル程しかなさそうだが、頭は大きく胴は太く、

噛みつかれた時に受けるダメージの大きさは、容易に想像できる!

「さがれクリスタルッ!」

頭成は叫びながら、その声に振り向く蛇の頭に、刀で一撃!

五星もその胴をなぐようにして一閃!

大きなダメージを与えたように思えたが、

蛇は体をくねらせ、その反動を利用して五星の脛を刺しに!

彼女は薬草を頭成に投げながら、それに短剣を落とす!

ガッ!

「回復するかっ?!」

「まだ大丈夫みたい!それより前っ!」

「無理しないで下さいねっ!」

向き直り、次々飛んでくる蛇を空中で落とす二人!

クリスタルはその落とし損ねた一匹へ杖で牽制。

たまに当たっているはずだが、どうやらこれは同じように小型でも

お邪魔半水や手伸ばし蝙蝠より、耐久力のある魔物。

五星は目の前に素早く這って来た敵を払い飛んでかわされてしまったが、

空中で体をくねらせ針を向ける、その瞬間を撃ち、

頭成も一匹を壁へ蹴飛ばし、クリスタルに視線を向ける。

「こっちへ逃げて来いっ!そこじゃあ倒せないぞっ!」

「私達がちょっとさがるよっ!

クリスタルは、最初にやられちゃダメな仲間なんだからっ!」

「分かったっ!」

そのさがる二人に対し、首部分だけを左右に動かし、

あるいは位置を変えず飛び跳ねたりと威嚇し続ける、前の三匹…。

当然だがそれはどこまで退いても、這ってついて来る。

カランッ…。

だがそこで杖を落とすクリスタル。

彼は激しくぶつかって来る針を小手で防ぎながら、

何とか自分を回復!

ただ盾では防げるとしても小手ではダメージになってしまうので、

五星はここをお願い!とだけ言ってそこへ走り、

受けた頭成は短剣を持った左手を振り上げ、

そのがら空きになった場所に来た蛇を蹴上げ、投げて一匹を床に固定!

刀の方で最後の一匹も弾き、その怒り狂う二匹を防ぎ、冷静に状況を見ながら戦う。

そしてやっとだが、意地になってクリスタルの小手にぶつかっていた蛇を斬り、

彼の肩を叩く五星!

「大丈夫っ?!」

「一瞬目の前が黄色でしたけどっ、何とかっ!」

「一匹行ったぞー!」

安心して杖を拾おうとしたクリスタルに牙を向け、飛びかかる蛇。

素早く反応した五星はその体を頭から尾まで裂くように斬り…頭成も見る!

「さ、さすが五星っ!でもこっちも手伝ってくれ!」

「そういう意味で見たんじゃないよっ!」

「まだちょっと待って!エナセイッ!」

それから連携した二人が残った蛇も倒した時には、

クリスタルも固定されていた蛇を攻撃し、

彼女らにとっての激戦は…いつの間にか終わっていたのだ。

「それにしても二人共、凄い動きしますねっ…。」

「まあ、オレは前からこういうの得意だったけど、

五星にはびっくりだなっ。」

「フフフッ!一瞬も油断できないけど、やっぱ楽しいねっ?!」

スティンギングスネーク

主に2階から3階へ出現。毒は無いが、尾に太く鋭い針のある蛇で、

飛び跳ねてから繰り出されるその威力は凄まじく、

生まれたてなら一撃で絶命してしまう事も。茶色い肌で体長一メートル程。

結果だけを考えてみると五星が四、

頭成とクリスタルが一匹ずつ倒し、三人で24スペス稼いだ計算。

だがこの戦いで気を引き締めた彼女らはなるべく薬草を使わないよう、

それにクリスタルの気力も考えながらゆっくりと歩く。

「そうだ、蹴ってもダメなんだっ。」

「ダメって事は無いって、教わったでしょ?

非常に、助かりましたっ!」

「僕も二人に助けられましたがー、

本当に消滅するところでしたので、次はもっと慎重にっ。」

このぎりぎりの戦いがいつまで続くのか…。

頭成は一人物思いにふけり奥を見ながら歩いていたが、

十の一、つまり東南の角まで来たところで騒がしい声に会い、

瞬間素早く走るとすぐに構える。

見れば左手北側へと続く通路の真ん中に、人が倒れ、

それに一人が膝を突き、またそれに一人が腕組みをして慰めているようだ。

また一面前の九の一から北へも扉はあるが、今は探索どころではない。

「あーイラつくぅーー!!同じ青い肌だったし、

見かけだけで、実は親切な奴だと思ったのにーー!」

「どんな奴だった?」

そう訊いたのは、長身に黒革を着て同じ色のズボンを合わせ頭を坊主にした男で、

泣いているのは、赤毛の片方だけを下ろし、真っ青な肌に茶色い革の上下を着た女。

またその前に倒れているのは、白い服に短いズボンをはいた、細身の男である。

「やっぱり、あいつだろうなっ…?」

「うんっ、訊いてみよう…。」

「…たぶんやられた方でしょうが、僕は油断しませんよっ…。」

五星が大きな坊主頭の男に訊いてみると、

この倒れている男はやはり先程のゴブリンにやられたらしく、

だがそのやられ方というのが、

一緒に迷宮へ行こうと誘われついて来たところを騙まし討ちという、

仲間には赦し難いものだったらしい。

「くそっ!私が箱持ち鬼を追いかけて行ったから、

その隙にやられたんだっ!」

「まあまあ、大体誰かは分かるし、退治ならオレも手伝ってやるよっ。

でも戦うなら、オレ達だけじゃ無理だぞっ?」

「では有名なゴブリンなんですか?」

「ああ、これをやったのはたぶん…パラメータっていう奴で、

でもそいつ、強い奴には腰が低くて、

別な悪人共とも繋がりがあるから、中々倒せないんだよなー。」

「私がやってやる!

そうだどうせならアン様は、迷宮での私闘も禁ずべきだっ!」

「まあ今は抑えて!もしかしたら頂誉人(ちょうよと)とか、

その辺りと揉めたんじゃないのか?」

「…頂誉人?」

その問いに目を丸くして固まる赤髪の女。

五星も知らないので訊くと、どうやら彼女は生得に住む商人頭で、

表向きは愛想も良く真面目に生きているようでも

裏ではさっきのパラメータ等とも繋がり彼らに邪魔者を始末させ、

その抵抗無き巨大な力で私腹を肥やしているらしい。

アンが治める生得にも悪人はいる。

そう思った五星は更に訊く。

「何でアン様は、彼女やパラメータを追い出さないんです?」

「ああ、頂誉人の場合は、

二人しかいない商人頭の一人で、アン様には逆らわないし、

パラメータの場合も…まあ、奴は外での行動は怪しいが、

規則に反した事も無いからなー。」

「なるほどっ…。」

「そういえばこの人、頂誉人とかいう奴の悪口を言ってた!

まさか、それだけの理由でっ?!」

「偽善者っていうのは、心の狭い奴がほとんどだからなー。」

「絶対赦さないっ!」

おそらく全てを奪われただろう男のそばから離れない女。

坊主頭の男は、とりあえず迷宮を出ようと言ったが、

彼女のあのゴブリン・パラメータや頂誉人、

また支配者に対する怒りや不満の声は続き、

…これ以上話すと余計な事に巻き込まれそうだ…と、

珍しく意見が一致した頭成とクリスタルは五星を急がせ、

彼らがちらりと言った、箱持ち鬼なる魔物を追う事にした。

そして一応夜陽の事も訊きまた何も得られなかったが、

失礼します、元気出しましょう、頑張って下さい!という言葉は残し、

ゆっくりと北へ進む三人。

「…失礼だけど、とても面白い状況だなっ…?」

「ま、まあねっ。この世界の神から言わせれば、

そのパラメータも頂誉人も、君も、別に悪くない訳だしっ。

でもさっきの話が本当なら、ねぇっ?」

「ええ、到底僕達とは相容れない存在ですね!

強くなって機会があれば、倒しましょう!」

「良ーしっ!その為にも倒しまくるぞっ!!」

その意気盛んな頭成はクリスタルにさっきの何だっけ?と訊き、

代わりに五星が、箱持ち鬼だから多分宝箱を持ってるはずだね…

と言い終わるのも待たず、どんどん前へ。

その冷静さを欠いた行動には、五星とクリスタルは同じように怒り、

その後を追った。そして十の六地点に来たところで、

何と小さな子鬼を発見!

「あ、あいつだっ!!」

「見れば分かるけどっ!何で先行くのー?!」

「今は無謀ですって!」

その小鬼は赤い肌で体長約五十センチ。

横に平べったい顔を薄青い前髪で隠し、縦縞で虎柄の腰巻をはき、

小さな牙と一本角それに…、宝箱を持っている!

「初宝箱いただきまーすっ!!」

「ダメですって!もっと慎重にっ!」

「大丈夫私が止めるからっ!止めるって!!…これは聞いてないかもっ。」

当然五星から見ても、

半円柱の蓋の上側や縁に金が施された古い木箱はとても魅力ではあったが、

頭成も馬鹿ではないと知っているので、

レーザーに指摘されたあの時と同じ台詞を叫び、

だが彼はクリスタルを振り払うとすぐ左手にある扉を開けた魔物を追い、

そこから更に二面進んで、またそこにあった西への扉もくぐり、

六面の大きな部屋で目の前の壁にある左手の角にその青い髪を見つけると、

更に西へ。どんどん進んでしまい、一階をほぼ横断。

気がつけば二の四という位置に居た彼は、五星達の怒りを想像し振り向きざま、

刀と短剣を出す。

ガス、ガスッ!

「〜痛っ!普通突っ込んで来るかっ?!これ見ろよーー!」

「突っ込んで行ったのは、あなたでしょ!」

「確かに強そうな魔物ではありませんが、

運が悪ければこの途中で何があったか、分かりませんよっ?!」

だがおしおきが済んでみると、冷静になる三人。

その位置から北へは、すぐ右手に大きな四面の部屋があり、

先は最初に手伸ばし蝙蝠を倒した辺りだろうが、

南へは五星達がそちらへ進んで二の三から見ると、

左手にまっすぐ一面ずつの通路がどこまでも東へ…。

「あいつ、どっち行ったのかな?!」

「たぶんだけど、この先だなっ。」

「では追いましょうかっ?!

でもこの先が、他へ続いていた場合はー。」

「そうだねっ。彼方此方走って疲れるだけだし、

それにあんまり走り過ぎると、体力も減るってねっ?!」

「んっ?」

「あっ!!」


その二人の声に五星もその指が差す先を見ると、

そこにはあの宝箱を持った小鬼が戻って来たではないか。

という事は、行き止まりとなっているのだろうか。

「なんか可哀相ですねっ…。」

そんな魔物にさえ優しさを見せるクリスタルの気持ちを、

まったく考慮せず、

長く住んだ者達にとっても後世畏るべしの二人は、

隙間をすり抜けようとしたその鬼を討ち、宝箱を奪う!

箱持ち鬼

普通宝箱というものは多くどこかに隠し持っているものだが、

この魔物の場合、両手に抱えて逃げ、

それを追った人々を下り階段へ導くのが役目とされる。

主に1階から2階に出現。横に平べったい顔を薄青い前髪で隠し、

体長五十センチ程の体に縦縞で虎柄の腰巻をはき、小さな牙と一本角をもち、

行き止まりへ着いてしまった時には宝箱を置き、

逃げようとする場合もあるらしい。

その宝箱の中身はまだ分からないが、戦利品として10スペスを獲得する三人。

「よーしっ!じゃあ中身は何かなーー?!」

「遠慮無く頂きますっ!」

「なんか二人の方が鬼みたいですね。」

だがここに来て一つ問題が…。

「あ、義賊がいないっ!」

「オレ鍵開け覚えれるっ?!クリスタルは?」

「えっ?!僕は別なものを覚えるつもりですが、

どちらにしても、まだそういう呪文も無理そうですねー。」

三人はそれぞれ自分の経験値と特技習得に必要な値とを見比べたが、

まだ全員無理なようだ。ではこういう場合どうするのか。

そうどうやら彼らの常識ではこういう場合、

いくら1階で手に入れた物でも、体力が低く、

罠でダメージを受けてしまえば死ぬ可能性もあるので、開けないらしいが…。

首を振る頭成。

「それは嫌だなっ!」

「じゃ、じゃあー、そうだ!誰かに開けてもらおうっ!」

「えっ、でも誰にですか?」

その五星が提案した事を理解できない二人。

だが彼女いわく、東奥から人の声がするので

小鬼もそのせいで引き返して来たのではないか。

「じゃあ行こうっ!助かった!

開けるのにスペス取られるかも知れないけど、

このまま捨てて行くよりは、ましだろっ!」

「うんっ。一旦生得まで持ち帰るって手も、あるけどねっ。」

「そういえばっ…そういう事も可能ですね!

そうしませんか?何だか、この魔物の詳細にあった通り、

奥へ奥へと誘われているような気がします。」

そうして小さな期待と不安を懐き走り出す三人。

するとしばらく進んだ五の三地点から東はどうやら大部屋になっているようで、

そこからは何故か大勢の気配がし、

慎重なクリスタルだけでなく五星や頭成まで、急に立ち止まってしまった。

「な、何人居るんだっ?!」

「というより、何してるのっ?」

「何だか分かりませんが、運が良いですねっ。

これなら絶対、義賊の一人ぐらい居ますよ!」

それでも大盗賊団という可能性も捨て切れず、ゆっくりと近づいて行く五星。

だが実際その目に映ったのは奥の下り階段と、

その周りを囲む何と五十人以上もの人々で、

九面六十平方メートルの壁一杯に並び、何かを待っている様子だ。

「ここで、何かがあるんだっ!良し、オレも参加するぞ!」

「待って待って!もうーー!

確かに、皆で喧嘩してしまうようにも、見えないけど…。」

「僕訊いてみますっ。」

クリスタルがざっと見たところそこに居たのは、

緑の髪に大きな一本角を生やし胸元の赤以外が青のローブを着た女魔術士や、

その彼女と立ち話をする、背は低くてもかっぷくの良い小さく丸い目の戦士、

その反対側にしゃがみ込んで何事かをつぶやくのは

黒髪を逆立てた目の鋭い侍であり、その後ろには

背はばらばらだが黒いローブで全身を覆う怪しい四人組等もおり、

一人として昼間見た顔は無いが彼はその中でも一番近くに立つ、

優しそうな女性に声をかける。

それは勿論彼女が退屈そうに群集を見ていた事もあるが、

その長い白髪のわりに素直で親近感のある肌色は、

目尻を上げ目頭を下げた黒化粧も、高い鼻や厚い唇も、

やや長く尖ったあごも穏やかな印象にし、

全体に金色で簡単な作りだが丈夫そうな肩当ての無い鎧も、

輪を巻いて繋げたようなグリーブや小手も、

先と履き口の後ろが尖ったブーツも、

ただ美しいもののようにしか見せておらず、

そう一見奇抜といえば奇抜だが、

それは生まれたての彼らから見ればなのだ。

「あのっ…ここで何があるんですか?

それにできれば宝箱の解錠と、罠の解除もお願いしたいんですけど…。」

それに振り向く金鎧の女性。

「あら可愛いっ。

でも私面倒くさがりだから、簡単に言うねっ。

ここで行われるのは、

アン軍の将軍部抜と弓使いサンドイッチの決闘。

それに宝箱の解錠も罠の解除もできるから、持っておいでっ。」

「あっ…はい!ありがとうございますっ!」

「ああっでもそれ、何階で手に入れたヤツ?」

「1階ですっ。」

「じゃあ大丈夫だっ。」

快諾を受けたクリスタルはそれを五星らに教えると、

三人は彼女のところへ。

五星達はそれで何となくだがこの場の雰囲気になじむ事ができた。

そして大部屋の中でも南西の隅に移動する四人。

そこで金鎧の女性は人差し指と親指の間から、

長く金色に輝く光の針を出し、

それを蓋の間に差し込んでからはしばらく時間がかかったが、

宝箱も開いてどうやら罠の解除もできたようだ。

そのガチャガチャ…カチッという音に、顔を近づけ五星を見る金鎧の女性。

「カハハッ!」

「ど、どうしました?」

「じゃあ開けてみるけど、恨まないでねっ。」

「解除っ…、できたんですよね?」

「うん。多分…大丈夫だと思うよっ。

でも時間かかったし何度もやり直したから、

意外と良い物が入ってるかもっ…。」

…と開けられたそこからは鮮やかに赤い布の上に、

たくさんのスペスと、革の脛(すね)当て、それに何と

丁度大きさが縦八横三・三センチで厚さが二センチ程の、

透明色の中心に水色の楕円形模様がある宝石も出てきて、

それを見た金鎧の女性はまるで自分の事のように喜ぶ。

「良しっ!!」

「きれぇーー!」

「見た目は凄いですねっ!」

「でも可愛い感じだから〜オレは要らないっ。

これで良いこれでっ!代わりにこの脛当て貰うからっ。」

よって頭成はその脛当てを早速色変えし、

こげ茶色に極めて細い白線を縦に一本、それに両側から更に片方四本ずつの

水をかけたような線を交えた模様にし、それに口を開く五星。

「もう勝手にっ!

でもまあ良いかっ、君が一番戦ってる気がするし。

でも宝石の方は…鍛冶屋で装備に埋め込んでもらうお金も無いし、

売っちゃう?」

だがそれを惜しんだのはクリスタル。

「もったいない!」

「えっー!こんなので驚かないでよーー!」

だが突然に大声を出す金鎧の女性。

彼女はそう言いつつも五星の手を開き、

それを他から見えないよう隠してくれたのだ。

「…何だか私も嬉しいけど、凄いの当てたねっ…。」

「…じゃあやっぱり…!」

頷く金鎧の女性に額を集める三人。

彼女が言うには今宝箱から出てきたこれは願いの石という名であり、

一人の命を救った証しとして特技・救世(きゅうせ)をもつ者に与えられる、

神である四つ羽が実のところ世にはこれだけの善意が溢れているのだ…

と言いたいが為に作った物らしい。

だがこれはその特技があれば必ず現出する物で、

特殊効果も無く、現在希少価値は…C。

「救世って何ですか?

それに私達、まだ誰の命も救っていませんけどっ?」

「救世は勇者の特技で、習得にはすっごい量の経験値が必要なんだけど…、

最上級まで鍛えれば、生涯で五人までの命を救える技。」

「ええっ?」

「でもね、そんなの使える人今迄一度も会った事が無いし…、

これは元々その特技を使った人が持っていた物で

それが宝箱にあるんだから、その人が迷宮で落としたか、

または魔物にやられちゃったか、だと思うけど…。」

「命を救うっ?それ覚えろよクリスタルっ!」

「一応確認しますが、たぶんそんな強力な特技は

一体どれだけの経験値があれば良いのかっ。」

でももう一つと人差し指を立てる彼女。

「さっき君も言った通り、鍛冶で埋め込むにはお金がかかるんだけど、

その子の白い帽子になら簡単だからきっとタダか、安く入れてくれるよっ。」

そう彼女が言うには、選んだクリスタルは無意識だろうが、

その帽子にある楕円形部分は宝石を埋め込む為にあるらしい。

「じゃあ、そうして貰おう!」

素早く言ったのは五星。

彼が僧侶で、経験値を獲得し難いという事もあるのだろうが、

何と欲の無い。だがそういうものを超えた関係だからこそ、友人と言える。

「そうだじゃあさ、次見つけた宝箱の中身は、まず五星に選んで貰おうっ。」

「もうそのつもりだけど。」

「カハハッ!」

「本当に良いんですかー?!」

嬉しそうなクリスタル。

彼にとっても勇者の特技の事はよく分からないが、

たった一つの命を救った証しとして贈られるという部分が

この上なく気に入ったらしい。それはつまり何か大きな事はしなくても、

一人一人の当たり前の善行が大切…という意味だろう。

それを裾で拭き、満面の笑みで仕舞うクリスタル。

上機嫌な彼が訊くと金鎧の女性は少し間をおき、黄園(おうえん)と名乗った。

そこで夜陽を思い出す五星。

「それで黄園さん、突然ですが夜陽という名の女性を、知りませんか?」

「んーーさあっ、聞いた事無いなぁーー。」

「そうですか…。」

たった一日で見つかる訳も無いとは思っていたが、

それだけはやや残念そうな彼女。

そして頭成とクリスタルがスペスは全部で30と数えていたところに、

階段を上ってくる足音と…沸き起こるざわめき。

そう一人2階から来てゆっくりと首を回したその男は、

細長く美しい目と、小さく尖った鼻それに真一文字に結ばれた口をもち、

細身の体に着た銀縁に緑の小さく丸い肩当ての付いた鎧は

四段の銀を重ねたものであり、

毛先を遊ばせた首元までの赤毛の後ろには、丸く緑色の羽根つき帽子。

下には黒いズボンに先の尖った緑の革靴を合わせ、

表が赤で裏が黒のマントを羽織り、手には得物である赤い大弓を持っていた。

当然真剣勝負の場に来たのだから緊張もあるのだろうが、その表情は硬く、

五星から見ても派手で人目を引くわりにはどこか冷たく、排他的である。

そこで黄園に話しかけたのは五星と頭成。

「あれが、サンドイッチさんですかっ?」

「そうだよっ。カハッ!おっと失礼っ…でも意外と派手ねっ。」

「そこは負けたなって、感じですか?」

「可愛らしくも見えますので狩人では無いのでしょうが、確かに派手ですねっ。」

そう言ったクリスタルを驚かせたのはやはりその、サンドイッチの声。

「部抜はいるかー?!」

その半分女性のように高く鋭い声に一瞬静まり返る観衆。

もしもいつの間にか部抜が来ていたならまだ見た事の無い五星にも

人々の視線等で分かるだろうが、まだどこにもその姿は無いようだ。

「…来たっ…!」

だが小さくつぶやく黄園。彼女は目を大きくし、

五星達や観衆にもすぐにその足音が聞こえる。

そして通路を覗き込む五星達。

すると遠くから何か太い木で床を叩くような重い足音が…。

そう重い重い、重いと思っていると何とそこから出て来たのは大きな黒馬で、

その馬上の人こそアン軍の部抜だったのだ。

そして闇から続くのは、長く黒紫色のざんばら髪…。

白肌にやや面長で一見優しそうにも見えるが

両目の下から額の中心に向って少しずつ太く先で交わった紫のタトゥーがあり、

そこにある目も眉もまるで刀のように釣り上がって鋭く、

太い鼻は凛々しい顔つきに更に一本筋を通し、

大きく結ばれた口とあまりに太い首には人が鬼に近づいたというより、

鬼があり余る力を抑え、長角を隠し、

何とか人に化けているという雰囲気さえある。

そしてその黒く統一された重厚な装備はまず

竜の手を逆さにしたような大肩当てと、

縦に太い三本線の入ったそこにあるだけで威脅を醸す鎧。

タセットはそれ一つ一つを盾にも使えそうな厚いひし形を六枚、

太い腿を覆うのは鎖帷子で、

足には鎧に合わせ細かく縦線の入った厚い草鞋のような物を履き、

それらは彼が下馬すると何か今迄躊躇っていたものを解き放つよう

重苦しい音を立て、周囲をざわつかせる。

「…あれで、アンの配下…?」

「…オレどっちも見た事あるけど、支配者のアンより強そうだなっ…。」

「…こわーいっ…。」

「…全然油断しねぇな。隙ねーわこりゃあっ…。」

「…じ、じゃあ今回は止めておくか…?」

そこで言ったのは頭成。

「なっ?!夜までいて、良かったろっ?!」

「うん。でも夜というより、この世界の凄さだよねっ…。」

「僕はただ怖いです。」

「カハッ!来た来たー!」

そのクリスタルを後ろへやりながらも、前へ出る黄園…。

部抜は一言も無く、同じく黒で幅二十三センチ

長さも百六十センチと小男程もある大剣を抜くとそれを右手に、

縦長の六角形で下がやや長めの太い銀縁に黒の大盾も出し、

それを左手にサンドイッチの前へ。

当然筋力さえあればどんな組み合わせも可能なのだが、

その余りの迫力に初めて彼の武器を見る人々からは…何も聞えて来ない。

「…何で皆ああいうのを、巨大剣って、言わないんだろうなっ…?」

「…それは分かんないけど、筋力はともかく、戦い難いんじゃ…。」

「…それを上手く使うのが部抜様なんじゃない…?」

等と黄園は頭成と五星の素朴な疑問に答えているが、

もう黙って見るしかないクリスタル。

実は見た目でどうこうとは言えないが、

彼の目からは部抜に比べ小柄でもあるサンドイッチは、憐れにしか見えない。

だがその想像に反し、中央に仁王立ちの二人。

群集は二人の勘気を恐れ密かな観衆となり、

どうやらその話を聞く限り、

部抜がサンドイッチの事を陰で嘲笑っていたらしいが…。

「…だが、お前が聞かされた悪言、あれはオレが言った事ではない…。

つまり流言されているという、流言だな…。」

「何…嘘?!」

「…ああ、たぶんお前はAZAKIに騙され、利用されたんだろう。

何の為かは分からんが、オレはお前の事など知らん…。」

「………。」

その表情から闘志が消えるのを見て取り、背中を見せる部抜。

「では…、一応仲間の力で奴の動向は把握しているが、

まだ城が攻められる可能性もあるので、これで失礼するっ…。」

「待てっ!

AZAKIかお前が嘘を言っているのは分かった!

だがこのまま帰ったのでは、私は恥をかき…、

お前も決闘を拒んだと、甘く見られるのではないか?」

「………。」

「だから、どちらか生き残った方がAZAKIを討つ…というのはどうだ?」

一挙にざわめく観衆。

部抜がそれで良いと言えば二人は彼らの期待通り戦い、

しかもその後にはアンにさえ逆らう巨悪AZAKIの死があり、

興奮しても無理はない。

「…面白いっ!」

だがくすりともせず言う部抜。

彼は素早く馬に乗ると、サンドイッチを正面に見据える。

「互いの武器が触れ合った瞬間から、開始だっ!」

「…良いだろう。」

瞬間サンドイッチの矢は、眼前に立てた部抜の大剣によって斬られたが…、

彼は続けざまに飛んできた数ミリ違いの二本目も、首を振り、何とかかわす!

「…やるな!だが、もう降参しても遅いぞっ!!」

いいや、逃げたっ?!

しかし反撃しようにも動けない部抜。

そう相手が見えないのだ。

…そして観衆の視線を目尻に捉え左手の大盾で押すと、その隙間からは剣が!

「かぁーー!!」

だが少しも怯まず雄たけびを上げる部抜!

突然の剣は鎧へと達し、その一刺しに対し大剣を振り払ったが、

サンドイッチはその一撃さえも退いてかわし、更に距離をとる…。

「一本取ったっ!」

その声に初めて事実と知る観衆。

だが部抜も馬首を下げ、左へ下した剣ですぐ切り払いにいき、

サンドイッチはまたその軌道も読み…それとは逆の右へ跳躍。

そのまま弓を番え、だがその眼前にはいつの間にか、馬の体が!

「なっ!」

そう部抜は不利になるはずの馬を利用し、それを目隠しにしたのだ。

「はーーはぁっ!!」

ボッ!!

その馬首の陰から腕を回し、大剣でなぎ払う部抜。

だが危うい状況を積み上げてきたサンドイッチの戦いはこの一撃でも終わらず、

ひゃっとややとぼけた声を上げた彼は、

その大剣に追われぎりぎりまで追い詰められ走りながらも、先の壁を蹴ってかわし、

部抜の右に下りるとそのまま前へ!

だがそこから突いた剣もろとも横殴りの盾に弾かれてしまい、

どっ…と腰を突くサンドイッチ。

部抜にも何度やっても同じ事…等と言う余裕は無いが、

倒れ、素早く射た矢さえ、また頼り無く弾かれ、

焦ったサンドイッチはついに予備の剣さえ投げてしまい、

その最後の飛び道具も、同じように宙を舞い飛んで来た大盾によって遮られ、

その目には次の瞬間…巨大な閃光が映る。

ドガッ!!

そうその盾を裂いたのは、持ち主であるはずの部抜の斬撃。

彼は盾で目くらましをした相手に馬ごと飛び込み、

直前で横腹を見せ、その馬上から切り上げていたのだ…。

そして目を見開きうつ伏せに倒れるサンドイッチ。

どうやら決闘もここまでのようだ。

「カハハーッ!凄いの見ちゃった!友達に自慢しよーー。」

「よく騎馬が突撃したのに、矢が飛んでいってばたばた倒れるのは見ますが、

こんなの初めて見ましたねっ!」

その無邪気な黄園と頭成をよそに、迫力に目が点になる五星とクリスタル。

「…誰か、薬草は無いかっ?!」

部抜は叫んだが、剃髪した白い目の男は誰も応じないと気付き、

初めて薬草を出す。またその鎧は全身銀製なので、

同じ騎士か、あるいはアン軍の人間だろうか。

「だ、大丈夫ですか、将軍っ?」

「…私ではない。

実は首から腕を回しなぎ払った時これも突かれていたのだ。

毒を使う事もできたろうに…。

つまりまあ、中々油断できない相手だった訳だ…。」

「はっ、はい。」

するとサンドイッチを前にしばらく名残惜しそうにする部抜。

だがやはり城の守りが気になるのか一枚の札を出すと、

その魔力で立った幾筋かの光の中へ…。そうして彼が消え、

やっと開いたままの口からそれぞれ違った音を出し、沸き立つ観衆。

だがやはりその中にいたのは黄園と頭成のみだ。

「でも君、武器の扱いは得意そうだし、もう自分でも色々やって、

いつかあのぐらいの事はできるんじゃない?」

「いいやー馬に乗って、あそこまではちょっとっ…。

それに盾を使うのも難しそうですしー。」

「まあ私としては、あれを見て、

逆に少しずつ強くなる道を選んでくれる事を、願うばかりだねっ。」

「はい、それが一番ですよっ!」

その調子の良い頭成の言葉を聞き、やっと我に返る五星とクリスタル。

「そうかっ!

相手の装備を壊せる特技っていうのは予想済みだったけど、

自分の装備も素早く解除すれば、ああやって壊せるんだっ!」

「馬を攻撃したりもできるんですねっ!

二人共器用過ぎるなー。帰って案内状を読み直しましょうっ。」

「お前ら、何をそんな当前の事をっ!

そんな事じゃあいつまで経っても、国を治められないだろっ?!」

「まだ統治者側になるつもりだよ、この人。」

「あれを見てよく言えますねぇー。」

「えっ何君達、支配者になるの?」

「いいえっその、オレは戦う事しかできないけど、

五星なら、なれそうな気がするのでっ。」

「へぇーー。」

「まあ…アン様の考えが変われば、城を建てる事もできるからねっ。」

「いいえ、セイントさんを応援して、絶対そうしましょう!あれは横暴です!」

「お前とも、結構気が合ってきたなっ。」

「カハハッ!

でも、もしもそれが実現したら、私も呼んでよっ。」

黄園はそう言い残すと少しずつ帰って行く人々の中へと消え、

その背中を微笑して見送る三人。

そこで五星は二人の大望も考えてみる事にした。

何も城など無くても各地で仲間を集め、

その町の長や将軍あるいはもっと広い土地の皇帝を自称する事さえできるが、

アン軍の言いつけに従いどこどこの支配者だと言ったり、

資格や世においての大功も無いのに

人の身を超越したような立場となったところで、確かに虚しいだけではある。

そう私にとってここは、ほとんど夜陽を捜す為だけに来た場所。

だがここは、本当に楽しんで欲しいという想いで創られた世界だった。

そんな場所があるだろうか?いいや、他には無い。

そう私の考えでは、身分や性別に関係無く

何とか必死に人を苦しめようとする本当に酷い奴だけを排除すれば、

ここも皆がそれぞれ楽しめるような素晴らしい世界になる。

悪人でもその輪に入りたいと思うなら必要に応じて罪を償わせ、改心させれば良い。

では私が支配した方が、頭成やクリスタルだけではなく皆も、私も幸福ではないか。

ほんの少しだけそういう気持ちの芽生えも感じたが、

強引な事をするのは主義に反する。

そう考えると彼女は、アンという支配者に…できれば認められ

一握りでも良いから自分達だけの最高の空間を創りたい、

そう願うようになっていたのだ。

そしてその横でサンドイッチの装備やお金を漁る人々。

止める者もあったがそれは僅かでこの場に仲間が居なかった事も災いし、

いつの間にかそこには死に装束だけの彼と、五星達しかいない。

皆部抜の活躍とおこぼれとなった戦利品に、笑い声を落として行く。

「良し!じゃあ、誰も居なくなったから、

一旦町へ帰っても良いんじゃないっ?」

「はい、僕は賛成です!でも五星の場合は帰ってから

もう少し進めば良かったと、言いそうですねっ?」

そこで珍しく会話に入らず、

にじり寄ってサンドイッチの髪をつかむ頭成。

だが触感が無い事には改めて違和感を覚え、

ギョッとしてその手は引っ込めてしまった。

その弾かれたように顔を上げる彼。

「でも、レーザーさんが言う通りなら、

また生まれ変わったこの人は、これを見なきゃならないのか?」

「見に来なきゃ、良いんじゃない?」

「まあ、生まれ変わるのに、時間が必要な訳も無いですからねっ。」

「でもそうだ!体が残ってるって事は、

消滅後に自分の装備やスペスを取りに来れるんだ!」

「うんっ。誰かに消滅や体の場所を気付かれる前に、取りに来ればねっ。」

「あっ!じゃあもし僕が消滅しても、持ち物は守って下さいよ!」

頷く二人。

頭成はその笑顔のまま…また階段を下りようとしてしまったが、

他二人は今度こそ素早くそれを止め、

相談してもう少し1階探索を続ける事となった。

そう次に目指すのはここから南の方角となる、五の二。

現在地点は六の三だが、

この大部屋は一番南の通路から壁一枚隔てた東側で、

西を入口と見て実験で使うフラスコのような形をしているので、

大部屋を出て先程の箱持ち鬼を倒した場所へ戻ったらそこを折り返し、

わざわざ行き止まりへ行く事になる。

その事で頭成は反対したが、五星が言うには迷宮の場合

最初から階を上がったり下がったりの複雑な構造も、

そう珍しくもなく、よってそこにも階段が無いとも言えず、

またそれは無くても仕掛けや誰かが居て面白い事をしている可能性もあり、

まったく無意味でもないらしい。

「そうか五星は、行って無い場所を埋める人だったかっ。」

「実は僕もそうですよっ。何だかすっきりしないですし、

という事は五星の理由も、それですか?」

「ちょっとそうかなっ。でも何も無くても、それで帰ろうねっ。」

「えっ?!もう少し起きてようよっ!

そんなんじゃあ、部抜倒せないぞっ?」

「まさか決闘するつもりですか?!僕が許しませんそんな事っ。」

「確かに何があるか分からないけど、

そんな先の事はずっと後になってから、考えて下さいっ!」

「二階の入口辺りまでなら、大丈夫な気がするんだけどなぁー。」

「入口だけでは、済まない、気がしますけどねーー!」

「ここだって!強い魔物が出る可能性もあるんだからっ。

そう聞いたでしょう?」

彼女らはそんな事を話しながら五の二まで。

だがその行き止まりの壁にも天井にもまったく何も無い事が分かると、

五星はやっと緊張を解き、頭成は両手を頭の後ろへやり、

クリスタルは笑顔でもう一度脱出をすすめた。

そしてそれに従い引き返す事にした五星に、安心するクリスタル。

「では約束通り、帰りましょうっ。」

「うんそうだねっ。何かあると思ったんだけどなーー。」

「あんな決闘とか、

その前の倒れた人とか、実はそんなに無いんじゃないかっ?」

「そんな事は無いと思いますよっ。

僕達が見ていないどこかでも、常に何かが起こっている訳ですからっ。

問題はそれが、大事件か、そうでも無いかの違いですっ。」

「うん…。それにしても、何か、見られてる気がしない?」

その五星の言葉に振り返る頭成と、その背中に回るクリスタル。

まだ奥の行き止まりの壁ははっきりと見えているが、

言い出した五星から見てもやはりそこには、誰も居ない…。

安心して話す頭成とクリスタル。

「壁一枚向こうに、誰か居たんじゃないのか?」

「か、観測者じゃないですかっ?!」

「おっ!もしそうなら、またセイントさんっ?!

賞金貰えるかもなっ?!」

「そんなに都合良くいきませんよっ。」

五星は二人が言う事を頭の隅におきながらも耳を澄まし、

だがそれはよく考えてみれば音というより、

もっと微かな気配というものだったようだ…。

いいや、それはそれで気味が悪い。

そう思うと、彼方此方の壁や天井に目を細める五星。

「あっ!!」

「どうしたっ?」

「な、何ですっ?!」

「…後ろっ…!」

また振り返って西を向き、声をひそめる五星!

クリスタルもあれこれ訊こうとする頭成を止めてくれているが、

その先からは大きな足音が聞えて来た。

ゴッ、ズッ、ゴッ!

「…な、なんだこれ?行き止まりで強敵は不味いだろっ…!」

「…人ですか、魔物ですかっ…?!

…でも何が出ても二人なら、今迄みたいに倒せますよねっ…?!」

「…これは、どうだろうねっ…?」

そう後退りながらつぶやく五星…。

クリスタルも頭成の陰から覗くと、まだ遠い事が救いだがその闇からは

三メートルはあろうかという…人の石像が。

全体に白に近い灰色で定かではないが革鎧をつけ、

頭には後ろが二股に分かれた帽子、右手には短剣。

左手にはやや縦に伸ばしたハート型の、

上の両側と下をえぐったような風変わりな盾を持ち、

三人は思わずその姿を観察。

同時に目を見張り脅えている間に石像はすぐ前まで来て、

彼女達を見下ろしていたのだ。

その五星から見て動いてはいるが非生命的な目と鼻の筋だけの顔が、

僅かに右の頭成へ。

短剣なのでぎりぎり届きはしなかったが、

その先をかわした頭成はクリスタルをつかみ更に後ろへ行き、

早速五星は振りかぶり、その振り切った太い腕に一撃!

続けて脇腹にも一撃!

だがその目がじろりと向けられただけで、利いてはいないようだ。

「きっと、耐久力が高い魔物だっ!もう少し後ろへっ!」

「逃げてどうする?!」

「考える時間を稼ぐんですっ!!」

一応従う頭成だが慌てて短剣を投げるとそれは盾に突き刺さり、

彼もまた刀一本で勝負しなければならなくなり、

雰囲気に強い魔物だと察した五星は短剣を寝かせて半ば強引に二人を退かせ、

それを追う石像!

だがその足取りは重くほとんど床を擦っているようだ。

「足が遅いっ!これが弱点だっ!!」

「ああそうだなっ!でもクリスタル逃げ切れるかっ?!」

「呪文を使うかも知れませんし、

短剣やあのかどが痛そうな盾も、投げて来るかも知れませんよっ?!」

「じゃあ戦って、隙があれば逃げるっ!!良いねっ?!」

「分かった!!」

「クリスタルはっ?!」

「聞えましたっ!!」

早速五星が一つ頭成も二つと薬草を持ち、

クリスタルは自分だろうが他二人だろうがいつでも回復できるように備え、

少しずつ退きながら戦い隙を窺う三人。

確かに一撃も受けずダメージを与え続ければ

この石の塊もいつかは果てるだろうが、

とにかく頭成は五星だけは守ろうと、彼女より前へ。

上から横からと来るその短剣をかわし、胴に足にと攻撃!

だが瞬間思わずその腕に、しがみついてしまった…。

ガッ!!

五星はその反対の足に攻撃し、一瞬クリスタルも見て、その彼にも叫ぶ。

「何やってんのっ?!離れてっ!!」

「なってしまったものは、仕方無いだろっ?!

た、短剣は押さえておくから、どんどん攻撃しろっ!!」

「危ないっ!」

せめて叫ぶクリスタル。

何と石像はまるで楽器でも叩くように反対の盾でしがみつく頭成を打ち、

彼を弾き飛ばしていたのだ!

「止めろっ!」

そう叫んだ五星は彼女から見て右の脇腹に一撃。

そのまま石像の後ろへ回り込んでいたが、

頭成が薬草を使いながらクリスタルの方へ逃げるのを確認。

だがもう一撃と踏み込む事はできずにいる。

「〜気をつけてっ!後ろにも顔があるっ!!」

「な、何っ?!分かった!!」

「回復はしますかっ?!」

それに頼むとだけ言う頭成。まだ慣れず体力を確認する暇は無いが、

実はさっきの盾による攻撃で、視界が薄っすらと黄色くなっていたのだ。

目と目が合う五星と石像。

そして石像は後方の彼女に対し、

首はそのままに体だけを回転させ、袈裟切りに来る!

そう大体こういった攻撃は相手の不意を衝く為だけにあり、

何度も何度も背中を見せていたのでは単に隙をつくるだけなのだが、

五星はそれにも素早く反応。石像の脇をすり抜けて二人の元へ。

「今度はオレだっ!!」

とその五星に代わり今は背中を見せた石像へ走る頭成。

五星達は危ないと思ったがその心配通り、

石像は短剣を素早く逆手に持ち替えると、それを後ろへ。

彼の足元に投げて突き刺し、そのまままた体だけを回転させ

今度は遠心力もかかった盾の一撃で、彼を弾き飛ばしていたのだ!

その驚きに一瞬声も無く、

だがズササッと床に片膝を突く彼に、目を丸くする二人。

「頭成っ!!」

「…だっ、でも立ちますっ!!」

「これはやばいっ…。」

そしてその視界は赤く、

強く危険を感じた彼は薬草も使いながら這うようにして駆け、二人と共に後退…!

だが次の瞬間、その石像と三人の間に立っていたのはローブを着た、

たれみみ兎…!

「な、何ぃー?!」

「もうダメですー!!」

「だ、誰ですかっ?!」

「まあ待って!」

そう短く言う兎にただ驚く頭成と、魔物かと思い絶叫し続けるクリスタル!

五星が誰ですかと訊いたのは、

その体長百二十センチ程の薄茶色の兎が短い二本足で立っていたからだが、

その空色のローブとピンクのボタンからいって、どうしても悪人には見えない。

もしかして助かった?!

五星は心の中で叫び、

兎は両手の平をくるくると回すとそこに輝く緑の気を生み、

それはいつの間にか本人にとっては体以上もある、大きな弓矢となる。

「マインドアロー!」

その兎の体全体から解き放たれる巨大な気。

それは鏃(やじり)のような形でまっすぐ石像へとぶつかり

胴体へ吸い込まれるように突き抜け、

受けた方は激しく点滅しながら床を滑り、二十メートル程も後ろへ!

それからがくりと膝を突き、一切動かなくなった。

「か、勝ったっ!勝ったのかっ?!」

「ええっ、その様ですっ!」

「あ、ありがとうございますっ!!ええとっ、」

お礼を言う五星達に振り返る兎。

その人は手を叩きながら、楽しそうに言った。

「私は、野花うさぎっ!

実はずっとその壁で隠れ蓑の術を練習してたんだけど、

君達が危なそうだったから、出て来たのっ!」

「えっ?!

じゃあ五星が感じた視線って、この人だったのかっ?!」

「なるほどっ!この…兎の方だったんですねっ!」

「言い直さなくて良いよっ。

ただ…突然なのですが、貴方のような姿になれましたっけ?」

「いいえこれは珍しいお菓子、

うさぎチョコという物を食べないと、なれませんっ!

でも他にも犬チョコや、羽が生える羽チョコもあって、

それは外見だけでなく本当に飛べるようにもなるし、

とっても楽しい物なんだよっ。」

「へぇーー!」

「僕、羽チョコ欲しいですっ!」

追い詰められた恐怖から一気に明るい雰囲気へと変わり、はしゃぐ二人。

だが壁と言われても一体どの辺りだろうか?

頭成は謎の野花うさぎにも、そうなる方法にも興味を持たず、

その人が隠れていた場所ばかりを考え、もしも忍者と戦った時には奇襲を受け、

大きな損害を受けるかも知れないと一人心配。

五星とクリスタルは恩人と共に一応そうっと近づき、戦利品を確認する事にした。

イメージ

頭の後ろにもう一つ顔のある戦士を模した石像に、

生命力が宿った魔物。主に2階から3階へ出現。

これは魔物側から見た人のイメージだと、

初めてこれに会った誰かが聞いたらしく、以来そう呼ばれる。

だが呪文も使えず、盾で防ぎ剣を振る攻撃が主で、

下階にいる底意地の悪い魔物が

人間への皮肉の為にこれを造ったという説が根強い。

当然高価な物を持っている確率は低いが戦利品はその装備次第で、

首も回転するのでそこは注意したい相手。

という訳で五星らは、二股になった帽子に、革の鎧、短剣、

ズボンに革の靴とあの風変わりな盾、更には31スペスを手に入れ、

経験値は野花うさぎに行ってしまったが、大満足の様子。

それに早速要らない物は売ろうとも考えたが、

助けてもらいながら早々と去るのも失礼と感じ、

とりあえずは恩人のすすめに従い、その家にお邪魔する事となった。

そして魔物が持っていた時は石の色で分からなかったが、

約束もあり風変わりな盾を選ぶ五星。

それは金枠の中心に透明なオレンジが鏡のようにある。

「ああっ!」

それに突然皆を見回すと驚きを隠せない様子の彼女。

これには深い訳があるのだが、

それは気になって何だ何だと訊く頭成と共に、野花うさぎの家で聞く事にしよう。

何だか凄い物を選んだみたいだな。

クリスタルは気遣いばかりしていた彼女が心から喜んでいるように感じ、

その一人間としての幸福に微笑していたのだ。



町を出て北の森を抜けた先には淡い藍色の草原の彼方此方に

小さな黄色と薄紫の花が咲き、そのずっと遠くに何頭かの馬も見える場所から

東側一面は海だった。

そう生得から小麦色だった砂浜は小さく淡い白や青や赤の小石に変わり、

どこまでも細波の音が漂う世界の片隅。

そんな優美で微かに切なさを覚えるような地に彼女の家はあった。

真っ白な短い円柱の上には、

縁の赤からゆっくりと淡い緑になる大きな葉っぱを二枚と、

丸く赤い実のような飾りをのせ、周りには砂浜にあった小石を並べてあるので、

ケーキをイメージしたのかも知れない。

蜂蜜のような色の丸扉は北東の海側。

部屋に入って右には高さ八十センチ程の小さな黄緑のタンスがあり、

その上と真ん中には果物の盛り合わせ、下には大きな水色の靴が押し込められ、

隣にあるのは大きな兎の耳の形をした左右から別々に物を取り出せる白い冷蔵庫。

更に隣には逆さまにした大きな台形の窓と、赤い小棚。

その上には白っぽい水色の花瓶に挿された中心が光る花があり、

その三輪はそれぞれ三弁で煌々と部屋全体を照らし、

奥には黒く細い骨組みの土台の上にピンクの花が彩られたベッドと

ピンク色の洋服ダンスもあり、

家主と五星達はというとそんな可愛らしい部屋の中心にある

丸く水色のテーブルで、あれこれと話していたところだ。

その話題は主に、野花うさぎはやはり女性である事、

そして外の馬も特技さえあれば簡単に捕まえられる事等だったが、

思い出した五星はそれをあの風変わりな盾の話へと変え、

黙って聞く頭成とクリスタルには既に愛の実とクリームカップという果物を混ぜた

ハンドシェイキングなる白い飲み物が振舞われ、

皆その大きな黄色いコップを傾けながら頷いていたが、

聞くにつれ驚いたクリスタルなどは、その味さえ忘れてしまった程だ。

「うぐっ!そ…それじゃあ、逆に守るのが大変じゃないですか!」

しまったとその淡い苺ミルクのような甘い美味しいとしか言いようのない味を

もう一口頂く彼…。だが、ただただ微笑みを隠せない五星。

その盾の詳細が以下である。

希望の盾

性能…耐久力に38加算、必要筋力値…3、壊れやすさ…5%、

特殊能力…無し、希少価値…S。

説明…

やや縦に伸ばしたハートの上にある二つの膨らみと下が緩やかにえぐれた形で、

太い金枠の内側に鏡のように薄く苦知らずの花を素材として施した、

鮮やかな橙色(だいだいいろ)の盾。

それに耳をパタパタさせ焦りを表現する野花うさぎ。

「そうだねっ。希少価値Sの物なんて、私でも中々…!

生まれたてだから観測者には知られちゃう可能性もあるけど、

この事は黙っていた方が良いよっ。」

「良し、とにかく凄い物って事だな!オレは単純に嬉しいっ!」

「価値あるものだから守らなきゃいけないけど、

使い方によっては色々できそうだし、

まるで、一緒に戦って行く盾って感じ?!」

「でも…苦知らずの花って?」

「そうそうっ、実は今説明したくてうずうずしてたんだけど、

簡単に言えば、透明な橙色をした宝石の事っ。

この世界の宝石は全てクリスタル君の持っている物と

同じ大きさで現れるんだけど、体積が一緒でも五星ちゃんのは、

神・世(せ)が大陸中の魔物を退治し、

この幻想世界を解放した後寂しがりの森に落とされたという伝説の、

世界に一つしか無い物だから、どうしても貴重になってしまうのっ!

名前も決して甘やかされた者の…というのでは無く、

平和な世に咲いた花という意味だし、

爽やかな印象の五星ちゃんには、最高の贈り物ねっ!」

そう鼻をヒクヒクさせ興奮を表す野花うさぎ。

つまり彼女が言いたいのは今も四つ羽が与えている宝石達とは違い、

これはもう会う事が無いだろう別な世という名の神が

伝説の中で地上に与えた物…という事だろう。

「それともう一つ、

その神・世が最後の魔物を退治した時体から取り出した、

今では世(せ)と呼ばれる別な宝石もあるらしいんだけど、

その戦い自体まだ見た人が見つからなくて、ただの伝説と言われていたのっ。」

当然聞いて更に興味を持つ五星。

「じゃあっ、今その伝説の半分が証明されたって事ですか?!」

「うんそうなるねっ!まだちょっと信じられないけど…、

よく考えてみると四つ羽様のような方なら、

余りしつこく人々の楽しみを奪うような意地悪な嘘には、

真実を与えて打ち消してしまうだろうし、これは事実って事ねっ!」

それに興奮して立ち上がる頭成をまあまあと抑える野花うさぎに、

それを見たクリスタルも開き直りけらけらと笑う。

実は五星としてはそういう伝説よりも、

自分が気に入った物だからという理由で大切にしたいのだが、

せっかく皆が心から喜んでくれているというのに、

ここでそれを言うのも躊躇われ、

突然だが話題を夜陽の行方についてすり替える事に。

当然二人はその大きさに呆気にとられた様子だが、

野花うさぎからは生まれて初めての良い返事がある。

「えっ?…私その人の家知ってる!」

「ええっ?!」

「見つけた!今から言っとくけどな五星、

夜陽ちゃんにはオレの強さと優しさを、それとなく伝えておいてくれよっ。」

「と、遠いんですかっ?!」

「あっ、ごめん!ぬか喜びさせちゃったねっ。

でもまあ落ち着いて三人ともっ。知ってるのは家で、

まだ本人が居るかどうかは分からないからっ。」

「は、はいっ!それでも嬉く、いいえ、ありがたいですっ!」

「夜陽って名前は珍しいからなー。」

「今から行けますかっ?」

「うーんっ、誰かと一緒に行くとしても、明日まで待った方が良いねっ。

そこは偶振刃(ぐうしんば)っていう町で、

盗賊や、AZAKI達の生得解放戦線!それにパラメータとか、

とにかく沢山の悪い奴らが住んでるからっ。

でもちゃんと家賃さえ払っていれば、

まあ安全と言えば…安全なんだけどっ。」

野花うさぎは三人を安心させる為にもそう言い、

一番夜陽を知る五星も、

まさか彼女が悪人として生きているとも思えず、質問を続けた。

「そこって何か、住んで得な事でもあるんですか?」

「悪人や生得解放戦線からすれば、

たまにアン様の命令で見回りが来るぐらいで、

生得からも遠くて生活しやすいし、

今権力を握っている彼女が何か大きな失敗をする機会を、

じっくりと待てるだろうけど…あそうだっ!

あそこには世界でたった一つの、川があるっ!

だからじゃないっ?!」

…そういえば夜陽は川が好きだと言っていた。

そう心の中で声にする五星。

頭成とクリスタルは心配そうにその顔を見たが、

たった一日で手掛かりに辿り着いたのだからと、彼女は気にもしない。

「お助け下さり、その上夜陽の情報まで、本当にありがとうございます!」

「気にしないでっ。

私だって黙って迷宮にいるよりは、この方が楽しいからっ。

まあ幻想世界では求めなくても大抵何かあるけど、

だからこそ今夜は泊まって、明日の朝発てば良いよっ。」

もうそのつもりだった頭成は少々恥ずかしい思いだったが、

そうするにしても…気になる事があり、それを訊ねる五星。

「でも、泊めてもらうにしても、

また起きた時には野花うさぎさんは居ませんよね。どうするんです?」

「あそうだ、鍵の事ねっ?」

「当然ですが、鍵まで頂く訳にはいきませんし。」

「アハハッ、それも大丈夫っ!

ちゃんと閉めていってもらえれば、それで開かないようになってるし、

もし自分でそれをやってしまっても、ポケットを見ればまた同じのがあるから。」

「へぇーー。」

声を上げながらも頷く三人。

「それに、どこかに落としてしまった場合も、

その番号の鍵を家の前で選択して消せば良いだけだし、

眠りたい場合は、持ち主の許可がなければ無理だけど、

それは一回限りにもできるし、君達も早く家を持てれば良いねっ。」

「ええっ、勿論その時は、野花うさぎさんも来て下さいね!」

「じゃあ楽しみにしてるからねっ。」

「レーザーさんも呼ばないといけませんねっ。」

「でもクリスタル、甘えるのも程ほどにしないとなっ。」

「僕はそんな事しませんよー。」

すると突然コップを置く、野花うさぎ。

「え、レーザーちゃん?!

その人なら私も、たまに灯の店で会うよっ!」

「アハハッ!それは、嬉しい偶然ですっ。」

もう笑うしかない五星達。

子供ながら盗賊に遭いそうになり、沢山の人に助けられ、

迷宮では1階の魔物相手に苦戦もしたが、

その分多くの楽しみと友人それに宝物さえ得て一生懸命生き、

ここへ来て何か辛いという事は一つも無かった。

しかも五星に言わせれば魔物と動物以外は皆人であるのに、

私達が幸せなのは四つ羽様という神のお陰…という最高の世界。

何を信じれば良いのか?神を信じれば良い。

しかもただこの世界に生きているという事を忘れず、

幼い子さえ少しずつ人との関わり方を学んでいけば実は思い悩む事も無く、

広大な空間のどこへ住み何をするのも自由。

歩けば地の果てまで国境も無く、あってもそれはどうする事もでき、

当たり前に周囲の人々に気を遣いさえすれば

必要な物は何でもいくらでも手に入るのだから、

自ら高い志を実現させる為に動き風に抗わなければ、

醜い争いや惨い仕打ちに巻き込まれる事も、ほとんどない。

それに神達には全ての人々が楽しめる世界を維持するという責任があるから、

たとえば私達を何度も何度も撃ち殺す者が現れても、

それを風の便りやお告げなどとして善人達に知らせてもくれるだろう。

だがそんな状況に陥った悪人さえ幸福だ。

何故なら戦っても逃げても改心しても良く、

誤魔化して裏切ったり、負けたふりをして牙を研ぐ事さえ許され、

徹底して悪人役を引き受けられるのだから…。

どうしてもと思うならこの幻想世界でこそ暴れれば良い。

それを退治した者は英雄や救世主であり、

多くの人々と何か大きな事ができるだろう。

やはりこれ程素晴らしい場所は無いのではないか。

その窓から星空を見詰める五星にも声をかける野花うさぎ。

「じゃあ私も寝るけど、皆それぞれ好きな場所を選んでねっ。」

「オレッ、窓の外を見ながら寝て良いですか?

起きた時すぐ外の様子を確認して、警戒できるようにっ!」

「アハハっ!良いけどー、起きた時には忘れちゃうんじゃない?」

「僕はこのままっ。このお礼は、三人でちゃんとしますからっ。」

「別に良いのにー!」

「私はもう少し…そうだ!自分の強さを確認してから、寝ますっ。」

「あっ、オレも!」

「僕もそうしますっ。気がつかなかった!」

「うんうん、三人とも熱心だねっ。」

その為一応の警戒で目立つ事をさけた野花うさぎが花の灯を消すのは、

もう少し後になった。

目覚めてまた会えたら、今度はあの花がどこにあるのか訊いてみよう。

五星はそう決めてから目を閉じていた。





五星 設定職業・君主
体力10 気力3 筋力10(基本筋力8+2)
耐久力50(基本耐久力5+38+4+2+1) 素早さ4 器用さ3
集中力2 精神力2
属性…水0 炎0 土0 風0 光0 闇0
今回の成長 体力2 気力1 筋力1 素早さ1 集中力1
特技…無し 呪文…無し
経験値61

装備 短剣 希望の盾 革の鎧 冒険者のズボン
革のブーツ
必要・基本筋力値合計8


頭成 設定職業・戦士
体力12 気力1 筋力21(基本筋力11+2+8)
耐久力16(基本耐久力6+1+4+2+2+1)
素早さ5 器用さ3 集中力3 精神力1
属性…水0 炎0 土0 風0 光0 闇0
今回の成長 体力3 筋力2 耐久力3 素早さ2
器用さ2 集中力2
特技…無し 呪文…無し
経験値41

装備 短剣 鉄の刀 バンダナ 革の鎧 冒険者のズボン
革の脛当て 革のブーツ
必要・基本筋力値合計10


クリスタル 設定職業・僧侶
体力7 気力7 筋力6(基本筋力5+1)
耐久力11(基本耐久力4+1+1+4+1) 素早さ2 器用さ1
集中力5 精神力5
属性…水0 炎0 土0 風0 光2 闇0
今回の成長 体力2 気力2 耐久力1
集中力1 精神力2 光属性2
特技…無し
呪文…エナセイ
(光系、距離約三メートルまでで、一人を小回復、
まだ気力消費も激しい)
経験値10

装備 杖 信心の帽子 信心のローブ 厚革の小手 革の靴
必要・基本筋力値合計5

三人の所持品
五星が薬草1、クリスタルが二股の革帽子、革の鎧、短剣、
冒険者のズボン、革の靴を1組。

合計スペス149。